双極性障害とは
「双極性障害(そうきょくせいしょうがい)」という病名を聞いたことがあるでしょうか?
一般には「躁うつ病(そううつ病)」と呼ばれる病気で、「うつ病」と同じ気分の障害を定義とする精神疾患です。
双極性障害は、うつ病と同様に「気分障害」に分類され、躁状態(躁病エピソード)とうつ状態(大うつ病エピソード)という病相(エピソード/症状を発症している状態)を繰り返す精神疾患です。
躁状態とはうつ状態とは真逆の状態のことで、気分が高揚した状態が持続することを指します。
双極性感情障害などと呼ばれる場合もあります。
また、双極性障害には、激しく気分が上向いている状態の「躁状態」(双極性障害一型)、気分の上向きが軽度である場合の「軽躁状態」(双極性障害二型)という二つのタイプがあります。
日本における双極性障害の患者さんの頻度は重症・軽症をあわせて約0.4~0.7%といわれており、一見かなり低い数値に見えますが、人数にすると100人に約4~7人と、人口的に考えればありふれた病気のひとつです。
また、海外の患者数は1.0~1.5%とされており、世界的にみても多くの患者さんがいらっしゃいます。患者数に差がある原因として、人種・環境の影響も考えられますが、詳細は判明しておりません。
その理由として、日本と海外では研究、調査の方法が異なることや、アンケートの回答率や回収率、実施の有無などが影響している可能性があり、現在日本が発表している生涯有病率が確たるものであるとは言えません。
また、双極性障害になりやすい人の特徴として、遺伝的要因も高いと多くの研究者に指摘されています。
一卵性双生児の場合は50~80%、二卵性双生児の場合は5~30%の一致率とされており、一卵性双生児の方が双子で発症する確率が高いことから、先天性で遺伝子的な関連性がある可能性があります。
ほとんどのケースで、双極性障害の患者さんは回復に向かいますが、再発の可能性も大きく、薬物治療での症状緩和、抑制、予防が必要となるのが一般的です。
うつ病と双極性障害の違いとは?
うつ病と同様に“抑うつ状態”になるため「うつ病」と類似していますが、双極性障害は”躁状態”にもなります。
躁状態とは、極端に気分の高揚した状態が持続することです。
一般的に、楽しいことをするとだれでも気分が高揚しますが、双極性障害の場合は特に理由がなく気分が高揚します。
抑うつ状態と躁状態の二つの病相を繰り返す疾患が、うつ病と双極性障害の違いです。
また、うつ期(うつ病相)から躁期(躁病相)へチェンジすることをうつ転と言い、頻度も人それぞれです。
最近では異論もありますが、「うつ病」と同様に回復、治療が可能とされています。
原因としては複合的な要因によることが多く、下記の内的要因・外的要因の複数の要素を含んだ問題であることがほとんどですが、傾向としては慢性的な身体疾患や心理的要因といった、内因の割合の方がうつ病よりも大きいことが特徴です。
外的要因
環境的要因
- 近親者との離婚
- トラブル
- 喪失
社会的要因
- 貧困
- 社会的孤立
内的要因
身体的要因
- 慢性的な身体疾患
心理的要因
- ストレス
- 几帳面
- 落ち込みやすい
双極性障害は誤診されやすい!?
うつ病も双極性障害も「うつ」の症状が現れます。どちらの病気でも同じため、区別がつきません。
「躁状態」が現れて初めて双極障害であると診断できるため、はじめはうつ病と診断されることが多いです。
双極性障害の「躁」と「うつ」を繰り返すスパンは人それぞれ異なるため、予後は数ヶ月~数年という長い期間のサイクルで現れる双極性障害に対しては、正確な診断や対策をするのが非常に難しいと言われています。
また、双極性障害の場合、2/3の患者さんはうつの時にしか病院を受診しないとされています。なぜなら、双極性障害は、発症後の期間の内の約1/3~半分が「うつ状態」であると言われており、「うつ状態」の期間が「躁状態」の期間よりも多いからです。
「躁状態」の症状が経験ある場合も、本人はそれが「うつに付随する症状」という自覚がないため診療時に医師に話をしません。そして「躁状態」の時には、本人は「最近調子がいい」と感じる(気分が高揚している)ので、診察をうけること自体が稀です。
ですが、初診時にうつ病と診断された患者さんのうち、約10人に1人が双極性障害であると判明します。そのため、うつ病と診断された場合でも、躁症状が現れるまで、うつ病なのか双極性障害なのか、わかりません。
このように、双極性障害特有のメカニズムによって双極性障害を見抜くことは難しいです。特に、比較的軽い躁状態「軽躁」の場合、家族や主治医に見逃されることがあります。経過を長期的に渡り観察しないと双極性障害と診断されないことも多くみられます。
近年では研究が進んだことで、うつ病や双極性障害であることを調べるために、「光トポグラフィー検査」といううつ病の状態を数値化する検査があります。
光トポグラフィー検査の対象年齢は12歳からです。
双極性障害の原因・発症要因
遺伝的要因
発症の原因として、遺伝的要因が考えられていますが、双極性障害は遺伝病ではありません。(通常、遺伝病とは、ある遺伝子を持っている場合に発症する病気を指します)
たしかに、双極性障害の発症に遺伝的要素は関係していますが、それだけで発症する病気ではないことがわかっています。「同じ遺伝子を持つから双極性障害になる」のではなく「原因となる複数の遺伝子を持っているからなりやすい」のです。
双極性障害は、単一の遺伝子による要因ではなく、要因となる複数の遺伝子を持つことで発症すると考えられています。
例えば、一卵性双生児と二卵性双生児を比較した場合、半分の遺伝子が一致する二卵性よりも、基本的に同一の遺伝子を持つ一卵性の方が、双子で発症する確率が高いです。(一卵性双生児の発症率も、決して100%ではありません。)
環境的要因
双極性障害の発症について、「どのような環境をたどった際に発症する」ということははっきりわかっていません。幼少期に育った環境や、日常的に周囲から受けるストレスは、要因になりうると考えられていますが、解明はされていないのが現状です。
病前性格(びょうぜんせいかく)
病前性格とは、発症前の性格のことです。この病前性格を調査した報告では、下記のような性格の方が双極性障害を発症しやすいと言われています。
しかし、あくまでこういった性格は発症の可能性がある危険因子であり、大きなストレスや生活リズムの乱れ(仕事が急に忙しくなり睡眠や食事がおろそかになる)など、何らかのきっかけがあった時に、複数の要因が重なり、双極性障害を発症すると言われています。
双極性障害一型・双極性障害二型の症状
双極性障害は「躁とうつの2つの極を持つ」ということであり、上下の二つの方向へ気分が周期的に変化します。
躁とうつの間には正常な精神状態があり、それを上向きに行き過ぎた状態が躁状態です。
また、躁状態には重度・軽度2つのタイプがあり、重度なものを双極性障害一型、軽度なものを双極性障害二型と言います。
- 双極性障害一型
「躁状態」で激しく気分が上向いている - 双極性障害二型
「躁状態」気分の上向きが軽度である(軽躁状態)
症状の例として、躁状態では下記のような症状が挙げられます
躁的エピソード
症状が一週間以上継続し、さらに仕事や人間関係に大きな障害をきたして入院の必要があるような場合
軽躁病エピソード
4日間程度継続し入院は不要な場合
一型・二型の違い
診断上の一型・二型の区別は、「躁状態の重症度」「深刻さ」「激しさの違い」です。
一型の躁状態は期間が長引くため深刻で、正常時には持つことのできる「社会適応性・他者協調性が、極端に欠如してしまうほどの気分の高揚や開放」を伴う躁病です。
二型よりも、長期間に渡り躁状態となるため、一時的異常とみなされず、複数の問題行動が社会的・対人的・経済的な不利益に直接つながってしまうこととなります。
二型は軽い躁状態「軽躁状態」を繰り返します。以前より今は調子が良いと思うため、正常時より気分が高揚していることに気づかない事が多いです。
また、軽躁状態は見分け方が難しい傾向があります。
一型の特徴
近年まで「躁うつ病」と呼ばれていた病気は、ほとんどの場合が一型の双極性障害を指します。わかりやすく躁うつの波があり、躁状態のときは、本人は「気分が高揚」し、「無敵状態」になります。また、病気だという自覚がないため、他社へ攻撃的態度をとりトラブルを起こす、仕事や家族を失うなどの深刻な喪失を伴う場合があります。
二型の特徴
本人は「以前より今は調子が良い」と思うため、正常時より気分が高揚していることに気づきません。また、「今日は気分がいい」という程度なのでトラブルはなく、本人も周囲も見過ごすケースが多いです。実は深刻な問題で、摂食障害や過度な不安を感じる、アルコール依存を合併しやすいという傾向にあります。
双極性障害の治療方法
双極性障害の主な治療方法は、薬物治療と心理社会的治療を組み合わせての治療となります。また、磁気刺激治療(TMS)も抑うつ状態を改善する治療として、双極性障害にも取り入れられています。双極性障害の治療で重視されることは、躁うつの状態からの回復だけではありません。
再発を繰り返すごとにそのスパンが短期間になり、悪化しやすいというリスクがあるため、再発を予防することが最も重要な治療となります。
薬物治療
双極性障害に有効な内服薬は気分安定薬です。日本で主に処方される気分安定薬は、リチウム・バルプロ酸・カルバマゼピンです。最も広く使われているのはリチウムで、躁うつ症状の改善・予防効果、突発的に起こる自殺予防の効果があります。リチウムは効果的な治療薬や予防薬である反面、副作用が強く、血中濃度を測りながら服用する必要のある、難しい薬でもありますので、医師の判断が大切です。
主な副作用
また、薬は依存症になるリスクもあります。適切な血中濃度で服用した場合でも長期間手の震えが出る場合もあります。しかし、副作用がこわいからといって、薬の服用を止めるのはおすすめしません。どんな薬にも副作用がある反面、治療の見込みがあります。「副作用が出たから、薬をやめる」となると、双極性障害の治療は途端に難しくなります。致死率を下げるためにも医師の指示に従い、適切な治療が大切です。
薬物治療では、副作用があることを前提として、副作用による症状との折り合いをつけながら、病状をコントロールすることで治療に望む姿勢が必要です。
心理社会的治療
薬での症状緩和に加えて、根本的な解決のために用いるのが心理社会的治療となります。単純な心の問題だけではないため、うつ病のようにカウンセリングをすれば治るというものではありませんが、下記のような精神療法も必要となります。
精神療法的治療「心理教育」
心理社会的治療では、自分の病気に対する理解を深めることからはじめます。双極性障害の性質や特徴、薬で解決できる症状と、それぞれの薬の副作用。また、再発のサインは何なのかを自分で把握できるようになることを目指します。
再発に気づけないと、自分自身で「発症している」という自覚を持てなくなり、病状悪化、通院不可などの状態に陥る可能性があります。双極性障害は、再発時でも、初めのうちに治療をはじめることで、重度な症状を食い止めることができます。再発時の初期症状を知ること、家族や身の回りの人間と共有することで、再発の放置を予防することが可能です。また、心理社会的治療では、きっかけとなりやすい心理的負担を事前に把握し、避けること、そのストレスに直面した際の対処法を考えることなど、再発予防に関する知識を学ぶことができます。
双極性障害は、天候変化などに適応しようとする力(自律神経系の働き)が影響することが多いため、規則的な生活が効果的です。徹夜をしない、朝日を浴びる、適度な運動(散歩など)をするなど、どんな心理状態の場合でも、このような一定のルールを守った生活をすることで、病気の安定に繋がります。
磁気刺激治療(TMS)
頭部に磁気を照射して、脳の働きを正常に戻し、うつ病を改善する方法です。双極性障害の場合、抑うつ状態を磁気刺激治療(TMS)で改善することで、状態が緩和されます。特に多くの種類を服用する可能性の高い薬物治療のような副作用はほとんどないので、体に負担をかけない新たなうつ病治療法として注目されています。既に薬物治療をしている方は薬なしの生活を目指せます。
注目されている理由
双極性障害は、抑うつ状態と躁状態が入り混じり、混合型の症状がみられるため、診断基準が難しい病気です。したがって、診断と治療は慎重に行う必要があります。双極性障害は、誤診により最適な薬が処方されないリスクがあります。しかし、磁気刺激治療は抑うつ状態に対しての治療なので、最適な治療が安心して受けられます。
双極性障害の過去の事例
40代男性 職業:会社員
- 双極性障害二型
- まじめ
仕事が原因で調子が悪くなり、病院に行った所、鬱病と診断をされました。
それで通院を始めたのですが、全然状態が変わらないので、病院を変えたところ病名が双極性障害二型と診断され、病名が変わりました。
それから治したいと思い、その病院に通院をして約3年になるのですが、少し良くなったと思えば又悪くなったりを繰り返していました。それで先日一体いつになったら治るのでしょうか?とドクターに聞いた所、こういう病気は完治と言う事はない、寛解と言うんだと言われました。
寛解と言う言葉は、ある程度知っていましたがまさか自分がそういう状況だなんて思っていなかったもので正直ショックでした。ちなみに寛解と言うのは、ある程度症状が落ち着いた状態が続いている状態の事を言うのだとドクターから言われました。
双極性障害のチェックリスト
あなたはどのくらい当てはまりますか?
躁状態の症状
うつ状態の症状
上記のような症状が当てはまる場合は双極性障害の疑いがあります。
早めに心療内科や精神科のクリニックを受診しましょう。
双極性障害は問診だけでは誤診される可能性もありますので、
できれば、光トポグラフィー検査を行っている
クリニックや病院を選びましょう。