介護うつとは
日本の高齢化率は世界一とも言われ、2019年9月15日現在推計では高齢化率28.4%と過去最高の割合で「超高齢化社会」と呼ばれる状態になりました。そんな中、介護を必要とする要介護者の人口もまた増えています。父母をはじめ家族など身近な人に介護が必要になるのは、珍しいことではなくなりました。しかし、介護する人の負担は大きく「介護うつ」と呼ばれる問題も大きくなってきています。ここでは、介護うつとはどのようなものなのか、症状や対処法などについてお伝えします。
家族などの介護をする人に起こる
「介護うつ」
日本では従来、年老いた親の面倒は子がみるものという慣習が続いてきました。しかし、江戸時代の日本人の平均寿命が30~40歳ぐらいであったのに対し、近年では男女ともに80歳を上回っています。医療技術の進歩などにより寿命が長くなった分、介護が必要となる期間も長くなりました。少子高齢化や核家族化などの影響もあって、介護を行う人の心身の負担はとても重いものとなっています。介護をきっかけに離職する方もいる現状です。
介護うつの対処は難しい
一般的なうつ病は、仕事や人間関係のストレスなどが原因となるケースが多く、この場合は原因となっている環境から離れるという対処法が取れますが、介護うつのケースでは介護によるストレスが原因であっても介護をやめるわけにはいかないという人が多いものです。
また、介護には休みがなく、終わりが見えないのも介護の大変なところです。介護の負担を感じている人で、気分の落ち込みや無気力感などうつの症状が続く方は、早めに心療内科や精神科など専門医を受診することをおすすめします。
介護うつの症状
「介護うつ」というのは病気の名前ではなく、介護を原因として起こるうつ病のことを呼ぶものです。このため介護うつの症状としては、以下のようなうつ病の症状が見られます。
介護のストレスを感じていて、以下のような症状が続く場合は介護うつであると言えるでしょう。
主な症状
さらに具体的な症状についてみていきましょう。
気力・意欲がなくなる
やらなければならないことがわかっているのに、どうにもやる気が出ない、がんばれない、などといった症状が見られます。介護では大変な仕事が多く、ある程度「気が重い、気が進まない」と感じるのはうつ病になっていなくてもあることでしょう。しかし、この気力のなさがずっと続いて、今まで普通にできていたこともやりたくなくなるような場合、うつ病である可能が高いです。また、今までは好きだったことや楽しいと感じていたことに対して興味や意欲が失われるというのもうつ病で多く見られる症状です。
不安や落ち着きのなさを感じる
不安感や焦燥感も、うつ病に多く見られる症状です。
家族の介護が長く続く状況では、将来のことなどに不安や焦りを感じるのは当然のことのように思われるかもしれませんが、明確な理由に対して心配しているというよりも、やみくもに不安を感じたり落ち着かずソワソワしたりといった状態が続くことが多いようです。こうした不安感が不眠につながるケースも見られます。
身体にだるさ、不調を感じる
無気力感とともに、身体にもだるさや疲労感が現れます。それほど重労働をしたわけではない場合でも、ひどく疲れを感じたり、疲れがずっと取れないと感じたりします。「なんとなく身体が重い」「身体を動かしたくない」などといった倦怠感を感じるケースもあります。また、介護うつが原因となって、頭痛や関節痛、胃腸の不調、動悸や息切れなどといった身体症状が現れる人もいます。
介護うつにならないために心がけること
介護うつの人に現れる代表的な症状をいくつかご紹介しました。こうした症状に当てはまる人がうつ病を発症しているとは限りませんが、うつ病のリスクが高い状態だとは言えるでしょう。責任感が強く真面目な人や、人に頼らずなんでも自分で何とかしようと考える人は特に介護うつになりやすいタイプです。
まずは、「介護は自分一人で完璧にできるものではない」という認識を持つのが大切です。自分で無理なくできる範囲を超える部分に関しては、介護サービスを利用するなど、人に頼る方法を検討することをおすすめします。また、介護をする人はどうしても要介護者に合わせて介護中心の生活になってしまいがち。しかし、自分の時間を作って息抜きをすることも大切だと言えます。この意味でも、介護サービスを上手に活用したいところです。
介護うつになりやすい人
5つの特徴をチェック
「介護疲れ」「介護うつ」などという言葉をよく聞くようになりました。在宅で家族などの介護をしている方の中には、「自分もうつになるのでは?」と不安を感じているという方も多いのではないでしょうか。うつは誰でもかかりうる病気ですが、性格や考え方によって「うつになりやすい人」といった傾向があるのは事実です。介護うつになりやすい人に共通する性格の特徴を5つご紹介します。
介護うつになりやすい人の
共通点
責任感が強い
職場のストレスなどからうつ病になる人には、責任感が強い人が多いとされています。
介護の場面でも、「自分の親なのだからしっかりと面倒を見なくては」「自分が頑張らなくてはならない」という気持ちから、すべてを自分で抱え込んでしまいがちです。
責任感の強さが、自分を追い詰つてしまうのです。
まじめな性格
まじめな性格の人は、介護に対しても常にまじめにひたむきに取り組もうとします。
自分が疲れていたり体調が悪かったりするときでも、介護のために無理をしてしまいがちな傾向があります。また、適度に息抜きをしたり手を抜いたりすることができません。
感情表現が苦手
言いたいことを言わずに自分の中だけで消化しがちな人や、感情を押し殺してしまいがちな人もうつ病のリスクが高いタイプです。介護では何かとストレスを感じることが多いものです。そうしたつらい気持ちを人に言えず、ため込んでしまいがちな人は注意が必要です。
考え方ががんこで融通がきかない
物事のやり方などについて「こうあるべき」「こうしなければならない」という信念の強い人は、柔軟な考え方をする人に比べてうつ病のリスクが高いと言えます。責任感の強い人と同様に、自分の考え方や価値観が自分を追いつめてしまいやすいのです。
几帳面な性格
几帳面すぎる性格の人も要注意です。介護は相手のあることなので、自分の努力だけですべて完璧にできるようなことではありません。「何もかもきちんとしなければならない」という考え方が大きなストレスもつながりやすいと言えるでしょう。
老人性うつとは
一般的にうつ病は、働き盛りの30~40代に発症するという傾向があります。しかし、高齢者に多く発症するうつ病もあるのです。これを「老人性うつ病(高齢者うつ病)」と言います。「うつ病全体の5%ほどが老人性うつ病」だと言われています。老人性うつ病は、働き盛りの人がかかるうつ病とは異なり、仕事のストレスではなく「退職した」「配偶者を亡くした」といった環境の変化が原因で発症することが多いです。また、老人性うつ病は認知症と区別がつきにくいという特徴があります。これは「元気がない」「落ち込んでいる」「ぼーっとしている」という症状が共通しているためです。
老人性うつ病が認知症と間違われる原因
認知機能や記憶力の低下を自覚して医師の診断を受けた方の中には「実は老人性うつ病だった」という場合もあります。認知症と老人性うつ病が間違えやすい最大の原因は、認知症に「抑うつ」と呼ばれる症状があるためです。さらには認知症の初期段階の症状として半数近い方がうつ状態を患うという傾向があるため、老人性うつ病を認知症と誤認されてしまうことも珍しくないのです。
老人性うつの症状
老人性うつ病によって現れる症状はさまざまで、人によって異なります。
また心身の不調を老人性うつ病ではなく「年齢のせい」にしてしまうケースが多く、治療が遅れて認知症になってしまうというケースもあるので注意が必要です。老人性うつ病の症状は次の通りだと言われています。
主な症状
老人性うつの原因
先にも紹介しましたが、老人性うつ病の原因は環境の変化を中心に次のようなものが挙げられます。以下のように、慢性的に喪失感や不安を抱いた場合は、老人性うつ病を発症する恐れがあります。また「仕事を退職した後に没頭できる趣味がない」という方も老人性うつ病になる可能性があると言われています。
老人性うつ病は、環境の変化で現れることが多く、またその症状も誰しもに現れる「気落ち」であったりすることから周囲の人も“環境の変化による一時的なもの”と捉えてしまうことがあります。実は一時的な症状ではなく、うつ病である可能性も考えられるので、身近にうつ病と思われる方がいる場合は、今回ご紹介した症状や原因と照らし合わせてみて下さい。また老人性うつ病に関する正しい知識を深めて、事前に予防できるようにしておくことも大切ですよ。
主な原因
老人性うつ病と認知症を見分けるには
うつ病と認知症は症状が似ているため医師でも判断が難しいケースがあります。
身内に老人性うつ病または認知症だと思われる方がいる場合は、次の違いに注意して考えてみてください。似ているとされる老人性うつと認知症ですが、下記のような違いから見分けることができます。基本的に「本人が症状を自覚しているかどうか?」が判断の基準だと考えましょう。身近に老人性うつ病または認知症だと思われる方がいる場合は、ここで紹介した内容を参考にしてよく観察してみると良いでしょう。
記憶障害
認知症の場合、記憶障害が多くみられますが、老人性うつ病では起こりません。
老人性うつ病の場合、記憶障害はないものの、何を聞かれても「わからない」と答えてしまう傾向があります。そのため、判断が難しくなるケースもあります。
不安感
高齢になると物忘れが増えてきます。老人性うつ病の方は自分で物忘れに気付いて、それをきっかけに不安感を抱いたり、落ち込んでしまったりすることがあります。認知症の場合は物忘れに自ら気づくことは基本的にありません。
発病
認知症は徐々に症状が進行するため気づきにくいという特徴がありますが、老人性うつ病は突然症状が現れたり、時間帯によって強く出たり、複数の症状が同時に現れることがあります。
睡眠
老人性うつ病の方は自分が眠れないことに悩みを抱えています。しかし認知症の場合、問題行動を本人が起こすため、不眠の悩みはありません。
質問に対する回答
老人性うつ病の方は、考えた結果「わからない」と答えることが多くなります。反対に認知症の場合は質問に対して、見当違いな回答をしたり、その場を取り繕う所作がみられます。
老人性うつの人との接し方
社会の高齢化が進む中、60代以降の高齢者にもうつ病や神経症と診断される人が増えてきています。
こうした高齢者のうつは「老人性うつ」と呼ばれ、若い世代のうつとは要因や症状に異なる部分もあります。家族など身近な高齢者が「老人性うつ」になった場合、どのように接するのが良いのかを知っておきましょう。
「老人性うつ」の人との接し方、
4つのポイント
ゆっくりできる環境を作る
うつ病の人にとって、ゆっくり休養を取ることは有効な対策となります。
一般的に、うつ病にかかる人は責任感の強い人が多く、体調が悪くても家事などの作業に無理をしがちな傾向があります。周りの人は、こうした作業を代わってあげるなど、本人がゆったりと休める環境を作るのが大切です。
ただし「休ませすぎ」には注意が必要
無理をさせないように気づかうのが大切だとお伝えしましたが、一方で、老人性うつの場合は、「休ませすぎ」にならないように気を配る必要もあります。
高齢の方は筋力などが衰えやすいものです。老人性うつになることで体調不良などからさらに気力や体力が低下しやすくなります。「休んだほうが良いから」と何もせずに過ごしていると、寝たきりや認知症につながるリスクもあります。周囲の人は、本人が適度に心身に刺激を受けられるような機会を作ってあげることも心がけてください。
一緒に趣味や遊びを楽しむ
脳を活性化させるとともに楽しい気持ちや前向きな気持ちを感じさせてくれるものです。手工芸や写真、囲碁や将棋、カラオケなど、高齢者にも楽しみやすい趣味はいろいろとあります。本人に合いそうな趣味を勧めてあげたり、一緒に楽しんだりするのも老人性うつの改善に効果的だと言えるでしょう。
身体を動かす機会を作る
適度な運動は、筋力の衰えを防ぐばかりでなく、気持ちにも良い影響を与えてくれます。また、高齢になると睡眠が浅くなったり、なかなか寝付けなかったりする人が多く、こうした睡眠障害も老人性うつの一つの原因となっています。日中に適度に身体を動かすことで、快眠を得やすくなる効果も期待できます。緑豊かな場所へ一緒に散歩などに出かけたり、簡単な体操などを一緒に行ったりと、なるべく身体を動かす機会を作ってあげるようにするのも大切なことです。
よくあるご質問
介護うつに関して、よくいただく質問と回答をまとめています。
介護は一人で行うことは困難です。身近な家族や親せき、友人、カウンセラーなどに相談したり、介護サービスも利用したりしましょう。精神的にも身体的にも不調をきたしている場合は、うつ症状によるものかもしれませんので、心療内科や精神科の受診をすることもおすすめします。
介護うつの一般的な治療方法は、薬物療法、精神療法、休養といわれています。しかし、薬物治療の場合、副作用が多くみられるため、最近では副作用がほとんどない磁気刺激治療(TMS)が選択肢の一つとしてあります。
「私は大丈夫」という思い込みは危険です。介護うつという病気があることを認識し、一人で抱え込まず、複数人で分担することが大切です。介護疲れで体調不良が続く場合は、早めに周りの人に相談したり、医療施設を受診したりしましょう。