うつ病に気づくには?~うつ病による影響と変化について~

はじめに

はじめに

うつ病はさまざまな要因が複雑に関係し発症します。⾃然に治ることはほぼなく、適切な治療を受けなければ命を落とすことすらあります。うつ病に限ったことではありませんが、早い段階で医療機関を受診し、症状が重くならないうちに治療していくことが重要です。
しかし、うつ病の⽅の中には、⾃らをうつ病と認識することができない⼈も珍しくありません。そういった⽅を医療機関につなげていくためには、周囲の⼈が「いつもとは違う様⼦」に気づく必要があります。

そこで今回はうつ病の⽅に⾒られる兆候についてまとめた研究結果をもとに、うつ病によってどのよう変化が⽣じるのかについて紹介していきます。

研究の概要

⼭形県⽴保健医療⼤学では、うつ病による休職経験者が、休職する前に感じていた症状や変化についてまとめ、分析することで、休職を予期する警告サインを明らかにすることを⽬的とした研究が⾏われました(注1)。
研究にはうつ病と診断された男性25名、⼥性5名の研究協⼒者が集まり、それぞれの「うつ病で休職する前の状態」について語られた内容を分析した結果、9つのカテゴリに分類することができました(表1)。
この記事では、最も多く語られた上位3つのカテゴリに焦点を当てて解説します。

表1 休職前に出現した症状・変化
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表1 休職前に出現した症状・変化 出典:うつ病等で休職に⾄る警告サインの明確化(注1)

表1 休職前に出現した症状・変化
表1 休職前に出現した症状・変化 出典:うつ病等で休職に⾄る警告サインの明確化(注1)

気分・覚醒度への影響

気分・覚醒度への影響

1つ⽬のカテゴリは【気分・覚醒度への影響】についてです。このカテゴリは14個のサブカテゴリで構成されています。

《表現の減少》では[笑顔が減った]などと表現されている通り、うつ病になると「感情表出の乏しさ」が⽬⽴つようになります。それまで友好的だった⼈でも、他⼈を避けるようになり、孤⽴してしまいます。
また、《刺激に脆弱》と《イライラ感》における[怒りっぽくなる]・[いらだち・ちょっとしたことでイライラしやすくなる]というように、温厚な性格の⼈でもうつ病になると豹変したように周囲に怒りをぶつけるようになることも珍しくはありません。

同様にうつ病による情緒の不安定さから、《気分の⾼揚・興奮》・《不安・焦燥感》が⽣じることで精神的にも疲弊します。さらに追い打ちをかけるように《不安の影響》・《主に不眠による睡眠障害》・《不眠以外の睡眠障害》のような症状によって⼼休まる時間を確保することが難しくなります。

【気分・覚醒度への影響】カテゴリは、以前までの様⼦と発症後の⽐較が容易でわかりやすいサインとして出てきます。数週間~数か⽉前と⽐較して上記のような変化が⾒られた際にはうつ病を疑う必要があります。

⾝体⾯への影響

⾝体⾯への影響

次に【⾝体⾯への影響】についてです。

《めまい・ふらつき》・《呼吸の乱れ》・《過⾷・体重増加》のように外からわかる変化もありますが、《倦怠感・疲労感》・《動悸》・《体の痛み》のように主観的な⾝体症状がメインとなっているため、他者が変化に気づくことは難しいかもしれません。逆に⾔えば、⾃分の変化として気づくことができるということになります。仮⾯うつ病のように、【気分・覚醒度への影響】があまりなく、【⾝体⾯への影響】が強く出るうつ病もあります。

時には⾃分の体の状況を気にかけ、違和感があれば原因の1つとしてうつ病を考えてみてください。

⾏動への影響

⾏動への影響

最後に【⾏動への影響】ですが、こちらも⽬に⾒えて分かりやすい変化です。

《落ち着きのなさ》・《突発的な感情表出》や《確認⾏為の増加》は仕事などに⼤きな悪影響を及ぼします。職場内でこのような⾏動をとる⼈がいた場合は注意深く観察する必要があり、場合によっては管理職に相談し、産業医につなげてもらう等の働きかけが必要な場合もあります。

[⾷事のばらつき・⽣活全般がおっくう・⼊浴を3, 4⽇しない・室内が⽚付かなくなる・服装はどうでもよくなる]のような《⽣活場⾯への影響》については、家族であればすぐに異変に気付くことができるでしょう。
「疲れているだけかな」「あの⼈はしっかりしているから⼤丈夫」と軽く考えてうつ病のサインを⾒逃してしまうことは珍しくないので注意が必要です。

最後に

今回は「うつ病で休職する直前の症状や変化」についてまとめた論⽂をもとに、うつ病の⽅のサインについて紹介しました。今回紹介しきれなかったカテゴリもありますので、興味のある⽅は論⽂をご確認ください。

もちろん症状には個⼈差があり、すべての⼈に上記のような症状が出るわけではありませんが、実際にうつ病になった30名の⾔葉ですので当てはまる部分は多いと思います。
冒頭でもお伝えしましたが、うつ状態やうつ病の⽅で積極的に医療機関へつながろうとする⽅は多くはありません。職場や家族など周囲の⼈が話を聞き、そっと背中を押してあげることで治療へと歩み始めることができるのです。

品川メンタルクリニック公式サイト

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脚注
注1)佐藤⼤輔・安保寛明(2020)「うつ病等で休職に⾄る警告サインの明確化」, 『⽇本精神保健看護学会誌』, 29(1), 42-50(参照2023-12-3)

参考⽂献
⼤阪精神神経科診療所協会うつ病診療研究グループ(編)(1998)『うつ病患者と家族の⽀援ガイド:精神科医の診療最前線』, プリメド社
⾼橋祥友(2009)『⽼年期うつ病』, 新訂, ⽇本評論社

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