IT業界で働く人に知ってほしい「うつ病」になりやすい理由
うつ病は、働く人と切っても切れない病気として認知されてきました。
中でもIT業界はうつ病になる人が多い業種と言われており、その問題が各メディアでも取り沙汰されています。
今回はそんなITの業界人特有のうつ病についてお話ししていきます。
IT業界の人がうつ病になりやすいってホント?
IT業界は、うつ病をはじめ精神障害が多いといわれています。
それは毎年厚生労働省が発表する「精神障害に関する事案の労災補償状況」からも伺い知ることができます。
労災補償の支給率は「社会保険・社会福祉・介護事業」や「医療業」などに続き、IT(情報通信業)も毎年高い比率となっており、政府が中心となってIT業界における働き方改革が推進されています。
令和3年の報告では、精神障害における労災の請求と支給決定数は全業種中7位。福祉業や医療業などに比べて申請された数は少ないものの、受給率は高い傾向にあり、IT業の深刻な状況が垣間見えます。
IT業界の人がうつ病になりやすいのはなぜ?
IT業界の人がうつ病になるのは、大きくわけて3つの原因が考えられます。
人とのコミュニケーションが少ない
IT業は、1日中パソコンと向き合うことが多く、会話するときも対面するケースより、パソコン上でツールを用いて会話するケースが多い傾向が見られます。
一日中、対面するのはパソコンだけという生活が続くと、身体的なバランスだけではなく、精神的なバランスも崩してしまう可能性があります。
「すべての悩みは対人関係の悩みである」と世界の三大心理学者の一人、アドラーが言いました。しかし、IT社会となった現代では人と関わらないことで起こるストレスも、精神疾患を引き起こしうるということも、理解しておかないといけません。
オーバーワークの傾向がある
納期や課題など、タイムリミットを抱えたプロジェクトを進めるSE(システムエンジニア)にとって、毎月100時間超の残業は珍しくありません。
会社に泊まり込んだり、休日出勤や自宅に仕事を持ち帰って寝る時間を削って仕事したりすることも少なくないでしょう。
また、そのオーバーワークはプライベートが充実しにくい傾向にもつながります。
忙しすぎる身体的な負担、納期や膨大な課題への精神的負担、さらに息を抜く時間も持てないとなれば、うつ病を発症するリスクは当然高まります。
太陽にあたる時間が少ない
一日中デスクワークになりやすいSEは、意識しない限り太陽にあたるチャンスがほとんどありません。しかし、人は朝日を浴びることで体内時計がリセットされ、生活リズムが整うようできています。
太陽にあたると、脳内でセロトニンという「覚醒ホルモン」が分泌されて「やる気」が出ます。
昼間分泌されたセロトニンは、夜になるとメラトニンという「睡眠ホルモン」に変化して「眠気」が生じます。
つまり、太陽に当たらないと元気が出ないだけではなく、夜もよく眠れないという悪循環に陥ります。睡眠障害はうつ病の入り口として最も警戒すべき症状の一つです。
働き方改革をしても、防ぎきれないIT業界の心の病
令和3(2021)年度に、IT企業を含む情報通信業の従業員が業務による精神障害を訴えた数と、業務上の不調であることが認められて労災認定された数は、それぞれ105件(申請件数)と27件(支給決定数)でした。
IT業界は出向先で仕事をする常駐IT技術者も多く、現場の状況をどこに訴えればいいかわからない状況も多く見られます。
しかし、労務相談では、IT業界のメンタルヘルスにおける相談が最も多いと言われており、労災の申請や認定の件数だけでは計れない問題がまだまだあることが伺えます。
また、申請件数に対して支給決定数がかなり少ないのは、うつ病などの精神疾患は「仕事が原因で発症した」と証明が難しいためです。
業務外の要因が関わっていると判断されると、労災は認められません。
労災の申請を考えているのなら、タイムカードなど労働時間を証明できるもの、精神科・診療内科の診断書など客観的に原因を記したものなど、記録はすべて残しておくことが大切です。
2019年4月から「働き方改革」が導入され、残業が減った企業はたくさんあります。
ですが、残業をしないよう指導されているだけで、仕事量は変わらないか増えている企業も少なくありません。
結果的に、仕事を自宅に持ち帰ったり、休日に仕事をしたりと個人の負担が大きくなっているケースも多く見られます。
こうしたことから、働き方改革が心の病は防げているとはいえず、精神疾患を訴えるIT技術者の数は減る気配を見せないのです。
働く環境に大きなストレスを感じていたら
まず必要なのは、「自分が何にストレスを感じているか」を知ることです。
多くの人がストレスを感じる代表的な原因は、「長時間の残業」「職場環境が合わない」「ハラスメントなどの人間関係」「私生活上の出来事や生活環境の変化」だといわれています。
そして、ストレスの原因がわかったら、自分の気持ちや置かれている状況に合わせて、誰かに相談しましょう。一人で悩んでいると出口がわからなくなるので、必ず自分以外の誰かに話してください。
- ・話を聞いてくれる上司がいる → まずは上司に相談
- ・相談相手より、すぐにでも何かしらの手を打ちたい → 労務相談をする
※労働相談窓口、労働組合、労働基準監督署、社労士、弁護士などが窓口になります。 - ・うつ病など精神疾患の自覚症状がある、またはそうではないかと思う → 精神科・心療内科を受診する
また、できるだけ資料を集めておくことも、いざというとき自分を守る道具になります。
給与明細、タイムカードのコピー、就業規則の写しなどがあると、第三者も状況の把握がしやすく、労災の申請などもスムーズです。
まとめ
精神的な不調はどうしても「本人の問題」「甘え」と捉えられがちで、本人も周囲の人も声をあげられずにいるケースが多く見られます。
IT業界のように閉鎖的になりやすい職業は特に、労務に相談することで、状況や環境が変わる可能性があることに気づかないことも多く、対応が遅れがちなことも否めません。
また、残業や膨大な量の仕事をこなすことが、どんなに「みんなやってること」であっても、それが心身を壊すほどのものであるなら「正しい働き方」ではありません。
適切な場所や人に相談すれば、知らなかった方法を教えてくれます。自分にとって一番働きやすい働き方を見つけるきっかけにもなるでしょう。
IT業界で働くエンジニアは特に、うつ病になりやすい環境にあることを十分に理解し、心地よく働ける環境をどうか自分で引き寄せていってください。
※参考:
IT業におけるストレス対処への支援|厚⽣労働省
SE労働と健康研究会|いの健全国センター研究会プロジェクト
働き方改革では、心の病は防げない|@IT
令和3年|精神障害に関する事案の労災補償状況|厚生労働省
精神障害に関する労災件数は増加~令和3年度「過労死等の労災補償状況」~|産業保険新聞
SE(システムエンジニア)に鬱病が多い理由と原因は?対処法・予防法も紹介|アトオシ
モチベーション・働き方改革への取組|IT業界の働き方・休み方の推進|厚生労働省
みんなのメンタルヘルス『うつ病』|厚生労働省
業務プロジェクトにおける平均的なメンバーの通常期/繁忙期1ヶ月のおおよその所定外労働時間|IT業界の働き方・休み方の推進|厚生労働省
※参照:
『セロトニン分泌に影響を及ぼす生活習慣と環境』|大阪河崎リハビリテーション大学
労務相談で最も多い、IT業界のメンタルヘルス・うつ病問題|@IT
過労による精神疾患でワースト1、IT業界が変われない理由|日経×TECH
人事・労務ニュース|増える精神障害の労災請求件数求められるハラスメント対策|ADVANCE
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【プロフィール】
牧野 絵美
ライター・編集者、心理カウンセラー。人間観察が趣味で、取材や執筆においても対話と心理描写を得意とする。若いころは自身の繊細さに振り回され、うつ病を繰り返した。自分との向き合い方をつかんだ今は、誰にでも人生は変えられるということを伝えていきたい。
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