受験うつとは

※品川メンタルクリニックにおける12歳〜19歳以下の患者数

受験うつ」とは、受験期に発症したうつ病の通称になります。特に未成年の受験期のうつ病が増加傾向にあります。
品川メンタルクリニック(旧名称:新宿ストレスクリニック)の患者数の推移では、この2年間で約3.5倍増えています。人生を左右すると言われる受験期を元気に乗り越えるためにも、受験うつについて詳しくご紹介します。

年齢別 昨年との比較 総来院数 昨年との比較

受験うつの特徴

プレッシャー型受験うつ

身近な人々から過度な期待を受けることで発症するタイプです。成人のうつは悲しみを感じることが多いのですが、思春期のうつは悲しみよりもイライラが主な症状として出てくることがあります。不機嫌、敵意、欲求不満、すぐに怒りを爆発させるなどの症状が出てきます。
さらに、家出をほのめかしたりすることがあります。これは「助けてほしい」「今の状況から逃れたい」という心のあらわれです。

モチベーション喪失型受験うつ

勉強する気をなくし、合格する自信もなくすことで発症するタイプです。受験勉強が思い通りにはかどらないことなどが原因となることが多いです。「自分には価値が無い」という気持ちが特に強くなるので、批判や拒絶、自分の失敗に極端に敏感になっていきます。このため学校を休みがちになって成績が落ちてきたり、以前はできていた勉強ができなくなってしまい、より落ち込んでいくということもあります。

比較・競争型受験うつ

同級生や他の受験生と自分を比較して劣等感を持つことで発症するタイプです。成人がうつ病になると周囲との交流を絶ってしまいますが、思春期のうつ病では何人かの友達とのつきあいは続けていることが多くあります。また、うつ症状からくる様々な問題から逃げるために、ネット依存になることもあります。しかし、そのためにますます孤立し症状を悪化させていきます。

受験うつの原因

「うつ病」とは、強いストレスを継続して受けることで、脳内の機能が正常に働かなくなることでもたらされると考えられています。未成年者はまだストレスに弱い年頃だと考えられており、「受験」という人生最初の試練に直面しています。
「不合格になると、人生が大きく変わってしまうのかもしれない」という不安を毎日感じながら勉強しないといけません。このような事情から、受験期が受験うつの発症要因と思ってしまうのも不思議ではありません。

心の多い症状

  • 虚脱感
  • 無気力
  • 記憶力
  • 集中力の低迷
  • 自殺願望
  • 悲しみや絶望を感じる
  • イライラ、怒り、敵意がある
  • 涙もろくなる、頻繁に泣く
  • 自分は価値がないと思う
  • 罪悪感がある
  • 情熱とやる気がなくなった
  • 何にも興味がわかない
  • 死にたい、自殺したいと思う

体の多い症状

  • 睡眠障害
  • 食欲不振
  • 過食
  • 過剰な疲労感
  • そわそわして落ち着きがない
  • 友だちや家族から距離を置く
  • 集中力がなくなる
  • 疲労感がある、エネルギーがなくなる

受験うつに関連する実態調査

「受験うつ」のことは知らなかった44% 「受験うつ」という言葉は知らないが受験期にそうなることは知っている40% 「受験うつ」を知っている16%

日本メンタルヘルス研究センター主催の各種セミナーに参加の学生約8割が、「受験うつ」の自覚はないものの、「親からは、成績が落ちた事を指摘されるが、自分は、悩んでいないし、困ってもいないが、過剰に疲れる」「イライラして落着きがない」、「家に籠りがちで、夜眠れない」、「集中できず、勉強が手につかないし、学校にも行きたくなくなる」などの悩みをあげているようです。

近年はうつ病の重症化の結果、自殺するケースも相次いでいます。
下の図のように、未成年の気分[感情]障害での自殺は、約4倍にまで急激に増加しております。受験うつも放置しておくことはおすすめできません。

未成年の気分障害と健康問題での自殺

10代の学校問題による自殺の動機 ※2019年版 自殺対策白書より作成

受験うつの治療法

受験うつの治療は早期にはじめることが大切です。とはいえ、治療の方法はよく選ばないといけません。うつ病の場合、抗うつ薬による治療が一般的ですが、未成年の場合、限られた薬しか処方されないため効果に対する疑問や副作用の心配などがあります。
そんななか、新たなうつ病治療として、磁気刺激治療(TMS)が注目されています。

抗うつ薬による治療

抗うつ薬は慎重に行うべき治療です
未成年に対して、抗うつ薬による治療を行っていますが、国は小児を対象とした抗うつ薬での治療は慎重に行うべきだとしているため、医療機関は慎重に抗うつ薬を処方している現状です。

磁気刺激治療(TMS)

薬に頼らない受験うつの治療方法があります
アメリカでは10代のうつ病が多く、未成年対象の治療も早くから続けられてきました。しかし10代で発症すると、その後何十年にもわたって抗うつ薬の副作用に苦しむ人が続出しました。そのためアメリカでは、薬に頼らない磁気刺激治療(TMS)が求められてきました。

受験生における
抗うつ薬のデメリット

すぐに効果が出ない

飲んですぐ効果が出るわけではありません。平均して1~2週間はかかります。つまり、受験勉強をすぐ再開できるわけではありません。

飲み続けないといけない

効果が出ても、服用をとめるとまた症状が戻ってきます。平均的な服用期間は半年程度です。

体質に合った薬を探さないといけない

受験生ひとりひとり、体質は異なります。何種類もの薬を服用しないと、自分に適合した薬に出会えないこともあります。

青年期の抗うつ薬治療の危険性

自殺の危険がある時など重度の症状が見られる場合には投薬は必要なものです。
しかし抗うつ薬は決してすべての人に最適な治療ではありません。抗うつ薬にはそれぞれ副作用があり、未成年への処方は安全性への懸念もあります。投薬治療を決める前にメリット・デメリットのバランスを考えることが必要です。

思春期の脳と抗うつ薬

抗うつ薬は成人を対象に開発と試験が行われた薬品なので、成長段階の脳にどのような影響があるのかは未だ解明していません。抗うつ薬によっては成長段階の脳に影響を及ぼす可能性を指摘する研究もあります。
思春期の脳の成長のスピードは速いので、脳のストレス処理や感情をコントロールする機能に特に抗うつ薬の影響が出てくることが考えられます。

抗うつ薬による自殺

思春期に抗うつ薬を服用すると自殺のリスクが高まることがあります。
抗うつ薬には「24歳までの患者に使用すると医学的に深刻な、時には生命に関わる副作用を引き起こすリスクを伴う」という警告がラベルに記載されているものもあります。自殺の危険性は服薬を始めた最初の2か月に最も高くなると言われています。躁うつ病の患者、親族に躁うつ病がいる患者、以前に自殺を企てたことがある患者については、抗うつ薬による自殺の危険性はより高いものになります。
思春期のうつ病患者が抗うつ薬を服用する場合は、症状の変化を見落とさないよう丁寧に観察しなければなりません。投薬治療中に、そわそわして落ち着きがなくなったり、イライラしてきたり、怒りっぽくなってきたら要注意です。投薬中に、それまでとは違う言動を見せるようになったら赤信号と言えます。

厚生労働省から指摘された18歳未満への治療に対する問題点

2013年3月29日、厚労省医薬食品局は、新規抗うつ薬として使用されているSSRI(選択型セロトニン再取り込み阻害薬)の一部の薬品に対し、18歳未満の大うつ病性障害患者への投与について、薬の有効性は確認できないことから、「適応を慎重に検討すること」を使用上の注意の中に追記するといった改訂を要請しており、「受験うつ」が身近な問題としてある14~18歳を中心とした層には投薬治療以外の治療法を検討する必要があります。

参照
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002ygw3.html