大人の発達障害、自覚がない本人にどう伝える?|家族や周りの人ができること

「もしかしたら、あの人、発達障害かもしれないけれど、本人は全く気づいていないみたい…」

身近な人に対して、そう感じたことはありませんか? 大人の発達障害は、子どもの頃から診断を受けているケースとは異なり、大人になってから初めて、あるいは全く自覚がないまま社会生活を送っている方も多くいます。

本人に自覚がない場合、周囲がどんなに「生きづらそう」「困っていそう」と感じていても、その状態が続いてしまいがちです。しかし、本人に伝えることは、非常にデリケートで難しい問題です。「どう伝えたら傷つけずに済むだろう?」「そもそも伝えるべきなのだろうか?」と悩んでいる方もいるかもしれません。

この記事では、「大人の発達障害を自覚させるには」というテーマを中心に、本人が自覚しにくい理由、具体的な伝え方のポイント、周囲ができるサポートと避けるべき行動、そして診断や相談先について詳しく解説します。身近な大切な人が、自分らしく生きるための第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。

大人の発達障害、本人はなぜ自覚しにくいのか?

大人の発達障害の方が、自身の特性を自覚しにくい背景には、いくつかの要因が考えられます。多くの場合、彼らは自分の「困りごと」や「人との違い」を、発達特性に由来するものだと認識していません。

発達特性による「困りごと」の認識のずれ

発達障害の特性は、周囲とのコミュニケーションのずれ、特定の作業における困難、感覚過敏や鈍麻など、多岐にわたります。しかし、これらの特性は本人にとっては「当たり前の自分」であり、それが原因で生じる「困りごと」も、「自分の努力不足」「性格の問題」「周囲の理解がないせい」といった理由に結びつけて考えてしまうことがあります。

例えば、ADHDの不注意傾向が強い人は、書類の提出漏れや約束の失念が多いかもしれません。しかし本人からすると、それは単に「うっかりが多いだけ」「忙しいから仕方ない」と感じているだけで、それが特性によるものだとは思い至らないのです。また、ASDの特性を持つ人は、暗黙の了解や社交辞令が理解できず、職場で孤立してしまうことがあるかもしれません。しかし本人としては、「なぜか人に嫌われる」「どう振る舞えばいいか分からない」と感じるだけで、その背景にある認知の違いに気づきにくいのです。

このように、特性そのものや、それによって引き起こされる生活上の困難が、発達障害という枠組みで捉えられていないことが、自覚を妨げる大きな要因となります。

周囲との摩擦や生きづらさによる自己否定感

発達障害の特性を持つ人は、幼少期から「どうして自分はみんなと同じようにできないのだろう」「どうして自分だけこんなに生きづらいのだろう」といった疑問や悩みを抱えやすい傾向があります。学校や職場、家庭など、さまざまな場面で周囲との摩擦を経験し、それが積み重なることで、自己肯定感が低くなってしまうことがあります。

「自分はダメな人間だ」「努力が足りないんだ」といった自己否定的な考えが強くなると、「困りごと」の原因を自分の内面的な問題、つまり「性格の欠陥」や「能力の低さ」に求めてしまいがちです。このような状況では、自分の特性を客観的に見つめ直し、「もしかしたら発達障害という特性があるのかもしれない」と考える余裕や視点を持つことが難しくなります。

むしろ、自己否定感を深めるあまり、自分の「困りごと」から目を背けたり、それを無理に隠そうとしたりすることもあります。結果として、周囲がその特性に気づいて「発達障害の可能性があるのでは?」と示唆しても、自己否定と結びついてしまい、素直に受け入れられない、あるいは強く反発してしまうケースも見られます。

大人の発達障害の主な特性と自覚の難しさ

大人の発達障害は、主に「注意欠如・多動症(ADHD)」と「自閉スペクトラム症(ASD)」に分類されます(これらが併存する場合もあります)。それぞれの主な特性と、それがどのように自覚の難しさにつながるのかを見ていきましょう。

注意欠如・多動症(ADHD)の特性

ADHDは、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの主要な特性があります。これらは子どもの頃に顕著に現れることが多いですが、大人になっても特性が残る場合や、大人になってから生活上の困難さとして表面化する場合もあります。大人のADHDでは、多動性は軽減される傾向がありますが、不注意や衝動性が仕事や人間関係に影響を与えることがあります。

大人のADHDの主な特性例:

  • 不注意:
    • 集中力が続かない、気が散りやすい
    • 忘れ物が多い、約束や期日を守れない
    • 計画を立てたり、物事を順序立てて行ったりするのが苦手
    • ケアレスミスが多い
    • 話を聞いているように見えて、内容が頭に入っていないことがある
  • 多動性:
    • 落ち着きがない、そわそわする
    • 貧乏ゆすりなど、体を動かす癖がある
    • 会議中などに席を離れたくなる
    • お喋りすぎる、一方的に話し続ける
  • 衝動性:
    • 思いついたらすぐに行動に移してしまう(後先考えない)
    • 衝動買いが多い
    • 順番待ちが苦手、割り込みをしてしまう
    • 感情の起伏が激しい、カッとなりやすい
    • 相手の話を遮って話してしまう

これらの特性がある場合、本人は「自分は飽きっぽい」「だらしない」「せっかち」「短気」といった自己評価をしていることが多いです。仕事でミスが多いのは「能力がないから」、人間関係でトラブルが多いのは「性格が悪いから」のように捉え、「ADHDという特性によるもの」という考えには至りにくいのです。特に、子どもの頃に「落ち着きがない子」と指摘されていても、大人になるにつれて目立たなくなり、不注意や衝動性が中心となる場合、それが自身の特性と認識しにくくなることがあります。

自閉スペクトラム症(ASD)の特性

ASDは、「対人コミュニケーションや社会的相互作用における困難」と「限定された興味やこだわり、反復行動」の2つの主要な特性があります。これらの特性の現れ方や程度は人によって大きく異なります。

大人のASDの主な特性例:

  • 対人コミュニケーション・社会的相互作用の困難:
    • 場の空気を読むのが苦手
    • 比喩や皮肉、冗談が理解しにくい
    • 曖昧な表現が苦手で、指示は具体的でないと理解しにくい
    • オノマトペ(例: ワクワク、ドキドキ)など、感覚的な表現が理解しにくい
    • 表情や声のトーンから相手の気持ちを察するのが苦手
    • 自分の感情を言葉で表現するのが苦手、またはストレートすぎる表現になる
    • 一方的に自分の好きなことだけを話してしまう
    • アイコンタクトが苦手
  • 限定された興味・こだわり、反復行動:
    • 特定の分野に強い興味や知識を持つ(時に専門家レベル)
    • 特定のルーティンや手順に強くこだわり、変更があると混乱したり不安になったりする
    • 特定の感覚刺激(音、光、肌触りなど)に過敏または鈍感である
    • 体を揺らす、手をひらひらさせるなどの反復行動がある(常同行動)
    • 強い正義感や完璧主義

ASDの特性を持つ人は、人間関係でつまずくことが多く、「どうして自分は周りと上手くやれないのだろう」「どうしてみんなは簡単にできることが、自分には難しいのだろう」といった悩みを抱えやすいです。しかし、それを「空気が読めない」といった個別の問題や、「協調性がない」「変わっている」といった性格の問題として捉えがちで、自身の認知特性や社会性の困難さがASDに由来するものだとは気づきにくいのです。特に、高い知的能力を持つ場合や、幼少期に特性が目立たず、社会に出てから困難を感じるようになった場合は、自分自身を「努力不足」や「適応力のなさ」だと責めてしまうことがあります。

特性が「個性」として見過ごされてきたケース

発達障害の特性は、裏を返せばその人の強みや個性となることもあります。ADHDの衝動性が行動力や瞬発力につながったり、ASDの強いこだわりが特定の分野での高い専門性や集中力につながったりすることがあります。

特に、子どもの頃から「マイペースな子」「ちょっと変わった子」「集中するとすごい子」といった形で周囲に受け止められてきた場合、自身の特性をポジティブな「個性」として捉えていることがあります。そのため、大人になってから生活や仕事で困難に直面しても、「自分はもともとこういう人間だから仕方ない」「個性がぶつかるのは当然」といった考えに至り、それが発達障害という可能性に結びつきにくいことがあります。

また、日本社会では、ある程度の「空気を読む」「周りに合わせる」といったことが求められる傾向がありますが、同時に多様な個性を受け入れる文化も育まれつつあります。その中で、多少のコミュニケーションのずれやこだわりの強さが「あの人の個性だね」として見過ごされてしまい、本人が自身の特性による本当の困りごとに気づく機会が失われているケースも考えられます。

本人に発達障害の可能性を伝える前に考えること

身近な人に「発達障害の可能性があるのでは?」と感じたとき、本人に伝えることは大きな勇気が必要です。しかし、伝える前にいくつか慎重に考えるべき点があります。これは、本人にとって非常にデリケートな情報であり、伝え方を間違えると、関係性が悪化したり、本人が深く傷ついたりする可能性があるからです。

伝えることの目的と本人の状況

まず、なぜ本人に伝えたいのか、その目的を明確にしましょう。

  • 本人の「困りごと」を減らし、生きづらさを解消してほしいから?
  • 関係性を改善したいから?
  • 単に、自分の気づきを伝えたいだけ?

目的が明確でないと、伝える言葉がブレたり、独りよがりになったりする可能性があります。最も重要なのは、本人の幸せや生きやすさにつながるかどうかです。

次に、本人の現在の状況を冷静に判断しましょう。

  • 本人は自分の「困りごと」に気づいているか? 困り感を示しているか?
  • 現在、精神的に安定しているか?
  • 過去に自分のことや周りの人との関係について悩んでいる様子はあったか?
  • 発達障害について、どのようなイメージを持っているか?(偏見はないか?)

本人が自身の「困りごと」に全く気づいていなかったり、強く否定的なイメージを持っていたり、精神的に不安定な状況であったりする場合、伝えることによってかえって混乱や苦痛を与えてしまうリスクが高まります。

伝える側のストレスと準備

本人に伝えるという行為は、伝える側にとっても大きなストレスとなる可能性があります。相手の反応への不安、どのように言葉を選べば良いかという悩み、伝えた後の関係性の変化への懸念など、様々な感情が湧き起こるでしょう。

伝える側の準備として、以下を検討しましょう。

  • 自分自身が発達障害について正しく理解しているか?
    • インターネット上の情報だけでなく、信頼できる書籍などを読んでみる。
    • 特性は「病気」ではなく、脳機能の特性であることを理解する。
    • 診断名に固執せず、特性そのものへの理解を深める。
  • 感情的にならない準備はできているか?
    伝える際に、これまでの不満や怒りをぶつける形にならないように注意する。
    冷静かつ穏やかに話せるタイミングを選ぶ。
  • 相手の反応を受け止める覚悟はできているか?
    反発されたり、強く否定されたりする可能性があることを想定しておく。
    一度で受け入れてもらえなくても、根気強く向き合う覚悟を持つ。
  • 必要であれば、自分自身も専門家に相談することを検討する。
    伝え方について専門家のアドバイスを求める。
    伝えることによって生じる自分自身のストレスをケアする。

伝えることによって、かえって関係性が悪化し、本人が孤立してしまうという最悪のケースも想定しておく必要があります。伝えることが、必ずしも本人にとって良い結果につながるとは限らないという現実も理解しておきましょう。

大人の発達障害について本人に伝える方法とポイント

本人に発達障害の可能性を伝えることは、非常に繊細なプロセスです。伝える側の目的が、本人の幸せや生きやすさにつながることであれば、その伝え方が結果を大きく左右します。ここでは、相手を傷つけず、前向きな検討につながるための伝え方のポイントをいくつか紹介します。

責めず、否定せず、具体的に困りごとを伝える

まず大前提として、相手を「責める」「否定する」ような言い方は絶対に避けましょう。過去の失敗や困りごとを蒸し返し、「だからあなたはダメなんだ」というニュアンスで伝えるのは逆効果です。

伝える際は、抽象的な批判ではなく、具体的な「困りごと」に焦点を当てます。

NGな伝え方:
「あなたはいつも人の話を聞いていないから、仕事でミスばかりするんだ!」(責める、否定的、抽象的)
「あなたって本当に変わってるよね。普通はそんなことしないよ。」(否定、決めつけ)

良い伝え方(例):
「最近、〇〇のプロジェクトで、大事な書類の提出が何度か遅れてしまって、少し心配しています。」(具体的な困りごと、心配している気持ち)
「会議で話している時に、時々話が飛んでしまったり、一方的になってしまったりすることがあるかな? 相手が少し戸惑っているように見えることがあるから、もしかしたら伝え方の工夫で、もっとスムーズにコミュニケーションが取れるようになるかもしれませんね。」(具体的な困りごと、推測、改善提案)

このように、特定の行動や状況によって生じている具体的な困難や、それを見ている周囲の素直な感情(心配、戸惑いなど)を伝えることが重要です。

診断名ではなく「特性」や「傾向」として提案する

最初から「あなたは発達障害だと思う」と断定的に伝えるのは避けましょう。多くの人にとって、「発達障害」という言葉にはネガティブなイメージや抵抗感があるかもしれません。

まずは、「もしかしたら、〇〇という特性や傾向があるのかもしれないね」「こういう時に△△って感じることってない? もしかしたら、それは生まれ持った脳の特性によるものなのかも。」といった形で、可能性や傾向として提示します。

例えば、ADHD傾向のある人に「忘れ物が多い」「計画通りに進められない」といった困りごとを伝える際に、「もしかしたら、集中力を持続させるのが少し難しい、という特性があるのかもしれないね。脳の働き方って人それぞれ違うらしいから。」といった言い方が考えられます。

ASD傾向のある人に「空気が読めない」「相手の気持ちが分からない」といった困りごとを伝える際は、「時々、周りの人が意図していることと、あなたが受け取ることの間にずれがあるのかな? それは、もしかしたら、情報の受け取り方の特性によるものなのかも。」のように、具体的な特性を指して伝えてみましょう。

「発達障害」という言葉を使う場合でも、「障害」という言葉に抵抗がある人もいるため、「発達特性」や「脳の多様性(ニューロダイバーシティ)」といった言葉を選ぶことも有効です。

本人の「困りごと」に焦点を当て、共感を示す

伝える最大のポイントは、本人が感じているであろう「困りごと」に焦点を当て、それに共感を示すことです。

「あなたは一生懸命頑張っているのに、どうしてか上手くいかないことってありませんか?」「いつも努力しているのに、なぜか同じ失敗を繰り返してしまう…って、辛いですよね。」といったように、本人が抱えているであろう葛藤や苦しみに寄り添う姿勢を見せます。

その上で、「もしかしたら、それはあなたの努力が足りないからではなく、生まれ持った特性が、今の環境に少し合っていないだけなのかもしれません。」と伝えます。

これは、「あなたの『困りごと』は、あなたのせいではないかもしれない。原因が分かれば、楽になる方法があるかもしれないよ」という希望を提示するメッセージです。本人が自身の「困りごと」の原因を「性格」や「努力不足」だと自己否定している場合、特性によるものだという視点は、自己肯定感を守り、前向きに考えるきっかけになる可能性があります。

一緒に解決策や対策を考える姿勢

発達障害の可能性を伝える目的は、本人をラベル付けすることではなく、本人が抱える「困りごと」を解決し、より生きやすくすることです。そのため、伝えっぱなしにせず、一緒に解決策や対策を考える姿勢を示すことが重要です。

「どうすれば、その困りごとが少しでも楽になるかな?」「何か良い方法はないか、一緒に調べてみようか?」といったように、問題解決に向けて協力する姿勢を示しましょう。

具体的な対策としては、ToDoリストの作成、アプリを使ったスケジュール管理、周囲へのヘルプの求め方の練習、休憩の取り方の工夫など、様々なものがあります。すぐに診断を受けるという話ではなく、まずは「困りごと」を軽減するための具体的な行動に焦点を当てて話を進める方が、本人も抵抗なく受け入れやすいかもしれません。

専門機関への相談を優しく勧める

もし本人が自身の特性や「困りごと」について、「もしかしたらそうなのかも…」と少しでも関心や納得を示した場合、専門機関への相談を優しく勧めてみましょう。

「もし、自分の特性についてもっと詳しく知りたいと思ったら、専門の病院や相談機関に話を聞きに行ってみるのも良いかもしれませんね。専門家からアドバイスをもらうことで、自分の得意なことや苦手なこと、そしてどうすれば困りごとが減らせるのかが、もっと明確になるかもしれません。」

重要なのは、「診断を受けなさい」と強制するのではなく、「相談してみる」という選択肢を提示し、そのメリットを伝えることです。 診断に至らなくても、専門家から特性に関する詳しい説明を受けたり、具体的な対処法についてアドバイスをもらったりするだけでも、本人の自己理解は深まり、生きづらさの軽減につながる可能性があります。

もし本人が専門機関への相談に抵抗があるようであれば、無理強いは禁物です。本人のペースに合わせて、少しずつ理解を深めていくことを目指しましょう。

関連情報(書籍や信頼できるサイト)を共有する

本人に伝える際に、口頭での説明だけでは限界があります。また、感情的な話し合いになってしまうリスクもあります。そこで、発達障害に関する信頼できる情報をまとめた書籍やウェブサイトを共有することも有効です。

ただし、いきなり専門的な資料を押し付けるのではなく、本人に興味がありそうな内容や、具体的な困りごとの対処法に焦点を当てた分かりやすい情報を厳選して提供しましょう。

共有する情報の例:

  • 大人の発達障害について分かりやすく解説している入門書
  • ADHDやASDの具体的な困りごとへの対処法を紹介している書籍やサイト
  • 発達障害のある当事者の体験談やブログ(共感を得やすい場合がある)
  • 専門機関の公式サイトにある発達障害に関する情報

「もしよかったら、こんな本もあるんだけど、読んでみない?」「このサイトに、〇〇さんが困っていることと似たような状況の人の話が載っているんだけど、参考になるかも。」といった形で、あくまで「参考にどうぞ」というスタンスで提供します。

本人が自分で情報を収集し、自身のペースで理解を深めることを促すことが大切です。

大人の発達障害について周囲ができるサポートとNG行動

本人に発達障害の可能性を伝えた後、あるいは伝えることが難しいと感じる場合でも、周囲ができるサポートはたくさんあります。最も大切なのは、本人の特性を理解し、適切な関わり方をすることです。一方で、意図せず本人を傷つけたり、状況を悪化させたりするNG行動もあります。

本人の特性を理解し、環境調整をサポートする

最も基本的なサポートは、本人の発達特性について理解を深めることです。特性を理解することで、「なぜこういう行動をとるのだろう?」という疑問が解消され、本人の行動に振り回されることが減り、冷静に対応できるようになります。

その上で、本人が抱える「困りごと」を軽減するために、環境調整をサポートすることが有効です。環境調整とは、本人の特性に合わせて、物理的な環境や人間関係、仕事の進め方などを工夫することです。

環境調整の例(ADHDの場合):

困りごと例 環境調整のサポート例
忘れ物が多い、期日管理が苦手 リマインダー機能付きのツールやアプリの活用を勧める、タスクをリスト化して見えるところに貼ることを提案する、一緒にスケジュールを確認する時間を作る
集中が続かない 短時間で休憩を挟むことを勧める、集中できる静かな場所を確保する、周囲の騒音を遮断するイヤーマフの使用を勧める
片付けが苦手 収納場所をラベリングする、物の定位置を決めるサポートをする、一緒に片付けをする

環境調整の例(ASDの場合):

困りごと例 環境調整のサポート例
曖昧な指示が理解しにくい、先の見通しが立たないと不安 指示は具体的に伝える(「なるべく早く」ではなく「〇日の〇時までに」)、口頭だけでなくメールやメモでも伝える、作業手順を視覚化する、予定変更は早めに伝える
場の空気を読むのが苦手、適切なコミュニケーションが難しい コミュニケーションのルールを具体的に説明する、困ったときに使えるフレーズ集を一緒に考える、相槌のタイミングなど、コミュニケーションの練習に付き合う
感覚過敏がある(例:特定の音が苦手) 音が少ない場所への移動を提案する、ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンの使用を勧める、休憩時間を確保する

このように、本人の特性を理解し、具体的な困りごとに対して、一緒に解決策を探し、実行をサポートすることが、何よりも力になります。

一方的に決めつけたり、診断を迫ったりしない

最もやってはいけないNG行動は、本人に「あなたは発達障害だ」と一方的に決めつけたり、診断を受けることを強く迫ったりすることです。

たとえ周囲がどれほど確信を持っていても、診断ができるのは医師だけです。周囲の人が勝手に決めつけることは、本人にとって非常に不快で失礼な行為であり、強い反発や不信感を生む原因となります。また、「診断を受ければ全て解決する」という安易な考えで診断を迫るのも危険です。診断はあくまでスタートラインであり、その後の適切なサポートや本人の自己理解が伴わなければ、診断を受けたことでかえって混乱したり、社会的に孤立したりするリスクもあります。

NG行動の例:

  • 「あなたの困りごとは、絶対発達障害のせいだよ。」と決めつける。
  • 「早く病院に行って診断を受けなさい。」と強く指示する。
  • 本人の前で、他の人に「あの人、たぶん発達障害だから…」と話す。
  • 本人の困りごとを全て発達障害のせいにして、「仕方ないね」と突き放す。

周囲ができるのは、あくまで可能性を優しく示唆し、本人が自身の困りごとや特性について考え、必要であれば専門機関に相談するという選択肢があることを伝えることです。最終的にどうするかを決めるのは本人自身であることを尊重しましょう。

困りごとに対して具体的な解決策を一緒に探る

診断の有無に関わらず、本人が感じている「困りごと」に対して、具体的な解決策を一緒に探る姿勢が大切です。発達特性からくる困りごとは、その人の努力や根性だけでは解決できない場合が多いからです。

「どうすれば、その困りごとが少しでも楽になるかな?」「何か良い方法はないか、一緒に調べてみようか?」といったように、問題解決に向けて協力する姿勢を示しましょう。

インターネットや書籍で情報を集めたり、当事者の工夫を参考にしたり、専門機関が提供している具体的な対処法のスキル trainingを紹介したりすることも有効です。

重要なのは、本人が「自分は一人でこの困難に立ち向かわなければならない」と感じさせないことです。「困りごと」を一緒に乗り越えていく伴走者として、本人のペースに合わせてサポートしていくことが、信頼関係を築き、本人が前向きに自身の特性と向き合う力につながります。

発達障害の診断を受けるメリット

大人の発達障害の診断を受けることは、本人にとって大きな転換点となる可能性があります。診断を受けるかどうかは本人の意思によりますが、診断によって得られるメリットは少なくありません。

自身の特性への理解が深まる

診断を受けることの最大のメリットの一つは、自身の生まれ持った脳の特性について、専門家から客観的かつ詳細な説明を受けることができる点です。これにより、「どうして自分は他の人と違うのだろう」「なぜいつも同じようなことでつまずくのだろう」といった長年の疑問や生きづらさの原因が明確になることがあります。

診断名がつくことで、自身の特性を「性格の欠陥」や「努力不足」として自己否定するのではなく、「発達特性によるものだ」と受け止められるようになり、自己理解が深まります。これは、自分自身を肯定的に捉え直し、自己肯定感を回復させる重要な一歩となります。

また、自身の特性を具体的に知ることで、どのような状況で困難が生じやすいのか、どのようなことが得意なのかを把握できるようになり、自己分析が進みます。

困りごとへの適切な対処法が見つかる

自身の特性が明確になることで、抱えている具体的な「困りごと」に対する、より効果的で適切な対処法を見つけることができるようになります。専門家は、診断結果や本人の状況に合わせて、科学的根拠に基づいた具体的なアドバイスやトレーニングを提供してくれます。

例えば、ADHDの不注意や衝動性に対しては、cognitive behavioral therapy(認知行動療法)に基づいた時間管理や計画立てのスキルを学ぶプログラムが有効な場合があります。ASDの対人関係の困難に対しては、ソーシャルスキルトレーニング(SST)によって、他者との適切なコミュニケーション方法を学ぶことができます。

診断を受けることで、こうした専門的な支援につながりやすくなり、場当たり的な対応ではなく、自身の特性に合った方法で困りごとを軽減していくことができるようになります。

専門的な支援やサービスが利用できる

診断名が付くことで、さまざまな専門的な支援やサービスを利用できる場合があります。これらの支援は、診断がなければ利用できないものが多く、本人の生活や仕事における困難を軽減し、社会参加を支援するための重要なリソースとなります。

利用できる可能性のある支援・サービスの例:

支援の種類 具体的な内容
医療機関での治療・ counselling 特性に合わせた薬物療法(ADHDの場合など)、心理療法、 counselling
発達障害者支援センター 発達特性に関する相談、生活や就労に関するアドバイス、関係機関との連携、グループ活動への参加
就労移行支援事業所など 発達障害の特性に配慮した就職活動のサポート、職場での定着支援、ビジネスマナーやコミュニケーションスキルの training
精神障害者保健福祉手帳 税制上の優遇措置、公共料金の割引、交通機関の割引などが受けられる場合がある(診断基準や等級による)
障害者雇用枠での就労 障害者手帳を持つことで、障害者雇用促進法に基づいた障害者雇用枠での就労が可能となる(合理的配慮を得ながら働くことができる)
自立支援医療(精神通院医療) 精神疾患に関する医療費の自己負担額が軽減される(原則1割負担)。発達障害も対象となる場合がある。
ピアサポート 同じ発達特性を持つ当事者同士の交流や情報交換。悩みを共有したり、互いに支え合ったりすることができる。

これらの支援を利用することで、本人は自身の特性と向き合いながら、より安定した生活を送ったり、自分に合った働き方を見つけたりすることが可能になります。診断は、これらの社会的なサポートへの扉を開く鍵となるのです。

大人の発達障害に関する相談先

身近な人の発達障害の可能性について悩んだり、本人に伝える方法について相談したいと思ったりした場合、一人で抱え込まずに専門機関に相談することが重要です。また、本人自身が自身の特性について知りたいと思った場合も、相談できる場所があります。

精神科・心療内科

大人の発達障害の診断や治療は、主に精神科や心療内科で行われます。特に、発達障害の診療を専門としている医療機関を選ぶことが重要です。

精神科・心療内科でできること:

  • 医師による問診、心理検査(WAIS-III/IVなどの知能検査、CAARSなどのADHD評価尺度、AQ、EQなどのASD評価尺度など)、必要に応じて他の検査を行い、発達障害の診断を行います。
  • 診断された場合、特性に合わせた薬物療法(ADHDの不注意や衝動性、うつ病や不安障害の併発などに対して)や、精神療法が提供されます。
  • 自身の特性について医師から詳しい説明を受けることができます。
  • 他の支援機関(発達障害者支援センターなど)への連携を相談できます。

受診する際は、事前に電話やウェブサイトで「大人の発達障害の診察を行っているか」「予約は必要か」「どのような検査を行うか」などを確認しておくとスムーズです。初診には時間がかかる場合があるため、時間に余裕を持って予約しましょう。

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターは、発達障害のある方(子どもから大人まで)やその家族、関係機関に対して、専門的な相談支援を行う公的な機関です。診断の有無にかかわらず相談できます。

発達障害者支援センターでできること:

  • 発達障害に関する全般的な相談(本人、家族、関係機関から)
  • 自身の特性や困りごとに関する相談、対応方法のアドバイス
  • 生活や仕事に関する相談、情報提供
  • 他の専門機関(医療機関、ハローワーク、就労移行支援事業所など)との連携支援
  • ペアレントトレーニングやソーシャルスキルトレーニングなどのプログラム実施(センターによる)

診断を受けていない場合でも、「もしかしたら発達障害かもしれない」という段階で相談することが可能です。伝える側が、本人にどう話せばいいか悩んでいる場合も、相談員が具体的なアドバイスをくれることがあります。地域ごとに設置されており、無料で相談できるのが大きなメリットです。

その他の相談窓口

上記以外にも、大人の発達障害に関する相談ができる窓口があります。

  • 市町村の障害福祉課・保健センター: 地域の障害福祉サービスに関する情報提供や、相談窓口の案内を行っています。
  • 精神保健福祉センター: 精神的な健康に関する相談を受け付けており、発達障害に関する相談も可能です。専門の精神保健福祉士などが対応します。
  • 就労移行支援事業所、ハローワークの専門窓口: 就職や働き方に関する相談ができます。発達障害のある方向けの専門的な支援を提供している事業所もあります。
  • 家族会・当事者会: 発達障害のある本人やその家族が集まり、情報交換や交流を行う場です。体験談を聞いたり、悩みを共有したりすることで、安心感を得られたり、具体的なヒントが得られたりすることがあります。

どこに相談すれば良いか分からない場合は、まずはお住まいの自治体の障害福祉課や保健センター、または最寄りの発達障害者支援センターに問い合わせてみるのが良いでしょう。

【まとめ】大人の発達障害を自覚させるには:伝えることの難しさと大切な姿勢

「大人の発達障害 自覚させるには」という問いに対する答えは、単純なものではありません。本人が自身の特性を自覚することは、生きづらさの軽減や自己理解の深化につながる可能性を秘めていますが、その過程は非常にデリケートであり、伝える側には細心の注意と配慮が求められます。

本人がなぜ自覚しにくいのかを理解し、一方的な決めつけや否定ではなく、具体的な「困りごと」に焦点を当て、「特性」や「傾向」として優しく可能性を提示することが重要です。そして何より、本人に寄り添い、一緒に解決策を探し、必要であれば専門機関への相談という選択肢があることを伝える、協力的な姿勢が不可欠です。

周囲ができるサポートは、本人の特性を理解し、環境調整を試みることです。診断の有無に関わらず、本人にとって生きやすい環境を共に作っていく努力が大切です。診断を受けることには、自己理解や適切な支援につながるという多くのメリットがありますが、最終的に診断を受けるかどうかは本人の意思に委ねるべきです。

もし、身近な人の発達障害の可能性について悩んだり、伝え方に迷ったりした場合は、一人で抱え込まず、精神科や心療内科、発達障害者支援センターなどの専門機関に相談してみましょう。専門家のアドバイスは、本人への適切な関わり方を考える上で大きな助けとなります。

発達障害は、病気ではなく脳の特性です。この特性を理解し、受け入れることで、本人も周囲も、より生きやすく、豊かな関係性を築いていくことができるはずです。

【免責事項】
この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の個人への診断や治療を推奨するものではありません。発達障害の診断は医師のみが行える医療行為です。もしご自身や身近な人の発達特性についてご心配な場合は、必ず専門の医療機関や相談機関にご相談ください。この記事の情報に基づいた行動によって生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いません。

  • 公開

関連記事