双極性障害になりやすい性格とは?特徴と関係性、注意すべきサインを解説

双極性障害は、気分が異常に高揚する「躁状態」や「軽躁状態」と、気分が著しく落ち込む「うつ状態」とを繰り返す病気です。単なる気分の波とは異なり、その変動は病的なレベルで、日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼします。双極性障害の「なりやすさ」と性格との関連が指摘されることがありますが、特定の性格だからといって必ずしも病気になるわけではありません。病気の発症には、性格だけでなく、遺伝的な要因や育ち、ストレスなどの環境要因が複雑に関わっています。この記事では、双極性障害になりやすいとされる性格傾向の特徴や、性格と病気の関係性、さらには症状、診断、治療、予防法まで詳しく解説します。ご自身の状態に不安を感じている方は、ぜひ最後までお読みください。

双極性障害は、以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。特徴的なのは、気分の波が激しいことです。活動的で自信にあふれ、時には衝動的になる「躁状態」またはそれより程度の軽い「軽躁状態」と、意欲や興味を失い、憂鬱で何も手につかなくなる「うつ状態」を交互に繰り返します。これらの気分の波の間には、比較的気分が安定している時期(間欠期や寛解期と呼ばれます)があることも特徴の一つです。

混同されやすいうつ病との最大の違いは、「躁状態」または「軽躁状態」の有無です。うつ病はうつ状態のみが続く病気ですが、双極性障害はうつ状態に加え、必ず躁状態か軽躁状態を経験します。軽躁状態は本人や周囲が病気と気づきにくいため、「いつもより調子が良い」「少し活動的になっただけ」と見過ごされてしまうことが少なくありません。そのため、双極性障害がうつ病と誤診され、適切な治療が遅れるケースも少なくありません。

双極性障害は、その気分の波の程度によって主に以下の2つのタイプに分けられます。

  • 双極I型障害: 激しい躁状態とうつ状態を繰り返します。躁状態では、本人の社会的な信用を失う、対人関係を損なう、経済的な破綻を招くなど、深刻な結果につながることがあります。
  • 双極II型障害: 軽躁状態とうつ状態を繰り返します。軽躁状態は本人にとっては「調子が良い時期」と感じられることが多く、うつ状態になって初めて医療機関を受診し、うつ病と診断されることもよくあります。

いずれのタイプも、気分の波が病的なレベルであり、本人だけでなく家族や周囲の人々にも大きな影響を与えます。

双極性障害になりやすいとされる性格傾向

特定の「この性格なら必ず双極性障害になる」という性格はありません。しかし、これまでの臨床観察や研究から、双極性障害の発症と関連が指摘されるいくつかの性格傾向があります。これらはあくまで「なりやすさ」を高める可能性のある傾向であり、これらの特徴があるからといって病気である、または病気になる、と断定するものではないことを理解しておくことが重要です。

循環性性格の特徴

双極性障害と関連が深いとされる古典的な性格概念に「循環性性格」があります。これはドイツの精神科医エルンスト・クレッチマーが提唱した概念で、気分の波が比較的大きく、周期的に変動する傾向を持つ性格とされています。

循環性性格の人は、以下のような特徴を持つことが多いと言われています。

  • 陽気で活発な時と、内向的で抑うつ的な時とで、気分の変動が大きい
  • 社交的で人付き合いを好む面と、一人で静かに過ごしたい面がある
  • 感情の起伏が比較的激しく、怒りや悲しみ、喜びなどをストレートに表現しやすい
  • 周囲への共感性が高い一方で、感情的になりやすく対人関係で衝突しやすいこともある
  • 活動的でエネルギーがある時と、疲れやすく何もしたくない時がある

ただし、これらの特徴が多少見られるからといって、すぐに病的なものと結びつけるべきではありません。多くの人は程度の差こそあれ気分の波を経験します。循環性性格が問題となるのは、その変動があまりにも大きく、本人の苦痛や周囲との摩擦が顕著になる場合です。循環性性格は、双極性障害の素因、つまり病気になりやすい体質や傾向の一つとして考えられることがあります。

几帳面さや責任感の強さ

意外に思われるかもしれませんが、真面目で几帳面、責任感が強く完璧主義といった性格傾向も、双極性障害、特にはうつ状態の発症リスクと関連が指摘されることがあります。

このような性格を持つ人は、以下のような側面があると考えられます。

  • 物事をきっちり行い、細部までこだわりやすい
  • 仕事や課題に対して強い責任感を持ち、妥協を許さない
  • 周囲からの期待に応えようと努力しすぎる傾向がある
  • 失敗や間違いを過度に気に病む
  • 自分にも他人にも厳しい基準を設ける

これらの性格特性は、社会生活や職業においては強みとなることも多いです。しかし、過度になると柔軟性を欠き、自分自身を追い詰めてしまう可能性があります。例えば、完璧を目指すあまり些細なミスにも落ち込んだり、責任感から休息を取らずに無理を続けたりすることが、過剰なストレスにつながります。特に几帳面で責任感が強い人が、躁状態からうつ状態に転じると、その責任感の強さが自責の念となり、うつ状態を悪化させてしまうこともあります。

ストレスを溜めやすい傾向

ストレスへの対処の仕方や、感情の表現パターンといった性格傾向も、双極性障害の発症や再発に関連することが考えられます。

  • 感情を内に秘めやすい: 自分の感情や悩みを他人に相談したり表現したりするのが苦手で、一人で抱え込んでしまう傾向がある。
  • 人に頼るのが苦手: 困った時に助けを求めるのが苦手で、すべて自分で解決しようとする。
  • ネガティブな思考に陥りやすい: 物事を悲観的に捉えやすく、失敗や困難な状況から立ち直るのに時間がかかる。
  • 自己肯定感が低い: 自分自身の価値や能力を低く評価しがちで、小さなことでも自信を失いやすい。

これらの傾向があると、ストレスフルな出来事に直面した際に、そのストレスを適切に処理・解消できず、心の中に溜め込んでしまいやすくなります。慢性的なストレスは、脳の機能や神経伝達物質のバランスに影響を与え、気分の波を不安定にする可能性が指摘されています。特に、責任感が強く完璧主義的な人が、ストレスをうまく解消できないと、心身ともに疲弊し、病気のリスクを高めることにつながります。

その他の関連する性格特性(感受性・神経質など)

上記以外にも、双極性障害と関連して語られることがある性格特性があります。

  • 感受性が豊か: 芸術や音楽、自然などに深く感動したり、他人の感情に共感したりしやすい。一方で、周囲の環境や他人の言動に影響されやすく、感情が揺れ動きやすい側面も持ち合わせる場合があります。
  • 神経質: 小さなことが気になったり、将来の出来事について過度に心配したりする傾向がある。不安を感じやすく、物事をネガティブに捉えがちになることがあります。
  • 行動力がある/エネルギッシュ: 目標に向かって積極的に行動したり、周囲を巻き込んで物事を進めたりする力がある。この特性は、特に軽躁状態や躁状態での過活動と関連して語られることがあります。

これらの性格特性も単体で病気の原因になるわけではありません。しかし、極端な形であったり、他の要因と組み合わさったりすることで、病気の発症や気分の波の変動に影響を与える可能性が考えられています。例えば、感受性が豊かで神経質な人が、強いストレスに直面すると、感情の不安定さが増し、病気のリスクが高まる、といったケースが考えられます。

性格は双極性障害の直接的な原因ではない

繰り返しになりますが、特定の性格が直接的に双極性障害を引き起こすわけではありません。性格はあくまで、病気の発症に関わる「素因」や「傾向」の一つとして考えられています。双極性障害は、複数の要因が複雑に絡み合って発症する「多因子疾患」であると考えられています。

性格と病気の発症メカニズム

性格特性が双極性障害の発症にどのように関わるのか、そのメカニズムは完全に解明されているわけではありませんが、いくつかの可能性が考えられています。

  • ストレス脆弱性: 特定の性格傾向(例:ストレスを溜めやすい、几帳面すぎる)が、ストレスに対する心身の脆弱性を高め、ストレスフルな出来事が病気の引き金を引きやすくなる。これは「脆弱性-ストレスモデル」という考え方に基づいています。
  • 感情制御のスタイル: 気分の波が大きい性格傾向(循環性性格)は、感情を調整する脳の機能や神経伝達物質の働きと関連している可能性があります。感情の制御が不安定になりやすい素因を持っているのかもしれません。
  • 行動パターンの影響: 完璧主義や責任感の強さが、過労や燃え尽きにつながり、心身のバランスを崩す。衝動性の高さが、問題行動を引き起こし、それに伴うストレスや人間関係の悪化が病状に影響する、など。
  • 脳機能との関連: 性格特性自体が、気分や行動に関わる脳の特定の領域(扁桃体、前頭前野など)の活動パターンや構造と関連しており、それが病気の素因となる可能性も指摘されています。

遺伝や環境要因との関係

双極性障害の発症には、性格傾向以上に、遺伝的な要因と環境要因が大きく関わっていると考えられています。

  • 遺伝的要因: 双極性障害は遺伝しやすい病気の一つとして知られています。親や兄弟姉妹に双極性障害の方がいる場合、そうでない場合に比べて発症リスクが高いことが研究で示されています。ただし、遺伝するからといって必ず発症するわけではなく、複数の遺伝子が複雑に関与し、それに環境要因が加わることで発症すると考えられています。
  • 環境要因: ストレスフルな出来事(大切な人との死別、失業、人間関係のトラブルなど)、睡眠不足、薬物使用なども病気の発症や再発の引き金となることが知られています。また、幼少期の逆境体験(虐待、ネグレクトなど)も、その後のストレス耐性や脳の発達に影響を与え、病気のリスクを高める可能性が指摘されています。

このように、双極性障害は、遺伝的な素因ストレスに対する脆弱性や感情制御に関わる性格傾向、そしてライフイベントや環境からのストレスなどが複雑に絡み合って発症すると考えられています。性格は、これらの要因の「接点」や「現れ方」の一つとして捉えることができます。

幼少期の経験との関連性

近年の研究では、幼少期の様々な経験、特に逆境体験が精神疾患の発症リスクを高めることが明らかになってきています。双極性障害も例外ではありません。

  • 虐待やネグレクト: 身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクト(養育の怠慢)といった幼少期のトラウマは、脳の発達、特に情動制御やストレス応答に関わる領域に影響を及ぼす可能性があります。これにより、その後の人生でストレスに対する脆弱性が高まり、双極性障害を含む気分障害の発症リスクが増加することが示されています。
  • 家庭環境の不安定さ: 親の精神疾患、家庭内暴力、経済的困窮、両親の不和なども、子どもに強いストレスを与え、心理的な発達に影響を及ぼす可能性があります。
  • 過干渉や過保護: 極端な養育態度も、子どもの自律性や問題解決能力の発達を阻害し、将来的なストレス対処能力に影響を与える可能性が指摘されています。

これらの幼少期の経験は、その人の性格形成や対人関係スタイルにも影響を与えると考えられます。例えば、虐待を受けた経験がある人は、他者への不信感を持ちやすくなったり、感情の表現が苦手になったり、自己肯定感が低くなったりする傾向が見られることがあります。これらの性格傾向が、ストレスへの脆弱性と結びつき、双極性障害の発症リスクを高めるという間接的な関連も考えられます。

ただし、幼少期の逆境体験を経験した人が皆双極性障害になるわけではありません。レジリエンス(精神的回復力)や、周囲からのサポート(保護要因)も重要な役割を果たします。

双極性障害の主な症状と経過

双極性障害の症状は、時期によって大きく異なります。躁状態/軽躁状態とうつ状態という対照的な症状が特徴で、その間に気分が安定している時期があります。

躁状態・軽躁状態の症状

「躁状態」は、気分が異常に高揚し、開放的になったり、あるいは非常にいらいらしたりする状態です。社会生活に著しい支障をきたすほどの症状を伴います。

  • 気分の高揚: 異常に気分が良かったり、自信満々になったりする。
  • 活動性の増加: じっとしていられず、絶えず動き回ったり、多くのプロジェクトを同時に始めたりする。
  • 睡眠欲求の減少: ほとんど眠らなくても平気だと感じ、実際に睡眠時間が非常に短くなる。
  • 多弁・話が飛ぶ: 異常によくしゃべり、思考のスピードが速すぎて話題があちこちに飛ぶ。
  • 観念奔逸: 次々とアイデアが浮かび、考えがまとまらない。
  • 注意散漫: 集中力が続かず、気が散りやすい。
  • 誇大性: 自分を過大評価し、非現実的な能力や地位があると思い込む。
  • 衝動的な行動: 後先考えずに、高価な買い物をしたり、無謀な投資をしたり、性的逸脱行為に走ったりする。
  • 易怒性: ちょっとしたことでも怒りっぽくなり、攻撃的な言動が見られる。

「軽躁状態」は、躁状態よりも症状が軽い状態です。気分の高揚や活動性の増加は見られますが、社会生活に著しい支障をきたすほどではありません。本人にとっては「調子が良い」「快調だ」と感じられることが多く、周囲も「いつもより元気だね」と感じる程度で、病気とは気づかれにくいことがあります。しかし、判断力や行動に問題が生じることもあり、後々トラブルにつながることもあります。軽躁状態は、うつ状態と組み合わさることで双極II型障害と診断されます。

うつ状態の症状

うつ状態は、うつ病の症状と非常によく似ています。気分が著しく落ち込み、心身のエネルギーが枯渇したような状態です。

  • 気分の落ち込み: ゆううつで、何をしても楽しくない、悲しい気分が続く。
  • 興味・喜びの喪失: 以前は楽しめていた趣味や活動に全く興味を持てなくなる。
  • 疲労感・気力の低下: 身体がだるく、何もする気力が湧かない。
  • 睡眠障害: 眠れない(不眠)ことも、眠りすぎる(過眠)こともあります。
  • 食欲・体重の変化: 食欲が減退して体重が減ることも、逆に食欲が増進して過食になることもあります。
  • 思考力・集中力の低下: 物事を考えたり、集中したりするのが難しくなる。
  • 焦燥感または制止: 落ち着きなくそわそわしたり(焦燥)、動作や話し方が遅くなったり(制止)する。
  • 無価値感・罪悪感: 自分には価値がないと感じたり、過去の出来事に対して過度に自分を責めたりする。
  • 希死念慮: 死にたいと考えたり、自殺を計画したりすることがあります。

双極性障害のうつ状態は、うつ病のうつ状態と比べて、過眠や過食、鉛のような身体の重さ、拒絶に対する過敏さ(対人関係で少し否定的な反応があっただけでひどく傷つく)といった特徴がより顕著に見られる傾向があると言われています。

気分安定期について

躁状態やうつ状態の症状がない時期を「気分安定期」と呼びます。この時期は、気分が比較的安定しており、多くの人が日常生活や社会生活を送ることができます。しかし、気分安定期であっても、完全に病気が治ったわけではなく、再発のリスクは常にあります。そのため、気分安定期こそ、再発予防のための治療(特に薬物療法)を継続することが非常に重要になります。安定期をいかに長く保つかが、病気との付き合い方において鍵となります。

双極性障害かもしれないと感じたら?

もし、ご自身の気分の波が大きく、日常生活に支障が出ていると感じたり、周囲から気分の変動について指摘されたりすることがある場合は、双極性障害の可能性を疑うかもしれません。しかし、自己判断は非常に難しい病気です。

自己判断は難しいためセルフチェックは目安に

インターネット上には、双極性障害のセルフチェックリストが多数存在します。これらは、自分の気分の変動について客観的に振り返るための一助となる場合があります。例えば、過去の気分の高揚期に以下のような項目がどの程度当てはまったかを確認するものです。

項目 よく当てはまる 時々当てはまる あまり当てはまらない 全く当てはまらない
ほとんど眠らなくても平気だった
いつもより異常におしゃべりになった
考えが次々と浮かび、頭の回転が速くなった
些細なことでイライラし、怒りっぽくなった
後先考えずに衝動的な行動(浪費など)をした
自分には特別な能力があると感じた
活動的になり、色々なことに手を出した

このようなチェックリストは、あくまでご自身や身近な人の状態を振り返るための「目安」であり、診断ではありません。双極性障害の症状は、本人が病的なものだと自覚しにくいことも多く、特に軽躁状態は本人にとっては「調子が良い時期」に過ぎないと感じられることがあります。また、うつ病や他の精神疾患、あるいは甲状腺機能亢進症などの身体疾患でも気分の変動が見られることがあり、専門家による鑑別診断が必要です。

専門機関での診断が重要

気分の波によって日常生活に困りごとが生じている場合や、双極性障害の可能性が考えられる場合は、必ず専門機関を受診して診断を受けることが重要です。自己判断で決めつけたり、逆に「気のせいだ」と放置したりせず、専門家の意見を求めましょう。

受診すべき専門機関としては、精神科や心療内科があります。もし、かかりつけの内科医などがいる場合は、まずはそちらに相談してみるのも良いかもしれません。地域の精神保健福祉センターでも相談を受け付けている場合があります。

専門医は、あなたの話やご家族からの情報をもとに、慎重に病歴を聴取し、診断基準に照らし合わせて診断を行います。正確な診断があって初めて、適切な治療を開始することができます。早期に適切な診断と治療を受けることは、病気の経過を良好に保ち、再発のリスクを減らすために非常に重要です。

双極性障害の診断と治療法

双極性障害の診断は専門医によって慎重に行われます。治療は、薬物療法が中心となりますが、心理教育なども組み合わせて行われることが一般的です。

診断基準について

双極性障害の診断は、米国精神医学会が定める『精神疾患の診断・統計マニュアル』(現在の最新版はDSM-5-TR)などの診断基準に基づいて行われます。医師は、患者さん本人からの病歴の聴取だけでなく、家族など病状をよく知る人からの情報を重視することが多いです。特に、患者さん自身が病的なものだと自覚しにくい躁状態や軽躁状態の期間について、周囲からの客観的な情報が診断に役立ちます。

診断プロセスでは、以下のような点が確認されます。

  • 気分の変動のパターン: 過去に躁状態または軽躁状態とうつ状態の両方を経験しているか。それぞれの期間の長さや頻度。
  • 症状の詳細: 各状態での具体的な症状(例:睡眠時間、活動性、思考速度、衝動性、抑うつ気分など)の程度。
  • 日常生活への影響: 症状によって、仕事や学業、人間関係、経済状態などにどのような支障が出ているか。
  • 家族歴: 血縁者に双極性障害や他の精神疾患の方がいるか。
  • 他の疾患の可能性: 甲状腺機能亢進症など、気分の変動を引き起こす可能性のある身体疾患の有無。薬物の影響なども考慮されます。

これらの情報を総合的に判断し、診断が確定されます。診断には時間を要する場合もあり、複数の医療機関の意見を聞く「セカンドオピニオン」も有効な場合があります。

薬物療法

双極性障害の治療の中心となるのは薬物療法です。気分の波を安定させ、躁状態とうつ状態の出現を抑えることを目的とします。

  • 気分安定薬: 双極性障害の治療の要となる薬剤です。リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンなどがあります。躁状態とうつ状態の両方に効果があり、再発予防効果も期待できます。特にリチウムは、自殺リスクを低下させる効果も報告されています。
  • 非定型抗精神病薬: 近年、双極性障害の治療に広く用いられています。躁状態やうつ状態の治療、維持療法として使用されます。オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾールなどが代表的です。
  • 抗うつ薬: 双極性障害のうつ状態に使用されることがありますが、単独で使用すると躁転(うつ状態から躁状態に移行すること)のリスクを高める可能性があるため、気分安定薬や非定型抗精神病薬と併用されることが一般的です。使用には慎重な判断が必要です。

薬の種類や量は、病状や体質によって異なります。副作用が出る可能性もあるため、医師と相談しながら、自分に合った薬を適切な量で服用し続けることが非常に重要です。病状が落ち着いてからも、自己判断で服薬を中止することは危険であり、高い確率で再発につながります。必ず医師の指示に従って服薬を継続しましょう。

精神療法・心理教育

薬物療法に加えて、精神療法や心理教育も治療の重要な柱となります。これらは、病気への理解を深め、病気との付き合い方を学び、再発を予防するためのスキルを身につけることを目的とします。

  • 心理教育: 双極性障害について、症状、経過、原因、治療法、再発のサインなどを正しく学びます。病気を理解することで、治療へのモチベーションが高まり、服薬アドヒアランス(きちんと薬を飲むこと)が向上し、早期に再発のサインに気づけるようになります。患者さん本人だけでなく、家族が一緒に学ぶことも非常に有効です。
  • 認知行動療法(CBT): 思考や行動のパターンに働きかけることで、気分の波に影響を与える可能性のあるネガティブな思考や不適切な行動を修正していく療法です。ストレス対処スキルの向上にも役立ちます。
  • 対人関係・社会リズム療法(IPSRT): 対人関係の問題や、睡眠・食事といった生活リズムの乱れが気分の波に影響を与えるという考え方に基づいた療法です。規則正しい生活リズムを確立し、対人関係の問題に対処するスキルを身につけることで、気分の安定を目指します。

これらの精神療法は、薬物療法と組み合わせることで、治療効果を高め、再発を予防する効果が期待できます。

再発予防のためにできること

双極性障害は、一度診断されると一生付き合っていく可能性が高い慢性疾患です。しかし、適切な治療を継続し、生活上の工夫を行うことで、気分の波をコントロールし、安定した生活を送ることが十分に可能です。再発予防は、治療において最も重要な目標の一つです。

ストレス管理の重要性

ストレスは、双極性障害の再発の大きな引き金となります。ストレスを完全に避けることは不可能ですが、ストレスを適切に管理し、対処するスキルを身につけることが非常に重要です。

  • ストレスの原因を特定する: どのような状況や人間関係がストレスになりやすいかを把握する。
  • ストレスを軽減する工夫: 可能であれば、ストレスの原因そのものを取り除くか、関わり方を変更する。
  • ストレス解消法を持つ: 自分がリラックスできる、楽しいと感じる活動を見つける(趣味、運動、音楽鑑賞、マインドフルネスなど)。
  • コーピングスキルを学ぶ: 問題解決スキル、アサーション(適切に自己主張すること)、リラクゼーション法などを学ぶ。
  • 休息をしっかりとる: 疲労はストレス耐性を低下させます。十分な休息をとることを意識する。

無理にすべてを一人で抱え込まず、周囲の人や専門家(医師、カウンセラーなど)に相談することも重要なストレス管理の方法です。

規則正しい生活リズム

睡眠覚醒リズム、食事、活動といった日々の生活リズムの乱れは、双極性障害の気分の波に大きな影響を与えることが知られています。規則正しい生活を送ることは、気分の安定を保つために不可欠です。

  • 決まった時間に寝て起きる: 毎日同じ時間に就寝し、同じ時間に起床することを心がける。休日も大きく崩さないようにする。
  • バランスの取れた食事: 栄養バランスの取れた食事を規則正しく摂る。カフェインやアルコールの過剰摂取は気分の波に影響を与えることがあるため注意する。
  • 適度な運動: ウォーキングや軽いジョギングなど、継続できる運動を取り入れる。運動は気分安定やストレス解消に役立ちます。ただし、無理な運動はかえって負担になることもあるため、体調と相談しながら行う。
  • 活動と休息のバランス: 意欲がある時でも、無理なスケジュールを詰め込まず、適度に休息をとる時間を作る。逆に、意欲が低下している時でも、できる範囲で活動を維持する。

生活リズムを記録する「ライフチャート」をつけることも、自分の気分の波と生活習慣の関連を理解するのに役立ちます。

早期発見と継続的な治療

再発予防において最も重要なのは、再発のサインに早期に気づき、すぐに対処すること、そして治療を中断しないことです。

  • 再発のサインを知る: 過去の経験から、自分の躁状態やうつ状態の「始まりの兆候」を知っておく。例:睡眠時間が短くなる、衝動的に買い物したくなる、人に会いたくなくなる、食欲がなくなる、など。
  • サインに気づいたらすぐに対処: 再発のサインに気づいたら、自己判断せず、すぐに主治医に連絡する。早めに受診することで、症状が悪化する前に手を打つことができます。薬の調整などで対応できる場合があります。
  • 治療の継続: 症状が安定していても、自己判断で薬を減らしたり止めたりしない。定期的に通院し、医師と病状について話し合いながら、治療を継続することが、安定した状態を維持するために不可欠です。

本人だけでなく、家族など周囲の人も再発のサインを知っておくと、早期発見につながりやすくなります。ご家族にも病気について理解してもらい、協力してもらうことが大切です。

双極性障害に関するその他の疑問

双極性障害に関して、性格との関連以外にも様々な疑問や情報がインターネット上には溢れています。ここでは、いくつかよくある疑問について解説します。

双極性障害と話し方の特徴

双極性障害の方は、病状によって話し方に特徴が現れることがあります。

  • 躁状態・軽躁状態:
    • 多弁: 通常よりおしゃべりになり、一方的に話し続ける。
    • 思考の飛躍/観念奔逸: 話題が次々と変わり、思考のスピードに言葉が追いつかないような話し方になる。
    • 早口: 言葉が速く、止めどなく出てくる。
    • 興奮した口調: 声が大きくなったり、感情的になったりする。
  • うつ状態:
    • 寡黙: あまり話さなくなる。
    • 話し方の遅さ: 声が小さく、ゆっくりとした口調になる。
    • 言葉数の減少: 必要最低限のことしか話さない。

これらの話し方の変化は、病状のサインの一つとして周囲が気づくきっかけになることがあります。

双極性障害の方の「あるある」

双極性障害を経験した方やそのご家族の間で「あるある」と共感されるようなエピソードはいくつかあります。これらは病気の特性からくる困難さや工夫を表していることが多いです。ただし、すべての患者さんに当てはまるわけではなく、個人差が大きい点に注意が必要です。

症状に関連する「あるある」 対処や工夫に関する「あるある」
躁状態/軽躁状態の時、寝なくても全く疲れないと感じる(そして後で反動がくる) ライフチャート(気分や睡眠、活動などを記録する表)をつけている
躁状態/軽躁状態の時、衝動的に高価なものや大量のものを買ってしまう(後で後悔する) 躁状態/軽躁状態の時、クレジットカードやキャッシュカードを家族に預けてもらうことがある
躁状態/軽躁状態の時、たくさんのアイデアが浮かび、同時に色々なことを始めてしまう(そして途中で飽きるか放置する) 疲れていなくても、意識的に休息をとるようにしている
うつ状態の時、ベッドから起き上がるのが信じられないくらい辛い 再発のサインを自分なりに決めておき、早期に気づくようにしている
うつ状態の時、好きなことや楽しかったことにも全く興味が持てなくなる 家族に病気のことを理解してもらい、協力を仰いでいる
気分の波があるせいで、周りの人から「気分屋」「わがまま」と誤解されやすい 主治医との信頼関係が大切だと感じる
過去の躁状態での言動を思い出して、うつ状態の時に激しく後悔し、自分を責める 薬を飲み続けることの大切さを実感する
うつ病と間違われやすい 気分安定期こそ、無理せず過ごすように心がけている
診断されるまで、自分の気分の波は性格の問題だと思っていた 同じ病気の人と交流することで、辛さが軽減されたり、情報交換できたりする(患者会など)
気分の波に振り回されて、人間関係や仕事がうまくいかないことがある ストレス解消法やリラックス法をいくつか持っている
自分の気分の変化を周囲に説明するのが難しい 睡眠時間を確保することを最優先にしている
混合状態(躁とうつが同時に、あるいは急速に切り替わる)の時は特に辛い 症状が軽いサインに気づいたら、すぐに受診や主治医への連絡を検討する

これらの「あるある」は、双極性障害という病気が日常生活にどのような影響を及ぼすかを示唆していますが、病気や患者さんをステレオタイプ化するものではありません。個々の経験は多様です。

双極性障害になりやすいとされるMBTIタイプについて

インターネット上では、MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)の特定のタイプと双極性障害の関連について議論されることがありますが、MBTIは心理学的な妥当性や信頼性が確立された性格診断ツールではなく、特定のMBTIタイプが双極性障害になりやすいという科学的な根拠はありません。

MBTIは、個人のタイプを理解するための一つのフレームワークとしては興味深いものかもしれませんが、精神疾患の診断やリスク予測に用いるべきものではありません。特定のタイプが双極性障害になりやすいといった情報は、誤解を招き、スティグマ(偏見や差別)につながる可能性があります。

双極性障害の発症は、MBTIのような単純な性格分類で説明できるものではなく、前述のように遺伝、環境、ストレス、脳機能など複数の要因が複雑に絡み合っています。MBTIの結果を双極性障害との関連で心配する必要はありません。

双極性障害と「頭がいい」ことの関連性

双極性障害を持つ人の中には、創造性が豊かであったり、高い知的能力を持っていたりする人がいるという見方がされることがあります。歴史上の芸術家や科学者の中にも、双極性障害であった可能性が指摘されている人物がいます。

しかし、双極性障害であることと「頭がいい」ことには直接的な因果関係があるわけではありません。躁状態や軽躁状態では、思考のスピードが速くなり、アイデアが次々と浮かぶように感じられることがありますが、これは病的な状態であり、必ずしも建設的な思考や生産的な活動につながるわけではありません。衝動的な行動や注意散漫によって、かえって集中力や判断力が低下し、知的能力が十分に発揮されないこともあります。うつ状態では、思考力が低下し、集中困難になることが一般的です。

双極性障害の患者さんの中に高い知的能力を持つ人がいる可能性はありますが、それは病気によって知能が高まるのではなく、元々のその人の特性です。病気との関連で言うならば、感受性の豊かさや思考の飛躍といった特性が、創造性と結びつきやすい可能性は示唆されていますが、科学的な研究は限定的です。双極性障害を「天才病」のように捉えるのは誤りであり、病気そのものは本人にとって大きな苦痛や困難を伴うものであることを理解することが重要です。

双極性障害の有名人について

国内外には、双極性障害であることを公表している有名人がいます。俳優、ミュージシャン、作家、スポーツ選手など、様々な分野の人がいます。

有名人が病気を公表することには、以下のような意義があると考えられます。

  • 病気への理解促進: 双極性障害が、特別な人だけがかかる病気ではなく、誰にでも起こりうる病気であることを示し、多くの人が病気について知るきっかけとなる。
  • スティグマの軽減: 病気を持つことへの偏見や差別を減らし、「隠さなければならないもの」という意識を変える助けとなる。
  • 患者さんへの勇気: 同じ病気で苦しんでいる人が、「自分だけではない」「病気と共に活躍している人もいる」と感じ、希望を持つことができる。
  • 早期受診の促進: 有名人の経験談を聞いて、自身の症状に気づき、医療機関を受診するきっかけとなる人がいる。

ただし、有名人の例はあくまで一例であり、病気の経過や症状は人によって異なります。有名人の華やかな側面だけを見て、病気を軽く捉えたり、「自分もああなれるはずだ」と無理をしたりしないよう注意が必要です。大切なのは、個々の患者さんにとって最適な治療を受け、自分自身の病気と向き合っていくことです。

心配な場合は一人で悩まず専門機関へ相談を

双極性障害は、気分の波に振り回され、自分自身のコントロールを失ってしまうかのような感覚に陥ることもあり、本人にとって非常に辛い病気です。性格傾向との関連について不安を感じたり、ご自身の気分の波について悩んだりしている方もいらっしゃるかもしれません。

この記事で解説した性格傾向は、あくまで「なりやすさ」を高める可能性のある素因であり、その性格だからといって病気だと診断されるわけではありません。また、病気の発症には様々な要因が複雑に関わっています。

最も大切なことは、一人で抱え込まず、専門家である医師に相談することです。ご自身の気分の波やそれに伴う困りごとについて、正直に話してみてください。専門医は、あなたの状態を正確に評価し、診断に基づいた適切なアドバイスや治療を提供してくれます。

相談先としては、精神科や心療内科のクリニックや病院があります。初めて受診する際は、予約が必要か、どのような情報(これまでの経過、家族歴など)を伝えると良いかなどを事前に確認しておくとスムーズです。また、お住まいの地域の精神保健福祉センターでも、病気に関する相談や情報提供を行っています。

早期に専門家へ相談し、必要であれば適切な診断と治療を受けることは、病気の早期回復や再発予防につながり、安定した生活を送るための第一歩となります。この記事が、あなたの不安を少しでも和らげ、行動を起こすきっかけになれば幸いです。

免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、診断や治療を推奨するものではありません。ご自身の状態については、必ず医療機関を受診し、専門医の判断を仰いでください。

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