ASDとADHDの違いとは?特性・症状・併存の可能性を解説

「うちの子、もしかしてASD?それともADHD?」「自分はASDとADHD、両方の特性がある気がする…」。近年、発達障害への理解が深まる一方で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠陥・多動性障害)の違いが分からず、悩んでいる方も少なくありません。

これらは同じ発達障害に分類されますが、その特性や現れる困難には明確な違いがあります。しかし、共通する部分や両方の特性を併せ持つ「併存(混合型)」も存在するため、理解が難しいと感じるのも無理はありません。

この記事では、ASDとADHDのそれぞれの特徴から、共通点、診断方法、そして日常生活での具体的な対策まで、専門的な知見を基に分かりやすく解説します。ご自身やご家族の特性を正しく理解し、適切なサポートを見つけるための第一歩として、ぜひお役立てください。

ASDとADHDは同じ発達障害?基本的な定義

ASDとADHDは、どちらも生まれつきの脳機能の発達の偏りによって生じる「発達障害」の一種です。しかし、その特性の現れ方から、異なる診断名がつけられています。まずはそれぞれの基本的な定義を理解しましょう。

ASD(自閉スペクトラム症)とは

ASD(自閉スペクトラム症/Autism Spectrum Disorder)は、主に「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」「特定のものごとへの強いこだわりや感覚の偏り」という2つの特性によって定義されます。

「スペクトラム」とは「連続体」を意味し、特性の現れ方やその強さが人によって様々であることから、このように呼ばれています。かつて「アスペルガー症候群」や「自閉症」などと呼ばれていたものが、現在はASDという診断名に統合されています。

ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは

ADHD(注意欠陥・多動性障害/Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、「不注意(集中力・注意力の問題)」「多動性(落ち着きのなさ)」「衝動性(考えずに行動してしまう)」の3つの特性を主な特徴とする発達障害です。

これらの特性の現れ方によって、「不注意優勢型」「多動・衝動性優勢型」「混合型」の3つのタイプに分けられます。

発達障害としてのASDとADHD

ASDとADHDは、どちらも「障害」という言葉がついていますが、これは本人の能力が劣っているという意味ではありません。脳機能の特性から、多くの人が当たり前にできること(定型発達)とは異なるやり方で物事を捉えたり、行動したりするため、社会生活の中で困難が生じやすい、という状態を指します。適切な理解と環境調整によって、その人らしい能力を発揮することが可能です。

ASDとADHDの主な特徴の違い

ASDとADHDはしばしば混同されますが、その中核となる特性には違いがあります。ここではコミュニケーション、興味、行動の観点から、それぞれの違いを詳しく見ていきましょう。

特性の側面 ASD(自閉スペクトラム症)の特徴の例 ADHD(注意欠陥・多動性障害)の特徴の例
コミュニケーション ・相手の気持ちや場の空気を読むのが苦手
・比喩や皮肉が理解できないことがある
・一方的に自分の話をしてしまう
・視線を合わせるのが苦手
・人の話を最後まで聞くのが苦手
・会話の途中で相手の話を遮ってしまう
・思ったことをすぐ口にしてしまう
・おしゃべりが止まらないことがある
こだわり・興味 ・特定の物事や分野に非常に強い興味を持つ
・決まった手順やルールを厳密に守りたがる
・興味の範囲が狭く、深い
・同じ行動を繰り返すことを好む
・好奇心旺盛で、興味の対象が次々に移る
・熱しやすく冷めやすい(飽きっぽい)
・新しい刺激を求める傾向がある
・単純作業や同じことの繰り返しが苦手
注意力・行動 ・興味のあることには驚異的な集中力(過集中)を発揮する
・興味のないことには注意が向きにくい
・感覚(聴覚、視覚など)が非常に敏感または鈍感
・急な予定変更や想定外の出来事が苦手
・集中力が続かず、気が散りやすい(注意散漫)
・忘れ物や失くし物が多い
・じっとしているのが苦手
・静かにすべき場面でそわそわしてしまう
衝動性 ・衝動性は中核的な特徴ではない(パニックなど別の要因で衝動的に見えることも) ・順番を待てない
・質問が終わる前に答えてしまう
・危険を顧みずに行動してしまうことがある

コミュニケーション・対人関係の特性の違い

ASDのコミュニケーションの困難さは、「質」的な違いに起因します。言葉の裏にある意図を汲み取ったり、相手の表情から感情を推測したりすることが苦手なため、悪気なく相手を怒らせてしまったり、会話が噛み合わなくなったりすることがあります。

一方、ADHDの困難さは、主に「不注意」や「衝動性」から生じます。人の話を集中して聞けなかったり、思ったことをすぐに口に出してしまったりすることで、対人関係に摩擦が生じやすくなります。

こだわり・興味の対象の違い

ASDのこだわりは「同一性へのこだわり」とも言われ、安心感を得るために重要です。興味の対象は限定的ですが、非常に深く探求する傾向があり、専門家レベルの知識を持つことも少なくありません。

ADHDの場合は、好奇心旺盛で興味が「拡散」しやすいのが特徴です。様々なことに手を出しますが、集中力が持続しにくいため、長続きしないこともあります。

注意力・行動の特性の違い

ASDの不注意は、「注意の偏り」と表現できます。興味のあることには過集中しますが、それ以外のことには全く注意が向かないことがあります。行動面では、見通しが立つことを好み、変化を嫌う傾向があります。

ADHDの不注意は、「注意の持続困難」です。集中しようとしても、外部の刺激や頭に浮かんだ別の考えに気を取られてしまいます。行動面では、多動性から「常に動いていたい」という欲求が見られます。

衝動性の有無

衝動性はADHDの主要な特性の一つです。欲しいものを我慢できない、危険を考えずに行動してしまう、といった形で現れます。
一方、ASDでは衝動性は中核的な特性ではありません。しかし、パニックになったり、強いこだわりを邪魔されたりした際に、衝動的に見える行動をとることがあります。

ASDとADHDに共通する特性・併存(混合型)について

ASDとADHDは違う特性を持つ一方で、共通する部分も多く、両方の特性を併せ持つ「併存(混合型)」の人も少なくありません。

共通する特性

違いを理解する上で、共通点を知ることも重要です。

  • 片付けが苦手: ASDの場合は「どこに何を置くべきか」という空間認識や優先順位付けが苦手なことが多く、ADHDの場合は注意散漫で後回しにしてしまうことが原因となりやすいです。
  • 感覚過敏: 音や光、匂い、触覚などに過剰に反応してしまう特性です。どちらにも見られますが、ASDでより顕著な場合が多いとされます。
  • ワーキングメモリの弱さ: 短期的に情報を記憶し、同時に処理する能力が弱い傾向があります。これにより、指示を覚えられない、作業の段取りがつけられないなどの困難が生じます。
  • 感情のコントロールが苦手: 自分の感情をうまく整理・表現できず、急に怒り出したり、落ち込んだりすることがあります。

ASDとADHDの併存(混合型)の特徴

研究によれば、ASDを持つ人の30~80%、ADHDを持つ人の20~50%が、もう一方の診断基準も満たすと報告されています。これを「併存」や「混合型」と呼びます。

併存している場合、特性が互いに影響し合い、より複雑な困難さを生むことがあります。

併存の例(フィクション)
Aさんは、仕事で新しいプロジェクトを任されました。

  • ASDの特性: 完璧な計画を立てようと細部にこだわり、なかなか作業を始められません。また、チームメンバーとの曖昧なコミュニケーションが苦手で、認識のズレが生じがちです。
  • ADHDの特性: 計画を立てている途中で、別のアイデアに気を取られて集中力が途切れます。複数のタスクを同時に進めようとして、どれも中途半端になってしまいます。

このように、ASDの「こだわり」とADHDの「注意散漫」が合わさることで、「計画は進まないが、他のことにも手を出してしまい、結局何も終わらない」という状況に陥りやすくなります。

ASDとADHDの診断について

ASDやADHDの特性に心当たりがある場合、専門の医療機関で診断を受けることができます。自己判断はせず、専門家の意見を聞くことが大切です。

診断基準(DSM-5など)

現在、多くの医療機関では、アメリカ精神医学会が作成した『DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)』という診断基準が用いられています。DSM-5では、ASDとADHDの診断基準がそれぞれ定められており、医師は問診や検査の結果と照らし合わせて総合的に判断します。

診断の流れ

一般的な診断の流れは以下の通りです。

  • 予約・初診: 精神科や心療内科、発達障害専門のクリニックなどに予約を取ります。
  • 問診: 本人や(可能であれば)家族から、幼少期からの生育歴、現在の困りごとなどを詳しく聞き取ります。
  • 心理検査: WAIS-IVなどの知能検査や、AQ(自閉症スペクトラム指数)、CAARS(ADHD評価スケール)などの心理尺度検査を行い、客観的な特性を評価します。
  • 行動観察: 診察中の会話の様子や態度なども参考にされます。
  • 総合的な診断: 全ての情報を元に、医師が診断基準に合致するかを判断します。診断までに複数回の通院が必要になることがほとんどです。

大人のASD/ADHD診断

近年、大人になってから発達障害の診断を受ける人が増えています。子どもの頃は特性が目立たなかったり、本人の努力でカバーできていたりしたものが、就職や結婚といった環境の変化で困難が顕在化し、受診に至るケースが多くあります。大人の診断でも、基本的な流れは子どもと同様ですが、幼少期の様子を客観的に知るために、母子手帳や通知表、親からの情報提供が重要になることがあります。

ASDとADHD、それぞれの特性への対応と対策

診断はゴールではなく、自分の特性を理解し、より良く生きていくためのスタートです。ここでは、それぞれの特性への対策例をご紹介します。

ASDの特性への対策

コミュニケーションの困りごとへの対応

  • 指示は具体的に: 「あれ、やっといて」のような曖昧な指示ではなく、「この書類を3部コピーして、〇〇さんの机に置いてください」のように、具体的かつ明確に伝えてもらうようにしましょう。
  • 「暗黙の了解」の確認: 会議や会話で分からないことがあれば、「〇〇という意味で合っていますか?」と確認する勇気を持ちましょう。

こだわりや感覚過敏への対応

  • スケジュールの視覚化: 1日の予定をカレンダーや手帳に書き出して「見える化」することで、見通しが立ち、安心感につながります。
  • 環境調整: 人混みが苦手ならラッシュ時を避ける、音が気になるならノイズキャンセリングイヤホンを使うなど、刺激を減らす工夫をしましょう。

臨機応変な対応の苦手さへの対応

  • 変更の事前告知: 予定が変更になる場合は、できるだけ早く伝えてもらい、心の準備をする時間を確保しましょう。
  • 「もしも」のパターンを想定: 「もし電車が遅れたら、このルートで行く」など、起こりうるトラブルへの対処法をいくつか考えておくと、パニックになりにくくなります。

ADHDの特性への対策

不注意の困りごとへの対応

  • タスクの細分化: 大きな仕事は「資料を集める」「構成を考える」など、小さなステップに分解してリスト化すると、取り組みやすくなります。
  • リマインダーの活用: スマートフォンのアラームやアプリを活用して、予定やタスクを忘れないようにしましょう。
  • 時間を区切る: ポモドーロテクニック(25分集中して5分休憩)のように、時間を区切って作業すると集中力が持続しやすくなります。

多動性・衝動性の困りごとへの対応

  • 体を動かす機会を作る: 定期的に席を立ってストレッチをする、スタンディングデスクを使うなど、体を動かせる環境を作りましょう。
  • 一呼吸置く癖をつける: 何か言いたくなったり、行動したくなったりしたら、心の中で「一呼吸」置く練習をしましょう。メールの送信前に読み返すのも有効です。

併存している場合の対策

併存している場合は、どちらの特性がより強く生活に影響しているかを見極め、優先順位をつけて対策に取り組むことが重要です。例えば、「ASDの対人不安」と「ADHDの衝動買い」で悩んでいるなら、まずは家計に直接影響する衝動買いの対策(例:クレジットカードを持ち歩かない)から始める、といった形です。専門家と相談しながら、自分に合った対策を見つけていきましょう。

日常生活や仕事での困りごとと相談先

特性によって生じる困難は、日常生活や職場など様々な場面で現れます。一人で抱え込まず、適切な場所に相談することが大切です。

日常生活や仕事で直面しやすい困りごと

  • 仕事: タスク管理ができない、ケアレスミスが多い、人間関係がうまくいかない、指示の理解が難しい
  • 家事: 片付けられない、金銭管理ができない、日々の手続きを忘れる
  • 対人関係: 友人ができない、パートナーとの関係がうまくいかない、孤立感を感じる

どこに相談すれば良い?

  • 発達障害者支援センター: 各都道府県・指定都市に設置されており、本人や家族からの相談に応じ、情報提供や関係機関との連携を行ってくれます。福祉サービスの利用についても相談できます。
  • 精神科・心療内科: 診断や治療(薬物療法など)、カウンセリングを受けることができます。発達障害を専門とする医師がいるか、事前に確認すると良いでしょう。
  • カウンセリングルーム: 臨床心理士や公認心理師などの専門家から、カウンセリングやソーシャルスキルトレーニング(SST)などを受けることができます。
  • 就労移行支援事業所: 発達障害のある方の就職をサポートしてくれる事業所です。職業訓練や職場探し、就職後の定着支援などを行っています。

アスペルガー症候群とASDの違い

「アスペルガー症候群」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。かつては、知的発達や言語発達の遅れがない自閉症を「アスペルガー症候群」と呼んでいました。

しかし、前述の『DSM-5』への改訂(2013年)により、自閉症やアスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害などは、「ASD(自閉スペクトラム症)」という一つの診断名に統合されました。これは、これらの障害が連続した一つのスペクトラム(連続体)上にあるという考え方に基づいています。

現在、医療の現場で新規に「アスペルガー症候群」と診断されることはありません。過去に診断された方がその名称を使い続けることはありますが、医学的にはASDに含まれると理解しておきましょう。

まとめ|ASDとADHDの違いを理解し、適切なサポートへ

ASDとADHDは、共に発達障害ですが、その中核となる特性は異なります。

  • ASD: コミュニケーションの質的な困難さと、限定的な興味・こだわりが特徴。
  • ADHD: 不注意、多動性、衝動性が主な特徴。

一方で、感覚過敏や片付けの苦手さなど共通する点も多く、両方の特性を併せ持つ「併存」も少なくありません。そのため、asd adhd 違いを正しく理解することは、自分や周りの人の困難の背景を知り、適切な対応策を見つける上で非常に重要です。

もし特性に心当たりがあり、日常生活で困難を感じている場合は、決して一人で悩まず、発達障害者支援センターや専門の医療機関などの相談窓口にアクセスしてみてください。自分の特性を理解し、必要なサポートを得ることで、困りごとを軽減し、自分らしく生きていく道筋を見つけることができるはずです。


免責事項: この記事は、ASDとADHDに関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療に代わるものではありません。具体的な症状や診断については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

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