アスペルガー症候群とは?特徴・症状とASDとの違いを解説

アスペルガー症候群とは、対人関係やコミュニケーションが苦手だったり、特定の物事に強いこだわりを持ったりといった特性を持つ発達障害の一つです。
正式には、自閉スペクトラム症(ASD)という診断名の中に含まれるようになりました。
これらの特性は、生まれつきの脳機能の違いによるものであり、決して育て方や本人の努力不足によるものではありません。

アスペルガー症候群(ASD)の特性がある方は、社会生活の中で様々な困難に直面することがありますが、ご本人や周囲が特性を理解し、適切な工夫や支援を行うことで、その人らしく能力を発揮し、より豊かな生活を送ることが可能になります。
このページでは、アスペルガー症候群(ASD)の主な特徴や診断方法、他の発達障害との違い、そして具体的な対処法や支援について詳しく解説します。

アスペルガー症候群は、かつて独立した診断名として用いられていましたが、2013年にアメリカ精神医学会が発行した診断基準「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)」において、自閉症、特定不能の広汎性発達障害などと共に「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)」という一つの診断名に統合されました。
これは、これらの障害が連続した特性のグラデーションとして捉えられるようになったためです。

アスペルガー症候群という名称は、オーストリアの医師ハンス・アスペルガーに由来します。
彼は1940年代に、特定の対人関係の困難や限られた興味、反復的な行動パターンを示す子どもたちについて記述しました。
彼らが自閉症の子どもたちと異なっていた点は、言語発達の遅れが目立たないこと、そして多くの場合、高い知的能力を持つことでした。

DSM-5における自閉スペクトラム症(ASD)は、以下の2つの分野での持続的な困難を中核的な特徴として定義されています。

  1. 対人相互作用および社会的コミュニケーションにおける持続的な欠陥
  2. 限定された、反復的な様式の行動、興味、活動

これらの特徴が、発達早期に現れ、社会生活や職業生活において臨床的に意味のある障害を引き起こしている場合に診断されます。
アスペルガー症候群と呼ばれていた人たちは、このASDの診断基準を満たす人のうち、特に知的な遅れや目立った言語発達の遅れがないタイプに相当すると考えられます。
つまり、現在は診断名としては使用されませんが、「アスペルガータイプ」といった形で、その特性を説明する際に便宜的に用いられることがあります。

重要なのは、ASDは「障害」ではありますが、それは「できないこと」のリストではなく、「脳の情報処理スタイルが多数派と異なること」と捉えることです。
この異なるスタイルから、社会生活における困難が生じやすい、と理解することが、本人にとっても周囲にとっても建設的なアプローチと言えるでしょう。

アスペルガー症候群の主な特徴

アスペルガー症候群(現在は自閉スペクトラム症の一部として捉えられる特性)は、主に以下の3つの分野で特徴が見られると言われています。
これらの特徴は、程度の差こそあれ、幼児期から青年期にかけて明らかになることが多いです。

  1. 対人関係・社会的コミュニケーションの困難
  2. 限定された興味・活動、こだわり
  3. 感覚の偏り(過敏または鈍麻)

これらの特徴は相互に関連し合っており、日常生活や社会生活の中で様々な困りごとにつながることがあります。

大人のアスペルガー症候群の特徴

アスペルガー症候群の特性は、成長しても完全に消えるわけではありません。
幼少期には目立たなかった特性が、社会生活が複雑になるにつれて顕在化することもあります。
大人のアスペルガー症候群の特徴は、主に以下のような形で現れることがあります。

  • 職場や友人関係での人間関係の難しさ: 暗黙のルールや場の空気を読むのが苦手なため、同僚や友人との関係で誤解が生じやすい場合があります。冗談が通じにくかったり、相手の気持ちを察するのが難しかったりすることがあります。
  • 一方的な話し方: 自分の興味のあることについては饒舌になりますが、相手の反応を見ずに一方的に話し続けたり、唐突に話題を変えたりすることがあります。
  • 融通がきかない: ルールや手順にこだわり、変更や例外に対応するのが難しい場合があります。予期せぬ出来事や急な予定変更に強いストレスを感じることがあります。
  • 強いこだわり: 特定の趣味や関心事に対して非常に深く没頭し、膨大な知識や情報を集めることがあります。これは才能として活かせる場合もありますが、そのために他のことがおろそかになったり、周囲との会話が成り立たなくなったりすることもあります。
  • 感覚過敏や鈍麻: 特定の音や光、触感、匂いなどに極端に敏感であったり、逆に痛みに鈍感であったりすることがあります。これは日常生活におけるストレスの一因となります。
  • 表情や声のトーンが乏しい、または不自然: 感情が表情や声のトーンに現れにくかったり、状況にそぐわない反応をしてしまったりすることがあります。
  • 計画や整理整頓の難しさ: 複数のタスクを同時にこなしたり、物事を順序立てて進めたりするのが苦手な場合があります。

これらの特徴は、ご本人の努力不足ではなく、脳機能の特性によるものです。
これらの困難を理解し、環境やコミュニケーションの方法を調整することで、生活の質を向上させることが可能です。

アスペルガー症候群の話し方・コミュニケーションの特徴

コミュニケーションの困難さは、アスペルガー症候群の特性の核となる部分の一つです。
話し方や会話の進め方に以下のような特徴が見られることがあります。

  • 言葉を字義通りに受け止める: 曖昧な表現や比喩、皮肉などが理解しにくい場合があります。「後でね」と言われると、具体的な時間が分からず不安になったり、「ちょっと」と言われてもどの程度か分からなかったりします。
  • 相手の意図や感情を読み取るのが苦手: 話している相手の表情、声のトーン、ジェスチャーなどから感情や真意を読み取ることが難しい場合があります。そのため、相手を怒らせてしまったり、場違いな発言をしてしまったりすることがあります。
  • 一方的なコミュニケーション: 自分の話したいこと、興味のあることについては詳細に話しますが、相手が興味を持っているかどうかに気づかず、一方的に話し続ける傾向があります。会話のキャッチボールが苦手で、質問されても簡潔に答えすぎたり、逆に必要以上に詳細に説明したりすることがあります。
  • 言葉の選び方が直接的: 遠回しな表現や配慮を伴う言い方が苦手で、思ったことをそのまま口にしてしまうことがあります。これが原因で、相手を傷つけてしまったり、失礼だと受け取られたりすることがあります。
  • 特定の話題への固執: 一度話し始めると、自分の興味のある話題から離れられなくなり、周囲が話題を変えようとしても気づかない、あるいは話題を変えられるのを嫌がる場合があります。
  • 非言語コミュニケーションの使い方が独特: 視線を合わせるのが苦手だったり、表情が硬かったり、ジェスチャーが少なかったり、あるいは不自然だったりすることがあります。

これらのコミュニケーションの特徴は、悪気があってそうしているわけではなく、脳の特性によるものです。
周囲がこれらの特徴を理解し、明確で具体的な言葉を選んで話したり、視覚的な情報も加えて伝えたりすることで、コミュニケーションが円滑になる場合があります。

アスペルガー症候群の「顔つき」について

インターネットなどで「アスペルガー 顔つき」といった情報を見かけることがありますが、アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)に特徴的な特定の「顔つき」があるという科学的な根拠は確立されていません
発達障害の特性は、外見ではなく、主に認知や行動のパターンとして現れるものです。

確かに、特定の遺伝的な疾患や症候群に伴って発達障害が見られる場合、その疾患に特有の身体的特徴や顔貌が見られることはあります。
しかし、アスペルガー症候群を含む多くの自閉スペクトラム症の場合、そのような特定の顔つきは認められません。

「アスペルガー 顔つき」という言葉で検索される背景には、おそらく以下のような要因があると考えられます。

  • コミュニケーション様式から受ける印象: 表情が乏しい、視線を合わせないといったコミュニケーションの特性から、周囲が特定の印象を持つことがあるかもしれません。しかし、これは「顔つき」そのものではなく、コミュニケーション行動によるものです。
  • メディアなどでの特定の人物像の描写: フィクションなどで特定のキャラクターがアスペルガー症候群のような特性を持つ人物として描かれる際に、ステレオタイプ的な外見が与えられることがあるかもしれません。
  • 誤った情報や偏見: 医学的根拠に基づかない情報が流布している可能性。

安易に「顔つき」でアスペルガー症候群を判断しようとすることは、ご本人に対する偏見につながる可能性があります。
大切なのは、外見で判断するのではなく、その人の行動やコミュニケーションのパターン、抱えている困難に目を向け、理解しようと努めることです。
発達障害の診断は、専門家による詳細な問診や観察、検査に基づいて行われるものであり、外見で判断できるものではありません。

特定の興味やこだわり、感覚過敏について

アスペルガー症候群(ASD)の重要な特徴の一つに、特定の興味や活動への強いこだわりや反復的な行動があります。
また、感覚の偏りもよく見られます。

特定の興味やこだわり:

  • 限られた対象への強い興味: 特定のテーマ(電車、恐竜、歴史、特定のキャラクターなど)に深く没頭し、関連する情報を徹底的に収集したり、繰り返し調べたりします。その知識量は、時に専門家顔負けになることもあります。
  • 反復的な行動や儀式的な行動: 毎日同じルートで通勤・通学する、特定の順番で物事をしないと気が済まない、特定の音や映像を繰り返し見るなど、変化を嫌い、決まったパターンで行動することを好みます。
  • 収集癖: 特定の物を大量に集めたり、分類したりすることに熱中することがあります。
  • ルールや秩序へのこだわり: 物事が決まった通りになっていないと落ち着かない、ルールが破られるのを極端に嫌がるといった特徴が見られます。

これらのこだわりは、時に高い専門性や集中力につながり、学業や仕事で突出した能力を発揮する源となることもあります。
一方で、そのこだわりが日常生活や人間関係に支障をきたすこともあります。
例えば、興味のないことには全く関心を示さなかったり、こだわりのために予定通りに行動できなかったり、自分のやり方を他人に強く求めすぎたりすることがあります。

感覚過敏や鈍麻:

感覚の偏りは、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)だけでなく、平衡感覚や固有受容覚(体の位置や動きを感じる感覚)にも見られることがあります。

  • 感覚過敏:
    • 聴覚過敏: 特定の音(掃除機の音、人の話し声、機械音など)が非常に大きく聞こえたり、不快に感じたりします。多くの音が混ざり合う場所(賑やかな店内など)では、どれを聞けばいいか分からず混乱することもあります。
    • 視覚過敏: 特定の光(蛍光灯のちらつき、強い日差し)が眩しく感じたり、視界に入る多くの情報(物の多さ、人の動き)に圧倒されたりします。
    • 触覚過敏: 特定の素材の服(タグ、縫い目)、肌に触れるものが苦手だったり、人に触られるのを嫌がったりします。
    • 嗅覚・味覚過敏: 特定の匂いや味が耐えられないほど不快に感じられることがあります。
  • 感覚鈍麻:
    • 痛みや温度に気づきにくい。
    • 空腹や満腹に気づきにくい。
    • 体の位置や動きが分かりにくく、不器用に見えることがある。
    • 触感や圧力を強く求め、抱きついたり、特定の物を強く握ったりすることがあります。

感覚の偏りは、ご本人にとって日常生活における大きなストレス源となります。
特定の場所に行けなかったり、特定の活動に参加できなかったりすることにつながるため、周囲の理解と環境調整が非常に重要です。
例えば、騒がしい場所ではイヤーマフを使用する、特定の素材の服を避ける、刺激の少ない休憩場所を設けるなどの工夫が有効です。

アスペルガー症候群の原因は?

アスペルガー症候群を含む自閉スペクトラム症(ASD)の原因は、単一ではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
現在の研究では、主に遺伝的な要因と環境的な要因が相互に影響し合って、脳の発達に違いが生じると考えられています。
決して、親の育て方や愛情不足が原因で起こるものではありません。

遺伝的な要因:

ASDのある方の近親者では、ASDや関連する特性が見られる割合が一般よりも高いことが知られています。
これは、ASDの発症に遺伝が関わっていることを強く示唆しています。
特定の単一遺伝子が原因となる場合もありますが、多くの場合は、複数の遺伝子が組み合わさって影響していると考えられています。
ただし、特定の遺伝子の変化があっても必ずASDを発症するわけではなく、その遺伝子が脳の発達に影響を及ぼしやすくする「素因」のようなものであると捉えられています。
現在も、ASDに関連する様々な遺伝子の研究が進められています。

環境的な要因:

妊娠中や周産期(出産前後)の特定の要因も、ASDのリスクを高める可能性が指摘されています。
具体的には、

  • 妊娠中の感染症: 風疹など特定の感染症への罹患
  • 妊娠中の特定の薬剤の使用
  • 妊娠中の母親の栄養状態
  • 早産や低出生体重児
  • 周産期の合併症

などが研究されています。
しかし、これらの環境要因も単独でASDを引き起こすわけではなく、遺伝的な素因を持つ人がこれらの環境要因に曝されることで、よりASDを発症しやすくなる、といった複雑な相互作用が考えられています。

脳機能の違い:

遺伝的・環境的な要因によって、ASDのある方の脳は、情報処理の仕方や神経回路のつながりにおいて、定型発達者とは異なる特徴を持つことが分かっています。
例えば、特定の脳領域(社会性やコミュニケーションに関わる領域など)の活動パターンや、脳領域間の連携に違いが見られるといった研究報告があります。
これにより、定型発達者が無意識に行っている「相手の気持ちを推測する」「場の空気を読む」「複数の情報を同時に処理する」といったことが、ASDのある方にとっては難しくなっていると考えられます。

現在の科学的な理解では、ASDは特定の原因を一つに絞り込めるものではなく、多様な遺伝的背景と環境要因の相互作用によって生じる、脳の発達の多様性の一つであると捉えられています。
原因が完全に解明されていないからといって、ご本人やご家族が自分を責める必要は全くありません。

アスペルガー症候群の診断方法

アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の診断は、ご本人の行動や発達の歴史、そして現在の状況を、専門家が多角的に評価して行われます。
特定の血液検査や画像検査などで診断できるものではありません。

診断プロセスは通常、以下のようなステップで進められます。

  1. 予備的な相談・問診: 本人や家族から、幼少期からの発達の様子、現在の生活での困難、困っていることなどを詳しく聞き取ります。特に、対人関係、コミュニケーション、興味の範囲、感覚の偏りなどについて具体的なエピソードを収集します。
  2. 行動観察: 診察室や特定の場面でのご本人の様子を専門家が観察します。コミュニケーションの取り方、遊び方(子どもの場合)、特定の課題への取り組み方などが評価されます。
  3. 心理検査・発達検査: 知的能力を測る知能検査や、発達の偏りを評価する発達検査、ASDの特性に特化した評価尺度などが行われることがあります。これらの検査は、診断を補助するための情報として用いられます。
  4. 他の疾患との鑑別: ASDと似た症状を示す他の発達障害(ADHDなど)や精神疾患(社交不安障害、強迫性障害など)との鑑別を行います。

診断は、これらの複数の情報源から得られた情報と、国際的な診断基準(DSM-5など)を照らし合わせて、総合的に判断されます。
診断に至るまでには複数回の受診が必要になることもあります。

診断基準(DSM-5など)

現在、最も広く用いられている自閉スペクトラム症(ASD)の診断基準は、アメリカ精神医学会が定めた「DSM-5」です。
DSM-5では、アスペルガー症候群という独立した診断名はなくなり、自閉症や他の関連障害と共に「自閉スペクトラム症」としてまとめられました。

DSM-5における自閉スペクトラム症の診断基準は、主に以下の2つの領域での困難と、それに伴う症状によって構成されています。

A. 以下のすべてにおいて示されるような、対人相互作用と社会的コミュニケーションにおける持続的な欠陥

  1. 社会的・情緒的な相互関係の欠如(例えば、通常の会話のやり取りがうまくいかない、興味・感情・情動の共有が少ない、社会的相互作用を開始・応答できないなど)
  2. 非言語的コミュニケーション行動の欠如(例えば、言葉と非言語的なコミュニケーションの統合がうまくいかない、アイコンタクトや身振り・手振りの使い方が不自然、表情の理解・使用が困難など)
  3. 対人関係を発展させ、維持し、理解することの欠如(例えば、行動を状況に合わせるのが難しい、想像力を伴う遊びや友人を作るのが難しい、他の人への関心が乏しいなど)

B. 以下のうち少なくとも2つによって示されるような、限定された、反復的な様式の行動、興味、活動

  1. 常同的または反復的な運動動作、物体の使用、または会話(例えば、単純な常同運動、おもちゃの回し方への固執、反響言語、独特な言い回しなど)
  2. 同一性への固執、日常の融通の利かないこだわり、または儀式的な様式の非言語的行動パターン(例えば、ちょっとした変化にひどく苦痛を感じる、ある特定の道のりや手順に固執する、挨拶の仕方にこだわるなど)
  3. 極めて限定され、固執した興味(例えば、普通でない対象への異常なほどの興味、限定された興味への過剰な没頭など)
  4. 感覚入力に対する過敏さまたは鈍感さ、あるいは環境に対する並外れた興味(例えば、痛みや温度に無関心、特定の音や触感に嫌悪、光や動きへのこだわりなど)

これらの基準に加え、以下の条件を満たす必要があります。

  • C. 症状は発達早期から存在する。
  • D. 症状は社会、職業、または他の重要な機能領域において、臨床的に意味のある障害を引き起こしている。
  • E. これらの障害は、知的能力障害(知的発達症)や、他の精神疾患によってよりよく説明されない。

診断時には、支援の必要性のレベル(レベル1~3)も併記されることがあります。
かつてアスペルガー症候群と診断されていた方は、一般的に知的発達に遅れがないため、ASDと診断された場合もレベル1またはレベル2とされることが多い傾向にあります。
ただし、診断基準はあくまで参考であり、個々のケースによって適用は専門家の判断に委ねられます。

アスペルガー症候群の診断テストについて

インターネット上などで「アスペルガー症候群診断テスト」といったものを見かけることがありますが、これらのセルフチェックや簡易的なテストだけで、正式な診断ができるわけではありません

セルフチェックリストや簡易テストは、ご自身の特性の傾向を知るためのあくまで参考として利用することができます。
例えば、AQ(自閉症スペクトラム指数)やSRS-2(対人応答性尺度)のような尺度は、専門家による診断の補助として用いられることもありますが、これだけで診断が確定するものではありません。

もし、ご自身やご家族がアスペルガー症候群(ASD)の特性に当てはまるのではないかと感じ、日常生活で困難を抱えている場合は、自己判断で済まさず、必ず専門の医療機関を受診することが重要です。

専門家による診断では、単にチェックリストに回答するだけでなく、ご本人や保護者への詳細な問診、幼少期からの生育歴の確認、行動観察、必要に応じて心理検査などが多角的に行われます。
これにより、特性の程度や他の併存疾患の有無なども含めて、総合的な評価が行われます。

簡易テストの結果が悪かったとしても、過度に不安になる必要はありません。
重要なのは、特性によって生活に支障が出ているかどうか、そして適切な支援につながることです。
専門家のアドバイスを受けることで、ご自身の特性を理解し、より生きやすい方法を見つけることができるでしょう。

どこで診断を受けられる?医療機関の探し方

アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の診断は、精神科、心療内科、または発達障害を専門とする医療機関で受けることができます。
子どもの場合は、小児神経科や児童精神科、発達外来などが中心になります。

医療機関を探す際のポイントは以下の通りです。

  • 発達障害の診療を専門としているか確認する: 精神科や心療内科でも、発達障害の診断や支援に詳しい医師がいるかどうかは異なります。事前にクリニックのウェブサイトを確認したり、電話で問い合わせたりして、発達障害の診療を行っているか確認しましょう。
  • 診断実績や専門的な検査体制: ASDの診断には、詳細な問診や観察、必要に応じて専門的な検査(知能検査、発達検査など)が必要です。これらの検査に対応できる体制があるかどうかも確認のポイントです。
  • 予約方法と待ち時間: 発達障害の専門外来は予約が取りにくく、診断まで時間がかかる場合があります。事前に予約方法や待ち時間を確認しておきましょう。
  • 情報源:
    • かかりつけ医への相談: まずは身近なかかりつけ医に相談し、専門機関を紹介してもらうのがスムーズな場合があります。
    • 自治体の窓口: 各自治体の精神保健福祉センターや発達障害者支援センターに相談すると、地域の医療機関や支援機関に関する情報を提供してもらえます。
    • インターネット検索: 「[お住まいの地域名] 発達障害 診断」「[お住まいの地域名] 精神科 アスペルガー」などのキーワードで検索し、医療機関のウェブサイトを確認する。
    • 自助グループや患者会: 地域の自助グループや患者会が、信頼できる医療機関の情報を持っている場合があります。

診断を受ける際は、ご自身の(またはお子さんの)幼少期からの様子がわかる情報(母子手帳の記録、保育園・学校での記録、日記、家族の話など)を整理していくと、問診がスムーズに進むことがあります。
診断を受けること自体がゴールではなく、診断を通じてご自身の特性を理解し、より適切な支援や対処法につなげることが重要です。

アスペルガー症候群と他の発達障害との違い

発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)の他に、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(LD)、協調運動症など様々なタイプがあります。
アスペルガー症候群(ASD)の特性は、これらの他の発達障害の特性と似ている部分や、併存することもあるため、区別が難しい場合があります。
ここでは、特に混同されやすい自閉症とADHDとの違いについて解説します。

アスペルガー症候群と自閉症の違い

先述の通り、現在の診断基準DSM-5では、アスペルガー症候群と自閉症は「自閉スペクトラム症(ASD)」として統合されています。
したがって、厳密には「違い」を議論するよりも、ASDという連続体の中での特性の現れ方の違いとして捉えるのが適切です。

かつて(DSM-IVまで)アスペルガー症候群と自閉症が区別されていた主な点は、以下の2つでした。

  1. 言語発達の遅れの有無:
    • 自閉症: 幼少期に言葉の発達の遅れが顕著に見られることが多かったです。
    • アスペルガー症候群: 言葉の発達に目立った遅れは見られず、むしろ語彙が豊富であったり、難解な言葉を使ったりすることがありました。
  2. 知的発達の程度:
    • 自閉症: 知的発達に遅れを伴うケースが多く見られました。
    • アスペルガー症候群: 知的能力は平均的、またはそれ以上であることが多かったです。

つまり、かつてアスペルガー症候群と呼ばれていた人たちは、「知的遅れや言語発達の遅れがない自閉症」のようなタイプであったと言えます。

DSM-5で統合されたのは、自閉症とアスペルガー症候群の核となる特性(社会的コミュニケーションの困難、限定された興味・行動)が共通しており、言語発達や知的能力の遅れの有無だけで区別するのは不自然である、という考えに基づいています。
ASDは、これらの特性の程度や組み合わせ、そして知的能力や言語能力のレベルによって、非常に多様な現れ方をするスペクトラム(連続体)である、と捉えられるようになったのです。

したがって、現在は「アスペルガー症候群」という診断名は使われませんが、診断されたASDの方が「かつてのアスペルガー症候群の基準を満たすような特性がある」という説明がされることがあります。

アスペルガー症候群とADHDの違い

アスペルガー症候群(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)は、どちらも発達障害であり、社会的な困難を抱えることがあるという点で共通しますが、核となる特性は異なります。
また、両方が併存(合併)することも少なくありません。

主な違いを以下の表にまとめます。

特徴 アスペルガー症候群(ASD)の傾向 ADHDの傾向
核となる困難 対人関係・コミュニケーション、限定された興味・こだわり、感覚の偏り 不注意、多動性、衝動性
対人関係 場の空気が読めない、相手の気持ちを推察しにくい、一方的なコミュニケーション、集団行動が苦手 話を最後まで聞けない、衝動的な発言、順番を待てない、興味が変わりやすく人間関係も移ろいやすい
興味・関心 特定の物事への強いこだわり、深く没頭する 興味の対象が次々と変わる、飽きっぽい
行動パターン 反復的な行動、変化を嫌う、ルールや手順にこだわる そわそわ落ち着かない、じっとしていられない、衝動的な行動
計画性・実行機能 計画通りに進めるのが苦手(ASDの中でも実行機能の課題がある場合)、切り替えが苦手 計画を立てたり、実行したりするのが苦手、時間管理が苦手、締め切りに間に合わないことが多い
集中の仕方 興味のあることには過集中、興味のないことには全く集中できない 注意が持続しない、気が散りやすい、ケアレスミスが多い
学校・職場での困難 集団に馴染みにくい、協調性が求められる活動が苦手、曖昧な指示が理解しにくい 課題に集中できない、忘れ物が多い、提出物を出し忘れる、指示を最後まで聞けない
感覚の偏り 光、音、触覚などに過敏または鈍感(ASDに特徴的) 特徴的ではない(ただし併存時は見られる)

併存について:

ASDとADHDは、核となる特性は異なりますが、併存するケースは非常に多いことが知られています。
例えば、ASDの特性として集団行動が苦手でありながら、ADHDの特性として衝動的に発言してしまい、周囲から浮いてしまう、といった形で両方の困難が重なることがあります。

両方の特性を持っている場合、どちらか一方の診断しか受けられない、ということはありません。
専門家は、両方の診断基準を満たすかどうかを評価し、必要であればASDおよびADHDの両方の診断を行います。

診断にあたっては、これらの特性がいつ頃から現れ、どの程度、社会生活や学業、職業生活に影響を与えているかを詳しく評価することが重要です。
自己判断で区別することは難しいため、専門の医療機関で相談することをお勧めします。

アスペルガー症候群のある方の生活上の困難と対処法

アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の特性を持つ方は、社会の中で様々な困難に直面することがあります。
しかし、これは本人の努力不足ではなく、脳の情報処理スタイルが社会の多数派と異なるために生じるものです。
ご本人や周囲が特性を理解し、適切な工夫や支援を行うことで、困難を軽減し、より生きやすい環境を作ることができます。

具体的な生活上の困難としては、以下のような例が挙げられます。

  • 人間関係: 友人を作るのが難しい、職場で協調性が求められるのが苦手、パートナーとのコミュニケーションで誤解が生じやすい。
  • 社会生活: 暗黙のルールが分からない、場の空気が読めない、手続きや書類仕事が苦手。
  • 仕事: 曖昧な指示が理解できない、マルチタスクが苦手、予想外の変更に対応できない、特定の作業に集中しすぎて他のことがおろそかになる。
  • 日常生活: 予定変更に対応できない、整理整頓が苦手、感覚過敏で外出が億劫になる、強いこだわりで家族と衝突する。
  • 感情の調整: 自分の感情に気づきにくい、または感情のコントロールが難しい、強いストレスを感じやすい。

これらの困難に対して、ご本人や周囲ができる工夫や、利用できる支援があります。

本人や周囲ができる工夫・支援方法

ご本人ができる工夫:

  • 自己理解を深める: 自分の特性(得意なこと、苦手なこと、ストレスを感じやすい状況など)を理解することが第一歩です。書籍やインターネットでASDについて学ぶ、専門家と話す、同じ特性を持つ人の話を聞くなどが有効です。
  • コミュニケーションの方法を学ぶ: ロールプレイングやソーシャルスキルトレーニング(SST)などを通じて、相手に伝わりやすい話し方、相手の気持ちを推察する方法、会話のキャッチボールの仕方などを具体的に学ぶことができます。
  • 自分の「トリガー」を知る: どのような状況や刺激で強いストレスを感じるかを知り、可能な範囲でそれを避ける、または対処法を準備する(例:騒がしい場所ではイヤーマフを使用する)。
  • ルーティンを作る: 変化が苦手な場合は、ある程度のルーティンを決めて生活することで、安定感を得やすくなります。
  • 休憩を挟む: 集中しすぎたり、感覚的な刺激に晒されすぎたりすると疲弊しやすいので、意識的に休憩時間を設けることが重要です。
  • 苦手なことは周囲に伝える: 信頼できる人には、自分の苦手なことや助けが必要な状況を具体的に伝えてみることも勇気が必要です。
  • ストレス解消法を見つける: 自分の好きなことやリラックスできる活動(特定の趣味、散歩、軽い運動など)を見つけ、定期的に行うことで、ストレスを軽減できます。

周囲(家族、友人、職場の人など)ができる工夫:

  • 特性を理解する: 本人の言動が、悪気からではなく、特性から来ている可能性を理解しようと努めることが大切です。
  • 明確で具体的なコミュニケーション: 曖昧な表現や皮肉は避け、指示や依頼は具体的かつ簡潔に伝えるようにします。「あれ」「これ」ではなく「〇〇の書類」、「ちょっと待って」ではなく「5分後に」のように、具体的な言葉を選びましょう。
  • 視覚的な情報を活用する: 言葉だけでなく、メモ、リスト、図、写真など視覚的な情報も加えて伝えることで、理解しやすくなる場合があります。
  • 変化を予告する: 予定や手順の変更がある場合は、できるだけ早く、具体的に伝えることで、本人の混乱やストレスを軽減できます。
  • 物理的な環境調整: 感覚過敏がある場合は、照明を調整する、音の少ない場所を用意する、パーティションで区切るなど、本人にとって過ごしやすい環境に調整することを検討します。
  • ポジティブな面に目を向ける: 特定の興味への深い知識、高い集中力、正直さ、ルールを守る真面目さなど、ASDの特性からくる長所や得意なことに目を向け、それを活かせる機会を作るように促します。
  • プライベートな空間を尊重する: 一人で静かに過ごしたい時間や空間を必要とする場合があります。
  • 相談窓口の利用を促す: 本人や家族だけで抱え込まず、専門家や支援機関に相談することを勧めましょう。

利用できる医療・療育・福祉サービス

アスペルガー症候群(ASD)の特性によって日常生活に困難を抱えている場合、様々な医療・療育・福祉サービスを利用することができます。

サービスの種類 内容 主な対象者・場所
医療機関(精神科など) 診断、特性に関する相談、二次障害(うつ、不安障害など)の治療、必要に応じて薬物療法(衝動性や不安などに対する対症療法) 本人、ご家族 / 精神科、心療内科、発達外来、小児科(子どもの場合)
発達障害者支援センター 発達障害に関する総合的な相談窓口。情報提供、専門機関への紹介、各種サービスの利用調整、ペアレントトレーニング、セミナー開催など。 本人、ご家族、関係機関 / 各都道府県・指定都市に設置
精神保健福祉センター 精神的な健康に関する相談窓口。発達障害を含む精神的な問題に関する相談、医療機関や福祉サービスの情報提供など。 本人、ご家族 / 各都道府県・政令指定都市に設置
ハローワークの専門窓口 発達障害など障害のある方の就職に関する相談・支援。専門の相談員によるカウンセリング、就職活動のサポート、職場定着支援など。 就職を希望する障害のある方 / 各地のハローワーク
就労移行支援事業所 障害のある方が一般企業への就職を目指すための訓練やサポートを行う事業所。ビジネススキル習得、自己分析、企業実習、就職後の定着支援など。 一般企業への就職を希望する障害のある方 / 各地に多数
地域活動支援センター 地域の障害のある方が交流したり、創作的活動や生産活動を行ったりする場。地域における孤立防止、生活の安定、社会との交流促進などを目的とする。 地域の障害のある方 / 各市町村などに設置
障害者手帳 療育手帳(知的障害)、精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳がある。ASDのみで知的遅れがない場合は、精神障害者保健福祉手帳の対象となる場合がある。 診断を受けた方 / 各市町村の福祉課など
自立支援医療制度 精神疾患(発達障害を含む)の治療にかかる医療費の自己負担額を軽減する制度。 精神疾患の治療を受けている方 / 各市町村の福祉課など
各種手当 障害年金、特別児童扶養手当など、障害の程度や状況に応じた経済的な支援。 障害のある方、またはその保護者 / 年金事務所、市町村の福祉課など

これらのサービスは、ご本人の年齢や特性の程度、生活状況などによって利用できるものが異なります。
まずは、お近くの発達障害者支援センターや精神保健福祉センターに相談し、どのようなサービスが利用できるか情報収集することから始めるのが良いでしょう。

アスペルガー症候群の治療法について

アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)は、根本的に「治す」治療法はありません
これは、ASDが病気というよりも、脳の特性によるものだからです。
治療の目的は、特性そのものをなくすことではなく、特性によって生じる生活上の困難を軽減し、本人が社会生活に適応し、自分らしく能力を発揮できるよう支援することです。

具体的なアプローチとしては、以下のようなものがあります。

  • 療育・訓練:
    • ソーシャルスキルトレーニング(SST): 人との関わり方やコミュニケーションの方法を、ロールプレイングなどを通じて具体的に学びます。
    • 認知行動療法(CBT): 物事の捉え方や感情のコントロールについて学び、困難な状況への対処方法を身につけます。
    • 応用行動分析(ABA): 特定の行動の理由を分析し、適切な行動を増やしたり、不適切な行動を減らしたりするための介入を行います。主に子どもの療育で用いられます。
  • 環境調整: ご本人にとって過ごしやすい環境を作るための工夫です。物理的な環境(音、光、物の配置など)の調整や、コミュニケーションの方法、仕事の指示の出し方などを調整します。
  • ペアレントトレーニング: 子どものASD特性を理解し、適切に関わるための親向けのプログラムです。
  • 薬物療法: ASDの核となる特性(対人関係の困難やこだわり)を直接的に治療する薬はありません。しかし、ASDに伴って現れる二次障害(うつ病、不安障害など)や、衝動性、不注意、易刺激性といった併存するADHDなどの症状に対して、対症療法として薬が処方されることがあります。薬の使用については、必ず医師とよく相談し、効果と副作用を理解した上で行うことが重要です。
  • カウンセリング: 本人や家族が抱える悩みやストレスについて相談し、気持ちを整理したり、解決策を見つけたりするためのサポートです。

これらのアプローチは、個々の特性や年齢、生活状況に合わせて組み合わせて行われます。
重要なのは、ご本人の特性を理解し、本人の強みを活かしながら、苦手な部分に対する具体的な対処法や支援を見つけていくことです。
専門家(医師、心理士、作業療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカーなど)と連携しながら、オーダーメイドの支援計画を立てることが望ましいでしょう。

アスペルガー症候群のある有名人(※補足情報として)

インターネットや書籍などで、歴史上の人物や現代の有名人がアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の特性を持っていたのではないか、あるいは公表している、といった情報を見かけることがあります。

ただし、これらの情報は、ご本人が公表しているケースを除き、あくまで推測や専門家による後世からの分析に基づくものがほとんどです。
特に故人の場合、当時の診断基準や情報が限られているため、確定的な診断は困難です。

ASDの特性には、特定の分野への強い関心や集中力、独自の視点といった、偉業を成し遂げた人々に共通するような特性も含まれることがあります。
そのため、歴史上の多くの偉人や、特定の分野で突出した能力を発揮した人物が、ASDの特性を持っていたのではないかと推測されることがあります。
例えば、アルバート・アインシュタイン、アイザック・ニュートン、モーツァルトなどが挙げられることがありますが、これらは公式な診断に基づくものではありません。

現代においては、ご自身でASDやADHDなどの発達障害であることを公表されている有名人の方もいらっしゃいます。
そういった方々の存在は、社会のASDへの理解を進める一助となり、同じ特性を持つ方々に勇気を与えることにもつながります。

しかし、個人的な情報であるため、ご本人が公表していない方についてASDであるかどうかを憶測したり、安易に公表したりすることは、プライバシーの侵害や偏見につながる可能性があります。

ここでは、具体的な有名人の名前を挙げることは控えますが、もし関心があれば、ご自身で信頼できる情報源(ご本人の公式な発表など)に基づいて調べてみることをお勧めします。
重要なのは、特定の有名人がASDであるかどうかに一喜一憂することではなく、ASDという特性が多様な人々の中に存在し、それがその人の個性や才能の一部となり得るという理解を深めることです。

アスペルガー症候群(ASD)についてよくある質問


診断は大人になってからでも受けられますか?

はい、大人になってからでも診断を受けることは可能です。
アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の特性は生まれつきのものですが、幼少期には目立たず、社会生活が複雑になるにつれて困難が顕在化し、大人になってから医療機関を受診して診断に至るケースは少なくありません。
ご自身の特性について理解を深めたい、生活上の困難を改善したいと考えている方は、専門の医療機関に相談することをお勧めします。

知的遅れがない場合でも「障害」なのですか?

はい、アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)は、知的遅れの有無にかかわらず、対人関係やコミュニケーション、こだわりなどの特性によって社会生活に困難を抱えている場合に診断される発達障害です。
「障害」という言葉には抵抗がある方もいらっしゃるかもしれませんが、これは病気や能力の欠如を示すものではなく、脳の情報処理の仕方の特性によって、定型発達の多数派がスムーズに行えることが苦手であるために、社会生活で「障害」が生じやすい、という意味合いが強いです。
診断を受けることで、特性に合わせた支援や工夫につながり、生活の質を向上させることが期待できます。

治す薬はありますか?

アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の核となる特性そのものを治す薬はありません
特性は脳の構造や機能の違いによるものなので、薬で変化させることは難しいです。
しかし、ASDに伴って現れる二次障害(うつ病、不安障害など)や、併存するADHDなどの症状(衝動性、不注意など)に対しては、薬物療法が有効な場合があります。
薬はあくまで症状を和らげるための対症療法であり、医師の指示のもと、慎重に使用されます。

仕事で困っています。どのような支援がありますか?

アスペルガー症候群(ASD)のある方が仕事で困っている場合、様々な支援を利用できます。

  • 医療機関: 診断に基づき、特性に合わせた働き方について医師やPSW(精神保健福祉士)に相談できます。
  • 発達障害者支援センター: 就職に関する相談、適職探しのアドバイス、必要な支援に関する情報提供を受けられます。
  • ハローワークの専門窓口: 障害のある方のための専門窓口があり、求職活動のサポートや、障害者雇用枠に関する情報提供を受けられます。
  • 就労移行支援事業所: 就職に必要なスキル訓練や、企業実習、就職活動のサポートを受けられます。
  • 職場での合理的配慮: 診断名がある場合、事業主に対して、特性に応じた働きやすい環境の整備や支援(例:指示を具体的に出す、静かな作業場所を確保する、タスクを明確にするなど)を求めることができます。

これらの支援を活用することで、ご自身の特性に合った仕事を見つけたり、働きやすい環境を整えたりすることが可能になります。

家族がアスペルガー症候群かもしれません。どう接すればいいですか?

ご家族がアスペルガー症候群(ASD)の特性を持っている可能性があると感じている場合、まずはご家族の特性について正しく理解しようと努めることが大切です。

  • 特性を理解する: ASDに関する書籍を読んだり、専門家(医師、心理士、支援センターなど)から話を聞いたりして、ASDの特性について学びましょう。ご本人の言動が、悪気からではなく、特性から来ている可能性があることを理解することが、建設的な関わりの第一歩です。
  • コミュニケーションを工夫する: 曖昧な表現や抽象的な言い回しは避け、具体的で分かりやすい言葉で伝えましょう。一度にたくさんの情報を与えず、簡潔に一つずつ伝える方が理解しやすい場合があります。表情や声のトーンだけで判断せず、言葉の額面通りに受け取る傾向があることを理解しましょう。
  • 予期せぬ変更は避ける・予告する: 変化が苦手な場合が多いので、急な予定変更はできるだけ避け、変更が必要な場合は事前に具体的に予告するようにしましょう。
  • こだわりや感覚過敏に配慮する: ご本人の強いこだわりや感覚の偏り(特定の音や匂いが苦手など)を理解し、可能な範囲で配慮しましょう。頭ごなしに否定せず、なぜそうするのか理由を聞いてみることも大切です。
  • 感情的にならずに対応する: ご本人がパニックになったり、強いこだわりを示したりしたとき、感情的に対応するとかえって混乱を招くことがあります。まずは落ち着いて、ご本人の状態を理解しようと努めましょう。
  • 肯定的な関わりを心がける: 苦手なことばかりに目を向けるのではなく、ご本人の得意なことや長所、良い面に目を向け、それを認め、肯定的に伝えるようにしましょう。
  • 家族も休息を取る: ご家族が一人で抱え込まず、ご自身の心身の健康も大切にしましょう。支援機関や自助グループなどを利用して、相談したり、同じ立場の人と情報交換したりすることが助けになります。
  • 専門機関に相談する: もし可能であれば、ご本人と一緒に、またはご家族だけでも専門の医療機関や発達障害者支援センターに相談してみましょう。専門家から具体的なアドバイスや支援方法について聞くことができます。

これらの工夫を通じて、ご家族との関係性がより円滑になることが期待できます。


【まとめ】アスペルガー症候群(ASD)を理解し、自分らしく生きるために

アスペルガー症候群は、現在では自閉スペクトラム症(ASD)という連続体の一部として捉えられています。
対人関係やコミュニケーションの困難、限定された興味やこだわり、感覚の偏りといった特性は、生まれつきの脳機能の違いによるものであり、決して本人の努力不足や育て方によるものではありません。

ASDの特性を持つ方は、社会生活の中で様々な困難に直面することがありますが、それは「できない」のではなく、「多数派とは異なる情報処理スタイルを持っている」ためです。
ご本人や周囲がこの特性を正しく理解し、具体的な工夫や適切な支援を行うことで、困難を軽減し、自分らしく能力を発揮し、より豊かな生活を送ることが可能になります。

診断は、ご自身の特性を理解し、適切な支援につながるための重要なステップです。
もし、ご自身やご家族がアスペルガー症候群(ASD)の特性に心当たりがあり、生活上の困難を抱えている場合は、一人で悩まず、まずは精神科、心療内科、発達外来などの専門医療機関や、発達障害者支援センターなどの公的機関に相談することをお勧めします。
専門家との連携を通じて、ご自身の、またはご家族の特性に合わせた、オーダーメイドの生き方や支援方法を見つけていくことができるでしょう。

この情報が、アスペルガー症候群(ASD)について理解を深め、より生きやすい社会を築くための一助となれば幸いです。


免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や助言を行うものではありません。
アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の診断や治療に関しては、必ず専門の医療機関にご相談ください。
記載された情報に基づいて読者が下した判断や行動により生じたいかなる結果についても、当サイトは責任を負いかねます。

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