PTSDの治し方とは?効果的な治療法と克服へのステップ

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、生命に関わるような強い恐怖や衝撃を伴う出来事を体験した後に起こる精神的な病気です。一人で抱え込まず、適切な知識とサポートを得ることで、回復への道が開かれます。「ptsd 治し方」について、専門的な治療法から日常生活でのセルフケア、回復のステップまでを詳しく解説します。
この記事が、あなたやあなたの大切な人が回復への一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。PTSDは決して特別な病気ではなく、適切な治療によって多くの人が回復を目指せる病気です。

PTSDとは?原因と主な症状

PTSDは、過去のつらい出来事が現在の心と体に影響を及ぼし、日常生活に支障をきたす病気です。まずは、PTSDがどのようなもので、何が原因で、どのような症状が現れるのかを理解することから始めましょう。

PTSDの定義:トラウマ体験との違い

トラウマ体験とは、「心に傷を残すような衝撃的な出来事」そのものを指します。例えば、大きな事故に遭った、災害を体験した、犯罪被害に遭った、といった出来事です。これらの出来事の多くは、生命や身体の安全に対する現実的な脅威を伴います。

一方、PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、そのようなトラウマ体験をした後に発症する精神疾患です。トラウマ体験をした誰もがPTSDになるわけではありません。多くの人は、つらい経験をした後も自然に回復していきます。しかし、一部の人では、その出来事が強烈すぎて心が処理しきれず、様々な症状が長期間にわたって続き、PTSDと診断されます。つまり、トラウマ体験は「原因」であり、PTSDはトラウマ体験の「後遺症」と言えます。

診断にあたっては、国際的な診断基準(DSM-5など)が用いられますが、これは専門家が行うものです。大切なのは、つらい体験の後、心身の不調が長く続き、自分らしくいられないと感じたら、専門家に相談することです。

PTSDの主な原因

PTSDの原因となるトラウマ体験は多岐にわたりますが、共通しているのは、生命や身体の安全、あるいは精神的な安全が脅かされるような、強い恐怖や無力感、衝撃を伴う出来事であるという点です。

具体的には以下のようなものが挙げられます。

  • 自然災害: 地震、津波、台風、洪水など
  • 事故: 交通事故、航空機事故、火災など
  • 犯罪被害: 強盗、暴行、性犯罪など
  • 戦争や紛争: 戦闘体験、難民体験など
  • 虐待: 児童期の身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクトなど
  • 家庭内暴力(DV): 配偶者やパートナーからの暴力
  • 重篤な病気や怪我: 自身や大切な人の病気、手術、集中治療室での体験など
  • 大切な人との死別: 突然の、あるいは衝撃的な死別

これらの出来事は、一回限りのもの(単回性トラウマ)の場合もあれば、長期間にわたって繰り返されるもの(慢性的トラウマ)の場合もあります。慢性的トラウマ、特に児童期に経験する虐待などは、後述する複雑性PTSDの原因となることが多いとされています。トラウマ体験の性質や強度、期間は、発症リスクや症状の現れ方に影響を与えると考えられています。

PTSDの三大症状とは?(再体験、回避、過覚醒)

PTSDの主な症状は、大きく三つのカテゴリーに分類されます。これらの症状がトラウマ体験後に現れ、1ヶ月以上続き、日常生活に支障をきたしている場合にPTSDと診断されます。

  1. 再体験症状(侵入症状):
    トラウマ体験が、まるで今そこで再び起こっているかのように鮮明に思い出されたり、体験したりする症状です。
    • フラッシュバック: 突然、トラウマ体験時の映像、音、感覚などが生々しく蘇り、強い恐怖や苦痛を感じます。まるでタイムスリップしたかのようになり、現実との区別がつかなくなることもあります。
    • 悪夢: トラウマ体験に関連する、あるいは内容が酷似した悪夢を繰り返し見ます。
    • 侵入思考やイメージ: 意に反して、トラウマ体験に関する考えやイメージが頭に浮かび、苦痛を感じます。
    • トラウマ関連刺激への強い心理的・生理的反応: トラウマを思い出させるような場所、人、音、匂いなどに触れると、強い不安、動悸、発汗、震えなどのパニックに近い反応が出ます。
  2. 回避症状:
    トラウマに関連する思考、感情、場所、状況などを意図的に避けようとする症状です。
    • 思考や感情の回避: トラウマ体験について考えたり話したりすることを避けます。関連する感情(恐怖、怒り、罪悪感など)を感じないようにしようとします。
    • 外的な回避: トラウマを思い出させるような場所(例:事故現場の近く)、人物、活動、会話などを避けます。その結果、外出できなくなったり、特定の場所に行けなくなったりすることがあります。
    • トラウマ体験の重要な側面の想起不能: トラウマ体験の一部、特に重要な部分を思い出せなくなります(解離性健忘)。
  3. 過覚醒症状:
    トラウマ体験後、常に危険を警戒しているような状態が続く症状です。神経が張り詰めているような感覚です。
    • 入眠・睡眠維持の困難: なかなか眠りにつけなかったり、夜中に何度も目が覚めたりします。悪夢を見ることも関連します。
    • 易刺激性・怒りの爆発: ささいなことでイライラしたり、突然怒りっぽくなったりします。
    • 集中困難: 物事に集中するのが難しくなります。
    • 過剰な警戒心(過度の警戒): 周囲を常に警戒しており、ささいな物音などに過敏に反応しやすくなります。
    • 驚愕反応の亢進: 突然の音や刺激に対して、大げさにビクッと跳ね上がるような反応を示します。

これらの症状に加えて、トラウマ体験に関連して、自分自身や世界に対する否定的な考え方(例:「自分は無能だ」「世界は危険な場所だ」)、罪悪感や恥の感覚、興味や関心の喪失、将来に対する希望のなさなどが現れることもあります。

PTSDになりやすい人の特徴

トラウマ体験の性質(原因の項目で述べた強度や期間など)はPTSDの発症に大きく関わりますが、同じトラウマ体験をしてもPTSDになる人とならない人がいます。これは、体験する側の要因も影響するためです。

PTSDになりやすいと考えられている要因には、以下のようなものがあります。

  • トラウマ体験の性質: トラウマの強度が高い、期間が長い、対人的なトラウマ(虐待、性犯罪など)である、などがリスクを高めます。特に、信頼している人からの裏切りを伴うトラウマは影響が大きいことがあります。
  • 過去のトラウマ経験: 過去に同様のトラウマ体験や、児童期のトラウマ(虐待、ネグレクトなど)がある場合、PTSDの発症リスクが高まります。
  • 精神疾患の既往: 過去にうつ病、不安障害、パニック障害などの精神疾患を患ったことがある場合、リスクが高まります。
  • 遺伝的要因: 精神疾患にかかりやすい遺伝的素因がある可能性も指摘されています。
  • 性格特性: 繊細、内向的、悲観的傾向、ストレスに弱い、自己肯定感が低いなどの特性が影響する場合があります。
  • 対処スキル: ストレスへの対処法を知らない、あるいは効果的な対処法を持っていない場合、リスクが高まります。
  • 周囲のサポートの有無: 家族や友人からの理解や精神的なサポートが得られない場合、孤立しやすく、回復が遅れる可能性があります。
  • 体験後の状況: トラウマ体験後も安全が確保されない状況が続いたり、二次被害を受けたりした場合、リスクが高まります。

これらの要因は相互に関連しており、複数の要因が重なることでリスクがさらに高まります。しかし、これらの要因があるからといって必ずPTSDになるわけではありませんし、逆にこれらの要因がなくてもPTSDを発症することはあります。あくまで「なりやすさ」を示すものであり、病気になったのはご自身の責任ではないことを理解することが重要です。

PTSDは自然に治る?回復の可能性と慢性化

「このつらい症状はいつまで続くのだろうか」「自然に良くなることはないのだろうか」と不安に思っている方もいらっしゃるかもしれません。PTSDは、適切な対処や治療がなければ慢性化しやすい一方で、自然回復したり、専門家のサポートによって回復を目指したりすることが十分に可能です。

自然回復する場合とは

トラウマ体験をした人の多くは、時間が経つにつれて自然に症状が軽減し、回復していきます。これは、人間の本来持っている回復力や、周囲からのサポート、安全な環境などが影響していると考えられます。

自然回復しやすいのは、以下のようなケースです。

  • トラウマ体験が比較的軽度または一回限りのもの: 命の危険を感じるほどではなかった、あるいは短時間で終わった体験の場合。
  • トラウマ体験後に安全な環境が確保された: 危険な状況から速やかに離れることができ、心身を休めることができる環境にいる場合。
  • 家族や友人など、信頼できる人からの十分なサポートが得られている: 安心して話を聞いてもらえたり、精神的に支えてもらえたりする場合。
  • 本人が元々持っている対処スキルが高い: ストレスを乗り越える力や、困難な状況に適応する力がある場合。
  • 他の精神疾患や身体疾患がない: 併存する他の病気がない場合。

これらの条件が揃っている場合、特別な専門治療を受けなくても、時間とともに症状が和らぎ、日常生活を取り戻せる可能性があります。体験後、数週間から数ヶ月で症状が改善するケースは少なくありません。

治療が必要なケース:慢性化を防ぐために

一方、以下のようなケースでは、自然回復が難しく、専門的な治療が必要となる可能性が高まります。治療を受けずに放置すると、症状が慢性化し、日常生活に深刻な影響を及ぼすだけでなく、うつ病、不安障害、アルコール・薬物依存、身体疾患などの他の問題を引き起こすリスクも高まります。

治療が必要となる、あるいは検討すべきケースは以下の通りです。

  • 症状が強く、日常生活(仕事、学業、人間関係など)に支障が出ている: フラッシュバックが頻繁に起こり、集中できない。回避行動のために外出できない。過覚醒症状で常に緊張しており、人との関わりが難しい、など。
  • 症状が1ヶ月以上続いている、あるいは悪化している: トラウマ体験から時間が経っても症状が改善しない、むしろひどくなっている。
  • 抑うつ気分、不安、イライラ、自傷行為、自殺念慮などが見られる: 精神的な苦痛が非常に大きく、危険な状態にある。
  • アルコールや薬物に頼るようになった: つらい感情や症状を紛らわすために依存症のリスクがある行動をとっている。
  • トラウマ体験が深刻であった: 命の危機が非常に高かった、長期にわたる虐待であった、対人的な暴力であったなど。
  • 周囲からのサポートが得られにくい、あるいは孤立している: 一人で苦しんでいる状態。
  • 他の精神疾患や身体疾患を併発している: PTSDだけでなく、他の病気の治療も必要。

このような場合、早期に専門家(精神科医、心療内科医、公認心理師など)に相談し、適切な診断と治療を受けることが、症状の慢性化を防ぎ、回復への近道となります。一人で悩まず、助けを求める勇気が大切です。

PTSDが治る確率について

「PTSDは完全に治るのか?」「どのくらいの人が回復するのか?」という疑問を持つ方も多いでしょう。結論から言うと、PTSDは適切な治療を受けることで、多くの人が症状を大幅に軽減させ、日常生活を取り戻すことができる病気です。完全にトラウマ記憶を「消し去る」ことは難しいかもしれませんが、その記憶に苦しめられることなく、過去の経験と折り合いをつけ、自分らしく生きていくことは十分に可能です。

回復の確率や治療期間は、個人の症状の重さ、トラウマ体験の種類、併存疾患の有無、利用できるサポート、そしてどの治療法を受けるかなど、多くの要因によって異なります。

  • 心理療法: 特にトラウマに焦点づけた心理療法(認知処理療法、持続エクスポージャー法、EMDRなど)は、PTSDに対して非常に効果が高いことが多くの研究で示されています。これらの治療法を受けた人の半数以上が症状の寛解(症状が気にならないレベルまで軽減すること)を達成できるという報告もあります。
  • 薬物療法: 薬物療法も、再体験や過覚醒、抑うつ、不安などの症状を和らげるのに役立ちます。心理療法と併用することで、さらに高い効果が期待できる場合もあります。

重要なのは、回復は直線的ではないということです。治療の過程では、一時的に症状が悪化したり、停滞したりすることもあります。しかし、これは回復プロセスの一部であり、諦めずに治療を続けることが大切です。また、治療終了後も、再発予防のためのセルフケアや、必要に応じてフォローアップを受けることで、長期的な安定を維持することができます。

治療を受け始めるのが早いほど、回復も早い傾向がありますが、何十年も前のトラウマであっても、適切な治療を受けることで症状を改善させることは可能です。「もう遅すぎる」ということはありません。希望を持って、治療の第一歩を踏み出すことが重要です。

専門的なPTSDの治し方・治療法

PTSDの治療には、主に心理療法薬物療法があります。多くのガイドラインでは、トラウマに焦点づけた心理療法が第一選択肢として推奨されています。個々の症状や状況に応じて、これらの治療法を単独で行ったり、組み合わせて行ったりします。

医療機関を受診する重要性

PTSDの症状は、うつ病や不安障害など他の精神疾患の症状と似ている場合があり、自己判断は難しいことがあります。また、トラウマ体験自体が複雑であったり、併存する別の問題を抱えていたりする場合もあります。

専門の医療機関(精神科、心療内科など)を受診することには、以下のような重要なメリットがあります。

  • 正確な診断: 経験豊富な医師や専門家が、あなたの症状やトラウマ体験について詳しく聞き取り、他の病気との鑑別を含めて正確な診断を行います。
  • 適切な治療計画: 診断に基づいて、あなたの症状、トラウマの性質、生活状況などに最も適した治療法(心理療法、薬物療法、あるいはその組み合わせ)を提案し、治療計画を立ててくれます。
  • 専門家によるサポート: 安全な環境で、専門的な知識と技術を持つ治療者(医師、公認心理師、臨床心理士など)のサポートを受けながら治療を進めることができます。一人では向き合うのが難しいトラウマ記憶や感情にも、専門家の助けがあれば取り組むことができます。
  • 併存疾患への対応: PTSDは、うつ病、不安障害、パニック障害、解離性障害、物質使用障害などを併発しやすい病気です。医療機関では、これらの併存疾患についても同時に診断・治療を行うことができます。
  • 薬物療法の管理: 薬物療法が必要な場合、医師が症状や副作用を適切に管理しながら処方を行います。

最初の一歩を踏み出すのは勇気がいるかもしれませんが、専門家を頼ることは、回復への最も確実な道です。

PTSDの治療法:心理療法

心理療法は、PTSDの核となる症状(再体験、回避、過覚醒)に対して、非常に効果が期待できる治療法です。特に、トラウマ体験に焦点を当てて集中的に取り組む心理療法が推奨されています。安全な治療関係の中で、過去のつらい体験やそれに関連する感情、思考に向き合い、処理していくことを目指します。

認知行動療法(CBT)

認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)は、私たちの感情や行動が、どのように考え方(認知)と関連しているかに焦点を当てる心理療法です。PTSD治療におけるCBTでは、トラウマに関連する否定的な思考パターンや、恐怖からくる回避行動に焦点を当てていきます。

具体的には、以下のような技法が用いられます。

  • 認知再構成(Cognitive Restructuring): トラウマ体験に関連する現実的でない、または極端な否定的な思考(例:「あの時ああしていれば助かったのに」「自分はもうダメだ」)を特定し、より現実的でバランスの取れた考え方に変えていく練習をします。
  • 暴露療法(Exposure Therapy): 安全な環境で、治療者のサポートのもと、意図的にトラウマを思い出させるもの(記憶、イメージ、状況)に段階的に向き合っていきます。これにより、トラウマ関連の刺激に対する過剰な恐怖反応を減らし、安全であることを学習し直すことを目指します。暴露療法には、記憶を思い出す「想像暴露」と、実際にトラウマ関連の場所や状況に直面する「現実暴露(in vivo exposure)」があります。

CBTは、フラッシュバックや悪夢といった再体験症状、トラウマを避ける回避症状、そして過覚醒症状の軽減に効果が期待できます。通常、週に1回のセッションを数ヶ月間行います。

持続エクスポージャー法(PE)

持続エクスポージャー法(Prolonged Exposure Therapy: PE)は、CBTの一種であり、特にトラウマ関連の回避行動に焦点を当てた治療法です。トラウマ記憶や、トラウマを思い出させる状況への「暴露」を計画的かつ持続的に行うことで、トラウマ関連の恐怖や不安を乗り越えることを目指します。

PEの主な要素は以下の2つです。

  • 想像暴露(Imaginal Exposure): 安全な治療環境で、治療者のガイドのもと、トラウマ体験の記憶を詳細に、感情とともに繰り返し語ります。これにより、記憶に対する恐怖反応に慣れ、過去の出来事として処理できるようになることを目指します。セッション中は録音し、自宅でも繰り返し聞くことが課題とされることが多いです。
  • 現実暴露(In Vivo Exposure): トラウマを思い出させるけれど、実際には危険でない場所や状況に、段階的に直面する練習をします。例えば、交通事故の後で車の運転が怖くなった人なら、まず車に乗る練習から始め、次に近距離の運転、最終的には高速道路での運転へと進めていきます。回避していた行動を再開することで、日常生活の範囲を広げることを目指します。

PEは、フラッシュバック、回避、過覚醒といったPTSDの中核症状に対して非常に効果的であるという多くの研究結果があります。通常、週1〜2回のセッションを8〜15回程度行います。

眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)

眼球運動による脱感作と再処理法(Eye Movement Desensitization and Reprocessing: EMDR)は、トラウマ記憶の処理を促進することを目指す心理療法です。トラウマ体験後、適切に処理されずに「凍結」してしまったかのような記憶が、PTSD症状を引き起こすという考えに基づいています。

EMDRのセッションでは、まずトラウマ記憶の中でも最も苦痛を伴うイメージ、それに関連する否定的な認知(考え)、身体感覚などを特定します。次に、治療者の指の動きを目で追うなどの「両側性刺激」(左右交互の刺激)を与えながら、そのトラウマ記憶を思い浮かべます。この両側性刺激が、脳の情報処理を助け、トラウマ記憶をより適応的な形で再処理することを促すと考えられています。

EMDRは、トラウマ記憶に伴う感情的な苦痛を和らげ、否定的な認知をより肯定的なものに変えていくことを目指します。フラッシュバックや悪夢といった再体験症状に特に効果が期待されています。治療期間は、トラウマの種類や数、個人の状況によって異なりますが、比較的短期間で効果が現れることもあります。

その他の心理療法

上記以外にも、PTSDの治療に用いられる心理療法があります。

  • ナラティブ暴露療法(Narrative Exposure Therapy: NET): 特に、戦争や難民体験、組織的な暴力など、複数回にわたる慢性的トラウマを経験した人に対して効果が期待される治療法です。自身の人生の物語(ナラティブ)を時系列で語り、トラウマ体験をその中に位置づけていく作業を行います。
  • 精神力動的心理療法: 過去の経験、特に幼少期の人間関係が現在の心理状態にどのように影響しているかを探求し、無意識的な葛藤や感情に向き合うことで症状の改善を目指します。トラウマ体験だけでなく、複雑な背景を持つPTSDに対して有効な場合があります。
  • 対人関係療法(IPT): PTSDの症状によって生じる、あるいは悪化する対人関係の問題に焦点を当てる療法です。トラウマ記憶そのものには直接触れませんが、症状によって引き起こされる孤立や関係性の困難を改善することで、全体的な回復をサポートします。
  • スキーマ療法: 慢性的・複雑なトラウマによって形成された、自己や他者、世界に対する根深い否定的な考え方(早期不適応的スキーマ)に焦点を当てて治療を行います。

どの心理療法が最も適しているかは、症状の種類、トラウマの性質、個人の好みなどによって異なります。専門家と相談しながら、ご自身に合った治療法を選択することが重要です。

主な心理療法の比較

心理療法 主なターゲット アプローチ方法 治療期間の目安(一般的な場合)
認知行動療法 (CBT) 否定的な思考、回避行動 認知の修正、暴露療法 数ヶ月
持続エクスポージャー法 (PE) 回避行動、トラウマ記憶関連の恐怖 想像暴露、現実暴露 8〜15回程度
EMDR トラウマ記憶 両側性刺激(眼球運動など)を用いた記憶の再処理 個々によるが、比較的短期間も
ナラティブ暴露療法 (NET) 慢性的・複数回性トラウマ 人生の物語を語り、トラウマを位置づける 比較的短期間
精神力動的心理療法 過去の経験、無意識の葛藤 治療者との関係性の中で内面を探求 比較的長期
対人関係療法 (IPT) 対人関係の問題 現在の対人関係の困難に焦点を当てる 12〜16回程度

(※上記は一般的な目安であり、個人の状況によって大きく異なります。)

PTSDの治療法:薬物療法

薬物療法は、PTSDのすべての症状に効果があるわけではありませんが、特に再体験症状(フラッシュバック、悪夢)、過覚醒症状(不眠、イライラ、過度の警戒心)、そして併存するうつ病や不安障害の症状を和らげるのに役立ちます。心理療法が難しい場合や、心理療法と併用することでより効果が高まる場合があります。

主に使用される薬の種類(SSRIなど)

PTSDの薬物療法において、第一選択薬として推奨されているのは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)です。

  • SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor): 脳内の神経伝達物質であるセロトニンの働きを調整し、不安や抑うつ気分を和らげることで、再体験や過覚醒の症状、そして併存するうつ病や不安障害に効果を発揮します。セルトラリン(商品名:ジェイゾロフトなど)やパロキセチン(商品名:パキシルなど)がよく使用されます。効果が現れるまでに数週間かかることが一般的です。
  • SNRI(Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor): セロトニンに加えて、ノルアドレナリンの働きも調整する薬です。SSRIと同様に、PTSDの症状や併存するうつ病、不安障害に効果が期待できます。ベンラファキシン(商品名:イフェクサーなど)が使用されることがあります。

これらの抗うつ薬以外にも、個々の症状に合わせて以下のような薬が補助的に使用されることがあります。

  • 気分安定薬: 気分の波を抑えたり、衝動性や攻撃性を軽減したりするのに使用されることがあります。
  • 抗精神病薬: 思考の混乱や解離症状、強い不安などに対して、低用量で使用されることがあります。
  • βブロッカー: 動悸や震えといった身体的な不安症状を和らげるのに使用されることがあります。
  • 睡眠薬: 不眠がひどい場合に使用されますが、依存性のリスクがあるため、短期間の使用にとどめることが多いです。
  • Prazosin(プラゾシン): α1ブロッカーと呼ばれる種類の薬で、特に悪夢や夜間の過覚醒に対して有効である可能性が示唆されており、海外では使用されることがあります。

注意点: ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、一時的に不安を和らげる効果はありますが、依存性のリスクが高く、トラウマ記憶の処理を妨げる可能性があるため、PTSDの治療においては慎重な使用が求められます。

薬物療法の目的と効果

薬物療法の主な目的は、PTSDの症状による苦痛を軽減し、心理療法に取り組みやすくなるようにサポートすることです。

  • 症状の軽減: フラッシュバックの頻度や強度を減らす、悪夢を減らす、睡眠を改善する、イライラや不安感を和らげる、過剰な警戒心を軽減するといった効果が期待できます。
  • 心理療法の補助: 症状が強いと、心理療法でトラウマに向き合うことが困難になる場合があります。薬物療法で症状をある程度安定させることで、心理療法をより効果的に進められるようになります。
  • 併存疾患の治療: 併発したうつ病や不安障害、パニック障害などの症状を治療します。

薬物療法は、あくまで症状を和らげるための補助的な治療であり、トラウマ記憶そのものを処理したり、回避行動を改善したりする効果は限定的です。そのため、可能であれば心理療法と組み合わせて行うことが推奨されます。薬の種類や量は、医師があなたの症状や体質に合わせて慎重に調整します。自己判断で服用量を変えたり、服用を中止したりすることは危険ですので、必ず医師の指示に従ってください。

PTSDを「消す」ことは可能か?

PTSDの治療を受ける上で、「トラウマ記憶を完全に消し去りたい」「あの体験を全く思い出さないようになりたい」と願うのは自然なことです。しかし、現在の医学や心理学では、過去の記憶そのものを脳から完全に消し去ることは不可能だと考えられています。

PTSD治療の目標は、トラウマ記憶を消すことではなく、その記憶に苦しめられることなく、過去の出来事として受け止め、日常生活を送れるようになることです。例えるなら、心の傷跡を消すのではなく、傷跡があっても痛まず、その傷跡を見ても動揺しなくなるようにすることです。

適切な心理療法や薬物療法を受けることで、以下のような変化が期待できます。

  • フラッシュバックや悪夢の頻度・強度の軽減: トラウマが鮮明に蘇って、まるで今起こっているかのような感覚になることが減ります。
  • トラウマ関連の刺激に対する過敏な反応の軽減: トラウマを思い出させるものに触れても、以前ほど強い恐怖やパニック反応が出なくなります。
  • 回避行動の減少: 怖くて避けていた場所や状況にも、徐々に向き合えるようになります。
  • 過覚醒症状の緩和: 常に張り詰めていた神経が緩み、リラックスできるようになります。睡眠が改善したり、集中力が戻ったりします。
  • 否定的な思考や感情の変化: 自分自身や世界に対する悲観的な考え方が和らぎ、罪悪感や羞恥心、怒りといった感情をコントロールできるようになります。

これらの変化を通じて、トラウマ体験がもたらす「現在」の苦痛を減らし、過去の出来事として「過去」に位置づけることができるようになります。記憶は残りますが、その記憶があなたの人生を支配することはなくなります。つまり、PTSDの治療は、トラウマを「消す」のではなく、トラウマによって「歪められた人生」を修復し、より良い未来を築くためのプロセスと言えるでしょう。

日常生活でできること・セルフケア

専門的な治療と並行して、日常生活でご自身や周囲の人ができるセルフケアやサポートも、回復には非常に重要です。毎日の小さな積み重ねが、心身の安定につながります。

フラッシュバックが起きた時の対処法

フラッシュバックは非常に苦痛で、圧倒される感覚を伴います。完全に防ぐのは難しいかもしれませんが、起きてしまった時に、その苦痛から自分を切り離し、現実に戻るための対処法を知っておくことは役立ちます。これを「グラウンディング」と呼びます。

グラウンディングの目的は、過去のトラウマ体験に引きずられるのではなく、「今、ここ」という現実に意識を向けることです。いくつかの方法があります。

  • 5-4-3-2-1法:
    • 5つ: 自分が「見えているもの」を5つ挙げる。(例:テーブル、壁の絵、自分の手、窓の外の木、電気のスイッチ)
    • 4つ: 自分が「触れることができるもの」を4つ挙げる。(例:椅子の感触、服の生地、自分の髪、持っているペン)実際に触ってみる。
    • 3つ: 自分が「聞こえる音」を3つ挙げる。(例:時計の音、外の車の音、自分の呼吸音)
    • 2つ: 自分が「匂うもの」を2つ挙げる。(例:自分の服の匂い、部屋の匂い)
    • 1つ: 自分が「味わえるもの」を1つ挙げる。(例:口の中の味、ガムや飲み物があればその味)
      五感に意識を集中することで、強制的に現実世界に意識を向けます。
  • 触覚グラウンディング:
    • 自分の手を擦り合わせる、肌の感触に集中する。
    • 物の表面(机、壁、服など)を触り、その質感(冷たい、温かい、滑らか、ザラザラなど)に意識を向ける。
    • 足の裏を床につけ、地面とのつながりを感じる。
  • 呼吸法:
    • ゆっくりと、深呼吸を繰り返す。息を吸うときにお腹が膨らみ、吐くときにお腹が凹むのを感じる。
    • 4秒かけて吸い、4秒止めて、6秒かけて吐く、といったリズム呼吸も有効です。
    • 呼吸に意識を向けることで、体の感覚に集中し、落ち着きを取り戻します。
  • 安全な場所の確保:
    • できるだけ安全で落ち着ける場所に移動する。
    • 信頼できる人がいれば、近くにいてもらう。
    • 一人でいる場合は、ドアや窓を閉めるなど、安心できる状態を作る。
  • ポジティブな言葉かけ:
    • 「大丈夫、今は安全だ」「これは過去の出来事だ」「フラッシュバックはいつか終わる」など、自分に安心させる言葉を心の中で繰り返す。

これらのグラウンディング技法は、普段から練習しておくと、フラッシュバックが起きたときにスムーズに使えるようになります。症状が起こる前に、兆候を感じ取ったら早めに試してみるのも良いでしょう。

心身を安定させるための生活習慣

日々の生活習慣を整えることは、PTSDの症状を和らげ、心身の安定を取り戻す上で非常に重要です。基本的なことですが、症状によって難しくなることもあります。できることから少しずつ取り組んでみましょう。

  • 十分な睡眠の確保: PTSDの症状(悪夢、不眠、過覚醒)は睡眠を妨げますが、睡眠不足は症状を悪化させます。規則正しい時間に寝起きする、寝る前にカフェインやアルコールを避ける、寝室を快適な環境にするなど、睡眠衛生を心がけましょう。
  • バランスの取れた食事: 規則正しい時間に食事を摂り、栄養バランスの取れた食事を心がけることは、体調を整え、精神的な安定にもつながります。空腹や血糖値の急変動はイライラや不安を増強させることがあります。
  • 適度な運動: ウォーキング、ジョギング、ヨガ、ストレッチなど、体を動かすことはストレスホルモンを減少させ、気分転換になります。過覚醒症状で溜まったエネルギーを解放するのにも役立ちます。無理のない範囲で、継続できる運動を見つけましょう。
  • リラクゼーション法: 筋弛緩法、腹式呼吸、瞑想、マインドフルネスなどは、心身の緊張を和らげ、リラックス効果をもたらします。これらの練習を日常に取り入れることで、ストレス耐性がつき、過覚醒症状の軽減にもつながります。
  • ストレスマネジメント: ストレスの原因を特定し、それを軽減するための方法を考えたり、ストレスに対する健康的な対処法(趣味、友人との交流、専門家への相談など)を持つことは重要です。
  • 安全な時間の確保: 毎日の中で、誰にも邪魔されず、安全でリラックスできる時間(例:好きな音楽を聴く、読書をする、お風呂にゆっくり浸かるなど)を意図的に作るようにしましょう。
  • 刺激物の制限: アルコール、カフェイン、ニコチンなどは、一時的に気分を紛らわせるように感じても、PTSDの症状、特に不安や不眠を悪化させることがあります。できるだけ控えることが推奨されます。

これらの生活習慣は、専門治療の効果を高め、回復を後押しする基盤となります。完璧を目指す必要はありません。ご自身のペースで、できそうなことから取り入れてみてください。

家族や周囲の人ができるサポート(かける言葉など)

PTSDを抱える人は、しばしば理解されにくい症状に苦しみ、孤立感を感じやすい傾向があります。家族や友人など、周囲の人の理解とサポートは、回復にとって非常に大きな力となります。

サポートする側ができること、心がけるべきことには以下のようなものがあります。

  • 話を「聞く」姿勢を持つ:
    • 傾聴: 相手が話したいときに、ただ静かに耳を傾ける。話を遮ったり、評価したり、アドバイスしたりせず、共感的な態度を示す。
    • 無理に聞き出さない: 話したくないときは、無理強いしない。話せる時が来るまで待つ姿勢が大切です。
    • 否定しない: 相手の感じている恐怖や苦痛、考え(「私のせいだ」「助けられなかった」など)を頭ごなしに否定しない。たとえ事実と異なっていても、その人がそう感じていることを認め、「つらかったね」「大変だったね」といった言葉で共感を示す。
  • 安全と安心を提供する:
    • そばにいること: フラッシュバックなど苦痛な時に、ただそばにいて、安全であることを伝えるだけでも大きな支えになります。(ただし、相手が一人になりたい場合は尊重する)
    • 落ち着いた対応: 症状が出ているときも、慌てず、落ち着いて対応する。
    • 物理的な安全: 必要に応じて、安心できる環境を整える(例:人が少ない場所を選ぶ、急な物音を避けるなど)。
  • 回復には時間がかかることを理解する:
    • 焦らさない: 回復は一進一退であり、すぐに元通りになるわけではありません。「早く元気になってほしい」という気持ちがあっても、それをプレッシャーとして伝えない。「ゆっくりで大丈夫だよ」と伝える。
    • 根気強く見守る: 症状がなかなか改善しないように見えても、諦めずに寄り添い続ける姿勢が大切です。
  • 具体的なサポートを提案する:
    • 「何か手伝えることはある?」「一緒に散歩に行こうか?」「病院の予約、一緒にする?」など、具体的な行動を提案する。
    • ただし、相手が断っても気にしない。あくまで選択肢として提案する。
  • 専門家への相談を勧める:
    • 「一人で抱え込まずに、専門の人に相談してみない?」など、優しく専門家への相談を勧める。無理強いはしない。
    • 一緒に相談先を探したり、初診に付き添ったりすることもサポートになります。
  • 自分自身のケアも大切にする:
    • PTSDの人をサポートするのはエネルギーが必要です。サポートする側も燃え尽きないように、自分の休息時間を確保したり、自分の信頼できる人に話を聞いてもらったりすることが重要です。サポート者自身も、必要であれば専門家への相談を検討しましょう。

NGな言葉かけの例:

  • 「もう忘れなさい」「いつまでも引きずってちゃダメだよ」
  • 「あなたの気のせいだよ」「大げさだよ」
  • 「もっと大変な人もいるんだから」
  • 「なんでそんなに弱いんだ」
  • 「頑張れば乗り越えられるよ」(相手は十分に頑張っています)
  • 「(トラウマ体験について)詳しく聞かせて」と興味本位で根掘り葉掘り聞くこと

これらの言葉は、相手の苦痛を否定したり、責めたりすることになり、かえって傷つけてしまう可能性があります。相手の感情やペースを尊重する姿勢が最も大切です。

複雑性PTSDとは?治し方や回復の見通し

通常のPTSDとは別に、「複雑性PTSD」と呼ばれる状態があります。これは、特に児童期における長期間にわたる虐待やネグレクト、あるいは慢性的・反復的なトラウマ(例:DV、組織的な暴力など)を経験した場合に起こりやすいとされています。通常のPTSDの症状に加え、より広範囲にわたる影響が見られるのが特徴です。

複雑性PTSDの定義と特徴

複雑性PTSDの診断基準は、通常のPTSDと異なり、トラウマ後に出現する自己組織化の障害(Disturbances in Self-Organization: DSO)と呼ばれる症状が含まれます。

DSOには以下の3つの側面があります。

  1. 感情調整の困難: 感情の波が激しく、感情をコントロールすることが非常に難しい。些細なことで激しく怒ったり、絶望的な悲しみを感じたりする。感情が麻痺したようになることもある。
  2. 否定的で傷つきやすい自己概念: 自分自身を無価値、欠陥がある、あるいは悪い人間だと強く信じ込んでいる。極端に低い自己肯定感を持つ。
  3. 対人関係の困難: 親密な関係を築くのが難しく、対人関係において問題が頻繁に生じる。人を信用できない、あるいは逆に依存的になりすぎる傾向がある。人間関係の中で支配するか、支配されるかといったパターンを繰り返すことがある。

これらの症状に加えて、複雑性PTSDでは解離症状(現実感がなくなる、自分ではないように感じる、記憶が飛ぶなど)や身体的な不調がより頻繁に見られることもあります。また、トラウマを与えた人物との間に、断ち切ることが難しい奇妙な絆(トラウマティック・ボンディング)が生じていることもあります。

複雑性PTSDは、単回性のトラウマによるPTSDよりも症状が多岐にわたり、自己の核となる部分や人間関係に深い影響を及ぼしているため、治療がより複雑で長期的になる傾向があります。

複雑性PTSDの治療アプローチ

複雑性PTSDの治療には、段階的なアプローチが推奨されています。これは、いきなりトラウマ記憶の処理に取り組むのではなく、まず心身の安定と安全な関係性の構築を優先するという考え方です。一般的に、以下の三段階モデルが用いられます。

  • 第1段階:安全と安定化の確立:
    • この段階では、症状のコントロールや、心身の安定化を目指します。
    • 感情調整スキルの習得(感情の波を乗り越える方法、グラウンディングなど)。
    • 対処スキルの向上(ストレスへの対処、健康的な生活習慣)。
    • 安全な環境の確保(物理的・精神的な安全)。
    • 治療者との信頼関係の構築。
    • 必要に応じて薬物療法で症状を和らげる。
    この段階は、次のトラウマ記憶の処理に安全に取り組むための基盤を作るために非常に重要であり、数ヶ月から1年以上かかることもあります。
  • 第2段階:トラウマ記憶の処理:
    • 第1段階で十分に安定が得られた後に、トラウマ記憶に取り組んでいきます。
    • 通常のPTSD治療で用いられるトラウマに焦点づけた心理療法(PE、EMDRなど)が用いられます。
    • ただし、複雑性PTSDの場合は、複数のトラウマがあることが多く、一度にすべてを処理することは難しい場合があるため、慎重に進められます。
  • 第3段階:再統合と回復:
    • トラウマ記憶の処理が進み、症状が軽減してきたら、日常生活への再統合と自己の回復に焦点を当てます。
    • 自己肯定感の向上。
    • 健康的な対人関係の再構築。
    • 人生の目標や意味の再発見。
    • トラウマ体験を自身の人生の一部として受け入れ、前向きに生きていくためのサポート。

複雑性PTSDの治療は、通常のPTSDよりも時間がかかり、しばしば数年に及ぶこともあります。しかし、適切な段階を踏み、専門家と根気強く取り組むことで、深い心の傷から回復し、より満たされた人生を送ることは十分に可能です。重要なのは、焦らず、一歩ずつ着実に進んでいくことです。

PTSDの治療に関する相談先と医療機関の選び方

PTSDの症状に苦しんでいる場合、一人で抱え込まずに専門家に相談することが最も重要です。どこに相談すれば良いのか、どのような医療機関を選べば良いのかについて解説します。

どこに相談すれば良い?

PTSDに関する相談や治療を受けることができる場所はいくつかあります。ご自身の状況や希望に合わせて選択できます。

  • 精神科・心療内科:
    • 精神疾患全般を専門とする医師がいる医療機関です。PTSDの診断、薬物療法、そして多くの場合、心理療法を提供できる専門家(医師自身または連携する公認心理師・臨床心理士)がいます。まずはここで診断を受けるのが一般的です。
  • 精神保健福祉センター:
    • 各都道府県や政令指定都市に設置されている公的な機関です。心の健康に関する相談窓口として、専門家(精神保健福祉士、公認心理師、医師など)が相談に応じてくれます。医療機関の紹介や、利用できる公的支援制度の情報提供なども行っています。
  • カウンセリング機関(公認心理師・臨床心理士など):
    • 病院とは別に、心理療法を専門に行っている機関です。公認心理師や臨床心理士といった専門家が、PTSDに対する心理療法を提供します。医療機関での診断と並行して、あるいは医師の紹介を受けて利用することが多いです。
  • 自助グループ:
    • PTSDやトラウマ体験を経験した当事者同士が集まり、体験や感情を共有し、支え合うグループです。同じ苦しみを分かち合える人との出会いは、孤立感を和らげ、回復への希望につながることがあります。
  • トラウマ専門治療センター:
    • PTSDや複雑性PTSDなど、トラウマ関連疾患の専門的な治療を提供している医療機関や施設です。より重症なケースや、複雑な背景を持つ場合に選択肢となります。
  • 災害時の相談窓口:
    • 大きな災害が発生した際には、被災者向けの心のケア相談窓口が設置されます。PTSDの初期症状や、その後のケアについて相談できます。

まずは、かかりつけ医に相談してみる、あるいは精神保健福祉センターに電話相談してみることから始めても良いでしょう。いきなり精神科を受診することに抵抗がある場合でも、様々な相談先があります。

良い医療機関を見つけるポイント

PTSDの治療を受ける上で、ご自身に合った医療機関や治療者を見つけることは、治療の継続と効果に大きく影響します。いくつかポイントを挙げます。

  • PTSD/トラウマ治療の経験・専門性があるか:
    • すべての精神科医や心理士が、PTSD治療、特にトラウマに焦点づけた心理療法に詳しいわけではありません。受診を検討している医療機関のウェブサイトを確認したり、電話で問い合わせたりして、PTSD治療やトラウマケアに力を入れているか、専門の医師や心理士がいるかを確認しましょう。
    • 心理療法を希望する場合は、希望する心理療法(CBT、PE、EMDRなど)を提供できる治療者がいるかを確認することが重要です。
  • 医師や治療者との相性:
    • PTSD治療では、治療者との信頼関係(ラポール)が非常に重要です。話を安心してできるか、自分に寄り添ってくれていると感じられるかなど、相性は大切です。初診で「合わないな」と感じたら、セカンドオピニオンを検討したり、別の医療機関を探したりすることも必要です。
  • 治療方針の説明が丁寧か:
    • 診断結果や、提案される治療計画について、分かりやすく丁寧に説明してくれるか。治療の目的、方法、期間、期待される効果、副作用やリスクについて、納得できるまで質問できる雰囲気かどうかも重要です。
  • 通いやすさ:
    • 治療は継続することが大切です。地理的なアクセスや、予約の取りやすさなど、無理なく通院・通室できるかどうかも考慮しましょう。
  • 複数の医療機関を検討すること:
    • 可能であれば、いくつかの医療機関や相談先について情報収集し、比較検討することをお勧めします。焦らず、ご自身が最も信頼でき、安心して治療を任せられると感じる場所を選びましょう。

良い治療者との出会いは、回復への大きな一歩となります。積極的に情報収集を行い、納得のいく選択をしてください。

まとめ:PTSDは適切な治療で回復を目指せる病気

PTSDは、つらいトラウマ体験によって引き起こされる病気であり、フラッシュバックや回避、過覚醒といった苦痛な症状を伴い、日常生活に深刻な影響を及ぼすことがあります。しかし、PTSDは適切な治療を受けることで、多くの人が症状を大幅に軽減させ、回復を目指せる病気です。

この記事では、「ptsd 治し方」として、PTSDの基本的な理解から、心理療法(CBT、PE、EMDRなど)、薬物療法といった専門的な治療法、そして日常生活でできるセルフケアや周囲のサポート、複雑性PTSDについて解説しました。

重要なポイントは以下の通りです。

  • PTSDはトラウマ体験の後遺症であり、決してあなたの弱さや責任ではありません。
  • トラウマに焦点づけた心理療法が第一選択肢として推奨されており、高い効果が期待できます。
  • 薬物療法は、症状の軽減や心理療法の補助として有効です。
  • PTSD治療の目標は、トラウマ記憶を消すことではなく、その記憶に苦しめられず、過去の出来事として受け止められるようになることです。
  • グラウンディングなどのセルフケアや、心身を安定させる生活習慣は、回復をサポートします。
  • 家族や周囲の理解と共感的なサポートは、孤立を防ぎ、回復の大きな力となります。
  • 複雑性PTSDはより段階的な治療が必要ですが、回復は可能です。
  • 一人で抱え込まず、精神科・心療内科や精神保健福祉センターなど、専門家に相談することが回復への第一歩です。

回復の道のりは決して平坦ではないかもしれませんが、あなたには回復する力が備わっています。専門家のサポートを得ながら、焦らず、ご自身のペースで治療に取り組んでいくことが大切です。希望を失わず、前向きに回復を目指してください。

【免責事項】
この記事は情報提供のみを目的としており、医療的な診断や治療法を推奨するものではありません。個々の症状や状況については、必ず専門の医療機関に相談し、医師の指示に従ってください。

  • 公開

関連記事