イベルメクチン」の効果・副作用は?個人輸入のリスクを解説

イベルメクチンは、本来、特定の寄生虫感染症の治療に用いられる医薬品です。
しかし、近年、新型コロナウイルス感染症への効果について様々な情報が飛び交い、その関心が高まっています。
この記事では、イベルメクチンの本来の効果や適応症、新型コロナウイルスへの有効性に関する現状、日本国内での入手方法、そして副作用や安全性について、信頼できる情報に基づき詳しく解説します。
「イベルメクチンはやばい」といった噂の真偽や、市販薬として買えるのか、個人輸入のリスクについても触れていきますので、イベルメクチンに関する正しい知識を身につけるためにお役立てください。

イベルメクチンの概要と発見

イベルメクチンは、特定の寄生虫によって引き起こされる感染症の治療に有効な薬剤です。
その発見は医学界に大きな貢献をもたらしました。

イベルメクチンは、1970年代に日本の大村智博士とアメリカのウィリアム・キャンベル博士らによって発見されました。
土壌中の微生物、特に放線菌ストレプトミセス・アベルミティリスが産生するアベルメクチンという物質から誘導体として開発されたのがイベルメクチンです。
この発見は、熱帯病として多くの人々を苦しめていた寄生虫疾患の治療に革命をもたらし、両博士は2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
イベルメクチンは、線虫などの寄生虫の神経や筋肉に作用し、麻痺させて駆除することで効果を発揮します。

ストロメクトール錠について(日本の製剤)

日本国内でヒトへの使用が承認されているイベルメクチン製剤は、「ストロメクトール錠」という製品名で、米国メルク社が開発し、日本国内ではMSD株式会社が販売しています。
ストロメクトール錠は、医師の処方箋がなければ入手できない医療用医薬品です。
特定の寄生虫感染症に対してのみ、保険適用となる場合があります。

ヒトに対する主な適応症

ストロメクトール錠が日本国内で承認されているヒトに対する適応症は限られています。
主に以下の寄生虫疾患の治療に用いられます。

河川盲目症(オンコセルカ症)への効果

河川盲目症は、オンコセルカという線虫が寄生することで起こる病気です。
サシチョウバエに刺されることで感染が広がり、皮膚病変や視力障害を引き起こし、最終的に失明に至ることもあります。
特にアフリカなどの熱帯・亜熱帯地域で深刻な問題となっています。
イベルメクチンは、このオンコセルカの幼虫(ミクロフィラリア)を駆除する効果が高く、病気の進行を抑え、失明を予防するために世界中で使用されています。
大規模な薬剤寄贈プログラムにより、多くの地域で制圧が進んでいます。

疥癬(かいせん)への効果

疥癬は、ヒゼンダニというダニが皮膚の角質層に寄生することで起こる皮膚疾患です。
強いかゆみや湿疹が現れ、特に高齢者施設や病院などで集団発生することもあります。
通常の疥癬に対する塗り薬での治療が難しい場合や、免疫力が低下した人に起こる角化型疥癬(ノルウェー疥癬)に対して、イベルメクチン(ストロメクトール錠)が内服薬として使用されることがあります。
ダニの神経系に作用して駆除することで効果を発揮します。

その他寄生虫疾患への効果

ストロメクトール錠は、糞線虫症(ふんせんちゅうしょう)という線虫による感染症にも効果があります。
糞線虫は土の中に生息しており、皮膚から侵入して感染します。
通常は消化器症状や皮膚症状が出ますが、免疫抑制状態にある人では、全身に寄生虫が広がる「播種性糞線虫症」という重篤な状態になることがあります。
イベルメクチンは、糞線虫の駆除に非常に有効で、播種性糞線虫症の治療にも不可欠な薬剤とされています。

イベルメクチンクリームの効果と使われる病気

イベルメクチンは内服薬だけでなく、クリームタイプの製剤も存在します。
こちらは内服薬とは異なる疾患に用いられます。
日本国内で承認されているイベルメクチンクリームの製品名は「スムスカベパウダー」で、主に酒皶(しゅさ、赤ら顔)や、顔に生息するニキビダニ(顔ダニ)の駆除を目的とした治療に使われます。
内服薬のような全身作用は少なく、皮膚に直接作用させることで効果を発揮します。
このように、同じイベルメクチンという成分でも、製剤の種類によって適応となる病気が異なる点に注意が必要です。

イベルメクチンと新型コロナウイルス感染症への有効性

イベルメクチンが本来、抗寄生虫薬であるにも関わらず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬として注目された時期がありました。
しかし、その有効性については、様々な研究結果が報告され、混乱が生じています。

コロナ治療薬としてのイベルメクチン研究結果

新型コロナウイルス感染症がパンデミックとなって以降、既存薬の中からCOVID-19に有効な薬剤を探す研究が進められました。
その中で、イベルメクチンが細胞レベルの試験(in vitro試験)において、新型コロナウイルスの増殖を抑制する効果が示唆されたことから、臨床試験が開始されました。

当初、一部の小規模な臨床試験では、イベルメクチンがCOVID-19の症状改善や重症化予防に有効である可能性を示唆する結果が報告されました。
しかし、これらの研究には方法論的な偏りや信頼性の問題が指摘されました。
その後、より大規模で信頼性の高い臨床試験(ランダム化比較試験など)が複数実施されましたが、現時点では、イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症の患者に対して、臨床的に意味のある有効性を示すという確固たる証拠は得られていません。
症状の改善を早めたり、入院や死亡のリスクを減らしたりする効果は、プラセボ(偽薬)と比較して明確に示されていないのが現状です。

各国の見解と推奨状況(WHO, 厚労省など)

世界保健機関(WHO)や各国の規制当局、主要な医療機関は、現時点での臨床試験の結果に基づき、新型コロナウイルス感染症に対するイベルメクチンの使用を推奨していません

  • WHO: 新型コロナウイルス感染症治療ガイドラインにおいて、臨床試験以外でのイベルメクチンの使用を推奨していません。
  • 日本の厚生労働省: 新型コロナウイルス感染症の診療の手引きにおいて、イベルメクチンは治療薬として承認されておらず、推奨もされていません
    研究目的以外での安易な使用を控えるよう注意喚起しています。
  • 米国食品医薬品局(FDA): 新型コロナウイルス感染症の治療薬としてのイベルメクチンの使用を承認しておらず、推奨もしていません。

これらの機関は、イベルメクチンが寄生虫症の治療薬としては安全で有効であることを認めていますが、COVID-19に対してはその有効性が科学的に証明されていないため、適切な治療の機会を逃したり、健康被害を引き起こしたりするリスクがあるとして、推奨しない立場をとっています。

イベルメクチンが「やばい」「効かない」と言われる理由

イベルメクチンが新型コロナに対して「やばい」「効かない」といった言われ方をする背景には、主に以下の理由があります。

  1. 有効性の不確実性: 前述のように、信頼できる大規模臨床試験において、新型コロナウイルス感染症に対する臨床的な有効性が明確に示されていないためです。「効かない」というのは、COVID-19治療薬としての効果が期待できないという意味合いが強いです。
  2. 不確かな情報や偽造薬の流通: インターネットなどを通じて、イベルメクチンがコロナに「劇的に効く」といった不確かな情報や、医師の処方箋なしに入手可能な偽造薬などが流通したことで、問題視されました。品質が保証されない薬剤の使用や、誤った用量での服用は健康被害につながる可能性があり、これが「やばい」と言われる一因です。
  3. 本来の治療機会を逃すリスク: 科学的に有効性が確立された標準的な治療法があるにも関わらず、イベルメクチンに頼ることで、適切な治療のタイミングを逃し、病状が悪化するリスクが懸念されます。
  4. 副作用や飲み合わせのリスク: どのような薬剤にも副作用や他の薬剤との相互作用(飲み合わせ)のリスクがあります。医師の管理下でなく、自己判断で服用することは、これらのリスクを高めます。

したがって、イベルメクチンが「やばい」と言われるのは、薬剤そのものが危険というよりは、新型コロナウイルスに対する有効性が確立されていないにも関わらず、不適切な方法(自己判断、個人輸入など)で入手・使用されることの危険性を指している場合が多いと考えられます。本来、寄生虫症の治療薬としては、適切に使用すれば安全で有効な薬です。

日本国内でのイベルメクチン入手方法と値段

日本国内でイベルメクチン(ストロメクトール錠)を適法に入手する方法は限られています。
個人の判断で安易に入手・使用することは推奨されません。

医療機関でのイベルメクチン処方

日本国内でイベルメクチン(ストロメクトール錠)を入手する唯一の正規の方法は、医師の診察を受け、処方箋を出してもらうことです。

処方されるのは、日本国内でストロメクトール錠が承認されている以下の寄生虫疾患の治療が必要と医師が判断した場合です。

  • 疥癬
  • 糞線虫症

これらの疾患以外、特に新型コロナウイルス感染症に対しては、日本国内の医療機関でイベルメクチンを治療薬として正規に処方されることはありません(治験として使用されるケースは除く)。

医療機関で処方される場合、保険適用となるか否かは、疾患や治療内容によります。
前述の承認されている疾患であれば、保険適用となるのが一般的です。
診察料や薬代は、保険の種類や自己負担割合によって異なります。

イベルメクチンは市販薬として購入できる?

結論から言うと、イベルメクチン(ストロメクトール錠)は、日本国内で市販薬として薬局やドラッグストアで購入することはできません。

イベルメクチンは「医療用医薬品」に分類されており、その使用には医師の専門的な判断と管理が必要です。
これは、効果や副作用、他の薬剤との飲み合わせなどを適切に判断する必要があるためです。
自己判断での使用は健康被害のリスクを伴います。

イベルメクチンを個人輸入するリスク(個人輸入)

インターネットの海外通販サイトなどを利用して、イベルメクチン製剤を個人輸入することは可能です。
しかし、これは非常に危険性が高く、決して推奨できません。

通販サイトの注意点

海外の医薬品通販サイトや個人輸入代行サイトを通じて入手される薬剤には、以下のような様々なリスクが伴います。

  • 偽造薬・品質不良薬のリスク: インターネット上で流通している医薬品の中には、有効成分が全く含まれていない、少量しか含まれていない、不純物が混入している、承認されていない成分が含まれているなど、偽造薬や品質が保証されない薬剤が多数存在します。
    これらの薬剤を使用しても効果がないばかりか、予期せぬ健康被害を引き起こす可能性があります。
  • 医薬品副作用被害救済制度の対象外: 日本の医薬品副作用被害救済制度は、国内で承認され、適正に使用された医薬品による副作用被害を救済するための制度です。
    個人輸入した医薬品による健康被害は、この制度の対象外となります。
    万が一、重篤な副作用が発生した場合でも、十分な公的補償を受けることができません。
  • 自己判断による誤った使用: 医師や薬剤師の専門的な指導なしに自己判断で使用することで、疾患に適さない使用、誤った用量での服用、併用禁忌薬との併用などが行われる可能性があります。
    これにより、副作用のリスクが高まったり、本来の治療機会を逃したりします。
  • 適切な情報が得られない: 入手した薬剤に関する正確な情報(添付文書など)が得られない場合が多く、使用方法や注意点、副作用について正しく理解できません。

これらのリスクを考慮すると、特に新型コロナウイルス感染症のように、イベルメクチンの有効性が確立されていない疾患に対して、個人輸入した薬剤を使用することは、無駄であるだけでなく、健康を損なう可能性が高いため、絶対に避けるべきです。

イベルメクチン錠剤の値段相場

日本国内で医療機関から処方されるイベルメクチン(ストロメクトール錠)の価格は、薬価基準によって定められています。
薬価は厚生労働大臣が決める公定価格です。

例えば、ストロメクトール錠3mgの薬価は、2023年時点でおよそ1錠あたり600円〜700円程度です。
ただし、これは薬剤自体の価格であり、ここに診察料や処方箋料、調剤料などが加算されます。
また、保険適用となる場合は、自己負担割合に応じた金額になります。

個人輸入サイトでの価格は、製品の種類(先発品かジェネリックか)、製造国、購入量、サイトの運営方針などによって大きく異なります。
中には非常に安価に販売されているものもありますが、前述のように品質が保証されない偽造薬のリスクが非常に高いため、価格だけを比較して安易に購入することは危険です。
あくまで参考ですが、個人輸入サイトでは1錠あたり数百円から数千円と幅広い価格帯で販売されているようです。
しかし、正規ルートではないため、これらの価格に信頼性はありません。

正確で安全な薬剤を適法に入手するためには、必ず医療機関を受診することが重要です。

イベルメクチンの副作用・安全性について

イベルメクチンは、適応症に対して医師の管理下で適切に使用される限り、一般的に安全性が高い薬剤とされています。
しかし、どのような医薬品にも副作用のリスクはあります。

イベルメクチンの主な副作用

イベルメクチンの副作用は、服用する疾患や用量、個人の体質によって異なります。
特に、寄生虫の死滅に伴って起こる反応(マゾッティ反応など)がある場合もあります。

ストロメクトール錠の添付文書に記載されている主な副作用には、以下のようなものがあります。

  • 消化器系: 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛など
  • 神経系: めまい、頭痛、傾眠(眠気)など
  • 皮膚: かゆみ、発疹、じんましんなど
  • その他: 倦怠感、無力症(だるさ)など

これらの副作用は、通常は軽度で一時的なものがほとんどです。
しかし、稀に重篤な副作用が起こる可能性もゼロではありません。
特に、中枢神経系への影響や、特定の疾患を持つ患者さんでは注意が必要です。

服用に関する注意点

イベルメクチンを安全に服用するためには、いくつかの重要な注意点があります。

  • 医師の指示に従う: 処方された用量・用法を厳守することが最も重要です。
    自己判断で量を増やしたり、服用回数を変えたりしてはいけません。
  • 食事の影響: ストロメクトール錠は、添付文書上は食後に服用することが推奨されています。
    食事と一緒に服用することで、薬剤の吸収が良くなるためです。
  • 併用禁忌薬・注意薬: 他の薬剤との飲み合わせによって、イベルメクチンの効果が強くなりすぎたり、弱くなったり、あるいは副作用のリスクが高まったりすることがあります。
    特に、他の特定の薬剤(例:中枢神経系に作用する薬剤など)との併用には注意が必要です。
    現在服用している全ての薬剤(処方薬、市販薬、サプリメントなど)を必ず医師や薬剤師に伝えてください。
  • 特定の疾患がある場合: 肝機能障害、腎機能障害、神経疾患(てんかんなど)がある場合は、服用可能か医師に相談が必要です。
  • 妊娠中・授乳中: 妊娠中や授乳中の女性に対する安全性は確立されていません。
    治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ慎重に投与されますが、原則として服用は避けるべきです。
  • 小児: 体重15kg未満の小児に対する安全性は確立されていません。

体重とイベルメクチン服用量(例: 12mg)

イベルメクチンは、体重に基づいて用量が決められるのが一般的です。
ストロメクトール錠の添付文書には、体重1kgあたり0.2mgを単回投与するという目安が記載されています。

例えば、体重が60kgの場合、推奨される用量は60kg × 0.2mg = 12mg となります。
ストロメクトール錠は1錠3mgなので、この場合は4錠を一度に服用することになります。

このように、体重によって服用すべき錠数が変わります。
自己判断で用量を決めず、必ず医師の指示に従うことが重要です。
特に、個人輸入などで入手した薬剤は、成分量や品質が不明確であり、表示されている用量が正確でない可能性もあります。

添付文書で確認できる情報

医薬品の「添付文書」は、その薬剤に関する最も信頼できる公式情報源です。
ストロメクトール錠の添付文書には、以下のような詳細な情報が記載されています。

  • 効能・効果
  • 用法・用量
  • 使用上の注意(慎重投与、重要な基本的注意、相互作用、副作用、高齢者への投与、妊婦・授乳婦・小児への投与など)
  • 薬物動態
  • 臨床成績
  • 理化学的知見

患者さん向けに分かりやすくまとめた「患者向医薬品ガイド」も存在します。
イベルメクチンについてより詳しく知りたい場合は、これらの公的な情報を確認することが強く推奨されます。
厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)のウェブサイトで公開されています。

まとめ:イベルメクチンに関する正しい知識を

イベルメクチンは、ノーベル賞も受賞した素晴らしい発見に基づいた薬剤であり、オンコセルカ症や疥癬、糞線虫症といった特定の寄生虫感染症に対して、世界中で多くの命を救い、健康を改善するために使われています。
日本国内では「ストロメクトール錠」として承認されており、これらの適応症に対しては医療機関で処方を受けることが可能です。

しかし、近年注目された新型コロナウイルス感染症への有効性については、現時点では信頼できる科学的根拠が得られていません。
WHOや厚生労働省といった公的な機関も、COVID-19治療薬としての使用を推奨していません。

インターネットなどで「イベルメクチンはコロナに効く」「劇的に改善する」といった情報を見かけることがありますが、これらの情報の多くは科学的根拠に乏しく、安易に信じることは危険です。
特に、医師の処方箋なしに海外から個人輸入される薬剤は、品質が保証されず、偽造薬であるリスクが非常に高いです。
偽造薬を使用したり、自己判断で誤った用量や方法で服用したりすることは、健康被害を引き起こすだけでなく、適切な治療の機会を逃すことにつながります。

イベルメクチンは、本来の適応症に対しては安全で有効な薬剤ですが、誤った情報に基づいて不適切に使用された場合に「やばい」と言われるような問題を引き起こす可能性があります。

医薬品を使用する際は、必ず医師や薬剤師といった専門家の判断を仰ぎ、日本の医療機関で適法に処方された薬剤を使用することが、ご自身の健康を守る上で最も重要です。
イベルメクチンに関する疑問や不安がある場合は、自己判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。


免責事項: 本記事は、イベルメクチンに関する一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断、治療、予防を推奨するものではありません。
個々の健康状態や疾患については、必ず医療専門家にご相談ください。
また、医薬品の使用に関しては、医師の指示に従い、添付文書をよく読んで正しく使用してください。
本記事の情報に基づくいかなる決定や行動についても、筆者および掲載者は一切の責任を負いません。

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