拒食症の症状とは?早期発見のためのサインを解説

拒食症の症状とは?

拒食症(神経性やせ症)は、摂食障害の一つであり、主に「食べること」や「体重」に対する強いこだわりや恐怖心から、食事量を極端に制限し、やせているにもかかわらず、さらにやせることを目指す精神疾患です。この病気は、心と体の両方に深刻な影響を及ぼし、様々な症状が現れます。拒食症の症状は多様であり、本人だけでなく周囲の人も気づきにくい場合があります。しかし、早期に症状に気づき、適切な診断と治療を受けることが、回復への第一歩となります。この記事では、拒食症の主な症状、診断基準、原因、合併症、そしてどのように診断を受け、治療に進むかについて詳しく解説します。

摂食障害の主な種類(拒食症・過食症)

摂食障害の中でも代表的なものとして、以下の2つが挙げられます。

  • 神経性やせ症(Anorexia Nervosa): 一般的に「拒食症」と呼ばれます。極端な食事制限や過度な運動、排出行動(自己誘発性嘔吐や下剤の乱用など)によって、健康を著しく損なうほどの低体重になります。やせているにもかかわらず、「太っている」と感じたり、「太ること」への強い恐怖心を抱き続けます。
  • 神経性過食症(Bulimia Nervosa): 一般的に「過食症」と呼ばれます。短時間に大量の食物を uncontrollable(制御不能)な状態で摂取する「むちゃ食い」を繰り返します。むちゃ食いの後には、体重増加を防ぐために自己誘発性嘔吐、下剤や利尿剤の乱用、極端な絶食や過度な運動などの代償行為を行います。体重は正常範囲内のこともありますが、変動が大きい場合もあります。

この他に、むちゃ食いだけを繰り返し、代償行為を行わない「むちゃ食い障害」などもありますが、ここでは拒食症(神経性やせ症)に焦点を当てて解説します。

拒食症の診断基準(DSM-5)

拒食症の診断は、米国精神医学会が発行する『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版(DSM-5)などの診断基準に基づいて行われます。DSM-5における神経性やせ症の主な診断基準は以下の通りです。

  • 必要量よりも少ないエネルギー摂取によって、年齢、性別、発達の経過、身体的な健康状態から期待される最低限の正常体重あるいはそれを超える体重と比較して、著しく低い体重となる。著しく低い体重とは、最小限の正常体重、あるいはそれ以上の体重を下回る体重のことである。小児や青年では、期待される体重増加の欠如を意味する。
    • 具体的には、BMI(Body Mass Index:体重kg ÷ (身長m)²)が17.0未満が目安とされます。さらに重症度に応じて、軽症(BMI 17.0-18.49)、中等症(BMI 16.0-16.99)、重症(BMI 15.0-15.99)、極めて重症(BMI 15.0未満)に分類されます。
  • 体重が増加すること、または太ることに対する強い恐怖があり、それが低体重であっても軽減されない。
    • たとえ骨と皮ばかりにやせていても、「太っている」と感じたり、わずかな体重増加も極端に恐れます。
  • 自分自身の体重あるいは体型をどのように体験するかの障害、すなわち、自分自身の体重や体型が自己評価に不当な影響を及ぼすこと、あるいは現在の低体重の重大性を認識しないこと。
    • 現実の体型よりも自分を太っていると認識するボディイメージの歪みがあったり、自身の健康状態の深刻さを理解できなかったりします。

拒食症には、過去3ヶ月間にむちゃ食いや排出行動(自己誘発性嘔吐、下剤や利尿剤の乱用、浣腸など)を繰り返しているかどうかに基づいて、以下の2つの特定因子があります。

  • 制限型: 過去3ヶ月間に、むちゃ食いや排出行動を繰り返していない。食事制限、絶食、過度な運動によって体重減少がもたらされている。
  • 過食/排出型: 過去3ヶ月間に、むちゃ食いや排出行動を繰り返している。

診断はこれらの基準だけでなく、詳細な問診や身体検査、血液検査などによって総合的に行われます。

拒食症の主な身体的症状

拒食症は、極端な低栄養状態が続くため、体中の様々な機能に影響が現れます。身体的な症状は多岐にわたり、見た目の変化だけでなく、生命に関わるような重篤なものまで含まれます。

著しい体重減少(低体重)

拒食症の最も顕著な症状は、健康を著しく損なうほどの体重減少です。前述の診断基準にあるように、年齢、性別、身長から期待される最低限の正常体重を大きく下回ります。体重減少は、意図的な食事制限、過度な運動、あるいは過食後の排出行動によって引き起こされます。

  • 外見の変化: 頬がこける、肋骨や骨盤が浮き出る、手足が細くなるなど、やせが目立つようになります。皮膚にはハリがなくなり、乾燥しやすくなります。
  • 体重に対する感覚: 著しくやせているにもかかわらず、本人は「まだ太っている」と感じたり、「もっとやせなければ」という強迫観念に囚われています。体重計に乗ることを過剰に避けたり、逆に頻繁に体重を測り、わずかな増加にもパニックになったりすることもあります。

この低体重状態が、後述する様々な身体的合併症の原因となります。

無月経(生理が止まる)

思春期以降の女性の場合、低体重によるホルモンバランスの異常から、生理が3ヶ月以上止まる(無月経)ことが非常に高い頻度で起こります。これは、卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)といった性ホルモンの分泌が低下するためです。

  • 影響: 無月経が長期間続くと、骨密度が低下しやすくなり、将来的な骨粗しょう症のリスクを高めます。また、妊娠・出産にも影響を与える可能性があります。治療が進み、体重が回復して栄養状態が改善すれば、生理は再開することが多いですが、回復には時間がかかる場合もあります。思春期前の場合は、生理が始まるのが遅れる(原発性無月経)という形で現れることもあります。

疲労感・体力低下(歩けないほどのことも)

エネルギー摂取が極端に少ないため、体は常にエネルギー不足の状態です。これにより、強い疲労感を感じやすく、少し動いただけでも息切れしたり、だるさを感じたりします。

  • 重症化すると: 筋肉量の低下も進み、日常生活を送るための体力さえも失われることがあります。立ち上がるのが辛い、少し歩くだけで疲れてしまうなど、時にはベッドから起き上がることすら困難になるほど体力が低下することもあります。学校や仕事に行けなくなる、趣味や友人との交流も難しくなるといった形で現れることもあります。

低血圧・徐脈

栄養失調が続くと、心臓の機能も低下します。心臓の筋肉がやせ細り、拍出量が減少するため、血圧が低下(低血圧)し、心拍数が少なくなる(徐脈)傾向が見られます。

  • 症状: 立ちくらみやめまいを感じやすくなります。脈が非常に遅くなり、安静時の心拍数が1分間に50回を下回ることも珍しくありません。重症化すると、不整脈が生じたり、心不全を引き起こしたりするリスクが高まります。

体毛の変化・皮膚の乾燥・むくみ

体はエネルギーを節約しようとするため、様々な変化が生じます。

  • 体毛の変化: 寒さから身を守るために、顔や手足、背中などにうぶ毛のような柔らかい毛(軟毛)が増えることがあります。
  • 皮膚の乾燥: 皮膚のターンオーバーが遅れ、皮脂の分泌も減少するため、皮膚が乾燥し、かさつきやすくなります。時にはひび割れを起こすこともあります。
  • むくみ: 低栄養によるタンパク質の不足や、過食後の水分貯留などにより、手足や顔がむくむことがあります。特に、体重が回復し始めた初期にむくみが見られることもあります。

貧血・電解質異常

食事量が少ないため、鉄分などの栄養素が不足し、貧血を起こしやすくなります。また、嘔吐や下剤の乱用があると、体内の電解質(カリウム、ナトリウム、クロールなど)のバランスが崩れ、電解質異常をきたしやすくなります。

  • 電解質異常のリスク: 特に低カリウム血症は、命に関わる重篤な不整脈を引き起こす可能性がある、非常に危険な状態です。嘔吐や下剤の頻度が高い「過食/排出型」の拒食症では、電解質異常が起こりやすく、注意が必要です。採血による電解質のモニタリングが不可欠となります。

消化器症状(便秘など)

食事量が少ないこと、そして低栄養による腸の働きの低下から、便秘になることが一般的です。

  • その他の症状: 胃の動きが悪くなる(胃排出能の低下)ことで、少量食べただけでも胃もたれや膨満感を感じやすくなることもあります。これは、治療を開始して食事量を増やそうとした際に、食事を受け付けにくくなる一因となります。嘔吐を繰り返している場合は、食道や胃の炎症、逆流性食道炎などを合併することもあります。

過食嘔吐に伴う身体症状(唾液腺の腫れなど)

「過食/排出型」の拒食症の場合、自己誘発性嘔吐を繰り返すことで、特有の身体症状が現れます。

  • 唾液腺の腫れ: 嘔吐刺激により、耳下腺や顎下腺などの唾液腺が腫れ、「おたふく顔」のような外見になることがあります。
  • 歯のエナメル質の侵食: 胃酸が繰り返し口腔内に逆流することで、歯のエナメル質が溶け出し、虫歯が増えたり、歯がもろくなったりします。
  • 手の甲の傷(Russell’s sign): 吐くために指を喉に入れる際に、手の甲に傷やタコができることがあります(ラッセル徴候)。
  • のどの痛みや炎症: 嘔吐により、のどが慢性的に炎症を起こしている場合があります。

これらの身体症状は、拒食症が単なる「やせたい」という願望だけでなく、体の健康を蝕む深刻な病気であることを示しています。

拒食症の主な精神的・行動的症状

拒食症は精神疾患であり、身体的な症状は心の状態が体に現れた結果とも言えます。体重や体型に対する異常な考え方、食事に関する強迫的な行動、そして感情面や社会性にも影響が及びます。

体重増加への強い恐怖と痩せ願望

拒食症の中心的な症状は、「体重が増えること」や「太ること」への尋常ではないほどの恐怖と、「やせること」への強いこだわりや満足感です。たとえ医学的に危険なほどやせていても、この恐怖心や願望がなくなることはありません。

  • 背景にあるもの: 多くの場合、自己肯定感の低さや、完璧主義、コントロール欲求などが背景にあります。「体重をコントロールすること」が、「人生をコントロールすること」だと感じている人も少なくありません。

ボディイメージの歪み

現実の自分の体型を正確に認識できない状態です。客観的に見て明らかにやせているにもかかわらず、「まだ太っている部分がある」と感じたり、自分の体を実際よりも大きく認識することがあります。

  • 影響: この歪みにより、さらに食事を制限したり、過度な運動を続けたりしてしまいます。鏡を見ることを極端に避けたり、逆に頻繁に自分の体型をチェックしたりと、鏡に対する行動も極端になりがちです。

食事への異常なこだわり・制限行動

食事や食品に対して、異常なほどのこだわりや制限行動が見られます。

  • 食事制限: 摂取カロリーを極端に制限します。特定の食品群(例:炭水化物、脂肪)を完全に排除したり、1日の摂取カロリーを数百キロカロリーに抑えたりすることもあります。
  • 食べる速度や順序へのこだわり: 食べる速度が極端に遅くなったり、特定の順序でしか食べられなくなったりすることもあります。
  • 隠れた行動: 家族や周囲には普通に食べているように見せかけて、実際には食べ物を捨てたり、隠したりすることがあります。
  • 調理や他者への食事提供: 自分はほとんど食べないにもかかわらず、家族のために手の込んだ料理を作ったり、他人が食べるのを見たりすることに異常な関心を示すことがあります。

過度な運動や排出行動

摂取したカロリーを消費したり、体重増加を防いだりするために、過度な運動や排出行動を行います。

  • 過度な運動: 体力的に限界であるにもかかわらず、長時間走り続けたり、激しい運動をしたりすることをやめられません。運動できない状況に強い不安や罪悪感を感じます。
  • 排出行動: 過食をしたかどうかにかかわらず、自己誘発性嘔吐、下剤、利尿剤、浣腸などを乱用して、摂取したものを体外に出そうとします。排出行動自体が習慣化し、コントロールが難しくなることがあります。

これらの行動は、体重減少や維持のためというだけでなく、不安やストレス、満腹感から逃れるため、あるいは自己罰として行われることもあります。

気分の落ち込み・イライラ・孤立

低栄養状態そのものが、脳の機能に影響を与え、気分の波や精神的な不安定さを引き起こします。また、病気による悩みや苦しみ、周囲との関係性の変化などから、様々な感情的な問題が生じます。

  • 気分の落ち込み・抑うつ: 常に疲労感があり、将来への希望が持てなくなるなど、うつ病のような症状を合併することが多くあります。
  • イライラ・怒り: 空腹感やストレス、周囲からの干渉などにより、些細なことでイライラしたり、怒りっぽくなったりします。
  • 不安・焦燥感: 体重や食事に対する不安が強く、落ち着かない、常に何かを気にしているといった状態が続きます。
  • 孤立: 食事に関するこだわりや秘密の行動、体力の低下などから、友人や家族との会食を避けたり、外出を控えたりするようになり、社会的に孤立していく傾向があります。

これらの精神的・行動的な症状は、拒食症が単に「食べない」という問題ではなく、自己肯定感、対人関係、感情のコントロールといった、心の問題と深く結びついていることを示しています。

拒食症による合併症とリスク

拒食症による低栄養状態や特定の行動(嘔吐、下剤乱用など)は、体の様々な臓器に深刻な影響を与え、多くの合併症を引き起こします。これらの合併症は、生命に関わるものも少なくありません。

心血管系のリスク

前述の低血圧や徐脈に加え、心臓の筋肉がやせ細る心筋萎縮、不整脈、心不全などが起こり得ます。特に、電解質異常(特に低カリウム血症)は、重篤な不整脈(致死性不整脈)を引き起こし、突然死の原因となる最大の危険因子の一つです。

  • モニタリングの重要性: 心電図検査や採血による電解質バランスのモニタリングが非常に重要です。重症の場合や電解質異常が見られる場合は、入院して集中的な治療と監視が必要となります。

骨密度の低下(骨粗しょう症)

無月経によるエストロゲンの低下や、カルシウム、ビタミンDなどの栄養不足により、骨量が著しく減少し、骨密度が低下します。これにより、若い年齢であるにもかかわらず骨粗しょう症を発症し、些細な衝撃でも骨折しやすくなります。

  • 回復の難しさ: 骨密度の低下は、体重が回復しても完全には元に戻らないことがあります。特に思春期は骨量を増やす上で非常に重要な時期であり、この時期に骨量が十分に蓄えられないことは、将来的な骨折リスクを生涯にわたって高めることになります。

腎機能や内分泌系の障害

低栄養や脱水、電解質異常は腎臓に負担をかけ、腎機能障害を引き起こす可能性があります。また、甲状腺ホルモンや成長ホルモン、コルチゾールなどの様々なホルモンの分泌にも異常が生じ、内分泌系の障害が見られます。

  • 具体的な影響: 甲状腺機能の低下により、体がだるい、寒がりになる、便秘が悪化するといった症状が出ることがあります。成長ホルモンの異常は、成長期の子どもや青年の成長を妨げる可能性があります。

重症化による死亡リスク

拒食症は、精神疾患の中でも死亡率が比較的高い病気の一つです。死亡原因としては、不整脈による心停止、栄養失調による衰弱、自殺などが挙げられます。特にBMIが低いほど、電解質異常が重度であるほど、そして精神的な合併症(うつ病など)が重いほど、リスクは高まります。

  • 早期治療の重要性: これらのリスクを避けるためには、症状が軽いうちに専門家の支援を受け、早期に治療を開始することが極めて重要です。体重が著しく低下している場合や、電解質異常などの身体的な危険徴候がある場合は、速やかに入院による集中的な治療が必要となります。
合併症の種類 具体的な影響 関連する主な症状 死亡リスクとの関連性
心血管系 不整脈、心筋萎縮、心不全、低血圧、徐脈 動悸、息切れ、胸痛、めまい、立ちくらみ 高い(特に不整脈)
骨系 骨密度低下、骨粗しょう症、骨折リスク増加 軽微な外力による骨折 間接的(衰弱に繋がる)
内分泌系 無月経、甲状腺機能低下、成長障害(思春期)、コルチゾール異常など 生理が止まる、寒がり、だるさ、便秘、身長の伸び悩み 間接的(全身状態悪化)
腎・電解質 腎機能障害、電解質異常(低カリウム血症など) むくみ、筋力低下、脱力感、意識障害 高い(特に低カリウム血症による不整脈)
消化器系 便秘、胃排出能低下、逆流性食道炎、膵炎(稀) 腹痛、胃もたれ、膨満感、吐き気 間接的(栄養吸収障害)
血液系 貧血、白血球減少 疲労感、息切れ、感染症にかかりやすくなる 間接的(免疫力低下)
皮膚・毛髪 皮膚乾燥、軟毛の増加、脱毛 見た目の変化 低い
神経系 集中力低下、認知機能低下、末梢神経障害(稀)、脳萎縮(重症の場合) 物忘れ、判断力の低下、手足のしびれや痛み 間接的(全身状態悪化)
精神系 うつ病、不安障害、強迫性障害、自傷行為、自殺念慮 気分の落ち込み、イライラ、焦燥感、特定の行為へのこだわり、自分を傷つける行動、死にたい気持ち 高い(特に自殺)
過食嘔吐関連 唾液腺腫脹、歯のエナメル質侵食、食道・胃の損傷、ラッセル徴候 頬の腫れ、歯の変色や虫歯、のどの痛み、手の甲の傷 間接的(電解質異常などによる)

拒食症の症状に気づいたら:診断と相談

もし、自分自身や大切な人に拒食症かもしれないと思われる症状が見られる場合、早期に専門家の助けを求めることが非常に重要です。病気を認めたり、助けを求めたりすることは勇気がいることですが、回復への確実な一歩となります。

自分でできる症状チェックテスト

以下の項目に多く当てはまる場合、拒食症の可能性が考えられます。これは自己診断ツールであり、確定診断ではありませんが、専門家に相談するきっかけとして参考にしてください。

  • 必要以上に食事量を制限している、あるいは特定の食品群(炭水化物、脂肪など)を避けている。
  • 実際よりも太っていると感じる、あるいはやせているにもかかわらず「もっとやせたい」という気持ちが強い。
  • 体重が増えること、太ることへの強い恐怖がある。
  • 自分の体型や体重が、自分自身の価値を決める上で非常に重要だと感じる。
  • 鏡を見るのが嫌いになったり、逆に頻繁に体型をチェックしたりする。
  • 食事のルール(食べる速度、順序など)に異常なこだわりがある。
  • 家族や友人との食事を避けるようになった。
  • 隠れて食べ物を捨てたり、食べなかったりすることがある。
  • やせるために、無理な運動を長時間続けている。
  • 食べたものを吐いたり、下剤や利尿剤を乱用したりすることがある。
  • 生理が止まった、あるいは不規則になった(女性の場合)。
  • 常に疲れている、体がだるい、寒がりになった。
  • 立ちくらみやめまいを感じやすい。
  • 便秘がひどくなった。
  • 気分の落ち込みやイライラが続いている。
  • 人と関わるのが億劫になり、家に閉じこもりがちになった。

【注意】 上記はあくまでチェックリストです。気になる症状があれば、必ず専門医に相談してください。

病院は何科を受診すべきか?

拒食症は、精神的な問題と身体的な問題が複雑に絡み合った病気です。受診先としては、主に以下の診療科が考えられます。

  • 精神科・心療内科: 摂食障害を専門とする医師がいる場合、精神的な側面からの診断と治療(心理療法、薬物療法など)が中心的に行われます。摂食障害専門の外来がある医療機関を選ぶと良いでしょう。
  • 児童精神科: 拒食症は思春期に発症することが多いため、18歳未満の場合は児童精神科が適切です。家族を含めた治療が行われることが多くあります。
  • 一般内科: 体重減少や身体的な症状(無月経、疲労、便秘、電解質異常など)が顕著な場合、まずはかかりつけの内科医に相談することも可能です。ただし、摂食障害の専門的な知識や治療経験が豊富でない場合もあるため、必要に応じて精神科や専門医療機関への紹介を依頼することになります。
  • 摂食障害専門医療機関: 摂食障害に特化した専門的な治療プログラムを持つ医療機関やセンターもあります。入院治療が必要な場合や、難治性のケースでは、こうした専門機関が選択肢となります。

どこに相談すれば良いか迷う場合は、地域の精神保健福祉センターや保健所などに相談してみるのも良いでしょう。

拒食症の診断方法

専門医療機関では、以下のようなプロセスを経て診断が行われます。

  1. 問診: 医師が患者さん本人、必要であれば家族から、症状、食事や体重に関する行動、過去の病歴、生育歴、家庭環境、心理状態などについて詳しく話を聞きます。いつから症状が出たか、どのような行動をとっているかなどを具体的に尋ねられます。
  2. 身体診察: 身長、体重、血圧、脈拍などを測定し、身体的な衰弱の程度や合併症の兆候(皮膚の状態、体毛、むくみ、唾液腺の腫れなど)を確認します。
  3. 検査:
    • 血液検査: 栄養状態(タンパク質、 albuminなど)、電解質バランス(カリウム、ナトリウム、クロールなど)、貧血の有無(ヘモグロビン、鉄)、ホルモンバランス(性ホルモン、甲状腺ホルモンなど)、肝機能、腎機能などを調べます。電解質異常は命に関わるため、特に重要視されます。
    • 心電図検査: 不整脈がないか、心臓に負担がかかっていないかを確認します。
    • 骨密度検査: 長期にわたる無月経などがある場合に、骨粗しょう症の有無や程度を調べます。
    • 画像検査(必要に応じて): 重度の栄養失調による脳萎縮などが疑われる場合に、頭部MRIなどが行われることがあります。

これらの情報から、DSM-5などの診断基準に照らし合わせて診断が行われます。

拒食症の主な治療法

拒食症の治療は、身体的な回復と精神的な回復の両方を目指す、多角的なアプローチが必要です。多くの場合、医師、看護師、公認心理師(または臨床心理士)、管理栄養士などが連携するチーム医療で行われます。

治療の主な柱は以下の通りです。

  1. 体重回復と栄養状態の改善: 最も緊急性の高い目標は、身体的な危険状態から脱し、生命を維持できる最低限の体重まで回復することです。重度の低体重や電解質異常、重篤な合併症がある場合は、入院して点滴による栄養補給や経管栄養、電解質の補正など集中的な治療が行われます。外来治療の場合は、管理栄養士による栄養指導を受けながら、少しずつ食事量を増やしていきます。適切なエネルギー摂取量、バランスの取れた食事内容について学びます。
  2. 心理療法: 拒食症の根本にある「やせへのこだわり」「体重増加への恐怖」「自己肯定感の低さ」「ボディイメージの歪み」といった精神的な問題を扱います。様々な心理療法が用いられますが、代表的なものとして以下があります。
    • 認知行動療法(CBT): 不合理な思考パターンや行動を特定し、より現実的で健康的な考え方や行動に変えていくことを目指します。摂食障害に特化したCBT(CBT-Eなど)も開発されています。
    • 家族療法: 特に思春期の患者さんの場合、家族関係やコミュニケーションパターンに焦点を当て、家族全体で病気に立ち向かう力を育みます。
    • 対人関係療法(IPT): 対人関係の問題が摂食障害の発症や維持に関わっている場合に、対人関係の改善を目指します。
    • 精神力動的精神療法: 過去の経験や無意識の葛藤などが現在の問題にどのように影響しているかを探求します。
  3. 薬物療法: 拒食症そのものに特効薬はありませんが、抑うつ、不安、強迫症状などの精神的な合併症に対しては、抗うつ薬などが処方されることがあります。また、身体的な合併症(便秘、骨粗しょう症など)に対して、それぞれの症状に応じた薬が処方されます。
  4. 身体合併症の治療: 低血圧、徐脈、貧血、電解質異常、無月経、骨粗しょう症などの身体合併症に対して、それぞれの専門医とも連携しながら適切な治療を行います。

治療期間は長期にわたることが多く、回復には波があることも珍しくありません。焦らず、専門家と二人三脚で治療に取り組むことが大切です。

拒食症からの回復に向けて:相談窓口

拒食症からの回復は可能です。しかし、一人で抱え込まず、専門家の支援を受けることが不可欠です。ここでは、拒食症の症状に気づいた際に相談できる窓口や、回復に向けて活用できるリソースを紹介します。

専門機関や医療機関への相談

まず第一に、精神科、心療内科、児童精神科などの専門医を受診することが推奨されます。摂食障害を専門としている医療機関を選ぶと、より適切な診断と治療を受けられる可能性が高まります。

  • 医療機関の探し方:
    • インターネットで「地域名 精神科 摂食障害」「地域名 心療内科 拒食症」などで検索する。
    • 所属している学校のスクールカウンセラーや保健室の先生に相談し、適切な医療機関を紹介してもらう。
    • かかりつけの医師に相談し、専門医への紹介状を書いてもらう。
    • 地域の精神保健福祉センターや保健所に相談し、医療機関や相談窓口の情報を得る。

公的な相談窓口

医療機関を受診する前に、まずは相談してみたいという場合や、どこを受診すべきか迷う場合は、公的な相談窓口を利用することも有効です。

相談窓口の種類 主な役割・相談内容
精神保健福祉センター 都道府県や政令指定都市に設置されています。精神的な悩み全般に関する相談を受け付けており、拒食症についても専門の相談員(精神保健福祉士、看護師、保健師、医師など)が対応してくれます。病気に関する情報提供、医療機関の紹介、社会資源の案内、家族からの相談などに応じてくれます。匿名での相談も可能な場合があり、電話や面談での相談ができます。
保健所 地域住民の健康に関する様々な相談を受け付けています。精神的な健康問題についても相談が可能で、保健師などが対応してくれます。精神保健福祉センターと同様に、病気や医療機関に関する情報提供、必要に応じて専門機関への橋渡しなどを行ってくれます。
いのちの電話 悩みや苦しみを抱えた人が匿名で相談できる電話相談窓口です。摂食障害に特化した窓口ではありませんが、苦しい気持ちや孤独感を誰かに話したい時に利用できます。
よりそいホットライン 困難を抱えている人に寄り添い、様々な相談に乗る電話相談窓口です。摂食障害やそれに伴う生きづらさ、経済的な問題など、複合的な悩みがある場合に相談できます。
TELL (Tokyo English Lifeline) 日本在住の外国人のための英語による相談窓口ですが、日本語での相談も可能です(対応時間は要確認)。精神的な健康問題や危機介入などに対応しています。
各自治体の相談窓口 市区町村によっては、独自の精神健康相談窓口や保健センターを設置している場合があります。お住まいの自治体のウェブサイトなどで確認してみてください。
学校の相談窓口 学生の場合は、学校の保健室の先生やスクールカウンセラーに相談することも有効です。学校と連携しながら、受診のサポートなどを得られる場合があります。
職場の相談窓口 会社によっては、産業医やカウンセラーによる相談窓口が設置されている場合があります。守秘義務が守られているかなどを確認し、利用を検討してみるのも良いでしょう。

これらの窓口は、最初の一歩を踏み出すための重要なサポートとなり得ます。勇気を出して、誰かに話してみることが、回復への扉を開くことにつながります。

【まとめ】拒食症の症状に気づいたら、早期に専門家へ相談を

拒食症は、体重や体型に対する極端なこだわりから、食事量を制限し、健康を損なうほどの低体重に至る精神疾患です。身体的にも精神的・行動的にも多様で重い症状が現れ、心血管系や骨、腎臓など多くの臓器に合併症を引き起こし、命に関わるリスクも伴います。

主な身体的症状としては、著しい体重減少、無月経、疲労感、低血圧、徐脈、体毛の増加、皮膚の乾燥、むくみ、貧血、電解質異常、便秘、そして過食嘔吐に伴う唾液腺の腫れや歯の損傷などがあります。精神的・行動的な症状としては、体重増加への強い恐怖と痩せ願望、ボディイメージの歪み、食事への異常なこだわりや制限、過度な運動や排出行動、気分の落ち込み、イライラ、孤立などが挙げられます。

これらの症状に一つでも気づいたら、それは体が、あるいは心が助けを求めているサインかもしれません。拒食症は放置すると重症化しやすく、回復に時間がかかるだけでなく、命の危険にも繋がる病気です。しかし、適切な治療を受ければ、回復は十分に可能です。

自分でできる症状チェックリストを参考にしつつ、少しでも気になる点があれば、一人で悩まず、精神科、心療内科、児童精神科などの専門医療機関、あるいは精神保健福祉センターや保健所などの公的な相談窓口に、勇気を出して相談してください。専門家は、あなたの苦しみに寄り添い、回復のための道のりを一緒に歩んでくれる存在です。早期の専門家への相談が、あなた自身、またはあなたの大切な人の未来を守ることに繋がります。

【免責事項】 本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。拒食症の診断や治療に関しては、必ず専門の医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。

  • 公開

関連記事