もしかして概日リズム睡眠障害?主な症状と見分け方

概日リズム睡眠障害は、私たちの体内時計と外界の24時間周期(昼夜サイクル)との間にずれが生じることで起こる睡眠障害の一種です。多くの人が夜間に眠り、日中に活動するというリズムを持っていますが、概日リズム睡眠障害ではこのリズムが崩れ、望ましい時間帯に眠ったり起きたりすることが難しくなります。

この障害は、単に「夜更かし」「朝寝坊」といった生活習慣の乱れとは異なり、体の生理的なリズムの問題が根本にあります。そのため、自分の意思だけではなかなか改善が難しい場合があります。症状は多岐にわたり、タイプによって現れ方が異なります。

この記事では、概日リズム睡眠障害の代表的な症状や、タイプごとの特徴、その原因、そして診断や治療法について詳しく解説します。ご自身の睡眠の悩みが概日リズム睡眠障害によるものかもしれないと感じている方は、ぜひ参考にしてください。ご自身の状態を理解し、適切な対処法を見つける一助となれば幸いです。

概日リズム睡眠障害とは?その定義と特徴

概日リズム睡眠障害(Circadian Rhythm Sleep-Wake Disorders: CRSWD)は、国際睡眠障害分類(ICSD-3)において主要な睡眠障害の一つとして定義されています。私たちの体には、約24時間周期で変動する「体内時計」が備わっており、この体内時計が睡眠・覚醒、体温、ホルモン分泌など、さまざまな生理機能のリズムを調整しています。この約24時間の周期を「概日リズム(サーカディアンリズム)」と呼びます。

概日リズム睡眠障害は、この体内時計のリズムが、社会生活で必要とされる時間(例えば、平日の勤務時間や学校の授業時間など)とずれてしまうことで生じます。その結果、以下のような特徴的な症状が現れます。

  • 不眠: 社会的に望ましい就寝時間になっても眠れない(入眠困難)。
  • 過眠: 社会的に望ましい起床時間になっても起きられず、日中に強い眠気を感じる。
  • 睡眠の質の低下: 断続的な睡眠や、十分な睡眠時間が取れないことによる日中の機能低下。

この障害の重要な点は、体内時計自体のリズム(約24時間という周期)が正常である場合もあれば、そうでない場合もあるということです。問題となるのは、体内時計のリズムと、周囲の環境や社会的なスケジュールとの同調(エンタテインメント)がうまくいかないことです。

例えば、体内時計が後ろにずれている人は、夜遅くまで眠くならず、朝も自然に起きるのが遅くなります。体内時計が前にずれている人は、夕方早い時間から眠くなり、夜中に目が覚めて朝早くから活動的になります。シフトワーカーや頻繁な時差移動がある人も、環境の急激な変化に体内時計が適応できず、一時的または慢性的な睡眠の問題を抱えることがあります。

概日リズム睡眠障害は、単なる睡眠習慣の乱れとして軽視されがちですが、学業や仕事のパフォーマンス低下、人間関係の問題、うつ病や不安障害といった精神疾患のリスク増加など、日常生活に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

概日リズム睡眠障害の代表的な症状

概日リズム睡眠障害の最も中心的な症状は、「望ましい、または社会的に定められた時間帯に眠ることができない」「望ましい、または社会的に定められた時間帯に覚醒していることが困難である」という点にあります。具体的には、以下のような症状として現れることが多いです。

  • 入眠困難: 夜、床についてもなかなか寝付けない。特に、眠りたい時間よりも大幅に遅い時間にならないと眠気を感じない。
  • 早朝覚醒: 意図した時間よりもかなり早く目が覚めてしまい、その後眠り直すことが難しい。
  • 維持困難: 夜中に何度も目が覚めてしまい、まとまった睡眠が取れない。
  • 起床困難: 目覚まし時計を使ってもなかなか起きられず、二度寝や三度寝を繰り返してしまう。起きた後も頭がぼーっとして、すぐに活動できない。
  • 日中の過剰な眠気: 十分な睡眠時間が取れていない、あるいは睡眠の質が悪いことにより、日中に強い眠気を感じ、仕事や学業に集中できない。重要な会議中や運転中に眠気に襲われることもある。
  • 日中の倦怠感や集中力低下: 睡眠不足や睡眠の質の低下が原因で、体がだるく感じたり、物事を考えるのに時間がかかったり、判断力が鈍ったりする。
  • 気分障害: 睡眠リズムの乱れが続くと、イライラしやすくなったり、気分が落ち込んだりするなど、精神的な不調を伴うことがある。特に、不眠が続くと不安感が強まることがある。
  • 身体的な不調: 頭痛、胃腸の不調など、自律神経の乱れに伴う可能性のある症状が現れることもある。

これらの症状は、特定の時間帯に現れることが特徴です。例えば、睡眠・覚醒相後退型(DSWPD)の場合は、深夜にならないと眠れず、午前中や昼過ぎまで寝てしまうため、朝の授業や仕事に間に合わない、といった形で問題が顕在化します。睡眠・覚醒相前進型(ASWPD)の場合は、夕食後すぐに眠くなり、夜中に目が覚めてしまい、朝早くから活動するものの、夕方には再び強い眠気に襲われる、といったサイクルになります。

これらの症状は、単に睡眠時間を確保すれば解決するわけではなく、体内時計のずれを調整するためのアプローチが必要となることが多いです。

タイプ別にみる概日リズム睡眠障害の症状と特徴

概日リズム睡眠障害は、その原因や現れ方によっていくつかの主要なタイプに分類されます。タイプごとに症状や特徴が異なるため、ご自身のパターンを知ることが、適切な対処法を見つける上で重要です。

ここでは、主な概日リズム睡眠障害のタイプと、それぞれの症状や特徴を詳しく見ていきましょう。

睡眠・覚醒相後退型(DSWPD)の症状と特徴

睡眠・覚醒相後退型(Delayed Sleep-Wake Phase Disorder: DSWPD)は、概日リズム睡眠障害の中で最も一般的で、特に思春期や若年成人によく見られるタイプです。

症状:

  • 顕著な入眠困難: 社会的に望ましい時間(例えば夜11時や12時)に床についても、深夜(例えば午前2時以降)にならないと眠気を感じず、寝付けない。
  • 起床困難: 自然に目が覚めるのは、社会的に望ましい時間(例えば午前7時)よりも大幅に遅い時間(例えば午前10時や正午)になる。目覚まし時計を使ってもなかなか起きられない。
  • 「夜型」の傾向: 本来の体内時計のリズムが、一般的な社会生活のスケジュールよりも後ろにずれている。夜が活動的で、朝が苦手というパターン。
  • 週末の「寝溜め」: 平日は無理して早起きするため睡眠不足になり、週末は自然に任せて遅くまで寝て、睡眠不足を補おうとする。しかし、これがさらに体内時計を後ろにずらしてしまう悪循環に陥る。
  • 社会生活への影響: 朝の授業や仕事に間に合わない、遅刻が増える、午後の活動は調子が良いが午前中は集中できない、といった問題が生じる。
  • 睡眠時間の確保: 自分の体内時計に合わせて眠れば、必要な睡眠時間は確保できることが多い(例:午前3時に寝て午前11時に起きるなど)。しかし、これが社会生活に合わないことが問題。

特徴:

このタイプは、生まれつきの体内時計のリズムが長い(24時間よりも長い)傾向にある、あるいは光への感受性が関係していると考えられています。特に思春期は、生理的に体内時計が後ろにずれる傾向があるため、DSWPDを発症しやすい時期とされています。本人の怠慢や意志の弱さと誤解されやすいですが、体の生理的な問題であることが多いです。

睡眠・覚醒相前進型(ASWPD)の症状と特徴

睡眠・覚醒相前進型(Advanced Sleep-Wake Phase Disorder: ASWPD)は、体内時計のリズムが社会生活のスケジュールよりも前にずれているタイプです。特に高齢者によく見られます。

症状:

  • 早寝: 夕方早い時間帯(例えば午後6時や7時)から強い眠気を感じ始め、夜早く(例えば午後8時や9時)に寝てしまう。
  • 早朝覚醒: 夜中に目が覚めてしまい、その後眠り直すことが難しく、朝非常に早い時間(例えば午前3時や4時)に起きてしまう。
  • 「朝型」の傾向: 体内時計のリズムが一般的な社会生活よりも前にずれている。朝早い時間から活動的になれるが、夕方には疲れてしまうパターン。
  • 日中の過眠: 夕方早い時間に眠気を感じるため、夕食前などにうたた寝をしてしまうことがある。
  • 社会生活への影響: 夜の付き合いに参加するのが難しい、夕方の重要な会議中に眠気を感じる、朝早く起きすぎて時間を持て余す、といった問題が生じる。

特徴:

ASWPDは、遺伝的な要因が関係している場合があることが分かっています。高齢者では、加齢に伴う体内時計の変化(光への感受性の変化やメラトニン分泌リズムの変化など)により、このタイプが多く見られます。DSWPDとは対照的に、比較的早い時間に寝て、早い時間に起きてしまうのが特徴です。

非24時間睡眠・覚醒リズム障害(N24SWD)の症状と特徴

非24時間睡眠・覚醒リズム障害(Non-24-Hour Sleep-Wake Rhythm Disorder: N24SWD)は、体内時計の周期が約24時間よりも大幅に長いか短い(多くは長い)ために、外部の24時間サイクル(昼夜)と同調できず、毎日少しずつ睡眠・覚醒時間がずれていくタイプです。視覚障害のある方に多く見られます。

症状:

  • 睡眠・覚醒時間の進行性のずれ: 毎日同じ時間に寝て同じ時間に起きることができず、就寝時間と起床時間が毎日(または数日ごとに)少しずつ遅れていく(まれに早まることもある)。
  • 周期的な不眠と過眠: リズムが社会生活に合っている時期は比較的よく眠れるが、ずれてくると望ましい時間に眠れなくなったり、起きられなくなったりする。体内時計の周期によっては、数週間ごとに睡眠パターンが変化する(例:数週間はDSWPDのようなパターン、その後は一般的なパターン、数週間はASWPDのようなパターン、といったように変動する)。
  • 社会生活への適応困難: 定まったスケジュールでの生活が難しく、学業や仕事、人間関係に深刻な影響を及ぼす。

特徴:

このタイプは、外部の光刺激などによる体内時計のリセット(同調)がうまくいかないことが原因と考えられています。特に、光を感じ取る機能が失われた全盲の方に多く見られます。光刺激が体内時計をリセットする最も重要な手掛かりの一つであるため、これが得られないと体のリズムが本来の周期(多くの人で24時間より少し長い)で自由に変動してしまうためです。視覚に問題がない人でも発症することがありますが、比較的稀です。

不規則型睡眠・覚馨リズム障害(ISWRD)の症状と特徴

不規則型睡眠・覚醒リズム障害(Irregular Sleep-Wake Rhythm Disorder: ISWRD)は、体内時計に明確な24時間周期のパターンがなく、1日のうちに短い睡眠と覚醒のサイクルを複数回繰り返すタイプです。体内時計のリズムが完全に崩壊している状態ともいえます。

症状:

  • 睡眠・覚醒時間の分散: 夜間にまとまった睡眠が取れず、昼夜を問わず短い時間(数分から数時間)の睡眠と覚醒を繰り返す。
  • 決まった睡眠・覚醒パターンの欠如: 特定の就寝時間や起床時間がなく、日によって、あるいは時間帯によって睡眠のタイミングが全く異なる。
  • 日中の過眠と夜間の不眠: 昼間は常に眠気を感じてうたた寝をしてしまう一方、夜はなかなか眠れず、断続的にしか眠れない。
  • 活動レベルの低下: 体に明確なリズムがないため、活動的になれる時間帯がなく、一日中だるく感じたり、集中できなかったりする。

特徴:

このタイプは、認知症や脳の損傷(頭部外傷、脳卒中など)によって、体内時計を調整する脳の機能が損なわれることで発症することが多いです。外部からの時間手掛かり(光、食事、社会的な活動など)が乏しい寝たきりの患者さんなどでも見られることがあります。体内時計自体が失われているというよりは、外部環境や行動リズムによる体内時計のリセット・調整機能が著しく低下していると考えられています。

シフトワーク睡眠障害の症状と特徴

シフトワーク睡眠障害(Shift Work Sleep Disorder)は、夜勤や交代勤務など、一般的な日中の労働時間とは異なる時間帯に働くことによって生じる睡眠障害です。体の自然な体内時計と仕事のスケジュールが合わないことが原因です。

症状:

  • 夜間の仕事中の眠気: 本来眠っているべき時間帯に活動するため、強い眠気を感じ、集中力や注意力が低下する。居眠りをしてしまうリスクも高まる。
  • 日中の睡眠困難: 仕事が終わって家に帰っても、周囲が明るく家族が活動しているなど、睡眠に適さない環境であることや、体内時計がまだ覚醒モードになっているため、昼間に十分な時間、質の高い睡眠を取ることが難しい。
  • 睡眠時間の不足: 夜間の仕事中の眠気と日中の睡眠困難により、慢性的な睡眠不足に陥りやすい。
  • 倦怠感、集中力低下、イライラ: 睡眠不足が続くと、これらの症状が現れる。
  • 胃腸の不調: 食事の時間が不規則になることなどから、胃もたれや便秘などの消化器系の問題を抱えることがある。
  • 事故のリスク増加: 眠気による注意力の低下は、仕事中だけでなく、通勤中の交通事故リスクも高める。

特徴:

シフトワークは、意図的に体内時計に逆らった生活をすることになるため、多くの人が睡眠や体調の問題を経験します。特に、短い期間でシフトが頻繁に変わるような勤務形態は、体がリズムに順応する暇がないため、症状が出やすいとされています。完全に体内時計をシフトに合わせて調整することは難しく、多くの場合は慢性的な睡眠不足や体内時計の乱れが続きます。

ジェットラグ(時差ぼけ)の症状と特徴

ジェットラグ(Jet Lag Disorder)は、異なるタイムゾーンを短時間で移動することで生じる、一時的な概日リズム睡眠障害です。体内時計が移動先のタイムゾーンの昼夜サイクルに適応できていないために起こります。

症状:

  • 移動先での入眠困難: 現地の夜になっても眠気を感じない、あるいは眠りについてもすぐに目が覚めてしまう。
  • 移動先での早朝覚醒: 現地の朝よりもかなり早く目が覚めてしまい、その後眠れない。
  • 日中の過眠: 現地の昼間に強い眠気を感じる。
  • 倦怠感、集中力低下、イライラ: 睡眠不足や体内時計のずれにより、これらの症状が現れる。
  • 消化器系の不調: 食欲不振、胃もたれ、便秘、下痢などが起こることがある。

特徴:

ジェットラグは、体内時計が新しい環境のタイムゾーンに適応するまでの間に見られる一時的な状態です。通常、移動したタイムゾーンの数に応じて、数日から1週間程度で自然に改善します。西向きの移動(例:日本からヨーロッパへ)は、体内時計を遅らせる方向への調整となるため、比較的適応しやすいとされています。一方、東向きの移動(例:日本から北米へ)は、体内時計を早める方向への調整が必要となり、適応に時間がかかりやすい傾向があります。

概日リズム睡眠障害の主な原因

概日リズム睡眠障害は、単一の原因ではなく、様々な要因が複雑に絡み合って生じることが多いです。主な原因として考えられるものを以下に挙げます。

生まれつきの体内時計のリズムと原因

人によって、生まれつき持っている体内時計の「固有周期」がわずかに異なります。多くの人の体内時計の固有周期は約24時間ですが、人によっては24時間より少し長かったり、少し短かったりします。この固有周期が平均から大きくずれている場合、外部の24時間サイクル(主に太陽光)によって体内時計をリセットし、同調させることが難しくなります。

  • DSWPD: 体内時計の固有周期が24時間よりも長い傾向にある人。
  • ASWPD: 体内時計の固有周期が24時間よりも短い傾向にある人。
  • N24SWD: 体内時計の固有周期が24時間から大きくずれている(特に長い)上に、光によるリセットがうまくいかない人(視覚障害者など)。

これらの遺伝的・体質的な要因は、特にDSWPDやASWPDの発症に関与していると考えられています。

外的な光環境の問題と原因

光、特に太陽光は、体内時計をリセットし、24時間周期に同調させる上で最も強力な手掛かり(「zeitgeber:ツァイトゲーバー」と呼ばれます)です。適切な時間帯に適切な強さの光を浴びることで、体内時計は毎日リセットされ、社会生活のリズムと同調します。しかし、以下のような光環境の問題があると、体内時計の同調がうまくいかなくなります。

  • 朝の光不足: 朝、十分な太陽光を浴びない生活(例:昼まで寝ている、日中も室内にいることが多い)は、体内時計を前に進める(早める)ためのリセットができず、リズムが後ろにずれやすくなります(DSWPDの一因)。
  • 夜間の光過多: 夜遅くまで明るい室内にいる、あるいはスマートフォンやパソコンのブルーライトを浴びることは、体内時計を遅らせてしまい、入眠困難の原因となります。特に、夜遅くまで強い光を浴びると、本来夜間に分泌される睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌が抑制されてしまいます。
  • 全盲などによる光刺激の欠如: 目が見えない、あるいは光を感じ取る機能が障害されている場合、光による体内時計のリセットが不可能になるため、体内時計が固有周期(多くは24時間より長い)で自由に変動し、非24時間睡眠・覚醒リズム障害の原因となります。

日常生活や生活習慣の乱れが原因となる場合

意図的な生活習慣の乱れや、不規則な生活リズムも概日リズム睡眠障害の一因となります。

  • 不規則な睡眠時間: 毎日寝る時間や起きる時間がバラバラな生活は、体内時計のリズムを不安定にし、不規則型睡眠・覚醒リズム障害の原因となります。
  • 夜型の生活習慣: 意図的に夜遅くまで活動し、朝ゆっくり寝るという生活を続けることは、体内時計を後ろにずらし、DSWPDのようなパターンを形成する可能性があります。
  • シフトワーク: 夜勤や交代勤務は、体の自然なリズムに逆らった生活を強いるため、シフトワーク睡眠障害の原因となります。
  • 頻繁な時差移動: 短期間に大きく異なるタイムゾーンを移動することは、体内時計が環境に適応する前に再び移動することになり、体内時計のずれを引き起こします(ジェットラグの原因)。
  • 活動量や食事の時間の不規則性: 光だけでなく、規則的な食事時間や運動、社会的な交流なども体内時計のリセットに影響を与えます。これらの要素が不規則になることも、リズムの乱れにつながります。

加齢による体内時計の変化

加齢に伴い、体内時計の機能にも変化が現れます。

  • 睡眠時間の短縮: 高齢になると、必要な睡眠時間が若年期よりも短くなる傾向があります。
  • 体内時計のリズムの前進: 高齢者では、体内時計のリズムが若年期よりも前にずれやすい傾向があります。これがASWPDの増加に関与していると考えられています。
  • メラトニン分泌量の低下: 加齢に伴い、夜間に分泌されるメラトニンの量が減少したり、分泌のタイミングが変化したりすることがあります。メラトニンは睡眠を促し、体内時計の調整に関わるホルモンであるため、その変化が睡眠リズムの乱れにつながる可能性があります。
  • 光への感受性の変化: 高齢者では、目の水晶体の濁りなどにより、網膜に届く光の量が減少し、体内時計のリセットに必要な光刺激が不足しやすくなることも、リズムの乱れの一因と考えられています。

神経疾患や精神疾患との関連

特定の神経疾患や精神疾患も、概日リズム睡眠障害の発症や悪化に関与することがあります。

  • 認知症: アルツハイマー病などの認知症は、脳の機能が広範囲に障害されるため、体内時計を調整する脳の部位も影響を受け、不規則型睡眠・覚醒リズム障害を引き起こす主な原因となります。昼夜逆転や徘徊といった症状が現れることがあります。
  • 脳血管障害(脳卒中など): 脳の損傷部位によっては、体内時計を制御する視交叉上核などの機能が損なわれ、リズムの乱れが生じることがあります。
  • 頭部外傷: 重度の頭部外傷も、脳の機能障害により概日リズムの乱れを引き起こすことがあります。
  • うつ病: うつ病患者さんでは、不眠や過眠といった睡眠の問題が高頻度に見られます。体内時計のリズムも乱れていることが多く、うつ病の症状と睡眠リズムの乱れは相互に影響し合っていると考えられています。特に、うつ病では早朝覚醒が特徴的な症状の一つです。
  • 発達障害: 注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害がある子どもや成人では、定型発達の人に比べて概日リズム睡眠障害(特にDSWPD)を併発しやすいことが知られています。これは、神経生物学的な特性や、睡眠衛生の維持の難しさなどが関連していると考えられています。

これらの様々な原因が複合的に関与し、個々の概日リズム睡眠障害のタイプや重症度が決定されると考えられます。

概日リズム睡眠障害の診断方法

概日リズム睡眠障害の診断は、主に患者さんからの詳細な問診と、客観的な睡眠記録や検査によって行われます。自己診断は難しいため、専門医の診察を受けることが重要です。

診断基準と一般的な流れ

概日リズム睡眠障害は、国際睡眠障害分類(ICSD-3)などの診断基準に基づいて診断されます。診断の一般的な流れは以下のようになります。

  • 詳細な問診:
    • 現在の睡眠に関する悩み(寝る時間、起きる時間、寝付きやすさ、睡眠の維持、日中の眠気など)を詳しく聞き取ります。
    • 症状が現れた時期、期間、頻度、重症度を確認します。
    • 患者さんの普段の生活リズム(仕事や学校のスケジュール、食事時間、運動習慣、寝る前の行動など)について詳しく尋ねます。
    • 過去の睡眠歴、病歴(特に精神疾患、神経疾患)、服用中の薬(睡眠に影響するものを含む)について確認します。
    • 家族の睡眠パターンについても質問することがあります(遺伝的要因の示唆)。
    • DSWPDやASWPDなどの特定のパターンが疑われる場合は、その特徴的なリズムが少なくとも3ヶ月以上持続しているかを確認します。シフトワーク睡眠障害やジェットラグは、原因となる状況(シフト勤務、時差移動)との関連を確認します。
  • 睡眠日誌の活用:
    • 患者さんに、毎日の就寝時間、入眠時刻、中途覚醒の有無・時間、最終覚醒時刻、起床時刻、日中の眠気や活動レベルなどを記録してもらう「睡眠日誌」を最低1〜2週間(可能であればそれ以上)つけてもらいます。
    • この睡眠日誌は、患者さんの実際の睡眠・覚醒パターンを客観的に把握する上で非常に重要な情報源となります。特に、DSWPDやN24SWDのように、睡眠時間が日によって変動するタイプでは、この記録が診断の決め手となることがあります。
  • 各種検査について:
    • 問診や睡眠日誌である程度の診断の方向性が見えてきますが、より客観的な情報を得るために、以下の検査が行われることがあります。
      • アクチグラフィー(Actigraphy): 腕時計型の小型装置を手首や足首に装着してもらい、数日から数週間にわたって体の動きを連続的に記録する検査です。体の動きが少ない時間を睡眠時間、多い時間を覚醒時間と推定し、患者さんの実際の睡眠・覚醒パターンやリズムを客観的に評価できます。特に、日常生活における長期的なリズムの評価や、不規則型、非24時間型の診断に有用です。
      • 終夜睡眠ポリグラフ検査(Polysomnography: PSG): 脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸、酸素飽和度などを同時に記録し、睡眠の質や睡眠段階、睡眠中の異常(無呼吸や周期性四肢運動など)を詳しく調べる検査です。概日リズム自体の評価には直接的ではありませんが、概日リズム睡眠障害と紛らわしい他の睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害など)を除外するために行われることがあります。
      • 反復睡眠潜時検査(Multiple Sleep Latency Test: MSLT): 日中の眠気の程度を客観的に評価する検査です。昼間に数回、横になって眠るように指示し、眠りに落ちるまでの時間(睡眠潜時)を測定します。睡眠潜時が短いほど、日中の眠気が強いと判断されます。
      • 覚醒維持検査(Maintenance of Wakefulness Test: MWT): 日中の覚醒状態を維持できる能力を客観的に評価する検査です。静かな環境で座っているように指示し、眠らずに起きていられる時間を測定します。

これらの問診、睡眠日誌、検査の結果を総合的に判断し、患者さんの睡眠問題が概日リズムのずれによるものか、どのタイプに当てはまるのかを診断します。他の睡眠障害や精神疾患が併存している場合は、そちらの評価も合わせて行われます。

概日リズム睡眠障害の治療法と治し方

概日リズム睡眠障害の治療は、ずれてしまった体内時計のリズムを、社会生活に適した時間帯に調整することを目指します。治療法はタイプや重症度、患者さんの年齢やライフスタイルによって異なりますが、主に生活習慣の改善、光療法、薬物療法が用いられます。

生活習慣の改善による治し方

「睡眠衛生指導」とも呼ばれ、体内時計を整えるために非常に重要な基本的なアプローチです。薬物療法や光療法を行う場合でも、これらの基本的な生活習慣を整えることが治療効果を高める上で不可欠です。

  • 規則正しい生活: 毎日できるだけ同じ時間に寝て、同じ時間に起きるように心がける。特に、週末も平日と同じ時間に起きるように努めることが重要です。
  • 起床後の過ごし方: 起きたらすぐにカーテンを開けて太陽光を浴びる。朝食を摂るなど、活動を開始することで、体内時計のリセットを促します。
  • 就寝前の過ごし方: 就寝前の数時間は、スマートフォンやパソコンなどのブルーライトを発する機器の使用を控える。熱すぎるお風呂は避ける。カフェインやアルコール、ニコチンの摂取を控える。リラックスできる習慣(軽い読書、ストレッチなど)を取り入れる。
  • 寝室環境の整備: 寝室は暗く、静かで、快適な温度(一般的に18-22℃程度)に保つ。
  • 日中の過ごし方: 日中に適度な運動を取り入れることは、夜間の睡眠の質を高めるのに役立ちます。ただし、就寝直前の激しい運動は避けます。
  • 昼寝: 長時間や夕方の昼寝は、夜間の睡眠を妨げる可能性があるため、避けるか短時間(20-30分程度)にとどめます。

光療法について

光、特に高照度の光は、体内時計を強力にリセットする作用があります。光療法は、専用の光療法器(高照度光照射器)から発せられる強い光を、特定の時間帯に浴びることで、体内時計を意図的に前に進めたり(早める)、後ろに遅らせたりする治療法です。

  • 治療の原理: 朝、体内時計が望ましい起床時間よりも遅れている(DSWPDなど)場合に、早朝に高照度光を浴びることで、体内時計を前に進めることができます。逆に、夕方や夜に浴びる光は体内時計を遅らせる作用があります。治療目標に応じて、光を浴びる時間帯と強さ(ルクス:lx)が調整されます。
  • 具体的な方法: 医師の指導のもと、通常は2,500~10,000ルクス程度の光を、毎日30分~2時間程度浴びます。光療法器は、デスクに置いて読書や食事をしながら使用できるタイプや、持ち運び可能なタイプなどがあります。
  • 効果: DSWPDに対して特に有効性が示されています。ASWPDやN24SWDに対しても効果が期待できます。
  • 注意点: 治療効果は個人差があり、適切な時間帯や強さで使用しないと逆効果になることもあります。また、特定の目の病気がある方や、光過敏を引き起こす薬を服用している方は使用できない場合があります。必ず専門医の指導のもとで行う必要があります。

薬物療法について

体内時計の調整や、睡眠・覚醒のタイミングをコントロールするために、薬物療法が用いられることがあります。

  • メラトニン受容体作動薬: 体内で分泌される睡眠ホルモン「メラトニン」と同様の作用を持つ薬です(例:ラメルテオン、タシメルトン)。メラトニンは体内時計の調整に関与しており、これらの薬は体内時計を整える手助けをします。特に、DSWPDやN24SWDに対して有効性が示されています。通常、就寝前に服用します。
  • 睡眠薬: 体内時計を整えるのではなく、一時的に眠りを促す目的で使用されることがあります。しかし、概日リズムの根本的なずれを治すわけではないため、漫然と使用するのではなく、限られた期間や状況での使用が推奨されます。体内時計のリズムが完全にずれている場合(N24SWDやISWRD)や、不眠が非常に強い場合に、一時的に睡眠時間を確保するために用いられることがあります。
  • 覚醒促進薬: 日中の過剰な眠気が非常に強い場合(シフトワーク睡眠障害など)、日中の覚醒を維持するために使用されることがあります。しかし、これもリズムを整える治療ではなく、対症療法的な使用となります。
  • その他: 抗うつ薬の一部が、睡眠や体内時計に影響を与える作用を持つことから、うつ病を併発している場合などに考慮されることがあります。

薬物療法は、生活習慣の改善や光療法と組み合わせて行われることが多いです。どの薬を使うか、どのくらいの量を使うかは、患者さんのタイプ、症状の程度、年齢、他の病気の有無などを考慮して医師が判断します。自己判断での服用は危険ですので、必ず医師の処方と指導のもとで使用してください。

これらの治療法を組み合わせることで、ずれてしまった体内時計を修正し、より望ましい睡眠・覚醒リズムを獲得することを目指します。治療には時間がかかることも多く、根気強く取り組むことが大切です。

概日リズム睡眠障害と関連しやすい症状(発達障害・うつなど)

概日リズム睡眠障害は、他の精神疾患や神経疾患と高い頻度で併存することが知られています。これらの疾患が概日リズムの乱れを引き起こしたり、逆に睡眠リズムの乱れがこれらの疾患の症状を悪化させたりと、相互に影響し合っていると考えられています。

発達障害と睡眠リズムの関連性

注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)といった発達障害のある人では、睡眠の問題を抱えていることが多いです。特に、概日リズム睡眠障害の中では睡眠・覚醒相後退型(DSWPD)を併発しやすいことが知られています。

  • ADHDとの関連: ADHDのある子どもや成人では、入眠困難や寝付きの悪さがよく見られます。これは、多動性や衝動性、注意の転導性といった特性が、寝る前に心が落ち着かず、考え事が止まらないといった形で睡眠を妨げることに関係している可能性があります。また、ADHDのある人の中には、生まれつき体内時計のリズムが後ろにずれやすい(DSWPDになりやすい)傾向があるという研究報告もあります。ADHDの治療薬の一部が睡眠に影響を与えることもあります。
  • ASDとの関連: ASDのある人では、感覚過敏(音や光に敏感で眠りに入りにくい)、こだわりの強さ(特定の睡眠習慣に固執したり、逆に非定型なパターンになったりする)、社会性の問題(規則正しい社会生活リズムに適応しにくい)などが睡眠に影響を与える可能性があります。また、メラトニン分泌の異常が示唆されているケースもあり、これが概日リズムの乱れ(特にDSWPDや不規則型)につながる可能性が指摘されています。
  • 睡眠不足による発達障害様症状の悪化: 概日リズムの乱れによる慢性的な睡眠不足は、発達障害の症状(不注意、多動性、衝動性、イライラなど)を悪化させることがあります。睡眠問題を治療することで、これらの症状が改善することもあります。

発達障害と概日リズム睡眠障害が併存している場合、どちらか一方だけでなく、両方の側面からアプローチすることが重要です。

うつ病と睡眠リズムの関連性

うつ病患者さんでは、睡眠障害が非常に高頻度に見られます。不眠、特に早朝覚醒はうつ病の代表的な症状の一つですが、概日リズムの乱れ(特に睡眠・覚醒相前進型:ASWPDや、体内時計のリズムの振幅の低下)が関連していると考えられています。

  • うつ病による睡眠リズムの乱れ: うつ病では、気分、活動量、食欲、睡眠といった概日リズムに関わる多くの機能が障害されます。体内時計自体の機能に異常が生じたり、体内時計を調整する神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)のバランスが崩れたりすることが、睡眠リズムの乱れにつながると考えられています。
  • 睡眠リズムの乱れによるうつ病のリスク増加・悪化: 慢性的な睡眠不足や睡眠リズムの乱れは、気分の落ち込み、不安、イライラといった精神症状を引き起こしたり、既存のうつ病を悪化させたりすることが知られています。特に、夜勤などのシフトワークは、体内時計の乱れを通じてうつ病の発症リスクを高める可能性が指摘されています。
  • 治療への影響: うつ病と概日リズム睡眠障害が併存している場合、どちらかの治療だけでは不十分なことがあります。例えば、うつ病の治療をしても睡眠リズムが改善しない、あるいは睡眠リズムを整えても気分の落ち込みが続く、といったケースです。両方の側面から適切な診断と治療を行うことが重要です。光療法やメラトニン受容体作動薬は、うつ病に伴う睡眠リズムの乱れに対しても効果が期待できる場合があります。

うつ病と概日リズム睡眠障害は密接に関連しており、診断と治療の際には、両方の可能性を考慮する必要があります。

子どもや高齢者における概日リズム睡眠障害の症状

概日リズム睡眠障害は、年齢層によって現れ方や特徴が異なる場合があります。子どもや高齢者における概日リズム睡眠障害について見ていきましょう。

子どもの概日リズム睡眠障害の特徴

子どもの睡眠パターンは成長とともに変化しますが、特に思春期に概日リズム睡眠障害が現れやすくなります。

  • 思春期のDSWPD: 思春期には、生理的に体内時計のリズムが後ろにずれる傾向があります。これにより、夜型になりやすく、夜遅くまで眠くならず、朝も自然に起きるのが遅くなります。この体内時計の生理的な変化に、夜遅くまでの勉強や塾、友人との交流、スマートフォンの使用といった生活習慣が加わると、睡眠・覚醒相後退型(DSWPD)を発症・悪化させやすくなります。
  • 症状: 平日は学校があるため無理して早起きしますが、睡眠時間が足りず日中に眠気や集中力低下が見られます。週末は遅くまで寝て睡眠不足を解消しようとしますが、これがさらにリズムを後ろにずらす悪循環になります。学校への遅刻や欠席が増え、学業成績や友人関係に影響が出ることがあります。
  • 鑑別: 単なる夜更かしや反抗的な行動と見間違われやすいですが、本人が早起きしようと努力しても難しい点が特徴です。
  • その他: 発達障害のある子どもでは、DSWPDや不規則型睡眠・覚醒リズム障害を併発しやすい傾向があります(前述)。

高齢者の概日リズム睡眠障害の特徴

高齢者では、加齢に伴う体内時計の変化や、様々な疾患、生活環境の変化などにより、概日リズム睡眠障害が現れやすくなります。

  • ASWPDの増加: 高齢者では、体内時計のリズムが前にずれる傾向があり、睡眠・覚醒相前進型(ASWPD)が多く見られます。夕方早い時間から眠くなり、夜中に目が覚めてしまい、その後眠れないというパターンです。
  • 症状: 夕方から夜にかけて眠気を感じ、夜中に早く目が覚めてしまうため、夜間の睡眠時間が短くなることがあります。朝早くから活動的ですが、夕方には疲れてしまいます。夜中に目が覚めた後、時間を持て余したり、不安を感じたりすることもあります。
  • ISWRDの増加: 認知症や神経疾患により、体内時計を調整する機能が障害されると、不規則型睡眠・覚醒リズム障害(ISWRD)が見られることがあります。昼夜を問わず短い睡眠と覚醒を繰り返し、昼夜逆転や徘徊といった症状を伴うこともあります。
  • 原因: 加齢によるメラトニン分泌量の低下、光への感受性の低下、活動レベルの低下(日中に十分な刺激がない)、疾患(認知症、脳卒中など)、服用している薬などが複雑に関与します。
  • 鑑別: 高齢者では、睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害など、他の睡眠障害や内科的な疾患に伴う睡眠の問題も多いため、鑑別診断が重要です。

子どもや高齢者における概日リズム睡眠障害は、それぞれ特有の原因や背景があるため、診断・治療においては年齢特性を考慮したアプローチが必要です。

概日リズム睡眠障害かもと思ったら:何科を受診すべき?

ご自身の睡眠パターンが、一般的なリズムと大きくずれていて、日常生活に支障が出ている場合、「概日リズム睡眠障害かもしれない」と考えるのは自然なことです。では、そのような場合、何科を受診すれば良いのでしょうか?

概日リズム睡眠障害を含む睡眠障害は、専門的な知識と診断・治療が必要です。受診先としては、主に以下の科が挙げられます。

  • 睡眠外来: 睡眠障害全般を専門とする科です。睡眠専門医や、睡眠に関する知識を持つ多職種(精神科医、内科医、耳鼻咽喉科医、歯科医、検査技師、臨床心理士など)が連携して診療を行っている施設もあります。概日リズム睡眠障害の診断や治療経験が豊富であるため、最も適した受診先と言えるでしょう。大学病院や一部の総合病院、専門クリニックなどに設置されています。
  • 精神科・心療内科: 不眠や過眠といった睡眠の問題は、精神的なストレスやうつ病、不安障害といった精神疾患と関連していることが多いため、精神科や心療内科でも相談することができます。特に、概日リズム睡眠障害が精神疾患と併存している場合や、精神的な不調が強い場合は、これらの科が適しています。
  • 神経内科: 脳の疾患(認知症、脳血管障害など)が原因で概日リズム睡眠障害(特に不規則型)が生じている可能性がある場合、神経内科医の診察が必要になることがあります。
  • 内科: 他の内科的な疾患(ホルモン異常など)が睡眠に影響を与えている可能性を考慮する必要がある場合や、全身状態を把握する必要がある場合に相談できることがあります。ただし、概日リズム睡眠障害そのものに対する専門性は限定的である可能性があります。

受診を検討するタイミング

以下のような場合は、一度専門医に相談することをおすすめします。

  • 睡眠パターンが数ヶ月以上、継続的にずれており、自分の意思では修正できない
  • 睡眠リズムのずれにより、日中の強い眠気、集中力低下、倦怠感があり、仕事や学業、人間関係に支障が出ている
  • 睡眠の問題に伴い、気分の落ち込みやイライラといった精神的な不調を感じる
  • 自分で色々な対策(規則正しい生活、寝室環境の改善など)を試してみたが、効果が見られない
  • 特に、子どもや高齢者で、典型的なパターンから大きく外れた睡眠リズムが見られる場合

受診する際は、可能であれば1〜2週間程度の睡眠日誌を持参すると、診察がスムーズに進むことがあります。インターネットなどで「お住まいの地域名 睡眠外来」「お住まいの地域名 睡眠障害 専門医」などと検索して、適切な医療機関を探してみてください。適切な診断と治療によって、睡眠リズムを改善し、より快適な日常生活を取り戻せる可能性があります。

まとめ

概日リズム睡眠障害は、私たちの体に備わっている体内時計のリズムが、社会生活のリズムとずれることで生じる睡眠障害です。その症状は、入眠困難、起床困難、日中の過眠、倦怠感など多岐にわたり、タイプによって現れ方が異なります。

主要なタイプとして、夜型になる睡眠・覚醒相後退型(DSWPD)、朝型になる睡眠・覚醒相前進型(ASWPD)、リズムが毎日ずれていく非24時間睡眠・覚醒リズム障害(N24SWD)、決まったリズムがない不規則型睡眠・覚醒リズム障害(ISWRD)、そしてシフトワークや時差移動によるシフトワーク睡眠障害とジェットラグがあります。ご自身の症状がどのタイプに近いかを知ることは、原因や対処法を理解する上で役立ちます。

概日リズム睡眠障害の原因は、生まれつきの体内時計の体質、不適切な光環境、不規則な生活習慣、加齢に伴う変化、そして発達障害やうつ病、認知症といった神経疾患や精神疾患など、様々な要因が複雑に絡み合っています。

診断は、詳細な問診、睡眠日誌による客観的な記録、そしてアクチグラフィーや終夜睡眠ポリグラフ検査などの各種検査を組み合わせて行われます。自己判断は難しいため、専門医の診察を受けることが重要です。

治療法は、規則正しい生活や寝室環境の整備といった生活習慣の改善に加え、体内時計を調整するための光療法や、メラトニン受容体作動薬などの薬物療法が行われます。これらの治療を組み合わせて、ずれてしまったリズムを社会生活に適した時間帯に修正することを目指します。

もし、ご自身の睡眠リズムが長期間ずれていて、日常生活に支障が出ている場合は、一人で悩まずに睡眠外来や精神科、心療内科などの専門医に相談してみましょう。適切な診断と治療を受けることで、睡眠の質が改善し、日中の活動性や精神的な健康を取り戻すことができる可能性があります。


免責事項:

本記事は、概日リズム睡眠障害に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的なアドバイスや診断、治療を代替するものではありません。個々の症状や状況については、必ず医療機関を受診し、医師にご相談ください。記事内の情報は、発表時点での一般的な知識に基づいたものであり、最新の研究や個人の状態によっては当てはまらない場合があります。本記事の情報を利用されたことにより生じるいかなる不利益や損害についても、当方は責任を負いかねますのでご了承ください。

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