過食性障害の治療薬について|効果や副作用、薬以外の方法も解説

過食性障害は、摂食障害の一つであり、コントロール感を伴わない過食エピソードを特徴とします。
多くの場合、過食の後には体重増加を防ぐための不適切な代償行為(自己誘発性嘔吐、下剤や利尿薬の乱用、絶食、過剰な運動など)が伴います。
この疾患は単なる食行動の異常にとどまらず、心理的要因や精神的な問題を抱えていることが多く、本人の苦痛は非常に大きいものです。
過食性障害の治療には様々なアプローチがありますが、薬物療法もその重要な選択肢の一つとして位置づけられています。
どのような場合に薬が使われるのか、どのような種類の薬があるのか、そして薬の効果や注意点について正しく理解することは、治療を進める上で非常に役立ちます。
この記事では、過食性障害の薬物療法を中心に、その全体像や他の治療法との関連性についても詳しく解説します。
過食性障害に悩んでいる方、ご家族の方は、ぜひこの記事を参考に、専門家への相談を検討してください。

過食性障害の薬について

過食性障害の定義と主な症状

精神疾患の診断基準であるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、過食性障害は以下の特徴によって定義されます。

  1. 反復する過食エピソード: 客観的に見てかなりの量の食物を、ほとんどの人が同様の時間(例:2時間以内)に同様の状況で食べるよりもはるかに大量に食べること。そして、そのエピソードの間、食べることをコントロールできない感覚があること(例:食べるのを止められない、あるいは食べた物の種類や量をコントロールできないと感じる)。
  2. 過食エピソード中の特徴: 以下のうち3つ(またはそれ以上)を伴う。
    • 普段よりはるかに速く食べる。
    • 不快なほど満腹になるまで食べる。
    • 身体的に空腹を感じていないときに、大量の食物を食べる。
    • 自分が食べている量に恥ずかしさを感じ、一人で食べる。
    • 過食エピソードの後、自分自身に嫌悪感を抱いたり、抑うつになったり、非常に罪悪感を感じたりする。
  3. 過食に関する著しい苦痛: 過食に関する明確な苦痛を感じている。
  4. 過食エピソードの頻度: 過食は平均して少なくとも週に1回、3ヶ月続いている。
  5. 不適切な代償行為の欠如: 過食は、神経性過食症に見られるような、自己誘発性嘔吐、下剤や利尿薬の乱用、絶食、過剰な運動といった不適切な代償行為と関連しない。
  6. 他の摂食障害との区別: 過食は神経性無食欲症や神経性過食症のエピソード中にのみ起こるものではない。

簡単に言えば、コントロールできない大量の過食を繰り返すにもかかわらず、嘔吐や下剤乱用といった代償行為を行わない病気です。
過食によって体重が増加しやすく、肥満やそれに伴う健康問題(高血圧、糖尿病など)のリスクが高まります。
また、過食に対する罪悪感、恥、抑うつ、不安などを強く感じることが多く、精神的な負担も大きい疾患です。

治療の基本方針:薬物療法と精神療法

過食性障害の治療は、薬物療法と精神療法(心理療法)を組み合わせた包括的なアプローチが基本となります。
どちらか一方だけでなく、両方を並行して行うことで、より効果的な回復が期待できます。

  • 精神療法: 過食行動の根底にある心理的な問題(自己肯定感の低さ、ストレス、人間関係の困難さ、完璧主義など)に焦点を当て、思考や行動パターンを修正していく治療法です。認知行動療法(CBT)などが効果的であることが多くの研究で示されています。
  • 薬物療法: 主に過食衝動やそれに伴う抑うつ、不安といった症状を軽減することを目的として行われます。特にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という種類の抗うつ薬が有効であることがわかっています。薬は精神療法の効果を高めたり、治療の初期段階で症状を和らげたりするのに役立ちます。

どちらの治療法をどの程度重視するかは、個々の患者さんの症状の重さ、合併する他の精神疾患(うつ病、不安障害など)の有無、治療への意欲、利用できる資源などによって異なります。
専門医がこれらの要素を考慮し、最適な治療計画を立てます。

過食性障害に処方される薬物療法

過食性障害に用いられる薬の種類と効果

過食性障害の薬物療法において、最も一般的に使用されるのは抗うつ薬です。中でもSSRIが第一選択薬として推奨されています。

主に使われる抗うつ薬(SSRI)

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの働きを調整することで、過食衝動や抑うつ、不安といった症状を改善すると考えられています。
過食性障害に対するSSRIの効果は比較的早く現れることがあり、過食エピソードの頻度を減少させる効果が期待できます。

過食性障害に対して有効性が示されている主なSSRIには、以下のようなものがあります。

  • フルボキサミンマレイン酸塩(商品名:デプロメール、ルボックス)
  • セルトラリン塩酸塩(商品名:ジェイゾロフト)
  • パロキセチン塩酸塩水和物(商品名:パキシル)
  • エスシタロプラムシュウ酸塩(商品名:レクサプロ)

これらの薬は、本来うつ病や不安障害などの治療薬として開発されましたが、過食性障害に対しても有効性が確認されています。
特に、抑うつや不安を合併している場合には、これらの症状も同時に改善する効果が期待できます。
効果が現れるまでには通常、数週間かかります。

過食衝動の軽減に検討される薬

SSRIが第一選択となりますが、SSRIで効果が不十分な場合や、特定の症状が強い場合に、他の薬が検討されることがあります。

  • 抗てんかん薬: 一部の抗てんかん薬(例:トピラマート)が、過食衝動の軽減に効果がある可能性が研究で示唆されています。ただし、過食性障害そのものに対する保険適用がない場合や、推奨度がSSRIほど高くないため、使用は慎重に検討されます。副作用のプロファイルもSSRIとは異なるため、医師の判断が必要です。
  • ノルアドレナリン・ドパミン再取り込み阻害薬(NDRI): ブプロピオン(日本では未承認)のような薬が過食エピソードの頻度を減らす効果が報告されていますが、日本では一般的に使用されません。

これらの薬は、あくまでSSRIの効果が不十分な場合や、特定の合併症がある場合に補助的に検討されるものであり、過食性障害の標準治療の中心はSSRIです。

その他の薬について

過食性障害には、うつ病、不安障害、双極性障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの他の精神疾患や、身体的な合併症を併発することが少なくありません。
これらの合併症がある場合には、それぞれの疾患に対する薬が処方されることがあります。

  • 気分安定薬: 双極性障害などを合併している場合に、気分変動を抑えるために使用されることがあります。
  • 抗精神病薬: 重度の精神病症状や、他の治療で効果が見られない場合に、補助的に使用されることがあります。
  • 不安を和らげる薬: 不安症状が強い場合に、一時的に抗不安薬などが処方されることもありますが、依存性のリスクもあるため、使用は慎重に行われます。

これらの薬は、過食性障害そのものを直接治療する薬というよりは、合併する症状や疾患に対する治療として用いられます。
個々の症状や状態に合わせて、専門医が慎重に判断し処方します。

薬の副作用と注意点

過食性障害の治療に用いられる薬には、効果が期待できる一方で、いくつかの副作用や注意点があります。

SSRIの主な副作用は以下の通りです。

  • 消化器系の症状: 吐き気、下痢、便秘、食欲不振など。服用開始初期に現れやすく、数週間で軽減することが多いです。
  • 精神神経系の症状: 頭痛、眠気、不眠、めまい、落ち着きのなさ、不安、イライラなど。
  • 性機能障害: 性欲の低下、勃起障害、射精障害、オーガズム障害など。
  • 体重変化: 食欲の変化に伴い、体重が増加または減少することがあります。
  • その他: 口渇、発汗、倦怠感など。

これらの副作用は個人差が大きく、全ての人に現れるわけではありません。
また、多くは軽度で、体が薬に慣れるにつれて軽減していく傾向があります。
しかし、副作用が強く日常生活に支障が出る場合や、気になる症状が現れた場合は、必ず主治医に相談してください。
安易に自己判断で服用を中止したり、量を変更したりすることは危険です。

SSRIを服用する上での重要な注意点として、以下の点が挙げられます。

  • 効果発現までの期間: 効果を実感できるまでには、通常2~4週間、場合によってはそれ以上の時間がかかることがあります。すぐに効果が出なくても焦らず、指示通りに服用を続けることが重要です。
  • 自己判断での中止禁止: 症状が改善したと感じても、医師の指示なく服用を中止しないでください。急に中止すると、離脱症状(めまい、吐き気、不眠、イライラなど)が現れることがあります。
  • 他の薬との飲み合わせ: 服用中の他の薬やサプリメントがある場合は、必ず医師や薬剤師に伝えてください。薬の飲み合わせによっては、効果が強くなりすぎたり弱くなったり、予期せぬ副作用が出たりする可能性があります。
  • 妊婦・授乳婦: 妊娠中または授乳中の場合は、必ず医師に相談してください。薬の種類によっては、胎児や乳児に影響を与える可能性があります。
  • アルコール: 服用中の飲酒は、薬の作用を強めたり、眠気やめまいなどの副作用を悪化させたりする可能性があるため、控えることが推奨されます。
  • 賦活症候群: 特に若い人において、服用開始初期に不安、焦燥感、興奮、パニック、衝動性、攻撃性、希死念慮(自殺を考えたり計画したりすること)などが強まる可能性(賦活症候群)があります。このような症状が現れた場合は、速やかに医師に連絡が必要です。

薬物療法は専門医の診断と処方のもと、適切に行われることが最も重要です。
疑問や不安があれば、遠慮なく医師に相談しましょう。

ストレス性過食に漢方薬は効果がある?(関連質問)

過食性障害とは別に、ストレスが原因で一時的に食べすぎてしまう「ストレス性過食」に悩む方もいます。
このような場合や、過食性障害の補助的な治療として、漢方薬に興味を持つ方もいるかもしれません。

漢方薬は、心身全体のバランスを整えることを目的として処方されます。
ストレスや不眠、イライラといった精神的な症状や、胃腸の不調など、過食に繋がりやすい体の状態を改善することで、間接的に過食行動を抑える効果が期待できる場合があります。
例えば、ストレスによる気の巡りの滞りを改善する「加味逍遙散」や、不安や不眠に用いられる「柴胡加竜骨牡蠣湯」などが、個々の体質や症状に合わせて検討されることがあります。

しかし、漢方薬は過食性障害そのものに対する科学的エビデンスに基づいた標準治療ではありません。
漢方薬だけで過食性障害を完治させることは難しいと考えられています。
あくまで、精神療法や西洋薬による治療を補完する目的や、軽度のストレス性過食に対して、医師や漢方専門の薬剤師と相談の上、試してみる価値があるかもしれません。

重要なのは、自己判断で漢方薬を服用するのではなく、必ず専門家(医師や薬剤師)に相談し、自分の体質や症状に合ったものを選ぶことです。
また、漢方薬にも副作用がないわけではありませんので、注意が必要です。

食欲抑制剤(サノレックスなど)は過食性障害に使える?保険適用は?(関連質問)

過食性障害は「過食」を主な症状とするため、「食欲を抑える薬を使えば良いのでは?」と考える方もいるかもしれません。
食欲抑制剤として代表的な薬にサノレックス(マジンドール)があります。

しかし、食欲抑制剤は、過食性障害の治療には原則として使用されません。サノレックスは、BMI(体格指数)が35以上の高度肥満症と診断され、食事療法や運動療法を行っても効果が不十分な場合に、医師の管理下で短期間(最長3ヶ月)使用が認められている薬です。

過食性障害は、単に食欲がコントロールできないという問題だけでなく、複雑な心理的・精神的な要因が深く関わっています。
食欲抑制剤を使用しても、過食衝動の根底にある問題は解決されないため、効果がないか、かえって症状を悪化させる可能性があります。
また、依存性や様々な副作用(口渇、便秘、不眠、動悸、血圧上昇など)のリスクもあります。

過食性障害に対して食欲抑制剤が保険適用されることはありません。

したがって、過食性障害の治療を考える際には、食欲抑制剤ではなく、前述のようなSSRIなどの薬物療法と、精神療法を組み合わせた適切な治療法を選択することが極めて重要です。
誤った情報や自己判断による危険な薬の使用は避け、必ず専門医の指示に従ってください。

薬物療法以外の治療法

過食性障害の治療は、薬物療法だけではありません。
特に、精神療法は過食性障害の核となる問題にアプローチするために非常に重要であり、薬物療法と並行して行われることが推奨されます。

認知行動療法(CBT)

認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)は、摂食障害の治療において最も確立された効果的な精神療法の一つです。
過食性障害の治療ガイドラインでも、CBTは第一選択の精神療法として強く推奨されています。

CBTは、「思考(認知)」、「感情」、「行動」、「身体反応」は互いに影響し合っているという考えに基づいています。
過食行動やそれに伴う苦痛は、現実とは異なる捉え方(歪んだ認知)や、その認知に基づく不適切な行動パターンによって維持されていると考えます。

過食性障害に対するCBTの目標は、以下の点に焦点を当てます。

  • 過食行動の頻度と強さを減らす: 過食の引き金となる状況や感情を特定し、過食以外の対処法を学びます。
  • 体重や体型に対する過度のこだわりを修正する: 理想とはかけ離れた体型への否定的感情や、自己評価を体重や体型だけで判断する傾向を改善します。
  • 食事に関する不適切な考え方や行動を変える: 極端な食事制限や「良い食べ物」「悪い食べ物」といった二分法的な考え方を改め、健康的でバランスの取れた食習慣を確立します。
  • 問題解決スキルや感情調整スキルを身につける: ストレスや困難な感情に、過食に頼るのではなく、建設的に対処する方法を学びます。

CBTは通常、週に1回程度のセッションを、数ヶ月間集中的に行います。
構造化された治療法であり、宿題として日々の食事記録や行動課題に取り組むことが含まれます。
患者さん自身が積極的に治療に参加し、学んだスキルを日常生活で実践していくことが回復に繋がります。

対人関係療法(IPT)

対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy: IPT)は、対人関係の問題が摂食障害の発症や維持に関わっている場合に有効とされる精神療法です。
過食性障害の治療にも有効性が示されています。

IPTでは、過食行動そのものに直接焦点を当てるのではなく、現在の対人関係における問題領域(例えば、役割を巡る不和、役割の変化、悲嘆、対人関係の欠如)を特定し、それらの問題に対処するスキルを身につけることを目指します。
対人関係の問題が解決されることで、過食行動の頻度が減少すると考えられています。

例えば、職場での人間関係のストレスが過食の引き金になっている場合、そのストレスを管理したり、対人スキルを向上させたりすることに焦点を当てます。
悲しい出来事(身近な人の死別など)が過食の始まりとなった場合は、その悲嘆のプロセスに取り組むことをサポートします。

CBTと同様に、IPTも通常は週に1回程度のセッションを、ある一定期間(例えば、数ヶ月)行います。
CBTとはアプローチが異なりますが、特に過食行動が対人関係のストレスと強く関連している患者さんにとっては有効な治療選択肢となります。

その他の精神療法、栄養療法、家族療法など

過食性障害の治療には、上記以外にも様々なアプローチがあります。

  • 弁証法的行動療法(DBT): 特に感情の調整が苦手で、衝動的な行動(過食や衝動的な代償行為など)をしやすい患者さんに有効な場合があります。
  • 力動的精神療法: 無意識の 갈등 や過去の経験が現在の問題にどのように影響しているかを探求する治療法です。
  • 栄養療法: 摂食障害に詳しい管理栄養士による指導は、健康的でバランスの取れた食習慣を確立し、過食や不適切な代償行為を減らす上で非常に重要です。食事に関する誤った知識を修正し、不安なく食べられるようになることを目指します。
  • 家族療法: 特に若い患者さんの場合、家族が摂食障害の理解を深め、回復をサポートするための方法を学ぶことが重要です。
    家族全体で問題に取り組み、コミュニケーションを改善することを目指します。

これらの治療法は、患者さんの年齢、症状の重さ、合併症、家族の状況など、個々の状況に合わせて組み合わせて行われます。
専門医や多職種チーム(医師、看護師、心理士、管理栄養士、精神保健福祉士など)による包括的なケアが、過食性障害の回復には不可欠です。

過食性障害の治療期間と回復の可能性

回復までの一般的な期間

過食性障害の回復にかかる期間は、患者さんの症状の重さ、治療への取り組み方、利用できるサポート体制、合併症の有無などによって大きく異なります。

一般的に、精神療法(特にCBT)や薬物療法を開始してから、過食エピソードの頻度が目に見えて減り、症状が安定するまでには、数ヶ月から1年程度かかることが多いです。
完全に回復し、過食行動や摂食に関する苦痛から解放されるまでには、さらに長い時間、場合によっては数年を要することもあります。

薬物療法の場合、SSRIの効果が現れるまでには前述の通り数週間かかるため、すぐに効果が出なくても諦めずに続けることが重要です。
精神療法も、スキルを習得し、日常生活で実践できるようになるには時間がかかります。

治療は、症状が落ち着いた後も、再発予防のために一定期間継続されることが一般的です。
完全に治療を終了するタイミングについても、医師とよく相談して決める必要があります。

再発を防ぐための対策

過食性障害は、一度症状が改善しても、ストレスや特定の状況をきっかけに再発する可能性がある病気です。
回復を維持し、再発を防ぐためには、継続的なケアと自己管理が重要になります。

再発予防のための主な対策は以下の通りです。

  • 治療の継続: 症状が改善しても、自己判断で治療(特に精神療法や服薬)を中止しないことが大切です。
    医師や治療者と相談し、徐々に治療の頻度や量を減らしていくプロセスを踏みましょう。
  • 再発のサインに気づく: 過食衝動が強くなる、体重や体型へのこだわりが再燃する、気分が落ち込む、ストレスが溜まるなど、再発の初期サインを自分で認識できるようになることが重要です。
  • 対処スキルの活用: 治療で学んだ過食以外のストレス対処法や問題解決スキルを、困難な状況に直面した際に積極的に活用します。
  • 規則正しい生活: 睡眠、食事、運動などの生活リズムを整えることは、心身の安定に繋がり、過食衝動を抑えるのに役立ちます。
  • サポートシステムの活用: 信頼できる家族、友人、自助グループなど、誰かに相談したり助けを求めたりできるサポートシステムを持つことが大切です。
  • 定期的なフォローアップ: 必要に応じて、症状が落ち着いた後も定期的に専門医や治療者の診察を受けることで、早期に再発の兆候を捉え、迅速に対処することができます。

再発は決して失敗ではなく、回復の過程で起こりうる一時的な setback(後退)です。
再発してしまった場合でも、自分を責めすぎず、早めに専門家に相談し、再び治療に取り組むことが重要です。

重症度と入院の目安(関連質問)

過食性障害の重症度は、主に過食エピソードと不適切な代償行為(過食性障害では伴わないが、神経性過食症の重症度判定の基準となる)の頻度、症状による苦痛の程度、機能障害(仕事や学業、社会生活への影響)、そして合併症の有無などによって総合的に判断されます。
過食性障害においては、週に数回の過食エピソードがある場合など、頻度が高いほど重症度が高いとみなされることがあります。

入院治療は、通常、外来治療では対応が困難な重症例や、以下のような状況で検討されます。

  • 重度の精神症状: 自殺を強く考えている、重度の抑うつや不安がある、自己破壊的な行動(自傷行為など)が見られる場合。
  • 深刻な身体合併症: 繰り返す過食や代償行為(過食性障害には伴わないが、もし合併している場合)による電解質異常(カリウム値の異常など)や心臓への負担、消化器系の問題など、生命に関わるリスクがある場合。
  • 外来治療で全く改善が見られない場合: 長期間の外来治療を試みても、過食行動が改善しない、または悪化している場合。
  • 自宅環境が治療に適さない場合: 家庭環境が不安定で、回復をサポートすることが難しい場合。

入院中は、集中的な精神療法、薬物療法、栄養療法、看護ケアなど、多職種チームによる総合的な治療が提供されます。
入院によって、安全な環境で心身の回復に専念することができます。
入院が必要かどうかは、専門医が患者さんの状態を詳しく診察した上で慎重に判断します。

過食嘔吐による歯への影響(関連質問)

過食性障害は、嘔吐などの代償行為を伴わないと定義されていますが、摂食障害の中には神経性過食症のように過食の後に嘔吐を繰り返すものもあります。
もし過食性障害に、診断基準には含まれないものの、嘔吐などの代償行為が習慣として加わっている場合(診断が神経性過食症に変わる可能性があります)、歯に深刻な影響を与える可能性があります。

自己誘発性嘔吐を繰り返すと、胃から逆流してきた胃酸が口の中、特に歯に触れることになります。
胃酸は非常に強い酸性であり、歯の一番外側の硬い組織であるエナメル質を溶かしてしまいます。
これを酸蝕症(さんしょくしょう)といいます。

酸蝕症が進行すると、歯の表面が溶けて形が変わる(丸みを帯びるなど)、知覚過敏が起こる(冷たいものがしみるなど)、歯が黄ばんで見える(エナメル質の下の象牙質が透けて見えるため)、そして最終的には歯が脆くなり、虫歯になりやすくなったり、欠けたり折れたりしやすくなったりします。
特に、上の前歯の裏側が胃酸に触れやすく、酸蝕症が起こりやすい部位とされています。

過食嘔吐の習慣がある場合は、歯への影響を最小限に抑えるための対策が必要です。

  • 嘔吐後のケア: 嘔吐直後は、口の中が酸性になっているため、すぐに歯磨きをするとエナメル質をさらに傷つける可能性があります。
    まずは水で口をよくすすぎ、可能であればアルカリ性の洗口液(マウスウォッシュ)を使用するのが良いでしょう。
    歯磨きをする場合は、時間を置いてから、フッ素配合の歯磨き粉を使い、優しく磨くようにします。
  • 歯科医への相談: 摂食障害の治療と並行して、必ず歯科医に相談し、歯の状態をチェックしてもらいましょう。
    酸蝕症の進行度を確認し、適切なケア(フッ素塗布、詰め物など)を受けることが重要です。
    摂食障害があることを歯科医に伝えることで、より適切な対応を受けることができます。

過食性障害であっても、もし嘔吐などの代償行為に悩んでいる場合は、その行動が心身に与える影響(歯への影響を含む)を理解し、治療の目標の一つとして専門家と一緒に取り組むことが大切です。

過食性障害の相談先と病院の選び方

過食性障害に気づき、治療を受けたいと考えたとき、どこに相談すれば良いのか、どの病院を選べば良いのかは重要な問題です。
適切な相談先を見つけることが、回復への第一歩となります。

精神科や心療内科の受診

過食性障害は精神疾患の一つですので、基本的には精神科または心療内科を受診するのが適切です。

  • 精神科: 精神疾患全般を専門とする診療科です。
    摂食障害の専門的な治療を行っている医療機関も多くあります。
  • 心療内科: ストレスなど心の問題が原因で体に症状が現れる心身症を中心に診療しますが、うつ病や不安障害などの精神疾患も診療範囲に含まれます。
    摂食障害を診療している心療内科もあります。

どちらの科を受診するか迷う場合は、まずはかかりつけ医に相談するか、地域の精神保健福祉センターなどに問い合わせてみるのも良いでしょう。

専門医療機関を見つけるポイント

過食性障害は複雑な病気であり、摂食障害の専門的な知識と経験を持った医師や医療スタッフによる治療が望ましいとされています。
可能であれば、摂食障害の専門外来がある医療機関や、摂食障害の治療に力を入れている病院を探すことをお勧めします。

専門医療機関を見つけるためのポイントはいくつかあります。

  • インターネット検索: 「地域名 摂食障害 専門外来」「過食性障害 治療 病院」などのキーワードで検索してみましょう。
    病院のウェブサイトで、摂食障害の診療を行っているか、どのような治療法を提供しているか(薬物療法、精神療法など)を確認できます。
  • 地域の精神保健福祉センター: 各都道府県や市区町村に設置されている精神保健福祉センターでは、精神疾患に関する相談に応じており、適切な医療機関の情報を得られる場合があります。
  • 患者会や支援団体: 摂食障害の患者会や支援団体では、治療に関する情報交換や、おすすめの医療機関の情報が得られることがあります。
  • 紹介: かかりつけ医や他の専門家(スクールカウンセラー、保健師など)から、摂食障害の専門医を紹介してもらうことも有効です。

病院を選ぶ際には、以下の点も考慮すると良いでしょう。

  • 医師との相性: 精神疾患の治療においては、医師との信頼関係が非常に重要です。
    初診で必ずしも「良い」と感じなくても、いくつかの医療機関を受診してみて、自分が話しやすく、信頼できると感じる医師を見つけることが大切です。
  • 治療方針: 薬物療法に力を入れているのか、精神療法を重視しているのか、多職種連携による包括的な治療を提供しているのかなど、医療機関の治療方針が自分に合っているかを確認しましょう。
  • 通いやすさ: 外来治療は継続が必要ですので、自宅や職場からのアクセスが良いかどうかも重要な選択基準となります。

過食性障害の治療は一人で抱え込まず、必ず専門家のサポートを得ることが大切です。
勇気を出して相談の一歩を踏み出しましょう。

過食性障害の薬による治療は専門医に相談しましょう

過食性障害は、本人にとって非常に辛く、身体的・精神的な健康に大きな影響を与える病気です。
しかし、適切な治療を受けることで、必ず回復の可能性があります。

この記事で見てきたように、過食性障害の治療において、薬物療法は特に過食衝動やそれに伴う抑うつ、不安といった症状を軽減するために有効な選択肢となります。
中でもSSRIは、多くの研究でその効果が確認されており、第一選択薬として広く用いられています。
しかし、薬は症状の一部を和らげるものであり、過食行動の根本にある心理的な問題に対処するためには、認知行動療法などの精神療法と組み合わせることが非常に重要です。

薬物療法を始める際には、薬の種類、効果、副作用、他の薬との飲み合わせなど、専門的な知識が必要です。
インターネット上の情報や自己判断による薬の使用は、効果がないばかりか、思わぬ副作用や健康被害を引き起こす危険性があります。

過食性障害の薬物療法は、必ず精神科や心療内科の専門医の診断と処方のもとで行われるべきです。
医師は、患者さんの個々の症状、身体の状態、合併症の有無、他の薬の服用状況などを総合的に判断し、最も適した薬の種類や量を決定します。
また、治療の経過を見ながら、必要に応じて薬の調整を行います。

もしあなたが過食性障害に悩んでいる、あるいはご家族や友人が過食性障害かもしれないと感じているのであれば、一人で悩まず、まずは精神科や心療内科を受診し、専門医に相談してください。
摂食障害の専門外来がある医療機関であれば、より専門的な視点から、薬物療法を含めた適切な治療計画を提案してもらえるでしょう。

過食性障害は治る病気です。
勇気を持って専門家の手を借りることが、回復への確実な一歩となります。


免責事項: 本記事は情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。
過食性障害の症状にお悩みの方は、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。
記事中の情報は、執筆時点での一般的な医学的知見に基づいています。

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