軽度認知障害は治療で回復できる?最新の治療法と対策を解説

軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)は、年齢相応の物忘れとは異なり、記憶力やその他の認知機能に軽度の低下が見られる状態を指します。
日常生活への影響はほとんどないか、ごく軽微なため、本人や周囲も気づきにくいことがあります。
しかし、MCIと診断された方のうち、年間約10~15%の方が認知症に進行するといわれています。
一方で、MCIから認知機能が回復する方や、状態を維持される方もいらっしゃいます。

この記事では、軽度認知障害(MCI)の治療法や改善方法に焦点を当て、治る可能性、回復率、認知症との違い、原因、診断された場合の対応、家族のサポート、そして早期発見と対策の重要性について詳しく解説します。
ご自身や大切な方がMCIと診断された場合、あるいは予防に関心がある場合に、今後の向き合い方を考えるための一助となれば幸いです。

軽度認知障害(MCI)とは?認知症との違い

軽度認知障害(MCI)は、認知症の前段階ともいわれる状態です。
健康な高齢者と認知症の中間に位置づけられます。
具体的には、以下の特徴が見られます。

  • 本人または家族から、記憶やその他の認知機能(言葉、注意、遂行機能、視空間認知など)に関する問題が指摘される。
  • 標準的な神経心理検査で、年齢や学歴に比して認知機能に軽度の低下が認められる。
  • 日常生活動作(着替え、食事、入浴など)は保たれているか、ごく軽微な支障がある程度である。
    複雑な日常生活動作(金銭管理、服薬管理、交通機関の利用など)には軽度の困難が見られることがある。
  • 認知症の診断基準は満たさない。

重要なのは、「認知症ではない」という点です。
認知症は、認知機能の低下によって日常生活や社会生活に支障をきたしている状態を指します。
一方、MCIでは、認知機能の低下は認められるものの、日常生活への影響は限定的です。

MCIは、認知症、特にアルツハイマー型認知症への移行リスクが高い状態として注目されています。
しかし、全てのMCIの人が認知症になるわけではありません。
原因によっては、認知機能が改善したり、長期間MCIの状態を維持したりする方もいます。
早期にMCIを発見し、適切な対策を行うことが、認知症への進行を遅らせたり、回復を目指したりするために非常に重要となります。

軽度認知障害に「治療法」「完治」はある?回復率は?

軽度認知障害(MCI)と診断された方やそのご家族にとって、最も気になることの一つは「治るのか」「完治するのか」ということでしょう。
MCIに対する考え方や現状について解説します。

軽度認知障害は治る可能性がある?

軽度認知障害(MCI)は、診断された原因やタイプによってその後の経過が異なります。
MCIにはいくつかのタイプがありますが、最も多いのは記憶障害が目立つ「健忘型MCI」です。
これはアルツハイマー型認知症への移行リスクが高いとされています。
しかし、その他のタイプのMCIや、MCIの原因がアルツハイマー病以外の疾患(脳血管障害、うつ病、ビタミン欠乏症、甲状腺機能障害など)である場合、その原因を適切に治療することで認知機能が改善し、MCIの状態から脱却できる可能性があります。

たとえアルツハイマー病が原因であるMCIであっても、現在のところアルツハイマー病を「完治」させる治療法は確立されていませんが、病気の進行を遅らせるための様々な研究や対策が進められています。
MCIの段階で生活習慣の改善や脳への刺激を積極的に行うことは、認知機能の維持や回復につながることが多くの研究で示唆されています。
つまり、MCIは必ずしも認知症に進行する一方通行の状態ではなく、「治る」「改善する」「維持する」といった複数の経過をたどる可能性がある状態と言えます。

回復する人の割合は?

軽度認知障害(MCI)から正常な認知機能レベルまで回復する人の割合は、研究によって差がありますが、一般的にはMCIと診断された方のうち、年間で約15〜20%程度が回復すると報告されています。

回復するケースとしては、以下のような状況が考えられます。

  • MCIの原因が治療可能な疾患であった場合: うつ病、睡眠障害、薬剤の副作用、ビタミン欠乏症、甲状腺機能障害などがMCIのような症状を引き起こしている場合、これらの原因疾患を治療することで認知機能が改善することがあります。
  • 診断時の評価が厳しすぎた場合: 一時的な体調不良や心理的な要因で認知機能が低下していた場合。
  • 積極的な生活習慣の改善や脳活性化に取り組んだ場合: 適切な介入により、認知機能が改善するケースも報告されています。

一方で、MCIと診断された方のうち、年間で約10~15%が認知症に進行するといわれています。
残りの方は、MCIの状態を維持するか、さらに軽度の認知機能低下が見られる状態となります。

回復する可能性がある、という希望を持つことは大切ですが、MCIの診断は、将来的な認知症リスクが高まっているというサインでもあります。
回復を目指しつつ、認知症への進行を予防するための対策を並行して行うことが、MCIと診断された方にとって最も重要です。
個々の状況やMCIの原因によって予後は異なるため、専門医とよく相談し、ご自身のMCIタイプや最適な対策について理解を深めることが不可欠です。

現在行われている軽度認知障害の主な改善方法

現在のところ、軽度認知障害(MCI)に対して明確に承認された「治療薬」はありません。
しかし、認知症への進行を遅らせたり、認知機能を改善・維持したりするための様々な取り組み、すなわち「改善方法」が存在します。
これらの改善方法は、主に薬を使わない「非薬物療法」が中心となります。

非薬物療法が中心

MCIの改善において最も重要視されているのが非薬物療法です。
これは、特定の疾患や症状に直接作用する薬を用いるのではなく、本人の行動や環境に働きかけることで、認知機能の維持・向上や生活の質の改善を目指すアプローチです。
非薬物療法は、認知症予防としても広く推奨されており、その効果を示すエビデンスが増えています。

非薬物療法には、大きく分けて以下の要素が含まれます。

  • 生活習慣の改善
  • 脳への刺激を増やす
  • 社会とのつながりを保つ

これらの要素をバランス良く取り入れることが、MCIの改善には効果的と考えられます。

生活習慣の改善

健康的な生活習慣は、認知機能の維持に不可欠です。
特に、以下の3つはMCIの改善や認知症予防において重要視されています。

適度な運動を取り入れる

定期的な運動は、全身の健康はもちろん、脳の健康にも良い影響を与えます。
運動によって脳への血流量が増加し、神経細胞の成長を促す物質が分泌されることが分かっています。
これにより、記憶力や思考力の維持・向上につながると期待されます。

  • どんな運動が良い?
    ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動が特に推奨されます。
    筋力トレーニングやバランス運動も、体の健康を保つ上で重要です。
  • どのくらいの頻度で?
    週に150分程度の中強度(ややきついと感じる程度)の有酸素運動を目指しましょう。
    例えば、1回30分のウォーキングを週に5回行うなど。
    無理のない範囲で、毎日少しずつでも続けることが大切です。
  • 具体的な例
    • 近所を散歩する
    • エレベーターやエスカレーターを使わず階段を利用する
    • 家庭菜園やガーデニングを行う
    • ラジオ体操や地域の健康教室に参加する
バランスの取れた食事を心がける

脳の健康をサポートするためには、特定の栄養素を意識したバランスの良い食事が重要です。
特に、地中海式ダイエットに代表されるような、野菜、果物、全粒穀物、魚、ナッツ類、オリーブオイルなどを豊富に取り入れた食事が認知機能に良い影響を与える可能性が指摘されています。

  • 積極的に摂りたい食品
    • 魚(特に青魚): DHAやEPAといったオメガ-3脂肪酸が豊富で、脳機能の維持に役立つとされます。
    • 野菜・果物: 抗酸化物質やビタミン、ミネラルが豊富で、脳の老化を防ぐ効果が期待されます。
      様々な色の野菜・果物をバランス良く摂りましょう。
    • 全粒穀物: ビタミンB群や食物繊維が豊富で、脳のエネルギー源となるブドウ糖を安定して供給します。
    • ナッツ類・種実類: ビタミンEや不飽和脂肪酸が含まれ、脳の健康に良いとされます。
    • 豆類: タンパク質や食物繊維、ミネラルが豊富です。
    • オリーブオイル: 良質な脂質源です。
  • 控えめにしたい食品
    加工食品、ファストフード、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を多く含む食品、糖分の多い飲料などは、認知機能に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
  • 具体的な食事のヒント
    • 毎食、主食(全粒穀物)、主菜(魚、肉、豆)、副菜(野菜、きのこ、海藻)を揃える。
    • 間食にお菓子ではなく、果物やナッツを選ぶ。
    • 水分をこまめに摂ることも忘れずに。
十分な睡眠をとる

睡眠は、脳が記憶を整理し、疲労を回復させるために非常に重要です。
睡眠不足や質の低い睡眠は、認知機能の低下と関連があることが分かっています。

  • 理想的な睡眠時間
    個人差はありますが、成人は1日7〜8時間の睡眠が推奨されています。
  • 睡眠の質を高めるために
    • 毎日決まった時間に寝て起きるようにする(休日も含む)。
    • 寝る前にカフェインやアルコールの摂取を控える。
    • 寝る前にスマートフォンやパソコンの使用を避ける。
    • 寝室の環境を整える(暗く静かで、快適な温度)。
    • 適度な運動を取り入れる(ただし、寝る直前の激しい運動は避ける)。
    • 昼寝をする場合は、短時間(20〜30分程度)に留める。

脳への刺激を増やす

脳を活動的に保つことは、認知機能の維持・向上につながります。
新しい情報を取り入れたり、考えたりする機会を増やすことが重要です。

認知トレーニング(脳トレ)

認知トレーニングは、記憶力や注意力、思考力などの認知機能を鍛えることを目的とした活動です。
パズル、計算問題、読み書き、楽器の演奏、外国語の学習など、様々な方法があります。

  • 効果
    特定の認知機能(例:記憶力、遂行機能)を向上させる効果が期待されます。
    ただし、トレーニングした特定の課題以外への汎化効果については研究が必要です。
    重要なのは、ゲームとして楽しむだけでなく、日常生活の中で意識的に脳を使う機会を増やすことです。
  • 注意点
    過度なトレーニングは逆効果になることもあります。
    楽しみながら、無理なく続けることが大切です。
知的好奇心を刺激する活動

新しいことに挑戦したり、興味のある分野について学んだりすることは、脳に良い刺激を与えます。

  • 具体的な活動例
    • 読書や新聞を読む
    • 趣味の活動(絵画、陶芸、手芸など)
    • 新しいスキルや知識を学ぶ(語学、楽器、パソコン操作など)
    • 講演会やセミナーに参加する
    • 美術館や博物館を訪れる
    • 旅行に出かける(新しい場所や経験)

重要なのは、受動的に情報を受け取るだけでなく、能動的に考えたり、創造的な活動に取り組んだりすることです。

社会とのつながりを保つ

人との交流は、脳を活性化させ、精神的な健康を保つ上で非常に重要です。
社会的に孤立している人は、認知症のリスクが高まることが指摘されています。

社会参加・交流の重要性

家族や友人との交流はもちろん、地域活動や趣味のサークルなどに参加することで、新しい情報に触れたり、会話を楽しんだり、役割を持つことができます。
これらの活動は、脳に複合的な刺激を与え、認知機能の維持に役立ちます。

  • 具体的な活動例
    • 家族や友人と頻繁に連絡を取り合う
    • 地域のボランティア活動に参加する
    • 趣味のサークルやクラブに参加する
    • 高齢者向けの学習講座や交流会に参加する
    • 近所の人と積極的に挨拶を交わす

これらの活動は、孤立を防ぎ、生活にハリと潤いを与え、ストレス軽減にもつながります。

薬物療法について

現状、軽度認知障害(MCI)に対する明確に承認された治療薬はありません。
アルツハイマー型認知症に対しては進行を一時的に遅らせる薬がありますが、MCIの段階でのこれらの薬の効果については確立されていません。

しかし、MCIの原因が、うつ病、睡眠障害、ビタミン欠乏症など、薬で治療可能な他の疾患である場合には、原因疾患に対する適切な薬物療法を行うことで、結果的に認知機能が改善することがあります。

また、MCIやアルツハイマー病の新たな治療薬の開発に向けた研究は世界中で活発に行われています。
アミロイドβやタウといったアルツハイマー病の原因と考えられている異常タンパク質に作用する薬や、神経炎症を抑える薬など、様々なアプローチが試されています。
これらの研究が進み、将来的にMCIの進行を抑制したり、回復を促したりする薬が登場する可能性はあります。

現時点では、MCIに対する薬物療法は一般的ではありませんが、ご自身のMCIの原因や状態によっては、医師から特定の治療薬が提案される可能性もあります。
必ず専門医の判断に従ってください。

軽度認知障害の原因と診断について

軽度認知障害(MCI)と診断された場合、その原因を特定することが重要です。
原因によってその後の経過や必要な対策が異なるためです。
また、適切な診断を受けることが、早期介入の第一歩となります。

主な原因疾患・要因

MCIの原因は一つではありません。
様々な要因が複合的に関与している場合もあります。

  • アルツハイマー病の前段階: MCIの最も一般的な原因であり、健忘型MCIの多くがこれに該当します。
    脳内にアミロイドβやタウといった異常タンパク質が蓄積し始めることで、神経細胞の機能が障害されると考えられています。
    このタイプのMCIは、アルツハイマー型認知症へ進行するリスクが高いとされています。
  • 脳血管障害: 脳梗塞や脳出血などによって脳の一部が損傷を受けることで、認知機能に影響が出ることがあります。
    小さな脳梗塞が積み重なることでMCIとなるケースもあります。
    生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症)がリスク要因となります。
  • レビー小体型認知症の前段階: 脳内にレビー小体という異常な構造物が蓄積することで起こります。
    アルツハイマー病とは異なる認知機能の低下(視空間認知、注意機能など)や、幻視、パーキンソン症状などが特徴です。
  • 前頭側頭型認知症の前段階: 脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞が変性することで起こります。
    MCIの段階では、人格の変化や行動異常、言語の障害などが目立つことがあります。
  • その他の疾患:
    • うつ病: 抑うつ症状によって意欲や集中力が低下し、物忘れのように見えることがあります(仮性認知症)。
      うつ病の治療によって改善します。
    • 甲状腺機能障害: 甲状腺ホルモンの分泌異常が認知機能に影響を及ぼすことがあります。
    • ビタミン欠乏症: ビタミンB12や葉酸などの欠乏が認知機能低下の原因となることがあります。
    • 慢性硬膜下血腫: 頭部外傷などが原因で脳を覆う膜の下に出血が溜まり、脳を圧迫することで認知機能低下が起こることがあります。
    • 正常圧水頭症: 脳室に髄液が異常に溜まり、歩行障害、尿失禁、認知機能障害をきたすことがあります。
    • 薬剤の副作用: 特定の薬剤が認知機能に影響を与えることがあります。

上記以外にも、睡眠障害、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満)、喫煙、過度な飲酒、運動不足、社会的な孤立なども、MCIのリスクを高める要因として考えられています。

診断方法・チェックリスト

軽度認知障害(MCI)の診断は、専門医(神経内科医、精神科医、脳神経外科医など)による総合的な評価が必要です。
自己判断や簡易的なチェックリストのみでMCIと判断することはできません。

診断は、以下の項目を組み合わせて行われます。

  1. 問診: 本人や家族から、物忘れなどの認知機能に関する具体的なエピソードや、日常生活での困りごとについて詳しく聞き取ります。
    病歴、内服薬、生活習慣などについても確認します。
  2. 神経学的診察: 運動機能、感覚機能、反射などに異常がないかを確認します。
  3. 神経心理検査: 記憶力、注意力、遂行機能、言語能力、視空間認知など、様々な認知機能を評価するための標準化された検査を行います。
    代表的な検査としては、MMSE(Mini-Mental State Examination)やADAS-J cog、MoCA-Jなどがあります。
    これらの検査結果を、年齢や学歴といった基準値と比較して評価します。
  4. 画像検査:
    • 頭部MRIやCT: 脳梗塞、脳出血、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症など、器質的な脳の病変がないかを確認します。
      アルツハイマー病による脳の萎縮の程度を評価することもできます。
    • SPECTやPET: 脳の血流や代謝、特定のタンパク質(アミロイドβなど)の蓄積を画像化することで、MCIの原因となっている可能性のある疾患を特定するのに役立ちます。
  5. 血液検査: 甲状腺機能、ビタミンB12や葉酸の値、血糖値、脂質などを調べ、認知機能低下の原因となる全身性の疾患がないかを確認します。
  6. 髄液検査: 必要に応じて、腰椎穿刺により髄液を採取し、アミロイドβやタウといったアルツハイマー病に関連する物質の濃度を測定することがあります。

これらの検査結果を総合的に判断し、MCIの診断がなされます。
診断の過程で、うつ病などの精神疾患や他の身体疾患が認知機能低下の原因であることが判明する場合もあります。

インターネット上や書籍には様々な「認知症チェックリスト」や「物忘れチェック」がありますが、これらはあくまで目安であり、医学的な診断ではありません。
心配な症状がある場合は、自己判断せずに必ず専門医を受診し、正確な診断を受けることが最も重要です。
早期に正確な診断を受けることで、原因に応じた適切な対策や治療を開始することができます。

軽度認知障害と診断されたら?家族の対応も含めて

もし軽度認知障害(MCI)と診断されたら、ショックを受けたり、不安を感じたりするのは自然なことです。
しかし、MCIは認知症ではない段階であり、まだ様々な対策を講じることが可能です。
前向きにMCIと向き合い、今後の生活をより良くするためのステップを考えましょう。

今後について専門医に相談する

MCIと診断されたら、まずは診断を下した専門医と今後のことについて十分に話し合うことが重要です。

  • MCIの原因について理解を深める: なぜMCIと診断されたのか、原因として何が考えられるのかを医師に確認しましょう。
    アルツハイマー病の前段階なのか、それとも他の治療可能な疾患が原因なのかによって、その後の対応が異なります。
  • 今後の見通しについて聞く: MCIから認知症へ進行するリスク、回復する可能性、状態を維持するための具体的な方法など、医師から説明を受けましょう。
    ただし、将来を断定的に予測することは難しいため、あくまで可能性として捉えることが大切です。
  • 具体的な改善策について相談する: 医師から推奨される生活習慣の改善点や、取り組むべきことについて具体的にアドバイスを受けましょう。
    運動、食事、睡眠、脳の活性化、社会参加など、ご自身のライフスタイルに合わせて、何から始めれば良いかを相談できます。
  • 定期的なフォローアップの計画を立てる: MCIは時間とともに状態が変化する可能性があるため、定期的に専門医の診察を受け、認知機能の変化を確認してもらうことが重要です。
    どのくらいの頻度で受診する必要があるか、どのような検査をいつ行うかなどを医師と相談して決めましょう。
  • 利用できる医療・介護サービスについて情報を得る: 必要に応じて、地域の医療機関や高齢者支援センターなどで利用できるサービス(認知症カフェ、デイサービスの一部プログラム、家族会など)について情報を集めましょう。

専門医は、あなたのMCIの状態を最もよく理解しているパートナーです。
疑問や不安な点があれば遠慮せずに質問し、今後の計画を一緒に立てていくことが大切です。

家族ができるサポート・対応

ご家族がMCIと診断された場合、ご本人を支える家族の役割も非常に重要です。
家族もまた不安を感じるかもしれませんが、適切なサポートを行うことで、ご本人がMCIと前向きに向き合い、認知機能の維持・改善に取り組めるようになります。

  • 本人の気持ちに寄り添う: MCIと診断されたご本人は、自身の変化に戸惑いや不安、ショックを感じているかもしれません。
    「頑張って」「気のせいだよ」といった安易な励ましではなく、まずはご本人の気持ちを受け止め、共感する姿勢が大切です。
    傾聴し、「一緒に考えていこうね」といった寄り添う言葉をかけましょう。
  • MCIについて正しく理解する: MCIがどのような状態か、認知症との違い、回復や維持の可能性があることなどを家族も学び、正しく理解することが重要です。
    これにより、ご本人への声かけやサポート方法も変わってきます。
  • 否定や非難をしない: 物忘れなどの認知機能の低下が見られても、失敗を責めたり、非難したりすることは絶対に避けましょう。
    ご本人の自尊心を傷つけ、不安を増大させてしまいます。
  • 一緒に改善策に取り組む: 生活習慣の改善や脳への刺激など、MCIの改善に推奨される活動には、ご家族も一緒に取り組むのが効果的です。
    例えば、一緒に散歩に出かけたり、料理を作ったり、パズルを解いたり、趣味を楽しんだりすることで、ご本人のモチベーション維持につながり、同時に家族自身の健康や気分転換にもなります。
  • 安全な環境づくり: 物忘れが増えてきた場合、薬の飲み間違いや火の消し忘れなど、思わぬ事故につながる可能性があります。
    危険なものは整理し、声かけや確認しやすい環境を整えるなど、安全に配慮した環境づくりも検討しましょう。
    ただし、過度に管理しすぎるとご本人の自立心を損なう可能性があるため、バランスが重要です。
  • できることを維持・応援する: MCIになっても、多くの能力は保たれています。
    ご本人が「できること」に注目し、それを維持できるよう応援しましょう。
    家事の一部を任せる、得意な趣味を続けてもらうなど、役割や生きがいを持つことが、自尊心を保ち、生活の質を高める上で大切です。
  • 情報を共有し、連携する: 医師やケアマネジャー、地域の支援機関などと情報を共有し、連携を取りながらサポート体制を築きましょう。
    家族だけで抱え込まず、必要な支援を受けることが重要です。
  • 家族自身のケアも大切に: ご本人のサポートは大切ですが、介護をする家族自身の負担も大きくなります。
    一人で抱え込まず、他の家族と協力したり、地域の支援サービスを利用したりして、適度に休息を取り、心身の健康を保つことも非常に重要です。

MCIは、ご本人だけでなく家族にとっても新たなスタートです。
不安を乗り越え、前向きにMCIと向き合っていくために、ご家族一丸となって支え合い、必要な支援を活用していきましょう。

軽度認知障害の治療・改善は早期の対策が鍵

ここまで見てきたように、軽度認知障害(MCI)は、認知症へ移行する可能性がある一方で、回復したり、状態を維持したりすることも可能な段階です。
そして、その後の経過に大きな影響を与えるのが、早期にMCIを発見し、適切な対策を講じることです。

MCIの段階であれば、脳の機能がまだ比較的保たれており、神経細胞のネットワークを強化したり、損傷の進行を遅らせたりするための「非薬物療法」が効果を発揮しやすいと考えられています。
生活習慣の改善(運動、食事、睡眠)、脳への積極的な刺激、社会との活発な交流といった取り組みは、MCIから認知症への進行を抑制するだけでなく、認知機能そのものを改善させる可能性も秘めています。

もし「最近、物忘れが気になる」「以前よりうっかりすることが増えた」など、ご自身やご家族の認知機能の変化に気づいたら、自己判断せず、できるだけ早く専門医に相談することが重要です。
早期に専門医の診断を受けることで、単なる加齢による物忘れなのか、それともMCIなのか、あるいは他の治療可能な疾患が隠れているのかを正確に判断できます。

MCIと診断されたとしても、それは絶望ではなく、今後のライフスタイルを見直し、認知機能の維持・向上に向けて積極的に取り組むための「良い機会」と捉えることができます。
早期の診断と早期の対策こそが、MCIと上手く向き合い、将来の認知症リスクを低減し、可能な限り長く質の高い生活を維持するための最も効果的な「治療法」「改善方法」と言えるでしょう。

まとめ|軽度認知障害と向き合うために

軽度認知障害(MCI)は、認知症の前段階とされる状態ですが、必ずしも認知症に進行するわけではなく、回復したり、状態を維持したりする可能性のある段階です。
現在のところ、MCIそのものを「完治」させる特効薬はありませんが、認知症への進行を遅らせたり、認知機能を改善・維持したりするための効果的な「改善方法」が存在します。

その中心となるのは、薬に頼らない「非薬物療法」です。
具体的には、以下の要素が重要です。

  • 生活習慣の改善: 適度な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠を心がける。
  • 脳への刺激を増やす: 認知トレーニングや、新しい学習・趣味などで脳を活性化させる。
  • 社会とのつながりを保つ: 人との交流や社会参加を積極的に行う。

これらの取り組みは、MCIの改善だけでなく、一般的な認知症予防としても非常に効果的です。

MCIの原因は様々であり、アルツハイマー病の前段階である場合が多いですが、うつ病や栄養不足など、治療可能な疾患が原因であることもあります。
そのため、物忘れなどの気になる症状がある場合は、必ず専門医を受診し、正確な診断を受けることが重要です。

もしMCIと診断された場合は、専門医とよく相談し、ご自身の状態や原因を理解した上で、具体的な改善策を計画的に実行していくことが大切です。
ご家族も、本人の気持ちに寄り添い、一緒に改善策に取り組むことで、強力なサポートとなります。

軽度認知障害は、早期に発見し、適切な対策を講じることがその後の経過に大きな影響を与えます。
不安を感じたときは一人で抱え込まず、専門機関や家族に相談し、MCIと前向きに向き合っていくことが、可能な限り長く自立した質の高い生活を送るための鍵となります。

免責事項: 本記事は軽度認知障害に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的なアドバイスや診断、治療を代替するものではありません。
個々の症状や状態については、必ず医療機関を受診し、専門医の診断と指導を受けてください。

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