レビー小体型認知症の原因とは?なぜ脳にレビー小体ができる?

レビー小体型認知症は、アルツハイマー病に次いで患者数が多いとされる認知症の一つです。特徴的な症状として、認知機能の変動、幻視、パーキンソン病のような運動障害などが挙げられます。
これらの多様な症状は、脳内に蓄積するある特定の物質と深く関わっていることが近年の研究で明らかになってきました。
本記事では、レビー小体型認知症がなぜ発症するのか、その主要な原因とメカニズムについて、最新の知見を交えながら詳しく解説します。原因を知ることは、病気の理解を深め、適切な診断や将来的な治療法開発への期待につながります。

レビー小体型認知症とは?

レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies; DLB)は、進行性の神経変性疾患であり、認知症の原因疾患の中でアルツハイマー病に次いで二番目に多いとされています。
この病気は、記憶障害を中心に進行するアルツハイマー病とは異なり、多様で変動しやすい症状を示すことが特徴です。

主な中核症状として、以下の4つが挙げられます。

  1. 進行性の認知機能障害: 記憶障害もみられますが、注意機能や遂行機能、視空間認知能力の障害がより顕著な場合があります。日によって、あるいは時間帯によって認知機能の状態が大きく変動することが特徴的です。
  2. 幻視: 人や動物、虫などがはっきりと見える、現実には存在しないものが見えるといった、具体的でリアリティのある幻視をしばしば経験します。これは、アルツハイマー病ではあまり見られない症状です。
  3. レム睡眠行動障害(RBD): 夢の内容に一致した行動(大声を出したり、手足を激しく動かしたりする)を、眠っている最中に起こします。これはレビー小体型認知症の発症に先行して現れることが多い重要な症状です。
  4. パーキンソニズム: 動作が遅くなる(寡動)、手足が震える(振戦)、筋肉がこわばる(筋強剛)、体のバランスが悪くなる(姿勢反射障害)といった、パーキンソン病に似た運動症状が現れます。

これらの症状は、レビー小体型認知症の診断において重要な手がかりとなります。また、自律神経症状(便秘、立ちくらみなど)や抑うつ、無気力なども高頻度で合併します。
これらの症状は、脳の特定の部分に異常な構造物が蓄積することによって引き起こされると考えられています。
その異常な構造物こそが、レビー小体型認知症の原因として最も注目されている「レビー小体」です。

レビー小体型認知症の主な原因「レビー小体」

レビー小体型認知症の病理学的な特徴は、脳の神経細胞の内部に「レビー小体」と呼ばれる異常なタンパク質の凝集塊が出現することです。
このレビー小体の存在が、病気の主要な原因と考えられています。

レビー小体とは?

レビー小体は、神経細胞の細胞体や神経突起の中にできる、円形または卵円形の封入体です。
1912年にドイツの神経病理学者であるフリードリヒ・レビー(Friedrich Lewy)によって初めて発見されました。
当初はパーキンソン病患者の脳幹に見られる特徴として報告されましたが、その後の研究で、パーキンソン病だけでなく、びまん性レビー小体病(現在のレビー小体型認知症に相当)やその他の神経変性疾患でも認められることがわかっています。

レビー小体は、複数のタンパク質から構成されていますが、その主成分は「アルファシヌクレイン」と呼ばれるタンパク質です。
このアルファシヌクレインが正常な状態から構造を変え、凝集・蓄積することがレビー小体形成の核心的なプロセスと考えられています。

アルファシヌクレインの異常な蓄積

アルファシヌクレインは、脳内の神経細胞、特にシナプス前終末(神経伝達物質を放出する部分)に多く存在するタンパク質です。
正常な状態では、神経伝達物質の放出に関わるなど、細胞内で重要な役割を担っていると考えられています。
しかし、その詳しい機能はまだ完全に解明されているわけではありません。

レビー小体型認知症やパーキンソン病といった「アルファシヌクレイン病」と呼ばれる疾患群では、このアルファシヌクレインが異常な構造を取り、折りたたまれずにミスフォールディングを起こします。
ミスフォールディングしたアルファシヌクレインは、互いに結合してオリゴマーと呼ばれる小さな塊を形成し、さらに線維状の構造(アミロイド線維)へと変化しながら徐々に大きくなり、神経細胞内に蓄積していきます。
この蓄積物が、顕微鏡で観察されるレビー小体の実体と考えられています。

なぜアルファシヌクレインが異常な構造を取り、蓄積するのか、その正確なメカニズムはまだ完全に解明されていません。
しかし、異常なアルファシヌクレインは神経細胞にとって有害であり、細胞の機能障害や最終的な細胞死を引き起こすと考えられています。
レビー小体型認知症の多様な症状は、この異常なアルファシヌクレインの蓄積が脳の異なる領域で起こることによって説明されます。
例えば、脳幹の青斑核や縫線核、さらに大脳皮質など、病気の進行に伴って蓄積部位が広がっていくと考えられています。

なぜレビー小体は脳に蓄積するのか?

アルファシヌクレインの異常な凝集・蓄積、すなわちレビー小体形成の引き金や進行メカニズムは、神経科学分野における最大の謎の一つです。
多くの研究が進められていますが、いまだ完全に解明には至っていません。

現在も不明な点が多い原因メカニズム

レビー小体型認知症の原因は、単一の要因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
遺伝的な要因、環境的な要因、そして加齢に伴う脳の変化などが複合的に影響し、アルファシヌクレインの正常な代謝やクリアランス(排除)が障害されることで、異常なアルファシヌクレインが蓄積しやすくなると考えられています。

なぜ特定の人がアルファシヌクレインの異常を起こしやすいのか、どのようなプロセスで凝集が始まり、脳の他の領域に広がっていくのか、といった根本的な問いに対する答えはまだ得られていません。

研究で示唆されている要因

レビー小体形成に関わる可能性が研究で示唆されている主な要因としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 遺伝子変異:
    一部のレビー小体病患者では、アルファシヌクレイン遺伝子(SNCA)の変異や重複が見つかっています。これらの遺伝子異常は、アルファシヌクレインの過剰な産生や構造異常を引き起こし、凝集を促進すると考えられています。
    また、SNCA以外の遺伝子(LRRK2、GBAなど)の変異も、アルファシヌクレインの分解・代謝経路に影響を与え、レビー小体病のリスクを高めることが示されています。
    しかし、遺伝子変異が原因となるケースは一部であり、多くの場合は特定の遺伝子変異が見つからない「孤発性」の病気です。
  2. プロテアソーム・オートファジー系の機能不全:
    細胞内には、不要になったタンパク質を分解・処理するシステムとして、プロテアソーム系やオートファジー系が存在します。これらのシステムが正常に機能しないと、異常なたんぱく質が細胞内に蓄積しやすくなります。
    レビー小体病患者の脳では、これらの分解システムの機能が低下していることが報告されており、アルファシヌクレインのクリアランス障害がレビー小体形成の一因となっている可能性が示唆されています。
  3. 酸化ストレスと炎症:
    脳は酸素消費量が多く、酸化ストレスを受けやすい臓器です。加齢や環境要因などによって酸化ストレスが増加すると、細胞の構成成分であるタンパク質や脂質、DNAなどが損傷を受けやすくなります。
    アルファシヌクレインも酸化によって構造が変化し、凝集しやすくなることが実験的に示されています。
    また、脳内の慢性的な炎症も、神経細胞の機能障害やアルファシヌクレインの蓄積を促進する可能性が考えられています。
  4. ミトコンドリア機能障害:
    ミトコンドリアは細胞のエネルギー産生工場であり、神経細胞の生存に不可欠です。ミトコンドリアの機能が障害されると、エネルギー不足が生じるだけでなく、活性酸素の産生が増加するなどして酸化ストレスが増悪します。
    ミトコンドリア機能障害もアルファシヌクレインの蓄積と関連があることが示唆されており、病態形成の一因と考えられています。
  5. 細胞間伝播(プリオン様メカニズム):
    近年、異常なアルファシヌクレインが、細胞から細胞へと伝播していく「プリオン様」の性質を持つ可能性が注目されています。
    異常なアルファシヌクレインが、健康な神経細胞に取り込まれ、その細胞内の正常なアルファシヌクレインを異常な構造へと変化させることで、病変が脳の異なる領域へと徐々に広がっていくという考え方です。
    この伝播メカニズムが、レビー小体型認知症の進行において重要な役割を果たしている可能性があります。

これらの要因は、単独で働くのではなく、相互に影響し合いながらレビー小体形成を促進していると考えられています。
例えば、遺伝的な脆弱性がある人が、環境因子(例えば特定の化学物質への暴露)や生活習慣(酸化ストレスを増やす要因)の影響を受けることで、アルファシヌクレインの異常な蓄積が始まり、それが脳内で伝播していく、といった複雑なシナリオが想定されています。

レビー小体型認知症になりやすい人(リスク因子)

特定の要因を持つ人は、レビー小体型認知症を発症するリスクが相対的に高いと考えられています。
これらの要因は、病気の直接的な原因というよりは、「なりやすさ」に関わる要素(リスク因子)と理解されています。

年齢

レビー小体型認知症は、一般的に高齢になるほど発症リスクが高まります。
多くの患者さんは60歳以降に発症し、特に75歳を超えると有病率が増加する傾向があります。
加齢に伴う脳の変化(酸化ストレスの増加、タンパク質分解機能の低下など)が、アルファシヌクレインの蓄積を助長する一因と考えられています。

性別

統計的に見ると、レビー小体型認知症は男性にやや多い傾向があると報告されています。
正確な理由は不明ですが、性ホルモンの影響や、男性の方が特定の環境因子に暴露されやすい可能性などが推測されています。

遺伝的要因

前述の通り、特定の遺伝子変異(SNCA、LRRK2、GBAなど)はレビー小体病のリスクを高めます。
しかし、これらの変異が見つかるのは全体の数パーセント程度に過ぎません。
多くの場合は、これらの明らかな遺伝子変異は認められません。
一方で、特定の遺伝子の「多型」(個人間のわずかな配列の違い)が、リスクに影響を与える可能性も研究されています。
レビー小体型認知症患者さんの近親者に同じ病気やパーキンソン病を発症した人がいる場合、リスクがわずかに高まることがありますが、アルツハイマー病のように明確な「家族性」として遺伝するケースは稀です。

併存疾患(パーキンソン病など)

レビー小体型認知症とパーキンソン病は、脳内のアルファシヌクレインの蓄積という共通の病理を持つため、「レビー小体病」という一つの疾患スペクトラムとして捉えられています。
パーキンソン病を発症した人が、病気の進行に伴って認知症を合併する「パーキンソン病認知症」は、レビー小体型認知症と病理学的に非常に類似しており、区別が難しい場合も多くあります。

また、レビー小体型認知症に特徴的な症状であるレム睡眠行動障害(RBD)は、しばしば認知機能の低下やパーキンソニズムが出現する数年から十数年以上前に現れることがあります。
RBDは、将来的にレビー小体病(レビー小体型認知症またはパーキンソン病)へ移行するリスクが高い状態として知られています。

その他のリスク因子として、過去の便秘や嗅覚障害、うつ病なども、病気の発症に先行して現れることがあり、リスク因子となる可能性が研究されています。
これらの症状は、アルファシヌクレインの蓄積が自律神経系や嗅覚系、辺縁系(感情に関わる脳領域)で早期に始まっていることを示唆していると考えられています。

さらに、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)や頭部外傷、特定の職業や環境因子(例えば、農薬への暴露など)との関連も研究されていますが、明確な因果関係や影響の程度については、さらなる研究が必要です。

重要なのは、これらのリスク因子を持っているからといって、必ずレビー小体型認知症を発症するわけではないということです。
リスク因子はあくまで「なりやすさ」を高めるものであり、発症には多くの要因が複合的に関わっていると考えられています。

原因の理解が重要な理由

レビー小体型認知症の原因であるレビー小体(アルファシヌクレインの蓄積)を深く理解することは、この病気の診断と治療法開発の両面において極めて重要です。

診断への貢献

レビー小体型認知症は、その症状の変動性や多様性、他の認知症(特にアルツハイマー病や血管性認知症)や精神疾患との症状の重複などから、診断が難しい場合があります。
病理学的な原因(アルファシヌクレインの蓄積)が、脳のどの領域で起こり、どのような神経ネットワークに影響を与えるかが解明されれば、特徴的な症状(幻視、認知変動、RBD、パーキンソニズム)が現れるメカニズムをより正確に理解できるようになります。

例えば、レビー小体が大脳辺縁系や視覚野周辺に蓄積することが幻視に関与し、脳幹の黒質に蓄積することがパーキンソニズムに関与するといった病態と症状の関連性が明らかになれば、臨床症状から原因病理を推測しやすくなり、診断の精度向上につながります。

また、脳内のアルファシヌクレイン蓄積を画像化したり、髄液や血液中のバイオマーカー(生物学的指標)として検出したりする技術の開発も進められています。
これらの技術は、生きた患者さんの脳内でレビー小体病理を直接的または間接的に捉えることを可能にし、臨床症状だけでは診断が困難な早期段階や、他の認知症との鑑別に役立つことが期待されています。
原因病理を正確に捉えることは、適切な治療方針の選択(例えば、アルツハイマー病薬とレビー小体型認知症の薬では作用機序が異なる)や、治験への適切な参加者選定にも不可欠です。

治療法開発への期待

現在のレビー小体型認知症の治療は、症状を緩和する対症療法が中心です。
例えば、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が認知機能や幻視に有効な場合がありますが、これは症状の進行を遅らせるものではありません。
運動症状に対してはパーキンソン病治療薬が用いられることもありますが、副作用に注意が必要です。

根本的な治療法、すなわち病気の進行そのものを止める、あるいは遅らせる治療法を開発するためには、病気の原因であるレビー小体形成のメカニズムを標的とする必要があります。
アルファシヌクレインの異常な折りたたみ、凝集、神経細胞間での伝播といったプロセスを阻害する薬や、アルファシヌクレインを脳から除去する治療法(例えば、アルファシヌクレインに対する抗体を用いた免疫療法など)の研究が世界中で活発に行われています。

これらの「原因療法」の開発は、原因メカニズムの正確な理解に基づいています。
アルファシヌクレインがなぜ異常になるのか、どのように凝集し、神経細胞を傷つけるのか、どのように脳全体に広がるのかといった詳細なプロセスが解明されればされるほど、より効果的で副作用の少ない治療薬の設計が可能になります。

レビー小体型認知症の原因研究は、この病気を克服するための希望の光です。
病態メカニズムを深く理解し、それを標的とした新たな診断法や治療法が開発されることで、患者さんやそのご家族の予後が改善されることが期待されています。

原因に関する今後の研究展望

レビー小体型認知症の原因に関する研究は、日々進展しています。
今後の研究は、これまでの知見をさらに深め、診断・治療のブレークスルーをもたらすことが期待されています。

  1. アルファシヌクレイン病態メカニズムのさらなる解明:
    アルファシヌクレインが異常な構造を取り、凝集し、神経細胞間で伝播する詳細な分子メカニズムはまだ多くの謎に包まれています。
    高解像度の構造解析技術や、細胞・動物モデルを用いた研究により、このプロセスの各段階に関わるタンパク質や細胞内小器官(ミトコンドリア、リソソームなど)の役割がさらに詳しく明らかになることが期待されます。
    特に、細胞間伝播のメカニズムは治療標的として重要であり、どのように神経細胞から放出され、他の細胞に取り込まれるのか、どのような分子が関与するのかといった点が集中的に研究されています。
  2. 早期診断バイオマーカーの開発:
    レビー小体型認知症は、症状が現れる前から脳内でアルファシヌクレインの蓄積が始まっていると考えられています。症状発現前の「超早期」や、認知機能障害が軽度な「早期」の段階で病気を正確に診断できれば、将来的な原因療法が最も効果を発揮すると考えられる時期に介入することが可能になります。
    血液、髄液、尿、あるいは皮膚生検などでアルファシヌクレインの異常を検出したり、病態に関連する他のタンパク質や代謝物を測定したりするバイオマーカーの開発が進められています。
    また、脳の画像診断(PETなど)を用いて、生きた脳内のアルファシヌクレイン蓄積を直接可視化する技術の開発も、将来的に重要な診断ツールとなる可能性があります。
  3. 遺伝子と環境因子の相互作用の解明:
    レビー小体型認知症が孤発性のケースが多いことから、複数の遺伝的背景と環境因子や生活習慣が複雑に相互作用して発症に至ると考えられています。
    ゲノムワイド関連解析(GWAS)などの大規模な研究により、まだ知られていないリスク関連遺伝子が見つかる可能性があります。
    また、特定の環境因子(例えば、大気汚染物質や特定の化学物質)への暴露が、遺伝的な脆弱性を持つ人においてどのように病気の発症リスクを高めるのかといった、遺伝子と環境の相互作用に関する研究も重要です。
  4. 新たな治療標的の同定と治療法の開発:
    病態メカニズムの解明が進むにつれて、新たな治療標的が同定される可能性があります。
    例えば、アルファシヌクレインの凝集を阻害する化合物、細胞からの排出を促進する分子、あるいはアルファシヌクレインの毒性から神経細胞を保護する因子などが、新たな治療薬候補となる可能性があります。
    前述の抗体療法に加え、遺伝子治療や細胞治療といった、より革新的なアプローチも基礎研究の段階で検討されています。
  5. レビー小体病のスペクトラム理解の深化:
    レビー小体型認知症とパーキンソン病、そしてレム睡眠行動障害などの関連疾患は、病理学的に連続した「レビー小体病スペクトラム」として理解が進んでいます。
    このスペクトラム全体を通して、病態がどのように進行し、なぜ運動症状が先行する場合(パーキンソン病)と認知症状が先行する場合(レビー小体型認知症)があるのかといった違いが生じるメカニズムを解明することは、病気の分類や治療戦略を最適化するために重要です。

これらの研究は、レビー小体型認知症の完全な原因解明と、効果的な予防法や治療法の確立を目指しています。
基礎研究から臨床研究へと橋渡しを行い、得られた知見を一日でも早く患者さんのもとへ届けるための努力が続けられています。

レビー小体型認知症の原因に関するよくある質問

ここでは、レビー小体型認知症の原因について、読者の皆様が疑問に思われる可能性のある点についてQ&A形式でお答えします。

Q: 食生活や運動はレビー小体型認知症の原因に関係しますか?

A: 食生活や運動といった生活習慣が、レビー小体型認知症の発症リスクに直接的にどの程度影響するかについては、まだ明確な結論は出ていません。
しかし、健康的な食生活(例えば、地中海食のようなバランスの取れた食事)や定期的な運動は、脳全体の健康を保ち、血管性リスク因子(高血圧、糖尿病など)を管理する上で重要です。
これらの血管性リスク因子は、認知症全般のリスクを高めることが知られており、レビー小体型認知症にも複合的に影響する可能性はあります。
また、運動が脳内の炎症を抑えたり、神経栄養因子を増やしたりすることで、神経変性プロセスに良い影響を与える可能性も示唆されています。
現時点では、健康的な生活習慣は、レビー小体型認知症の予防や進行抑制に有効である可能性が考えられますが、直接的な原因としての影響は今後の研究が必要です。

Q: 頭部外傷はレビー小体型認知症の原因になりますか?

A: 重度または繰り返しの頭部外傷は、慢性外傷性脳症(CTE)など、他の神経変性疾患のリスクを高めることが知られています。
レビー小体病との関連については、研究によって結果が分かれており、一貫した強い関連性はまだ確立されていません。
一部の研究では、重度の頭部外傷の既往がアルファシヌクレイン病理のリスクを高める可能性が示唆されていますが、さらなる大規模な研究が必要です。
現時点では、頭部外傷がレビー小体型認知症の主要な原因であるとは言えませんが、リスク因子の一つとして考慮される可能性はあります。

Q: 誰もがレビー小体を持っているのですか?

A: いいえ、健康な人の脳にレビー小体が多数存在するわけではありません。
レビー小体は、アルファシヌクレインが異常に凝集・蓄積したものであり、主にレビー小体病(レビー小体型認知症やパーキンソン病など)の患者さんの脳に見られる特徴的な病理所見です。
ただし、高齢者の脳では、症状が現れていない場合でも、ごく少量のアルファシヌクレインの蓄積や微小なレビー小体が見つかることもあります。
これが将来の病気の発症につながるのか、あるいは加齢に伴う非特異的な変化なのかは、まだ解明されていません。
レビー小体型認知症の診断においては、レビー小体の存在量や分布が重要な指標となります。

Q: レビー小体型認知症は遺伝性ですか?

A: レビー小体型認知症の多くは、特定の遺伝子変異が見つからない「孤発性」であり、明確な遺伝性を示すケースは稀です。
前述の通り、一部の家族性ケースでは、特定の遺伝子変異(SNCA, LRRK2, GBAなど)が原因となることがありますが、これは全体の数パーセントに過ぎません。
多くのケースでは、複数の遺伝的背景と環境因子、加齢などが複雑に相互作用して発症に至ると考えられています。
したがって、「親がレビー小体型認知症だから必ず自分も発症する」というわけではありません。
遺伝的な「なりやすさ」に関わる要素は存在しますが、それが病気の発症を決定づけるものではありません。

原因に関連する因子 内容 備考
主な病理所見 脳内の神経細胞におけるレビー小体(アルファシヌクレイン凝集塊)の蓄積 レビー小体病の中核的な特徴
主要な構成成分 アルファシヌクレインの異常な折りたたみ、凝集、線維化 なぜ異常化するのか、メカニズムは不明
研究で示唆される要因 遺伝子変異(SNCA, LRRK2, GBAなど) 一部の家族性ケースに関与
プロテアソーム・オートファジー系の機能不全 不要タンパク質分解システムの障害
酸化ストレス、炎症 細胞へのダメージやタンパク質凝集促進
ミトコンドリア機能障害 エネルギー産生異常と酸化ストレス増加
細胞間伝播(プリオン様メカニズム) 病変が脳内で広がる可能性
リスク因子 高齢 最も重要なリスク因子
男性 女性よりやや多い傾向
特定の遺伝子多型 発症リスクに影響する可能性
併存疾患(パーキンソン病、RBD、便秘、嗅覚障害、うつ病など) 病気の前駆症状や関連病態としての側面
(研究中)生活習慣病、環境因子、頭部外傷 明確な因果関係は未確立、複合的影響が考えられる
発症メカニズム 複数の遺伝子、環境、加齢因子が複雑に相互作用 単一の原因ではなく、多因子性の病気

【まとめ】レビー小体型認知症の原因理解は未来への鍵

レビー小体型認知症の主要な原因は、脳の神経細胞内に異常なたんぱく質であるアルファシヌクレインが凝集・蓄積して形成される「レビー小体」です。
このアルファシヌクレインの異常な蓄積が、神経細胞の機能障害や死を引き起こし、レビー小体型認知症に特徴的な多様な症状(認知変動、幻視、RBD、パーキンソニズムなど)が現れると考えられています。

なぜアルファシヌクレインが異常化し、脳に蓄積するのか、その詳細なメカニズムはまだ完全に解明されていません。
遺伝子変異、細胞内のタンパク質分解システムの機能不全、酸化ストレス、炎症、ミトコンドリア機能障害、そして細胞間での病理の伝播など、様々な要因が複合的に関与していると考えられています。
高齢であること、男性であること、特定の遺伝的背景、パーキンソン病やRBDなどの併存疾患もリスク因子として知られています。

レビー小体型認知症の原因を深く理解することは、この病気を克服するために不可欠です。
原因メカニズムの解明は、より正確な診断法の開発(バイオマーカーや画像診断など)につながり、他の認知症との鑑別や早期診断を可能にします。
さらに重要なのは、原因(アルファシヌクレインの病態)を直接標的とした、これまでにない根本的な治療法開発への道を開くことです。
アルファシヌクレインの凝集や伝播を阻害する治療薬、あるいは脳から除去する治療法の研究が進められており、これらの研究成果が将来的に患者さんの予後を改善する可能性を秘めています。

レビー小体型認知症の原因に関する研究は挑戦的ですが、着実に前進しています。
今後の研究によって、病態の全貌が明らかになり、有効な予防法や治療法が確立されることが期待されます。


免責事項: 本記事は、レビー小体型認知症の原因に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。
個別の症状や治療に関するご相談は、必ず医療機関の専門医にご相談ください。
情報の正確性については最大限努めておりますが、医学研究は日々進展しており、最新の情報については専門家にご確認ください。

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