認知症の最新治療法を解説|治る?改善できる?【薬物・非薬物】

認知症と診断されたとき、ご本人やご家族は多くの不安を抱えられることと思います。「どのような治療法があるのか」「進行を抑えることはできるのか」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
認知症の治療は、病気の種類や進行段階、ご本人の心身の状態、生活環境などによって多様なアプローチがあります。
この記事では、認知症の主な治療法である薬物療法と非薬物療法について、種類別の治療方針や最新情報、費用、そして治療を受けない場合のリスクまで、幅広く解説します。
認知症を理解し、適切な治療法を選択するための情報としてお役立てください。

認知症治療の目的と基本的な考え方

認知症治療の主な目的は、病気の進行をできるだけ遅らせ、今ある症状を和らげることで、ご本人の生活の質(QOL:Quality of Life)を維持・向上させることです。また、ご家族を含めた周囲の人が、認知症を理解し、適切なサポートができるようにすることも重要な治療の一部と考えられています。

認知症は、単に記憶力が低下するだけでなく、さまざまな認知機能の障害や、不安、抑うつ、興奮といった行動・心理症状(BPSD)を伴うことがあります。そのため、治療は薬物療法だけでなく、リハビリテーションや環境調整、家族支援などを組み合わせた、多角的なアプローチが基本となります。医師、看護師、薬剤師、リハビリ専門職、ケアマネジャー、相談員など、多職種の連携(チーム医療)も欠かせません。

治療を進める上では、ご本人の意思や価値観を尊重し、できる限りご本人が主体的に治療に参加できるよう支援することが大切です。

認知症は完治する?根治の可能性について

残念ながら、現在主流となっているアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症といった神経変性によって引き起こされるタイプの認知症は、現代の医療では完全に治癒(根治)させることは難しいとされています。脳の神経細胞が徐々に破壊されていく病気であり、一度失われた神経細胞の機能を完全に回復させる方法がまだ確立されていないためです。

しかし、認知症の中には、原因疾患を治療することで症状が改善したり、治癒したりする「治癒可能な認知症」も存在します。例えば、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能機能低下症、ビタミン欠乏症、あるいは薬剤の副作用やうつ病などが原因となっている場合です。これらのタイプの認知症は、早期に発見し、適切な治療を行えば、認知機能の低下が回復する可能性があります。そのため、「認知症かもしれない」と感じたら、まずは医療機関を受診し、原因を正確に診断してもらうことが非常に重要です。

進行を遅らせる・改善を目指す治療

現時点では根治が難しい神経変性性の認知症であっても、治療を行う意味は十分にあります。現在の治療の目標は、主に以下の点にあります。

  • 病気の進行を緩やかにする: 特にアルツハイマー型認知症に対しては、進行を一時的に遅らせる効果が期待できる薬があります。
  • 認知機能の低下を緩和する: 記憶障害や見当識障害などの認知機能の症状を一時的に改善したり、維持したりすることを目指します。
  • 行動・心理症状(BPSD)を和らげる: 不安、抑うつ、幻覚、妄想、徘徊、興奮などのBPSDは、ご本人だけでなくご家族の負担も大きく、生活の質を著しく低下させます。薬物療法や非薬物療法によって、これらの症状を軽減し、穏やかに過ごせるようにサポートします。
  • 日常生活能力の維持・向上: 残された能力を最大限に活用し、できるだけ長く自立した生活を送れるよう、リハビリテーションや環境調整を行います。
  • ご本人とご家族のQOL向上: 認知症を抱えながらも、より良い生活を送れるよう、多角的なサポートを提供します。

このように、現在の認知症治療は「完治」を目指すというよりは、「共存」を視野に入れ、症状の管理と生活の質の維持・向上に重点が置かれています。

認知症の種類別の治療法

認知症の原因となる病気は一つではありません。代表的なものにアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症があります。それぞれの病気によって脳に起こる変化や主な症状が異なるため、治療法も異なります。適切な治療を行うためには、まずどの種類の認知症であるかを正確に診断することが出発点となります。

アルツハイマー型認知症の治療法

アルツハイマー型認知症は、最も患者数が多い認知症です。脳にアミロイドβやタウといった異常なたんぱく質が蓄積し、神経細胞がゆっくりと破壊されていく病気です。初期には物忘れが目立ち、進行すると時間や場所が分からなくなったり、判断力が低下したりします。

アルツハイマー型認知症の薬物療法

アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる効果が期待できる薬として、主に以下の2種類が使用されます。

  • コリンエステラーゼ阻害薬:
    アセチルコリンという神経伝達物質は、記憶や学習に関係しており、アルツハイマー型認知症ではこの物質が減少することが知られています。コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解する酵素(コリンエステラーゼ)の働きを妨げることで、脳内のアセチルコリンの量を増やし、神経の情報伝達をスムーズにする効果が期待できます。
    ドネペジル(商品名:アリセプト)、ガランタミン(商品名:レミニール)、リバスチグミン(商品名:イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)などがあります。これらは主に軽度から中等度のアルツハイマー型認知症に用いられます。
    副作用としては、吐き気、下痢、食欲不振、徐脈(脈が遅くなる)、めまいなどが起こることがあります。パッチ製剤は皮膚症状が出やすい傾向があります。
  • NMDA受容体拮抗薬:
    メマンチン(商品名:メマリー)が代表的です。この薬は、グルタミン酸という神経伝達物質の過剰な働きを抑えることで、神経細胞への興奮毒性を和らげ、病気の進行を緩やかにする効果が期待できます。
    中等度から高度のアルツハイマー型認知症に用いられます。
    副作用としては、めまい、頭痛、便秘、幻覚などが起こることがありますが、比較的少ないとされています。

これらの薬は、病気を完全に治すものではありませんが、認知機能の低下を一時的に緩やかにしたり、BPSDを軽減したりする効果が認められています。効果や副作用には個人差があるため、医師と相談しながら最適な薬の種類や量を調整していくことが重要です。

アルツハイマー型認知症の非薬物療法

薬物療法と並行して、非薬物療法も非常に重要です。ご本人が活動的でいること、社会とのつながりを保つことは、認知機能の維持やBPSDの軽減に役立ちます。

  • 認知リハビリテーション: 残存機能の維持や活用を目的とします。計算ドリルやパズル、音読、書写などを行うことで、脳に適切な刺激を与えます。
  • 回想法: 懐かしい写真や音楽、思い出の品などを使って、昔の出来事を語り合う療法です。記憶を呼び起こし、自己肯定感を高める効果が期待できます。
  • 音楽療法: 音楽を聴いたり、歌ったり、楽器を演奏したりすることで、リラックス効果や脳の活性化、他者との交流を促します。
  • 運動療法: ウォーキングや軽い体操など、適度な運動は全身の血行を良くし、脳機能の維持にもつながります。運動によって気分の改善効果も期待できます。
  • 作業療法: 日常生活に必要な動作(食事、着替え、入浴など)の練習や、趣味活動などを通して、生活能力や活動性を維持・向上させます。
  • アニマルセラピー: 動物と触れ合うことで、精神的な安定や癒しを得る療法です。
  • 環境調整: ご本人が安心して過ごせるよう、住み慣れた環境を整備することも重要です。転倒防止のための手すり設置や段差解消、分かりやすい目印の設置などを行います。
  • 家族支援: 認知症に関する正しい知識を提供し、対応方法について助言する家族教室や相談会も、非薬物療法の一部として非常に重要です。ご家族が介護の負担を軽減し、ご本人とより良い関係を築く助けになります。

血管性認知症の治療法

血管性認知症は、脳梗塞や脳出血、脳の小さな血管の障害(ラクナ梗塞や微小出血など)によって、脳の一部に血液が十分に供給されなくなることで起こる認知症です。障害された脳の場所によって症状が異なり、まだら認知症(できることとできないことが混在する)や、感情のコントロールが難しくなるといった特徴が見られることがあります。階段状に悪化することもあります。

血管性認知症における原因疾患の治療

血管性認知症の治療で最も重要なのは、これ以上脳血管障害が起こらないように、原因となる病気をしっかりと管理することです。

  • 高血圧、糖尿病、脂質異常症の管理: これらの生活習慣病は脳血管障害の最大の危険因子です。薬物療法や食事療法、運動療法によって適切にコントロールします。
  • 不整脈(特に心房細動)の治療: 心臓の中でできた血栓が脳に飛んで脳梗塞を引き起こすリスクがあるため、抗凝固薬などで血栓予防を行います。
  • 禁煙: 喫煙は血管を傷つけ、脳血管障害のリスクを高めます。禁煙は必須です。
  • 適度な運動とバランスの取れた食事: 健康的な生活習慣は、血管の健康を保つ上で重要です。

これらの原因疾患治療と再発予防は、認知症の進行を食い止めるために不可欠です。

血管性認知症の薬物療法

血管性認知症そのものに対する特効薬はまだありませんが、アルツハイマー型認知症で使われるコリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンが、血管性認知症に伴う認知機能障害やBPSDに有効な場合があります。医師の判断で使用されることがあります。

また、血管性認知症では、抑うつや感情失禁(感情のコントロールができなくなる)などのBPSDが見られやすい特徴があります。これらの症状に対して、抗うつ薬や気分安定薬などが処方されることがあります。

血管性認知症の非薬物療法

非薬物療法も血管性認知症の治療に有効です。

  • 認知リハビリテーション: 障害された機能と残された機能を見極め、残存機能を活用したり、代償手段を身につけたりすることで、日常生活能力の維持・向上を目指します。
  • 運動療法: 血行促進や身体機能維持だけでなく、脳機能にも良い影響を与えます。脳血管障害のリハビリテーションと合わせて行われることが多いです。
  • 作業療法: 日常生活動作の改善や、趣味活動を通したQOL向上を図ります。
  • 環境調整と介護者の対応: 血管性認知症の症状に合わせて、混乱を招かないような環境整備や、感情の波に対応するための介護者の接し方の工夫が重要になります。

レビー小体型認知症の治療法

レビー小体型認知症は、脳の神経細胞内にレビー小体という異常なたんぱく質が蓄積して起こる認知症の総称です。アルツハイマー型認知症、血管性認知症に次いで患者数が多いとされています。特徴的な症状として、認知機能の変動(日によって、あるいは時間帯によって良い時と悪い時がある)、幻視(実際にはないものが見える)、パーキンソン症状(手足の震え、筋肉のこわばり、動きが遅くなる)、レム睡眠行動障害(睡眠中に夢の内容に合わせて大声を出したり、体を動かしたりする)などがあります。

レビー小体型認知症の薬物療法

レビー小体型認知症の薬物療法は、アルツハイマー型認知症の治療薬が有効な場合があります。

  • コリンエステラーゼ阻害薬: 特にドネペジルは、認知機能の変動や幻視といったレビー小体型認知症に特徴的な症状に対して有効性が報告されています。ガランタミンやリバスチグミンも使用されることがあります。
  • パーキンソン症状への薬: ドパミン製剤など、パーキンソン病の治療薬が使用されます。ただし、これらの薬は幻視や精神症状を悪化させることもあるため、慎重な調整が必要です。
  • BPSDへの薬: 幻覚や妄想、興奮などのBPSDに対して薬が処方されることがありますが、レビー小体型認知症の患者さんは特定の抗精神病薬に過敏に反応しやすく、副作用(特に悪性症候群など)が出やすいことが知られています。そのため、薬の種類や量には十分な注意が必要です。非薬物療法や環境調整を優先的に行うことが推奨されます。
  • レム睡眠行動障害への薬: クロナゼパムなどが有効な場合があります。

レビー小体型認知症の非薬物療法

  • リハビリテーション: パーキンソン症状による歩行障害などに対し、理学療法が重要です。認知リハビリや作業療法も認知機能維持や日常生活能力向上に役立ちます。
  • 環境調整: 幻視が見えやすい環境(暗がり、物の配置など)を改善したり、パーキンソン症状に対応した住環境整備を行います。
  • 本人・家族へのサポート: 病気の特徴的な症状(認知変動、幻視など)についてご本人やご家族が理解し、適切な対応を学ぶことが非常に重要です。

前頭側頭型認知症の治療法

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮して起こる認知症の総称です。いくつかのタイプがありますが、代表的なものに行動障害が目立つタイプ(行動型前頭側頭型認知症)と言語の障害が目立つタイプ(意味性認知症や進行性非流暢性失語など)があります。アルツハイマー型認知症に比べて比較的若年で発症することが多い傾向があります。行動型では、社会性の欠如、脱抑制(万引きなど)、同じ行動を繰り返す、共感性の低下といった症状が見られます。

前頭側頭型認知症の治療方針

前頭側頭型認知症には、現在、有効性が確立された薬物療法はありません。アルツハイマー型認知症で使われるコリンエステラーゼ阻害薬は、逆に症状を悪化させる可能性が指摘されています。

そのため、治療の中心は非薬物療法と環境調整、そして行動・心理症状(BPSD)への対処となります。

前頭側頭型認知症の行動・心理症状への対処

行動型前頭側頭型認知症の症状は、ご本人やご家族にとって非常に大きな負担となることがあります。薬物療法に頼る前に、まずは非薬物的なアプローチを試みます。

  • 環境調整: 刺激を少なくする、予測可能な日課を作る、問題行動のきっかけとなるものを排除するなど、ご本人が落ち着いて過ごせるような環境を整えます。
  • 対応方法の工夫: 否定せず、ご本人のペースに合わせる、指示をシンプルにする、気分転換を図るなど、声かけや接し方を工夫します。行動障害の背後にある原因(空腹、疲労、不安など)を探ることも重要です。
  • 家族へのサポート: 病気の特性や対応方法について学ぶ家族教室や相談、ご家族自身の休息(レスパイトケア)が非常に重要です。
  • 薬物療法: 非薬物療法で対応が難しい激しい興奮や攻撃性、抑うつなどのBPSDに対しては、抗精神病薬や抗うつ薬などが慎重に使用されることがあります。

言語型(意味性認知症など)の場合は、言語リハビリテーションが有効な場合があります。

認知症の主な治療法:薬物療法

前述のように、認知症の薬物療法には、病気の進行を遅らせることを目的とした薬と、BPSDを和らげることを目的とした薬があります。

認知症治療薬の種類と効果

進行を遅らせる薬

薬剤名(代表的な商品名) 主な対象となる認知症の種類 作用機序 主な期待される効果 副作用(例)
ドネペジル塩酸塩(アリセプト) アルツハイマー型認知症
レビー小体型認知症
アセチルコリンを分解する酵素の働きを阻害し、脳内のアセチルコリン量を増やす。 認知機能(記憶、思考、判断など)の維持・改善、BPSD(幻視など)の軽減。 吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢、徐脈、興奮、不眠、めまいなど。
ガランタミン臭化水素酸塩(レミニール) アルツハイマー型認知症
レビー小体型認知症
アセチルコリンを分解する酵素の働きを阻害するとともに、アセチルコリン受容体の感受性を高める。 認知機能の維持・改善、BPSDの軽減。 吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢、徐脈、めまいなど。
リバスチグミン(イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ) アルツハイマー型認知症
レビー小体型認知症
アセチルコリン分解酵素およびブチリルコリン分解酵素の働きを阻害し、脳内のアセチルコリン量を増やす。パッチ剤。 認知機能の維持・改善、BPSDの軽減。 吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢など(経口薬)、皮膚のかぶれ(パッチ剤)。
メマンチン塩酸塩(メマリー) アルツハイマー型認知症(中等度~高度)
血管性認知症に有効な場合も
グルタミン酸受容体(NMDA受容体)の過剰な刺激を抑え、神経細胞を保護する。 認知機能の低下抑制、BPSD(易怒性、興奮、攻撃性など)の軽減。 めまい、頭痛、便秘、眠気、幻覚など。
レカネマブ(レケンビ) アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度認知症 脳内に蓄積したアミロイドβプロトフィブリルに結合し、これを排除する。 病気の進行を遅らせる(原因に直接作用する初の薬)。 アミロイド関連画像異常(ARIA:浮腫や微小出血)、infusion reactionなど。

レカネマブは、これまでの薬とは異なり、アルツハイマー病の原因と考えられているアミロイドβという物質を脳から除去することで、病気の進行そのものを遅らせることを目指す薬です。対象となる患者さんが限られており、特定の検査や定期的な点滴投与、副作用(ARIAなど)への注意が必要となります。

BPSD(行動・心理症状)を抑える薬

認知症に伴うBPSDに対しては、症状の種類や程度に応じて様々な薬が検討されます。ただし、これらの薬はご本人の状態をかえって悪化させたり、強い副作用が出たりするリスクもあるため、非薬物療法や環境調整を優先し、薬物療法は慎重に行う必要があります。

症状(例) 使用される可能性のある薬の種類(例) 注意点
抑うつ、無気力 抗うつ薬(SSRIなど) 効果が出るまでに時間がかかることがある。副作用に注意。
不安、焦燥 抗不安薬 長期使用や多量使用はかえって認知機能を低下させたり、ふらつきによる転倒リスクを高めたりする可能性がある。
不眠 睡眠薬 適切な種類と量を検討しないと、せん妄や転倒のリスクを高める可能性がある。
幻覚、妄想、興奮、攻撃性 抗精神病薬 特にレビー小体型認知症では感受性が高く、副作用が出やすい。非定型抗精神病薬など、副作用が比較的少ないとされるものが選択されることが多いが、使用は慎重に行うべき。
徘徊 特効薬はない。原因(不安、痛みなど)に応じた対応や、睡眠薬などが検討される場合がある。 環境調整や本人の気持ちに寄り添う対応が重要。

BPSDに対する薬物療法は、最小限の量から開始し、効果を見ながら慎重に調整していくことが原則です。また、薬によってBPSDが悪化したり、新たなBPSDが出現したりすることもあるため、注意深く観察することが重要です。

認知症薬を飲まない方がいい場合とは?注意点

認知症治療薬はすべての人に有効なわけではなく、場合によっては服用しない方が良いケースもあります。

  • 効果が期待できない場合: 病気の進行段階によっては、薬の効果がほとんど期待できないことがあります。特に、高度に進行した状態では、薬による上積み効果よりも副作用のリスクの方が上回る可能性があります。
  • 副作用が強く出る場合: 吐き気、下痢、めまい、ふらつき、徐脈などの副作用が強く出て、ご本人の苦痛が大きい場合や、日常生活に支障をきたす場合は、薬を中止したり、種類や量を変更したりする必要があります。
  • 併用禁忌薬がある場合: 他の病気で服用している薬との飲み合わせによって、予期せぬ強い副作用が出たり、薬の効果が弱まったりすることがあります。特に心臓の病気で特定の薬を服用している場合は注意が必要です。必ず現在服用しているすべての薬を医師に伝えてください。
  • ご本人が服用を強く拒否する場合: 薬を飲むこと自体がご本人の強いストレスになる場合は、無理強いせず、医師と相談して代替案(非薬物療法など)を検討することも必要です。
  • 治癒可能な認知症の場合: 薬剤性認知症やうつ病など、原因を取り除けば症状が改善する認知症の場合は、その原因疾患の治療が優先され、認知症治療薬は不要な場合があります。

薬物療法を開始するかどうか、続けるかどうかは、ご本人とご家族、そして医師が十分に話し合い、メリットとデメリットを総合的に考慮して決定することが大切です。

認知症 初期段階の治療薬

認知症の初期段階、特にアルツハイマー型認知症の軽度から中等度の段階では、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)が第一選択薬として用いられることが多いです。これらの薬は、低下したアセチルコリンの働きを補うことで、記憶力や注意力といった認知機能の維持・改善効果が期待できます。

また、最近では、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβに直接作用する新しい薬(レカネマブなど)が、初期段階のアルツハイマー病患者さんを対象に承認されました。これらの新薬は、病気の進行そのものを遅らせる可能性を秘めていますが、使用できる対象が限られていること、特定の副作用に注意が必要なことから、専門医による適切な診断と管理のもとで使用されます。

早期に診断を受け、適切な薬物療法や非薬物療法を開始することは、病気の進行を緩やかにし、ご本人がより長く穏やかな生活を送る上で重要です。

認知症治療薬の最新開発状況

認知症、特にアルツハイマー病の治療薬の開発は世界中で活発に進められています。これまでの薬が症状の緩和や進行の一時的な遅延を目指していたのに対し、最近注目されている新薬は、病気の根本原因にアプローチすることを目指しています。

代表的なものとして、脳に蓄積するアミロイドβを除去する抗体医薬品があります。アデュカヌマブ(日本未承認)やレカネマブ(レケンビ)などが開発・承認されています。これらの薬は、アルツハイマー病のごく初期段階の患者さんを対象とし、定期的な点滴によって投与されます。臨床試験では、病気の進行を統計学的に有意に遅らせる効果が報告されていますが、大きな効果とは言えない、対象患者が限られる、高額である、そして脳の浮腫や出血といった副作用(ARIA)のリスクがあるなど、課題も指摘されています。

また、アミロイドβだけでなく、タウという別の異常なたんぱく質にアプローチする薬や、炎症を抑える薬、神経細胞を保護・再生する薬など、様々な作用機序を持つ新薬が開発段階にあります。

これらの最新治療薬は大きな期待が寄せられていますが、まだ研究段階のものも多く、保険適用や使用対象など、一般に広く普及するには時間がかかる可能性があります。最新の情報については、専門医に相談することが最も確かです。

認知症の主な治療法:非薬物療法

非薬物療法は、薬を使わずに認知症の症状やQOLを改善するための様々な取り組みです。薬物療法だけでは対応できない多くの問題に対して有効であり、薬物療法と組み合わせて行うことで、より高い効果が期待できます。

非薬物療法の目的と具体的な方法

非薬物療法の主な目的は以下の通りです。

  • 認知機能の維持・向上: 脳に適切な刺激を与え、残存機能を活用する。
  • 行動・心理症状(BPSD)の軽減: 不安や混乱を和らげ、穏やかに過ごせるようにする。
  • 日常生活能力の維持・向上: 自立した生活を長く送れるようにサポートする。
  • ご本人とご家族のQOL向上: 楽しさや生きがいを感じ、安心して生活できるようにする。
  • 介護者の負担軽減: BPSDが軽減されることで、介護の負担も軽減される。

具体的な方法には、以下のようなものがあります。

認知機能改善・維持のためのリハビリ・トレーニング

  • 認知リハビリテーション:
    計算、読み書き、パズル、ゲームなど、認知機能に働きかけるドリルや課題を行います。
    iPadなどのタブレット端末を使ったデジタル認知トレーニングも普及しています。
    失われた機能だけでなく、残された機能を活用する方法を学ぶことも重要です。
  • 運動療法:
    有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング)、筋力トレーニング、バランス運動などを行います。
    運動は脳血流を改善し、神経細胞の成長を促す可能性が指摘されています。また、体力維持や気分の改善にもつながります。
    地域のリハビリテーション施設やデイサービスなどで専門家による指導を受けることもできます。
  • 作業療法:
    食事、着替え、入浴といった日常生活動作の練習を行います。
    趣味活動や創作活動(絵画、工芸、園芸など)を通じて、楽しみながら手や指、脳を使う機会を増やします。
    達成感や自信を取り戻すことにもつながります。

脳を活性化させる非薬物療法(回想法、音楽療法など)

  • 回想法:
    過去の出来事や思い出を語り合うことで、記憶を刺激し、感情を活性化させます。
    写真、音楽、昔使っていた物などを見ながら話すと効果的です。
    自己肯定感を高め、孤独感を軽減する効果も期待できます。グループで行うことも多いです。
  • 音楽療法:
    歌唱、演奏、音楽鑑賞などを行います。
    音楽は感情や記憶に強く働きかけ、脳の様々な領域を活性化させます。
    リラックス効果や、昔の記憶を呼び起こす効果(特に馴染みのある曲)があります。他者との交流のきっかけにもなります。
  • リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練):
    時間、場所、人に関する情報を繰り返し伝えることで、見当識障害の改善を目指します。
    カレンダーや時計を分かりやすい場所に置く、名前を繰り返し呼ぶ、現在の状況を具体的に説明するなどを行います。
  • バリデーション:
    ご本人の感情や言動を否定せず、ありのまま受け入れ、共感するコミュニケーション技法です。
    特にBPSD(不安、興奮など)に対して、ご本人の混乱や不安を軽減し、安心感を与えるのに有効です。
  • アニマルセラピー:
    犬などの動物と触れ合うことで、癒しや精神的な安定、コミュニケーションの機会を得ます。
  • 園芸療法:
    植物を育てたり手入れしたりする作業を通じて、心身のリフレッシュや五感への刺激、達成感を得ます。

日常生活における改善への取り組み(運動、食事、生活習慣)

認知症の予防や進行抑制のためには、診断後も健康的な生活習慣を維持することが重要です。これらは非薬物療法の一部とも言えます。

  • 適度な運動: 定期的な運動は脳の健康を保ち、認知機能の維持に役立ちます。毎日少しでも体を動かす習慣をつけましょう。
  • バランスの取れた食事: 特定の食品に頼るのではなく、野菜、果物、魚、大豆製品などをバランス良く摂取することが大切です。特にDHAやEPAといったn-3系脂肪酸は脳に良いとされています。十分な水分補給も重要です。
  • 十分な睡眠: 質の良い睡眠は脳機能の維持に不可欠です。睡眠時間が短すぎたり長すぎたりするのは良くないという報告もあります。
  • 社会参加と知的活動: 人と交流したり、新しいことを学んだり、趣味を続けたりすることで、脳への刺激を保つことが重要です。孤立しないように努めましょう。
  • 禁煙と節酒: 喫煙は脳血管障害のリスクを高め、認知症のリスクも上昇させます。過度な飲酒も脳に悪影響を及ぼします。
  • 口腔ケア: 口腔内の健康は全身の健康と関連しており、認知機能との関連も指摘されています。毎日の歯磨きや定期的な歯科検診が重要です。

これらの生活習慣の改善は、認知症の進行を遅らせるだけでなく、全身の健康維持にもつながります。

認知症は改善できる?改善例と治る確率について

改善が期待できる認知症の種類(治癒可能な認知症)

前述の通り、認知症の中には、原因疾患を治療することで症状が改善し、元の生活に近い状態に戻れる「治癒可能な認知症」が存在します。これらは、脳の神経細胞自体が破壊されているわけではなく、他の病気の影響で一時的に認知機能が低下している状態です。

代表的な治癒可能な認知症の原因を以下に示します。

原因疾患 概要と治療法 改善・治癒の可能性
正常圧水頭症 脳脊髄液の流れが悪くなり、脳室が拡大して脳を圧迫する病気。歩行障害、尿失禁、認知機能障害が主な症状。脳室から脳脊髄液を抜く手術(シャント術)が有効な場合がある。 原因疾患の治療で改善が見込める。
慢性硬膜下血腫 頭部外傷などが原因で、硬膜の下にゆっくりと血がたまり、脳を圧迫する病気。頭痛、片麻痺、認知機能障害などが起こる。手術で血腫を取り除く。 原因疾患の治療で改善が見込める。
甲状腺機能低下症 甲状腺ホルモンの分泌が少なくなる病気。無気力、抑うつ、物忘れ、皮膚の乾燥などが起こる。甲状腺ホルモン剤を補充する。 原因疾患の治療で改善が見込める。
ビタミン欠乏症 ビタミンB1、B12、葉酸などの欠乏により認知機能障害が起こることがある。特にアルコール多飲者に多い。ビタミン剤を補充する。 原因疾患の治療で改善が見込める。
薬剤性認知症 複数の薬を飲んでいる場合など、薬の副作用で認知機能が低下することがある。原因となっている薬の調整や中止を行う。 原因となっている薬剤の調整・中止で改善が見込める。
うつ病(仮性認知症) うつ病によって集中力や意欲が低下し、物忘れがひどくなることがある。認知症と間違われやすい。抗うつ薬や精神療法で治療する。 うつ病の治療で改善が見込める。
感染症(脳炎、髄膜炎など) 脳の炎症により認知機能障害が起こることがある。抗菌薬や抗ウイルス薬などで治療する。 原因疾患の治療で改善が見込める。
脳腫瘍 脳腫瘍が脳を圧迫することで認知機能障害が起こることがある。手術や放射線療法、化学療法などで治療する。 原因疾患の治療で改善が見込める場合がある。
電解質異常、脱水 体の水分やミネラルバランスの異常により、一時的に意識障害や認知機能障害が起こることがある。輸液などで補正する。 原因の補正で改善が見込める。

これらの治癒可能な認知症は、全体の認知症の約1割程度を占めると言われています。正確な診断が非常に重要であり、「認知症かもしれない」と感じたら、専門医の診察を受けることを強くお勧めします。

症状を緩和・改善させるための取り組み

残念ながら、治癒が難しいタイプの認知症であっても、症状を緩和し、より良い状態で生活できるようにするための様々な取り組みがあります。

  • 薬物療法: 前述の通り、進行を遅らせる薬やBPSDを軽減する薬によって、症状の進行を緩やかにしたり、つらい症状を和らげたりすることが可能です。
  • 非薬物療法: 認知リハビリ、運動療法、回想法、音楽療法などは、認知機能の維持や活性化、精神的な安定に効果が期待できます。
  • 環境調整: ご本人が安心して過ごせるように、住環境を整えたり、日課を決めたりすることは、混乱や不安を減らし、BPSDの軽減につながります。
  • 介護者の適切な関わり: 認知症の特性を理解し、ご本人の気持ちに寄り添い、残された能力を引き出すような関わり方をすることは、ご本人の安心感や自己肯定感を高め、症状の安定につながります。
  • 多職種連携: 医師、看護師、薬剤師、リハビリ専門職、ケアマネジャーなどが連携し、ご本人とご家族をサポートする体制を築くことで、様々な問題に対応し、より良いケアを提供できます。

これらの取り組みを総合的に行うことで、症状の悪化を緩やかにし、ご本人らしい生活をできる限り長く送ることを目指します。

早期発見・早期治療の重要性

認知症は早期に発見し、適切な対応を開始することが非常に重要です。その理由としては以下の点が挙げられます。

  • 治癒可能な認知症を見逃さない: 早期に医療機関を受診することで、治癒可能な認知症の原因を特定し、適切な治療によって回復できる可能性があります。
  • 進行を遅らせる効果: アルツハイマー型認知症などの進行性の認知症でも、病気の初期段階から治療を開始することで、病気の進行を緩やかにする効果がより期待できます。新しい薬も早期段階の患者さんが対象となることが多いです。
  • 本人・家族の準備期間: 早期に診断を受けることで、病気について学び、今後の生活について準備したり、利用できる社会資源(介護保険サービスなど)について情報収集したりする時間を持つことができます。これは、ご本人とご家族が病気を受け入れ、今後の人生計画を立てる上で非常に重要です。
  • BPSDの予防・軽減: 早期から非薬物療法や適切なケアを開始することで、BPSDの出現を予防したり、軽いうちに適切に対処したりすることが可能になります。

「年のせいかな」と軽く考えず、気になる症状があれば、早めに医療機関や地域の相談窓口に相談することが、ご本人とご家族の未来にとって最良の選択肢となる可能性が高いです。

認知症を治療しないとどうなる?放置のリスク

認知症の症状が現れているにも関わらず、診断を受けずに治療や適切なケアを行わないまま放置しておくと、様々なリスクが生じます。

認知機能低下の進行

治療を受けない場合、認知機能の低下はより速く進行する可能性があります。記憶力、判断力、思考力、実行機能などが急速に失われていき、日常生活における様々な活動が困難になります。例えば、お金の管理ができなくなったり、馴染みのある場所で道に迷ったり、複雑な家事ができなくなったりといった問題が深刻化します。

行動・心理症状の悪化

不安、抑うつ、不眠、幻覚、妄想、興奮、攻撃性、徘徊などのBPSDが重症化するリスクが高まります。これらの症状は、ご本人自身の苦痛を増大させるだけでなく、ご家族や周囲の人々との関係を悪化させたり、事故やトラブルにつながったりする可能性があります。特に、適切な対応方法を知らないまま BPSDに直面すると、介護者は精神的に追い詰められてしまうこともあります。

介護負担の増加

認知機能の低下やBPSDの悪化に伴い、ご本人に提供する必要のあるケアの量や質が増大します。食事、排泄、入浴、着替えといった基本的な日常生活動作(ADL)の介助が必要になり、常に見守りが必要になることもあります。これにより、ご家族の身体的・精神的負担は大きく増加し、介護離職や共倒れといった事態を招くリスクが高まります。

また、治癒可能な認知症であった場合でも、放置することで原因疾患が悪化し、回復が難しくなったり、身体的な合併症を引き起こしたりする可能性もあります。

認知症は放置して自然に良くなる病気ではありません。症状が現れたら、できるだけ早く専門家による診断を受け、適切な治療やケアを開始することが、ご本人とご家族が安定した生活を送るために不可欠です。

認知症の診断と治療はどこで行う?

「認知症かもしれない」と感じたり、家族の様子が気になったりした場合、まずはどこに相談すれば良いのでしょうか。

認知症専門医・医療機関

認知症の診断と治療は、主に以下の医療機関で行われます。

  • 認知症専門外来(物忘れ外来): 大学病院や総合病院などにある専門外来です。認知症の診断や鑑別診断、治療方針の決定に特化しており、専門的な検査(画像検査、神経心理検査など)や診断が受けられます。
  • 神経内科、精神科: これらの診療科でも認知症の診断・治療を行っています。特に神経内科はアルツハイマー病やレビー小体型認知症など、精神科はBPSDへの対応やうつ病との鑑別に専門性があります。
  • かかりつけ医: 日頃から診てもらっているかかりつけ医にまず相談するのも良い方法です。初期段階の相談や、専門医療機関への紹介を受けることができます。かかりつけ医が認知症サポート医である場合もあります。

診断プロセスでは、ご本人やご家族からの問診(いつ頃からどのような症状が出ているかなど)、神経学的検査(手足の動きや反射など)、神経心理検査(MMSEやHDS-Rといった簡単なテストから、より詳しい検査まで)、画像検査(MRIやCTによる脳の萎縮の確認、SPECTやPETによる脳血流や代謝、アミロイド蓄積の評価など)、血液検査(治癒可能な認知症の原因探索など)が行われます。これらの結果を総合的に判断して診断が確定されます。

相談できる窓口

医療機関を受診する前に、まずは相談したい、どこに行けば良いか分からない、といった場合は、以下の窓口に相談することができます。

  • 地域包括支援センター: 各市区町村に設置されており、高齢者の総合相談窓口です。保健師、社会福祉士、ケアマネジャーなどがおり、認知症に関する相談や、利用できるサービスの情報提供、関係機関との連携支援などを行っています。
  • 認知症疾患医療センター: 都道府県が指定した専門医療機関に設置されており、専門医による鑑別診断、医療相談、地域医療機関との連携支援などを行っています。より専門的な相談や診断が必要な場合に紹介されます。
  • 市区町村の担当窓口: 高齢者福祉課や地域包括ケア推進課など、市区町村によって名称は異なりますが、高齢者や認知症に関する相談を受け付けている窓口があります。
  • 認知症の人と家族の会: 認知症のご本人やご家族が運営する団体です。同じ立場の者同士が情報交換したり、悩みを聞き合ったりできる場(つどい)を設けていたり、電話相談なども行っています。

これらの相談窓口を活用することで、適切な医療機関につないでもらったり、診断前から利用できるサービスについて教えてもらったりすることができます。一人で抱え込まず、早めに相談することが大切です。

認知症治療にかかる費用

認知症の診断や治療、そしてそれに伴うケアにはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。費用は病状や治療内容、利用するサービスによって大きく異なります。

診察・検査・薬代の目安

認知症の診断や治療は医療保険が適用されます。75歳以上の方など、年齢や収入によって医療費の自己負担割合は1割または3割となります。

  • 初診時(診断までの検査を含む):
    問診、神経学的検査、神経心理検査、血液検査、画像検査(CT、MRIなど)などが含まれます。
    これらの検査をすべて行うと、医療機関や検査内容によりますが、自己負担額は数千円から数万円程度になることがあります。特にSPECTやPETといった特殊な画像検査を行う場合は、費用が高くなる傾向があります。
  • 定期的な診察・薬代:
    月に1回の診察と薬代(1ヶ月分)で、自己負担額は数千円程度になることが多いです。
    薬の種類や量、自己負担割合によって変動します。新しい薬(レカネマブなど)は非常に高額になるため、特定の条件を満たせば高額療養費制度の対象となりますが、それでも一定の自己負担は発生します。

病状が進み、BPSDに対する様々な薬が追加されたり、頻繁な診察が必要になったりすると、医療費は増加する可能性があります。

介護サービス利用との関連

認知症と診断され、病状が進むと、介護保険サービスの利用が必要になる場合があります。介護保険サービスは、介護が必要な状態と認定された方に対して提供されるサービスで、原則として費用の1割(所得に応じて2割または3割)を自己負担します。

  • 主な介護サービス(例):
    • 訪問介護(ホームヘルパーによる身体介護や生活援助)
    • 通所介護(デイサービス、デイケア)
    • 短期入所生活介護/療養介護(ショートステイ)
    • 施設入所(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、グループホームなど)
    • 福祉用具のレンタル・購入
    • 住宅改修

これらの介護サービスにかかる費用は、利用するサービスの種類、頻度、時間、そして要介護度によって大きく異なります。例えば、デイサービスを週数回利用する場合、月に数万円程度の自己負担となることが多いですが、施設に入所する場合は、居住費や食費なども含めて月に10万円~30万円程度の費用がかかることもあります。

医療費と介護サービス費は、それぞれ別の制度で支払われるため、両方の費用が発生することを理解しておく必要があります。経済的な負担が大きいと感じる場合は、高額療養費制度(医療費)や高額介護サービス費制度、または医療費控除などの公的な支援制度が利用できる可能性があります。地域包括支援センターや市区町村の窓口、ケアマネジャーに相談してみましょう。

まとめ:認知症の治療法を知り、適切に対応することの重要性

認知症は、ご本人やご家族の生活に大きな影響を与える病気ですが、適切な診断と治療、そしてサポートによって、症状の進行を緩やかにし、より穏やかな生活を送ることが可能です。

現在の認知症治療は、薬物療法と非薬物療法を組み合わせた多角的なアプローチが基本です。アルツハイマー型認知症など、多くのタイプの認知症は現時点では根治が難しいものの、進行を遅らせたり、つらい行動・心理症状(BPSD)を和らげたりする効果が期待できる治療法があります。特に、アルツハイマー病の新しい治療薬の開発は進んでおり、今後の治療の選択肢を広げる可能性があります。

一方、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫など、原因疾患を治療することで改善・治癒が見込める認知症も存在します。これらの治癒可能な認知症を見逃さないためにも、早期に専門医の診断を受けることが極めて重要です。

認知症の症状が現れたと感じたら、「年のせい」と決めつけず、まずは医療機関や地域の相談窓口(地域包括支援センターなど)に相談してください。早期発見・早期治療は、ご本人の予後を良くするためだけでなく、ご家族が病気について学び、今後の生活を準備し、利用できる社会資源を活用するための時間を得ることにもつながります。

認知症は、ご本人だけでなくご家族を含めたチームとして取り組むことが大切です。認知症治療法についての正しい知識を持ち、利用できるサービスを活用しながら、ご本人らしい尊厳のある生活を支援していくことが、認知症と共に生きる社会において求められています。この記事が、その一助となれば幸いです。

免責事項: 本記事の情報は一般的な知識を提供するものであり、個々の病状に対する診断や治療を保証するものではありません。認知症の症状が疑われる場合は、必ず医療機関を受診し、専門医の診断と指導を受けてください。治療法や薬の選択は、医師の判断とご本人・ご家族の意思に基づいて行われるべきです。

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