ニコチン依存症の診断書とは?保険適用条件と受け方

ニコチン依存症の診断書は、主に禁煙治療を健康保険適用で受ける際に必要となる重要な書類です。
この診断書、あるいは医師による診断は、あなたが単なる喫煙習慣を持つのではなく、治療が必要な「ニコチン依存症」という病気の状態にあることを公的に証明するものです。
診断基準や医療機関での取得方法、費用、そして診断を受けた場合の保険適用による禁煙治療について知ることは、禁煙への第一歩を踏み出す上で非常に役立ちます。
この記事では、ニコチン依存症の診断書にまつわる様々な疑問にお答えし、スムーズに禁煙治療に進めるよう詳しく解説します。

禁煙治療の保険適用に診断書(またはそれに準ずる診断)が必要

日本の健康保険制度では、喫煙が単なる習慣ではなく、病気である「ニコチン依存症」と診断された場合に、専門的な禁煙治療に対して保険が適用されます。
この保険適用を受けるためには、医療機関で医師による診断を受け、「ニコチン依存症である」と認められることが条件の一つです。
厳密に「診断書」という形式の書類そのものを提出する必要があるわけではなく、医師が問診や検査に基づいてニコチン依存症と診断し、診療報酬として「ニコチン依存症管理料」を算定することが、診断書に準ずる証明となります。
しかし、場合によっては職場の禁煙プログラムや特定の公的支援などで診断書の提出を求められるケースもゼロではありません。

診断書で証明されるニコチン依存症の状態

ニコチン依存症と診断されるということは、単にタバコを吸う習慣があるだけでなく、ニコチンの薬理作用によって身体的・精神的に依存している状態であることを意味します。
具体的には、以下のような状態が診断書や診療録(カルテ)によって証明されます。

  • ニコチンに対する強い欲求があり、禁煙しようとしてもやめられない。
  • 喫煙本数や喫煙時間が次第に増えてしまう。
  • 禁煙や本数を減らそうとすると、離脱症状(イライラ、落ち着きのなさ、集中困難、眠気、頭痛など)が現れる。
  • 離脱症状を緩和するために再び喫煙してしまう。
  • 健康問題や経済問題、社会的な問題が起きているにも関わらず、喫煙を続けてしまう。
  • 喫煙に多くの時間や労力を費やしてしまう。

これらの状態は、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-10)やアメリカ精神医学会(APA)の診断統計マニュアル(DSM-5)といった、国際的な診断基準に基づいて評価されます。
保険診療における日本の診断基準も、これらの考え方を基に定められています。
診断書は、これらの依存状態が医師によって客観的に評価され、病気として認められた証となるのです。

ニコチン依存症の診断を受ける医療機関と流れ

ニコチン依存症の診断は、禁煙治療を専門に行っている医療機関や、一般的な内科などでも受けることができます。
スムーズに診断・治療に進むためには、事前の情報収集と準備が大切です。

禁煙外来などの専門医療機関を受診

ニコチン依存症の診断および禁煙治療を希望する場合、最も適しているのは「禁煙外来」を設置している医療機関です。
禁煙外来では、ニコチン依存症の専門知識を持つ医師や看護師、薬剤師などが連携し、個々の患者の状態に合わせたきめ細やかなサポートを提供しています。
禁煙治療薬の処方だけでなく、禁煙のノウハウや離脱症状への対処法など、実践的なアドバイスを受けることができます。

禁煙外来は、大学病院などの大きな病院だけでなく、地域のクリニックなどにも広がっています。
日本呼吸器学会や日本循環器学会などの関連学会や、各都道府県の医師会、インターネット上の禁煙外来リストなどで、お近くの医療機関を探すことができます。

禁煙外来がない医療機関でも、内科などで禁煙治療を行っている場合もあります。
受診を検討している医療機関が禁煙治療に対応しているか、事前に電話やホームページで確認すると良いでしょう。

ニコチン依存症の診断基準とテスト(TDS)

保険診療でニコチン依存症の診断を行う際には、主に定められた診断基準に基づいて評価が行われます。
その中心となるのが、問診とTDSテストです。

保険診療におけるニコチン依存症の診断基準

保険診療で禁煙治療を受けるためのニコチン依存症の診断基準は、以下の4項目を満たすこととされています。

1. ニコチン依存症に係るスクリーニングテスト(TDS)で5点以上であること。
2. 35歳以上の場合、ブリンクマン指数(1日の喫煙本数 × 喫煙年数)が200以上であること。(※2020年4月より、35歳未満の場合はブリンクマン指数の要件が撤廃されました)
3. ただちに禁煙を開始することを希望していること。
4. 「禁煙治療のための標準手順書」について説明を受け、当該治療を受けることを文書により同意していること。

この中で、ニコチン依存症そのものを診断するための中心的な役割を担うのが、TDSテストです。

TDS(タバコ依存度スクリーニングテスト)とは

TDS(Tobacco Dependence Screener)は、ニコチン依存症の程度を客観的に評価するための簡易的なスクリーニングテストです。
全部で10個の質問からなり、それぞれの質問に「はい」「いいえ」で答えることで点数が算出されます。
この合計点数によって、ニコチン依存症のレベルが判定されます。
保険診療の基準では、5点以上がニコチン依存症と診断され、保険適用での禁煙治療が可能となります。

TDSテストは、世界中で広く用いられているFagerstrom Test for Nicotine Dependence (FTND) を日本向けに改良したものです。
FTNDよりも質問数が多く、より詳細に依存度を評価できるように設計されています。

TDSテストの具体的な質問項目と採点方法

TDSテストの具体的な質問項目とそれぞれの点数は以下の通りです。
医療機関での問診時に、医師や看護師から質問される形式で行われるのが一般的です。

質問項目 回答 点数
1. 自分が吸うつもりよりも、いつも多くタバコを吸ってしまうことがありますか? はい 1点
いいえ 0点
2. 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、タバコが欲しくてたまらなくなることがありましたか? はい 1点
いいえ 0点
3. 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、次のどれかの症状が出たことがありますか? (イライラ、神経質、落ち着かない、集中しにくい、ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅くなる、手のふるえ、食欲または体重増加) はい 1点
いいえ 0点
4. 3.でうかがった症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか? はい 1点
いいえ 0点
5. 病気にかかって、ほとんど1日中寝ていなくてはならなかったときでも、タバコを吸うことがありましたか? はい 1点
いいえ 0点
6. 飛行機や電車の中など、タバコを吸ってはいけないとわかっていても、吸ってしまうことがありましたか? はい 1点
いいえ 0点
7. 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、禁煙や本数を減らすのが困難だと感じることがありましたか? はい 1点
いいえ 0点
8. これまで禁煙に挑戦して、失敗したことがありますか? はい 1点
いいえ 0点
9. 1日に10本以上タバコを吸いますか? はい 1点
いいえ 0点
10. 朝起きてから30分以内にタバコを吸いますか? はい 1点
いいえ 0点

合計点が算出され、5点以上であればニコチン依存症と診断されます。
点数が高いほど、依存度が高いと判断されます。

コチニン濃度測定や呼気一酸化炭素濃度測定

TDSテストによる問診に加え、より客観的な喫煙状況や依存度を評価するために、いくつかの検査が行われることがあります。

呼気一酸化炭素 (CO) 濃度測定:
息に含まれる一酸化炭素の濃度を測定する検査です。
タバコの煙には大量の一酸化炭素が含まれており、喫煙者は非喫煙者よりも呼気中のCO濃度が高い傾向があります。
禁煙を開始すると、CO濃度は速やかに低下します。
この検査は、喫煙習慣の確認や、禁煙の達成度を客観的に評価するのに役立ちます。
禁煙外来では、受診ごとにCO濃度を測定し、禁煙の成果を目に見える形で示すことで、患者のモチベーション維持にも繋げることがあります。

尿中コチニン濃度測定:
コチニンは、体内に吸収されたニコチンが代謝されてできる物質です。
タバコを吸うと、コチニンが尿中に排泄されます。
尿中のコチニン濃度を測定することで、過去数日間のニコチンの摂取量、つまり喫煙量を推定することができます。
この検査も、喫煙状況の確認やTDSテストの結果を補完する情報として用いられることがあります。

これらの検査は、ニコチン依存症の診断基準そのものではありませんが、診断を裏付ける客観的なデータとして、あるいは治療の進捗を確認する指標として有用です。

診断書の発行手続きと費用

ニコチン依存症の診断書の発行を希望する場合、診断を受けた医療機関に依頼します。

発行手続き:
診断後、医師または受付窓口に「ニコチン依存症の診断書が必要である」旨を伝えてください。
診断書の発行には、診断名(ニコチン依存症)、診断に至った根拠(TDSテストの結果、問診内容、検査結果など)、治療方針などが記載されます。
発行までには数日から1週間程度かかるのが一般的ですが、医療機関によって異なります。

費用:
診断書の発行は、健康保険の適用外となり、全額自己負担となります。
費用は医療機関によって自由に設定されており、概ね3,000円から10,000円程度が多いようです。
事前に医療機関に確認しておくことをお勧めします。

ただし、多くの場合、禁煙治療の保険適用を受けるために必要なのは「医師によるニコチン依存症の診断」そのものであり、診断書という「書類」は必須ではありません。
保険適用での治療を希望するだけであれば、診断書の発行は不要なケースがほとんどです。
診断書が必要となるのは、提出先から特に要求された場合に限られると考えて良いでしょう。

ニコチン依存症と診断された場合の保険適用治療

ニコチン依存症と診断され、保険適用条件を満たせば、禁煙治療を健康保険を使って受けることができます。
これにより、治療にかかる経済的な負担を大幅に軽減できます。

禁煙治療の保険適用条件

前述の通り、保険適用で禁煙治療を受けるためには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。

過去1年以内に保険適用で禁煙治療を受けていない

これは、同じ禁煙治療プログラムを短期間に繰り返し保険適用で受けることを防ぐための条件です。
ただし、過去に保険適用外(自費)で禁煙治療を受けたことがある場合や、保険適用で治療を受けたものの1年以上経過している場合は、再び保険適用での治療を受けることが可能です。

ただちに禁煙を開始する意思がある

禁煙治療は、患者自身の「やめたい」という強い意志が不可欠です。
治療開始にあたり、問診で禁煙への意欲を確認されるとともに、「禁煙治療のための標準手順書」について説明を受け、治療計画に同意し、署名を行うことが求められます。
これは、患者が禁煙治療に主体的に取り組む意思があることを確認する手続きです。

ブリンクマン指数(喫煙年数×1日の喫煙本数)が基準以上

これは、喫煙による健康リスクがある程度高いと判断される人に保険適用を限定するための基準でした。
計算方法は以下の通りです。

ブリンクマン指数 = 1日の平均喫煙本数 × 喫煙年数

例えば、1日20本を20年間吸っている人であれば、20本 × 20年 = 400となります。
この指数が200以上であることが、かつて35歳以上の保険適用条件でした。
しかし、ニコチン依存症が年齢に関わらず治療すべき病気であるとの観点から、2020年4月以降、35歳未満の方はブリンクマン指数の条件が撤廃されました。
35歳以上の方は引き続きこの条件が適用されます。

TDSテストでニコチン依存症と診断される(5点以上)

これが、あなたがニコチン依存症という病気の状態にあることを証明する最も重要な条件です。
TDSテストの合計点が5点以上であれば、ニコチン依存症と診断され、保険適用での治療の対象となります。

これらの条件を満たしているかどうかは、初診時の問診や検査で医師が判断します。

ニコチン依存症管理料とは

「ニコチン依存症管理料」とは、医療機関が保険診療で禁煙治療を提供した場合に算定できる診療報酬点数の項目名です。
これは、患者さんが支払う「治療費」の中に含まれる医療機関側の収入となる部分であり、患者さんが直接この名前の費用を支払うわけではありません。
しかし、この管理料が算定されるということは、「医療機関が保険診療のルールに則ってニコチン依存症治療を提供した」ことの証明となります。

ニコチン依存症管理料の算定要件

医療機関がニコチン依存症管理料を算定するためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 施設基準:禁煙治療に関する研修を受けた医師がいること、禁煙治療に関するマニュアルが整備されていることなど。
  • 患者要件:上記の保険適用条件(TDSテスト5点以上、ブリンクマン指数、禁煙意思、同意)を満たしている患者であること。
  • 診療内容:標準的な禁煙治療プログラム(通常12週間で5回の診察)に沿って、問診、検査(呼気CO測定など)、禁煙のアドバイス、禁煙補助薬の処方などを行うこと。

これらの要件を満たした上で、診療報酬点数に基づき、患者の自己負担割合(通常3割)に応じた治療費が発生します。

ニコチン依存症管理料1と2の違い

ニコチン依存症管理料には、「ニコチン依存症管理料1」と「ニコチン依存症管理料2」の2種類があります。
これは、提供される診療の内容や頻度によって区別されます。

区分 算定タイミング 診療間隔 診療内容 標準的な治療期間
ニコチン依存症管理料1 初回、2週後、4週後、8週後、12週後 原則として2週間、2週間、4週間、4週間後 問診、呼気CO測定、治療薬処方、指導・カウンセリング(標準的な5回の診療) 12週間
ニコチン依存症管理料2 特定の病状の患者や、1回あたりの診療時間が短い場合など 医師が必要と判断した間隔(月1回程度など) 問診、呼気CO測定、治療薬処方、指導・カウンセリング(管理料1よりは簡略化) 期間の定めなし

多くの保険適用での禁煙治療プログラムは、「ニコチン依存症管理料1」に沿って実施されます。
これは、禁煙成功のために最も効果的とされる標準的な治療スケジュールに基づいています。
管理料2は、患者の病状などにより管理料1の標準的なスケジュールでの診療が困難な場合に算定されることがあります。

このように、ニコチン依存症管理料という項目を通じて、医療機関が保険診療として適切な禁煙治療を提供していることが確認できます。

ニコチン依存症 診断書に関するよくある質問

ニコチン依存症の診断書や禁煙治療について、よくある質問とその回答をまとめました。

ニコチン依存症と診断するテストは何ですか?

保険診療でニコチン依存症と診断するための中心的なテストは、TDS(タバコ依存度スクリーニングテスト)です。
10個の質問からなり、合計点が5点以上の場合にニコチン依存症と診断されます。
これに加え、呼気一酸化炭素(CO)濃度測定や、場合によっては尿中コチニン濃度測定といった客観的な検査も行われ、診断の参考にされます。

ニコチネルの保険適用条件を教えてください。

「ニコチネル」は、ノバルティスファーマ(現グラクソ・スミスクライン)が販売するニコチン代替療法薬(ニコチンパッチ、ニコチンガム)の商品名です。
これらの禁煙補助薬を保険適用で購入・使用できる条件は、あなたが保険適用での禁煙治療の対象者であること、つまり、この記事で解説している以下の4つの条件をすべて満たしていることになります。

1. TDSテストで5点以上であること。
2. (35歳以上の場合)ブリンクマン指数が200以上であること。(35歳未満は条件撤廃)
3. ただちに禁煙を開始することを希望していること。
4. 禁煙治療を受けることに文書で同意していること。

これらの条件を満たし、医師の診察を受けた上で、医師があなたの状態に合わせてニコチネルやチャンピックス(供給再開時)といった保険適用の禁煙補助薬を処方します。

診断書は自分で作成できますか?

いいえ、診断書は医師だけが作成できる公的な書類です。
ニコチン依存症の診断書が必要な場合は、必ず医療機関を受診し、医師による診断を受けた上で発行を依頼してください。
自分で作成した書類は診断書として認められません。

禁煙治療の費用はどのくらいですか?

保険適用で禁煙治療を受ける場合、医療機関の診察料と処方される禁煙補助薬代がかかります。
標準的な12週間の治療期間で、合計5回の診察を受けるのが一般的です。
自己負担割合が3割の場合の費用の目安は、処方される禁煙補助薬の種類によって異なります。

  • ニコチンパッチを使用する場合: 約1.3万円〜2万円程度
  • チャンピックス(バレニクリン)を使用する場合: 約2万円程度(※現在、チャンピックスは供給が停止しています。今後の供給状況により変動する可能性があります。)

これらの費用はあくまで目安であり、医療機関や薬局によって多少異なります。
また、健康保険の種類や自治体によっては、追加の助成制度がある場合もありますので、確認してみると良いでしょう。

自費診療で禁煙治療を受ける場合は、保険適用の場合と比較して費用が高くなります。
診察料も医療機関が自由に設定でき、薬代も全額自己負担となるため、保険適用の2〜3倍程度の費用がかかることが一般的です。
経済的な負担を考慮すると、まずは保険適用での治療を検討するのがおすすめです。

まとめ:ニコチン依存症の診断書取得と禁煙治療への第一歩

ニコチン依存症の診断書は、主に健康保険を利用して禁煙治療を受ける際に、あなたがニコチン依存症という病気の状態にあることを証明するために重要となります。
診断は、TDSテストを中心とした問診や、呼気一酸化炭素測定などの客観的な検査に基づいて医師が行います。

保険適用で禁煙治療を受けるには、TDSテストでの診断に加え、ブリンクマン指数の基準(35歳以上)、禁煙意思、治療への同意といった条件を満たす必要があります。
これらの条件を満たせば、「ニコチン依存症管理料」として医療機関が診療報酬を算定し、患者さんは自己負担割合に応じた費用で、禁煙補助薬の使用や医師のサポートを受けながら禁煙に取り組むことができます。

ニコチン依存症は、適切な診断と治療によって克服可能な病気です。
診断書や保険適用に関する情報を知ることは、禁煙への大きな一歩を踏み出すための後押しとなるはずです。
「やめたい」という気持ちがある方は、ぜひ禁煙外来などの医療機関に相談し、専門家の力を借りて禁煙を成功させてください。

※本記事で提供する情報は一般的なものであり、個々の病状や治療方針については必ず医療機関で医師にご相談ください。
医療制度や薬の情報は変更される可能性があります。
最新の情報は厚生労働省や日本循環器学会などの公式情報をご確認ください。

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