ゲーム行動症の代表的な症状10選|見過ごせないサインは?【家族必見】

ゲームやオンラインの活動に没頭しすぎて、日常生活に支障が出ているかもしれない…そんなご心配はありませんか?
近年、「ゲームのやりすぎ」が単なる習慣や趣味の範疇を超え、「ゲーム行動症」という疾患として認識されるようになりました。
これは、ゲームをしたいという欲求をコントロールできなくなり、心身の健康や学業、仕事、人間関係など、様々な側面に悪影響を及ぼす状態です。
もし、ご自身やご家族にゲームへの強いこだわりや、それに関連する気になる変化が見られるなら、それはゲーム行動症のサインかもしれません。
この記事では、ゲーム行動症の主な症状や、国際的な診断基準、放置した場合の影響、そして早期に気づくためのチェック方法や対処法について詳しく解説します。
ゲーム行動症は適切なサポートと治療で回復が期待できる疾患です。
一人で悩まず、まずは正確な情報を知ることから始めてみましょう。

ゲーム行動症は、ゲームをプレイすることに対して持続的または反復的な行動パターンを示し、それが日常生活に重大な支障をきたしている状態を指します。
以前は一般的に「ゲーム依存症」と呼ばれることが多かったですが、2019年に世界保健機関(WHO)によって国際疾病分類第11版(ICD-11)に「Gaming disorder」(ゲーム障害)として正式に分類され、疾患として位置づけられました。
これにより、世界的にゲーム行動症が医療や福祉の支援が必要な病気であるという認識が広まりました。

ゲーム行動症は、特定のゲームジャンルに限らず、オンラインゲーム、オフラインゲーム、eスポーツ、モバイルゲームなど、様々な形態のゲーム活動に関連して発生する可能性があります。
重要なのは、ゲームをプレイする時間そのものよりも、ゲーム行動をコントロールできず、それが生活の他の側面(学業、仕事、家族関係、健康など)に深刻な問題を引き起こしているかどうかという点です。

世界保健機関(WHO)によるゲーム障害の定義(ICD-11)

WHOが定めるICD-11におけるゲーム障害(Gaming disorder)の診断基準は、主に以下の3つの特徴的な行動パターンに基づいています。
これらの行動が、本人にとって著しい苦痛を引き起こしているか、または個人、家族、社会、学業、職業などの重要な機能領域において重大な障害を引き起こしており、通常12ヶ月以上の期間にわたって持続している場合に診断が検討されます。
ただし、症状が重症である場合は、診断に必要な期間が短くなることもあります。

この診断基準は、ゲーム行動症を正確に診断し、適切な治療や支援につなげるための国際的な指針となります。
単にゲームが好き、長時間プレイするというだけでは診断されず、ゲーム行動をコントロールできない状態が続き、かつ日常生活に明確な問題が生じていることが重要なポイントです。

ゲーム行動症の主な症状・サイン

ゲーム行動症の症状は多岐にわたり、本人も周囲も気づきにくいものから、明らかに異常と感じるものまで様々です。
ここでは、WHOの診断基準に基づいた行動パターンに加え、具体的な身体的および精神的・行動的なサインについて詳しく見ていきましょう。
これらのサインに気づくことが、早期の対応に繋がります。

ICD-11に基づくゲーム行動症の診断基準

WHOのICD-11では、ゲーム行動症の診断基準として以下の3つの核となる特徴を挙げています。

(1) ゲームに関する行動のコントロール障害

ゲームを始める、頻度、時間、期間、終了、または状況を制御することが困難になります。
例えば、

  • 「今日は1時間だけ」と決めていたのに、気づけば数時間、あるいは一晩中プレイしてしまう。
  • ゲームを中断しようとしても、強い衝動に駆られてやめられない。
  • 一度ゲームから離れても、すぐにまたゲームを始めてしまう。
  • ゲームをする時間や場所を制限できない。

このように、ゲーム行動を自分の意思でコントロールすることが難しくなるのがこの特徴です。

(2) ゲームを優先する傾向

ゲームをプレイすることに、生活上の他の関心事や日常生活の活動よりも優先順位を置くようになります。
例えば、

  • 食事や睡眠、入浴といった基本的な生活習慣よりもゲームを優先する。
  • 学業や仕事、趣味、友人との約束などを後回しにしてゲームをする。
  • 健康問題や家族との時間、経済状況よりもゲームを優先する。
  • 以前は楽しんでいた他の活動(スポーツ、読書、外出など)への興味を失い、ゲームばかりするようになる。

ゲームが生活の中心となり、他の大切な活動が二の次になってしまう状態です。

(3) 問題が発生してもゲームを続ける/エスカレートする

ゲーム行動が否定的な結果(例:学業不振、失職、友人関係の悪化、健康問題など)をもたらしているにもかかわらず、ゲームを継続したり、ゲーム行動がエスカレートしたりします。
例えば、

  • ゲームのせいで学校や会社を休みがちになり、問題になっているにも関わらず、ゲームをやめられない。
  • 家族にゲームのやりすぎを注意され、関係が悪化しているのに、ゲーム時間を減らせないどころか、隠れてゲームをするようになる。
  • ゲームによる体の不調(頭痛、眼精疲労など)を感じても、ゲームをやめずに続ける。
  • ゲームに費やす時間やお金が増え続け、問題が大きくなる一方なのに、ゲームをやめられない。

このように、明らかな問題が起きているにも関わらず、ゲーム行動を修正できない、あるいは悪化させてしまうのがこの特徴です。

ゲーム行動症の具体的な身体的症状

ゲーム行動症は、長時間の不活動や不規則な生活から、様々な身体的な不調を引き起こします。
具体的な症状としては以下が挙げられます。

  • 睡眠障害: 昼夜逆転の生活になり、不眠や過眠が生じる。
    日中に強い眠気を感じる。
  • 食欲不振または過食: ゲームに没頭するあまり食事を摂らなかったり、逆に手軽に食べられるスナックなどを過剰に摂取したりする。
  • 体重の増減: 食事や運動習慣の乱れにより、急激に体重が増えたり減ったりする。
  • 眼精疲労、視力低下: 長時間画面を見続けることで目が疲れやすく、視力が低下する可能性がある。
  • 頭痛、肩こり: 同じ姿勢で長時間いることによる血行不良や緊張から生じる。
  • 腱鞘炎、指の痛み: ゲームコントローラーやキーボード、スマホを使い続けることによる反復運動で手や指を痛める。
  • エコノミークラス症候群のリスク: 長時間座り続けることで、血栓ができやすくなる。
  • 栄養失調、脱水症状: 食事や水分摂取を怠ることで生じる。
  • 不衛生な状態: 入浴や歯磨きなどの身だしなみを整えることを怠る。

これらの身体症状は、ゲーム行動症によって引き起こされる生活習慣の乱れの結果として現れることが多く、放置すると健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

ゲーム行動症の具体的な精神的・行動的サイン

ゲーム行動症は、本人の精神状態や行動パターンにも顕著な変化をもたらします。
以下のようなサインが見られることがあります。

  • イライラ、落ち着きのなさ: ゲームができない状況になると、強いイライラや不安を感じる。
  • 怒りやすさ: ゲームを中断されたり、プレイを制限されたりすることに対して、激しく怒ったり反抗的な態度をとったりする。
  • 無気力: ゲーム以外の活動に対して興味を失い、何もする気が起きなくなる。
    学業や仕事に対する意欲が低下する。
  • 抑うつ: 自分がゲームをコントロールできないことや、ゲームによって生じた問題に対して、落ち込んだり自己嫌悪に陥ったりする。
  • 不安: 将来に対する不安や、ゲーム以外の活動への適応に関する不安を抱く。
  • 引きこもり: ゲームをすることだけが楽しみになり、現実世界での人との交流を避けるようになる。
    自宅に閉じこもりがちになる。
  • 嘘をつく: ゲームをしている時間や、ゲームへの課金額について、家族や周囲の人に嘘をつく。
  • 約束を守らない: ゲームを優先するあまり、友人や家族との約束を破る。
  • 現実逃避: 現実世界での悩みやストレスから逃れるために、ゲームの世界に没頭する。
  • 攻撃的な言動: ゲーム中に暴言を吐いたり、オンライン上の他プレイヤーに対して攻撃的な態度をとったりする。
    また、現実世界でもイライラからくる攻撃的な言動が増えることがある。
  • 責任感の低下: 自分の行動に対する責任感が薄れ、問題の原因を他人のせいにしたり、言い訳をしたりすることが増える。

これらの精神的・行動的サインは、ゲーム行動症が本人の心に深く影響していることを示しており、周囲のサポートや専門家の介入が必要な場合があります。

ゲーム行動症が引き起こす影響

ゲーム行動症を放置すると、本人の健康だけでなく、社会生活のあらゆる側面に深刻な影響が及びます。
早期に問題に気づき、適切な対策を講じることが非常に重要です。

身体への影響

前述の身体的症状が慢性化・悪化する可能性があります。

  • 生活習慣病リスクの増加: 不規則な生活、偏った食事、運動不足が続くと、肥満、糖尿病、高血圧などのリスクが高まります。
  • 免疫力の低下: 睡眠不足や栄養不足により、風邪などの感染症にかかりやすくなることがあります。
  • 目の健康問題: 重度の眼精疲労、ドライアイ、視力低下が進行する可能性があります。
  • 運動器系の問題: 腱鞘炎、腰痛、姿勢の悪化などが慢性化することがあります。
  • 重篤な健康問題: 長時間の不活動による血栓症(エコノミークラス症候群)や、栄養失調による様々な合併症のリスクもゼロではありません。
  • 不衛生な状態の継続: 適切なケアを怠ることで、皮膚疾患や虫歯などの問題が生じやすくなります。

精神・心理面への影響

ゲーム行動症は、精神的な健康にも大きな打撃を与えます。

  • 自己肯定感の低下: ゲーム以外で成果を出せない、ゲームをコントロールできない自分自身に嫌悪感を抱き、自信を失う。
  • 孤立感: 現実世界での交流が減り、孤独を感じる。
    ゲームの世界でしか自分の居場所がないと感じるようになる。
  • うつ病: 無気力、落ち込み、絶望感などが続き、うつ病を発症または悪化させる。
  • 不安障害: 社会的な場面での不安や、ゲームから離れることへの強い不安を抱く。
  • 希死念慮: 問題が深刻化し、将来に希望が見出せなくなった結果、死を考えるようになる。
  • 他の精神疾患の併発または悪化: 注意欠如・多動症(ADHD)や発達障害、他の依存症(薬物、ギャンブルなど)を抱えている場合、ゲーム行動症がこれらの疾患を悪化させることがあります。

社会生活(学業・仕事・人間関係)への影響

ゲーム行動症は、社会の中で生活していく上で必要な機能に著しい障害をもたらします。

  • 学業不振・中退: 授業への集中力低下、遅刻、欠席が増え、成績が著しく低下する。
    最終的に学校を中退するケースもあります。
  • 遅刻・欠勤・失職: 仕事中もゲームのことばかり考えたり、睡眠不足で遅刻や欠勤を繰り返したりすることで、職を失うことがあります。
  • 経済的な問題: ゲーム内のアイテム購入(課金)に多額のお金を費やし、借金を抱えたり、生活費が困窮したりする。
    また、失職による収入減も経済的な問題を引き起こします。
  • 家族関係の悪化: ゲーム時間や課金、生活習慣の乱れなどを巡って家族との衝突が増え、関係が険悪になる。
    家族がサポートしようとしても反発し、孤立を深めることもあります。
  • 友人関係の破綻: ゲーム仲間とのオンライン上の繋がりはあっても、現実世界の友人との交流が減り、関係が疎遠になる。
    ゲーム仲間との関係も、ゲーム内のトラブルで悪化することがあります。
  • 社会からの孤立: 学業、仕事、人間関係といった社会との接点が失われ、社会的に孤立した状態になる。
  • 法的な問題: 未成年者の高額課金による家族とのトラブルや、ゲーム内での詐欺行為などが法的な問題に発展する可能性もあります。

このように、ゲーム行動症は本人の人生を大きく変えてしまう可能性のある深刻な問題です。

ゲーム行動症の原因と背景

ゲーム行動症の原因は一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
個人の生物学的要因、心理的要因、そして社会的な環境要因が相互に影響し合っています。

  • 生物学的要因:

    • 脳報酬系の変化: ゲームをプレイすることで脳の報酬系が活性化し、快感をもたらすドーパミンが放出されます。
      これが強化されることで、「もっとゲームをしたい」という欲求が強まります。
      ゲーム行動症の人は、この報酬系の働きに偏りが生じている可能性が指摘されています。

    • 脳機能の変化: ゲーム行動症の人の脳では、衝動性や自己制御に関わる前頭前野の機能低下が報告されていることがあります。

  • 心理的要因:

    • ストレスや不安からの逃避: 現実世界でのストレス、悩み、不安、不満などから逃れるために、ゲームの世界に没頭することがあります。
      ゲームが一時的な現実逃避の手段となり、問題解決に向き合えなくなる。

    • 自己肯定感の低さ: 現実世界で自信を持てない人が、ゲームの世界で成功体験を積むことで自己肯定感を得ようとする場合があります。
      ゲーム内での成功が、現実での不満を埋め合わせる手段となる。

    • 達成感や承認欲求: ゲーム内で目標を達成したり、他のプレイヤーから認められたりすることに強い喜びを感じ、それがゲームを続ける動機となる。

    • 飽きやすさ、衝動性の高さ: 新しい刺激を求めやすく、衝動的に行動しやすい傾向がある人は、ゲームに没頭しやすい可能性があります。

    • 併存する精神疾患: うつ病、不安障害、ADHD、自閉スペクトラム症などの精神疾患を抱えている人は、ゲーム行動症を併発しやすいと言われています。
      これらの疾患が原因で現実世界に適応しにくく、ゲームの世界に安らぎや居場所を求めてしまうことがあります。

  • 社会的要因:

    • ゲームの特性: 近年のゲームは、達成感、競争、協力、ソーシャル要素、継続的なアップデートなど、プレイヤーを引きつけ続ける様々な仕組み(報酬システム、ガチャなど)が組み込まれています。
      これらの特性が、依存を形成しやすい側面を持つことがあります。

    • 家庭環境: 家族とのコミュニケーション不足、過干渉または無関心、家庭内の不和などが、ゲームに逃避する背景となることがあります。
      また、家族にゲームや他の依存症の人がいる場合も影響を受ける可能性があります。

    • 学校や職場での問題: 学校でのいじめや不適応、学習や仕事の困難さ、職場での人間関係の問題などが、ゲームに没頭するきっかけとなることがあります。

    • 友人関係: 友人グループの中でゲームが中心的な活動となっている場合、ゲームをしないと孤立してしまうという不安からゲームを続けたり、友人に誘われてゲームに深入りしたりすることがあります。

    • 社会的な孤立: 地域や社会との繋がりが希薄な場合、ゲームの世界が唯一の社会的な接点となってしまうことがあります。

これらの要因は単独で作用するのではなく、相互に影響し合いながらゲーム行動症の発症に関わっています。
例えば、現実でのストレスから逃避するためにゲームに没頭し、それが睡眠不足や学業不振を引き起こし、さらに自己肯定感が低下してよりゲームに依存するという悪循環に陥るケースなどがあります。

ゲーム行動症の診断とチェックリスト

ゲーム行動症の正確な診断は、精神科医や依存症の専門家によって行われます。
診断には、WHOのICD-11診断基準に基づいて、本人からの詳細な問診、家族からの情報提供、心理検査などが総合的に用いられます。
また、ゲーム行動症と似たような症状を引き起こす他の精神疾患や身体疾患を除外するための検査が行われることもあります。

公式な診断は専門家が行いますが、ご自身やご家族の状況がゲーム行動症のサインに当てはまるかどうかを確認するための簡易的なチェックリストとして、ICD-11の診断基準を基にした質問が役立ちます。

自分でできる簡易チェック

以下の項目は、WHOのICD-11におけるゲーム障害の診断基準(コントロール障害、優先傾向、問題継続/エスカレート)を基にした簡易的なチェックリストです。
これは自己診断のための目安であり、医学的な診断に代わるものではありません。
いくつかの項目に「はい」が多く当てはまる場合は、専門機関への相談を検討することをお勧めします。

項目 はい いいえ
コントロール障害
1. ゲームをする時間や頻度を自分でコントロールするのが難しいと感じることがありますか?
2. ゲームを始めると、やめようと思っても長時間続けてしまうことが多いですか?
3. ゲームを中断したり終了したりすることが、自分の意思でできないと感じますか?
優先傾向
4. 勉強や仕事、家族との時間、食事、睡眠といった他の活動よりもゲームを優先することが増えましたか?
5. 以前は楽しんでいたゲーム以外の趣味や活動に、あまり興味がなくなりましたか?
6. ゲームをすることによって、健康や生活習慣が乱れているにも関わらず、ゲームをやめられませんか?
問題継続/エスカレート
7. ゲームのやりすぎが原因で、学校の成績が落ちたり、仕事に遅刻したり、人間関係が悪化したりするなど、問題が起きていることに気づいていますか?
8. 問題が起きているにも関わらず、ゲームをする時間やお金を減らすことが難しいですか?
9. 問題が悪化しているにも関わらず、ゲームを続ける、あるいはゲームに費やす時間やお金が増えている傾向がありますか?
期間と影響
10. 上記のようなゲームに関する行動パターンが、過去12ヶ月にわたって続いていますか?
11. ゲーム行動によって、あなたの日常生活(学業、仕事、家庭、社会活動など)に著しい支障が出ていますか?
12. ゲーム行動によって、本人または周囲の人が、精神的な苦痛(イライラ、不安、落ち込みなど)を感じていますか?

チェック結果の目安(これはあくまで目安です)

  • 「はい」が3~5個:ゲームとの関わり方を見直す必要があるかもしれません。
    簡易チェックリストではありますが、気になる項目が多い場合は、ゲーム時間や内容を意識的にコントロールしてみましょう。
    必要であれば、身近な人に相談したり、情報収集を始めたりすることをお勧めします。

  • 「はい」が6個以上:ゲーム行動症の可能性が考えられます。
    特に、コントロール障害、優先傾向、問題継続といった核となる項目(1~9)に多く当てはまり、かつそれが長期間続き(10)、日常生活に支障(11, 12)が出ている場合は、専門機関に相談することを強くお勧めします。

このチェックリストは、あくまで自己評価の一助とするためのものです。
正確な診断や適切なアドバイスは、専門家から受けることが大切です。

ゲーム行動症の治し方・治療法

ゲーム行動症は、適切な治療とサポートによって回復が可能な疾患です。
治療の目標は、ゲームを完全にやめることだけではなく、ゲームとの健全な付き合い方を身につけ、失われた日常生活の機能を取り戻すことです。
治療法は多岐にわたり、専門機関での治療と、家庭でできる対応策の両輪で進めることが重要です。

専門機関での治療

ゲーム行動症の治療は、主に精神科や心療内科、または依存症専門の医療機関や相談機関で行われます。
主な治療アプローチは以下の通りです。

  • 認知行動療法(CBT): 現在最も有効とされている心理療法の一つです。
    ゲームに対する考え方(認知)や、ゲーム行動のパターンを客観的に分析し、非適応的な考え方や行動をより健康的で建設的なものに変えていくことを目指します。
    ゲームに没頭するきっかけとなる思考や感情に気づき、それに対する対処法を学びます。
    また、ゲーム以外の活動で楽しみを見つける方法や、ストレスへの対処法なども学びます。
    個人セッションだけでなく、グループ療法として行われることもあります。

  • 家族療法: ゲーム行動症は、本人だけでなく家族にも大きな影響を与えます。
    家族療法では、家族全体でゲーム行動症について理解を深め、本人への接し方や、家族間のコミュニケーションを改善することを目指します。
    家族が適切なサポートを提供できるようになることは、本人の回復にとって非常に重要です。

  • 薬物療法: ゲーム行動症自体に特化した薬物療法は確立されていませんが、併存する精神疾患(うつ病、不安障害、ADHDなど)がある場合には、それらの症状を軽減するために薬が処方されることがあります。
    これにより、ゲーム行動症の治療を進めやすくなる場合があります。

  • 入院治療: 重症の場合や、合併症がある場合、外来治療が難しい場合などには、専門医療機関での入院治療が検討されることがあります。
    集中的な治療環境の中で、ゲームから離れた生活リズムを取り戻し、心理療法やリハビリテーションを行います。

  • 自助グループ: ゲーム行動症や他の依存症からの回復を目指す人々が集まり、経験を共有し、互いに支え合うグループ活動です。
    専門家による治療と並行して、あるいは治療後の回復を維持するために有効な方法です。

家庭でできる対応策(大人・子供別)

専門機関での治療と並行して、家庭での理解とサポートは不可欠です。
本人だけでなく、家族も一緒に対策に取り組む姿勢が大切です。

共通の対応策

  • ゲーム以外の趣味や活動を見つけるサポート: ゲーム以外に興味を持てることや、達成感を感じられる活動を見つけられるよう、一緒に考えたり機会を作ったりする。
    スポーツ、音楽、アート、ボランティアなど、様々な選択肢を提案してみましょう。

  • 規則正しい生活リズムを整える: 睡眠時間、食事時間などを決め、昼夜逆転などを改善する。
    家族で協力して、健康的な生活習慣を取り戻すことを目指す。

  • 家族とのコミュニケーションを増やす: ゲーム以外の話題で話をする時間を持つ。
    本人の悩みや気持ちに耳を傾け、安心できる関係性を築く。
    ただし、ゲームを巡る直接的な問い詰めや非難は避けるようにする。

  • ゲームとの距離を置くための環境調整: ゲーム機を共有スペースに置く、寝室に持ち込まない、スマホの利用時間を見直すなど、物理的にゲームから離れやすい環境を整えることも有効です。

子供への対応策

  • ゲーム時間や場所のルールを明確にする: 親子で話し合い、ゲームをしても良い時間帯、一日の合計時間、ゲームをする場所などのルールを具体的に決める。
    ルールは強制ではなく、なぜそのルールが必要なのかを説明し、本人の納得を得るように努める。

  • ルールを守れたら褒める: 小さな成功体験を褒めることで、本人の自信に繋がり、ゲームとの向き合い方を変えるモチベーションになる。

  • 家族で一緒に楽しめる活動を取り入れる: ゲーム以外の共通の楽しみを見つける。
    一緒に外出する、料理をする、映画を見るなど、家族の絆を深める時間を作る。

  • 親自身がゲームとの付き合い方を見直す: 親自身が過度にゲームやスマホを利用している場合、子供に説得力がありません。
    親も一緒にメディアとの健全な距離感を学ぶ姿勢が大切です。

  • 学校との連携: 学校の先生に状況を伝え、連携しながらサポート体制を築くことも有効です。

大人への対応策

  • 目標設定と達成計画: ゲーム以外の現実世界での目標(仕事、健康、人間関係など)を設定し、それを達成するための具体的な計画を立てる。

  • 専門機関への相談をためらわない: 大人の場合、自分で専門機関にアクセスすることが重要です。
    恥ずかしい、情けないといった気持ちから相談をためらわず、病気として捉えて治療を受ける勇気を持つことが回復への第一歩です。

  • 信頼できる友人や家族に話す: 一人で抱え込まず、信頼できる人に状況を打ち明けることで、精神的な負担が軽減され、サポートを得やすくなります。

  • ストレス対処法を見つける: ゲーム以外で、ストレスを解消したりリフレッシュしたりする方法を見つける。
    運動、趣味、マインドフルネスなど、自分に合った方法を探す。

対応する上での注意点

  • 頭ごなしに否定しない: ゲームを完全に否定したり、本人の人格を否定したりするような言動は、かえって反発心を招き、問題を悪化させる可能性があります。
    本人が抱える困難やゲームに逃避する背景にある気持ちを理解しようとする姿勢が大切です。

  • ゲームを取り上げるだけでは解決しない: ゲーム機を没収したり、アカウントを削除したりするだけでは、問題の根本的な解決にはなりません。
    本人のゲームへの依存の背景にある心理的な問題や生活習慣の乱れに対処する必要があります。

  • 本人の意思も重要: 回復には本人の「変わりたい」という気持ちが不可欠です。
    家族が一方的にコントロールしようとするのではなく、本人が治療や変化の必要性を認識し、自ら行動を起こせるようサポートすることが重要です。

ゲーム行動症の回復には時間がかかることが多く、一進一退を繰り返すこともあります。
諦めずに、根気強くサポートを続けることが大切です。

ゲーム行動症に関するよくある質問

ゲーム行動症について、多くの方が疑問に思われる点にお答えします。

ゲーム依存症のサインは?

ゲーム依存症(ゲーム行動症)の主なサインは、WHOの診断基準にも示されている
「ゲームに関する行動のコントロールができない」「ゲームを生活の他の優先事項よりも優先する」「問題が起きているにも関わらずゲームを続ける、またはエスカレートする」という3つの行動パターンです。
これらに加えて、
睡眠不足、食欲不振、眼精疲労などの身体症状や、
イライラ、怒りやすさ、無気力、引きこもりなどの精神的・行動的な変化も重要なサインです。

これらのサインは、ゲームのプレイ時間だけでなく、ゲーム以外の活動への興味の喪失、学業や仕事への影響、人間関係の変化、経済的な問題など、様々な側面で現れることがあります。
これらの変化に気づいたら、ゲーム行動症の可能性を疑い、注意深く様子を見たり、専門家に相談したりすることが大切です。

1日何時間ゲームやったらゲーム依存症になる?

ゲーム行動症の診断は、単にゲームをプレイする時間だけで決まるものではありません。
重要なのは、ゲームをプレイする時間そのものよりも、
ゲーム行動を自分でコントロールできるか、他の大切な活動よりもゲームを優先するか、問題が起きているのにやめられないかといった「行動パターン」です。

例えば、毎日数時間ゲームをしていても、学業や仕事に支障がなく、健康的な生活を送り、他の活動も楽しめているなら、ゲーム行動症とは診断されません。
一方で、1日数時間でも、それが原因で寝不足が続き、学校に遅刻したり、家族との会話がなくなったりといった問題が生じている場合は、時間の長さに関わらずゲーム行動症のサインかもしれません。

もちろん、長時間ゲームをプレイしている人は、コントロールを失いやすい傾向や、他の活動を犠牲にしている可能性が高いため、リスクは高いと言えます。
しかし、診断には時間だけでなく、前述の診断基準に照らして、本人の行動パターンや日常生活への影響を総合的に評価する必要があります。

ゲームのやり過ぎによる症状は?

ゲームのやり過ぎは、様々な身体的、精神的、社会的な症状を引き起こす可能性があります。
主な症状としては、

  • 身体的症状: 睡眠不足による日中の眠気や疲労感、不規則な食事による体重の変化、眼精疲労、頭痛、肩こり、腱鞘炎、エコノミークラス症候群のリスク増加など。

  • 精神的・行動的症状: イライラ、怒りっぽくなる、落ち着きのなさ、無気力、憂鬱感、不安感、引きこもり、嘘をつく、約束を破る、現実逃避、攻撃的な言動など。

  • 社会生活への影響: 学業成績の低下、遅刻や欠席の増加、失職、家族や友人との関係悪化、経済的な問題(課金など)、社会からの孤立など。

これらの症状は、ゲームのやり過ぎが原因で生じる可能性があり、ゲーム行動症のサインとして現れることもあります。
これらの症状が見られる場合は、ゲームとの付き合い方を見直したり、必要であれば専門家に相談したりすることが重要です。

まとめと専門機関への相談

ゲーム行動症は、WHOにも認定された疾患であり、ゲーム行動をコントロールできなくなり、日常生活に深刻な支障をきたす状態です。
単なるゲームの趣味や習慣の範疇を超え、本人の健康や人生に多大な影響を及ぼす可能性があります。

ゲーム行動症の主な症状は、ゲームに関する行動のコントロール障害、ゲームを他の大切なことよりも優先する傾向、そして問題が発生してもゲームを続けるまたはエスカレートするという3つの核となる行動パターンです。
これらに加えて、睡眠不足や身体の痛みといった身体的症状、イライラや無気力、引きこもりといった精神的・行動的なサインが見られます。
これらの症状は、学業や仕事、人間関係、経済状況など、社会生活のあらゆる側面に悪影響を及ぼします。

ゲーム行動症の原因は、脳の機能や心理状態、家庭や社会環境など、多様な要因が複雑に絡み合っています。
そして、放置すると問題はさらに深刻化する可能性があります。

もし、ご自身やご家族にこのようなゲーム行動症の症状やサインが見られる場合、一人で悩まず、早期に専門機関に相談することが非常に重要です。
簡易チェックリストで気になる点があった場合も、専門家の診断を受けることをお勧めします。

ゲーム行動症は、認知行動療法などの心理療法や、必要に応じた薬物療法、家族療法など、専門的な治療によって回復が期待できます。
また、家庭での理解あるサポートや、ゲーム以外の活動を見つける努力なども回復を後押しします。

相談できる専門機関としては、精神科や心療内科、依存症専門医療機関、精神保健福祉センター、保健所などがあります。
まずは、お住まいの地域の精神保健福祉センターなどに相談してみるのも良いでしょう。
専門家は、適切な診断を行い、一人ひとりの状況に合わせた治療計画やサポート方法を提案してくれます。

ゲーム行動症は、本人の意思の弱さや性格の問題ではなく、治療が必要な病気です。
勇気を出して一歩踏み出すことが、回復への道を切り開きます。

免責事項:本記事は、ゲーム行動症に関する一般的な情報提供を目的としています。
個々の症状や状況については、必ず専門の医療機関や相談機関にご相談ください。
本記事の情報に基づいて行う判断や行動によって生じた結果については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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