自己愛性パーソナリティ障害の主な症状とは?特徴と見分け方を解説

自己愛性パーソナリティ障害(NPD)は、自己の重要性に対する誇大な感覚、賞賛への根強い欲求、共感性の欠如を特徴とする精神障害です。
この障害を持つ人は、自分は特別で優れていると信じ込み、他者を利用したり見下したりする傾向が見られます。

自己愛性パーソナリティ障害の症状は多岐にわたり、周囲との関係性や日常生活に大きな影響を及ぼします。
この記事では、自己愛性パーソナリティ障害の主な症状について、診断基準や具体的な言動・行動の特徴、原因、タイプ、恋愛傾向などを詳しく解説します。
ご自身や周囲の方に当てはまる言動が見られる場合、それは専門機関への相談を検討するきっかけとなるかもしれません。

自己愛性パーソナリティ障害は、パーソナリティ障害と呼ばれる精神疾患の一種です。
パーソナリティ障害とは、その人のパーソナリティ(ものの見方、感じ方、対人関係の持ち方などが偏っていて、多くの状況で一貫しており、本人が苦痛を感じるか、または社会生活に支障をきたしている状態)が、一般的に想定される状態から著しく偏っているものを指します。

パーソナリティ障害はいくつかのクラスターに分類されますが、自己愛性パーソナリティ障害は、演技性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害と同じく、「情緒的で、目立ちたがり屋で、移り気な」クラスターBに分類されます。
これらの障害を持つ人々は、対人関係において困難を抱えることが多いという特徴があります。

自己愛性パーソナリティ障害を持つ人は、内面には揺るぎない自己肯定感があるように見えますが、実際には非常に傷つきやすく、他者からの評価に強く依存していることが多いと考えられています。
この障害は、一般人口の約1%〜6%に見られるとされており、男性にやや多い傾向があります。

自己愛性パーソナリティ障害の症状概要

自己愛性パーソナリティ障害の症状は、主に自己評価、他者との関係性、感情のコントロールといった側面に現れます。
中心的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 自己の重要性や才能、業績を過大評価する誇大性
  • 絶え間ない称賛や特別な扱いを求める強い欲求
  • 他者の感情やニーズに対する共感性の著しい欠如
  • 傲慢で特権的な態度
  • 他者を利用したり見下したりする対人関係のパターン
  • 批判に対する過敏な反応

これらの症状は、思春期後期または成人期早期までに始まり、様々な状況で一貫して見られます。
単に自信過剰であったり、一時的に自己中心的になったりするのとは異なり、これらの特徴が持続的で、本人の苦痛や周囲との軋轢を引き起こす原因となります。

DSM-5による自己愛性パーソナリティ障害の診断基準

自己愛性パーソナリティ障害の診断は、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)に記載されている基準に基づいて専門医が行います。
DSM-5では、以下の9つの特定的な症状のうち、5つ以上を満たすことが診断のために必要とされています。

これらの基準は、自己愛性パーソナリティ障害の核となる特徴を捉えています。
それぞれの症状について、詳しく見ていきましょう。

特徴的な9つの症状とは

DSM-5では、自己愛性パーソナリティ障害の診断基準として、以下の9つの項目が挙げられています。
これらのうち、5つ以上を満たし、それが様々な状況で一貫して見られ、臨床的に意味のある苦痛や機能障害を引き起こしている場合に診断されます。

誇大性(空想または行動における)

これは、自己愛性パーソナリティ障害の最も顕著な特徴の一つです。
実際の実績や能力に見合わない、あるいはそれ以上に自分を大きく見せる傾向があります。
例えば、仕事で平均的な成果しか上げていないにも関わらず、自分が会社の将来を左右する重要な存在であるかのように振る舞ったり、わずかな成功体験を大げさに語ったりすることがあります。
この誇大性は、単なる自慢ではなく、内面にある不安定な自己評価を補うための防御機制であると考えられています。
行動としては、自分の地位や才能をアピールするために高価なものを見せびらかしたり、自分がいかに忙しいか、重要な人物とコネがあるかなどを強調したりすることが含まれます。

限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている

自己愛性パーソナリティ障害を持つ人は、現実離れした壮大な空想の世界に浸りがちです。
自分は将来、歴史に名を残すような偉業を成し遂げる、圧倒的な権力を手に入れる、天才的な才能を発揮する、非の打ちどころのない美しさを持つ、あるいは映画のような理想的な愛を経験するなどといった、非現実的な目標や願望に強く囚われています。
これらの空想は、現実の自分と理想の自分とのギャップを埋める役割を果たしているのかもしれません。
彼らはこれらの空想を現実と混同し、周囲の人がその空想通りの自分を認めないことに強い不満を感じることがあります。

自分は「特別」であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達(あるいは施設)だけが理解できる、または関係を持つべきだと信じている

自分自身を非常に特別な存在だと考え、一般の人々とは異なると信じています。
そのため、自分を理解できるのは、同等に特別であるか、高い地位や名声を持つ人々だけであると固く信じています。
普通の人々や一般的な組織とは関わりたくないという願望を持ち、自分にふさわしいのはエリート集団だけだと考えがちです。
友人やパートナーを選ぶ際も、相手の社会的地位や名声、外見などを重視し、自分を引き立ててくれるかどうかで判断することがあります。

過剰な賛美を求める

自己愛性パーソナリティ障害を持つ人は、他者からの賛美や称賛を過剰に求めます。
これは、彼らの自己評価が内面から来るものではなく、他者からの評価に大きく依存しているためです。
常に自分が注目され、褒められることを期待しており、それが得られないと強い不満や怒りを感じます。
会話では自分の功績や能力を繰り返し語り、相手に褒められるように仕向けたり、SNSで自分の優位性を示す投稿を頻繁に行ったりするなど、様々な方法で賛美を得ようとします。
賛美は彼らにとって、自己価値を維持するための燃料のようなものです。

特権意識、すなわち、特別に有利な計らい、または自分の期待に合わせた自動的な服従を不合理に期待する

自分が特別な存在であるという信念から、当然のように特別扱いされるべきだと考えます。
行列に並ばずに済む、ルールを破っても許される、自分の要望はすぐに聞き入れられるべきだ、といった不合理な期待を抱いています。
他者が自分の期待通りに行動しないと、強い怒りや苛立ちを感じます。
これは、彼らが自分と他者を対等な人間としてではなく、自分が優位に立つべき関係性として捉えていることの表れです。
周囲の人が自分の特権意識を受け入れない場合、彼らはそれを自分への侮辱と捉え、攻撃的な態度をとることがあります。

対人関係で相手を不当に利用する、すなわち、自分自身の目的を達成するために他人を利用する

他者の感情やニーズに共感する能力が低い(後述)ため、他者を自分自身の目的を達成するための道具として見ることがあります。
自分の利益や願望を満たすために、平気で嘘をついたり、操作したり、利用したりします。
例えば、仕事で昇進するために同僚を手柄を横取りしたり、金銭的な援助を得るために友人や家族を感情的に操作したりすることがあります。
彼らにとって他者は、自分を引き立てるか、利用できるか、あるいは脅威となるかのいずれかであり、その人の人間性そのものに関心を持つことは稀です。

共感の欠如:他人の気持ちおよびニーズを認識しようとしない、またはそれに気づこうとしない

これは自己愛性パーソナリティ障害の最も苦痛な症状の一つです。
他者の感情や立場に立って物事を考えることが極めて苦手、あるいは全くできません。
他者が苦しんでいてもその感情に気づかなかったり、気づいても関心を示さなかったりします。
例えば、パートナーが悩みを打ち明けても、自分の話にすり替えたり、相手の気持ちを無視して自分の意見を押し付けたりします。
他者のニーズを理解できないため、人間関係は一方的になりがちで、周囲の人は彼らと一緒にいると感情的に消耗してしまいます。
この共感性の欠如は、彼らが他者を利用したり傷つけたりすることに罪悪感を感じない理由の一つでもあります。

しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む

自己愛性パーソナリティ障害を持つ人は、他者の成功や幸福に対して強い嫉妬心を抱きやすい傾向があります。
自分よりも優れた点を持つ他者を見ると、それを脅威と感じ、その人を貶めようとすることがあります。
同時に、自分が特別な存在であるという信念から、他者も自分に嫉妬しているに違いないと不合理に思い込むことがあります。
これは、彼らの世界観において、自分は常に中心であり、他者は自分に対して何らかの感情(賞賛か嫉妬か)を抱いているという強い確信があるためです。

尊大で傲慢な行動、または態度

彼らの言動や態度は、しばしば尊大で傲慢に映ります。
会話では相手を見下すような態度をとったり、自分の意見だけが正しいと譲らなかったりします。
上から目線で他者に指示をしたり、自分の知識や経験がいかに優れているかをひけらかしたりすることも多いです。
服装や持ち物についても、自分の社会的地位や富を誇示するかのような高価なものを好む傾向があります。
これらの態度は、彼らの内面にある優越感を外面に表現したものであり、周囲に威圧感や不快感を与えることがあります。

これらの9つの症状のうち、5つ以上を満たしていることがDSM-5における自己愛性パーソナリティ障害の診断基準となります。
ただし、これらの症状が見られるからといって必ずしも自己愛性パーソナリティ障害であるとは限りません。
診断は、個人の発達歴や現在の状況を総合的に評価できる精神科医や心理専門職によってのみ行われるべきです。

自己愛性パーソナリティ障害の具体的な言動・行動の特徴

DSM-5の診断基準に加えて、自己愛性パーソナリティ障害を持つ人の日常生活における具体的な言動や行動には、いくつかの特徴的なパターンが見られます。
これらは、周囲の人が「この人は他の人と何か違う」と感じるポイントとなることが多いです。

傲慢な態度と支配的な言動

彼らはしばしば、自分が他者よりも優れているという前提で物事を考え、話します。
会話の主導権を握ろうとし、相手の話を途中で遮ったり、自分の話にすり替えたりすることが頻繁にあります。
命令口調になったり、相手の意見を頭ごなしに否定したりすることも少なくありません。
これは、彼らが他者を対等な存在として尊重することが苦手であることの表れです。
特に、自分より立場が下だと認識した相手に対しては、露骨に傲慢な態度をとることがあります。

批判や失敗への過敏性

内面に不安定な自己評価を抱えているため、わずかな批判や否定的な評価にも非常に過敏に反応します。
批判されると、激しく怒って反論したり、批判した相手を攻撃したりするか、あるいは逆にひどく落ち込んで引きこもってしまうこともあります。
失敗を認められないため、失敗の原因を他者や環境のせいにすることも頻繁です。
彼らにとって批判や失敗は、自分の誇大な自己イメージを傷つける最大の脅威となります。

話が通じないと感じるコミュニケーション

彼らとのコミュニケーションは、しばしば一方的で疲れるものになりがちです。
自分の考えや意見を押し付け、相手の感情や論理に耳を傾けようとしません。
議論になっても、自分の正当性を主張することに固執し、事実を歪曲したり、論点をすり替えたりすることもあります。
相手が感情的に訴えかけても、共感を示さず、冷淡な態度をとることがあります。
このようなコミュニケーションパターンは、周囲の人々に「何を言っても無駄だ」「話が通じない」という無力感を与えます。

特徴的な口癖や話し方

「私は〇〇だから特別」「普通の人とは違う」「あなたには分からないだろうけど」「私がどれだけ大変か分かっているのか」といった、自分がいかに優れていて、他者とは異なる特別な存在であるかを強調するような口癖が見られることがあります。
また、自分の業績や人脈、持ち物などについて、聞かれてもいないのに長々と語り、自分を大きく見せようとする話し方が特徴的です。

他者への共感性の欠如と搾取的な関係性

他者の感情や苦痛を理解し、共感する能力が著しく低いことが、彼らの対人関係における大きな課題です。
他者が困っていても助けようとしなかったり、他者の不幸を嘲笑したりすることさえあります。
彼らにとって人間関係は、自分が利益を得るための手段であり、相手を感情的に支えたり、対等なパートナーシップを築いたりすることは困難です。
そのため、友人や恋人、家族との関係は、彼らが一方的に搾取するような形になりやすく、周囲の人は疲弊して関係を断つことも少なくありません。

自己愛性パーソナリティ障害の女性に見られる特徴

自己愛性パーソナリティ障害は男性に多いとされていますが、女性にも見られます。
症状の現れ方に性差がある可能性も指摘されており、男性が権力や成功を誇示する「顕示型」に近い症状を示すことが多いのに対し、女性は外見への固執が強かったり、人間関係において巧妙な操作を行ったりする「脆弱型(隠れ自己愛)」に近い症状を示すことが多いと言われています。
例えば、美しさや若さに異常に執着したり、他者をコントロールするために陰湿なマウントをとったり、被害者ぶったりするといった特徴が見られることがあります。
しかし、これはあくまで傾向であり、個々の症状の現れ方は多様です。

自己愛性パーソナリティ障害のこれらの言動・行動の特徴は、周囲の人々に深刻な影響を与え、職場や家庭、友人関係におけるトラブルの原因となることが非常に多いです。

自己愛性パーソナリティ障害の原因

自己愛性パーソナリティ障害の原因は単一ではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
明確な「これ」といった原因は特定されていませんが、主に遺伝的な傾向と、幼少期から青年期にかけての環境要因が影響していると考えられています。

遺伝的要因と環境要因

パーソナリティ障害を含む多くの精神障害と同様に、自己愛性パーソナリティ障害にも遺伝的な素因が関与している可能性が指摘されています。
親や兄弟にパーソナリティ障害や特定の気質を持つ人がいる場合、発症リスクがわずかに高まることが研究で示唆されています。
しかし、遺伝だけで発症が決まるわけではなく、あくまでも「なりやすさ」の一部を説明する要因と考えられています。

環境要因、特に幼少期や発達期における養育環境は、自己愛性パーソナリティ障害の発症に大きく影響すると考えられています。

発達期における影響

幼少期における以下のような養育環境が、自己愛性パーソナリティ障害の発症リスクを高める可能性が指摘されています。

  • 過度の賞賛や甘やかし: 子供が実際には特別な才能や業績を持っていないにも関わらず、親が過剰に褒めたり、何でも許したりすることで、現実離れした誇大な自己イメージが形成されることがあります。
    「あなたは他の子とは違う」「あなたは一番だ」といったメッセージを繰り返し受け取ることで、自分は特別であるという認識が強化される可能性があります。
  • 不十分な関心や無視: 逆に、親からの愛情や関心が不足していたり、感情的なニーズが満たされなかったりした場合も、自己愛性パーソナリティ障害の発症につながることがあります。
    子供は、他者からの注目や賞賛を得ることでしか自分の価値を感じられないようになり、後に過剰な賛美欲求や共感性の欠如として現れることがあります。
  • 虐待やネグレクト: 身体的、精神的、性的虐待やネグレクトを受けた経験も、自己愛性パーソナリティ障害を含むパーソナリティ障害全般のリスク要因となります。
    不安定で危険な環境で育った子供は、自己を守るために他者を操作したり、感情をシャットダウンしたりといった対人関係のパターンを身につけることがあります。
  • 厳しすぎる、あるいは矛盾した養育: 親が非常に厳格であったり、あるいは日によって態度が大きく変わるなど矛盾した養育を行ったりした場合も、子供は安定した自己イメージを形成することが難しくなり、自己愛性パーソナリティ障害の素因が育まれる可能性があります。

これらの要因が単独で影響するわけではなく、複数の要因が組み合わさることで、自己愛性パーソナリティ障害のパーソナリティ特性が形成されていくと考えられています。
ただし、これらの養育環境で育った全ての人が自己愛性パーソナリティ障害になるわけではありません。
個々の子供の気質や、その他の保護要因(学校での良い人間関係など)も影響します。

自己愛性パーソナリティ障害のタイプ

自己愛性パーソナリティ障害は、その症状の現れ方によっていくつかのタイプに分類されることがあります。
代表的なものとして、「顕示型(外向型)」と「脆弱型(隠れ自己愛)」が挙げられます。
DSM-5ではこれらのサブタイプは正式な診断基準には含まれていませんが、臨床的には症状を理解する上で有用な概念です。

顕示型(外向型)の症状と特徴

顕示型(あるいは誇大型、厚顔型とも呼ばれます)は、自己愛性パーソナリティ障害の典型的なイメージに近いタイプです。
以下のような特徴が見られます。

  • 外面的な自信と傲慢さ: 堂々としており、自信満々に見えます。
    自分の能力や地位を公然と誇示し、他者を見下すような態度をとります。
  • 優越感と特権意識の強調: 自分は特別で優れていると信じて疑わず、周囲にもそう認めさせることを強く求めます。
    特別扱いを当然視します。
  • 大胆で攻撃的な言動: 自分の目的のためには他者を利用することをためらいません。
    批判されると激しく反論し、攻撃的になります。
  • 強い権力志向: 成功や権力を手に入れることに強いこだわりを持ちます。
    競争心が非常に強いです。
  • 低い共感性: 他者の感情やニーズへの関心が薄く、冷淡な態度をとることがあります。

このタイプは、外見的には非常に強そうに見えますが、内面には承認欲求や傷つきやすさを抱えていることがあります。

脆弱型(隠れ自己愛)の症状と特徴

脆弱型(あるいは繊細型、隠れ自己愛とも呼ばれます)は、顕示型とは対照的に、表面上は控えめであったり、内向的に見えたりするタイプです。
しかし、内面には顕示型と同様に誇大性や特権意識を秘めています。

  • 繊細で傷つきやすい: 批判や否定的な評価に対して非常に敏感で、深く傷つきやすいです。
    ささいなことにも過剰に反応し、被害者意識を持つことがあります。
  • 受動的攻撃性: 直接的な攻撃ではなく、皮肉や不機嫌な態度、あるいは意図的な無視といった受動的な方法で他者を操作したり、怒りや不満を表現したりします。
  • 内面的な誇大性: 表面上は謙虚に見えても、内面では自分は特別である、他の人とは違うといった誇大な空想に浸っています。
  • 他者への隠れた軽蔑や嫉妬: 表面上は愛想よく振る舞っても、内面では他者を見下していたり、成功した他者に強い嫉妬心を抱いていたりします。
  • 自己憐憫: 自分がいかに理解されないか、不当な扱いを受けているかなどを強調し、他者からの同情や特別な配慮を得ようとします。

脆弱型は、顕示型よりも見分けがつきにくいことがありますが、人間関係において同様に深刻な問題を引き起こす可能性があります。
どちらのタイプも、他者からの承認や賞賛を強く求め、共感性に欠けるという自己愛性パーソナリティ障害の核となる特徴は共通しています。

顕示型と脆弱型の特徴を比較すると、以下のようになります。

特徴 顕示型(外向型) 脆弱型(隠れ自己愛)
外見的な態度 自信満々、傲慢、目立ちたがり屋 控えめ、内向的、繊細に見える
自己評価 表面上は非常に高い 表面上は低く見えても、内面に誇大性を持つ
批判への反応 攻撃的に反論、怒り 深く傷つく、落ち込む、被害者意識を持つ
他者への態度 見下す、利用する、支配的 裏では軽蔑、嫉妬、受動的攻撃、操作的
承認欲求 公然と賞賛を求める 同情や特別な配慮を得ようとする
脆弱性の表出 ほとんど見せない、否定する 傷つきやすさや自己憐憫をアピールすることがある

これらのタイプは明確に分けられるものではなく、個人によって両方の特徴を併せ持っていたり、状況によって現れるタイプが異なったりすることもあります。

自己愛性パーソナリティ障害を持つ人の恋愛傾向

自己愛性パーソナリティ障害を持つ人の恋愛関係は、特有のパターンを示し、パートナーにとって非常に困難で苦痛を伴うものとなりがちです。
彼らの恋愛は、自己中心的なニーズを満たすことに焦点を当てているため、真の相互理解や対等なパートナーシップを築くことが難しいのです。

パートナーへの過度な期待と支配

恋愛の初期段階では、相手を理想化し、まるで完璧な存在であるかのように扱うことがあります。
これは、相手を通して自分の価値を高めようとする心理が働いているためです。
しかし、関係が進み、相手の人間的な欠点や自分にとって都合の悪い側面が見えてくると、一転して相手をこき下ろしたり(Devaluation)、無価値な存在であるかのように扱ったりします。
これは、彼らが現実の相手を受け入れることができず、理想のパートナー像とのギャップに耐えられないためです。

また、パートナーをコントロールしようとする傾向が非常に強いです。
相手の行動や友人関係、さらには考え方にまで干渉し、自分の思い通りにさせようとします。
これは、相手を自分の一部であるかのように考え、自分の支配下に置くことで安心感を得ようとするためです。
パートナーが自分の期待に応えられないと、激しく怒ったり、非難したり、あるいは感情的に距離を置いたりします。

関係性の継続における課題

自己愛性パーソナリティ障害を持つ人との長期的な関係は、多くの課題を抱えます。

  • 共感性の欠如によるすれ違い: パートナーが悩みや困難を抱えていても、彼らはその感情に寄り添うことができません。
    自分の問題や感情を優先し、パートナーの気持ちを無視したり、軽視したりします。
    これにより、パートナーは孤独感や無力感を感じやすくなります。
  • 一方的な要求と犠牲: 関係性は彼らのニーズを中心に回り、パートナーは常に彼らの期待に応え、犠牲を強いられることが多くなります。
    彼らは与えることよりも、受け取ることに関心が強いです。
  • 繰り返されるトラブルと破局: パートナーが彼らの言動に耐えられなくなり、関係を終わらせようとすると、彼らはパニックになったり、相手を繋ぎ止めようと一時的に態度を改めたりすることがあります。
    しかし、根源的な問題が解決されない限り、同じパターンのトラブルが繰り返され、関係は不安定になりやすいです。
  • ガスライティング: パートナーの感情や現実認識を否定し、「それはあなたの考えすぎだ」「そんなことは言っていない」などと嘘をついて、相手を混乱させ、自分の正気を疑わせるような言動(ガスライティング)を行うことがあります。
    これは、相手を支配下に置くための操作の一つです。

自己愛性パーソナリティ障害を持つ人との恋愛関係は、初期の強い魅力(理想化されている間)とは裏腹に、時間の経過とともにパートナーの自尊心を深く傷つけ、精神的に追い詰める可能性があります。

自己愛性パーソナリティ障害かもしれないと感じたら

ご自身や周囲の方の言動に、ここまで解説してきた自己愛性パーソナリティ障害の症状や特徴が多く当てはまる、あるいはこれらの特徴によって日常生活や対人関係に著しい困難が生じていると感じる場合、専門機関への相談を検討することが重要です。

診断は専門医へ

自己愛性パーソナリティ障害の診断は、DSM-5の診断基準に基づき、精神科医や臨床心理士などの専門家によってのみ行われるべきです。
インターネット上の情報やチェックリストによる自己診断は正確ではありません。
個人の生育歴、現在の状況、症状の持続性や重症度などを総合的に評価する必要があるため、必ず専門医の診察を受けてください。

受診の目安

以下のような状況は、専門家への相談を検討する目安となります。

  • ご自身について:
    周囲との関係がうまくいかず、孤立感や虚しさを感じることが多い。
    自分が特別な存在だと強く信じているが、現実とのギャップに苦しむことがある。
    批判されると激しく落ち込んだり、怒りを抑えられなかったりする。
    他人の気持ちが理解できず、人との深い関わりが持てないことに悩んでいる。
    満たされない承認欲求や、空虚感を抱えている。
    自分の言動によって他者を傷つけているかもしれないと感じるが、やめられない。
  • 周囲の人(家族、パートナー、友人など)について:
    その人の言動によって、常に傷つけられたり、利用されていると感じたりする。
    何を言っても話が通じず、感情的に疲弊してしまう。
    その人の傲慢さや共感性の欠如により、関係性を維持するのが困難になっている。
    その人の特権意識や支配的な態度に苦しめられている。

自己愛性パーソナリティ障害は、本人が自身の問題に気づきにくく、治療につながることが難しい場合もあります。
しかし、適切な診断と治療(主に精神療法)によって、症状を改善し、より安定した人間関係を築くことが期待できます。
周囲の人が困難を抱えている場合は、まずご自身が専門機関に相談し、適切な対処法やサポートについて助言を求めることも有効です。

まとめ

自己愛性パーソナリティ障害は、誇大な自己観、絶え間ない賛美欲求、共感性の欠如などを特徴とする精神障害です。
DSM-5の診断基準では、これらの特徴的な9つの症状のうち5つ以上が認められることで診断されます。
具体的な言動としては、傲慢さ、批判への過敏性、他者の利用、一方的なコミュニケーションなどが見られます。
原因は遺伝と幼少期の環境要因が複雑に絡み合っていると考えられており、養育環境が特に影響すると言われています。
症状の現れ方によって顕示型(外向型)と脆弱型(隠れ自己愛)に分けられることがありますが、どちらのタイプも人間関係に大きな困難をもたらします。
特に恋愛においては、パートナーを理想化・こき下ろし、支配しようとする傾向が見られ、関係性の継続が難しくなりがちです。

もしご自身や周囲の方にこれらの症状が多く当てはまり、それが日常生活や対人関係に苦痛や支障をもたらしていると感じる場合は、自己判断せず、必ず精神科医や専門心理士などの専門機関にご相談ください。
適切な診断と専門家によるサポートが、症状の理解と改善に向けた第一歩となります。


免責事項:
本記事は自己愛性パーソナリティ障害に関する情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。
ご自身の状態についてご心配な場合や、診断・治療をご希望の場合は、必ず医療機関にご相談ください。
本記事の情報に基づいて行われたいかなる行為に関しても、一切の責任を負いかねます。

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