なぜ自分を傷つけてしまう?自傷行為の原因と隠された本音

自傷行為とは、自分自身の身体を意図的に傷つける行為を指します。リストカットやオーバードーズ(薬物の過剰摂取)などがよく知られていますが、他にも様々な種類があります。自傷行為は、多くの場合、心の強い苦痛や困難な感情の表れであり、助けを求めるサインであると捉えられます。その原因は単一ではなく、個人の心理状態、生育環境、社会的な要因、そして精神疾患など、複雑に絡み合っています。
この記事では、自傷行為の原因について多角的に掘り下げ、その背景にある心理、具体的な行為の種類、そして最も重要な「やめたい」と思ったときの対処法や、周囲の人がどのように接すれば良いのかについて詳しく解説します。
自傷行為で悩んでいる方、身近な人が自傷行為をしている方にとって、理解の一助となれば幸いです。

自傷行為 原因の種類

自傷行為に至る原因は、一人ひとり異なります。しかし、大きく分けるといくつかの共通する要因が見られます。ここでは、主に心理的な要因、精神疾患との関連性、そして社会的・環境的な要因の3つに分けて、自傷行為の原因を探っていきます。これらの要因は独立しているわけではなく、互いに影響し合っていることがほとんどです。

心理的な原因

心の内に抱える様々な苦痛や葛藤が、自傷行為へと繋がることがあります。言葉で表現できない感情や、自分自身に対する複雑な思いが、身体を傷つけるという形で現れるのです。

感情の処理困難

自傷行為をする人の多くは、強い感情、例えば怒り、悲しみ、不安、恥、罪悪感などを適切に処理したり、言葉で表現したりすることに困難を感じています。感情が内側に溜め込まれ、行き場を失った結果、耐え難い苦痛となります。
自傷行為は、この溢れ出しそうな感情を一時的に「逃がす」ための手段、あるいは感情の波に飲み込まれそうな自分を「鎮める」ための手段として行われることがあります。身体的な痛みを感じることで、心の痛みが一時的に麻痺するような感覚が得られるためです。
感情をコントロールできないという感覚が、さらに苦痛を増大させる悪循環に陥ることも少なくありません。

自己否定や自己処罰の感情

自分には価値がない、自分はダメな人間だという強い自己否定感、あるいは過去の失敗や出来事に対する強い罪悪感から、自分自身を罰したいという衝動に駆られることがあります。自傷行為は、この自己処罰の感情を physical(身体的)な痛みとして表現する行為となり得ます。
「自分が悪いから、罰せられるべきだ」という歪んだ思考が根底にある場合、自傷行為によって一時的に罪悪感や自己否定感が軽減されるように感じることがあります。しかし、これは根本的な解決にはならず、むしろ自己肯定感をさらに低下させる結果となります。

孤独感と孤立

誰にも理解されない、一人ぼっちだという深い孤独感や、社会や特定のコミュニティ(学校、職場、家庭など)からの孤立も、自傷行為の原因となり得ます。自分の苦しみや悩みを分かち合える人がいないと感じるとき、その感情は行き場を失い、内攻して自分自身を傷つける方向に向かうことがあります。
また、孤立によって社会との繋がりが希薄になり、自分の存在価値を見失ってしまうことも、自傷行為に繋がる要因の一つです。
誰かに気づいてほしい、助けを求めているけれども、それを言葉にできない場合に、自傷行為が「見てほしい」「心配してほしい」という無意識のサインとして現れることもあります。

精神疾患との関連性

自傷行為は、特定の精神疾患の症状として現れることが少なくありません。これらの精神疾患によって引き起こされる感情の不安定さや思考の歪み、現実感の障害などが、自傷行為を誘発する直接的な要因となることがあります。

うつ病

うつ病は、持続的な気分の落ち込み、興味や喜びの喪失を主な症状とする精神疾患です。うつ病が重度になると、強い絶望感や無価値感に苛まれ、死を願う「希死念慮」が生じることがあります。
自傷行為は、この希死念慮の表れとして、あるいは耐え難い精神的な苦痛からの逃避や感情の麻痺を求めて行われることがあります。また、うつ病によって思考力が低下し、冷静な判断ができなくなることも、衝動的な自傷行為に繋がる要因となります。

境界性パーソナリティ障害

境界性パーソナリティ障害は、感情、対人関係、自己イメージ、行動の不安定さが特徴的なパーソナリティ障害です。激しい感情の波、見捨てられることへの強い不安、衝動的な行動(薬物乱用、過食、浪費など)、慢性的な空虚感などが現れます。
自傷行為は、境界性パーソナリティ障害の患者さんによく見られる行動の一つであり、耐え難い感情(特に怒りや悲しみ)を調整するため、空虚感を一時的に埋めるため、あるいは対人関係における苦痛を表現するためなど、様々な目的で行われます。衝動性が高いため、計画的ではなく突発的に自傷行為に及ぶことも多いとされています。

PTSDや解離性障害

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、生命の危機に関わるような強いトラウマ体験(虐待、事故、災害など)の後に発症する精神疾患です。トラウマとなった出来事のフラッシュバック、悪夢、過覚醒、回避行動などが症状として現れます。
解離性障害は、現実感の喪失、離人感、健忘、解離性同一症(多重人格)などが現れる障害で、しばしば重度のトラウマ体験と関連しています。
PTSDや解離性障害を抱える人は、フラッシュバックの苦痛や現実感のなさ、あるいは解離状態からの「覚醒」を求めて自傷行為を行うことがあります。身体的な痛みは、解離して曖昧になった自己の存在を再確認し、現実との繋がりを取り戻すための手段となる場合があります。

その他の精神疾患との関連

上記以外にも、自傷行為は様々な精神疾患と関連が見られます。例えば、摂食障害(特に過食嘔吐を繰り返すタイプ)では、過食や嘔吐といった行為自体が自分自身を傷つける行為と捉えられることがあります。また、統合失調症では、幻聴や妄想によって自傷行為を指示されたり、妄想的な苦痛から逃れるために自傷行為に及んだりするケースも報告されています。発達障害(ADHDやASDなど)の二次障害として、感情の調整が困難になったり、対人関係のストレスが高まったりした結果、自傷行為に至ることもあります。

社会的・環境的な原因

個人を取り巻く社会環境や過去の経験も、自傷行為のリスクを高める重要な要因です。ストレスフルな出来事や、安心できない生育環境などが、心の傷となり自傷行為の引き金となることがあります。

ストレスやトラウマ体験

いじめ、ハラスメント(パワーハラスメント、セクシャルハラスメントなど)、身体的虐待、精神的虐待、性的虐待といった耐え難いストレス体験や、親しい人との死別、大きな事故、災害などのトラウマ体験は、自傷行為の強力な引き金となります。これらの体験は心に深い傷を残し、前述したPTSDや解離性障害などの精神疾患の発症に繋がるだけでなく、直接的に感情の処理困難や自己否定感、孤独感などを引き起こし、自傷行為へと向かわせることがあります。
特に、子ども時代の虐待やネグレクトは、その後の人格形成や対人関係に大きな影響を与え、成人してからの自傷行為に繋がるリスクを高めることが知られています。

人間関係の問題

家族、友人、恋人、配偶者、職場の同僚など、様々な人間関係における問題も自傷行為の原因となり得ます。期待通りにならない関係、裏切り、拒絶、対立、孤立、依存といった問題は、強い精神的な苦痛を生み出します。
特に、自分が大切だと思っている人との関係がうまくいかないとき、その苦しみから逃れるため、あるいは相手に自分の苦痛を分かってもらいたいという思いから自傷行為に及ぶことがあります。
学校や職場でのいじめや排斥も、深刻な人間関係の問題であり、自傷行為の大きな原因となり得ます。

家庭環境の影響

育った家庭環境は、その後の人生や心の健康に深く関わります。機能不全家族(親がアルコール依存症、精神疾患、虐待的であるなど)、子どもへの適切な愛情やサポートの欠如(ネグレクト)、過度な干渉や期待、あるいは家族間の慢性的な不和がある環境では、子どもは安心感を得られず、感情の調整能力が育ちにくくなることがあります。
また、家庭内で自分の気持ちを表現することを抑圧されて育った場合、言葉以外の方法(自傷行為など)で感情を表現するようになることがあります。
安定した安心できる家庭環境で育つことは、自傷行為のリスクを低減する上で非常に重要です。

自傷行為の背景にある心理的な目的

自傷行為は、単に自分を傷つける衝動的な行動に見えるかもしれませんが、その行為の裏には、多くの場合、何らかの心理的な目的や機能が存在します。これらの目的を理解することは、自傷行為をする人の苦しみを理解し、適切なサポートを提供する上で重要です。自傷行為は、苦痛を和らげたり、現実から逃れたり、存在を確認したり、あるいは周囲にサインを送ったりするための、その人なりの「対処法」であると捉えることができます。

感情の鎮痛や解放

自傷行為の最も一般的な目的の一つは、心の耐え難い苦痛を和らげることです。強い怒り、悲しみ、不安、絶望感といった感情は、時に身体的な痛みよりも辛く感じられることがあります。自傷行為によって身体的な痛みを感じることで、心の痛みに注意が向きにくくなり、一時的に心が「楽になる」感覚が得られます。これは、脳内で痛みを抑えるための物質(エンドルフィンなど)が分泌されることによる生理的な反応とも関連があると考えられています。
また、溜まりに溜まった感情が爆発しそうになったとき、自傷行為がそのエネルギーを「解放する」手段となることもあります。血を見たり、傷つけたりすることで、内側に抑圧していた感情が外に出たような感覚を得る人もいます。

現実からの逃避

耐え難い現実や苦痛な思考から一時的に逃れるために、自傷行為が行われることもあります。強い痛みや出血に注意が集中することで、目の前の苦痛な現実や頭の中で繰り返されるネガティブな思考から意識をそらすことができます。また、自傷行為の衝撃によって解離状態に入りやすくなることもあり、これにより現実感が薄れ、苦痛から一時的に隔絶された感覚を得ることができます。これは、まるで痛みという現実の感覚で、心の苦痛や思考の現実からシャットダウンするようなものです。

生きている実感を得る

慢性的な空虚感や無感覚さに苦しんでいる人にとって、自傷行為は「生きている」ことを実感するための手段となることがあります。特に、境界性パーソナリティ障害などで見られる慢性的な空虚感は、自分の存在が曖昧に感じられたり、現実感が乏しくなったりする感覚を伴うことがあります。このようなとき、身体的な痛みや血を見るという強い刺激は、「自分がここに存在している」という感覚を一時的に取り戻させてくれます。痛みや血の生々しさが、希薄になった自己の輪郭を明確にしてくれるのです。

周囲へのサイン

自傷行為は、言葉で自分の苦しさを表現することが難しい場合に、周囲への非言語的なサインとして現れることがあります。「私はこれほど苦しんでいる」「助けが必要だ」という切羽詰まった状況を、傷という目に見える形で伝えようとするのです。これは、必ずしも注目を引きたい、構ってほしいという単純な願望ではなく、むしろ「このままではどうにかなってしまいそうだ」「誰かに気づいて介入してほしい」というSOSに近い意味合いを持つことが多いです。
しかし、周囲がこのサインを適切に受け取れず、非難したり無視したりすると、さらに孤立感を深め、自傷行為を繰り返す原因となってしまう可能性があります。

自傷行為の主な種類

自傷行為には様々な形があります。一般的に知られているものから、一見自傷行為とは気づかれにくいものまで、その種類は多岐にわたります。ここでは代表的な自傷行為をいくつか紹介します。

リストカット

最も広く知られている自傷行為の一つです。手首や腕の内側などを、カッターナイフ、剃刀、ガラス片などで傷つける行為です。傷の深さや場所は人によって異なり、浅く繰り返し傷つける場合もあれば、深く傷つけてしまう場合もあります。リストカットは、前述したような感情の鎮痛、現実からの逃避、存在確認、周囲へのサインなど、様々な目的で行われます。目に見える傷が残ることが多く、周囲に気づかれやすい自傷行為です。しかし、傷跡が残ることで、さらなる自己否定感に繋がることもあります。

オーバードーズ(OD)

処方された薬や市販薬などを、治療に必要な量を超えて大量に服用する行為です。これは、薬物によって意識を朦朧とさせたり、眠り込んだりすることで、現実の苦痛から逃れることを目的とすることが多い自傷行為です。しかし、薬物の種類や量によっては、意識障害、臓器不全、呼吸停止など、重篤な健康被害を引き起こし、死に至る危険性も非常に高い行為です。救急搬送されるケースも多く、生命に関わる深刻な自傷行為です。

その他の行為(叩く、抜毛など)

リストカットやOD以外にも、以下のような様々な自傷行為があります。

行為の種類 具体的な行動 心理的な目的の例
自分を叩く 壁や硬いものに頭を打ち付ける、自分の体を拳で叩く 怒りや自己嫌悪の表現、現実感の確認
髪の毛を抜く 髪の毛を衝動的に引き抜く(抜毛症として扱われる場合も) 不安やストレスの軽減
火傷させる タバコの火やライターなどで皮膚を焼く 強い痛覚刺激による感情の鎮痛、自己処罰
つねる、かきむしる 自分の皮膚を強くつねったり、爪でひっかいたりする 軽い痛覚刺激による感情の鎮痛、注意転換
過食・排出行動 大量の食物を一気に食べる、嘔吐する、下剤を乱用する 自己処罰、感情の処理困難、現実からの逃避
危険な行動 無謀な運転、危険な場所での活動、不特定多数との性行為 自己破壊的な衝動、スリルによる空虚感の埋め合わせ、現実逃避

これらの行為は、外部からは自傷行為と認識されにくいこともあります。しかし、どの行為も自分自身の身体や健康を意図的に損なうものであり、背景には深い苦痛や困難な心理状態が存在しています。

自傷行為をやめたい場合の対処法

自傷行為は「やめたい」と思っていても、衝動や習慣によって繰り返してしまうことが少なくありません。しかし、適切な対処法を学び、専門家のサポートを得ることで、自傷行為を減らしたり、完全にやめたりすることは可能です。ここでは、セルフケアの方法と専門家への相談について解説します。

セルフケアの方法

自傷行為の衝動に駆られたとき、自傷行為以外の方法でその衝動をやり過ごしたり、感情を処理したりするスキルを身につけることが重要です。これを「コーピングスキル」と呼びます。以下は、自傷行為に代わる具体的なセルフケアの方法の例です。

  • 代替行為を行う:
    • 強い痛覚刺激を得る:氷を強く握りしめる、冷たいシャワーを浴びる、輪ゴムを強く弾く(ただし皮膚を傷つけない程度に)。
    • 別の刺激で注意をそらす:大音量で音楽を聴く、辛いものを食べる、ミントなどの強い香りを嗅ぐ。
    • 体を動かす:軽い運動、ストレッチ、散歩。
  • 感情を安全に表現する:
    • 書く:ジャーナリング(ノートに感情や思考を書き出す)、手紙を書く(実際に送らない)。
    • 描く:絵を描く、落書きをする。
    • 叫ぶ:カラオケや、人がいない場所で大声で叫ぶ。
    • 泣く:感情を我慢せず、泣きたいだけ泣く。
  • リラクゼーションを取り入れる:
    • 深呼吸:ゆっくりと深く呼吸をする。
    • 瞑想:心を落ち着かせる練習をする。
    • 筋弛緩法:体の各部分の筋肉を順番に緊張させてから緩める。
    • アロマテラピー:好きな香りを嗅ぐ。
    • 温かい飲み物を飲む:ハーブティーなど。
  • 問題解決の方法を考える:
    • 自傷行為の引き金となった状況や感情を分析し、別の対処法を考える。
    • 信頼できる人に相談してみる。
  • 安全な環境を作る:
    • 衝動が強いときは、カッターナイフや薬など、自傷行為に使いうるものを周囲から一時的に遠ざける。
    • 安全な場所に移動する。
  • サポートネットワークを活用する:
    • 信頼できる友人や家族に連絡を取り、そばにいてもらう、あるいは話を聞いてもらう。
    • 自助グループに参加する。

これらのセルフケアの方法は、練習を重ねることで効果を発揮しやすくなります。自分に合った方法を見つけることが大切です。

専門家への相談

自傷行為は、しばしば精神疾患や深い心理的な問題と関連しているため、一人で抱え込まず、専門家のサポートを得ることが非常に重要です。専門家は、自傷行為の背景にある原因を診断し、適切な治療計画を立ててくれます。

精神科や心療内科

精神科や心療内科では、医師による診察を受けられます。自傷行為の背景にうつ病、境界性パーソナリティ障害、PTSDなどの精神疾患がある場合、それらの疾患に対する診断と治療が行われます。必要に応じて、抗うつ薬、気分安定薬、抗不安薬などの薬物療法が処方されることがあります。薬物療法は自傷行為そのものを直接的に止めるわけではありませんが、関連する精神症状(例えば、うつ症状、激しい不安、衝動性など)を軽減することで、自傷行為の頻度や衝動を抑えるのに役立つ場合があります。また、医師は心理療法を勧めたり、他の専門機関を紹介したりすることもあります。

心理カウンセリング

臨床心理士や公認心理師といった心理専門家によるカウンセリングも有効です。カウンセリングでは、自傷行為に至る心理的な原因や感情、思考パターンなどをじっくりと探り、それらに対する対処法を一緒に学んでいきます。自傷行為に特化した心理療法も存在します。

  • 弁証法的行動療法(DBT: Dialectical Behavior Therapy): 特に境界性パーソナリティ障害の患者さんに有効とされる心理療法で、感情調節スキル、苦痛耐性スキル、対人関係スキル、マインドフルネスといった具体的なスキルを学び、自傷行為などの衝動的な行動をコントロールできるようになることを目指します。
  • 認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy): 自傷行為の引き金となる思考パターンや感情を特定し、それに対するより適応的な考え方や行動を身につけることを目指します。
  • トラウマに焦点づけた心理療法: PTSDなどトラウマが原因である場合、トラウマ処理に特化したEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などが用いられることがあります。

心理カウンセリングは、自傷行為の背景にある問題にじっくりと取り組み、根本的な解決を目指すための重要な手段です。

治療法(心理療法、薬物療法)

自傷行為に対する治療は、多くの場合、心理療法と薬物療法を組み合わせて行われます。

治療法 内容 主な目的
心理療法 個別カウンセリング、集団療法(DBTスキル訓練など) 自傷行為の引き金や目的を理解する、感情調節スキルや代替行動を習得する、対人関係やトラウマの問題に取り組む
薬物療法 抗うつ薬、気分安定薬、抗不安薬、抗精神病薬などの服用 背景にある精神疾患(うつ病、境界性パーソナリティ障害など)の症状を軽減する、衝動性や不安を抑える

治療は、自傷行為を完全にやめることだけでなく、自傷行為をする頻度や程度を減らすこと、そして何よりも本人が抱える心の苦痛を和らげ、より健康的な coping(対処)スキルを身につけ、 QOL(Quality of Life: 生活の質)を向上させることを目指します。治療には時間がかかる場合が多く、一進一退を繰り返すこともありますが、諦めずに専門家と共に取り組むことが大切です。

自傷行為をする人への適切な接し方

身近な人が自傷行為をしていると知ったとき、どのように接すれば良いのか戸惑うかもしれません。ショックを受けたり、心配になったり、あるいは怒りや戸惑いを感じたりすることもあるでしょう。しかし、非難したり、安易な励ましをしたりすることは、相手をさらに追い詰めてしまう可能性があります。ここでは、自傷行為をする人への適切な接し方について解説します。

理解と傾聴の姿勢

最も重要なのは、相手の苦しみを頭ごなしに否定したり、非難したりしないことです。「なぜそんなことするの?」「やめなさい!」といった言葉は、相手を孤立させ、さらに心を閉ざさせてしまいます。自傷行為は、本人にとってはその瞬間の苦痛を和らげるための必死の対処法であることを理解しようとする姿勢が大切です。

まずは、相手の話をじっくりと「傾聴」することから始めましょう。相手が話したくない場合は無理強いせず、ただそばにいる、存在を認めるといった形でも構いません。話を聞くときは、非 judgmental(価値判断をしない)、 empathetic(共感的)な態度で接することが重要です。「辛かったね」「苦しいんだね」と、相手の感情に寄り添う言葉をかけるようにしましょう。安易なアドバイスや、「大丈夫だよ」といった根拠のない励ましは、かえって相手を傷つけることがあります。相手が感じている苦しみや感情を「聞く」ことに徹しましょう。

サポートと支援の方法

自傷行為をする人へのサポートは、安全の確保と専門家への橋渡しが柱となります。

  • 安全の確保:
    • 自傷行為の衝動が強いとき、または実際に行為をした直後など、危険な状況にある場合は、まずは安全を確保することが最優先です。刃物や薬物など、自傷行為に使いうる危険なものを一時的に遠ざけるといった対応が必要になる場合もあります。ただし、これは本人の抵抗を招くこともあり、状況に応じた慎重な判断が必要です。
    • 生命に危険が及ぶ可能性がある場合(例:大量の出血、意識障害を伴うODなど)は、ためらわずに救急車を呼ぶ、医療機関に搬送するなど、緊急の対応を取ってください。本人の意思を尊重することも大切ですが、生命の安全が最優先です。
  • 専門家への相談を促す:
    • 自傷行為は専門的な知識に基づいたサポートが必要です。「一人で抱え込まず、一緒に専門家に相談してみない?」など、本人が精神科医や心理士に繋がれるように促しましょう。本人が抵抗する場合は、無理強いせず、まずは情報提供から始めるなど、本人のペースを尊重します。
    • 一緒に専門機関を探したり、予約の手伝いをしたりすることもサポートになります。
  • 情報収集と理解:
    • 自傷行為や関連する精神疾患について、正しい情報を学ぶことも大切です。インターネットや書籍などで情報を集めることで、相手の状況をより深く理解できるようになります。ただし、誤った情報や偏見に基づいた情報には注意が必要です。信頼できる情報源(医療機関のウェブサイト、公的な機関など)から情報を得るようにしましょう。
  • 孤立させない:
    • 自傷行為をする人は、孤立感を強く感じていることが多いです。常にべったりと一緒にいる必要はありませんが、「あなたは一人じゃないよ」「味方がいるよ」というメッセージを伝えることが大切です。定期的に連絡を取る、一緒に時間を過ごす(ただし、相手が嫌がることはしない)、共通の趣味などを通じて関わりを持つなど、緩やかな繋がりを保つようにしましょう。
  • 自分自身もケアする:
    • 身近な人が自傷行為を繰り返していると、支える側も精神的に疲弊してしまうことがあります。自分自身の心身の健康を保つことも非常に重要です。一人で抱え込まず、自分の信頼できる人や、必要であれば自分自身も専門家に相談するなどして、サポートを得るようにしましょう。共倒れにならないことが、長期的に相手を支える上で不可欠です。

自傷行為を止めるかどうかは、最終的には本人の意思にかかっています。周囲ができることは、その意思を尊重しつつ、回復に向けたサポートを提供することです。根気強く、しかし押し付けがましくなく、本人のペースを見守ることが大切です。

まとめ:自傷行為の原因理解と適切な支援へ

自傷行為は、見ている側にとっては理解し難く、衝撃的な行為かもしれません。しかし、この記事で見てきたように、その背景には複雑で多岐にわたる原因と、本人にとっての切実な心理的な目的が存在しています。自傷行為は、多くの場合、心の耐え難い苦痛や感情の処理困難、そして深い孤独感の表れであり、助けを求めるサインなのです。

自傷行為の原因は、心理的な問題(感情の処理困難、自己否定、孤独)、精神疾患(うつ病、境界性パーソナリティ障害、PTSDなど)、そして社会的・環境的な要因(ストレス、トラウマ、人間関係や家庭環境の問題)などが複雑に絡み合っています。これらの原因を理解することが、自傷行為をする人への共感的な眼差しを持つための第一歩となります。

もしあなたが自傷行為で悩んでいる、あるいはやめたいと思っているなら、一人で抱え込まないでください。自傷行為は克服可能です。そのためには、自傷行為以外の安全なコーピングスキルを学ぶセルフケアや、何よりも専門家のサポートを得ることが重要です。精神科や心療内科での診断・治療、心理カウンセリングでの心理療法(DBTやCBTなど)は、自傷行為の頻度を減らし、根本的な問題に取り組む上で非常に有効です。

また、もしあなたの身近な人が自傷行為をしているなら、非難せず、その人の苦しみに寄り添い、話を聞く姿勢を持つことが大切です。そして、安全を確保し、専門家への相談を促すなど、具体的なサポートを提供してください。同時に、支える側も自分自身のケアを忘れずに行いましょう。

自傷行為からの回復は、決して容易な道のりではないかもしれません。しかし、適切な理解と支援があれば、必ず前に進むことができます。希望を捨てず、一歩ずつ取り組んでいくことが何よりも大切です。

免責事項:この記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。自傷行為に関する悩みや問題を抱えている場合は、必ず医療機関や専門機関に相談してください。

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