性同一性障害とは?「体の性」と「心の性」の違いを解説

性同一性障害とは、生まれ持った身体の性と、本人が自覚する心の性(性自認)が一致しない状態を指します。
この不一致によって、社会生活を送る上で様々な困難や苦痛を感じることがあります。「自分は男性なのに女性として扱われる」「女性なのに男性として扱われる」といった違和感や苦痛は、当事者にとって非常に辛いものです。
かつては「性同一性障害(GID)」という診断名が一般的でしたが、現在は当事者の感覚や医学的な知見の進歩に伴い、「性別違和(Gender Dysphoria)」という言葉が使われることも増えています。この状態は病気ではなく、性の多様性の一つとして捉えられるようになってきています。
この記事では、性同一性障害(性別違和)について、その定義から原因、症状、診断、治療、そして周囲の理解とサポートまで、分かりやすく解説します。

身体の性と心の性が一致しない状態(性別違和)

性別違和(Gender Dysphoria)とは、文字通り「性別に違和感があること」を意味します。これは、自己の性自認と出生時の性別との間に生じる不一致に伴う、著しい苦痛や困難さの状態を指す医学・心理学的な用語です。
性別違和は、様々な形で現れます。例えば、出生時は女性と判定された人が、自分は男性だと強く感じている場合、自分の身体や、女性として扱われることに強い違和感や苦痛を感じることがあります。これは性別違和の典型的な例と言えるでしょう。この違和感や苦痛こそが、医学的・心理的なサポートが必要とされる根拠となります。

GIDから性別違和へ:診断名の変更について

かつて、この状態は主に「性同一性障害(Gender Identity Disorder; GID)」と呼ばれていました。しかし、「障害(Disorder)」という言葉が、性の多様性そのものを否定的に捉えたり、病気であるかのような誤解を招いたりする可能性があるという指摘が多くなされました。当事者や支援者からの声を受け、最新の精神疾患の診断基準であるDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)では、「性別違和(Gender Dysphoria)」という診断名が採用されました。この変更は、性自認そのものを「障害」とするのではなく、性自認と身体の性の不一致によって生じる「苦痛」や「機能障害」に焦点を当てるという、より適切な理解へのシフトを示しています。
ICD-11(国際疾病分類第11版)でも、「性の健康に関連する状態」というカテゴリーに分類され、精神疾患の章からは削除されました。これは、世界的にこの状態を病気としてではなく、医療的なケアが必要な状態として捉える方向に進んでいることを示しています。

性同一性障害の主な原因は?生まれつきではない?

性同一性障害(性別違和)の原因については、現在も研究が続けられていますが、特定の単一の原因が特定されているわけではありません。しかし、「生まれつきではない」という考え方は誤りであり、先天的な要因が関与している可能性が高いと考えられています。親の育て方や生育環境が原因となるという説には、医学的な根拠はありません。

医学的に特定された原因はありません

性同一性障害がなぜ生じるのか、その明確な原因はまだ完全には解明されていません。多様な要因が複雑に関係していると考えられています。遺伝的要因、脳の構造や機能の違い、出生前のホルモンの影響など、生物学的な側面が注目されています。一方で、社会文化的要因や心理的な要因も全く影響しないとは言い切れませんが、これらが直接の原因であるという証拠はありません。

遺伝や脳の構造との関連性

近年の研究では、性同一性障害のある人とそうでない人との間で、脳の特定の領域の構造や機能に違いが見られるという報告があります。例えば、性自認に関わると考えられる脳の領域において、出生時の性別とは異なる性別の脳の特徴との類似性が示唆される研究結果も存在します。また、双子の研究などから、遺伝的な要因が関与している可能性も指摘されています。ただし、これらの研究はまだ発展途上であり、脳の特徴の違いが原因なのか結果なのか、遺伝子がどのように影響するのかなど、詳細は不明な点が多いのが現状です。

親の育て方や生育環境は原因ではない

性同一性障害は、親の育て方や家庭環境、幼少期の特定の出来事などが原因で生じるものではありません。これは、当事者だけでなく、その家族も抱えがちな誤解や自責の念につながりやすいため、非常に重要な点です。医学的な立場からは、環境的な要因が性自認の形成を直接的に決定づけるという証拠は認められていません。性自認は、個人の内面から自然に生じるものであり、外部からの影響によって決まるものではないと考えられています。

ストレスとの関連性

性別違和そのものがストレスによって引き起こされるわけではありません。しかし、性別違和を抱えていることによって生じる社会的な圧力、偏見、差別、理解のなさなどが、当事者に強いストレスを与え、精神的な苦痛を増大させることはあります。また、精神的なストレスが、自身の性別違和に対する認識や苦悩をより強く感じさせる要因となる可能性は考えられます。

性同一性障害の症状やサイン

性同一性障害(性別違和)の症状やサインは、個々人によって、また年齢によっても異なります。自身の性自認と身体の性の不一致に対する違和感や苦痛が核となります。

小児期に見られる性別違和の特徴

小児期に性別違和を示す子どもは、通常、出生時の性別とは異なる性別の特徴や活動に強い関心を示します。具体的なサインとしては、以下のようなものが見られることがあります。

  • 異なる性別の服装やおもちゃを好む: 出生時の性別とは異なる性別の stereotypical(典型的な)な服装を強く望んだり、そうしたおもちゃで遊ぶことを好んだりします。
  • 異なる性別の友達と遊びたがる: 同性の友達よりも、異なる性別の友達との遊びを好みます。
  • 異なる性別の性器や身体的特徴を持ちたいと強く言う: 自分の性器を嫌がったり、将来的に異なる性別の身体になりたいと明確に言葉にしたりすることがあります。
  • 自分の性別を否定する言葉を言う: 「僕は女の子じゃない」「私は男の子になりたい」など、自分の性別を否定し、異なる性別であることを主張します。
  • 異なる性別の役割やゲームへの強い没頭: ごっこ遊びなどで、出生時の性別とは異なる性別の役割を演じることに強く没頭します。

ただし、小児期に見られるこれらのサインが、必ずしも将来的な性同一性障害につながるわけではありません。多くの場合は成長とともに落ち着いていきます。しかし、これらのサインが持続的で強く、子ども自身が苦痛を感じている場合は、専門家への相談を検討することが重要です。

思春期・成人期に見られる性別違和の特徴

思春期以降になると、性別違和はより明確になり、身体の変化に対する苦痛や、社会的な性別役割に対する葛藤が深まることがあります。

  • 自身の身体に対する強い不快感: 思春期以降に身体が発達し、出生時の性の特徴(例:第二次性徴)が顕著になるにつれて、自分の身体に対する嫌悪感や不快感(身体違和)が強まります。これは、身体を隠そうとしたり、身体の変化を避けたいと感じたりすることにつながります。
  • 異なる性別の身体になりたいという強い願望: ホルモン療法や性別適合手術などを通じて、自身の性自認に合った身体になりたいと強く望むようになります。
  • 異なる性別の性別役割で生活したいという願望: 社会的に自身の性自認に合った性別として扱われたい、生活したいという強い願望を持ちます。名前や代名詞の変更、カミングアウトなどがこれにあたります。
  • 性別に関する書類上の性別と、自身の性自認との不一致による苦痛: 身分証明書などの公的な書類の性別と、自身の性自認が異なることによる不便さや精神的な苦痛を感じます。
  • 性別違和に関連する精神的な症状: 性別違和による苦痛が原因で、うつ病、不安障害、自己肯定感の低下、社会的な孤立などの精神的な問題を抱えることがあります。

性別違和による苦痛(性別違和感)

性別違和における最も重要な要素の一つが、「苦痛(distress)」の存在です。単に「自分は違う性別のような気がする」といった感覚だけでなく、その不一致によって、日常生活や社会生活において著しい苦痛や困難さを感じているかどうかが、診断やサポートの必要性を判断する上で重視されます。

具体的な苦痛としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 精神的な苦痛: 自分の身体や、周りから出生時の性別として扱われることに対する強い嫌悪感、恥ずかしさ、絶望感、孤独感など。
  • 社会的な困難: カミングアウトによる人間関係の悪化、職場や学校での居場所のなさ、差別や偏見に直面すること、公的な手続きの困難さなど。
  • 機能的な困難: 苦痛が原因で、学業や仕事に集中できない、社会参加が困難になるなど、日常生活や社会生活に支障が出ること。

これらの苦痛は、当事者のQOL(生活の質)を著しく低下させ、時には自傷行為や自殺のリスクを高めることさえあります。そのため、適切な診断とサポートは、当事者の心身の健康を守る上で不可欠です。

性同一性障害の診断方法と基準

性同一性障害(性別違和)の診断は、非常に慎重に行われます。自己判断や簡単なテストで決まるものではなく、専門的な知識を持つ医療チームによる時間をかけた評価が必要です。

診断テストは存在する?

インターネット上で見かけるような、簡単な質問に答えるだけで「あなたは性同一性障害です」といった診断が下される診断テストは存在しません。性自認は個人の内面に関わる非常に個人的な感覚であり、標準化された客観的なテストで測れるものではないからです。診断は、専門家による面談や心理評価を通じて、本人の語りや状況を総合的に判断して行われます。

専門医療機関での診断プロセス

性同一性障害の診断は、精神科医、心療内科医、臨床心理士など、この分野に詳しい複数の専門家を含む医療チームによって行われることが一般的です。診断プロセスは、通常、複数回の面談を通じて行われます。

  1. 問診と面談: これまでの性別に関する感覚や経験、現在の苦痛、幼少期からの様子、家族や友人との関係、精神的な健康状態などについて詳しく話を聞きます。
  2. 心理評価: 性別違和の程度や性質、精神的な併存疾患(うつ病や不安障害など)の有無などを評価するために、心理検査が行われることもあります。
  3. 身体的評価: 必要に応じて、ホルモンバランスや染色体の状態などを確認するための身体的な検査が行われることもありますが、これは診断そのものに必須ではありません。あくまで、身体的な性分化疾患などが隠れていないかを確認するためです。
  4. 情報提供と検討: 診断に至るまでには、本人に十分な情報提供が行われ、性別違和について深く理解してもらう期間も含まれます。医療チーム内で慎重な検討が行われます。

診断には時間を要することが多く、数ヶ月から1年以上かかる場合もあります。これは、安易な診断を防ぎ、本人が自身の性自認や将来について十分に考え、覚悟を固めるための重要なプロセスです。

診断基準(DSM-5など)

性同一性障害(性別違和)の診断は、国際的な診断基準に基づいて行われます。現在広く用いられているのは、DSM-5やICD-11です。ここでは、DSM-5の診断基準の主要なポイントを簡単に紹介します。

DSM-5における性別違和の診断基準の概要(小児を除く)

  • 少なくとも6ヶ月間続いている、自己の性自認と出生時の性別との間の著しい不一致。
  • その不一致に関連した、以下の項目の中から少なくとも2つ(子どもは6つ)が存在すること。
  • 自己の性自認と出生時の性別の間の著しい不一致
  • 出生時の性別に関連した第一次性徴または第二次性徴を強く嫌悪している
  • 異なる性別の第一次性徴または第二次性徴を持ちたいという強い願望
  • 異なる性別として扱われたいという強い願望
  • 異なる性別の典型的特徴を持つという強い確信、またはそうした典型的な特徴であると強く感じている
  • 異なる性別に関連した役割を強く望む、またはそうした役割であると強く感じている
  • その状態が、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、その他の重要な領域における機能の障害を引き起こしていること。

重要なのは、「苦痛または機能障害」の存在が診断の必須条件であるという点です。単に性自認が出生時の性別と異なるだけでは、診断基準を満たしません。

性同一性障害の治療・サポート

性同一性障害(性別違和)の治療やサポートは、「治す」という考え方ではなく、当事者が自身の性自認に沿って、より自分らしく、心身ともに健康に生きられるようにサポートすることを目的としています。治療法は一つではなく、個人の希望や状況に応じて多様な選択肢があります。

精神的ケア・カウンセリング

性別違和による苦痛や、それに伴う様々な困難(家族との関係、社会的な孤立、精神的な不調など)に対して、精神的なサポートは非常に重要です。専門家によるカウンセリングや心理療法は、当事者が自身の性自認と向き合い、自己理解を深め、ストレスに対処し、自分らしい生き方を見つける手助けとなります。また、家族や周囲の人々へのカウンセリングも、理解を深め、サポート体制を構築する上で有効です。精神科医による精神症状(うつ病など)への薬物療法も、必要に応じて行われます。

ホルモン療法

ホルモン療法は、自身の性自認に合った第二次性徴を発現させ、身体的な特徴を変化させることを目的とします。女性から男性へ移行する場合(FtM)、男性ホルモン(テストステロン)を投与することで、声変わり、体毛の増加、筋肉の発達、月経の停止などが期待できます。男性から女性へ移行する場合(MtF)、女性ホルモン(エストロゲン)と男性ホルモン抑制剤を投与することで、乳房の発達、体毛の減少、皮膚の軟化、筋肉の減少などが期待できます。

ホルモン療法は、身体に不可逆的な変化をもたらす可能性があり、肝機能障害や血栓症などのリスクも伴います。そのため、必ず専門医の管理のもと、定期的な検査を受けながら慎重に進められます。ホルモン療法を開始するには、通常、精神科医による性同一性障害の診断が必要です。

性別適合手術(SRS)

性別適合手術(Sex Reassignment Surgery; SRS)は、身体の性器やその他の身体的特徴を、自身の性自認に一致させるための外科手術です。手術の内容は、当事者の希望や移行の方向(FtMかMtFか)によって多岐にわたります。

  • FtMの場合: 乳房切除術(胸オペ)、子宮・卵巣摘出術、陰茎形成術、陰嚢形成術など。
  • MtFの場合: 陰茎切除術、膣形成術、睾丸摘出術、乳房増大術、顔面女性化手術(FFS)、声帯手術など。

性別適合手術も不可逆的な変化をもたらすため、非常に慎重な判断が必要です。日本精神神経学会のガイドラインなどでは、手術を受けるためには、性同一性障害の確固たる診断があること、一定期間のホルモン療法を行っていること、精神状態が安定していること、手術のリスクと効果を十分に理解し同意していること、といった様々な基準が設けられています。多くの手術は自由診療となり、高額な費用がかかります。

性別変更の手続き

戸籍上の性別を変更するためには、日本の法律(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律)に基づいた手続きが必要です。この法律では、性別の取扱いの変更を申し立てるための要件が定められています。主要な要件は以下の通りです。

  • 二人以上の医師により性同一性障害であることが診断されていること
  • 20歳以上であること
  • 現に婚姻をしていないこと
  • 現に未成年の子がいないこと
  • 生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態であること
  • 変更後の性別の性器に係る身体の構造(性器、乳房など)を備えていること

これらの要件を満たした上で、家庭裁判所へ申し立てを行い、裁判所の審判を経て、戸籍上の性別を変更することができます。生殖腺がないことや、性器に係る身体の構造に関する要件については、当事者や支援者から見直しを求める声が多く上がっており、議論が続けられています。

性同一性障害とLGBTQ+、性別の多様性

性同一性障害は、LGBTQ+という多様な性のあり方を示す言葉の一つに含まれます。LGBTQ+は、Lesbian(レズビアン:女性同性愛者)、Gay(ゲイ:男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル:両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー:性自認が出生時の性別と異なる人)、Queer(クィア)またはQuestioning(クエスチョニング:自身の性自認や性的指向が定まっていない人)の頭文字を取った言葉です。性同一性障害のある人は、この中のTransgenderに含まれます。

性同一性障害と性的指向(同性愛など)の違い

性同一性障害(性別違和)は、「性自認」に関わる問題です。自分が男性であるか、女性であるか、あるいはどちらでもないかといった、自身の性別をどのように認識しているか、ということに焦点を当てます。

一方、「性的指向」は、「どのような性別の人に性愛感情や恋愛感情を抱くか」ということです。異性に惹かれる(異性愛)、同性に惹かれる(同性愛)、両方の性に惹かれる(両性愛)、誰にも惹かれない(無性愛)などがあります。

この二つは全く別の概念です。例えば、出生時に女性と判定された人が、自分は男性であると認識している(性同一性障害)場合、その人の性自認は男性です。その上で、恋愛対象が女性であれば異性愛(男性としての異性愛)、男性であれば同性愛(男性としての同性愛)となります。性同一性障害であることと、どのような性的指向を持つかは、直接関係ありません。

区分 定義
性自認 自分がどの性別であるかを認識していること(男性、女性、どちらでもない等)
性的指向 どのような性別の人に性愛感情や恋愛感情を抱くか

性自認と性的指向について

私たちは皆、性自認と性的指向を持っています。出生時に男性と判定され、自分自身を男性と認識し、女性に惹かれる人は、性自認が男性で性的指向が異性愛者ということになります。

性同一性障害のある人は、性自認が出生時の性別と異なります。例えば、出生時は男性と判定されたが、性自認は女性である(トランスジェンダー女性)という場合、その女性が男性に恋愛感情を抱くのであれば性的指向は異性愛(女性としての異性愛)、女性に恋愛感情を抱くのであれば同性愛(女性としての同性愛)となります。

性自認も性的指向も、個人のアイデンティティの重要な一部であり、多様なあり方があることを理解することが大切です。

周囲の理解とサポートの重要性

性同一性障害(性別違和)のある人々が、社会の中で安心して自分らしく生きていくためには、周囲の人々の理解とサポートが不可欠です。残念ながら、現在でも性同一性障害に対する誤解や偏見は根強く存在しており、それが当事者の苦痛をさらに増幅させる要因となっています。

差別や偏見をなくすために

差別や偏見は、当事者の精神的な健康を害し、社会的な孤立を招き、時には命に関わる事態につながることもあります。差別や偏見をなくすためには、まず「知ること」が重要です。性同一性障害とは何か、当事者がどのような困難を抱えているのか、といった正しい知識を身につけることが、理解への第一歩となります。

メディアの報道やインターネット上の情報には、誤った情報やセンセーショナルなものも含まれる可能性があります。信頼できる情報源(専門家、公的な機関、当事者団体など)から学ぶことが大切です。

当事者への適切な接し方

当事者と接する際に最も大切なのは、本人の性自認を尊重することです。

  • 本人が望む性別で呼ぶ、代名詞を使う: 例えば、出生時は男性と判定されたが、自分は女性であると認識している人に対しては、「彼」ではなく「彼女」と呼んだり、女性の名前で呼んだりするなど、本人が希望する性別や名前、代名詞を使用します。分からない場合は、本人にどのように呼ばれたいか尋ねるのが最も丁寧です。
  • プライバシーを尊重する: 性自認や移行のプロセスは、非常に個人的でデリケートな情報です。本人の許可なく第三者に話したり、無理に聞き出したりすることは絶対に避けるべきです。
  • 外見や振る舞いについて決めつけない: 性自認と外見や振る舞いが一致しない人もいます。見た目だけでその人の性別や性自認を決めつけたり、期待するような言動を強要したりしないことが大切です。
  • 「普通」を押し付けない: 「男性ならこうあるべき」「女性ならこうあるべき」といった固定観念を押し付けないようにしましょう。性のあり方は多様であり、一人ひとり異なります。
  • 話を聞き、寄り添う: 当事者が性別違和や困難について話してくれたら、否定せず、判断せず、まずは耳を傾け、寄り添う姿勢を示すことが大きな支えとなります。

性同一性障害は「特別なこと」ではなく、多様な性のあり方の一つであるという認識を持つことが、インクルーシブな社会を作る上で重要です。

性同一性障害に関する相談先

性同一性障害(性別違和)について悩んだり、情報が必要になったりした場合、一人で抱え込まず、適切な相談先に頼ることが大切です。様々な種類の相談先がありますので、自身の状況や目的に合った場所を選びましょう。

  • 専門医療機関: 精神科、心療内科など、性同一性障害や性の多様性に詳しい医師がいる病院やクリニックです。診断を受けたい、ホルモン療法や手術について相談したい、精神的な不調について相談したい、といった場合に適しています。日本精神神経学会の性同一性障害に関する委員会が認定する研修を受けた医師がいる医療機関などが参考になります。
  • 精神保健福祉センター: 各都道府県や政令指定都市に設置されており、心の健康に関する相談を受け付けています。性別違和による精神的な苦痛や、それに伴う問題について相談できます。
  • 行政の窓口: 市町村の市民課や人権相談窓口などで、性別変更の手続きや、行政に関する情報提供、人権に関する相談などが可能です。
  • LGBTQ+関連のNPO・支援団体: 当事者やその家族向けの居場所づくり、ピアサポート(同じような経験を持つ人同士の支え合い)、情報提供、啓発活動などを行っています。同じ悩みを抱える人と繋がったり、経験者から話を聞いたりすることができます。オンラインや電話で相談できる団体も多いです。
  • カウンセリング機関: 臨床心理士などが所属するカウンセリングルームでも、性別違和に伴う心理的な悩みや困難について相談できます。

相談する際には、事前にその機関が性同一性障害に関する相談を受け付けているか、専門知識を持つスタッフがいるかなどを確認すると良いでしょう。

【まとめ】性同一性障害とは、自身の性自認と身体の性の不一致に伴う苦痛を指す

性同一性障害(性別違和)とは、生まれ持った身体の性と、自分が認識する心の性(性自認)が一致しない状態であり、その不一致によって生活に困難や苦痛を感じることを指します。これは病気ではなく、性の多様性の一つとして理解が進んでいます。原因は一つに特定されていませんが、先天的な要因が関与している可能性が指摘されており、親の育て方や環境によるものではありません。

症状は年齢によって異なりますが、自身の性別に対する違和感や、異なる性別の身体や社会的な役割を強く望むことが特徴です。この状態に伴う精神的、社会的な苦痛は「性別違和感」と呼ばれ、当事者のQOLに大きく影響します。

診断は、専門の医療チームによる時間をかけた評価に基づいて行われ、簡単なテストでできるものではありません。治療やサポートには、精神的ケア、ホルモン療法、性別適合手術、性別変更の手続きなど、多様な選択肢があり、個人の希望に応じて選択されます。これらは「治す」のではなく、当事者が自分らしく生きるためのサポートです。

性同一性障害は、性的指向とは異なり、性自認に関わる問題です。LGBTQ+の一つであるトランスジェンダーに含まれます。当事者が社会の中で安心して生きていくためには、周囲の人々が正しい知識を持ち、差別や偏見をなくし、本人の性自認を尊重した適切な対応をすることが非常に重要です。もし自身や周囲に性別違和で悩んでいる方がいる場合は、専門医療機関や支援団体などの相談先を活用することを推奨します。

【免責事項】
本記事は、性同一性障害(性別違和)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。医学的な診断や治療に関するアドバイスではありません。個別の状況については、必ず専門の医療機関にご相談ください。本記事の情報に基づいて行ったいかなる行為についても、当方は一切の責任を負いかねます。情報は常に更新される可能性があるため、最新の情報は専門家にご確認ください。

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