交通事故の後遺障害診断書|もらい方・書き方・認定のポイント

行為障害の診断書は、診断名が確定していることを公的に証明し、様々な社会的な手続きや支援を受けるために必要となる重要な書類です。学校での合理的配慮の申請、職場でのはたらき方の調整、障害福祉サービスの利用、そして障害年金や各種手帳の申請など、その用途は多岐にわたります。診断書には、診断名だけでなく、現在の症状の詳細、病歴、日常生活や社会生活への影響、必要な支援に関する医師の見解などが記載されており、申請や手続きの際の審査において極めて重要な判断材料となります。この診断書を取得するためには、専門の医療機関での診察を経て、医師に作成を依頼する必要がありますが、費用や医師の対応、制度ごとの書式の違いなど、いくつか知っておくべき点があります。本記事では、行為障害の診断書の取得方法、必要な費用、医師に書いてもらえない場合の対応、そして障害年金などの制度における等級認定への影響について、詳しく解説します。

行為障害の定義と特徴

行為障害は、児童期または青年期に発症する精神障害の一つで、他者の権利を侵害したり、社会の規範や規則を著しく逸脱したりする反復的かつ持続的な行動パターンを特徴とします。この診断が確定したことを証明する公的な書類が、行為障害の診断書です。

行為障害の診断は、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)などの診断基準に基づいて精神科医や児童精神科医によって行われます。診断基準には、攻撃的な行動(人や動物に対するいじめ、脅迫、武器の使用など)、破壊行為(意図的な放火、器物の破壊など)、欺瞞性または窃盗(嘘をつく、万引き、侵入盗など)、そして重大な規則違反(夜間外出、家出、無断欠席など)といった行動が、一定期間にわたって複数認められることが含まれます。

行為障害は単なる「悪い子」という概念ではなく、脳機能の偏りや生育環境、遺伝など、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。併存疾患として、注意欠如・多動症(ADHD)、反抗挑戦性障害、うつ病、不安障害などが高頻度で見られることも特徴です。これらの行動や併存疾患は、本人の学業、対人関係、家族関係、将来の社会適応に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

診断書に記載される行為障害の特徴としては、単に一時的な反抗や逸脱行為ではなく、その行動の頻度、期間、重症度、そして日常生活や社会生活への具体的な支障の度合いなどが詳細に記述されます。

診断書の役割と提出先

行為障害の診断書は、診断名が確定していることの公的な証明として機能します。これは、本人や家族が社会生活を送る上で必要な様々な支援やサービス、手続きを利用する際の根拠となります。診断書の主な役割は以下の通りです。

  • 医学的な状態の証明: 行為障害という医学的な診断に基づいていることを証明します。
  • 症状や困難さの説明: 現在どのような症状があり、それが日常生活や社会生活(学業、就労、対人関係など)にどのような具体的な支障を来しているかを詳細に伝えます。
  • 必要な支援や配慮に関する医師の意見: 診断を踏まえ、どのような環境調整、教育的支援、医療的介入、福祉的サービスなどが本人にとって有効であるかについての医師の専門的な意見が記載されます。

診断書の主な提出先には、以下のようなものがあります。

  • 学校: 特別支援教育の対象となるかどうかの判断、個別の教育支援計画や合理的配慮の提供(授業中の席順、課題への配慮、休憩時間の過ごし方など)の検討資料として提出します。
  • 職場: 障害者雇用枠での就職、休職や復職の判断、勤務時間や業務内容の調整、職場での人間関係の円滑化のための合理的配慮の検討資料として提出します。
  • 障害福祉サービス: 相談支援事業所への相談、放課後等デイサービス(児童期)、就労移行支援事業所、グループホームなどの障害福祉サービスを利用するための申請時に提出します。
  • 公的な申請: 障害年金、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳(知的な遅れを伴う場合)などの申請時に、診断書が必須となります。これらの制度では、診断書の内容に基づいて支給の可否や等級が判定されます。
  • 司法・行政機関: 少年事件や刑事事件において、本人の精神状態や背景を考慮した判断を求める際に、弁護士などを通じて提出されることがあります。また、児童相談所などでの支援が必要な場合の資料となることもあります。

このように、行為障害の診断書は、本人が社会で適切に評価され、必要な支援に繋がるための「パスポート」のような役割を担います。

行為障害診断書を取得する方法

行為障害の診断書を取得するためには、まず専門の医療機関で診察を受け、行為障害の診断を確定させる必要があります。診断書は、診断が確定した後、医師に依頼して作成してもらいます。

診断書作成の流れ

  1. 医療機関の選定と予約: 行為障害の診断や治療を専門とする精神科、心療内科、児童精神科(18歳未満の場合)のある医療機関を選びます。特に児童思春期を専門とする医師がいる医療機関が望ましい場合が多いです。電話やインターネットで予約を取る際に、行為障害の診断や相談を希望している旨を伝えるとスムーズです。
  2. 初診: 予約した日時に医療機関を受診します。医師による問診が中心となります。これまでの生育歴、家族構成、学業・就労状況、対人関係、具体的な困った行動の内容、頻度、始まった時期、家族が感じていることなどを詳しく聞かれます。本人だけでなく、保護者や家族からの情報も非常に重要となります。
  3. 検査・評価: 医師の判断により、さらに詳しい検査が行われることがあります。
    • 心理検査: 知能検査(WISC-IV, WAIS-IVなど)、性格検査(ロールシャッハテスト、MMPIなど)、行動評価尺度(Conners 3など)などが用いられることがあります。これらの検査は、本人の認知機能、知的な発達、性格特性、特定の行動傾向などを客観的に評価するのに役立ちます。
    • 発達検査: 乳幼児期や児童期からの発達の経過を確認するための検査が行われることもあります。
    • 脳波検査や画像検査: 他の疾患の可能性を除外するために行われる場合がありますが、行為障害の診断に必須ではありません。
  4. 診断の確定: 問診、家族からの情報、検査結果などを総合的に判断し、医師が行為障害であるという診断を確定します。診断には時間を要する場合があり、複数回の診察が必要となることも珍しくありません。
  5. 診断書作成依頼: 診断が確定したら、医師に診断書の作成を依頼します。診断書が必要な理由(提出先、申請する制度など)を明確に伝えることが重要です。診断書は、提出先の指定する書式がある場合(障害年金や手帳の申請など)と、医療機関の一般的な書式を使用する場合があります。必要な書式があれば、依頼時に医師や受付に提出します。
  6. 診断書作成と受け取り: 医師が診断書を作成します。診断書の作成には通常、数日から2週間程度の時間がかかります。完成したら医療機関に取りに行くか、郵送してもらうなどの方法で受け取ります。

診断を依頼する医療機関(病院)

行為障害の診断・治療を専門とする医療機関は以下の通りです。

  • 精神科: 成人の行為障害や、児童思春期精神医学を専門とする精神科医がいる医療機関。
  • 心療内科: ストレスなどが関連する精神的な問題も扱う診療科ですが、行為障害を専門とする医師がいるかは確認が必要です。一般的には精神科がより専門的です。
  • 児童精神科: 18歳未満の児童・青年期の精神疾患を専門とする診療科です。行為障害の発症は児童期または青年期であることが多いため、特に未成年の場合は児童精神科の受診が最も適しています。
  • 大学病院や総合病院の精神科・児童精神科: 比較的専門的な医師や、各種検査設備が整っている場合が多いです。初診まで時間がかかることもあります。
  • 専門クリニック: 児童思春期精神医学や発達障害などを専門とするクリニックの中には、行為障害の診療経験が豊富な医師がいる場合があります。

医療機関を選ぶ際は、行為障害の診療経験があるか、児童思春期を専門としているか(未成年の場合)、通いやすさなどを考慮すると良いでしょう。インターネットで医療機関のウェブサイトを確認したり、地域の精神保健福祉センターや相談窓口に相談して紹介を受けたりする方法もあります。

診断書作成に必要な準備と情報

診断書の作成をスムーズに進め、より正確な診断や状況説明を記載してもらうためには、事前の準備と情報提供が非常に重要です。以下の情報を整理しておくと良いでしょう。

  • 母子手帳や生育歴に関する記録: 乳幼児期からの発達の様子、健康状態、予防接種の記録など。
  • これまでの診断や検査結果: 過去に他の医療機関で受けた精神科や発達に関する診断、心理検査や発達検査の結果などがあれば全て持参します。
  • お薬手帳: 現在服用している全ての薬の情報。
  • 学校や幼稚園・保育園での記録: 通知表、連絡帳、担任の先生からのフィードバックなど、集団生活での様子が分かるもの。
  • 職場での状況: 遅刻、欠勤、対人トラブル、業務遂行上の困難など、具体的な状況を記したメモや記録。
  • 困った行動の具体的なメモ: いつ、どこで、誰に対して、どのような行動があったか。その行動の頻度や程度。行動のきっかけやその後の状況。家族や周囲の人がどう感じ、どう対応したか。そうした行動によってどのような問題が起きているか(例: 退学、解雇、逮捕、人間関係の破綻、借金など)。
  • 本人の生育歴や家族歴: 幼少期の様子、親や兄弟との関係性、家庭環境の変化、家族の中に精神疾患や発達障害のある人がいるかなど。
  • 診断書が必要な目的: どのような制度や手続きのために診断書が必要なのか、提出先はどこかなどを医師に明確に伝えます。

これらの情報を整理し、可能であれば箇条書きや簡単な文章にまとめて医師に渡すと、医師が本人の状態を把握しやすくなり、診断書の作成もスムーズに進む可能性が高まります。特に「困った行動の具体的なメモ」は、抽象的な表現ではなく、具体的なエピソードとして伝えることが重要です。

行為障害診断書作成にかかる費用

行為障害の診断書は、基本的に健康保険が適用されない自費診療となります。そのため、費用は医療機関によって異なります。

診断書費用相場

診断書の費用は、診断書の種類(提出先指定の特定の様式か、医療機関の一般様式か)、記載項目の多さ、医療機関の種類(大学病院、総合病院、クリニックなど)によって大きく変動します。

一般的な精神科の診断書の場合、相場としては5,000円から10,000円程度が多いですが、これはあくまで目安です。障害年金の申請に用いる診断書など、特定の制度で定められた様式の診断書は、記載項目が多岐にわたり、医師が詳細な聞き取りや評価を行う必要があるため、一般の診断書よりも高額になる傾向があります。これらの特定様式の診断書の場合、10,000円から20,000円程度、場合によってはそれ以上かかることもあります。

医療機関によっては、初診時または診断確定時に診断書作成費用について説明がある場合もありますが、事前に確認しておくことが重要です。

費用に関する注意点

  • 保険適用外: 行為障害の診断書作成は、原則として健康保険の適用外となります。これは、診断書が医学的な治療行為そのものではなく、社会的な手続きのための書類作成という性質を持つためです。
  • 医療機関による違い: 費用は医療機関が独自に定めています。同じ行為障害の診断書でも、A病院では5,000円、Bクリニックでは15,000円というように大きく異なる場合があります。事前に電話や窓口で費用を確認することをおすすめします。
  • 診断書の種類による違い: 前述の通り、提出先や申請する制度によって必要となる診断書の様式や記載内容が異なります。これに伴い、費用も変動します。複数の制度に申請する場合、それぞれ異なる様式の診断書が必要となり、その都度費用が発生することもあります。
  • 再発行や修正: 一度作成してもらった診断書に誤りがあった場合や、紛失した場合に再発行を依頼する際には、再度費用が発生することがほとんどです。記載内容の修正を依頼する場合も、軽微なものであれば無償で対応してくれる場合もありますが、大幅な加筆修正が必要な場合は再作成となり費用が発生することもあります。
  • 診断や検査費用とは別: 診断書の費用は、診察料や心理検査、発達検査などの費用とは別に発生します。受診全体にかかる費用を確認する際は、診断書費用も含めて尋ねるようにしましょう。
診断書の種類 想定される提出先 費用相場(目安) 備考
一般診断書 学校、職場、各種福祉サービス(手続きによる) 5,000円~10,000円 医療機関の書式を使用
障害年金用診断書(精神) 日本年金機構 10,000円~20,000円超 定められた様式に詳細な記載が必要。初診日の証明も重要。
精神障害者保健福祉手帳用診断書 市区町村の担当窓口 10,000円~15,000円 定められた様式。診断から一定期間経過後の申請も可能。
療育手帳用診断書 市区町村の担当窓口、児童相談所など 5,000円~15,000円 知的な遅れがある場合。判定医の診断書が必要な場合と、主治医の診断書で済む場合がある。制度名や基準は自治体による。
意見書、証明書など 裁判所、児童相談所、特定の手続きに必要な場合など 5,000円~数万円 内容や書式によって大きく異なる。専門性の高い意見を求められると高額になる場合も。

上記の表はあくまで一般的な目安であり、実際の費用は医療機関や地域、診断書の詳細な内容によって異なります。必ず事前に医療機関に確認してください。

医師が行為障害診断書作成を拒否する場合

診断書が必要な状況にも関わらず、医師に診断書の作成を依頼しても断られるというケースも考えられます。これにはいくつかの理由があり、全てが医師の義務違反とは限りません。

医師が診断書発行を拒否する理由

医師が診断書作成を拒否する理由としては、以下のようなものが考えられます。

  • 診断基準を満たさない: 行為障害の診断基準を満たすほどではないと医師が判断した場合。または、診断がまだ確定していない場合。
  • 診断が難しい、判断に迷う: 症状が非典型的である、情報が不足している、他の疾患との鑑別が難しいなど、現時点では行為障害と断定的な診断が難しい場合。
  • 医師の専門外である: その医師が児童思春期精神医学や行為障害の診療を専門としていない場合。
  • 患者(本人または家族)との信頼関係に問題がある: 医師が提供された情報や患者側の要求内容に疑問を感じる場合など。
  • 診断書の内容に対する懸念: 診断書に記載することで、本人が不利益を被る可能性があると医師が判断した場合(例:レッテル貼り、特定の立場での差別など)。
  • 診断書作成の必要性が不明確: 提出先や診断書が必要な目的が不明確である場合。
  • 記載内容に関する意見の相違: 診断書の記載内容(特に日常生活能力や予後に関する評価)について、医師の医学的判断と患者側が期待する内容に隔たりがある場合。
  • 診断から長期間経過している: 申請に必要な期間よりも大幅に診断から時間が経っており、現在の症状を正確に診断書に反映することが難しい場合。

これらの理由の多くは、医師の医学的な判断や専門性に基づくものです。安易な診断や不正確な診断書は、かえって本人の不利益になる可能性もあるため、医師は慎重に判断します。

診断書発行の法的義務(医師法)

医師法第20条では、「医師は、診察若しくは検案をし、又は出産に立ち会つたときは、診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証明書を交付しなければならない。但し、死亡者又は死産児の父母若しくは本人の依頼による場合に限り、診断書の交付を拒むことができる。」と定められています。

この条文だけを見ると、医師は診断書交付を拒否できないように見えますが、これはあくまで「正当な理由がない限り」という解釈が一般的です。「正当な理由」には、前述のような「診断基準を満たさない」「診断が難しい」「患者が虚偽の記載を求めている」といったケースが含まれるとされています。つまり、医師は診断が可能であり、かつ正当な依頼であれば診断書を交付する義務がありますが、医学的に診断できない場合や、正当な理由がある場合には交付を拒否できる可能性があります。

医師とのコミュニケーションと対応策

医師に診断書作成を拒否された場合、まずはその理由を尋ねることが重要です。理由が分かれば、適切な対応を考えることができます。

  • 理由が「診断基準を満たさない」「診断が難しい」の場合:
    • 医師に、現在困っている具体的な状況や行動を改めて詳しく伝え、それが診断書として記載できないのか、他の可能性はないのかを相談します。
    • 診断には時間がかかることを理解し、継続して受診しながら医師の判断を待つことも必要です。
    • 別の医療機関でセカンドオピニオンを求めたり、行為障害や児童思春期精神医学をより専門とする医師を探したりすることも検討します。
  • 理由が「医師の専門外」の場合:
    • その医師に、適切な専門医や医療機関を紹介してもらえないか相談します。
  • 理由が「診断書の必要性が不明確」の場合:
    • 診断書が必要な提出先や、申請する制度について具体的に説明します。制度によっては特定の様式が必要であることを伝え、書式を持参します。
  • 理由が「記載内容に関する意見の相違」の場合:
    • 医師の医学的判断を尊重しつつ、本人の困り事や希望する支援内容について、具体的なエピソードを交えながら丁寧に伝えます。診断書に記載してほしい内容を一方的に要求するのではなく、医師と協力して本人の状況を正確に伝えるための方法を一緒に考える姿勢が大切です。

診断書の作成は、医師の専門的な判断と責任に基づいて行われます。患者側が一方的に要求したり、虚偽の情報を提供したりすることは避けましょう。どうしても医師との合意が得られない場合は、無理に関係を続けるのではなく、別の医師に相談することを検討すべきです。

行為障害診断書が関わる制度と手続き(等級認定)

行為障害の診断書は、様々な公的な制度や手続きにおいて、本人に必要な支援やサービスを判断するための重要な書類となります。特に、障害年金や各種手帳の申請では、診断書の内容が支給の可否や等級認定に直接影響します。

障害年金申請

障害年金は、病気やケガによって生活や仕事が制限されるようになった場合に支給される公的な年金制度です。精神の障害も対象となり、行為障害も認定の対象となり得ます。障害年金の申請には、医師が作成した「精神の障害用の診断書」が必須となります。

障害年金申請のポイント:

  • 初診日: 障害年金制度において最も重要となるのが「初診日」です。これは、障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日を指します。行為障害の場合、初めて精神科や心療内科などを受診した日が初診日となるのが一般的です。この初診日が国民年金または厚生年金の被保険者期間中にあることが、年金受給権の要件となります。初診日の証明ができないと申請できない場合があるため、カルテなどが保管されているか確認が必要です。
  • 保険料納付要件: 初診日の前日において、一定の年金保険料を納めている必要があります。
  • 診断書: 初診日から1年6ヶ月(これを「障害認定日」といいます)が経過した時点での病状について、医師に「精神の障害用の診断書」を作成してもらいます。障害認定日時点で症状が固定しない場合は、原則として障害認定日から3ヶ月以内の現症日(診断書作成のための診察日)で診断書を作成します。また、65歳前に請求する場合は、請求日以前3ヶ月以内の現症日でも請求可能です。
  • 日常生活能力の評価: 精神の障害による障害年金の等級判定においては、単に診断名だけでなく、日常生活能力がどの程度制限されているかが最も重視されます。診断書には、食事、清潔保持、金銭管理、対人関係、危機対応、社会性など、日常生活における活動能力について詳細な評価を記載してもらう必要があります。行為障害の症状(反抗、攻撃性、規則違反など)が、これらの日常生活能力に具体的にどのような支障を来しているかを医師に正確に伝えることが重要です。

障害年金の申請は手続きが複雑な場合があるため、専門家である社会保険労務士に相談・代行を依頼することも多くの人が行っています。

療育手帳・精神障害者保健福祉手帳申請

障害者手帳は、障害のある方が様々な福祉サービスや支援制度を利用しやすくするためのものです。行為障害に関連して申請が検討される可能性のある手帳には、療育手帳と精神障害者保健福祉手帳があります。

  • 療育手帳: 主に知的障害のある方に交付される手帳です。行為障害に併存して知的障害がある場合に申請が検討されます。療育手帳の取得には、児童相談所(18歳未満)または知的障害者更生相談所(18歳以上)で、知的機能と日常生活能力の判定を受ける必要があります。その際に、医師の診断書や、これまでの生育歴に関する情報などが判定の参考資料となります。判定基準や手帳の名称(「愛の手帳」「みどりの手帳」など)は、自治体によって異なります。
  • 精神障害者保健福祉手帳: 精神疾患(行為障害を含む)により、長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある方に交付される手帳です。申請には、精神疾患による初診日から6ヶ月以上経過している必要があり、医師の診断書が必須となります。精神障害者保健福祉手帳には1級、2級、3級の区分があり、診断書の内容に基づき、精神疾患の状態と日常生活能力の障害の程度によって等級が判定されます。

これらの手帳を取得することで、税金の控除、公共料金の割引、交通機関の割引、障害者雇用での就労支援、障害福祉サービスの利用など、様々な支援やサービスが受けられるようになります。

その他の公的支援

行為障害の診断書は、上記以外にも様々な公的支援や手続きで活用されることがあります。

  • 特別支援教育: 幼稚園、小学校、中学校、高等学校等において、障害のある児童生徒一人ひとりのニーズに応じた教育を行うための制度です。行為障害の診断や診断書は、個別の教育支援計画や個別の指導計画を作成したり、通常学級での合理的配慮(座席位置、課題の量や提示方法の工夫、別室指導など)を検討したりする際の重要な資料となります。
  • 障害者雇用: 障害者雇用促進法に基づき、一定規模以上の企業には障害者を雇用する義務があります。精神障害者保健福祉手帳を取得している場合、この障害者雇用の枠組みでの就職活動が可能になります。診断書は、応募書類の一部として提出を求められたり、採用後の配属や業務内容を検討する際の参考とされたりします。
  • 生活困窮者自立支援制度: 経済的に困窮している方を対象とした自立支援制度です。精神的な課題が行為障害として診断されており、それが生活困窮の原因や要因となっている場合、診断書を提出することで、個別の支援計画作成や適切な支援(住居確保給付金、就労支援、家計相談支援など)に繋がる可能性があります。
  • 未成年後見制度・成年後見制度: 本人の判断能力が十分でない場合に、財産管理や契約などを行う後見人を選任する制度です。行為障害の重症度や併存疾患(知的障害など)により、本人の判断能力に問題がある場合、診断書が後見制度の利用の要否や後見人の選定の参考資料となることがあります。
  • 司法手続き: 少年事件や刑事事件において、被告人や少年の精神状態や行為障害の診断が、責任能力や情状酌量の判断に影響を与える可能性があります。診断書は、専門家(医師、弁護士、鑑別所職員など)による評価や意見書の作成に用いられます。

これらの制度を利用するためには、それぞれ定められた手続きがあり、診断書はその手続きの一部として提出を求められます。必要な診断書の様式や、診断書以外の必要書類は、申請先の制度や窓口によって異なるため、事前に確認することが重要です。

診断書と障害等級認定の関係

障害年金や精神障害者保健福祉手帳の申請における等級認定において、診断書の内容は最も重要な要素となります。診断書に書かれた情報が、本人の状態を正確に伝え、適切な等級認定に繋がるかどうかが決まります。

診断書記載内容の重要性

等級認定の審査は、提出された診断書の内容を基に行われます。特に重視されるのは以下の点です。

  • 傷病名: 医学的に確定した診断名が記載されているか。
  • 病状: 現在の症状(行為障害の具体的な行動パターン、頻度、重症度、併存症状など)が詳細かつ具体的に記載されているか。
  • 治療の経過: 発症からの経過、これまでの治療内容(薬物療法、精神療法、環境調整など)とその効果が記載されているか。
  • 日常生活能力の程度: 食事、排泄、清潔保持、金銭管理、対人関係、危機対応、社会性など、日常生活における活動能力がどの程度損なわれているかについて、具体的なエピソードを交えて詳細に評価されているか。この項目が等級判定に最も大きく影響します。行為障害の症状が、これらの日常生活能力に具体的にどう影響しているかが重要です(例:「他者への攻撃性により、集団での食事や対人交流が困難」「規則違反を繰り返すため、金銭管理ができず借金を重ねる」など)。
  • 就労状況: 就労の有無、就労している場合はその形態(一般雇用、障害者雇用、A型事業所、B型事業所など)、勤務時間、業務内容、職場での支援状況、就労を続ける上での困難さなどが記載されているか。
  • 予後: 今後の病状の見通し、回復の可能性や、必要な支援が記載されているか。
  • 医師の意見: 総合的な評価として、本人の障害の程度がどのくらいであるか、どのような支援が必要かについての医師の意見が記載されているか。

特に障害年金の申請では、「日常生活能力の程度」とその判定のための「日常生活能力の判定」欄が非常に重要です。医師はこれらの項目について、本人や家族からの聞き取り、診察時の様子、学校や職場からの情報などを総合して評価を行います。

障害等級認定基準

精神障害による障害年金や精神障害者保健福祉手帳の等級認定には、それぞれ基準が定められています。ここでは、障害年金の精神の障害の等級基準の概要を例に挙げます。

障害年金の精神の障害は、その障害の程度に応じて1級、2級、3級(障害厚生年金のみ)に区分されます。

  • 1級: 精神の障害であって、日常生活が一人では不可能なくらい著しい制限を受けるか、またはこれに準ずる程度のものであること。身の回りのこともほとんどできない状態。
  • 2級: 精神の障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、またはこれに準ずる程度のものであること。家庭内での日常生活はできても、社会生活には著しい制限がある状態。
  • 3級: 精神の障害であって、労働能力に著しい制限があるか、またはこれに準ずる程度のものであること。(障害厚生年金のみ)

この等級判定において、診断書に記載される「日常生活能力の程度」の評価が大きく影響します。例えば、日常生活能力の判定項目で複数の項目が「援助なしにはできない」「援助が必要」と評価されている場合、等級が高くなる傾向があります。行為障害の症状により、対人関係や社会性の項目で「援助が必要」または「不可能」と評価されるなど、具体的な支障の度合いが等級に直結します。

精神障害者保健福祉手帳の等級基準も、精神疾患の状態と日常生活能力の障害の程度によって1級から3級に区分されますが、基準は障害年金とは異なります。

等級認定結果と診断書の再提出

申請の結果、希望する等級が認定されなかった場合や、不支給となった場合、その理由が診断書の内容に起因している可能性も考えられます。

  • 不支給または非該当: 症状が軽度と判断された場合、診断書の内容が不十分であった場合、または初診日や保険料納付要件を満たしていなかった場合などが理由として挙げられます。
  • 認定等級に不服がある場合: 実際の症状や日常生活の困難さに比べて、認定された等級が低いと感じる場合。

このような場合、以下の対応が考えられます。

  • 不服申立て(審査請求、再審査請求): 認定結果に不服がある場合、決定を知った日の翌日から3ヶ月以内(障害年金の場合)に不服申立てを行うことができます。不服申立ての際には、追加の資料(診断書の見直し、医師からの意見書、日常生活状況申立書の補足など)を提出することが有効な場合があります。診断書の記載内容が不十分であったと考えられる場合は、医師に相談して診断書の修正や追加の意見書の作成を依頼できるか検討します。
  • 再申請: 不服申立てを行わず、または不服申立てでも結果が変わらなかった場合、症状が変化・悪化した際に改めて申請(再申請)を行うことが可能です。この場合、再度医師に診断書を作成してもらうことになりますが、前回の診断書内容を踏まえ、今回の申請でより正確に症状や日常生活の困難さが伝わるように医師と相談することが重要です。

診断書は一度作成されたら終わりではなく、申請結果や症状の変化に応じて、再提出や修正が必要となる可能性もある書類であることを理解しておきましょう。

よくある質問

行為障害の診断書に関して、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。

病院で行為障害診断書を書いてもらうといくらかかりますか?

行為障害の診断書作成費用は、保険適用外の自費診療となるため、医療機関によって異なります。一般的には5,000円から10,000円程度が多いですが、障害年金や各種手帳など、特定の制度で定められた様式の診断書は、記載項目が多く詳細な評価が必要なため、10,000円から20,000円程度、場合によってはそれ以上かかることもあります。
正確な費用を知るためには、診断書を依頼する医療機関に事前に電話や窓口で直接確認することをおすすめします。診断料や検査費用とは別に発生する費用ですので、確認時に「診断書作成の費用は別途かかりますか?」「おいくらですか?」と具体的に尋ねると良いでしょう。

医師が診断書を書いてくれないのはなぜですか?

医師が診断書作成を拒否する場合、「正当な理由」があると考えられます。主な理由としては、以下の点が挙げられます。

  • 診断基準を満たしていない、診断が確定していない: 医学的に見て、現時点で行為障害という診断を下すに至らない場合や、他の疾患との鑑別が難しく診断が確定していない場合。
  • 医師の専門外: その医師が児童思春期精神医学や行為障害の診療を専門としていない場合。
  • 患者(本人または家族)との信頼関係の問題: 提供された情報に疑義がある、虚偽の記載を求められていると感じるなど。
  • 診断書作成の必要性や目的が不明確: なぜ診断書が必要なのか、提出先がどこなのかが医師に伝わらない場合。
  • 診断から長期間経過している: 申請に必要な期間よりも診断から時間が経ちすぎており、現在の症状を正確に把握・記載できない場合。

医師法上、医師は正当な理由がない限り診断書の交付を拒めませんが、上記のような理由があれば正当な理由と判断される可能性があります。医師とのコミュニケーションを取り、拒否された理由を確認し、適切な対応を検討することが重要です。必要であれば、別の専門医に相談することも選択肢となります。

後遺障害診断書のように行為障害にも等級はありますか?

交通事故の後遺障害診断書で認定される「後遺障害等級」は、主に身体的な機能障害や神経系統の機能・精神・神経系統の障害などについて、自動車損害賠償保障法や自賠責保険の基準に基づき等級が認定されるものです。これに対して、行為障害そのものに、この後遺障害等級のような「行為障害等級」という特定の等級が医学的に定められているわけではありません。

しかし、行為障害によって生じる精神機能の障害や日常生活・社会生活への制限の程度は、障害年金や精神障害者保健福祉手帳といった公的な制度の申請において、その制度独自の基準に基づいた「等級」として評価されます。

  • 障害年金: 精神の障害として、国民年金・厚生年金保険法の基準に基づき1級~3級(厚生年金のみ)のいずれかに認定される可能性があります。
  • 精神障害者保健福祉手帳: 精神保健福祉法の基準に基づき1級~3級のいずれかに認定されます。

これらの等級は、医学的な診断名だけでなく、診断書に記載された「日常生活能力の程度」や「労働能力の制限」など、障害が生活に及ぼす具体的な影響に基づいて総合的に判断されます。したがって、「行為障害自体に等級がある」というよりは、「行為障害による生活への影響に応じて、申請する公的な制度の基準に基づき等級が認定される」と理解するのが正確です。

まとめ

行為障害の診断書は、診断名の証明に加えて、現在の症状、日常生活や社会生活での困難さ、そして必要な支援に関する医師の専門的な意見が盛り込まれる重要な書類です。学校での学び、職場での働き方、障害福祉サービスの利用、そして障害年金や各種手帳の申請など、様々な場面で本人が社会で適切に評価され、必要な支援に繋がるための「パスポート」となります。

行為障害診断書取得のポイント

  • 適切な医療機関の選定: 行為障害や児童思春期精神医学を専門とする精神科、心療内科、児童精神科を受診することが診断確定と診断書作成の第一歩です。
  • 情報提供の準備: 本人の生育歴、これまでの診断や治療歴、そして何よりも具体的な困った行動や日常生活での支障に関する詳細な情報は、正確な診断と診断書作成のために不可欠です。メモなどにまとめて医師に渡すと良いでしょう。
  • 診断書作成依頼時の明確化: 診断書が必要な目的(提出先、申請制度)と必要な書式を医師に正確に伝えます。
  • 費用は自費診療: 診断書作成には費用がかかり、保険適用外です。費用は医療機関や診断書の種類によって異なるため、事前に確認しましょう。
  • 医師とのコミュニケーション: 医師が診断書作成を拒否する場合、その理由を確認し、丁寧なコミュニケーションを心がけます。どうしても難しい場合は、セカンドオピニオンや別の専門医を探すことも検討します。
  • 制度ごとの要件確認: 障害年金や手帳など、申請する制度によって必要な診断書の様式やその他の書類、申請要件(初診日、納付要件、診断からの期間など)が異なります。申請前に必ず各制度の窓口で詳細を確認しましょう。

専門家(医師、弁護士、社労士など)への相談

行為障害の診断や診断書の作成、そしてそれを利用した制度申請は、専門的な知識が必要となる場面が多くあります。

  • 医師: 本人の状態を最もよく理解している専門家です。診断や治療はもちろん、診断書の記載内容や、どのような支援が本人に必要かについて相談できます。
  • 精神保健福祉士: 精神科医療機関や地域の精神保健福祉センター、相談支援事業所などに勤務しており、精神障害のある方の生活や福祉に関する相談に応じ、利用できる制度やサービスについて情報提供や支援計画作成のサポートを行います。
  • 社会保険労務士: 障害年金の申請手続きの専門家です。複雑な手続きや必要書類の準備、診断書内容に関するアドバイスなどを受けることができます。
  • 弁護士: 司法手続き(少年事件、刑事事件など)において診断書が必要となる場合や、医療機関とのトラブル(診断書交付拒否など)に関する相談に応じます。
  • 各制度の窓口: 市区町村の福祉課や年金事務所など、申請を希望する制度の担当窓口でも、手続きに関する相談や情報提供を行っています。

これらの専門家や窓口を適切に利用することで、診断書のスムーズな取得と、必要な支援やサービスへの確実な繋がりを目指すことができます。一人で抱え込まず、周囲のサポートも活用しながら進めていくことが大切です。

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