【心身症の薬】どんな種類がある?副作用や注意点も解説

心身症とは、精神的なストレスや社会的な要因が深く関与して、身体に様々な症状が現れる病気です。
例えば、仕事の悩みや人間関係のストレスが原因で、胃潰瘍や過敏性腸症候群、高血圧、頭痛などが生じることがあります。
これらの身体症状は、検査をしても明らかな病気や傷が見つからないにも関わらず persistent に続くことが特徴です。

心身症の治療では、ストレスの原因を取り除くことや、ストレスへの対処法を身につけることが重要ですが、同時に現れている身体症状や精神症状を和らげるための治療も必要になります。
その中で、薬物療法は症状の緩和に役立つ重要な手段の一つです。

この記事では、心身症の治療で用いられる薬の種類、それぞれの薬がどのような効果を発揮するのか、そして注意すべき副作用について詳しく解説します。
心身症の薬について不安を感じている方や、どのような治療があるのか知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

心身症の治療は、心と身体の両面からアプローチする包括的な治療が基本となります。
単に身体症状だけを抑えるのではなく、その背景にある精神的な要因や生活環境にも目を向け、全体的な回復を目指します。
薬物療法は、この包括的な治療の一環として位置づけられています。

薬は身体症状と精神症状の緩和に用いられる

心身症では、胃痛、腹痛、吐き気、下痢、便秘、頭痛、肩こり、動悸、息苦しさ、めまい、発汗、手足の冷えなど、多様な身体症状が現れます。
また、不安、抑うつ気分、不眠、イライラといった精神症状を伴うことも少なくありません。
これらの症状は、心身の苦痛となり、日常生活の質を著しく低下させる可能性があります。

薬物療法は、これらのつらい症状を直接的に和らげるために用いられます。
例えば、不安が強い場合には抗不安薬が、抑うつ気分が強い場合には抗うつ薬が処方されます。
また、胃の不調には消化器系の薬が、頭痛には鎮痛剤が使用されることがあります。
薬によって症状が和らぐことで、患者さんは心身の苦痛から解放され、より安心して他の治療法(例えば精神療法やカウンセリング)に取り組めるようになります。

薬物療法は心身両面からの包括的治療の一部

心身症の治療では、薬物療法に加え、精神療法(カウンセリングなど)、行動療法、自律訓練法、リラクセーション法、環境調整(職場や家庭でのストレス要因の改善)、生活習慣の改善(睡眠、食事、運動)などが複合的に行われます。

薬はあくまで「症状を緩和する」ためのツールであり、心身症の根本原因であるストレスへの対処や、考え方の癖を修正するといった部分には直接的には作用しません。
そのため、薬を服用しながら、並行して精神療法や環境調整などを行うことが、心身症の克服には不可欠です。
医師は、患者さんの症状、体質、生活環境などを総合的に判断し、薬物療法と他の治療法をどのように組み合わせて行うかを決定します。
薬物療法は、あくまで包括的な治療計画の一部として進められることを理解しておくことが大切です。

心身症で処方される主な薬の種類と特徴【一覧】

心身症の治療で処方される薬は多岐にわたりますが、大きく分けて「精神症状に用いられる薬」と「身体症状に用いられる薬」があります。
どちらの種類の薬が処方されるかは、患者さんの主な症状や全身状態によって異なります。

精神症状に用いられる薬

心身症における精神症状、特に不安や抑うつ、不眠は、身体症状と密接に関係していることが多く、これらの精神症状を治療することで、結果的に身体症状が改善することも珍しくありません。

抗不安薬(安定剤)の効果と種類

抗不安薬は、「安定剤」と呼ばれることもあり、主に過剰な不安や緊張を和らげる目的で使用されます。
心身症では、ストレスによって自律神経のバランスが乱れ、不安や動悸、発汗などの身体症状を引き起こすことがありますが、抗不安薬はこのような不安サイクルを断ち切るのに役立ちます。

抗不安薬の多くは、脳内のGABA(ガンマアミノ酪酸)という神経伝達物質の働きを強めることで効果を発揮します。
GABAは脳の興奮を抑える作用があり、GABAの働きが強まることで神経系の過活動が鎮まり、不安や緊張が和らぎます。

抗不安薬にはいくつかの種類があり、効果が続く時間(作用時間)によって分類されることがあります。

  • 超短時間型: 服用後すぐに効果が現れ、効果が続く時間が短いタイプです。
    主に頓服(症状が出たときに一時的に服用する)として、急な強い不安やパニック発作に使用されることがあります。
  • 短時間型: 超短時間型よりは効果が長く続きますが、比較的短いタイプです。
    寝つきが悪いなどの不眠にも用いられることがあります。
  • 中間時間型: 数時間にわたって効果が持続するタイプです。
    日中の不安や緊張の緩和に使われることが多いです。
  • 長時間型: 効果が長く持続し、体内にゆっくりと留まるタイプです。
    一日を通しての不安や、朝方の不安、持続的な不眠に用いられることがあります。

どのタイプの抗不安薬が適しているかは、症状の種類、重症度、効果が現れるまでの時間や持続時間の希望、生活スタイルなどを考慮して医師が判断します。

抗不安薬の強さ別リストと選び方

抗不安薬には、同じベンゾジアゼピン系の薬の中でも、種類によって不安を和らげる作用の強さに違いがあります。
一般的に、作用が強い薬ほど速やかに効果を感じやすい傾向がありますが、その分、副作用や依存性のリスクにも注意が必要です。

抗不安薬の作用の強さ(代表的な薬剤クラスと一般的なイメージ)

作用の強さ 代表的な薬剤クラス 一般的な特徴
強い 高力価ベンゾジアゼピン系 不安・パニック症状への即効性が期待される
中程度 中力価ベンゾジアゼピン系 広範な不安症状に用いられる
弱い 低力価ベンゾジアゼピン系 軽い不安や緊張、睡眠導入などに用いられる
その他 非ベンゾジアゼピン系 ベンゾジアゼピン系と異なる作用機序。依存性が低い

※具体的な薬剤名ごとの厳密な強さの比較は専門的な判断が必要であり、上記は一般的な傾向を示したものです。

医師は、患者さんの個々の症状の強さや、どのような状況で不安を感じやすいか(特定の場面か、持続的か)、さらには年齢、体質、他の病気の有無、現在服用している他の薬などを総合的に考慮して、最適な薬の種類と用量を決定します。
例えば、急な強い不安に対しては即効性のある短時間型や超短時間型の、一日中持続する不安に対しては中間時間型や長時間型の抗不安薬が選択されることがあります。
また、依存性のリスクを考慮し、非ベンゾジアゼピン系の抗不安薬が選択肢となる場合もあります。

自己判断で薬の強さや種類を変更することは絶対に避けてください。
必ず医師の指示に従いましょう。

抗不安薬の副作用や依存性について

抗不安薬は効果的な薬ですが、いくつかの注意すべき副作用があります。
最も一般的な副作用は、眠気、ふらつき、めまい、倦怠感です。
これらの副作用は、特に服用を開始した頃や用量を増やしたときに見られやすく、車の運転や危険な作業を行う際には十分な注意が必要です。
高齢者では、ふらつきによる転倒のリスクが高まることもあります。

また、抗不安薬、特にベンゾジアゼピン系の薬剤は、長期にわたって高用量を連用すると依存性が生じる可能性があります。
依存性が形成されると、薬を減らしたり中止したりした際に、元の症状が悪化したり、新たな不快な症状(離脱症状)が現れることがあります。
離脱症状としては、不安の増強、不眠、イライラ、手の震え、発汗、吐き気、頭痛、筋肉のぴくつきなどがあり、重症な場合には痙攣が生じることもあります。

依存性や離脱症状のリスクを避けるためには、以下の点が非常に重要です。

  • 医師の指示された用量・期間を厳守する: 自己判断で用量を増やしたり、長期間飲み続けたりしないこと。
  • 急な中止は避ける: 薬を中止したい場合や減らしたい場合は、必ず医師に相談し、医師の指示のもとで少量ずつ段階的に減らしていく(漸減する)こと。
  • 漫然とした長期使用を避ける: 症状が改善したら、医師と相談しながら徐々に薬を減らしていく方向で考えること。

非ベンゾジアゼピン系の抗不安薬(例: タンドスピロン)は、ベンゾジアゼピン系と比較して依存性や離脱症状のリスクが低いとされていますが、効果の感じ方には個人差があります。

抗不安薬を使用する際には、これらの副作用や依存性のリスクについて医師から十分な説明を受け、不安な点があれば質問することが大切です。

抗うつ薬の種類と効果

抗うつ薬は、その名の通りうつ病の治療に用いられる薬ですが、心身症に伴う抑うつ気分や意欲低下だけでなく、不安症状、さらには神経性の痛みや特定の身体症状(過敏性腸症候群など)にも効果を発揮することがあります。
心身症の患者さんの中には、抑うつ状態を伴う方や、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れが身体症状に関与していると考えられる方もいるため、抗うつ薬が処方されることがあります。

抗うつ薬は、脳内のセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンといった神経伝達物質の働きを調整することで効果を発揮します。
これらの神経伝達物質は、気分、意欲、不安、睡眠、食欲など、様々な心身の機能に関わっています。
心身症では、ストレスなどによってこれらの神経伝達物質のバランスが崩れていると考えられており、抗うつ薬によってこのバランスを整えることを目指します。

抗うつ薬にはいくつかの種類があり、作用機序によって分類されます。

  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬): セロトニンという神経伝達物質の働きを主に強める薬です。
    うつ病だけでなく、不安障害やパニック障害、強迫性障害などにも広く用いられます。
  • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬): セロトニンとノルアドレナリンの両方の働きを強める薬です。
    うつ病や不安障害に加えて、慢性的な痛み(神経障害性疼痛など)にも効果が期待できる場合があります。
  • 三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬: 比較的古いタイプの抗うつ薬ですが、現在でも使用されています。
    複数の神経伝達物質に作用し、効果が高い場合もありますが、副作用が出やすい傾向があります。
  • NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬): 独特の作用機序を持ち、眠気を引き起こしやすいという特徴から、不眠を伴う場合に選択されることがあります。
  • その他: SDRI(セロトニン・ドパミン再取り込み阻害薬)、メラトニン受容体作動薬(うつ病の治療薬として承認されているもの)、オレキシン受容体拮抗薬(不眠症治療薬として承認されているもの)など、様々なタイプの薬があります。

どの抗うつ薬が適しているかは、症状の種類や重症度、患者さんの体質、年齢、他の病気の有無、併用薬などを考慮して医師が判断します。

抗うつ薬の副作用と服用上の注意

抗うつ薬は、効果が出るまでに時間がかかる(通常は服用を開始してから2~4週間程度)という特徴があります。
服用を開始してすぐに効果が感じられなくても、自己判断で中止したり、用量を変更したりしないことが非常に重要です。
効果を判断するには、一定期間服用を続ける必要があります。

抗うつ薬の副作用は種類によって異なりますが、比較的よく見られるものとしては、吐き気、食欲不振、口渇、便秘、下痢、眠気、めまい、頭痛、性機能障害などがあります。
これらの副作用の多くは、服用を続けるうちに軽減したり消失したりすることが多いですが、つらい場合は医師に相談してください。

SSRIやSNRIなど、新しいタイプの抗うつ薬は、古いタイプの三環系や四環系抗うつ薬と比較して、口渇や便秘などの抗コリン作用性の副作用が少ない傾向がありますが、消化器系の副作用(吐き気、下痢など)が見られることがあります。

また、抗うつ薬も抗不安薬と同様に、自己判断で急に中止すると、めまい、吐き気、頭痛、倦怠感、不眠、不安、イライラなどの離脱症状が現れることがあります。
特に、服用期間が長かった場合や用量が多かった場合に起こりやすいため、中止や減薬を行う際は必ず医師の指示のもと、少量ずつゆっくりと行う必要があります。

その他、まれな副作用として、賦活症候群(不安、焦燥感、興奮、パニック発作などが一時的に悪化すること)やセロトニン症候群(セロトニン作用が過剰になり、精神症状、自律神経症状、神経・筋症状などが現れる重篤な副作用)などがあります。
これらの症状が現れた場合は、速やかに医師に連絡してください。

抗うつ薬の服用中は、医師と定期的に連絡を取り合い、効果や副作用についてしっかりと伝えることが大切です。

睡眠薬・睡眠導入薬の種類と注意点

心身症では、ストレスや不安、身体症状などによって不眠を伴うことが非常に多いです。
不眠は、疲労の蓄積、集中力の低下、イライラ、身体症状の悪化など、心身にさらなる負担をかけ、回復を妨げることがあります。
このような場合、一時的に睡眠薬や睡眠導入薬が処方されることがあります。

睡眠薬や睡眠導入薬もいくつかの種類があり、主に脳内の神経伝達物質の働きを調整することで眠りを誘います。
抗不安薬と同様にGABA系の作用を介して効果を発揮するもの(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系)や、脳内で睡眠・覚醒を調整する別のメカニズムに作用するもの(メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬)があります。

これらの薬も、効果の持続時間によって分類されることがあります。

  • 超短時間作用型: 服用後すぐに効果が現れ、短時間で効果が消失するため、寝つきが悪い場合に適しています。
    翌朝に眠気が残りにくいという利点があります。
  • 短時間作用型: 超短時間作用型よりもやや長く効果が持続します。
    寝つきの悪さに加えて、夜中に何度か目が覚める場合にも用いられることがあります。
  • 中間時間作用型: 数時間にわたって効果が持続します。
    比較的長時間眠りを維持したい場合に用いられますが、翌朝に眠気や倦怠感が残る可能性があります。
  • 長時間作用型: 効果が長く持続し、重度の不眠や、夜間だけでなく日中の不安や緊張が強い場合にも用いられることがあります。
    翌朝への影響が出やすい傾向があります。

睡眠薬・睡眠導入薬に関する注意点

  • 服用は寝る直前に: 服用してから効果が現れるまでの時間や、ふらつきのリスクを考慮し、布団に入ってから服用するのが原則です。
    服用後に布団に入る前に転倒したり、普段しない行動をとったりする(複雑な指示行動)リスクがあるため、注意が必要です。
  • アルコールとの併用は避ける: アルコールと一緒に服用すると、薬の作用が増強され、過度に眠くなったり、呼吸抑制などの危険な副作用が出やすくなったりします。
    絶対に避けましょう。
  • 依存性や耐性: 特にベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、抗不安薬と同様に依存性や耐性(同じ量では効かなくなること)が生じる可能性があります。
    漫然とした長期使用は避けるべきです。
  • 離脱症状: 薬を急に中止すると、不眠が悪化したり、不安やイライラ、震えなどの離脱症状が現れることがあります。
    中止や減薬は必ず医師の指示のもとで行いましょう。
  • 副作用: 翌朝の眠気、ふらつき、倦怠感、記憶障害(特に服用前後の出来事を覚えていない前向性健忘)などが起こることがあります。
  • 症状に応じた使い分け: 不眠の原因やタイプ(寝つきが悪い、途中で目が覚める、早く目が覚めるなど)によって適した薬が異なります。
    医師と相談して、症状に合った薬を選んでもらうことが重要です。

睡眠薬は不眠による心身の負担を軽減し、他の治療に進みやすくするための補助的な役割を果たします。
薬だけに頼るのではなく、規則正しい生活習慣、寝室環境の整備、寝る前のリラックス法など、睡眠衛生の改善にも同時に取り組むことが大切です。

身体症状に用いられる薬

心身症の身体症状は、ストレスによって自律神経系や内分泌系、免疫系などが影響を受けることで生じると考えられています。
そのため、これらの身体症状を直接的に緩和するための薬も使用されます。

自律神経調整薬の役割

自律神経は、心拍、血圧、呼吸、消化、体温調節など、生命維持に必要な身体の様々な機能を無意識のうちにコントロールしています。
心身症では、ストレスによってこの自律神経のバランス(交感神経と副交感神経のバランス)が乱れ、動悸、発汗、めまい、冷え、消化器症状など、多岐にわたる身体症状が現れます。

自律神経調整薬は、このような自律神経の乱れを和らげることを目指す薬です。
例えば、交感神経の過活動による動悸や手の震えに対しては、β(ベータ)遮断薬が用いられることがあります。
β遮断薬は、交感神経の作用をブロックすることで心拍数を落ち着かせたり、震えを抑えたりする効果があります。

また、漢方薬の中にも、自律神経のバランスを整える効果が期待されるものがいくつかあり、体質や症状に合わせて処方されることがあります(例: 柴胡加竜骨牡蛎湯、半夏厚朴湯など)。

自律神経調整薬は、あくまで自律神経のバランスの乱れによって生じる身体症状を緩和することを目的としており、心身症の根本原因であるストレスやその対処法に直接的に作用するものではありません。

症状別の対症療法薬(鎮痛剤、消化器薬など)

心身症で現れる身体症状があまりにもつらく、日常生活に支障を来す場合、その症状自体を和らげるための対症療法薬が処方されることがあります。

  • 頭痛: 緊張型頭痛などに対して、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛剤が用いられます。
    筋弛緩薬が効果的な場合もあります。
  • 消化器症状:
    • 胃痛、もたれ、吐き気などには、胃酸分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬、H2ブロッカー)、胃の動きを調整する薬(消化管運動機能改善薬)、制吐剤などが用いられます。
    • 下痢には、止痢薬や整腸剤が、便秘には、下剤や整腸剤が用いられます。
    • 過敏性腸症候群(IBS)に対しては、腸の動きを調整する薬、精神的な要因にも作用する抗うつ薬(特にSNRIや三環系)などが用いられることもあります。
  • めまい: めまい止めや、自律神経のバランスを整える薬などが用いられます。
  • 肩こり、体の痛み: 鎮痛剤や筋弛緩薬、湿布薬などが用いられます。

これらの対症療法薬は、つらい身体症状を一時的に和らげるためには有効ですが、心身症の根本にあるストレスや精神的な問題が解決されない限り、症状が再発したり、薬を中止すると症状が出現したりすることがあります。
そのため、対症療法薬を使用しながら、同時に心身症の根本治療に取り組むことが重要です。

心身症に市販薬は有効?

心身症かもしれないと感じたときに、「まずは市販薬で様子を見ようかな」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、心身症に対して市販薬がどこまで有効か、またどのような場合に専門医を受診すべきかを知っておくことは非常に重要です。

市販薬で対応できる範囲と限界

薬局やドラッグストアで購入できる市販薬の中には、心身症の症状と似たような症状(軽い胃もたれや腹痛、一時的な不眠、軽い頭痛など)に効果が期待できるものがあります。

  • 胃腸薬: ストレスによる一時的な胃痛や胃もたれに対して、胃酸を抑える成分や胃の粘膜を保護する成分、消化を助ける成分などが配合された市販の胃腸薬が一時的に効果を示すことがあります。
    漢方処方の胃腸薬なども利用されています。
  • 鎮痛剤: 軽い緊張型頭痛などに対して、市販の鎮痛剤(アセトアミノフェンやNSAIDsなど)が効果を示すことがあります。
  • 睡眠改善薬: 一時的な不眠(寝つきが悪い、眠りが浅いなど)に対して、抗ヒスタミン作用による眠気を誘う成分を含む市販の睡眠改善薬が販売されています。
  • 漢方薬: ストレスや自律神経の乱れによる症状に用いられる漢方処方(例: 抑肝散、加味逍遙散など)の中には、医師の処方がなくても購入できるものがあります。

しかし、市販薬はあくまで「一時的な軽い症状」や「特定の身体症状」に対する対症療法を目的としています。
心身症のように、ストレスや心理的な要因が背景にあり、様々な身体症状や精神症状が複合的に、かつ持続的に現れている状態に対しては、市販薬の対応には限界があります。

市販薬は、心身症の根本原因である「心と身体のバランスの乱れ」や「ストレスへの対処」に直接作用するものではありません。
また、市販薬では、心身症に伴う精神症状(強い不安や抑うつ)や、複数の身体症状、重症な身体症状に対して十分な効果を得ることは難しいでしょう。
さらに、市販薬にも副作用のリスクはあり、長期にわたって使用したり、他の薬との飲み合わせが悪かったりすると、健康を害する可能性もあります。

どのような場合に市販薬ではなく受診すべきか

以下のような場合には、「市販薬で様子を見る」のではなく、心療内科や精神科などの専門医を受診することを強くお勧めします。

  • 症状が2週間以上続く、または悪化している: 一時的な体調不良や軽いストレス反応であれば、通常は数日〜1週間程度で改善することが多いですが、症状が長引いている場合は専門的な評価が必要です。
  • 身体症状が重い、または複数現れている: 強い痛み、繰り返す嘔吐、原因不明の発熱、体重減少など、身体症状が重い場合や、頭痛、腹痛、動悸など複数の症状が同時に現れている場合は、心身症以外の病気の可能性も考慮し、専門医による診断が必要です。
  • 精神症状が強い: 強い不安感、常に落ち込んでいる、何もする気にならない(意欲低下)、楽しいと感じない、自分を責めてしまう、死にたい気持ちがあるなどの精神症状が強い場合は、うつ病や不安障害など他の精神疾患の可能性もあり、速やかな専門医の診察が必要です。
  • 日常生活に支障が出ている: 症状のために、学校や会社に行けない、家事ができない、人と会うのが億劫になる、眠れない日が続くなど、日常生活や社会生活に支障が出ている場合は、専門的な治療が必要です。
  • 市販薬を試したが効果がない、または副作用が出た: 市販薬を使用しても症状が改善しない場合や、かえって体調が悪くなった(副作用が出た)場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。
  • 身体的な病気ではないと診断されたのに症状が続く: 内科などを受診して検査を受けたが、身体的な病気は見つからなかった、という場合で症状が続く場合は、心身症の可能性が高く、専門医の診察が適しています。
  • 自分自身や周囲の人が心配している: 「いつもと様子が違うな」「ストレスが溜まっているみたいだけど大丈夫かな」など、自分自身や家族・友人が心身の状態を心配している場合も、受診のサインの一つです。

心身症は、早期に適切な診断と治療を受けることが、症状の改善や回復、慢性化の予防につながります。
市販薬はあくまで一時的な補助として捉え、少しでも不安や気になる症状が続く場合は、専門医に相談することが最も安全で確実な方法です。

心身症と薬に関するよくある質問

心身症の薬物療法について、患者さんやご家族からよく聞かれる質問とその回答をまとめました。

心身症は薬だけで完治しますか?

結論から言うと、心身症が薬だけで「完治する」ことは基本的に難しいと考えられています。

心身症は、ストレスや心理的な要因が身体に影響を与えて症状が現れる病気です。
薬物療法は、この病気によって引き起こされるつらい身体症状や精神症状(不安、抑うつ、不眠など)を和らげる上で非常に効果的であり、治療の重要な柱の一つです。
薬によって症状が緩和されることで、心身の負担が減り、他の治療法に取り組むためのエネルギーや余裕が生まれます。

しかし、薬はあくまで「症状を抑える」ものであり、心身症の根本原因であるストレスの要因そのものを取り除いたり、ストレスへの対処法を身につけたり、考え方の癖を修正したりといった部分に直接作用するわけではありません。

心身症を克服し、再発を防ぐためには、薬物療法と並行して、以下のような包括的な治療アプローチを行うことが重要です。

  • 精神療法・カウンセリング: ストレスの原因や、症状に関わる心理的な要因について医師や心理士と話し合い、理解を深める。
    ストレスへの対処法を学ぶ。
  • 行動療法: ストレス反応を引き起こしやすい考え方や行動パターンを修正する。
  • 自律訓練法・リラクセーション: 自律神経のバランスを整え、心身の緊張を和らげる方法を習得する。
  • 環境調整: ストレスの原因となっている職場や家庭の環境を改善する。
  • 生活習慣の改善: 十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動など、心身の健康を保つための生活習慣を整える。

これらの治療法と薬物療法を組み合わせることで、心身両面からの回復を目指すことができます。
薬は、他の治療を受けやすくするための補助的な役割を果たすものとして捉えることが大切です。
症状が改善した後も、再発予防のために薬物療法や精神療法などを継続する場合があります。

心を穏やかにするために処方される薬は?

心を穏やかにしたり、リラックスさせたりする目的で心身症の治療に用いられる薬はいくつかあります。
主なものとしては、抗不安薬(安定剤)一部の抗うつ薬自律神経調整薬、そして場合によっては漢方薬などがあります。

  • 抗不安薬(安定剤): 不安や緊張を和らげ、リラックス効果をもたらす代表的な薬です。
    脳内の神経伝達物質(特にGABA)の働きを強めることで、神経系の過活動を鎮め、心を落ち着かせる作用があります。
    即効性が期待できるものもありますが、依存性や副作用のリスクには注意が必要です。
  • 抗うつ薬(特にSSRIやSNRI): うつ症状だけでなく、不安や焦燥感、イライラといった症状にも効果を発揮することがあります。
    脳内のセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質のバランスを整えることで、長期的に気分の安定や心の落ち着きをもたらす効果が期待できます。
    効果が出るまでに時間がかかるという特徴があります。
  • 自律神経調整薬: ストレスによる自律神経の乱れが原因で生じる動悸や発汗、体の震えといった身体症状が、不安感を増強させることがあります。
    自律神経調整薬(例: β遮断薬)を用いてこれらの身体症状を和らげることで、間接的に心を穏やかにする効果が期待できる場合があります。
  • 漢方薬: 漢方医学では、心身の状態を全体的に捉え、バランスを整えることを重視します。
    心身症の症状に対して、不安や緊張、イライラ、不眠などを和らげる効果が期待される漢方処方(例: 抑肝散、加味逍遙散、柴胡加竜骨牡蛎湯など)が用いられることがあります。
    漢方薬の効果の感じ方には個人差があり、効果が出るまでに時間がかかる場合もあります。

どの薬が処方されるかは、患者さんの主な症状(不安が強いのか、抑うつ気分が強いのか、身体症状が中心なのか)、体質、年齢、他の病気の有無、現在服用している他の薬などを考慮して医師が総合的に判断します。
心を穏やかにするための薬は、症状を緩和し、心身の負担を軽減することを目的としており、医師との相談のもと、適切に使用することが重要です。

抗不安薬を病気でない人が飲むとどうなりますか?

抗不安薬は、医師が診断した上で処方されるべき「処方箋医薬品」です。
病気(不安障害や心身症など)でない人が、不安を感じやすいという理由だけで自己判断で服用することは、非常に危険であり推奨されません。

抗不安薬を服用すると、病気でない人でも脳内のGABA系の働きが強まり、一時的にリラックスしたり、眠くなったりする効果を感じる可能性があります。
しかし、これは治療として適切に用いる場合の効果とは異なります。

病気でない人が抗不安薬を服用することのリスクとしては、以下のような点が挙げられます。

  • 副作用の発現: 眠気、ふらつき、めまい、倦怠感などの副作用が現れる可能性があります。
    これらの副作用は、車の運転や機械の操作など、注意を要する作業中の事故につながる危険があります。
  • 依存性の形成: 特にベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、精神的・身体的な依存性を形成するリスクがあります。
    病気でない人が、一時的なストレスや不安を解消するために安易に使用を繰り返すと、薬なしでは落ち着かなくなる「依存」の状態に陥る可能性があります。
  • 離脱症状: 依存性が形成された状態で薬を急に中止すると、強い不安や不眠、イライラ、体の震えなどの離脱症状が現れ、かえって症状が悪化したり、新たな苦痛が生じたりします。
  • 正しい診断の遅れ: 心身の不調には、心身症以外にも様々な原因(身体的な病気、他の精神疾患など)が考えられます。
    自己判断で市販の抗不安作用を期待するサプリメントや個人輸入の薬などに頼ってしまうと、本来受けるべき専門的な診断や治療が遅れてしまう可能性があります。
  • 体への負担: 薬は体内で代謝・排泄されるため、肝臓や腎臓などに負担をかける可能性があります。

不安を感じやすい、ストレスに対処するのが苦手、といった悩みがある場合は、自己判断で薬を使用するのではなく、まずは心療内科や精神科の医師に相談することが大切です。
医師は、症状の原因を診断し、薬物療法が必要かどうか、必要であればどのような種類の薬をどのくらいの期間使用すべきかを判断してくれます。
薬以外の対処法(カウンセリング、生活習慣の改善など)についてもアドバイスを受けることができます。

心身症の薬について不安がある場合は専門医へ相談しましょう

心身症の治療における薬物療法は、つらい症状を和らげ、心身の回復を助ける上で非常に有用な手段です。
しかし、薬の種類によって効果や副作用、注意点などが異なり、また個人によって薬の効き方や合う・合わないもあります。

この記事では、心身症で用いられる主な薬の種類や特徴、副作用について解説しましたが、これは一般的な情報であり、個々の患者さんの状態に合わせた専門的な判断は医師にしかできません。

もし、ご自身の心身の不調が心身症かもしれないと感じている方、現在心身症の治療を受けているが薬について不安や疑問がある方は、一人で抱え込まず、必ず心療内科や精神科などの専門医に相談してください。

医師は、あなたの症状や体の状態を詳しく診察し、適切な薬を選択し、用法・用量について丁寧に説明してくれます。
また、薬の副作用や依存性についてもリスクを最小限にするための方法を指導してくれます。
薬物療法以外にも、カウンセリングや生活指導など、様々な治療法について相談することも可能です。

心身症の治療は、医師との信頼関係を築き、共に病気に向き合っていくことが大切です。
薬について漠然とした不安がある、特定の副作用が気になる、いつまで薬を飲み続けるのか知りたい、など、どんな些細なことでも構いませんので、遠慮なく医師に質問し、納得した上で治療を進めてください。

適切な薬物療法と、その他の治療法を組み合わせることで、心身のバランスを取り戻し、より快適な日常生活を送ることができるようになるでしょう。

免責事項
本記事は情報提供を目的としており、特定の薬剤の使用を推奨するものではありません。
心身症の診断や治療には専門医の診察が必要です。
本記事の情報に基づいて自己判断で服薬を開始、変更、中止することは絶対に避けてください。
お困りの際は、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。

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