心身症の原因とは?ストレスとの関係やメカニズムを解説

心身症は、こころのつらさや社会的なストレスが原因で、身体にさまざまな症状が現れる病気です。単なる「気のせい」ではなく、実際に身体的な不調として現れるため、多くの人が「どこか悪いのではないか」と不安を感じることがあります。しかし、医療機関で検査をしても、その症状を十分に説明できるような身体の病気が見つからない場合に、心身症が疑われることがあります。なぜこころのつらさが身体の不調につながるのか、その原因は複雑に絡み合っています。この記事では、心身症の主な原因、現れる症状、診断方法、治療法、そして受診すべき専門科について詳しく解説します。心身の不調にお悩みの方が、ご自身の状態を理解し、適切な一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。

心身症の原因とは?

心身症の発症には、単一の原因だけでなく、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。主に、心理的要因社会的要因、そしてこれらの要因の影響を受けやすい身体的要因(体質や既往歴など)が相互作用することで、心身のバランスが崩れ、身体症状として現れると考えられています。ここでは、それぞれの要因について掘り下げて見ていきましょう。

心理的要因と心身症の原因

心身症の原因として最もよく挙げられるのが、こころの内部で起こる心理的な要因です。これらは、外部からの刺激であるストレスと、それに対する個人の受け止め方や対処の仕方が関係しています。

ストレスの種類と心身症

ストレスは、心身症の大きな引き金となります。私たちは日常生活の中で、さまざまな種類のストレスにさらされています。これらのストレスが過剰になったり、慢性的に続いたりすると、心身に不調をきたしやすくなります。

主なストレスの種類としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 精神的ストレス: 人間関係のトラブル(家族、友人、職場、近所)、仕事や学業のプレッシャー、将来に対する不安、経済的な問題、病気や怪我への心配など、こころに負担をかける出来事や状況です。特に、長期間解決しない問題や、逃れられないと感じる状況は、大きな精神的ストレスとなります。
  • 身体的ストレス: 過労、睡眠不足、不規則な生活、病気や怪我、痛み、騒音や悪臭、気温や湿度の急激な変化など、身体に直接的に負担をかける要因です。たとえば、慢性的な肩こりや腰痛、風邪をひきやすいといった身体の状態自体がストレス源となることもあります。
  • 環境的ストレス: 引っ越し、転職、部署異動、進学、卒業など、生活環境の大きな変化もストレスになり得ます。これらの変化に適応しようとする際に、無意識のうちに心身に負担がかかっていることがあります。たとえ好ましい変化であっても、新しい環境への適応にはエネルギーが必要であり、ストレスとなり得ます。

これらのストレスは、脳の視床下部や下垂体を経由して、自律神経系や内分泌系、免疫系に影響を与えます。ストレスが続くと、これらのシステムが常に興奮した状態になったり、逆に機能が低下したりして、全身のバランスが崩れます。例えば、自律神経のうち交感神経が過剰に働くと、心臓がドキドキしたり、胃酸が多く出たり、筋肉が緊張したりといった身体反応が起こります。これが特定の臓器に持続的な影響を与え、症状として現れると考えられています。

性格・考え方の傾向

同じようなストレスにさらされても、心身症になる人とならない人がいます。これは、ストレスをどのように受け止め、どのように対処するかといった、個人の性格や考え方の傾向が大きく関わっているためです。

心身症になりやすいとされる性格や考え方の傾向には、以下のようなものが指摘されることがあります。

  • 真面目で責任感が強い: 맡겨진 日や役割を完璧にこなそうとし、手を抜くことができない。他人の期待に応えようと努力しすぎる。
  • 完璧主義: 何事も理想通りに進めようとし、少しのずれも許せない。失敗を極度に恐れる。
  • 頑張りすぎる、無理をする: 疲れていても休まず、自分の限界を超えて努力を続けてしまう。他人に弱みを見せられない。
  • 感情の表現が苦手: 怒り、悲しみ、不安といったネガティブな感情を内に溜め込み、言葉や行動で適切に表現できない。
  • 他人の評価を気にしすぎる: 周囲からどう見られているかを常に意識し、自分の行動や発言が他人にどう影響するかを過剰に心配する。
  • 自己肯定感が低い: 自分に自信が持てず、「自分はダメだ」「どうせうまくいかない」といった否定的な考えを持ちやすい。
  • 拒否や断ることが苦手: 人からの頼まれごとを断れず、自分のキャパシティを超えて引き受けてしまう。
  • 白黒思考、極端な考え方: 物事を中間がなく、「すべてが順調か、すべてがダメか」といった極端な二分法で捉えがち。

これらの傾向を持つ人は、ストレスを感じやすい状況に身を置いたり、ストレスを感じても適切に解消するのではなく、抱え込んでしまったりする傾向があります。ただし、これらの性格傾向そのものが悪いわけではありません。これらの傾向を持つ人が、ストレスを上手にマネジメントする方法を知らなかったり、頼れる人がいなかったりする場合に、心身症のリスクが高まると考えられます。自身の考え方や反応パターンに気づき、柔軟に対応できるようになることが、心身症の予防や改善につながります。

社会的要因と心身症の原因

私たちが所属する社会環境も、心身症の発症に深く関わっています。家庭、学校、職場、地域社会など、様々な社会的状況から生じるストレスが、心身のバランスを崩す原因となります。

職場環境や人間関係

特に成人にとって、多くの時間を過ごす職場は大きな社会的要因となります。職場で抱えるストレスは、心身症の原因として無視できません。

  • 過重労働: 労働時間が長すぎる、休憩が十分に取れない、休日が少ないなど、身体的・精神的に大きな負担がかかる働き方は、慢性的な疲労や睡眠不足を引き起こし、心身症のリスクを高めます。
  • ハラスメント: パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、モラルハラスメントなど、職場での不適切な言動や扱いは、強い精神的苦痛を与え、心身の健康を著しく損ないます。
  • 人間関係のトラブル: 上司、同僚、部下との関係がうまくいかない、派閥争いがある、孤立しているなど、職場の人間関係のストレスは、毎日の出勤を困難にし、心身に大きな負担となります。
  • 役割の不明確さや葛藤: 自分の仕事の範囲や責任が曖昧であったり、複数の役割の間で板挟みになったりすることもストレスになります。
  • 評価への不満: 自分の働きが正当に評価されていないと感じたり、過小評価されていると感じたりすることも、モチベーションの低下や精神的な負担につながります。

職場環境だけでなく、家庭内での人間関係(夫婦関係、親子関係、親戚関係など)や、友人関係、地域社会での付き合いなども、大きなストレス源となり得ます。特に、密接な関係性の中で生じるトラブルは、逃げ場がなく、精神的な負担が大きくなる傾向があります。

ライフイベント

人生には、結婚、出産、進学、就職、引っ越し、昇進、家族との死別、退職など、様々なライフイベントがあります。これらの出来事は、私たちの生活を大きく変化させ、適応を求められます。たとえ一般的に「喜ばしい出来事」とされるものであっても、変化にはエネルギーが必要であり、ストレスとなり得ます。

例えば、結婚は新しい生活への期待とともに、パートナーとの関係構築や家事分担、それぞれの家族との付き合いなど、新たな課題も生じます。出産は大きな喜びである一方で、睡眠不足、育児の負担、経済的な心配など、様々なストレスを伴います。リストラや倒産、離婚、大切な人との死別といったネガティブなライフイベントは、強い悲しみや絶望感、経済的な困難などを伴い、心身に深刻なダメージを与える可能性があります。

これらのライフイベントが立て続けに起こったり、個人的な対処能力を超えたりした場合に、心身症の発症リスクが高まります。ライフイベントそのものだけでなく、それに伴う精神的な負担や、環境の変化への適応の難しさが、心身の不調を引き起こす要因となります。

身体的要因も心身症の原因に関わるか

心身症は主に心理的・社会的要因が原因とされますが、身体的な要因も全く無関係ではありません。身体的要因は、心身症の「土台」となったり、「症状が現れる場所」に影響を与えたりすると考えられています。

例えば、もともと胃腸が弱い体質の人や、過去に胃潰瘍を患ったことがある人が強いストレスにさらされた場合、そのストレスが胃の不調(胃痛や胃もたれなど)として現れやすい、といったケースが考えられます。これは、ストレスが自律神経を通じて特定の臓器(この場合は胃)に影響を与えやすいことに加えて、その臓器がもともと脆弱である、あるいは過去の病気で機能が低下しているといった身体的な要因が重なるためです。

また、慢性的な疲労や睡眠不足、不規則な生活習慣、喫煙、過度の飲酒なども、身体の恒常性(バランスを保つ機能)を乱し、ストレスの影響を受けやすい状態を作ります。これらの生活習慣の乱れ自体が身体的ストレスとなり、心身症の発症や症状の悪化に関わることもあります。

さらに、脳機能の偏りや、神経伝達物質のアンバランスなども、心理的なストレスへの反応の仕方や、身体症状の現れ方に関与している可能性が指摘されています。しかし、これらの身体的要因が心身症の直接的な「原因」というよりは、心理社会的要因が引き起こす身体反応に対して、その個人がどれだけ脆弱か、どのような形で症状が出やすいかといった部分に関わると考えられています。

心身症の原因は、このように心理的、社会的、身体的な要因が複雑に絡み合い、相互に影響し合って形成されます。そのため、心身症の治療では、単に症状を抑えるだけでなく、これらの複数の要因にアプローチすることが重要となります。

心身症の主な症状

心身症の症状は非常に多岐にわたります。その最も特徴的な点は、心理的・社会的要因によって引き起こされるにも関わらず、身体に様々な不調が現れることです。検査をしても明確な身体的な病気が見つからないことが多いのが、心身症の診断の手がかりとなります。心身症では、身体症状だけでなく、それに伴う精神的な症状も現れることがあります。

身体症状

心身症によって現れる身体症状は、全身のあらゆる臓器やシステムに及びます。代表的なものをいくつか挙げます。

  • 循環器系: 動悸、胸の痛みや圧迫感、息切れ、めまい、立ちくらみ、血圧の変動(高血圧や低血圧)。
  • 呼吸器系: 息苦しさ、過呼吸(過換気症候群)、咳が止まらない。
  • 消化器系: 胃痛、腹痛、胃もたれ、吐き気、食欲不振、下痢、便秘、喉の詰まり感(ヒステリー球)。
  • 神経系: 頭痛(緊張型頭痛など)、しびれ、ふるえ、麻痺感、めまい。
  • 筋骨格系: 肩こり、首の痛み、腰痛、関節痛、全身の倦怠感、疲労感。
  • 皮膚: かゆみ、じんましん、発疹、多汗。
  • その他: 睡眠障害(寝つきが悪い、夜中に目が覚める、朝早く目が覚める、眠りすぎる)、微熱、冷え、頻尿、残尿感。

これらの症状は、特定の臓器に集中することもあれば、複数の場所に同時に現れることもあります。症状の程度も、軽いものから日常生活に支障をきたすほど重いものまで様々です。重要なのは、これらの症状が、心理的なストレスや社会的な困難に直面している時期に悪化したり、逆にストレスから解放されると軽快したりといった変動を示すことが多い点です。

【心身症の主な身体症状の例】

臓器/システム 具体的な症状例
循環器系 動悸、胸痛、息切れ、めまい、立ちくらみ、血圧変動
呼吸器系 息苦しさ、過呼吸、咳
消化器系 胃痛、腹痛、吐き気、下痢、便秘、食欲不振、喉の詰まり
神経系 頭痛、しびれ、ふるえ、麻痺感
筋骨格系 肩こり、腰痛、関節痛、全身倦怠感
皮膚 かゆみ、じんましん、多汗
その他 睡眠障害、微熱、冷え、頻尿

これらの症状がある場合、まずは内科などで身体的な病気がないか確認することが大切です。しかし、検査をしても異常が見つからない、あるいは見つかった異常だけでは症状の説明がつかない場合に、心身症が疑われることになります。

精神症状

心身症では、身体症状とともに、あるいは身体症状に伴って精神的な不調も現れることが少なくありません。これは、身体の不調がこころに影響を与えたり、もともとの心理的な問題が精神症状として現れたりするためです。

主な精神症状としては、以下のようなものがあります。

  • 不安: 漠然とした不安感、心配性、落ち着きのなさ、過度な緊張。身体の不調が「重い病気ではないか」という健康不安につながることも多いです。
  • 抑うつ: 気分が落ち込む、何もする気にならない、楽しいと感じられない、悲しい気持ちが続く。身体の不調が続くと、気力や活力が低下し、うつ状態になることがあります。
  • イライラ、怒りやすさ: ちょっとしたことで腹が立つ、感情のコントロールが難しい。
  • 集中力の低下: 物事に集中できない、注意力が散漫になる。
  • 意欲の低下: 仕事や趣味に対する興味を失う、行動を起こすのが億劫になる。
  • 過敏性: 音や光、他人の言動などに対して過敏に反応する。
  • 孤独感: 誰にも理解されない、一人で抱え込んでいると感じる。
  • 恐怖感: 特定の状況や場所に対する強い恐怖(例:電車に乗れない、人混みが怖い)。

これらの精神症状は、身体症状をさらに悪化させる要因となることもあります。例えば、不安や抑うつが強いと、自律神経のバランスがさらに崩れ、胃痛や頭痛が悪化するといった悪循環に陥ることがあります。

心身症の治療では、これらの身体症状と精神症状の両方に適切にアプローチすることが重要です。患者さん自身の苦痛は身体症状として現れることが多いですが、その背景にある心理的・社会的な問題や、それに伴う精神的な不調を理解し、対応することが回復への鍵となります。

心身症の診断

心身症の診断は、特定の検査だけで確定できるものではなく、医師が患者さんの全体像を把握し、総合的に判断することが重要です。主に、問診と身体的な検査によって行われます。

診断基準

心身症の診断基準として、国際的な診断分類であるICD(国際疾病分類)やDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)などが参考にされます。日本心身医学会では、心身症を「身体の疾患であり、その発症や経過に心理社会的要因が密接に関与し、器質的あるいは機能的障害を伴うもの」と定義しています。

この定義からもわかるように、診断の重要なポイントは以下の2点です。

  1. 心理的・社会的要因の関与: ストレスや生活上の困難といった心理的・社会的要因が、症状の発症や悪化に深く関わっていると認められること。
  2. 器質的または機能的障害: 身体に何らかの障害(病変が見られる、あるいは機能の異常が認められる)があること。ただし、この身体的な障害が、心理社会的要因だけでは説明できない場合や、心理社会的要因がその障害を悪化させている場合に心身症と判断されます。

診断プロセスでは、まず患者さんの詳細な問診が行われます。

  • 現在の症状: いつから、どのような症状が現れているか。症状の強さ、頻度、時間帯による変化など。
  • 症状とストレスの関係: 症状が現れる前に、何か強いストレス(仕事、人間関係、ライフイベントなど)はなかったか。ストレスを感じる状況で症状が悪化するか。
  • 既往歴: これまでにどのような病気をしたか、現在治療中の病気や服用中の薬はあるか。
  • 生活状況: 家族構成、仕事、学校、趣味、睡眠、食事、飲酒、喫煙などの生活習慣。
  • 性格や考え方の傾向: ストレスへの対処の仕方、完璧主義かどうかなど。

次に、症状の原因として考えられる身体的な病気を除外するための検査が行われます。例えば、胃痛があれば胃カメラ検査、動悸があれば心電図検査や採血など、症状に応じた検査が行われます。これらの検査で、症状を十分に説明できるような明らかな身体的な病気(例:進行した胃がん、重度の心臓病など)が見つかった場合は、そちらの病気として治療が進められます。しかし、検査をしても異常が見つからなかったり、見つかった異常だけでは症状の程度を説明できなかったりする場合に、「心理社会的要因が強く関与している」と判断され、心身症の診断に至ることが多いです。

つまり、心身症の診断は、問診で心理社会的要因との関連性を疑い、身体的な検査で他の病気を除外した上で、総合的に判断されるプロセスと言えます。

心身症と自律神経失調症などとの違い

心身症とよく似た症状を呈するため、混同されやすい病気や状態がいくつかあります。代表的なものとして、自律神経失調症身体表現性障害うつ病パニック障害などが挙げられます。これらの違いを理解することは、適切な診断と治療につながる上で重要です。

ここでは、心身症と自律神経失調症、身体表現性障害の主な違いを表で比較してみましょう。

項目 心身症 自律神経失調症 身体表現性障害
主な特徴 心理社会的要因が原因で、特定の身体疾患(胃潰瘍、喘息など)の発症や経過に影響するもの。身体に器質的または機能的な障害を伴う。 自律神経のバランスが崩れることで、様々な不定愁訴(特定の病気としてまとまらない多様な身体症状)が現れる状態。病気というより症候群として扱われることが多い。 心理的要因が原因で、身体症状が主となる精神障害。医学的に説明できる身体的な病気や機能障害が見当たらないことが多い。症状の現れ方に心理的な背景が色濃く反映されることがある。
原因 心理的・社会的要因 + 身体的要因(体質、既往歴)の複合的な影響 ストレス、不規則な生活、体質など、様々な要因による自律神経機能の乱れ 心理的要因が主。無意識のうちに心の葛藤やストレスが身体症状として現れるとされる。
診断 問診、身体検査で他の病気を除外。特定の身体疾患と心理社会的要因の関連を評価。 問診、自律神経機能検査など。身体的な病気がないことを確認。症状の多様性や変動性を評価。 問診、身体検査で他の病気を厳重に除外。心理的な背景と症状の関連を評価。
治療アプローチ 原因となる心理社会的要因へのアプローチ + 身体症状への対症療法。心理療法、環境調整、薬物療法。 自律神経のバランスを整えるための生活指導、薬物療法(自律神経調整薬、抗不安薬など)、心理療法。 心理療法(精神分析、認知行動療法など)が中心。薬物療法は補助的。

自律神経失調症は、心身症の原因となることもありますが、自律神経のバランスが崩れた結果として現れる多様な身体症状(頭痛、めまい、動悸、倦怠感など)の症候群を指すことが多いです。心身症は、自律神経の乱れを経て特定の臓器に影響し、胃潰瘍や気管支喘息といった具体的な身体疾患として現れる点で、単なる自律神経失調症と区別されることがあります。ただし、自律神経失調症もストレスが深く関わるため、線引きが難しい場合もあります。

身体表現性障害は、検査をしても症状を説明できるような身体的な異常がほとんど見つからないにも関わらず、身体症状に苦しむ精神障害です。心身症は、高血圧や胃潰瘍といった、実際に器質的な病変や機能障害が認められる(ただしその背景に心理社会的要因がある)という点で異なります。

うつ病パニック障害は、精神疾患そのものに分類されます。うつ病は気分の落ち込みや意欲低下が主な症状で、身体症状を伴うこともありますが精神症状が中心です。パニック障害は、突然の強い不安発作と身体症状が特徴です。心身症は、あくまで身体疾患であり、その背景に心理社会的要因があるという点で、これらの精神疾患とは区別されます。ただし、心身症の患者さんが不安や抑うつといった精神症状を併発することは多く、境界が不明確なケースもあります。

これらの違いを正確に診断するためには、専門的な知識を持つ医師による丁寧な問診と診察が不可欠です。自己判断せず、まずは医療機関を受診することが大切です。

心身症の治療方法

心身症の治療は、その複雑な原因に対応するため、身体症状の改善と、原因となっている心理社会的要因へのアプローチを並行して行うことが基本となります。治療法は患者さんの症状や原因、背景によって tailor-made に行われます。主に、心理療法薬物療法、そして環境調整の3つのアプローチが組み合わせて行われます。

心理療法

心理療法は、心身症の治療において非常に重要な柱となります。ストレスへの対処法を身につけたり、考え方の癖に気づいたり、感情を適切に表現したりすることを目的とします。

  • 認知行動療法(CBT – Cognitive Behavioral Therapy): ストレスを感じたときに生じる、ネガティブな考え方(認知)や、それに伴う行動パターンに気づき、より現実的で建設的なものに変えていく療法です。「完璧でなければならない」「人に嫌われたら終わりだ」といった極端な考え方が、ストレスを増幅させ、身体症状を悪化させている場合に有効です。セラピストとともに、自分の考え方や行動パターンを振り返り、少しずつ修正していきます。
  • 自律訓練法: 自己暗示を用いて、心身をリラックスさせる技法です。「手足が重い」「手足が温かい」「心臓が静かに打っている」といった暗示を繰り返すことで、自律神経のバランスを整え、緊張を和らげる効果が期待できます。医師や専門家の指導のもとで練習することで、自分でリラックスできるようになります。
  • リラクセーション法: 筋弛緩法(体の様々な部分の筋肉に意図的に力を入れた後に緩めることで、全身の緊張を解く方法)や、呼吸法(ゆっくりと深い呼吸を行うことで、リラックス効果を得る方法)などがあります。これらの技法も、日々の生活で実践することで、ストレスによる身体の緊張を和らげ、症状の緩和につながります。
  • 精神力動的精神療法: 過去の経験や、無意識のうちに抱えている感情、人間関係のパターンなどが、現在の心身の不調にどのように影響しているかを探求する療法です。自己理解を深め、感情を適切に処理できるようになることを目指します。
  • 問題解決療法: 現在抱えている具体的な問題に焦点を当て、その問題をどのように解決していくかを、段階的に考えていく療法です。ストレスの原因となっている問題に対して、実行可能な解決策を見つけ、実際に行動に移せるようにサポートします。

心理療法は、すぐに劇的な効果が現れるものではありませんが、継続することで、ストレスへの対処能力を高め、再発予防にもつながる効果が期待できます。

薬物療法

薬物療法は、現れている身体症状や精神症状を和らげ、患者さんの苦痛を軽減することを目的とします。原因そのものを根本的に解決するわけではありませんが、症状が辛い時期には、薬を使うことで心身を休ませたり、心理療法や環境調整に取り組む余裕を持たせたりすることができます。

処方される薬は、症状によって異なります。

  • 身体症状に対する薬: 胃痛や腹痛には消化器系の薬、頭痛には鎮痛薬、動悸にはβブロッカー、睡眠障害には睡眠薬など、それぞれの身体症状に応じた対症療法薬が処方されます。
  • 精神症状に対する薬: 不安が強い場合には抗不安薬、抑うつ症状が強い場合には抗うつ薬が処方されることがあります。これらの薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、精神的な苦痛を和らげる効果が期待できます。
  • 自律神経調整薬: 自律神経のバランスの乱れからくる様々な症状に対して使用されることがあります。

薬物療法を行う際には、医師の指示に従い、用法・用量を守ることが重要です。自己判断で服用を中止したり、量を調整したりすることは避けましょう。また、薬には副作用の可能性もあるため、気になる症状が現れた場合はすぐに医師に相談してください。薬物療法は、他の治療法と組み合わせて行うことで、より効果的な治療につながります。

環境調整

心身症の原因となっている心理的・社会的要因に直接アプローチするために、環境調整は非常に重要です。ストレス源となっている状況を変えたり、ストレスを軽減するための工夫をしたりします。

  • 休養: 十分な睡眠時間を確保し、心身を休めることが最も基本です。必要であれば、仕事を休職したり、学校を休んだりして、環境を一度リセットすることも検討されます。
  • 働き方の見直し: 職場のストレスが原因である場合、労働時間や業務量の調整、部署異動、ハラスメント対策、上司や同僚とのコミュニケーション改善などについて、職場と相談したり、産業医に相談したりすることが考えられます。場合によっては、転職も選択肢の一つとなります。
  • 人間関係の改善: 家庭内や職場、友人関係など、ストレス源となっている人間関係について、話し合いや距離の取り方などを検討します。必要であれば、家族療法やカウンセリングを利用することも有効です。
  • 趣味やリフレッシュ: 自分が楽しいと感じること、リラックスできることを見つけ、定期的に行う時間を作ります。運動、音楽鑑賞、読書、自然と触れ合うことなどは、ストレス解消に効果的です。
  • タイムマネジメント: 時間管理が苦手で常に追われていると感じる場合は、タスクの優先順位をつけたり、断る勇気を持ったりするなど、時間管理のスキルを学ぶことも有効です。
  • 物理的な環境調整: 騒がしい場所から離れる、照明や温度を快適にするなど、物理的な環境を整えることも、ストレス軽減につながります。

環境調整は、患者さん一人で行うのが難しい場合もあります。家族や職場、学校、友人などの周囲の協力を得ること、必要であれば専門家(医師、カウンセラー、産業医、スクールカウンセラーなど)に相談することが大切です。環境調整は、心理療法や薬物療法と並行して行うことで、心身症からの回復を早め、再発を防ぐ効果が期待できます。

心身症は何科を受診すべき?

心身症の症状は身体に現れるため、「何科に行けばいいのだろう?」と迷う人が少なくありません。胃が痛ければ内科、頭が痛ければ脳神経内科、動悸がすれば循環器科など、まず身体症状に合わせてそれぞれの専門科を受診することが多いでしょう。しかし、検査をしても原因が特定できない、あるいは治療しても改善が見られない場合に、心身症を疑うことになります。

心身症を専門的に診ているのは、主に心療内科精神科です。

心療内科と精神科

心療内科と精神科は、どちらもこころの問題を扱う診療科ですが、その専門とする領域には違いがあります。

  • 心療内科: 主に心身症を専門とする診療科です。心理的・社会的要因が身体に影響を与え、実際に身体的な病気や機能障害として現れている状態を診ます。つまり、「心が体に影響を与えている状態」に特化しています。体の不調を主な症状として受診する患者さんが多いです。
  • 精神科: 主に精神疾患そのものを専門とする診療科です。うつ病、統合失調症、双極性障害、不安障害、パニック障害、適応障害、発達障害など、精神や行動の障害を診ます。思考や感情、行動の変化といった精神症状を主な症状として受診する患者さんが多いです。

心身症の場合、その定義から考えても、心療内科がより専門的と言えます。心療内科医は、内科的な知識と精神医学的な知識の両方を持ち合わせているため、身体症状と心理社会的要因との関連性を適切に評価することができます。

しかし、すべての病院に心療内科があるわけではありません。また、精神科でも心身症を診ることは可能です。どちらの科を受診すべきか迷う場合は、以下の点を考慮すると良いでしょう。

  • まずはかかりつけ医に相談: いつも診てもらっている内科医などに、現在の症状と、これまでの検査結果などを伝えて相談してみましょう。心身症の可能性を指摘されたり、適切な専門医を紹介してもらえたりすることがあります。
  • 症状が身体症状が中心の場合: 胃痛、頭痛、動悸などの身体症状が主な苦痛である場合は、まずは心療内科を検討するのが一般的です。
  • 精神的な不調も強く感じている場合: 気分の落ち込み、強い不安、不眠といった精神症状も強く感じている場合は、精神科でも対応可能です。
  • アクセスや予約状況: 近くにある、あるいは予約が取りやすい方の専門科を選ぶのも現実的な選択肢です。

いずれにしても、自己判断で放置せず、専門家である医師に相談することが最も重要です。医師は、症状や問診の内容から、心身症の可能性も含めて診断し、適切な治療方針を示してくれます。受診すること自体が、回復への第一歩となります。

心身症になりやすい人の特徴

心身症は、誰もがなりうる可能性のある病気ですが、特定の性格傾向やストレスへの対処パターンを持つ人が、より心身症を発症しやすいと考えられています。これは、これらの特徴がストレスを感じやすい状況を招いたり、ストレスを抱え込みやすくしたりするためです。

心身症になりやすいとされる人の特徴には、以下のようなものが挙げられます。

  • 真面目で責任感が強い: 맡겨진仕事や役割を途中で投げ出せず、最後まで責任を持ってやり遂げようとします。これは社会生活においては長所となりますが、度を超すと、自分のキャパシティを超えても無理をしてしまい、心身に過大な負担をかけてしまいます。他人の期待に応えようとするあまり、自分の感情や体調を無視しがちです。
  • 完璧主義: 何事も完璧にこなさないと気が済まず、些細なミスも許せません。理想と現実のギャップに苦しみやすく、常に緊張状態にあります。完璧を目指すあまり、物事をなかなか終わらせられなかったり、失敗を恐れて新しいことに挑戦できなかったりすることもあります。
  • 頑張りすぎる、無理をする: 疲労や体調のサインに気づいても、休むことなく頑張り続けてしまいます。「休んだらダメだ」「みんなも頑張っているから」といった考えから、自分の限界を超えて努力を続けます。
  • 感情をうまく表現できない: 怒り、悲しみ、不安、喜びといった自分の感情を、言葉や行動で適切に表現することが苦手です。特に、ネガティブな感情を内に溜め込んでしまい、誰かに相談することもできません。感情が解放されずに溜まることで、身体的な不調として現れやすいと考えられています。
  • 他人の評価を気にしすぎる: 周囲からどう見られているか、どう思われているかを過剰に気にします。他人の期待に応えようと自分の意見を抑えたり、無理をして周りに合わせたりします。これにより、自分自身の本当の気持ちやニーズが見えなくなり、ストレスが蓄積されます。
  • 断るのが苦手: 人からの頼まれごとを「NO」と言えず、自分の負担が増えても引き受けてしまいます。これにより、自分の時間がなくなったり、やりたくないことを無理に引き受けたりすることになり、ストレスを感じやすくなります。
  • 自己肯定感が低い: 自分自身の価値を低く見積もっており、「自分には能力がない」「どうせうまくいかない」といった否定的な考えを抱きやすいです。これにより、困難な状況に直面した際に、自分自身を責めたり、自信を失ったりしやすく、ストレスへの対処が難しくなります。
  • 白黒思考(all-or-nothing thinking): 物事を「すべてうまくいくか、すべて失敗するか」といったように、極端な二分法で捉えがちです。少しでも理想から外れると「全部ダメだ」と感じてしまい、ネガティブな感情に囚われやすくなります。

これらの特徴を持つ人が、強いストレスにさらされたり、環境の変化にうまく適応できなかったりした場合に、心身症のリスクが高まります。しかし、これらの特徴は、決して悪いものではありません。真面目さや責任感は、社会生活を送る上で大切な力です。重要なのは、これらの特徴によってストレスを抱え込みやすくなっている自分に気づき、ストレスへの対処法を学び、柔軟な考え方や行動パターンを身につけることです。自分自身の傾向を理解し、必要であれば専門家のサポートを得ながら、より健康的なストレスとの付き合い方を見つけていくことが、心身症の予防や改善につながります。

まとめ|心身症の原因を理解し適切な対処を

心身症は、こころと身体が密接に関わり合って生じる病気です。その原因は、ストレス、性格傾向、社会環境、体質など、複数の要因が複雑に絡み合っています。単なる「気のせい」ではなく、実際に身体に苦痛を伴う症状が現れるため、患者さん自身は非常に辛い思いをすることが多いです。

心身症の主な原因となるのは、人間関係や仕事、ライフイベントなどから生じる心理的・社会的ストレスです。これらのストレスが、個人の性格や考え方の傾向(真面目さ、完璧主義、感情を溜め込みやすいなど)や、もともとの身体的な脆弱性(体質や既往歴)と相互作用することで、心身のバランスが崩れ、頭痛、胃痛、動悸、倦怠感といった様々な身体症状として現れます。これらの身体症状に加え、不安や抑うつといった精神症状を伴うことも少なくありません。

心身症の診断は、症状や生活状況、ストレスの状況などについて詳しく聞く問診が非常に重要です。また、症状の原因となる身体的な病気がないことを確認するための検査も行われます。これらの情報を総合的に判断し、心理社会的要因が症状の発症や経過に密接に関与していると認められた場合に、心身症と診断されます。自律神経失調症や身体表現性障害など、似たような症状を呈する他の状態との区別は、専門的な知識を持つ医師が行います。

心身症の治療では、現れている身体症状を和らげる薬物療法と、原因となっている心理社会的要因にアプローチする心理療法環境調整が組み合わせて行われます。自分のストレスの原因に気づき、対処法を学ぶこと、ストレスを軽減するための生活習慣や環境を整えることが、回復と再発予防に不可欠です。

もし、身体の不調が長く続いているにも関わらず、検査をしても原因がはっきりしない、あるいはストレスを感じる状況で体調が悪化するといった状態に心当たりがある場合は、心身症の可能性があります。そのような時には、心療内科精神科といった専門の医療機関を受診することを強くお勧めします。特に心身症の場合は心療内科がより専門的ですが、どちらの科でも対応可能な場合が多いです。一人で抱え込まず、専門家のサポートを得ることが、心身の健康を取り戻すための大切な一歩となります。原因を理解し、適切な対処を行うことで、心身症は改善が見込める病気です。

  • 公開

関連記事