てんかんの薬の種類と副作用を解説|治療への不安を解消

てんかんの治療において、薬は中心的な役割を担います。てんかん発作は、脳の神経細胞が突発的に過剰な電気信号を発することで起こりますが、適切な薬を使用することで、この過剰な興奮を抑え、発作の回数や程度を軽減、あるいは消失させることが期待できます。しかし、てんかんの薬には多くの種類があり、それぞれ効果や副作用が異なります。この記事では、てんかん治療に使われる薬の基礎知識から、種類、効果、主な副作用、費用、服用上の注意点、そして薬以外の治療法まで、詳しく解説します。てんかんの薬について理解を深め、より適切な治療を受けるための一助となれば幸いです。

てんかんの薬とは?抗てんかん薬の基礎知識

てんかん治療の根幹をなすのが「抗てんかん薬」による薬物療法です。てんかん発作は、脳の神経細胞が異常かつ同期して過剰に活動することで生じます。抗てんかん薬は、この神経細胞の異常な興奮を抑えることで、発作が起こるのを防ぐ、または発作の程度を軽くすることを目的としています。

抗てんかん薬は、発作を根本的に「治す」薬というよりは、発作が起こらないように「コントロールする」薬と理解するのが一般的です。継続的に服用することで、多くの患者さんが発作のない生活を送れるようになります。

抗てんかん薬の選択は、てんかんのタイプ(全般てんかんか焦点てんかんかなど)、発作の種類、患者さんの年齢、性別、合併症の有無、他の病気で服用している薬などを総合的に考慮して、医師が慎重に行います。最適な薬を見つけるためには、いくつかの薬を試したり、量を調整したりする必要がある場合もあります。

てんかん治療薬の主な種類と作用機序

抗てんかん薬は、その化学構造や脳内のどこにどのように作用するかによって、さまざまな種類に分類されます。主な作用機序としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 神経細胞の興奮を抑えるイオンチャネル(ナトリウムチャネル、カルシウムチャネルなど)の働きを調整する: これにより、神経細胞が過剰に興奮しにくくなります。
  • 脳の興奮性伝達物質(グルタミン酸など)の働きを抑える: 神経細胞間の信号伝達において、興奮を伝える物質の作用をブロックします。
  • 脳の抑制性伝達物質(GABAなど)の働きを強める: 神経細胞の活動を鎮静させる物質の作用を促進します。

これらのメカニズムのいずれか、あるいは複数を組み合わせることで、抗てんかん薬はてんかん発作を抑制します。

新規抗てんかん薬について

近年、従来の抗てんかん薬と比較して、「新規抗てんかん薬(Newer generation AEDs)」と呼ばれる新しいタイプの薬が数多く開発され、使用されています。これらの新規薬は、以下のような特徴を持つことが多いです。

  • 副作用が比較的少ない: 特に眠気やふらつきといった中枢神経系の副作用が、従来の薬より軽減されているものがあります。
  • 薬物相互作用が少ない: 他の薬と一緒に服用した際に、互いの薬の血中濃度に影響を与えにくい傾向があります。これにより、合併症を持つ患者さんや、てんかん以外の病気でも薬を服用している患者さんにとって、より使いやすくなっています。
  • 幅広い発作タイプに有効なものがある: 一部の新規薬は、様々なてんかんタイプや発作形式に対して効果を示すことが期待されます。

ただし、「新規」といってもすでに広く使われており、その効果や副作用のプロファイルもかなり明らかになっています。どの薬が良いかは、個々の患者さんの状態によって異なるため、医師との相談が不可欠です。

よく使われる抗てんかん薬(成分名と商品名一覧)

現在、日本でてんかん治療に広く用いられている抗てんかん薬には、様々な種類があります。ここでは、代表的な抗てんかん薬について、成分名と主な商品名を挙げ、それぞれの特徴を簡単に解説します。

成分名 主な商品名 特徴(代表的なもの)
レベチラセタム イーケプラ 幅広い発作タイプに有効。
比較的副作用が少なく、薬物相互作用も少ないとされる。
ラモトリギン ラミクタール 焦点てんかん、全般てんかんの両方に有効。
気分安定作用も報告されているが、重篤な皮疹に注意。
ゾニサミド エクセグラン 幅広い発作タイプに有効。
腎臓結石や発汗低下などの副作用に注意。
ガバペンチン ガバペン 焦点てんかんに有効。
神経痛治療にも使われる。
眠気やふらつきが出やすいことがある。
プレガバリン リリカ 主に神経痛治療に使われるが、焦点てんかんの併用療法としても用いられる。
眠気、ふらつきに注意。
カルバマゼピン テグレトール 焦点てんかんに有効。
薬物相互作用が多く、定期的な血液検査が必要な場合がある。
バルプロ酸 デパケン、セレニカ 全般てんかん、焦点てんかんの両方に広く用いられる。
様々な剤形がある。
妊娠可能な女性は慎重に検討。
クロバザム マイスタン ベンゾジアゼピン系の抗てんかん薬。
他の薬で抑制困難な難治性てんかんに用いられることが多い。
トピラマート トピナ 幅広い発作タイプに有効。
認知機能への影響(思考緩慢、言葉が出にくいなど)や腎臓結石に注意。
エスリカルバゼピン酢酸塩 ゼビックス 焦点てんかんに有効な新規薬。
ペランパネル フィコンパ 焦点てんかん、全般てんかん(強直間代発作)に有効な新規薬。
攻撃性や易刺激性に注意。

※上記はあくまで代表的な薬の一部です。てんかんのタイプや個々の状況により、これ以外の薬が使われることもあります。また、同じ成分名でも複数の製薬会社から異なる商品名で販売されているジェネリック医薬品も存在します。

レベチラセタム(イーケプラ)

レベチラセタム(商品名:イーケプラ)は、比較的最近登場した新規抗てんかん薬の一つで、現在日本で最も広く処方されている薬の一つです。幅広いタイプのてんかん発作(焦点発作、全般発作)に有効性が認められており、単独療法としても併用療法としても使用されます。

この薬の大きな特徴は、薬物相互作用が少ないことと、比較的副作用が少ないことです。そのため、他の薬を服用している方や高齢者などにも比較的使いやすいとされています。ただし、眠気やふらつき、易刺激性(怒りっぽくなる)、精神症状などの副作用がみられることもあります。作用機序は、シナプス小胞タンパク質2A(SV2A)への結合など、他の薬とは異なる独自のメカニズムによると考えられています。

ラモトリギン(ラミクタール)

ラモトリギン(商品名:ラミクタール)は、焦点てんかん、全般てんかん(特にレノックス・ガストー症候群に伴うてんかん)の治療に用いられる薬です。気分安定作用も報告されており、てんかんに加えて双極性障害など精神疾患を合併している患者さんに使用されることもあります。

注意すべき副作用として、重篤な皮膚症状(スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症など)が挙げられます。これを予防するため、通常は少量から開始し、徐々に増量していく必要があります。ゆっくりと増量すれば、重篤な皮疹のリスクは低くなるとされています。他にも、眠気、めまい、吐き気などの副作用が見られることがあります。作用機序としては、電位依存性ナトリウムチャネルを抑制することなどが考えられています。

ゾニサミド(エクセグラン)

ゾニサミド(商品名:エクセグラン)は、日本で開発された抗てんかん薬で、様々なタイプのてんかん発作(焦点発作、全般発作)に有効です。単独療法、併用療法のいずれでも使用されます。

主な副作用として、腎臓結石発汗低下(特に小児)、体重減少、眠気、思考力・集中力の低下などが挙げられます。腎臓結石を予防するためには、十分な水分摂取が推奨されます。夏場などは発汗低下による熱中症にも注意が必要です。作用機序は、電位依存性ナトリウムチャネルやカルシウムチャネルの抑制などが考えられています。

ガバペンチン(ガバペン)

ガバペンチン(商品名:ガバペン)は、主に焦点てんかんの併用療法として使用される薬です。また、帯状疱疹後神経痛などの神経痛治療にも広く用いられています。

副作用としては、眠気ふらつきが高頻度でみられます。これらの副作用は、服用開始時や増量時に特に現れやすく、運転や危険な作業には注意が必要です。作用機序は完全には解明されていませんが、電位依存性カルシウムチャネルの働きを調整することなどが示唆されています。

プレガバリン(リリカ)

プレガバリン(商品名:リリカ)は、もともと神経障害性疼痛の治療薬として開発され、広く使われている薬ですが、焦点てんかんの併用療法としても承認されています。ガバペンチンと同様に、電位依存性カルシウムチャネルへの作用などが考えられています。

ガバペンチンと同様に、眠気めまい、ふらつきが高頻度でみられる副作用です。また、体重増加や末梢のむくみなども報告されています。神経痛治療薬としてのイメージが強いかもしれませんが、てんかんに対しても効果が期待できる薬です。

その他の主要な抗てんかん薬

上記以外にも、てんかん治療には様々な薬が用いられています。

  • カルバマゼピン(テグレトール): 古くから使われている薬で、主に焦点てんかんに有効です。三叉神経痛の治療にも使われます。薬物相互作用が多く、他の薬の効果に影響を与えることや、影響を受けることがあるため、併用薬には注意が必要です。また、アレルギー性の皮疹や血液障害などの副作用にも注意が必要です。
  • バルプロ酸(デパケン、セレニカなど): 全般てんかん、焦点てんかんのいずれにも有効な幅広いスペクトラムを持つ薬です。点滴製剤もあり、てんかん重積状態の治療にも用いられます。様々な剤形(錠剤、細粒、シロップ、徐放性製剤など)があり、年齢や状態に応じて使い分けられます。副作用として、体重増加、脱毛、肝機能障害、膵炎などがあり、特に妊娠可能な女性が服用する場合は、胎児への影響(神経管閉鎖障害など)のリスクがあるため、他の薬を優先的に検討するなど、非常に慎重な判断が必要です。
  • クロバザム(マイスタン): ベンゾジアゼピン系の薬で、他の薬で発作が十分に抑制されない難治性てんかんの併用療法として用いられることが多いです。即効性があるため、発作が頻繁に起こる時期に頓服として使われることもあります。眠気やふらつきといったベンゾジアゼピン系特有の副作用や、長期服用による耐性(効果が薄れる)や依存性のリスクに注意が必要です。
  • トピラマート(トピナ): 幅広いタイプのてんかん発作に有効な薬です。副作用として、認知機能への影響(思考緩慢、言葉が出にくい、記憶障害など)や、腎臓結石、発汗低下、体重減少などが報告されています。特に高用量で認知機能の副作用が出やすいとされています。
  • エスリカルバゼピン酢酸塩(ゼビックス): カルバマゼピンやオクスカルバゼピンと似た化学構造を持つ、焦点てんかんに有効な新規薬です。比較的薬物相互作用が少ないとされています。
  • ペランパネル(フィコンパ): AMPA受容体というグルタミン酸受容体を標的とする新しい作用機序を持つ薬で、焦点てんかんおよび全般てんかんの強直間代発作に有効です。攻撃性や易刺激性、めまい、眠気などの副作用に注意が必要です。

これらの薬は、てんかんのタイプ、発作頻度、重症度、年齢、性別、既存の病気、他の薬の使用状況などを考慮して、医師が最適なものを選択します。複数の薬を組み合わせて使用することもあります。

抗てんかん薬の期待できる効果と発作抑制

抗てんかん薬による治療の最大の目的は、てんかん発作を抑制し、患者さんの生活の質を向上させることです。薬を正しく服用することで、多くの患者さんで発作をコントロールすることが可能になります。

薬でてんかん発作が完全に治る可能性

抗てんかん薬によって、てんかん発作が長期にわたって起こらなくなることを「発作の寛解(かんかい)」といいます。そして、寛解が一定期間(通常2年以上)継続し、医師の判断のもと薬を慎重に減量・中止しても発作が再発しない場合、「てんかんが治癒した」とみなされることがあります。

特に小児期に発症したてんかんの一部(例えば、小児欠神てんかんやローランドてんかんなど)では、成長とともに脳が成熟し、てんかんの性質が消失していくことがあり、薬物療法によって完全に発作が抑制され、最終的に薬を中止しても発作が再発しない「治癒」に至る可能性があります。

しかし、全てのてんかんが薬で完全に治癒するわけではありません。成人で発症したてんかんや、構造的な脳の病変が原因となっているてんかんなどでは、薬物療法を生涯にわたって続ける必要がある場合も少なくありません。薬物療法で発作が抑制されている状態であっても、自己判断で薬を中止することは非常に危険であり、必ず医師と十分に相談した上で、慎重に判断する必要があります。

薬物療法での発作が抑制される割合

抗てんかん薬による薬物療法によって、てんかん発作をコントロールできる患者さんの割合は、てんかんのタイプや重症度、選択される薬などによって異なりますが、一般的には、てんかん患者さんの約7割から8割が、適切に薬を使用することで発作を抑制できると言われています。

  • 単剤療法で発作が抑制される: 約半数の患者さんが、1種類の抗てんかん薬を適切に使用することで発作が完全に、またはほぼ完全に抑制されます。
  • 複数剤併用療法で発作が抑制される: 単剤療法で効果不十分な場合でも、2種類以上の抗てんかん薬を組み合わせる(併用療法)ことで、さらに多くの患者さんで発作を抑制することが可能になります。
  • 難治性てんかん: 一部の患者さん(約2割~3割)は、複数の抗てんかん薬を適切に使用しても発作を十分に抑制できない「難治性てんかん」と診断されます。このような場合、薬物療法以外の治療法(てんかん外科、ケトン食療法など)も検討されます。

発作が完全に消失しなくても、発作の頻度や程度が軽減されるだけでも、患者さんの生活の質は大きく向上します。薬物療法の目標は、可能な限り発作を抑えつつ、副作用を最小限に抑え、患者さんが安定した日常生活を送れるようにすることです。

抗てんかん薬の主な副作用と対処法

抗てんかん薬は脳の神経系に作用するため、てんかん発作を抑える効果だけでなく、様々な副作用が現れる可能性があります。副作用の種類や程度は、薬の種類、用量、患者さんの体質などによって大きく異なります。

早期に出現しやすい副作用

抗てんかん薬を飲み始めて比較的早い時期(数日~数週間以内)に現れやすい副作用としては、以下のようなものがあります。

  • 眠気、鎮静: 脳の活動を抑える作用によるもので、特に服用初期や増量時に起こりやすいです。
  • めまい、ふらつき: バランス感覚や運動機能に関わる脳の部位に影響して起こることがあります。
  • 吐き気、食欲不振: 消化器系への影響や、脳の嘔吐中枢への作用によるものです。
  • 頭痛: 薬の種類によっては、頭痛がみられることがあります。
  • 複視(ものが二重に見える): 眼球運動を調整する神経に影響して起こることがあります。
  • アレルギー反応(皮疹など): 薬に対するアレルギー反応として、皮膚にかゆみや発疹が現れることがあります。特にラモトリギンなど、重篤な皮疹に至る可能性がある薬もあります。

これらの副作用の多くは、体が薬に慣れるにつれて軽減したり、用量を調整することで改善したりすることがあります。しかし、症状が重い場合や改善しない場合は、必ず医師に相談が必要です。

長期服用に伴う副作用(記憶障害など)

抗てんかん薬を長期間(数ヶ月~数年)服用することで、現れる可能性のある副作用もあります。

  • 認知機能への影響: 一部の抗てんかん薬(特にトピラマートや、高用量の従来の薬など)では、思考力の低下、集中力の低下、記憶障害、言葉が出にくいといった認知機能への影響が報告されています。ただし、てんかん発作自体も認知機能に影響を与えることがあるため、どちらによるものか区別が難しい場合もあります。
  • 精神症状: 易刺激性、抑うつ、不安、攻撃性、まれに精神病様症状などが現れることがあります。特にレベチラセタムやペランパネルなどで注意が必要な場合があります。
  • 骨密度の低下: 一部の酵素誘導性の抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトインなど)は、ビタミンDの代謝に影響し、骨密度を低下させる可能性があります。長期的にみると骨粗しょう症のリスクを高めることが懸念されます。
  • 体重の変化: バルプロ酸では体重増加、ゾニサミドやトピラマートでは体重減少がみられることがあります。
  • 肝機能障害、腎機能障害: まれに、肝臓や腎臓の機能に影響を与えることがあります。定期的な血液検査で確認することが推奨される薬もあります。
  • 内分泌系の変化: 一部の薬は、性ホルモンなどに影響を与え、月経不順や性機能障害を引き起こしたり、多嚢胞性卵巣症候群のリスクを高めたりする可能性が指摘されています(特にバルプロ酸)。
  • ビタミン欠乏: 一部の薬は、葉酸やビタミンB12などのビタミン欠乏を引き起こす可能性があります。特に妊娠を希望する女性は、葉酸の補充が推奨されます。

記憶障害をはじめとする長期的な副作用については、過度に心配しすぎる必要はありませんが、気になる症状が現れた場合は、些細なことでも医師に伝えることが重要です。医師は、副作用の種類や程度を評価し、用量の調整や他の薬への変更などを検討します。

副作用が現れた場合の対応

抗てんかん薬の副作用が現れた場合、最も重要なのは、自己判断で薬の量を減らしたり、服用を中止したりしないことです。急に薬を中止すると、てんかん発作が再発したり、重積状態(発作が止まらず続く非常に危険な状態)に陥ったりするリスクが非常に高くなります。

副作用が現れたら、まずは主治医に速やかに相談してください。医師は、症状の種類、程度、出現時期などを詳しく聞き取り、それが本当に薬の副作用なのか、あるいは他の原因によるものなのかを判断します。その上で、以下のような対応を検討します。

  • 用量の調整: 副作用が用量依存性の場合、薬の量を減らすことで症状が改善することがあります。
  • 服用時間の変更: 眠気などの副作用が強く出る場合、服用時間を寝る前に変更することで日中の活動への影響を減らせることがあります。
  • 他の抗てんかん薬への変更: 使用している薬が合わない場合、他の作用機序を持つ別の抗てんかん薬への変更を検討します。
  • 副作用に対する対症療法: 例えば、頭痛には鎮痛薬、吐き気には制吐剤を一時的に併用するなど、副作用の症状を和らげる薬を使用することがあります。

医師は、発作の抑制と副作用のバランスを考慮しながら、患者さんにとって最適な治療法を一緒に探していきます。副作用を我慢せず、正直に伝えることが、より良い治療につながります。

てんかんの方が服用に注意が必要な薬

てんかんの薬を服用している方は、他の病気で薬を処方されたり、市販薬やサプリメントを使用したりする場合に、注意が必要です。抗てんかん薬と他の薬との間で、以下のような相互作用が起こる可能性があります。

  • 他の薬が抗てんかん薬の血中濃度に影響を与える: 他の薬を併用することで、抗てんかん薬の代謝が速くなったり遅くなったりし、血中濃度が変動することがあります。血中濃度が下がると発作が起こりやすくなり、血中濃度が上がりすぎると副作用が出やすくなります。
  • 抗てんかん薬が他の薬の血中濃度に影響を与える: 抗てんかん薬の中には、他の薬の代謝を促進したり抑制したりするものがあり、併用薬の効果に影響を与えることがあります。
  • てんかん発作を誘発する可能性のある薬: 一部の薬は、脳の興奮性を高め、てんかん発作を誘発したり、発作を起こしやすくしたりする可能性があります。

てんかん発作を誘発する可能性のある成分

てんかんの既往がある方や抗てんかん薬を服用している方が、特に注意が必要な薬や成分には、以下のようなものがあります(全てではありません)。

  • 一部の抗菌薬(抗生物質): ペニシリン系の一部、セフェム系の一部、キノロン系などが、まれに発作を誘発することがあります。
  • 一部の抗ヒスタミン薬: 特に第一世代の抗ヒスタミン薬は、脳に作用し、発作閾値を低下させる可能性があります。
  • 一部の気管支拡張薬: 気管支喘息などで使用されるキサンチン系の薬(テオフィリンなど)は、中枢神経興奮作用を持ち、発作を誘発する可能性があります。
  • 一部の向精神薬: 抗うつ薬、抗精神病薬、精神刺激薬などが、薬の種類や用量によっては発作閾値を低下させる可能性があります。
  • ステロイド薬: 特に大量を急速に投与した場合などに、精神症状や発作を誘発する可能性があります。
  • 免疫抑制剤の一部: 特定の免疫抑制剤は、中枢神経系の副作用として発作を誘発することがあります。

これらの薬が必要になる場合でも、てんかんがあることや抗てんかん薬を服用していることを医師や薬剤師に伝えれば、てんかんに影響の少ない薬を選択したり、注意深く経過を観察したりといった対応が可能です。

市販薬やサプリメントとの相互作用

病院で処方される薬だけでなく、薬局やドラッグストアで購入できる市販薬や、健康食品として販売されているサプリメントの中にも、抗てんかん薬との相互作用を起こしたり、てんかん発作に影響を与えたりする可能性のあるものがあります。

例えば、

  • かぜ薬、鼻炎薬: 抗ヒスタミン薬やカフェインなどが含まれていることがあり、発作を誘発する可能性があります。
  • 痛み止め: 一部の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が、まれに発作閾値を低下させる可能性が指摘されています。
  • 漢方薬: 生薬の種類によっては、相互作用や発作への影響が懸念されるものがあります。
  • セントジョーンズワート: うつ状態などに使用されるサプリメントですが、抗てんかん薬の代謝を促進し、血中濃度を低下させて発作を起こしやすくする可能性があります。
  • 特定のハーブや健康食品: 成分によっては、中枢神経系に作用するものや、肝臓の薬物代謝酵素に影響を与えるものがあります。

これらの市販薬やサプリメントを使用する際には、必ず事前に主治医や薬剤師に相談するようにしてください。特に、新しい市販薬やサプリメントを使い始める際は注意が必要です。お薬手帳などを活用し、現在服用している全ての薬(処方薬、市販薬、サプリメント)を正確に伝えるようにしましょう。

てんかん薬の服用期間と自己判断による中止の危険性

抗てんかん薬は、てんかん発作を抑制し、安定した生活を送るために重要な役割を果たします。多くの場合、長期にわたる服用が必要となりますが、いつまで薬を飲み続けるべきか、薬を中止できるのかといった疑問を持つ方もいるでしょう。

治療期間の目安と医師との相談

てんかんの薬物療法は、一般的に数年単位の長期にわたる治療となります。発作が抑制されても、すぐに薬を中止することはほとんどありません。薬を中止できるかどうかは、てんかんのタイプ、発症年齢、発作が抑制されてからの期間、脳波の所見、脳の画像検査の結果などを総合的に評価して、医師が慎重に判断します。

多くの医師は、発作が完全に抑制された状態が2年以上続いていることを、薬物療法の中止を検討し始める一つの目安としています。しかし、これはあくまで目安であり、個々の患者さんの状況によって大きく異なります。成人で発症したてんかんや、脳波に異常所見が残っている場合、特定のてんかん症候群などでは、さらに長期間の服用が必要となったり、生涯にわたって服用が必要となったりする場合もあります。

薬を中止できるかどうか、また中止する時期や方法については、必ず主治医と十分に話し合ってください。医師は、これまでの経過や検査結果をもとに、薬を中止した場合のメリット(副作用からの解放、経済的な負担軽減など)とデメリット(発作再発のリスク)を説明し、患者さんの希望も踏まえて、最善の方針を決定します。

薬を中止する場合も、通常は急にやめるのではなく、数ヶ月から1年以上かけて、ゆっくりと慎重に減量していきます。減量中や中止後も、定期的に診察や脳波検査を受けて、発作の再発がないか、脳波に変化がないかなどを確認することが重要です。

薬を勝手に中止するとどうなるか

てんかん発作が長期間起きていないからといって、「もう治ったのではないか」と自己判断で抗てんかん薬の服用を中止することは、非常に危険な行為です。薬によって発作が抑えられている状態であった場合、急に薬の血中濃度が下がると、脳の興奮性が一気に高まり、てんかん発作が再発するリスクが飛躍的に上昇します。

自己判断による薬の中止によって起こりうる危険性としては、以下のようなものがあります。

  • 発作の再発: 薬を飲んでいる間は発作が抑えられていても、中止することで再び発作が起こる可能性が高くなります。
  • 発作の重症化: 中止後に起こる発作は、それまでよりも強く、長く続く場合があります。
  • てんかん重積状態: 最も危険なのは、発作が短時間で繰り返し起こるか、あるいは長時間(通常5分以上)続く「てんかん重積状態」に陥ることです。てんかん重積状態は、脳に大きなダメージを与える可能性があり、命に関わることもあります。緊急の処置が必要となります。
  • 思わぬ事故: 発作が予期せぬタイミングで再発し、転倒による怪我、交通事故、入浴中の溺水など、重大な事故につながる危険性があります。

発作が長期間抑制されている場合でも、それは薬が効いているおかげである可能性が高いです。薬の中止は、発作が再発するリスクとメリットを天秤にかけて、医師と患者さんが十分に話し合った上で、計画的に行うべきものです。決して自己判断で薬を中止しないようにしましょう。

てんかん薬にかかる費用と医療費助成

てんかんの薬物療法は長期にわたることが多いため、薬にかかる費用が気になる方もいるでしょう。てんかん治療には、公的な医療費助成制度を利用できる場合があります。

薬価の目安

抗てんかん薬の費用は、薬の種類、用量、剤形(錠剤、細粒、シロップなど)、そして先発医薬品かジェネリック医薬品かによって異なります。

一般的な薬価の目安としては、

  • 先発医薬品: 1錠あたり数十円~数百円程度
  • ジェネリック医薬品: 先発医薬品の数割(2割~8割程度)安くなることが多い

例えば、広く使われているレベチラセタム(イーケプラ)のジェネリック医薬品は、比較的安価に入手可能です。一方で、比較的新しい薬や特定の剤形は、薬価が高くなる傾向があります。

患者さんが実際に支払う金額は、加入している医療保険の種類(国民健康保険、協会けんぽ、共済組合など)や年齢によって異なり、通常は医療費の自己負担割合(1割、2割、3割)に応じた額となります。例えば、自己負担割合が3割の場合、薬価の3割を窓口で支払うことになります。

また、同じ月に医療機関で支払った医療費(薬代を含む)が高額になった場合、高額療養費制度を利用することができます。これは、自己負担額が年齢や所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。長期にわたって治療を受ける場合には、この制度が経済的な負担を軽減するのに役立ちます。

てんかんの医療費助成制度

てんかんは、特定の条件を満たす場合に、公的な医療費助成制度の対象となることがあります。主な制度としては、自立支援医療(精神通院医療)制度が挙げられます。

自立支援医療(精神通院医療)制度は、精神疾患(てんかんを含む)のために医療機関に通院している方の医療費の自己負担額を軽減する制度です。この制度を利用すると、通常3割の自己負担額が原則1割に軽減されます(所得に応じて自己負担上限額が設定されます)。てんかんの場合、精神科または脳神経外科でてんかんの治療を受けており、医師がこの制度の対象となる状態であると判断した場合に申請できます。

この制度は、医療機関での診察料や検査費用だけでなく、院外処方された抗てんかん薬の薬代も対象となります。 てんかんの薬を継続的に服用している方にとって、経済的な負担を大きく軽減できる可能性があるため、主治医に相談して、対象となるか確認し、申請手続きを検討することをおすすめします。

制度の利用にあたっては、事前の申請が必要であり、有効期間(通常1年)があるため、継続して利用する場合は更新手続きが必要です。詳細は、お住まいの市区町村の担当窓口(精神保健福祉担当課など)に確認してください。

薬物療法以外のてんかん治療法

てんかん治療の基本は薬物療法ですが、全ての患者さんで薬によって発作が十分に抑制されるわけではありません。適切に抗てんかん薬を使用しても発作が続く「難治性てんかん」の場合や、特定のてんかん症候群などでは、薬物療法以外の治療法も検討されます。

外科治療の選択肢

てんかん外科は、難治性の焦点てんかん(脳の一部から発作が始まるタイプのてんかん)で、発作の原因となっている脳の部位(てんかん焦点)が特定でき、その部位を切除しても重大な後遺症を残さないと判断される場合に有効な治療法です。

てんかん外科には、以下のような種類があります。

  • てんかん焦点切除術: 発作の原因となっている脳の一部を切除する方法です。特に側頭葉てんかんなど、てんかん焦点が明確な場合に高い効果が期待できます。
  • 分離術: 発作が脳全体に広がるのを防ぐために、神経線維を遮断する方法です。脳梁離断術などがあります。
  • 多軟膜下皮質横切断術: てんかん焦点が切除できない重要な機能を持つ部位にある場合などに、その部位の神経線維を横方向に切断し、発作の広がりを抑える方法です。

てんかん外科は、高度な技術と専門知識を要するため、てんかん専門の医療機関で精密な検査(脳波、ビデオ脳波モニタリング、MRI、PET、SPECT、MEGなど)を行い、適応を慎重に判断します。手術が成功すれば、発作が消失したり、大幅に軽減されたりすることが期待でき、薬の量を減らせる可能性もあります。

ケトン食療法など

薬物療法や外科治療以外にも、てんかんの治療法として検討されるものがあります。

  • ケトン食療法: 高脂肪、低炭水化物、適切なタンパク質という特徴を持つ食事療法です。体内で脂肪が分解されて生成される「ケトン体」が、脳の活動を安定させ、てんかん発作を抑制すると考えられています。特に小児の難治性てんかんに有効な場合があり、専門の医療チーム(医師、管理栄養士など)の指導のもとで行われます。厳格な食事制限が必要であり、副作用(便秘、成長障害、腎結石など)にも注意が必要です。
  • 迷走神経刺激療法(VNS): 左の迷走神経に電気刺激を与える医療機器を体内に植え込む治療法です。刺激装置が一定間隔で迷走神経を刺激し、発作の頻度や重症度を軽減することが期待できます。難治性てんかんで、外科治療の適応とならない場合などに検討されます。
  • 脳深部刺激療法(DBS): てんかんに関与する脳の特定の部位に電極を留置し、電気刺激を与える治療法です。難治性てんかんに対して行われることがあります。

これらの薬物療法以外の治療法は、全ての方に適応があるわけではありません。個々のてんかんのタイプ、重症度、患者さんの状態などを考慮して、てんかん専門医がこれらの治療法の選択肢について説明し、最適な治療方針を決定します。

てんかん薬に関するよくある質問(PAA)

てんかんの薬について、患者さんやご家族からよく聞かれる質問にお答えします。

てんかんによく使われる薬は?

てんかんのタイプや発作の種類によって異なりますが、現在日本で最も広く使われている薬の一つにレベチラセタム(商品名:イーケプラ)があります。幅広い発作タイプに有効で、比較的副作用が少なく、薬物相互作用も少ないことから、単独療法・併用療法のいずれでも第一選択薬の一つとして用いられます。

その他、ラモトリギン(ラミクタール)、ゾニサミド(エクセグラン)、カルバマゼピン(テグレトール)、バルプロ酸(デパケン、セレニカ)なども、てんかんのタイプに応じて広く使われています。どの薬が最も適しているかは、個々の患者さんのてんかんの特徴や全身状態によって医師が判断します。

てんかん発作は薬で治りますか?

抗てんかん薬は、発作を「治す」薬ではなく、発作が起こらないように「コントロールする」薬として理解するのが一般的です。薬によって発作が長期にわたって抑制された状態(寛解)を維持することが主な目標です。

しかし、特に小児期に発症した一部のてんかんでは、成長とともに脳が成熟し、てんかんの性質が消失していくことがあり、薬物療法によって寛解状態が続き、医師の判断のもと薬を中止しても発作が再発しない「治癒」に至る可能性はあります。

全てのてんかんが治癒するわけではなく、多くの場合は生涯にわたって薬を継続する必要があります。薬を中止できるかどうかは、てんかんのタイプやこれまでの経過などを踏まえ、必ず医師が慎重に判断します。

てんかん薬を長期服用するとどうなる?

てんかん薬の長期服用は、多くの患者さんにとって発作をコントロールし、安定した生活を送るために不可欠です。しかし、長期間服用することで現れる可能性のある副作用も存在します。

長期服用に伴う可能性のある副作用としては、認知機能への影響(記憶障害、思考力低下など)、骨密度の低下、体重の変化、肝機能や腎機能への影響、内分泌系の変化などが挙げられます。これらの副作用の種類や程度は薬によって異なり、全ての人に現れるわけではありません。

医師は、長期服用のメリット(発作抑制)とデメリット(副作用)を比較衡量し、定期的な診察や検査(血液検査、骨密度検査など)を行いながら、副作用が最小限になるように薬の種類や量を調整します。気になる症状があれば、些細なことでも医師に相談することが大切です。

てんかんで飲んじゃいけない薬は?

てんかんの既往がある方や抗てんかん薬を服用している方が、自己判断で服用することを避けるべき薬や成分があります。これらは、てんかん発作を誘発する可能性があったり、抗てんかん薬の効果に影響を与えたりする可能性があります。

具体的には、一部の抗菌薬抗ヒスタミン薬(特に第一世代)、気管支拡張薬(テオフィリンなど)、向精神薬(抗うつ薬、抗精神病薬、精神刺激薬など)などが挙げられます。また、市販薬(かぜ薬、鼻炎薬、痛み止めなど)や、サプリメント(セントジョーンズワートなど)にも注意が必要なものがあります。

他の病気で薬を処方される場合や、市販薬、サプリメントを使用する際には、必ず主治医や薬剤師に、てんかんがあることと服用中の抗てんかん薬を伝えるようにしてください。これにより、てんかんに影響の少ない薬を選択したり、相互作用に注意したりすることができます。

まとめ:てんかんの薬による治療を続ける上で大切なこと

てんかん治療において、抗てんかん薬は発作をコントロールするための最も重要な治療法です。多くの患者さんが、適切な薬を継続して服用することで、発作のない、または発作の少ない安定した生活を送ることができています。

てんかんの薬による治療を成功させ、より良い生活を送るためには、以下の点が特に大切です。

  • 指示された通りに規則正しく服用する: 薬を飲み忘れたり、自己判断で量を変更したり中止したりすると、発作が再発したり重症化したりするリスクが高まります。医師から指示された量とタイミングで、毎日忘れずに服用しましょう。
  • 副作用や気になる症状を医師に伝える: 眠気やふらつきといった早期の副作用から、長期服用に伴う認知機能の変化や他の体への影響まで、気になる症状があれば、どんな些細なことでも遠慮なく主治医に相談してください。医師は、副作用の程度に応じて用量調整や薬の変更などを検討し、患者さんの負担を軽減するためのサポートをしてくれます。
  • 他の薬やサプリメントの使用は必ず相談する: てんかん薬以外の薬(処方薬、市販薬)やサプリメントを服用する際は、必ず事前に医師や薬剤師に相談し、相互作用がないか確認してください。
  • 定期的な通院と検査を受ける: てんかんの状態や薬の効果・副作用を確認するために、定期的な診察や血液検査、脳波検査などが重要です。忘れずに受診しましょう。
  • 医療費助成制度を活用する: 薬の費用負担を軽減できる公的な制度(自立支援医療など)があります。対象となるか確認し、利用を検討しましょう。
  • 医師との良好なコミュニケーションを保つ: てんかん治療は長期にわたるパートナーシップです。疑問点や不安なことは何でも医師に質問し、信頼関係を築くことが大切です。

てんかんの治療は一人で行うものではありません。主治医とよく連携し、ご自身のてんかんや服用している薬について正しく理解することで、より安心して治療を続け、活動的な毎日を送ることができるでしょう。

免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の病状や治療に関する医学的なアドバイスを代替するものではありません。てんかんの診断や治療については、必ず専門の医師にご相談ください。服用している薬に関する疑問や不安があれば、必ず医師または薬剤師にご確認ください。

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