これってHSP?気になる症状・特徴10選【セルフチェック付】

HSP(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)は、主に皮膚、関節、消化管、腎臓などの小さな血管に炎症が起きる疾患です。子どもに多く見られますが、大人にも発症します。この病気の最も特徴的なサインは、触れると少し盛り上がったような赤い、あるいは紫色の発疹(紫斑)が下肢や臀部に出現することです。

この記事では、HSPの代表的な症状をはじめ、その原因、診断方法、そして治療について詳しく解説します。HSPの症状は多岐にわたり、どの臓器に炎症が起きるかによって現れ方が異なります。早期に適切な診断と治療を受けることが、合併症を防ぎ、病気の経過を良好に保つために非常に重要です。もしご自身や身近な方にHSPが疑われる症状が見られた場合は、速やかに医療機関を受診してください。

HSP(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)とは?

HSPは、正式名称を「IgA血管炎」といい、血管に炎症が起こる「血管炎」と呼ばれる病気の一種です。特に、全身の細い血管(毛細血管や細動脈、細静脈)に炎症が生じます。この炎症によって血管から血液成分が漏れ出し、様々な症状を引き起こします。

病名に「紫斑病」とついているのは、皮膚に紫色の斑点(紫斑)が出現することが主な症状であるためです。また、「ヘノッホ・シェーンライン」という名前は、この病気を詳しく報告した医師たちの名前に由来しています。

HSPは、自己の免疫システムが誤って自身の血管を攻撃してしまう自己免疫疾患に近いメカニズムが考えられています。特に、免疫物質であるIgA(免疫グロブリンA)が血管壁に沈着することが病態の中心にあると考えられており、近年では「IgA血管炎」という名称がより一般的になってきています。

この病気は、主に2歳から10歳の子どもに多く発生しますが、思春期以降の青少年や大人にも見られます。子どもと大人では、症状の現れ方や重症化のリスクが異なる場合があります。特に、大人では腎臓の合併症(腎炎)を起こしやすい傾向があることが知られています。

多くの場合、先行する感染症(特に上気道感染、いわゆる風邪など)の後に発症することが多く、特定の細菌やウイルスへの感染が引き金になると考えられていますが、それ以外の要因(薬剤、食物、虫刺されなど)が関連している場合もあります。しかし、明確な原因が特定できないケースも少なくありません。

HSPは急性期の症状は激しいこともありますが、多くは適切な治療と安静によって数週間から数ヶ月で自然に軽快します。ただし、再発することもあり、最も注意が必要なのは腎臓の合併症(紫斑病性腎炎)です。腎炎が進行すると、将来的に慢性腎臓病に至るリスクがあるため、腎臓の機能に異常がないか、注意深く経過を観察することが非常に重要です。

HSP(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)の主な症状を詳しく解説

HSPの症状は多岐にわたり、どの臓器の血管に炎症が起きるかによって現れ方が異なります。代表的な症状は以下の4つですが、これらの症状が全て同時に現れるわけではありません。また、症状の現れる順番も人によって異なります。

皮疹(紫斑)

HSPの最も特徴的な症状であり、ほとんどの患者さんに見られます。これは血管から血液成分が漏れ出すことで皮膚に出血斑ができるためで、「触れることができる紫斑(palpable purpura)」と呼ばれる、少し盛り上がったような紫色の斑点が特徴です。

見た目: 最初は小さな赤い斑点として現れることが多いですが、次第に色が濃くなり、紫から褐色へと変化していきます。押しても色が消えないのが特徴です(これは血管が破れて出血しているためです)。触るとわずかに硬さや盛り上がりを感じることがあります。

発生部位: 主に重力のかかる部位、つまり足(特にすねや足首)、太もも、そして臀部に出現します。肘や腕など、体の他の部分にも見られることがありますが、顔や体幹には比較的少ない傾向があります。

かゆみ: 一般的に、この紫斑は強いかゆみを伴いません。チクチクしたり、違和感があったりすることはありますが、湿疹などに見られるような強いかゆみは通常ありません。

出現: 紫斑は一度に全身に出ることもありますが、数日かけて波状に出現することも多いです。新しい紫斑が出たり、古いものが消えたりを繰り返すことがあります。

紫斑の出現は、HSPを疑う上で最も重要なサインの一つです。特に子どもで、足や臀部に触れる紫斑が見られた場合は、HSPを強く疑い、医療機関を受診する必要があります。

関節症状(痛み、腫れ)

約75%の患者さんに関節の症状が見られます。これは、関節周囲の血管に炎症が起きるためです。

症状: 関節の痛み(関節痛)や腫れ(腫脹)が現れます。特に歩行時に痛みが強くなることが多いです。

発生部位: 主に体重がかかる大きな関節、特に足首(足関節)や膝(膝関節)に症状が出やすい傾向があります。手首や肘にも見られることがあります。

特徴: HSPによる関節症状は、関節リウマチのような持続的なものではなく、多くの場合、痛む関節が移動したり(移動性関節炎)、数日から1週間程度で症状が和らいだりする一過性のものです。また、関節が変形してしまうような後遺症を残すことは非常にまれです。

紫斑との関連: 関節症状は、紫斑が出現する前に現れることもあれば、同時に、あるいは紫斑の後に現れることもあります。

関節の痛みや腫れは、特に子どもにとっては強い苦痛を伴うことがあります。安静にすることで痛みが和らぐことが多いですが、強い痛みの場合は医師の指示のもと鎮痛剤を使用することがあります。

腹部症状(腹痛、消化管出血など)

約50%の患者さんに腹部の症状が見られます。これは、消化管(胃、腸など)の血管に炎症が起きるためです。

症状: 最も多いのは腹痛です。へその周りが痛むことが多く、周期的に痛みが強くなったり弱くなったりすることがあります。腹痛以外に、吐き気(悪心)、嘔吐、下痢などの症状も伴うことがあります。

消化管出血: 炎症が強い場合、消化管から出血することもあります。便に血液が混じる(血便)ことや、黒っぽい便(タール便)が出ることがあります。まれに、吐血が見られることもあります。

重症合併症: 腹部症状の中で最も注意が必要なのは、腸重積(ちょうじゅうせき)です。これは腸の一部が隣接する部分に入り込んでしまう状態で、激しい腹痛、嘔吐、血便を伴い、緊急手術が必要になることがあります。腸重積は特に子どもに多く見られます。

症状の順番: 腹部症状は、紫斑や関節症状よりも先に現れることがあり、診断を難しくする場合もあります。腹痛の原因がわからないまま経過を診ていたところ、後から紫斑が出現してHSPと診断されるケースもあります。

腹部症状が強い場合や、血便が見られる場合は、消化管の炎症が強い可能性があり、注意深い経過観察や入院が必要になることがあります。

腎臓症状(血尿、蛋白尿)

約20〜80%の患者さんに腎臓の症状が見られます。これは、腎臓の中にある糸球体という毛細血管が集まった部分に炎症が起きるためで、「紫斑病性腎炎」と呼ばれます。HSPの長期的な予後を左右する最も重要な症状です。

症状: 主な症状は、尿に血液が混じる「血尿」と、尿にタンパク質が漏れ出す「蛋白尿」です。

  • 血尿: 目に見える血尿(肉眼的血尿)が出ることもありますが、ほとんどの場合、顕微鏡でしか確認できない「顕微鏡的血尿」です。
  • 蛋白尿: 尿が泡立ちやすくなるなどのサインで見つかることもありますが、多くは尿検査で初めて指摘されます。

発症時期: 腎臓の症状は、他の症状(皮疹、関節痛、腹痛)が出現してから数週間〜数ヶ月後に現れることが多いため、急性期の症状が軽快した後も、一定期間(通常は少なくとも6ヶ月〜1年間、場合によってはそれ以上)定期的な尿検査による経過観察が非常に重要です。

自覚症状: 軽度の血尿や蛋白尿では、ほとんど自覚症状がありません。腎臓の機能がかなり低下しないと、むくみ(浮腫)や高血圧などの症状は現れません。そのため、症状がなくても必ず定期的な尿検査を受ける必要があります。

重症度: 腎炎の重症度は様々です。多くは軽症で自然に改善するか、治療によく反応します。しかし、一部の患者さん(特に成人や、皮疹が広範囲に及ぶ、腹部症状が強い、関節症状が強いなどのケース)では、腎炎が進行し、慢性腎臓病や末期腎不全に至る可能性があります。

紫斑病性腎炎はHSPの予後を左右する重要な合併症であるため、HSPと診断された場合は、症状が落ち着いた後も必ず医師の指示に従って定期的に尿検査を受け、腎臓の状態をチェックすることが不可欠です。

その他の症状

上記の4つの主要症状以外にも、HSPでは様々な症状が見られることがあります。

  • 発熱: 病気の初期に微熱や、時に高熱を伴うことがあります。
  • 倦怠感: 全身のだるさや疲労感を感じることがあります。
  • 頭痛: まれに頭痛を訴えることがあります。
  • 陰嚢の腫れや痛み: 特に男の子の場合、陰嚢が腫れたり痛んだりすることがあります。これは精巣周囲の血管の炎症によるものと考えられています。虫垂炎や精巣捻転など、他の病気との鑑別が必要になります。
  • 肺や神経系の症状: 非常にまれですが、肺や神経系(脳や脊髄)の血管に炎症が起き、咳、呼吸困難、けいれん、麻痺などの重篤な症状を呈することもあります。

このように、HSPの症状は全身に及ぶ可能性があります。紫斑、関節痛、腹痛、血尿・蛋白尿の4つの主要症状を理解しておくことが重要ですが、それ以外の症状にも注意が必要です。

HSP(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)の原因

HSPの正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、特定の誘因によって免疫システムが過剰に反応し、血管に炎症を引き起こすと考えられています。主な原因として疑われているものを以下に挙げます。

感染症との関連

HSPを発症する患者さんの多くに、先行する感染症が見られます。特に、発症の1〜3週間前に上気道感染症(いわゆる風邪や扁桃炎など)にかかっていたというケースが多いです。

  • 細菌感染: 最も関連が深いと考えられているのは、A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による感染症です。溶連菌感染の後には、溶連菌感染後糸球体腎炎など、免疫に関連した腎臓の病気を発症することが知られており、HSPも同様の免疫メカニズムが関与している可能性が考えられています。
  • ウイルス感染: インフルエンザウイルス、パルボウイルスB19、アデノウイルス、ヘルペスウイルスなど、様々なウイルス感染がHSPの誘因となり得ることが報告されています。
  • その他: マイコプラズマ感染や、その他の細菌感染症も関連が指摘されています。

感染症によって免疫システムが活性化される過程で、血管に対する自己抗体や免疫複合体が形成され、血管壁に沈着して炎症を引き起こすと考えられています。

薬剤との関連

特定の薬剤の服用がHSPの発症の引き金となる可能性があることが示唆されています。しかし、薬剤との因果関係を明確に証明するのは難しく、まれなケースと考えられています。

  • 可能性のある薬剤: 抗生物質(特にペニシリン系、セファロスポリン系)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、一部の降圧剤などが報告されています。
  • メカニズム: 薬剤が体内で代謝される際にできる物質や、薬剤そのものがアレルゲンとして免疫システムを刺激し、血管炎を引き起こすと考えられています。

もしHSPを発症した場合、最近服用した薬剤について医師に正確に伝えることが重要です。

食物との関連

まれに、特定の食物に対するアレルギー反応がHSPの誘因となる可能性が示唆されることがあります。卵、牛乳、小麦、大豆など、比較的アレルギーを起こしやすい食物が疑われることがあります。

  • メカニズム: 食物アレルゲンに対して免疫システムが反応し、その過程で血管炎を引き起こす可能性があります。
  • 重要性: しかし、食物アレルギーが明確な誘因となるケースは非常に少なく、ほとんどのHSPは食物アレルギーとは直接関連がありません。安易に特定の食物を除去するのではなく、医師と相談の上で必要に応じて食物アレルギー検査を行うことがあります。

その他の誘因

感染症、薬剤、食物以外にも、HSPの発症に関連する可能性が指摘されている誘因があります。

  • 虫刺され: 虫に刺された部位や、それがきっかけとなって全身性の反応としてHSPを発症することがあります。
  • 寒冷暴露: 寒さにさらされることが誘因となる可能性も指摘されています。
  • 外傷: 軽微な外傷の後に発症することもあります。
  • 予防接種: ごくまれに、特定の予防接種の後にHSPが報告されることがありますが、予防接種との明確な因果関係は証明されていません。

これらの誘因は、単独であるいは複合的に作用して、HSPを発症させると考えられています。しかし、多くの場合、具体的な誘因を特定することは困難であり、病気のメカニズムの中心にはIgAの血管壁への沈着とそれに続く炎症があると考えられています。

HSP(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)の診断方法

HSPの診断は、主に特徴的な臨床症状に基づいて行われますが、他の病気との鑑別や重症度を評価するために様々な検査が行われます。国際的な診断基準がいくつか存在し、それらを参考にして総合的に診断が下されます。

身体診察

医師はまず患者さんの身体を詳しく診察し、HSPに特徴的な症状がないかを確認します。

  • 皮膚: 紫斑の有無、発生部位(特に下肢や臀部)、見た目(盛り上がりがあるか、押しても消えないか)、色、広がりなどを確認します。
  • 関節: 関節の痛みや腫れの有無、どの関節に症状が出ているか、動きの制限がないかなどを確認します。
  • 腹部: 腹痛の有無、痛みの場所や程度、お腹の張り、圧痛などを確認します。腸重積などの緊急性の高い合併症のサインがないか注意深く診察します。
  • 全身状態: 発熱、倦怠感の有無、血圧、脈拍などを測定し、全身の状態を評価します。

これらの身体所見と、患者さんや保護者からの症状の経過(いつから症状が出たか、どのような症状か、症状の現れる順番など)の聞き取り(問診)が診断の第一歩となります。先行する感染症や薬剤の使用歴なども重要な情報となります。

検査(血液検査、尿検査など)

HSPの診断や重症度、合併症の評価のために様々な検査が行われます。

  • 血液検査:
    • 炎症反応: CRP(C反応性タンパク)、白血球数、赤沈(赤血球沈降速度)などを測定し、体内に炎症が起きているかを確認します。これらは通常、HSPの活動期には上昇します。
    • 血小板数: 紫斑が出る病気の中には血小板が減少するもの(例:特発性血小板減少性紫斑病)がありますが、HSPでは通常、血小板数は正常です。このため、血小板数を調べることで他の紫斑病との鑑別に役立ちます。
    • 腎機能: 血液中のクレアチニンやBUN(尿素窒素)を測定し、腎臓の機能に問題がないかを確認します。
    • IgA値: 一部の患者さんで血液中のIgA値が上昇することがありますが、全ての患者さんで上昇するわけではなく、診断に必須ではありません。
    • 凝固機能: 出血傾向がないか確認するために、凝固時間などを調べることもあります。
    • 溶連菌感染の検査: 先行感染として溶連菌が疑われる場合、ASO(抗ストレプトリジンO抗体)やASK(抗ストレプトキナーゼ抗体)などの抗体価を測定することがあります。
  • 尿検査: HSPにおいて最も重要かつ定期的に行うべき検査の一つです。
    • 血尿: 尿に血液が混じっていないかを確認します。目に見えない顕微鏡的血尿は、試験紙や顕微鏡で検出します。
    • 蛋白尿: 尿にタンパク質が漏れ出していないかを確認します。試験紙で陽性の場合、24時間蓄尿検査などで蛋白尿の量を定量的に測定することがあります。
    • 尿沈渣: 尿を遠心分離して得られる沈殿物を顕微鏡で観察し、赤血球(特に変形赤血球)、白血球、円柱などがないかを確認します。腎炎の活動性や性質を知る上で重要です。

尿検査は、HSPと診断された後も、腎臓の合併症(紫斑病性腎炎)を発症していないか、あるいは進行していないかを評価するために、症状が落ち着いた後も長期にわたって定期的に行う必要があります。

皮膚生検

紫斑の診断を確定したり、他の血管炎や紫斑の原因となる病気との鑑別が難しい場合に行われることがあります。

  • 方法: 紫斑が出ている皮膚の一部を局所麻酔で小さく切り取り、顕微鏡で組織を調べます。
  • わかること: HSPの場合、皮膚の小さな血管の壁に炎症細胞が集まっていること(血管炎)や、IgAという免疫物質が沈着していることが確認できます。IgAの沈着はHSPの診断基準の一つにも含まれています。

皮膚生検は全てのHSP患者さんに行われるわけではなく、診断が不明瞭な場合や非典型的な症状の場合に検討されます。

画像検査

腹部症状が強い場合や、特定の合併症が疑われる場合に行われることがあります。

  • 腹部超音波検査: 腹痛の原因を調べたり、腸重積がないかを確認したりするために行われます。非侵襲的で子どもにも行いやすい検査です。
  • X線検査: 腹部のX線検査で腸の拡張や腸閉塞のサインがないかを確認することがあります。
  • CT検査: 腸重積など、より詳細な評価が必要な場合や、他の腹部疾患との鑑別が必要な場合に行われることがあります。
  • 腎臓の超音波検査: 腎臓の大きさや形、尿路の異常などを確認するために行われることがあります。

腎生検

紫斑病性腎炎の重症度や病気のタイプを詳しく調べ、治療方針を決定するために行われることがあります。

  • 方法: 局所麻酔または全身麻酔下で、腎臓に細い針を刺し、ごく少量の腎臓組織を採取します。
  • わかること: 採取した組織を顕微鏡で詳しく調べることで、腎炎の活動性、病変の広がり、慢性化の程度などがわかります。IgAの沈着の程度も確認できます。
  • 実施判断: 全ての紫斑病性腎炎患者さんに行われるわけではなく、尿検査での異常が続く場合、蛋白尿が多い場合、腎機能が低下している場合など、比較的重症な腎炎が疑われる場合や、診断や治療方針の決定に腎臓の組織情報が必要な場合に検討されます。

HSPの診断は、これらの症状と検査結果を組み合わせて、総合的に行われます。特に、特徴的な紫斑と他の主要症状(関節、腹部、腎臓)の有無が重要な鍵となります。

HSP(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)の治療方法

HSPの治療の目的は、症状を和らげ、合併症(特に腎炎)を防ぎ、病気の回復を促すことです。多くの場合、症状の程度や合併症の有無によって治療法が異なります。軽症の場合は安静と対症療法で経過観察となることも多いですが、重症の場合や特定の合併症がある場合は薬物療法が行われます。

対症療法

HSPの対症療法は、病気そのものを治すのではなく、不快な症状を和らげることを目的とします。

  • 安静: 特に急性期で症状が強い場合は、安静が重要です。紫斑は重力のかかる下肢に出やすいため、横になって安静にすることで紫斑の広がりを抑える効果が期待できます。関節痛がある場合も、安静にすることで痛みが軽減します。
  • 痛み止め: 関節痛や腹痛に対して、アセトアミノフェンなどの鎮痛剤が用いられることがあります。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)も効果がありますが、腎臓への血流を減少させる可能性があるため、腎臓の機能が低下している場合や紫斑病性腎炎がある場合には使用に注意が必要です。必ず医師の指示に従って使用してください。
  • 皮膚のケア: 紫斑自体に特別な治療は不要なことが多いですが、かゆみがある場合は抗ヒスタミン薬が処方されることがあります。皮膚の乾燥を防ぐための保湿なども有効です。

対症療法は、HSPの自然経過における不快な症状を乗り切るためのサポートとなります。

薬物療法方案

症状が強い場合や、消化管症状・腎臓症状などの合併症がある場合には、炎症を抑えるための薬物療法が行われます。

  • ステロイド:
    • 目的: 血管の炎症を強力に抑える作用があります。特に、強い腹痛、消化管出血、重症の関節症状、そして紫斑病性腎炎に対して用いられます。
    • 使用方法: 症状の重症度に応じて、内服薬(経口ステロイド)や点滴(静脈内ステロイド)で投与されます。通常、症状が改善するまで一定期間投与し、その後は徐々に減量していきます。
    • 効果: 腹痛や関節痛に対しては比較的速やかに効果が現れることが多いです。腎炎に対する効果については、腎炎のタイプや重症度によって異なります。
    • 注意点: ステロイドには副作用(体重増加、顔が丸くなる(満月様顔貌)、感染しやすくなる、胃潰瘍、骨粗鬆症など)があります。特に長期使用や高用量投与では副作用のリスクが高まります。医師の指示に従って、決められた量と期間を厳守することが重要です。自己判断で中止したり、量を変更したりしてはいけません。
  • 免疫抑制剤:
    • 目的: ステロイドで効果が不十分な場合や、ステロイドを減量できない場合、あるいは重症の紫斑病性腎炎などで、免疫システムの活動をさらに抑えるために使用されることがあります。
    • 例: シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチルなどが用いられることがあります。
    • 使用判断: これらの薬剤は副作用のリスクもあるため、使用は慎重に判断され、腎臓専門医などが関わることが多いです。
  • その他の薬剤:
    • 重症の腎炎に対して、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)といった血圧を下げる薬(腎臓を保護する作用もある)や、抗血小板薬などが併用されることがあります。

どの薬を使用するか、どのくらいの量や期間使用するかは、患者さんの年齢、症状の程度、合併症の有無、全身状態などを考慮して医師が判断します。

合併症の治療

HSPにおいて、特定の臓器の合併症は重症化のリスクを高めるため、それぞれの合併症に応じた専門的な治療が必要になります。

  • 紫斑病性腎炎: 腎臓の合併症は最も注意が必要です。尿検査で血尿や蛋白尿が認められた場合は、定期的な経過観察が必要です。蛋白尿が多い、腎機能が低下しているなど、腎炎が進行している場合は、ステロイドや免疫抑制剤による治療が集中的に行われます。必要に応じて腎生検を行い、腎炎の病態を詳しく調べ、治療方針を決定します。腎炎の治療には専門的な知識が必要となるため、腎臓専門医との連携が重要です。
  • 消化管合併症: 強い腹痛や消化管出血がある場合は、入院して輸液やステロイドによる治療が行われます。腸重積を起こした場合は、内科的な整復術(高圧浣腸など)や、必要に応じて外科手術が緊急で行われます。消化管穿孔などの重篤な合併症を起こす可能性もあるため、腹痛が強い場合は安易に自己判断せず、速やかに医療機関を受診することが不可欠です。
  • その他の合併症: まれな肺や神経系の合併症が起きた場合は、それぞれの臓器の専門医による治療が必要になります。

HSPの治療においては、症状の管理と同時に、特に腎臓の合併症を早期に発見し、適切に治療することが長期的な予後を良好に保つために非常に重要です。症状が落ち着いた後も、必ず医師の指示に従って定期的な通院と検査(特に尿検査)を続けるようにしてください。

HSP(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)に関するよくある質問(FAQ)

HSPについて、患者さんやそのご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

紫斑はかゆみを伴いますか?

一般的に、HSPによる紫斑は強いかゆみを伴うことは少ないです。紫斑が出た部位にチクチクするような軽い違和感や、少し熱感を感じることはありますが、湿疹やじんましんのように強いかゆみで掻きむしってしまうことは通常ありません。もし強いかゆみを伴う場合は、HSP以外の皮膚疾患の可能性も考慮して医師に相談する必要があります。

紫斑は自然に消えますか?

HSPの紫斑は、多くの場合、数週間から数ヶ月かけて自然に消えていきます。新しい紫斑が出現することもあれば、古い紫斑が徐々に薄くなって消えていくこともあります。紫斑が消えた後、一時的に皮膚の色素沈着(茶色っぽい跡)が残ることがありますが、これも時間とともに薄れていくことがほとんどです。ただし、病気そのものが完全に治ったかどうかは、紫斑だけでなく他の症状(特に腎臓の症状)を含めて総合的に判断する必要があります。

紫斑病は人にうつりますか?

HSP(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)は、人にうつる病気ではありません。感染症が発症の誘因となることはありますが、病気自体が人から人へ感染することはありませんのでご安心ください。患者さんが他の人に病気をうつす心配はありませんし、他の人からHSPをもらうこともありません。

紫斑病は重症化することがありますか?

HSPは、多くの場合は自然に回復する良性の経過をたどりますが、一部の患者さんでは重症化したり、合併症を引き起こしたりすることがあります。特に注意が必要なのは以下の点です。

  • 紫斑病性腎炎: 腎臓の合併症(紫斑病性腎炎)は、HSPの予後を左右する最も重要な合併症です。多くの場合は軽症で自然に改善しますが、一部の患者さん(特に成人や、小児でも蛋白尿が多い、腎機能が低下しているなどの場合)では、腎炎が慢性化・進行し、将来的に慢性腎臓病や末期腎不全に至るリスクがあります。そのため、腎臓の症状がないように見えても、定期的な尿検査による経過観察が不可欠です。
  • 消化管合併症: 強い腹痛、消化管出血、そして特に腸重積は、HSPの急性期における重篤な合併症です。腸重積は緊急手術が必要になることがあり、放置すると危険な状態になる可能性があります。強い腹痛や血便がある場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
  • その他の重篤な合併症: 頻度は低いですが、肺出血や神経系の合併症なども報告されており、これらは生命にかかわる可能性があります。

したがって、HSPは「ただの紫斑」と軽く考えず、症状がみられた場合は必ず医療機関を受診し、医師の指示に従って適切な診断と治療、そして経過観察を受けることが重要です。

どのような場合に医療機関を受診すべきか?

もし、以下のような症状が見られた場合は、速やかに医療機関を受診してください。特に、子どもにこれらの症状が見られた場合は、HSPである可能性を考慮し、早めに小児科を受診することが推奨されます。

  1. 下肢や臀部に、触れるとわずかに盛り上がったような紫色の斑点(紫斑)が出現した。 特に、押しても色が消えない紫斑が見られた場合。
  2. 紫斑に加えて、関節の痛みや腫れ(特に足首や膝)がある。 歩きたがらない、足を引きずるなどの様子が見られたら注意が必要です。
  3. 紫斑に加えて、腹痛、吐き気、嘔吐、下痢、または血便がある。 特に腹痛が強い場合や、周期的な痛みを訴える場合、血便がある場合は、速やかに受診してください。腸重積などの重篤な合併症の可能性があります。
  4. 紫斑に加えて、尿の色が濃い、赤っぽい、または尿が泡立ちやすいなど、尿の異常が疑われる場合。 目に見える血尿があればすぐに受診が必要です。目に見えなくても、健診などで血尿や蛋白尿を指摘された後で紫斑が出現した場合はHSPの可能性があります。
  5. これらの症状のうち複数が同時に、または時期をずらして現れた場合。
  6. 先行する風邪などの感染症の後、数週間以内にこれらの症状が出現した場合。

HSPは診断が遅れると合併症のリスクが高まる可能性があります。特に腎臓の合併症は自覚症状に乏しい場合が多く、早期発見のために専門医による診断と定期的な検査が重要です。

小児科、内科、皮膚科などで診察を受けることができますが、初期症状によってはこれらの科のいずれかを受診してください。腹部症状が強い場合は、消化器科や外科と連携が必要になる場合もあります。腎臓の合併症が疑われる場合は、腎臓内科の専門医による診察が必要になることもあります。

適切な診断と治療を受けるためには、症状が出現した時期、症状の種類と程度、症状が変化した経過、先行感染の有無、服用中の薬剤などについて、できるだけ詳しく医師に伝えることが大切です。

HSP(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)の再発予防

HSPは一度症状が改善しても、数週間後、数ヶ月後、あるいは数年後に再発することが少なくありません。特に、腎臓の合併症を起こしたことがある患者さんでは、再発のリスクが高いと考えられています。HSPの明確な再発予防法はまだ確立されていませんが、以下の点に留意することが重要です。

  1. 先行感染症の予防と早期治療: HSPの誘因として最も多いのは感染症です。風邪やインフルエンザなどの感染症を予防するために、手洗いやうがいを励行し、人混みを避けるなどの一般的な感染対策が有効です。もし感染症にかかった場合は、早期に適切な治療を受け、体調を整えることが再発を防ぐ上で重要かもしれません。
  2. 体調管理: 十分な睡眠をとり、バランスの取れた食事を心がけ、ストレスを溜めないようにするなど、日頃から体調を良好に保つことが大切です。過労や睡眠不足は免疫力を低下させ、病気の再発や新たな感染症にかかるリスクを高める可能性があります。
  3. 寒冷暴露を避ける: HSPの発症や再発に寒冷暴露が関連している可能性が指摘されているため、特に冬場などは体を冷やさないように注意することも有効かもしれません。
  4. 医師の指示による定期的な経過観察: HSPと診断された患者さん、特に紫斑病性腎炎を発症した患者さんは、症状が落ち着いた後も、医師の指示に従って定期的に通院し、尿検査などの検査を受けることが非常に重要です。これは、腎炎の再発や進行を早期に発見し、必要に応じて迅速に治療を開始するためです。自覚症状がなくても、腎臓の状態が悪化している可能性があるため、決して自己判断で通院や検査を中断してはいけません。経過観察の期間や頻度は、最初の病気の重症度や腎臓の状態によって異なりますが、通常は少なくとも1年間は定期的な尿検査が必要です。
  5. 再発のサインに注意する: 再発の兆候を早期に捉えるために、再び紫斑が出現していないか、関節が痛んだり腫れたりしていないか、腹痛がないか、尿の色や量、泡立ちに変化がないかなど、日頃からご自身の体調に注意を払うことが大切です。もし再発を疑う症状が見られた場合は、速やかに医師に相談してください。

HSPの再発は避けられない場合もありますが、日頃からの健康管理と、医師との連携による適切な経過観察によって、重症化を防ぎ、病気とうまく付き合っていくことが可能です。

【まとめ】HSPの症状に気づいたら、迷わず医療機関を受診しましょう

HSP(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)は、皮膚の紫斑、関節痛、腹部症状、そして腎臓の障害といった多岐にわたる症状を引き起こす全身性の血管炎です。これらの症状は、単独で現れることもあれば、時期をずらしてあるいは同時に現れることもあり、その現れ方も患者さんによって様々です。

特に、子どもに下肢や臀部の紫斑が見られた場合は、HSPの可能性を強く疑う必要があります。紫斑に加えて、関節の痛みで歩きたがらなかったり、原因不明の腹痛や血便があったりする場合は、よりHSPの可能性が高まります。

HSPの多くは予後が良い病気ですが、腎臓の合併症(紫斑病性腎炎)を起こすと、将来的に慢性腎臓病に移行するリスクがあるため、注意が必要です。また、消化管の合併症である腸重積なども、早期に発見し適切な処置を行わないと重篤化する可能性があります。

したがって、HSPが疑われる症状が見られた場合は、「様子を見よう」などと自己判断せず、速やかに医療機関を受診することが最も重要です。医師による正確な診断と、症状に応じた適切な治療を受けることで、病気の回復を促し、合併症を防ぐことができます。症状が改善した後も、特に腎臓の合併症のチェックのために、医師の指示に従って定期的な通院と検査(特に尿検査)を続けることを忘れないでください。

この記事が、HSPの症状について理解を深め、適切な行動をとるための一助となれば幸いです。ただし、個々の症状や診断、治療については、必ず医師の診察を受け、専門家のアドバイスに従うようにしてください。

免責事項: 本記事は、HSP(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)に関する一般的な情報提供を目的として作成されており、医学的診断や治療方針の決定を代替するものではありません。個々の症状や状態については個人差がありますので、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。本記事の情報に基づくいかなる行為についても、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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