双極性障害 治療法ガイド|最新の薬物療法や生活習慣

双極性障害は、気分が高揚する「躁(そう)状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す病気です。気分の波が日常生活に大きな影響を及ぼすため、適切な治療を受けることが非常に重要になります。この記事では、双極性障害の主な治療法や完治の考え方、再発予防策、そしてご家族ができることについて解説します。この病気と向き合い、安定した生活を送るための情報をまとめました。まずは専門医に相談することが第一歩となります。

双極性障害とは?診断基準と病型(1型・2型の違い)

双極性障害は、以前は「躁うつ病」と呼ばれていた精神疾患です。特徴的なのは、気分の波が周期的に現れることで、単なる気分のムラや性格とは異なり、脳の機能障害が関わっていると考えられています。

診断は、問診や症状の経過に基づいて精神科医によって行われます。国際的な診断基準(DSM-5など)では、躁状態やうつ状態のエピソードが一定期間続いていることなどが基準となります。

双極性障害には、主に以下の2つの病型があります。

  • 双極性I型障害: 少なくとも1回以上の「躁状態」を経験したことがある場合です。躁状態の程度が重く、入院が必要になったり、仕事や人間関係に深刻な問題を引き起こしたりすることがあります。うつ状態を伴うことが多いですが、躁状態のみでも診断されます。
  • 双極性II型障害: 「軽躁(けいそう)状態」とうつ状態を繰り返す場合です。軽躁状態は躁状態ほど重くなく、気分が高揚したり活動的になったりしますが、通常は入院に至るほどではなく、本人や周囲も病的な変化と気づきにくいことがあります。しかし、うつ状態は双極性I型障害と同様に深刻になることがあります。

これらの病型に加え、気分の波が1年の間に4回以上現れる「急速交代型(ラピッドサイクラー)」など、経過による分類もあります。病型によって治療アプローチが異なる場合があるため、正確な診断が適切な治療の始まりとなります。

双極性障害の主な治療法

双極性障害の治療は、単に症状を抑えるだけでなく、気分の波を安定させ、再発を防ぎ、患者さんが社会生活を営めるようにサポートすることを目的とします。治療法は主に「薬物療法」と「精神療法」の組み合わせで行われます。

薬物療法が中心となる理由

双極性障害は、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れが原因の一つと考えられています。そのため、このバランスを調整し、気分の波をコントロールするためには、薬物療法が治療の中心となります。特に、躁状態やうつ状態の急性期には、症状を速やかに改善するために薬が重要な役割を果たします。また、症状が落ち着いた後も、気分の波を抑え、再発を予防するために薬を継続して服用することが多いです。

薬物療法は、症状の種類や重症度、患者さんの体質や他の疾患の有無などを考慮して、医師が慎重に薬剤を選択し、量を調整します。効果が現れるまでに時間がかかったり、副作用が出たりすることもあるため、医師と相談しながら根気強く取り組むことが大切です。

気分安定薬の種類と効果(リチウム、バルプロ酸など)

気分安定薬は、双極性障害の治療において最も重要な薬物の一つです。躁状態とうつ状態の両方を抑え、気分の波をなだらかにする働きがあります。主な気分安定薬には以下のようなものがあります。

薬剤名 主な効果 注意点・副作用
炭酸リチウム 躁状態、うつ状態、再発予防に有効。特に躁状態や自殺リスクの軽減に効果が期待されます。 有効血中濃度範囲が狭いため、定期的な血液検査で血中濃度を測定する必要があります。副作用として、手の震え、吐き気、下痢、喉の渇き、多尿などがあります。腎臓や甲状腺機能に影響を与えることもあります。
バルプロ酸 躁状態、混合状態、再発予防に有効。リチウムが効きにくい場合や急速交代型にも用いられます。 眠気、吐き気、食欲不振、体重増加などが起こることがあります。肝機能障害や膵炎、血小板減少などの重大な副作用も稀にあります。女性の場合、妊娠中に使用すると胎児に影響を与える可能性があるため、慎重な検討が必要です。
カルバマゼピン 躁状態、混合状態、再発予防に有効。特に急速交代型やてんかんを合併している場合に用いられることがあります。 眠気、めまい、発疹などが起こることがあります。重篤な副作用として、Stevens-Johnson症候群や再生不良性貧血などがあります。他の薬剤との相互作用が多いため、併用薬には注意が必要です。
ラモトリギン 特にうつ状態、再発予防に有効。躁状態への効果は他の気分安定薬に比べて弱いとされます。 重篤な副作用として、Stevens-Johnson症候群などの重い皮膚障害があります。これを避けるため、少量からゆっくりと増量していく必要があります。眠気、めまい、吐き気なども起こり得ます。

これらの薬は、それぞれ特徴や効果、副作用が異なります。患者さんの状態に合わせて、医師が最適な薬を選択し、用量を調整します。自己判断で薬の量を変更したり、服用を中止したりすることは絶対に避けましょう。

非定型抗精神病薬の役割

非定型抗精神病薬は、もともと統合失調症の治療薬として開発されましたが、双極性障害の治療においても重要な役割を果たしています。特に以下のような場合に用いられます。

  • 重い躁状態や混合状態の治療: 気分安定薬だけでは十分に症状がコントロールできない場合に、迅速な効果を期待して併用されます。
  • 双極性うつ状態の治療: 一部の非定型抗精神病薬は、双極性うつ状態に対しても効果があることが確認されており、使用されることがあります。抗うつ薬単独での使用は、躁転(うつ状態から躁状態へ移行すること)のリスクを高める可能性があるため、慎重に行われます。
  • 維持期治療: 気分の波を安定させ、再発を予防するために、気分安定薬と併用されたり、単独で用いられたりすることもあります。

非定型抗精神病薬には、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール、リスペリドンなど様々な種類があり、それぞれ効果や副作用のプロファイルが異なります。主な副作用としては、眠気、体重増加、代謝系の異常(血糖値や脂質の異常)、錐体外路症状(手足の震え、筋肉のこわばり)などがあります。

補助的に用いられる薬剤

気分安定薬や非定型抗精神病薬が治療の中心となりますが、症状に応じて補助的に他の薬剤が処方されることもあります。

  • 抗うつ薬: 双極性うつ状態に対して使用されることがありますが、前述のように躁転リスクがあるため、単独ではなく気分安定薬や非定型抗精神病薬と併用し、慎重に用いられます。
  • 睡眠薬・抗不安薬: 不眠や強い不安がある場合に、一時的に症状を緩和するために用いられることがあります。ただし、依存性のリスクがあるため、漫然と長期に使用することは避けられます。

これらの補助的な薬剤は、あくまで一時的な症状緩和や主となる治療薬の効果を補うために使われます。どの薬も、医師の指示に従って正しく服用することが重要です。

精神療法・心理療法の併用

薬物療法は双極性障害の治療の柱ですが、それだけでは不十分な場合があります。病気について正しく理解し、ストレスへの対処法を身につけ、生活リズムを整えるなど、病気と上手に付き合っていくためには、精神療法や心理療法の併用が効果的です。精神療法は、薬物療法による症状の改善を助け、再発予防効果を高めることが期待されています。

認知行動療法(CBT)について

認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)は、自分の考え方(認知)や行動パターンが気分や感情にどのように影響しているかを理解し、より適応的な考え方や行動を身につけることで問題解決を目指す療法です。双極性障害においては、特にうつ状態の改善や、気分変動に対する対処能力を高めるのに役立ちます。

CBTでは、以下のような点に取り組みます。

  • 気分や行動、考え方の関連性を理解する
  • うつ状態や躁状態になりやすい考え方の偏りを認識し、修正する
  • 問題解決スキルを身につける
  • 活動量の調整や、楽しい活動・達成感のある活動を生活に取り入れる

対人関係・社会リズム療法(IPSRT)

対人関係・社会リズム療法(Interpersonal and Social Rhythm Therapy: IPSRT)は、双極性障害の再発予防に特化した精神療法です。対人関係の問題と生活リズムの乱れが気分の波に影響を与えるという考えに基づいています。

IPSRTでは、以下のような点に取り組みます。

  • 対人関係の問題の特定と解決: 家族、友人、職場の人間関係など、ストレスの原因となる対人関係の問題を整理し、解決策を探します。
  • 社会リズムの安定化: 睡眠時間、起床時間、食事時間、活動時間などの生活リズムを一定に保つことの重要性を学び、具体的な生活スケジュールの安定化を目指します。毎日同じ時間に寝起きする、食事をとる、といった簡単なことから始めます。

生活リズムの安定は、脳内の生物時計を整え、気分の安定に繋がると考えられています。

精神教育の重要性

精神教育(Psychoeducation)は、双極性障害の患者さん自身とご家族が、病気について正しい知識を身につけるための取り組みです。病気の原因、症状、経過、治療法、再発のサイン、対処法などを学びます。

精神教育を受けることで、以下のような効果が期待できます。

  • 病気に対する誤解や偏見が解消される
  • 病気を受け入れ、治療に前向きに取り組めるようになる(アドヒアランスの向上)
  • 再発のサインに早期に気づき、悪化する前に対処できるようになる
  • セルフケアの方法を身につけることができる
  • ご家族も病気への理解を深め、患者さんを適切にサポートできるようになる

精神教育は、個別の面談だけでなく、集団で行われるプログラムや、冊子、ウェブサイトなどの情報源を通じて行われることもあります。治療の初期段階から積極的に取り組むことが推奨されます。

その他の治療法

薬物療法と精神療法が標準的な治療ですが、症状が重い場合や、これらの治療法だけでは効果が不十分な場合に、その他の治療法が検討されることがあります。

電気けいれん療法(ECT)

電気けいれん療法(Electroconvulsive Therapy: ECT)は、全身麻酔下で頭部に弱い電流を流し、脳に短いけいれんを起こさせる治療法です。非常に重症で生命の危険があるようなうつ状態や、薬物療法が効きにくい躁状態、混合状態、急速交代型に対して有効な場合があります。

ECTは効果発現が比較的速く、薬物療法のリスクが高い高齢者や妊婦にも適用されることがあります。ただし、治療には専門的な設備と技術が必要であり、記憶障害などの副作用のリスクも伴うため、適応は慎重に判断されます。修正型ECT(麻酔や筋弛緩剤を使用)が一般的になっており、以前に比べて安全性が高まっています。

経頭蓋磁気刺激法(TMS)

経頭蓋磁気刺激法(Transcranial Magnetic Stimulation: TMS)は、頭皮に置いたコイルから発生する磁気パルスによって、脳の特定の部位を刺激する治療法です。日本では、薬物療法で十分な効果が得られないうつ病に対して保険適用されています。双極性うつ病に対しても有効である可能性が研究されていますが、保険適用外となる場合があります。

TMSはECTと比較して侵襲性が低く、外来での治療が可能です。主な副作用は、治療中の頭皮の痛みや不快感、稀にけいれん発作などです。

入院治療が必要なケース

双極性障害では、以下のような場合に一時的な入院治療が検討されます。

  • 症状が非常に重く、自分自身や他者を傷つける危険性がある場合: 自殺念慮が強い重症うつ状態や、衝動的な行動が抑えられない激しい躁状態など。
  • 食事や睡眠が全く取れないなど、全身状態が悪化している場合: 重症うつ状態による拒食や、躁状態による極端な睡眠不足など。
  • 自宅では適切な環境を保つのが難しい場合: 多大な借金をする、社会的に問題となる行動を繰り返すなど、病気による判断力の低下が顕著な場合。
  • 集中的な治療や精密な診断が必要な場合: 薬物調整が難しい、複数の治療法を組み合わせる必要がある、診断が確定しない場合など。

入院中は、病状に合わせて薬物療法の調整が集中的に行われ、精神療法やリハビリテーションプログラムなどが提供されることもあります。安全な環境で落ち着いて治療に取り組むことができます。

双極性障害に完治はあるのか?予後と寛解

双極性障害と診断されたとき、「完治するのか?」という疑問を持たれる方は少なくありません。この病気における「完治」という言葉の捉え方と、予後、そして治療目標について解説します。

「完治」の捉え方と治療目標

現在の医学では、双極性障害は糖尿病や高血圧のような慢性疾患に近いと考えられています。つまり、病気そのものが完全に消滅して二度と症状が出ないという意味での「完治」は難しいことが多いです。しかし、これは悲観すべきことではありません。

双極性障害の治療における現実的な、そして十分に達成可能な目標は、「寛解(かんかい)」と呼ばれる状態を維持することです。寛解とは、症状が落ち着き、気分の波が安定して、病気にかかる前と変わらない、あるいはそれに近い生活を送ることができる状態を指します。

適切な治療を継続し、病気と上手に付き合っていくことで、多くの患者さんが寛解状態を長く維持し、充実した日常生活を送ることが可能になります。治療目標は、単に症状をなくすことだけでなく、病気による影響を最小限に抑え、生活の質(QOL)を高めることにあると言えます。

再発リスクと治療継続の重要性

双極性障害は、寛解した後も再発しやすい性質を持っています。治療を途中でやめてしまったり、自己判断で薬の量を減らしたりすると、高い確率で気分の波が再び現れます。再発を繰り返すたびに、次のエピソードが起きやすくなったり、治療への反応が悪くなったりする可能性も指摘されています。

再発のリスクを高める要因としては、以下のようなものがあります。

  • 服薬の中断や不規則な服用: 最も大きなリスク要因です。
  • 不規則な生活リズム: 睡眠不足や昼夜逆転など。
  • 過度なストレス: 仕事や人間関係のトラブル、大きなライフイベントなど。
  • アルコールや薬物の乱用: 気分を不安定にさせます。
  • 再発のサインに気づかない、あるいは放置する: 気分や行動の変化の初期段階で対応できない。

これらのリスクを管理し、寛解状態を維持するためには、症状が落ち着いてからも薬物療法や精神療法を継続することが非常に重要です。医師と相談しながら、長期的な視点で治療計画を立てましょう。

症状を安定させるための自己管理

双極性障害の症状を安定させ、再発を防ぐためには、医療機関での治療だけでなく、患者さん自身による自己管理が不可欠です。病気について学び、自分の状態を把握し、積極的にセルフケアに取り組むことが、安定した生活を送る鍵となります。

具体的な自己管理の方法には、以下のようなものがあります。

  • 規則正しい生活リズムの維持: 毎日同じ時間に寝て起きる、食事をとる、といった基本的な生活習慣を安定させることが、気分の波を抑えるのに役立ちます。週末の寝だめなども避けた方が良い場合があります。
  • 服薬アドヒアランスの向上: 医師から指示された薬を、量や回数を守って正確に服用することが最も重要です。薬の副作用や飲み忘れへの対処法なども医師や薬剤師に相談しましょう。
  • ストレス管理: ストレスは再発の大きな引き金となります。自分に合ったストレス解消法(リラクゼーション、趣味、運動など)を見つけ、実践することが大切です。ストレスの原因を特定し、可能であれば軽減することも検討します。
  • 気分の波のモニタリング: 気分や活動量、睡眠時間、服薬状況などを毎日記録する「気分グラフ」をつけることは、自分の状態の変化に気づく上で非常に有効です。グラフを医師に見せることで、診察の際に役立ちます。
  • 再発のサインを知る: 自分の場合、どのような変化が躁状態やうつ状態の始まりを示すサインになるのかを理解しておきましょう。例えば、「眠らなくても平気になった」「イライラしやすくなった」「何もかもが億劫になった」など、具体的なサインをリストアップしておくと良いでしょう。
  • 早期対応計画(クライシスプラン): 症状が悪化した場合に、どのように対処するか、誰に助けを求めるかなどをあらかじめ計画しておくことです。主治医や信頼できる家族・友人などと共有しておくと安心です。
  • 健康的な食生活と適度な運動: バランスの取れた食事と定期的な運動は、心身の健康を保ち、気分の安定にも繋がります。
  • アルコール・カフェイン・ニコチンの制限: これらは気分を不安定にさせたり、睡眠を妨げたりすることがあります。可能な限り控えることが推奨されます。

自己管理は一人で行う必要はありません。精神療法の中で専門家と一緒に学ぶこともできますし、家族のサポートを得ながら取り組むことも重要です。

家族や周囲の人ができること

双極性障害は、患者さん本人だけでなく、ご家族や周囲の人にも大きな影響を与える病気です。病気への理解を深め、適切なサポートをすることは、患者さんの回復と安定に不可欠です。

躁状態・うつ状態それぞれのサインへの気づき方

ご家族が患者さんの気分の波のサインに早期に気づくことは、病状の悪化を防ぎ、迅速な対応に繋がります。日頃から患者さんの様子をよく観察しておくことが大切です。

躁状態(軽躁状態を含む)の主なサイン

項目 サインの例
気分 異常に気分が高揚している、イライラしやすい、怒りっぽい、自信過剰になっている
活動性 普段より活動的、落ち着きがない、次々と新しいことを始める(途中でやめる)、寝ずに活動し続けられる、多弁になる
思考・判断 考えが次々浮かぶ(観念奔逸)、注意散漫になる、衝動的な行動をとる、根拠なく楽観的、現実離れした計画を立てる、浪費をする
睡眠 睡眠時間が著しく短くなる(3時間以下でも疲れを感じないなど)
対人関係 誰にでも話しかける、馴れ馴れしい、トラブルを起こしやすい

うつ状態の主なサイン

項目 サインの例
気分 気分がひどく落ち込む、悲しい、憂鬱、喜びを感じない(アンヘドニア)、絶望感、イライラしている(場合もある)
活動性 体がだるい、疲れやすい、何もやる気が起きない、動きが鈍くなる(またはそわそわ落ち着かない)、活動量が著しく低下する
思考・判断 思考力が低下する、集中できない、物忘れ、自分を責める(自責感)、ネガティブな考えにとらわれる、死にたい気持ちになる
睡眠 寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚める(早朝覚醒)、寝すぎる(過眠)
食欲 食欲がなくなる、体重が減る(または増える)
身体症状 頭痛、肩こり、腰痛、便秘など、身体的な不調を訴えることがある

これらのサインは個人によって異なり、また軽度な変化から始まることが多いです。日頃から患者さんの「いつもと違う」様子に注意を払い、気になったら優しく声をかけてみることが大切です。

患者さんへの適切な関わり方・注意点

患者さんが病気と向き合い、治療を続ける上で、ご家族や周囲の人の理解とサポートは大きな力になります。しかし、どのように接すれば良いか悩むこともあるでしょう。

適切な関わり方のポイント

  • 病気への理解を深める: 双極性障害は「性格」ではなく「病気」であることを理解し、患者さんの言動を病気の影響として捉えるように努めましょう。
  • 話を傾聴する: 患者さんの気持ちや悩みに耳を傾け、共感的な姿勢で接することが大切です。否定したり、安易に励ましたりするのは避けましょう。
  • 服薬をサポートする: 薬の飲み忘れがないか声をかけたり、通院を促したりするなど、治療を継続するためのサポートをします。ただし、過度に干渉したり、責めたりしないように注意しましょう。
  • 規則正しい生活を促す: 一緒に早寝早起きを心がけたり、決まった時間に食事をとったりするなど、生活リズムを整える手助けをします。
  • 再発のサインに気づいたら早めに相談を促す: 状態の変化に気づいたら、患者さんと話し合い、主治医への連絡や受診を促します。緊急時は医療機関に相談します。
  • 過度な期待をしない: 回復には時間がかかること、気分の波は完全にゼロにならない可能性があることを理解し、焦らず patiently(根気強く)見守ることが大切です。
  • 金銭管理のサポート(躁状態時): 躁状態では衝動的な浪費をすることがあります。事前に話し合って、家族が金銭管理をサポートするなどの対策を検討することが有効です。

避けるべき関わり方

  • 病気を否定したり、「気の持ちようだ」などと精神論で片付けること。
  • 患者さんを責めたり、非難したりすること。
  • 「早く治ってほしい」など、過度な期待を押し付けること。
  • 躁状態の勢いに乗って話を合わせてしまったり、要求を安易に受け入れたりすること(後で問題になる可能性があるため)。
  • うつ状態の患者さんに無理に活動を強いたり、励ましすぎたりすること。
  • 患者さんのプライバシーを侵害すること。

患者さんとのコミュニケーションでは、安心感を与え、信頼関係を築くことが何よりも重要です。

家族自身の相談先と必要なサポート

患者さんをサポートするご家族も、大きな精神的負担を抱えることがあります。ご家族自身が孤立せず、適切なサポートを受けることが、患者さんのためにも、家族全体の健康のためにも不可欠です。

  • 医療機関の医療ソーシャルワーカー(MSW)や看護師に相談する: 病気や治療に関する疑問、患者さんとの関わり方、利用できる社会資源(制度やサービス)などについて相談できます。
  • 地域の精神保健福祉センターに相談する: 専門の相談員が、病気に関する相談や、生活上のアドバイス、利用できるサービスの情報提供などを行っています。
  • 家族会に参加する: 同じような悩みを持つ家族同士で経験や情報を共有したり、支え合ったりする場です。孤独感が軽減され、病気への理解も深まります。
  • 専門家(精神科医、心理士など)による家族療法を受ける: 患者さん本人と家族が一緒にセラピーを受けることで、家族間のコミュニケーションを改善したり、病気への対処法を家族全体で学んだりすることができます。
  • 自分自身の心身の健康を保つ: 無理をせず、適度に休息をとる、自分の時間を持つ、友人や他の家族に話を聞いてもらうなど、ご自身のメンタルケアも非常に重要です。共倒れにならないように注意しましょう。

患者さんの病気と向き合う過程は、ご家族にとっても学びと成長の機会となります。一人で抱え込まず、利用できるサポートを積極的に活用しましょう。

双極性障害の治療を受けるためのステップ

双極性障害の疑いがある場合や、診断を受けた後に治療を開始・継続するためには、いくつかのステップがあります。

専門医・医療機関の選び方

双極性障害の治療は専門性が高いため、精神科医、特に双極性障害の診断・治療経験が豊富な医師を選ぶことが望ましいです。

  1. かかりつけ医に相談する: まずは、普段から相談できる内科医やかかりつけ医に相談してみるのも良いでしょう。必要に応じて精神科を紹介してもらえます。
  2. 地域の精神科を探す: インターネットや地域の医療情報サイト、自治体の保健所などで精神科を検索できます。
  3. 病院のウェブサイトや紹介情報を確認する: 医師の経歴、専門分野、クリニックの雰囲気や診療方針などを確認します。双極性障害の診療に力を入れているか、精神療法を提供しているかなども参考になります。
  4. 初診を予約する: 電話やインターネットで予約します。初診時は時間がかかる場合があるため、時間に余裕を持って臨みましょう。
  5. 診察を受ける: 自分の症状や困っていること、これまでの経過などを具体的に医師に伝えます。質問したいことは事前にメモしておくと良いでしょう。
  6. 医師との信頼関係を築く: 双極性障害の治療は長期にわたることが多いため、医師との信頼関係が非常に重要です。話をしっかり聞いてくれるか、説明は分かりやすいかなどを判断し、安心して治療を任せられる医師を見つけましょう。必要であればセカンドオピニオンを検討することも可能です。
  7. 通いやすさも考慮する: 定期的な通院が必要になるため、自宅や職場からの通いやすさも考慮に入れると良いでしょう。

医療費助成制度について

双極性障害の治療は長期にわたるため、医療費の負担が気になるかもしれません。日本では、精神疾患の治療を継続しやすくするために、いくつかの医療費助成制度が設けられています。

制度名 概要 利用のメリット 申請方法
自立支援医療(精神通院医療) 精神疾患のために、指定の医療機関で通院による精神医療を受けている方の医療費の自己負担額を軽減する制度です。原則として、医療費の自己負担が1割になります。 医療費の負担が大幅に軽減されるため、経済的な心配なく治療を継続しやすくなります。 市区町村の担当窓口(障害福祉課など)で申請します。医師の診断書などが必要です。有効期間は1年間で、継続申請が必要です。
精神障害者保健福祉手帳 一定程度の精神障害の状態にあることを証明する手帳です。この手帳を持っていることで、様々な福祉サービスや割引(税金の控除、公共料金の割引、交通機関の割引など)を受けることができます。 様々な日常生活での支援やサービスが受けられるため、社会生活の負担軽減に繋がります。 市区町村の担当窓口で申請します。医師の診断書などが必要です。有効期間は2年間で、更新申請が必要です。

これらの制度以外にも、高額療養費制度など、他の公的な医療費助成制度を利用できる場合もあります。制度の利用には条件があり、申請手続きが必要です。主治医や医療機関の医療ソーシャルワーカー、地域の精神保健福祉センターなどで、利用できる制度について相談してみましょう。

【まとめ】双極性障害の治療は長期的な視点で

双極性障害の治療は、躁状態とうつ状態という気分の波をコントロールし、安定した生活を取り戻し、そしてそれを維持していくことを目指します。完全に病気が消えるという意味での「完治」は難しいことが多いですが、適切な薬物療法を中心に、精神療法や自己管理、そしてご家族のサポートを組み合わせることで、「寛解」という症状が安定した状態を長く維持することは十分に可能です。

治療は長期にわたるため、医師との信頼関係を築き、根気強く治療を継続することが最も重要です。また、ご自身やご家族が病気について正しく学び、再発のサインに早く気づいて対処すること、規則正しい生活を心がけることなど、自己管理も非常に大切な役割を果たします。

もし、ご自身やご家族に双極性障害の疑いがある、あるいは診断を受けたばかりで不安を感じている場合は、一人で悩まず、まずは精神科医に相談してください。専門家のアドバイスを受けながら、あなたに合った治療計画を立て、病気と上手に付き合っていく方法を見つけていきましょう。医療費助成制度なども活用し、安心して治療を継続できる環境を整えることも重要です。この病気と向き合い、より良い生活を送るためのサポートは必ず存在します。

免責事項: 本記事は、双極性障害の一般的な治療法に関する情報提供を目的としています。個々の病状や治療方針は、必ず専門の医師と相談の上で決定してください。本記事の内容は、医学的な診断や治療の代替となるものではありません。また、記事中の情報は、執筆時点での一般的な知見に基づいています。

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