希死念慮の原因は何?「死にたい」気持ちにどう向き合う?

希死念慮は、死を願う気持ちや「いなくなってしまいたい」と漠然と考える状態を指します。多くの人が人生の中で一度は経験する可能性がある複雑な心の状態です。単に「疲れた」「嫌だ」といった一時的な感情とは異なり、より深刻で継続的な苦悩を伴う場合があります。この希死念慮がなぜ生まれるのか、その背景には様々な要因が隠されています。この記事では、希死念慮の原因から、それに伴う症状、適切な対処法や相談先まで、精神科医の視点も踏まえながら詳しく解説します。希死念慮に悩むご本人や、身近な大切な方の力になりたいと考える方にとって、少しでも光となる情報を提供できれば幸いです。

希死念慮(きしねんりょ)は、精神医学や心理学の分野で用いられる言葉です。日常会話ではあまり聞き慣れないかもしれませんが、心の健康に関わる重要な概念です。この希死念慮が具体的にどのような状態を指すのか、その正確な意味と、似ているようで異なる「自殺願望」「自殺企図」との違いについて説明します。

希死念慮の正確な意味

希死念慮とは、「死にたい」「いなくなってしまいたい」といった考えや願望が頭の中に浮かぶ状態を指します。これは、必ずしも具体的な自殺の計画や意図を伴うものではありません。むしろ、生きていること自体が辛い、この苦しみから逃れたい、といった絶望感や無力感から生じる、死への漠然とした憧れや考えであることが多いです。

例えば、

  • 「もう何もかも嫌になった。消えてしまいたい。」
  • 「このままではいられない。終わらせたい。」
  • 「もし事故に遭って死んでしまってもいい。」

このように、自ら積極的に命を絶とうとする強い意志ではなく、現状からの逃避や苦痛からの解放を願う形で死を意識する状態が希死念慮です。この考えが頭から離れず、日常生活に支障をきたすこともあります。

希死念慮と自殺願望・自殺企図の違い

希死念慮と関連する言葉に「自殺願望」「自殺企図」があります。これらは似ていますが、それぞれ異なる段階や意味合いを持っています。

用語 意味 特徴
希死念慮 死にたい、いなくなってしまいたいといった漠然とした考えや願望が頭に浮かぶ状態 具体的な計画や強い意図を伴わないことが多い。苦痛からの逃避を願う。
自殺願望 自ら命を絶ちたいという強い願望。 具体的な計画を立て始めるなど、希死念慮よりも一歩進んだ状態。強い死への指向性がある。
自殺企図 自殺を実行しようと具体的な行為に及ぶこと。 実際に自傷行為や自殺の手段を試みる段階。命に関わる危険が非常に高い。

希死念慮は、自殺願望や自殺企図の初期段階やサインとして現れることがあります。しかし、希死念慮があるからといって、必ずしも自殺企図に至るわけではありません。重要なのは、どの段階であっても、その苦悩は深刻であり、適切なサポートや治療が必要であるということです。希死念慮の段階で支援につなげることができれば、より深刻な状況を防ぐ可能性が高まります。

希死念慮の主な原因

希死念慮は単一の原因で生じることは少なく、複数の要因が複雑に絡み合って発生することがほとんどです。その原因は、個人の心や体の状態、置かれている環境、過去の経験など多岐にわたります。主な原因として考えられるものを詳しく見ていきましょう。

精神疾患が原因となるケース

希死念慮は、様々な精神疾患の主要な症状の一つとして現れることが非常に多いです。精神疾患によって、脳の機能や感情、思考のバランスが崩れ、生きることへの希望を失ったり、強い苦痛を感じたりすることが、希死念慮につながります。

うつ病・双極性障害

うつ病は、希死念慮の最も一般的な原因の一つです。うつ病になると、

  • 気分の落ち込みが続く
  • 興味や喜びを感じられなくなる(アパシー)
  • 強い疲労感や倦怠感
  • 集中力や思考力の低下
  • 将来への絶望感や無価値感

といった症状が現れます。これらの症状が重くなると、「生きているのが辛い」「死んでしまいたい」という考えが生まれやすくなります。

特に、深刻な無価値感や自責の念が強い場合、自分は生きている価値がないと感じ、「いなくなる方が良い」と考えてしまうことがあります。

双極性障害(躁うつ病)も、うつ状態の時にうつ病と同様に希死念慮が現れることがあります。躁状態では活発になりますが、うつ状態では強い抑うつ気分に苛まれ、希死念慮や自殺のリスクが高まります。

統合失調症

統合失調症は、思考や知覚、感情の障害を特徴とする精神疾患です。幻覚(特に幻聴)や妄想といった症状が現れることがあります。幻聴によって「死ね」「お前は必要ない」といった声を聞かされたり、妄想によって追い詰められていると感じたりすることで、希死念慮や自殺企図に至ることがあります。また、病気による社会からの孤立感や将来への不安も希死念慮につながる要因となります。

適応障害・PTSD

適応障害は、特定のストレス要因(仕事、人間関係など)に対して、抑うつ気分や不安、行動の変化といった症状が現れる状態です。ストレスの原因から離れると症状が改善することが多いですが、ストレスが非常に強い場合や、適切に対処できない場合には、強い苦痛から希死念慮が生じることがあります。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、生命の危機に関わるような強い衝撃を受けた体験(トラウマ)の後に発症する精神疾患です。フラッシュバック(つらい体験を再体験する)、回避行動、過覚醒といった症状に加え、トラウマ体験に伴う強い苦痛や自責の念、将来への絶望感から希死念慮が現れることがあります。トラウマ体験を忘れ去りたい、苦しみから解放されたいという思いが、死への願望につながることがあります。

不安障害・パニック障害

不安障害(全般性不安障害、社交不安障害など)やパニック障害も、希死念慮を引き起こすことがあります。慢性的で強い不安や、突然の激しいパニック発作によって、日常生活が著しく制限されたり、将来への強い不安や絶望感を感じたりすることが、希死念慮につながることがあります。「この苦しみから解放されたい」という思いが、死への考えに結びつくことがあります。

身体疾患が原因となるケース

精神疾患だけでなく、特定の身体疾患も希死念慮の原因となることがあります。

  • 慢性的な痛みや難治性の病気: がん、慢性疼痛、自己免疫疾患など、治癒が難しく、強い痛みや身体的な苦痛が続く病気は、患者の心に大きな負担をかけます。病状の進行による絶望感や、将来への不安から希死念慮が生じることがあります。
  • 脳の病気や神経疾患: 脳腫瘍、脳卒中、認知症、パーキンソン病なども、脳の機能に影響を与え、感情や思考のバランスを崩すことがあります。また、病気による身体機能の低下や将来への不安も希死念慮につながることがあります。
  • 内分泌疾患: 甲状腺機能低下症など、ホルモンバランスの異常も抑うつ気分を引き起こし、希死念慮のリスクを高めることがあります。

身体疾患によって希死念慮が生じる場合、病気による直接的な身体的苦痛だけでなく、病気によって失われた生活機能や社会的な役割、将来への希望といった喪失体験が大きく影響します。

環境的・社会的原因

個人の内面だけでなく、置かれている環境や社会的な状況も希死念慮の重要な原因となり得ます。強いストレスや孤立は、心を疲弊させ、生きる力を奪います。

人間関係の悩み

  • 家族との不和: 家族との関係性の悪化、家庭内の暴力や虐待、介護問題などは、安心できるはずの場所が苦痛の源となり、逃げ場がないと感じさせることで希死念慮につながることがあります。
  • 職場や学校での人間関係: いじめ、ハラスメント(パワハラ、セクハラ)、疎外感、孤立などは、社会的な居場所を失わせ、自己肯定感を低下させます。毎日強いストレスに晒されることで、心身ともに疲弊し、希死念慮が生じることがあります。
  • 友人や恋人との関係: 信頼していた人からの裏切り、失恋、離別なども、深い悲しみや喪失感、孤独感を引き起こし、希死念慮につながることがあります。

仕事や学業のストレス

  • 過重労働や長時間労働: 休息が取れず、心身ともに疲弊する状態は、思考力を低下させ、ネガティブな考えにとらわれやすくします。
  • 成果へのプレッシャー: 目標達成への強いプレッシャーや、失敗への恐怖は、常に緊張状態を強い、自己肯定感を低下させます。
  • 不適応やキャリアの悩み: 仕事内容が合わない、将来のキャリアが見えないといった悩みも、やりがいや希望を失わせ、希死念慮につながることがあります。
  • 学業不振や進路の悩み: 成績の低下、受験の失敗、将来の進路に対する不安なども、自己否定感を強め、希死念慮の原因となることがあります。

経済的な問題

  • 借金や経済的な困窮: 生活していく上での経済的な不安は、非常に強いストレスとなります。将来への希望が見えなくなり、追い詰められた気持ちから希死念慮につながることがあります。
  • 失業や収入の不安定さ: 経済的な基盤を失うことは、自信を喪失させ、社会からの孤立を感じさせることがあります。

孤独・孤立

  • 社会からの孤立: 地域社会や職場、友人関係などから孤立し、頼れる人がいないと感じる状態は、困難な状況に直面した際に一人で抱え込まざるを得なくなり、希死念慮のリスクを高めます。
  • 親しい人との死別や離別: 大切な人を失った悲しみや喪失感は非常に深く、孤独感を強めます。特に、支えとなる人がいなくなったと感じる場合に、希死念慮が生じやすくなります。

これらの環境的・社会的原因は、個人の努力だけでは解決が難しい場合が多く、社会的な支援や周囲のサポートが非常に重要になります。

心理的な原因

個人の性格傾向や認知の歪み、過去の経験といった心理的な要因も希死念慮の原因となります。

自己肯定感の低さ

自分自身を価値のある人間だと思えない、自分には良いところがないと感じるといった自己肯定感の低さは、困難に直面した際に「やはり自分はダメだ」「自分には乗り越える力がない」と強く感じさせてしまいます。これが、将来への希望を失わせ、希死念慮につながることがあります。他人からの評価を過度に気にしたり、失敗を強く恐れたりすることも、自己肯定感の低さからくるものです。

完璧主義

何事においても完璧を求めすぎ、少しの失敗も許せないといった完璧主義の傾向がある人は、理想と現実のギャップに苦しみやすく、自分を強く責めてしまいます。目標を達成できなかったり、期待に応えられなかったりした際に、自己否定感が強まり、「生きている意味がない」といった考えに至ることがあります。

過去のトラウマ

幼少期の虐待、いじめ、災害、事故、犯罪被害など、過去に受けた心の傷(トラウマ)は、長期にわたってその後の人生に影響を及ぼします。トラウマ体験が原因で自己肯定感が低下したり、人間関係を築くのが難しくなったり、常に強い不安や恐怖を感じたりすることがあります。過去のつらい記憶や感情から逃れたい、苦しみから解放されたいという思いが、希死念慮につながることがあります。

希死念慮に伴う症状とサイン

希死念慮を抱えている人は、心や体に様々な変化が現れることがあります。これらの症状やサインに気づくことが、早期のサポートにつながる重要な手がかりとなります。

精神的な症状

希死念慮に伴って、様々な精神的な症状が現れます。

  • 持続的な気分の落ち込み: 以前は楽しめていたことに興味を示さなくなる、喜びを感じられないといった状態が長く続きます。
  • 強い不安感や焦燥感: 漠然とした不安や、何かから追い立てられているような焦りを感じます。
  • 絶望感や無力感: 将来に対して希望が持てない、何をしても状況は変わらないと感じます。
  • 無価値感や自責の念: 自分には価値がない、すべて自分が悪いといった考えにとらわれます。
  • 集中力や思考力の低下: 物事に集中できない、考えがまとまらない、決断できないといった状態になります。
  • イライラや怒り: 些細なことで感情的になったり、怒りっぽくなったりします。
  • 現実感の喪失: 自分自身や周囲の現実がぼんやりしているように感じる、現実感が伴わない感覚(離人感、現実感喪失)を覚えることがあります。

身体的な症状

心と体は密接に関係しており、希死念慮のような強い精神的苦痛は、身体にも様々な症状として現れます。

  • 睡眠障害: 寝付けない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう、寝すぎる、といった睡眠のトラブルが多く見られます。
  • 食欲不振または過食: 食欲がなくなり体重が減少する、または逆に食べ過ぎてしまうことがあります。
  • 疲労感や倦怠感: 十分な休息をとっても体がだるく、疲れがとれない状態が続きます。
  • 頭痛や肩こり、腰痛などの身体の痛み: ストレスや緊張によって、原因がはっきりしない身体的な痛みが現れることがあります。
  • 胃腸の不調: 腹痛、吐き気、下痢や便秘といった症状が現れることがあります。
  • 動悸や息苦しさ: 不安や緊張が高まると、心臓がドキドキしたり、息苦しさを感じたりすることがあります。

行動の変化と危険なサイン

希死念慮が強くなると、普段の行動にも変化が現れることがあります。特に以下のようなサインが見られた場合は、注意が必要です。

  • 以前好きだった活動への関心を失う: 趣味や友人との交流など、これまで楽しんでいたことに関心を示さなくなります。
  • 引きこもりがちになる: 外出を避け、家や部屋に閉じこもるようになります。
  • 身だしなみを気にしなくなる: 服装や髪型など、外見に無頓着になります。
  • 人に会うのを避けるようになる: 友人や家族からの誘いを断るようになり、孤立を深めます。
  • 危険な行動: 飲酒量が増える、ギャンブルにのめり込むなど、自暴自棄な行動が見られることがあります。
  • 身辺整理を始める: 大切なものを人に譲る、不要なものを処分するなど、身辺整理を始めることがあります。
  • 自殺に関する情報を集める: インターネットなどで自殺の方法や場所について調べたり、具体的な計画を立てたりすることがあります。
  • 「死にたい」「消えたい」といった言葉を口にする: 直接的または間接的に死に関する言葉を発することがあります。
  • 別れを告げるような言動: 友人や家族に会って別れを告げるような言動をとることがあります。
  • 気分が急に明るくなる: これまでひどく落ち込んでいた人が、急に落ち着いたり明るくなったりした場合、自殺を決意して心が安定したサインである可能性もあり、特に注意が必要です。

これらのサインに気づいたら、ためらわずに声をかけ、適切な支援につなげることが重要です。

希死念慮への対処法と治療

希死念慮を抱えることは、非常につらい状態です。しかし、一人で抱え込まず、適切な対処や治療を行うことで、回復への道は開けます。

自分でできること

希死念慮を感じた時に、自分自身でできることもあります。ただし、これらの方法はあくまで一時的な対処や回復を助けるものであり、症状が重い場合や長引く場合は専門家のサポートが不可欠です。

  • 安全を確保する: 衝動的な行動を防ぐために、危険なものを身の周りから遠ざけるなど、まずは物理的な安全を確保することが最も重要です。
  • 誰かに話を聞いてもらう: 信頼できる家族や友人、同僚などに今の気持ちを話してみましょう。話すことで気持ちが整理されたり、一人ではないと感じられたりすることがあります。
  • 専門機関に連絡する: 後述する相談窓口や医療機関に連絡し、専門家の助けを求めましょう。電話相談窓口であれば、すぐに話を聞いてもらうことができます。
  • 休息をとる: 心身が疲弊している状態では、ネガティブな考えにとらわれやすくなります。十分な睡眠をとり、休息を心がけましょう。
  • 規則正しい生活を心がける: 毎日の生活リズムを整えることは、心の安定につながります。決まった時間に寝起きし、食事をとるようにしましょう。
  • 適度な運動を取り入れる: ウォーキングや軽いストレッチなど、無理のない範囲で体を動かすことは、気分転換になり、ストレス軽減にもつながります。
  • 気分転換をする: 好きな音楽を聴く、映画を見る、散歩するなど、心が安らぐ時間を作りましょう。
  • 完璧主義を手放す: すべてを完璧にこなそうとせず、自分自身に優しくなりましょう。今日の自分にできることを受け入れ、「これで十分だ」と認めることも大切です。
  • 将来への希望につながる小さな目標を持つ: 大きな目標ではなく、例えば「明日は散歩に行ってみよう」「美味しいコーヒーを飲んでみよう」といった、達成可能な小さな目標を設定し、クリアしていくことで、少しずつ希望を取り戻せる可能性があります。

周囲のサポート

身近な人が希死念慮を抱えていることに気づいたら、どのように接すれば良いのでしょうか。

  • 話をじっくり聞く: 相手の気持ちに寄り添い、judgment(批判や評価)せずに話を丁寧に聞くことが最も重要です。「死にたい」という言葉を聞いても、否定したり、安易に励ましたりせず、「つらい気持ちなんですね」と共感を示す姿勢で耳を傾けましょう。
  • 一人にしない: 可能であれば、しばらくの間、そばにいるようにしましょう。特に危険なサインが見られる場合は、目を離さないようにすることが重要です。
  • 相談先を一緒に探す・連絡する: 専門機関への相談を勧め、必要であれば一緒に情報を調べたり、連絡を手伝ったりしましょう。
  • 休息できる環境を整える: 安心して休める場所を提供したり、家事などを手伝ったりして、相手が心身を休められるようにサポートしましょう。
  • 本人を責めない: 希死念慮は病気や様々な要因によって生じるものであり、本人の意志の弱さではありません。「どうしてそんなことを考えるんだ」と責めるような言動は避けましょう。
  • 自分自身も無理をしない: サポートする側も疲弊してしまうことがあります。一人で抱え込まず、他の家族や友人、専門家などに相談し、自分自身のケアも忘れずに行いましょう。

専門家による治療法

希死念慮の背景には精神疾患や強いストレスがあることが多いため、専門家による適切な治療を受けることが最も重要です。精神科医や臨床心理士といった専門家が、原因を特定し、一人ひとりに合った治療法を提案してくれます。

精神療法(カウンセリングなど)

精神療法は、カウンセリングなどを通して、希死念慮を生み出している考え方や感情、問題への対処法を改善していく治療法です。

  • 認知行動療法(CBT): ネガティブな考え方のパターンを特定し、より現実的でバランスの取れた考え方や行動を身につけることで、抑うつ気分や不安を軽減します。
  • 対人関係療法(IPT): 対人関係の問題が気分の落ち込みや希死念慮につながっている場合に、対人関係のパターンを改善することで症状の回復を目指します。
  • 弁証法的行動療法(DBT): 感情の調節が難しい場合や、衝動的な行動を抑えられない場合に有効とされることがあります。つらい感情への耐性を高め、健康的な対処スキルを身につけます。
  • 支持的精神療法: 安心できる環境で、専門家が話を傾聴し、共感し、支持することで、患者の自己肯定感を高め、問題解決能力を引き出す治療法です。

精神療法は、希死念慮の根本的な原因に対処し、再発予防にも効果が期待できます。

薬物療法

希死念慮がうつ病や不安障害などの精神疾患に伴って生じている場合、その疾患の治療のために薬物療法が有効な場合があります。

  • 抗うつ薬: 脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、気分の落ち込みや不安、意欲の低下といったうつ症状を改善し、結果として希死念慮を軽減する効果が期待できます。効果が現れるまでに時間がかかることがありますが、継続して服用することが重要です。
  • 抗不安薬: 強い不安やパニック症状が希死念慮の原因となっている場合に、不安を和らげるために使用されることがあります。ただし、依存性のリスクもあるため、医師の指示に従って慎重に使用する必要があります。
  • 気分安定薬: 双極性障害の気分の波を安定させるために使用されます。うつ状態での希死念慮を予防する効果が期待できます。
  • 抗精神病薬: 統合失調症に伴う幻覚や妄想が希死念慮の原因となっている場合に、これらの症状を軽減するために使用されることがあります。

薬物療法は症状を和らげる強力な手段ですが、必ず医師の処方を受け、指示された用量・用法を守って服用することが重要です。自己判断での服用中止や増減は危険です。

希死念慮は、背景にある精神疾患や環境要因、心理的要因などを総合的に評価し、精神療法と薬物療法を組み合わせて行うことが効果的な場合が多いです。

希死念慮で悩んだら相談できる場所

希死念慮を感じている時、一人で悩まず、誰かに相談することが非常に重要です。どこに相談すれば良いのか、主な相談先をご紹介します。

精神科・心療内科

希死念慮が精神疾患や強いストレス反応によるものである可能性が高い場合、精神科または心療内科を受診することが最も推奨される選択肢です。

  • 精神科: 精神疾患全般の診断と治療(薬物療法、精神療法など)を行います。希死念慮の背景にある疾患を特定し、専門的な治療を受けることができます。
  • 心療内科: 主に心身症(ストレスが原因で身体に症状が出る病気)を扱いますが、うつ病や適応障害など、ストレス関連の精神的な問題も診療します。

医師に現在のつらい気持ちや希死念慮があることを正直に伝えましょう。症状を詳しく聞いてもらい、適切な診断と治療計画を立ててもらうことができます。

受診の際のポイント

  • 事前に予約が必要な場合が多いです。
  • 現在服用している薬や、既往症があれば伝えましょう。
  • 受診を迷う場合は、まずは電話で問い合わせてみても良いでしょう。

公的な相談窓口

緊急性が高い場合や、すぐに医療機関を受診できない場合、またはどこに相談すれば良いか分からない場合は、公的な相談窓口を利用することができます。匿名で相談できる場合も多く、利用しやすいのが特徴です。

相談窓口 特徴
よりそいホットライン 24時間365日、無料で電話相談を受け付けています。暮らしや仕事、健康、子育てなど、様々な困難を抱えた人のための相談窓口です。匿名での相談も可能です。
こころの健康相談統一ダイヤル 各都道府県・政令指定都市が運営する心の健康相談窓口につながる全国共通の電話番号です。精神保健福祉センターなどが対応し、専門的な助言や情報提供を受けることができます。
いのちの電話 各地域のボランティアが電話相談に応じています。つらい気持ちや死にたい気持ちを聞いてほしい時に利用できます。匿名での相談が可能です。
精神保健福祉センター 各都道府県・政令指定都市に設置されている専門機関です。心の病気や精神的な問題について、保健師や精神保健福祉士、心理士などの専門家が相談に応じます。医療機関への紹介なども行っています。
保健所 地域住民の健康に関する様々な相談に応じています。心の健康に関する相談も受け付けており、必要に応じて専門機関を紹介してくれます。

これらの窓口は、緊急時の一次対応や、どこに相談すべきか迷っている場合の道しるべとして非常に役立ちます。

民間支援団体

公的な窓口の他に、NPOなどの民間支援団体も様々な相談活動を行っています。特定の対象者(例えば若年者向け、特定の病気を抱える人向けなど)に特化した相談窓口もあります。

  • 各種自助グループ: 同じような悩みや経験を持つ人たちが集まり、互いに支え合うグループです。体験談を聞いたり、自分の気持ちを話したりすることで、孤独感が軽減されることがあります。
  • NPOなどが運営する相談窓口: インターネットやSNSを使った相談、特定のテーマに特化した相談など、様々な形態の支援があります。

ご自身の状況や話しやすい方法に合わせて、適切な相談先を選んでみましょう。最も大切なのは、一人で抱え込まないことです。

まとめ|希死念慮の原因を知り適切な対応を

希死念慮は、誰にでも起こりうる可能性のある、深刻な心のSOSです。「死にたい」「いなくなってしまいたい」という思いは、単なる弱さではなく、心や体が耐えきれないほどの苦痛を感じているサインです。

この記事では、希死念慮の主な原因として、うつ病などの精神疾患、慢性的な身体疾患、人間関係の悩みや仕事のストレスといった環境・社会的な要因、そして自己肯定感の低さや過去のトラウマといった心理的な要因が複雑に絡み合っていることを解説しました。これらの原因を知ることは、ご自身の状況や大切な人の苦悩を理解する第一歩となります。

希死念慮に伴う症状は、精神的な落ち込みだけでなく、睡眠障害や身体の痛みといった身体的なサインとしても現れます。また、行動の変化や死に関する言動などは、特に注意が必要な危険なサインとなり得ます。これらのサインを見逃さず、早期に気づくことが重要です。

もし希死念慮を感じているのであれば、あるいは身近な大切な人が苦しんでいるのであれば、決して一人で抱え込まず、誰かに相談してください。 信頼できる家族や友人、同僚に話を聞いてもらうことも大切ですが、希死念慮の背景には専門的な治療が必要な病気が隠されていることも少なくありません。精神科や心療内科といった専門医療機関を受診すること、あるいは公的な相談窓口や民間支援団体に連絡することが、回復への最も確実な道です。

希死念慮は適切な治療とサポートによって乗り越えることが可能です。希望が見えないと感じる時でも、必ず支えてくれる人や助けてくれる場所があります。一歩踏み出して相談することで、必ず状況は変わっていきます。

免責事項: 本記事の情報は、一般的な知識の提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。個人の状態に関しては、必ず専門の医療機関に相談してください。

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