パニック障害の薬の種類と効果|副作用や治療期間についても解説

パニック障害は、突然強い不安や恐怖に襲われるパニック発作が特徴的な病気です。
動悸や息切れ、めまい、手足のしびれといった身体症状を伴い、「このまま死んでしまうのではないか」「気が変になってしまうのではないか」と感じるほどの強い苦痛を伴います。
パニック発作を繰り返すうちに、「また発作が起きたらどうしよう」という予期不安や、発作が起きたときに逃げられない場所(電車や人混みなど)を避けるようになる広場恐怖を伴うことも少なくありません。
これらの症状によって、日常生活や社会生活に大きな支障が生じることがあります。
パニック障害の原因は完全に解明されていませんが、脳内の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)のバランスの乱れが関与していると考えられています。
また、遺伝的要因、ストレス、性格なども影響するといわれています。

パニック障害の薬物療法について

パニック障害の薬物療法は、単に発作を抑えるだけでなく、予期不安や広場恐怖といった症状全体を改善し、患者さんが安心して日常生活を送れるようになることを目指します。
正しい診断のもと、医師の指示に従って適切に薬を使用することが非常に重要です。

なぜ薬がパニック障害の治療に用いられるのか

パニック障害の発症には、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンなどの働きが深く関わっていると考えられています。
これらの物質は、感情や気分、不安、恐怖などを調整する役割を担っています。パニック障害では、これらの神経伝達システムのバランスが崩れ、不安や恐怖を感じやすい状態になっていると考えられています。

薬物療法に用いられる薬剤は、この神経伝達物質の働きを調整することで、脳内のバランスを正常に近づけ、パニック発作が起きにくい状態を作ったり、予期不安を軽減したりする効果が期待できます。
薬によって神経系が安定することで、精神療法に取り組む余裕が生まれたり、苦手な状況に少しずつ慣れていく行動療法を進めやすくなったりといった相乗効果も得られます。

パニック障害の薬の種類

パニック障害の治療に用いられる薬にはいくつかの種類があり、それぞれ作用の仕方や効果、副作用が異なります。主な薬剤は以下の通りです。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

SSRIは、パニック障害の薬物療法において第一選択薬として最も広く使用されている薬剤です。脳内の神経細胞間でセロトニンが再吸収されるのを阻害することで、シナプス間隙のセロニン濃度を高め、神経系のバランスを整えます。セロトニンは気分の調節や不安の軽減に関わる重要な神経伝達物質です。

SSRIは、パニック発作だけでなく、予期不安や広場恐怖といったパニック障害全体の症状に対して効果を発揮します。効果が現れるまでには通常2週間から数週間かかりますが、継続して服用することで症状の改善が期待できます。

代表的なSSRIには、パロキセチン(商品名:パキシル)、セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)、フルボキサミン(商品名:デプロメール、ルボックス)、エスシタロプラム(商品名:レクサプロ)などがあります。

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

SNRIは、SSRIと同様にセロトニンの再取り込みを阻害するのに加えて、ノルアドレナリンの再取り込みも阻害し、脳内のセロトニンとノルアドレナリンの両方の濃度を高めます。ノルアドレナリンは、覚醒や注意、意欲などに関わる神経伝達物質です。

SNRIもSSRIと同様にパニック障害に効果があり、特に意欲低下などを伴う場合などに選択肢となることがあります。SSRIで効果が不十分な場合や、他の精神疾患(うつ病など)を合併している場合にも考慮されることがあります。

代表的なSNRIには、ベンラファキシン(商品名:イフェクサー)、デュロキセチン(商品名:サインバルタ)などがあります。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、脳内のGABA(ガンマアミノ酪酸)という神経伝達物質の働きを強めることで、神経活動を抑え、不安を急速に和らげる効果があります。即効性があり、服用後数分から数十分で効果が現れるため、パニック発作が起きた時の頓服薬として、あるいは治療初期の強い不安を抑えるために一時的に用いられることが多い薬剤です。

パニック発作を頓挫させる効果は高いですが、パニック障害の根本的な治療薬ではなく、長期的な使用は依存性や離脱症状のリスクを伴います。そのため、漫然と長期にわたって使用することは推奨されず、必要最小限の期間、量で使用することが原則です。

代表的なベンゾジアゼピン系抗不安薬には、アルプラゾラム(商品名:ソラナックス、コンスタン)、ロラゼパム(商品名:ワイパックス)、クロチアゼパム(商品名:リーゼ)などがあります。エチゾラム(商品名:デパス)も広く使われていますが、日本ではベンゾジアゼピン系として扱われており、依存性や注意点については同様の配慮が必要です。

その他の薬(三環系抗うつ薬、βブロッカーなど)

パニック障害の治療では、上記の薬剤以外にもいくつかの薬が補助的に用いられることがあります。

  • 三環系抗うつ薬: 比較的作用が強く、古くから使用されている抗うつ薬です。ノルアドレナリンやセロトニンの再取り込みを阻害する作用を持ち、パニック障害にも有効ですが、SSRIやSNRIに比べて副作用が出やすいため、現在はSSRIなどが優先されることが多いです。難治例などで検討されることがあります。代表的な薬剤にクロミプラミン(商品名:アナフラニール)があります。
  • βブロッカー: アドレナリンの働きを抑える薬で、主に高血圧や狭心症の治療に使われます。パニック発作に伴う動悸や震えなどの身体症状を和らげる効果があるため、補助的に用いられることがあります。精神的な不安そのものに直接作用するわけではありません。代表的な薬剤にプロプラノロール(商品名:インデラル)があります。
  • タンドスピロン: セロトニンの一部受容体に作用する抗不安薬です。ベンゾジアゼピン系に比べて効果の発現は穏やかですが、依存性が少ないという利点があります。
  • 少量抗精神病薬: 非常に少量で使用する場合に、強い不安や焦燥感を抑える目的で補助的に用いられることもありますが、専門医の慎重な判断が必要です。

パニック障害の薬 効果が出るまでの期間

パニック障害の薬物療法において、効果が現れるまでの期間は薬剤の種類によって大きく異なります。

SSRIやSNRIといった抗うつ薬は、脳内の神経伝達物質のバランスをゆっくりと調整していくため、効果が実感できるまでには時間がかかります。通常、服用を開始してから2週間から数週間で少しずつ効果が現れ始め、効果が安定して十分な効果が得られるまでには1ヶ月から3ヶ月程度かかることもあります。飲み始めてすぐには効果を感じなかったり、かえって一時的に不安が増強するような感じ(賦活症候群)があったりすることもありますが、これは薬が効き始める過程で起こりうる現象であり、ほとんどの場合、継続することで改善します。効果が出る前に自己判断で中止しないことが重要です。

一方、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、脳の活動を直接的に抑えるため、効果が非常に早く現れます。服用後、数分から数十分以内に不安が和らぎ、パニック発作の症状が軽減することが期待できます。この即効性が、発作時の頓服薬として有効な理由です。しかし、この効果は一時的なものであり、パニック障害そのものを「治す」わけではありません。

効果が出るまでの期間について、医師から十分に説明を受け、焦らず治療を継続することが大切です。

パニック障害の薬 副作用について

どのような薬にも副作用のリスクはありますが、パニック障害の治療薬も例外ではありません。ただし、副作用の種類や程度は薬剤によって異なり、また個人差も大きいです。多くの副作用は服用開始から数週間以内に現れ、体が薬に慣れるにつれて軽減していくことがほとんどです。重大な副作用は非常に稀ですが、気になる症状が現れた場合は必ず医師に相談してください。

SSRI/SNRIの副作用

SSRIやSNRIを服用開始した頃に比較的多く見られる副作用は以下の通りです。

  • 消化器症状: 吐き気、胃部不快感、下痢、便秘、食欲不振など。特に飲み始めに多く、数週間で落ち着くことが多いです。
  • 精神神経症状: 眠気、不眠、頭痛、めまい、倦怠感、落ち着きのなさ(アカシジア)など。
  • 賦活症候群: 服用開始初期に、かえって不安や焦り、イライラ感、不眠などが一時的に強まることがあります。これは薬が効き始める過程で起こることがあり、通常は数週間で改善します。
  • 性機能障害: 性欲の低下、勃起障害、射精障害、オーガズム障害などが起こることがあります。これはSSRI/SNRIに比較的特徴的な副作用で、服用中に持続する場合もあります。

まれに起こる副作用としては、セロトニン症候群(多量のセロトニンによって起こる発熱、震え、意識障害など)、賦活症候群に伴う衝動性や希死念慮の増加(特に若年者)、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)による低ナトリウム血症などがあります。これらの兆候が見られた場合は、すぐに医師に連絡が必要です。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬の副作用と注意点(依存性)

ベンゾジアゼピン系抗不安薬の主な副作用は以下の通りです。

  • 眠気、ふらつき: 中枢神経抑制作用によるもので、日中の眠気やめまい、ふらつきが生じやすいです。特に服用初期や高用量で起こりやすく、車の運転や危険な機械の操作は避ける必要があります。高齢者では転倒のリスクを高めることがあります。
  • 注意力・集中力の低下: 認知機能に影響を与えることがあります。
  • 筋弛緩作用: 筋肉の緊張を和らげる効果がありますが、力が入りにくく感じたり、脱力感が生じたりすることがあります。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬の最も重要な注意点は、依存性離脱症状のリスクです。

  • 依存性: 比較的短期間(数週間から数ヶ月)の連用でも生じることがあります。薬がないと落ち着かない、薬の量を増やしたくなる、といった精神的な依存と、服用を中断したり減量したりすると体調が悪くなる身体的な依存があります。
  • 離脱症状: 依存が形成された後に、薬を急にやめたり減量したりすると、元の症状(不安、不眠など)が強くぶり返す(リバウンド症状)だけでなく、けいれん、振戦、吐き気、頭痛、めまい、筋肉のぴくつき、知覚過敏、耳鳴り、現実感の喪失など、様々な身体的・精神的な不調(離脱症状)が現れることがあります。

そのため、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は必要最小限の期間と量で使用し、長期にわたる定期的な使用は可能な限り避けることが推奨されます。やむを得ず定期的に使用している場合でも、中止する際には必ず医師の指示のもと、非常にゆっくりと段階的に減量していく(漸減)必要があります。自己判断での急な中止は絶対に避けてください。

パニック障害の薬は毎日飲むべき?服用期間

パニック障害の薬物療法において、中心となるSSRIやSNRIといった薬剤は、原則として毎日決まった時間に服用する必要があります。これは、脳内の神経伝達物質の濃度を安定させ、薬の効果を維持するためです。効果が出るまでに時間がかかるのと同様に、効果を保つためには継続的な服用が必要です。飲み忘れると血中濃度が不安定になり、効果が弱まったり、体調が不安定になったりすることがあります。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬については、使い方によって異なります。発作が起きた時に飲む「頓服薬」として処方された場合は、発作時のみ服用します。しかし、治療初期に強い不安を抑える目的で、毎日服用を指示される場合もあります。この場合も、症状が安定してきたら依存性のリスクを考慮して、可能な限り減量・中止を目指すのが一般的です。

パニック障害の薬物療法の期間は、患者さんの症状の改善度合いや経過によって異なりますが、一般的には症状が改善・安定した後も、再発予防のために少なくとも数ヶ月から1年程度は継続して服用することが推奨されています。自己判断で「良くなったから」といってすぐに薬をやめてしまうと、高確率で症状が再燃してしまう可能性があります。

薬を中止する際には、必ず医師と相談し、状態を見ながら少しずつ(数週間から数ヶ月かけて)減量していくのが安全です。急な中止は、前述の離脱症状を引き起こすリスクがあります。服用期間や減薬のペースについては、医師の指示に厳密に従ってください。

パニック障害 治療薬 ランキング(主要な薬剤紹介)

パニック障害の治療薬に明確な「ランキング」というものは存在しません。なぜなら、どの薬が最も効果的かは、患者さんの個々の症状、体質、既存疾患、併用薬などによって異なるためです。しかし、治療ガイドラインでは、有効性や安全性の確立度から、いくつかの薬剤クラスが推奨されています。ここでは、主要な薬剤クラスとその一般的な位置づけをご紹介します。

薬剤クラス 主な位置づけ 効果が出やすい症状 副作用の傾向 主な注意点
SSRI 第一選択薬 発作、予期不安、広場恐怖 飲み始めの消化器症状、眠気/不眠、性機能障害 効果発現に時間がかかる、急な中止は避ける
SNRI SSRIで効果不十分な場合など 発作、予期不安、広場恐怖 SSRIに類似、血圧上昇に注意 効果発現に時間がかかる、急な中止は避ける
ベンゾジアゼピン系抗不安薬 急性期(頓服、短期)の不安軽減 発作、強い不安 眠気、ふらつき、依存性、離脱症状 長期連用を避ける、自己判断での中止は厳禁
三環系抗うつ薬 難治例などで検討される 発作、予期不安 口渇、便秘、眠気、循環器系副作用 副作用が出やすい、他の薬との相互作用に注意
βブロッカー 動悸など身体症状の補助的軽減 身体症状(動悸、震え) 徐脈、血圧低下、倦怠感 精神的な不安そのものには作用しない、喘息など禁忌

(※この表は一般的な情報であり、全ての薬剤や注意点を網羅しているものではありません。個別の薬剤については必ず医師にご確認ください。)

多くの場合、まずSSRIの中から患者さんの体質や症状に合ったものが選択され、少量から開始されます。効果が十分でない場合は、増量したり、別のSSRIやSNRIに変更したりします。強い不安や発作には、必要に応じてベンゾジアゼピン系抗不安薬が頓服として併用されることがあります。その他の薬剤は、SSRI/SNRIで効果が不十分な場合や、特定の症状が強い場合などに補助的に用いられます。

どの薬を選択するか、またどのように使用するかは、専門医の診断と判断が必要です。

パニック障害に市販薬は使えるか?

結論から言うと、市販薬(一般用医薬品)でパニック障害そのものを治療することはできません。

パニック障害は、前述のように脳内の神経伝達物質のバランスの乱れなどが関与する複雑な精神疾患であり、診断には専門的な知識が必要です。そして、その治療には、脳の機能に作用する効果が証明された医療用医薬品を用いた薬物療法や、専門的な精神療法が必要です。

市販薬の中には、「精神安定」や「不安緩和」などをうたったもの(例:一部の漢方薬、鎮静成分を含む薬など)も存在しますが、これらはあくまで一時的な気分の落ち着きや軽度の不安を和らげることを目的としたものであり、パニック発作の抑制や予期不安の軽減といったパニック障害の主要な症状に対して、医学的に十分な効果が証明されているわけではありません。また、市販薬を自己判断で使用することで、適切な医療機関への受診が遅れたり、症状が進行したりするリスクがあります。

パニック障害の診断は、医師による問診や検査に基づいて行われるべきです。ご自身でパニック障害かもしれないと感じたり、パニック発作や強い不安に悩まされている場合は、まず精神科や心療内科といった専門の医療機関を受診し、医師の診断を受けることが何よりも重要です。適切な診断と、その診断に基づいた専門的な治療を受けることが、症状改善への最も確実な道です。

パニック障害の薬物療法に関するよくある質問(PAAより)

パニック障害の薬物療法について、患者さんやそのご家族からよく寄せられる質問にお答えします。

パニック障害の薬を飲むとどうなる?

パニック障害の薬を飲むことで期待されるのは、主に以下の点です。

  • パニック発作の頻度や重症度の軽減: 発作が起きにくくなったり、起きても症状が軽くなったりすることが期待できます。
  • 予期不安の軽減: 「また発作が起きるかもしれない」という強い不安感が和らぎ、外出や人混みなど、以前は避けていた場所に行けるようになる可能性があります。
  • 広場恐怖の改善: 予期不安の軽減に伴い、避けていた場所や状況に少しずつ挑戦できるようになり、行動範囲が広がる可能性があります。

ただし、薬の種類によって効果の現れ方や強さは異なります。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は即効性があり、一時的に不安を和らげますが、SSRIやSNRIは効果が出るまで時間がかかり、徐々に症状全体を改善していきます。

また、薬は症状をコントロールし、脳内のバランスを整える手助けをするものですが、「飲んだらすぐに治る」というものではありません。多くの場合、症状が完全に消失するまでには時間がかかりますし、症状が安定した後も再発予防のためにしばらく継続が必要です。

そして、個人差があるため、期待通りの効果が得られなかったり、副作用が現れたりすることもあります。服用中に何か気になる変化があれば、必ず医師に相談してください。

SSRIは飲まない方がいい?

SSRIは、パニック障害やうつ病などの精神疾患に対して、その有効性と安全性が多くの臨床研究で確認され、世界中で広く標準的な治療薬として使用されています。パニック障害の治療ガイドラインにおいても、第一選択薬として推奨されています。

したがって、「SSRIは飲まない方がいい」と一概に言えるものではありません。パニック障害の症状に苦しんでいる方にとっては、SSRIは症状を大きく改善させ、日常生活を取り戻すための非常に有効な選択肢となり得ます。

しかし、どのような薬にもメリットとデメリットがあります。SSRIにも副作用のリスク(飲み始めの吐き気や不安増強、性機能障害など)がありますし、服用が適さない場合(特定の疾患や併用薬がある場合など)もあります。また、効果が現れるまでに時間がかかるため、それまでのつらさを感じたり、飲み始めの副作用で服用を続けるのが難しく感じたりすることもあります。

SSRIを服用するかどうかは、ご自身の症状、体の状態、他の治療法との兼ね合い、薬に対する考え方などを医師と十分に話し合った上で決定すべきです。医師は、SSRIの有効性やリスクを説明し、患者さんにとって最適と思われる治療法を提案してくれます。インターネット上の断片的な情報や否定的な体験談だけで判断せず、まずは専門医に相談することが重要です。医師が必要と判断し、ご自身が同意すれば、SSRIは症状改善に向けた力強い味方となるでしょう。

パニック障害のトリガーとなるものは?(薬以外の補足として)

パニック発作は突然予期せず起こることもありますが、特定の状況や身体的状態が発作の「トリガー(引き金)」となることもあります。トリガーを知っておくことは、発作への対処や予防につながります。薬物療法と並行して、トリガーを認識し、対処法を学ぶことはパニック障害の治療において非常に重要です。

主なトリガーとなりうるものには以下のようなものがあります。

  • 身体的な要因:
    • 疲労、睡眠不足
    • 過労、体調不良
    • カフェイン、アルコール、ニコチンの摂取
    • 空腹、脱水
    • 換気の悪い場所や暑すぎる・寒すぎる場所
    • 激しい運動
  • 精神的な要因:
    • ストレス、不安、緊張
    • 感情的な出来事(喜び、悲しみ、怒りなど)
    • 特定の場所や状況(電車、バス、飛行機、エレベーター、人混み、会議、美容院など) – これらは広場恐怖と関連が深いです。
    • 過去にパニック発作を起こした場所や状況
  • その他の要因:
    • 特定の病気(例:甲状腺機能亢進症、低血糖など)がパニック発作のような症状を引き起こすこともあります。

自分のトリガーを特定し、可能であればそれを避ける、あるいは避けられない場合はトリガーに直面した際の対処法(後述)を練習することが、薬物療法と合わせて有効なアプローチとなります。

パニック発作の落ち着く方法は?(薬以外の補足として)

パニック発作が起きた時は非常に苦しいものですが、「パニック発作は時間が経てば必ず収まる」という性質を理解しておくことが大切です。多くの場合、発作のピークは数分で、30分以内には落ち着いてきます。発作中に試せる落ち着く方法や対処法をいくつかご紹介します。

  • 頓服薬の服用: 医師から頓服薬(ベンゾジアゼピン系抗不安薬など)を処方されている場合は、指示に従って服用します。効果が比較的早く現れ、つらい症状を和らげてくれます。
  • 腹式呼吸: 呼吸が速く浅くなりがちなパニック発作中には、意識的にゆっくりと深い呼吸(腹式呼吸)をすることが有効です。鼻からゆっくり息を吸い込みお腹を膨らませ、口からゆっくりと長く(吸うときの倍くらいの時間をかけて)息を吐き出します。呼吸に集中することで、身体の過剰な反応を落ち着かせ、不安から意識をそらす効果も期待できます。
  • 安全な場所へ移動: 可能であれば、人混みから離れる、座る、横になるなど、自分が少しでも落ち着ける場所に移動します。
  • 安心できるものに集中: ポケットに入っている硬貨を触る、目の前の物の色や形を数えるなど、感覚に意識を向けることで、発作の恐怖から注意をそらすことができます。
  • 自己への肯定的な声かけ: 「大丈夫、これはパニック発作だ」「命に関わるものではない」「いつか必ず終わる」と心の中で自分に言い聞かせます。発作を病気の一時的な症状として客観視しようと試みます。
  • 発作をやり過ごす: 抵抗したり、抑え込もうとしたりせず、「波が通り過ぎるのを待つ」というイメージで、発作の感覚を受け入れ、やり過ごそうとします。発作と戦おうとすると、かえって緊張が高まり症状が悪化することがあります。

これらの方法は、練習することでより効果的に使えるようになります。普段から練習しておくと良いでしょう。また、精神療法(特に認知行動療法)では、このような発作時の対処法を具体的に学び、練習することができます。

パニック障害治療における専門医への相談の重要性

パニック障害は、適切な診断と治療を受ければ改善が見込める疾患です。しかし、その診断や治療は専門的な知識と経験が必要です。

  • 正確な診断: パニック発作のような症状は、甲状腺疾患や心疾患など他の病気によって引き起こされている可能性もあります。専門医は、問診や必要な検査を通じて、パニック障害であるかを正確に診断します。
  • 最適な治療法の選択: 患者さんの症状の重さ、生活背景、併存疾患、薬に対する体質などを総合的に判断し、最も効果的で安全な薬の種類、量、使用方法(定期服用か頓服か)、そして精神療法との組み合わせなどを決定します。
  • 副作用の管理: 薬の副作用を適切に把握し、必要に応じて対処法を指導したり、薬の種類や量を調整したりします。特にベンゾジアゼピン系抗不安薬の依存性リスク管理は専門医の重要な役割です。
  • 治療経過の評価と調整: 治療の効果を定期的に評価し、必要に応じて薬の種類や量を変更したり、減薬・中止のタイミングを判断したりします。治療は長期に及ぶこともあり、患者さんの状態は変化するため、継続的な専門家のサポートが不可欠です。
  • 再発予防: 症状が改善した後も、再発予防のための治療継続期間や、薬を安全に中止する方法について、適切な指導を行います。

自己判断で市販薬に頼ったり、インターネットの情報だけで治療を試みたりすることは、症状の悪化を招いたり、適切な治療の機会を逃したりする危険性があります。パニック障害の疑いがある場合は、必ず専門医に相談しましょう。

まずは専門機関に相談しましょう

パニック障害のつらい症状に一人で耐える必要はありません。適切な治療を受けることで、症状をコントロールし、以前のような穏やかな日常生活を取り戻すことは十分に可能です。

「どこの病院に行けばいいのだろう」「相談するのが怖い」「自分の症状は病気なのだろうか」といった不安があるかもしれません。しかし、パニック障害は誰にでも起こりうる病気であり、決して恥ずかしいことではありません。多くの人が専門家のサポートを受けて症状を改善させています。

まずは、精神科または心療内科を受診してみましょう。初診の予約が必要な場合が多いので、事前に電話やウェブサイトで確認してください。最近では、オンライン診療に対応している医療機関もあり、受診のハードルが下がっています。

勇気を出して専門機関に相談することが、改善への第一歩となります。医師はあなたの話に耳を傾け、適切な診断と治療方針を提案してくれます。安心して相談してください。


免責事項
この記事はパニック障害の薬物療法に関する一般的な情報を提供するものであり、個別の症状や状態に対する診断や治療法を示すものではありません。パニック障害の治療は専門的な知識が必要であり、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。この記事の情報に基づいてご自身の判断で治療を行わないでください。

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