過眠症の薬【種類と効果】日中のつらい眠気対策に

過眠症は、夜十分に眠っているにもかかわらず、日中に強い眠気に襲われ、日常生活に支障をきたす睡眠障害の一つです。
集中力の低下や居眠りによって、仕事や学業のパフォーマンスが低下したり、運転中に事故を起こす危険性が高まるなど、その影響は深刻です。
過眠症の治療法には、生活習慣の改善や精神療法などがありますが、症状が重い場合には薬物療法が中心となります。
適切な薬を選択し、正しく服用することで、日中の過度な眠気を軽減し、生活の質の向上が期待できます。
この記事では、過眠症の治療に使われる主な薬の種類、効果、副作用、注意点について詳しく解説します。

過眠症は単なる「寝不足」や「だるさ」とは異なり、脳の機能障害や他の病気が原因で起こる病的な眠気です。
診断には専門的な検査が必要であり、その結果に基づいて適切な治療法が選択されます。
薬物療法は、特に日中の過度な眠気が強く、生活への支障が大きい場合に重要な治療の柱となります。

過眠症の原因と主な症状

過眠症にはいくつかの種類があり、原因も異なります。
大きく分けて「原発性過眠症」と「二次性過眠症」があります。

  • 原発性過眠症: 睡眠の構造や調節機能そのものに問題があると考えられています。
    • ナルコレプシー: 情動脱力発作(感情の高まりによって体の力が抜ける)、入眠時幻覚、睡眠麻痺(いわゆる金縛り)などを伴うことが多い過眠症です。日中の強い眠気が主な症状で、抗いがたい眠気に襲われて短い居眠りを繰り返します。脳内のオレキシンという覚醒を維持する物質の不足が関連していると考えられています。
    • 特発性過眠症: ナルコレプシーのような特徴的な症状(情動脱力発作など)を伴わない過眠症です。長時間睡眠をとっても眠気が改善せず、目覚めが悪くぼんやりする(睡眠酩酊)といった症状が見られることがあります。
  • 二次性過眠症: 他の病気や要因によって引き起こされる過眠症です。
    • 睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの睡眠関連呼吸障害
    • むずむず脚症候群などの睡眠関連運動障害
    • うつ病などの精神疾患
    • 神経疾患(パーキンソン病など)
    • 薬剤の副作用
    • 概日リズム睡眠障害(不規則な生活などによる体内時計の乱れ)

過眠症の主な症状は、日中の過度な眠気です。
会議中、授業中、運転中など、本来眠るべきではない状況で強い眠気に襲われ、居眠りをしてしまうことがあります。
ナルコレプシーの場合は、数分から数十分の短い居眠りで一時的に眠気が改善することがありますが、特発性過眠症では長時間の昼寝をしても眠気が改善しないこともあります。

過眠症の診断基準(MSLT, 1日睡眠時間など)

過眠症の診断は、問診や睡眠日誌に加え、客観的な検査によって行われます。
国際的な診断基準や日本の診断基準に基づき、症状と検査結果を総合的に判断します。
主な検査には以下のものがあります。

  • 睡眠ポリグラフ検査(PSG): 睡眠中に脳波、眼球運動、筋電図、呼吸、心電図、血液中の酸素飽和度などを測定し、睡眠の質や睡眠中の異常を評価します。通常、夜間の睡眠の状態を評価するために行われます。
  • 昼間睡眠潜時反復検査(MSLT: Multiple Sleep Latency Test): PSGの翌日に行われることが多い検査です。日中に約2時間おきにベッドで眠る機会を5回程度設け、それぞれの試行で眠りにつくまでの時間(睡眠潜時)を測定します。平均睡眠潜時が短い(特に8分以下)場合は、日中の眠気が病的なレベルであると判断される重要な指標となります。また、レム睡眠が異常に早く出現するかどうかもナルコレプシーの診断に役立ちます。
  • 維持睡眠検査(MWT: Maintenance of Wakefulness Test): MSLTとは逆に、日中に眠らずに覚醒を維持できる時間を測定する検査です。治療効果の判定や、特定の職業に就く上での覚醒レベルの評価などに用いられることがあります。
  • アクチグラフィー: 腕時計型の装置を手首に装着し、体の動きから睡眠・覚醒パターンを数日間から数週間にわたって記録する検査です。自宅での実際の睡眠状況を把握するのに役立ちます。
  • 髄液検査: ナルコレプシーの一部(特に情動脱力発作を伴うタイプ)では、脳脊髄液中のオレキシン濃度が低下していることが分かっています。診断を確定するために行うことがあります。

これらの検査結果や、患者さんの症状、病歴、日頃の睡眠習慣などを総合的に評価し、過眠症の種類や重症度を診断します。
診断に基づいて、薬物療法が必要かどうかが判断され、必要であれば適切な薬が選択されます。

過眠症の薬物療法で使われる主な薬

過眠症の薬物療法では、主に日中の過度な眠気を軽減することを目的とした薬が使用されます。
過眠症の種類や症状の程度、患者さんの状態によって最適な薬は異なります。
必ず医師の診断と処方に基づいて使用する必要があります。

過眠症に効く主な処方薬

過眠症治療薬の中心となるのは、覚醒を促進する作用を持つ薬剤です。

中枢神経刺激薬(モディオダール、リタリンなど)

中枢神経刺激薬は、脳の覚醒レベルを高めることで日中の眠気を抑える効果があります。
過眠症治療において最も一般的に使用される薬剤グループの一つです。

  • モダフィニル(モディオダール):
    • 効果と特徴: 覚醒を維持する作用があり、日中の眠気を軽減します。他の多くの中枢神経刺激薬とは異なり、多幸感や精神依存を生じさせにくいとされています。主にナルコレプシーや閉塞性睡眠時無呼吸症候群(CPAP療法で眠気が改善しない場合)に伴う日中の過眠症に対して保険適用があります。特発性過眠症への適応はありません(保険適用外処方となる場合がある)。
    • 作用機序: 脳内のドパミンなどの神経伝達物質に影響を与えることで覚醒を促進すると考えられています。
    • 服用方法: 通常、朝に1回服用します。効果の持続時間が長い(約10~12時間)ため、1日を通して眠気を抑えることが期待できます。
    • 副作用: 頭痛、吐き気、食欲不振、口渇、動悸、血圧上昇、神経過敏、不眠などが見られることがあります。重篤な副作用として、スティーブンス・ジョンソン症候群などの皮膚障害や、精神症状(幻覚、妄想など)が報告されています。
    • 注意点: 循環器疾患のある方、精神疾患の既往がある方、重度の肝機能・腎機能障害のある方などでは慎重な投与が必要です。依存性は低いとされますが、医師の指示通りに服用することが重要です。
  • メチルフェニデート(リタリン、コンサータ):
    • 効果と特徴: 脳内の神経伝達物質(主にドパミンとノルアドレナリン)の働きを強め、強い覚醒効果を発揮します。以前はナルコレプシーや特発性過眠症に広く使用されていましたが、依存性や乱用のリスクが高いため、現在は厳格な流通管理のもとで、使用できる疾患が限定されています。
      • リタリン: 即効性の製剤です。現在はうつ病に伴う無気力・抑うつ状態、ナルコレプシーに対してのみ保険適用があり、使用にあたっては厳重な管理が必要です。過眠症の中でも、特に他の治療薬で効果が得られない重症例に限定して使用される傾向があります。
      • コンサータ: 徐放性の製剤で、効果が長時間持続します。主に注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療薬として知られていますが、ナルコレプシーに対しても保険適用があります。1日1回の服用で効果が持続するため、日中の眠気を持続的に抑えるのに有効です。コンサータも流通管理されており、登録された医師のみが処方できます。
    • 作用機序: ドパミンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、脳内のこれらの物質の濃度を高め、覚醒作用や集中力向上作用をもたらします。
    • 副作用: 動悸、血圧上昇、頭痛、不眠、食欲不振、腹痛、神経過敏、不安、精神病様症状などが見られることがあります。長期使用による成長抑制や依存性、乱用リスクが懸念されます。
    • 注意点: 心疾患や高血圧、精神疾患(特に双極性障害、統合失調症、不安障害)のある方、薬物乱用歴のある方などには禁忌または慎重投与です。コンサータは、処方できる医師や薬局が限定されており、使用にあたっては厳格な手続きが必要です。

これらの薬剤は、日中の眠気に対して非常に有効な場合がありますが、副作用や依存性のリスクもあるため、医師の専門的な判断のもと、適切な用量で慎重に使用する必要があります。

その他の薬剤

中枢神経刺激薬以外にも、過眠症のタイプや症状に応じて様々な薬が使用されることがあります。

  • ピットリスアント(ワキサルト):
    • 効果と特徴: ヒスタミン3受容体拮抗薬/逆アゴニストという新しいタイプの薬です。脳内のヒスタミン神経系の活動を亢進させ、覚醒を促進します。ナルコレプシー(情動脱力発作の有無にかかわらず)および特発性過眠症に伴う日中の過眠に対して保険適用があります。モダフィニルやメチルフェニデートとは異なる作用機序を持つため、これらの薬が効きにくい場合や副作用で使用できない場合に選択肢となります。
    • 作用機序: ヒスタミン3受容体を阻害することで、神経終末からのヒスタミン放出を増やし、ヒスタミン神経系の活動を亢進させます。ヒスタミン神経系は覚醒の維持に重要な役割を果たしています。
    • 服用方法: 通常、1日1回朝に服用します。効果が出るまでに時間がかかる場合があるため、数週間かけて用量を調整することがあります。
    • 副作用: 頭痛、吐き気、腹痛、不眠、不安、体重増加などが見られることがあります。QT間隔延長のリスクがあるため、特定の不整脈や電解質異常のある方、QT間隔を延長させる他の薬を服用している方では注意が必要です。
    • 注意点: 肝機能・腎機能障害のある方、てんかんの既往がある方、精神疾患のある方などでは慎重な投与が必要です。
  • ナトリウムオキシベート(ゾムノ):
    • 効果と特徴: 夜間の睡眠を改善することで、日中の過眠や情動脱力発作を軽減する薬剤です。GABA B受容体アゴニストとして作用し、夜間の深い睡眠(徐波睡眠)を増やし、睡眠の分断を減らす効果があると考えられています。ナルコレプシーに伴う情動脱力発作と日中の過眠に対して保険適用があります。
    • 作用機序: 脳内のGABA B受容体を刺激し、神経活動を抑制することで睡眠を深くし、断片化を減らすと考えられています。
    • 服用方法: 通常、夜寝る前と、その約2.5~4時間後に2回に分けて服用します。液体製剤で、水で薄めて服用します。
    • 副作用: 吐き気、めまい、頭痛、眠気、夜間の混乱、睡眠時無呼吸の悪化などが見られることがあります。呼吸抑制のリスクがあるため、睡眠時無呼吸症候群のある方では慎重な投与が必要です。
    • 注意点: アルコールや鎮静作用のある他の薬剤との併用は呼吸抑制のリスクを高めるため避ける必要があります。依存性のリスクがあるため、厳重な管理が必要です。また、高ナトリウム血症を起こす可能性があるため、心不全や高血圧などナトリウム摂取制限が必要な方では注意が必要です。
  • セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)/三環系抗うつ薬:
    • 効果と特徴: これらの薬剤は主にうつ病や不安障害の治療に使われますが、ナルコレプシーに伴う情動脱力発作や睡眠麻痺、入眠時幻覚といったレム睡眠関連症状の治療に有効な場合があります。レム睡眠の発現を抑制する作用があると考えられています。日中の過眠そのものに対する効果は限定的です。
    • 薬剤例: ベンラファキシン、デュロキセチン(SNRI)、クロミプラミン、イミプラミン(三環系抗うつ薬)など。
    • 副作用: 口渇、便秘、排尿困難、めまい、眠気、体重増加などが見られることがあります。不整脈や血圧上昇のリスクがあるため、心疾患のある方では注意が必要です。
    • 注意点: 突然の服用中止は離脱症状を引き起こす可能性があるため、自己判断での中止は避け、医師の指示に従う必要があります。

過眠症の薬物療法では、これらの薬剤を単独で使用したり、組み合わせて使用したりすることがあります。
どの薬を選択するかは、過眠症の種類、症状の重さ、患者さんの年齢や全身状態、他の疾患や服用中の薬などを考慮して、医師が慎重に判断します。

過眠症とADHDに使われる薬(コンサータなど)

前述の通り、メチルフェニデート(コンサータ)はナルコレプシーの治療薬として保険適用があります。
また、ADHDの治療薬としても広く使われています。
これは、ナルコレプシーとADHDが、脳内の神経伝達物質(特にドパミンやノルアドレナリン)の機能障害という共通点を持っているためと考えられています。

ADHDの症状(不注意、多動性、衝動性)と過眠症の症状(集中力低下、活動性低下)は、時に類似して見えることがあります。
また、過眠症とADHDが併存することもあります。

  • コンサータ: ナルコレプシー患者さんに対して、日中の過度な眠気を改善する目的で使用されます。ADHDの患者さんに対しては、集中力を持続させたり、衝動的な行動を抑えたりする目的で使用されます。どちらの場合も、脳内のドパミンやノルアドレナリンの働きを調整することで効果を発揮します。
    • 注意点: コンサータは非常に効果の高い薬剤ですが、依存性や乱用、精神症状などのリスクがあるため、使用にあたっては厳格な管理が必要な「向精神薬」に指定されています。処方できる医師は厚生労働省に届け出た医師に限られ、薬局での受け渡しも追跡管理が行われます。
  • その他のADHD治療薬: アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)、リスデキサンフェタミン(ビバンセ)など、コンサータ以外のADHD治療薬も存在しますが、これらは過眠症に対して直接的な効果は認められていません(ナルコレプシーや特発性過眠症に対して保険適用はありません)。ただし、過眠症に併存するADHDの症状を治療するために使用されることはあります。

過眠症の診断は専門的な知識と検査が必要であり、ADHDとの鑑別や併存の評価は専門医が行う必要があります。

市販の眠気覚まし薬(トメルミンなど)は過眠症に有効か?

薬局やドラッグストアで購入できる市販の眠気覚まし薬は、主にカフェインを有効成分としています。「トメルミン」「カーフェ」「エスタロンモカ」といった製品が代表的です。

  • 効果と特徴: これらの市販薬に含まれるカフェインは、中枢神経を刺激して一時的に眠気を軽減する効果があります。コーヒーやお茶を飲むのと同様の覚醒効果を期待できます。
  • 過眠症への有効性: 市販の眠気覚まし薬は、一時的な眠気や集中力の低下にはある程度有効ですが、過眠症のような慢性的で病的な強い眠気に対しては、効果が限定的であることがほとんどです。過眠症の眠気は、睡眠時間が足りないことによる眠気とは異なり、脳の機能障害が関与しているため、カフェイン程度の覚醒作用では不十分な場合が多いです。
  • 問題点:
    • 効果の持続時間が短い: 市販薬の効果は数時間程度しか持続しないため、過眠症の日中の長い時間にわたる眠気を抑えることは難しいです。
    • 効果の強さが不十分: 過眠症の強い眠気に対しては、市販薬のカフェイン量では十分な覚醒効果が得られないことが多いです。
    • 副作用のリスク: 過剰摂取すると、動悸、頭痛、胃部不快感、不眠、イライラなどの副作用が強く出ることがあります。また、カフェインに耐性ができてしまい、飲まないと余計に眠くなる「カフェイン依存」に陥るリスクもあります。
    • 根本的な治療にならない: 市販薬はあくまで対症療法であり、過眠症の根本原因を治療するものではありません。市販薬でごまかしている間に、適切な診断や治療が遅れてしまう可能性があります。

結論として、市販の眠気覚まし薬は、過眠症の治療薬としては推奨されません。
日中の過度な眠気に悩んでいる場合は、自己判断で市販薬に頼るのではなく、専門の医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。

過眠症の薬に関する注意点・副作用

過眠症の治療薬は、日中の眠気を軽減し、生活の質を向上させる上で非常に有効な場合がありますが、一方で副作用や服用上の注意点も存在します。
安全に治療を受けるためには、これらの点を理解しておくことが重要です。

過眠症の薬の一般的な副作用

過眠症の薬で比較的多く見られる副作用は、その薬の作用機序によって異なりますが、中枢神経刺激作用に関連したものが代表的です。

薬剤の種類 一般的な副作用(例) 重大な副作用(稀)
モダフィニル 頭痛、吐き気、食欲不振、口渇、動悸、血圧上昇、不眠、神経過敏 スティーブンス・ジョンソン症候群、精神症状(幻覚、妄想)
メチルフェニデート 動悸、血圧上昇、頭痛、不眠、食欲不振、腹痛、神経過敏、不安 精神病様症状、依存性、乱用、心血管イベント
ピットリスアント 頭痛、吐き気、腹痛、不眠、不安、体重増加 QT間隔延長
ナトリウムオキシベート 吐き気、めまい、頭痛、眠気、夜間の混乱、睡眠時無呼吸悪化 呼吸抑制、依存性
SNRI/三環系抗うつ薬 口渇、便秘、排尿困難、めまい、眠気、体重増加 不整脈、血圧上昇、セロトニン症候群

多くの副作用は軽度であり、体が薬に慣れるにつれて軽減していくことが多いですが、症状が強い場合や、気になる症状が現れた場合は、必ず主治医に相談してください。
特に、以下のような症状が現れた場合は、速やかに医療機関に連絡する必要があります。

  • 強い動悸や息切れ、胸の痛み
  • 急激な血圧の上昇や低下
  • 強い頭痛やめまい
  • 視力や視野の変化
  • 精神状態の変化(幻覚、妄想、強い不安、攻撃性など)
  • 全身の発疹や皮膚の剥離、口や目の粘膜のただれ
  • 呼吸が浅くなる、息苦しい

これらの副作用は稀ですが、発生する可能性はゼロではありません。
医師から処方された薬について、どのような副作用の可能性があるのか、どのような症状が出たら連絡すべきなのかを事前に確認しておくことが重要です。

長期使用の注意点

過眠症は慢性的な疾患であることが多く、治療薬を長期間服用する必要がある場合があります。
長期使用においては、いくつかの注意点があります。

  • 依存性: メチルフェニデート(リタリン、コンサータ)やナトリウムオキシベートには依存性のリスクがあります。医師の指示通りに用法・用量を守って使用することが非常に重要です。自己判断で増量したり、中止したりすることは絶対に避けてください。突然の中止は、離脱症状(強い疲労感、抑うつ気分など)を引き起こす可能性もあります。モダフィニルやピットリスアントは依存性が低いとされていますが、それでも医師の管理のもとで使用することが望ましいです。
  • 耐性: 長期間薬を服用していると、徐々に効果が弱まってくる「耐性」が生じることがあります。効果が不十分と感じる場合は、自己判断で用量を増やさずに、必ず医師に相談してください。用量調整や、他の薬剤への変更が検討されることがあります。
  • 副作用の継続・出現: 一部の副作用は服用を続けても改善しなかったり、長期使用によって新たに出現したりすることがあります。定期的な診察で医師に現在の症状や気になる点を正直に伝え、副作用のチェックや必要な検査(血圧測定、心電図、血液検査など)を受けることが重要です。
  • 他の疾患への影響: 長期にわたる薬の服用が、心血管系や精神系など他の疾患に影響を与える可能性も考慮する必要があります。既存の持病がある場合や、新たに体調の変化を感じた場合は、必ず医師に報告してください。

過眠症の薬は、漫然と使い続けるのではなく、定期的に効果と副作用を評価し、必要に応じて治療計画を見直すことが重要です。
医師と密に連携し、疑問点や不安な点は遠慮なく質問しましょう。

過眠症の薬以外の治療法

過眠症の治療は、薬物療法だけで完結するわけではありません。
特に二次性過眠症の場合は、原因となる疾患の治療が最も重要です。
また、原発性過眠症においても、薬物療法と並行して非薬物療法を取り入れることで、より良い治療効果が期待できます。

生活習慣の改善

睡眠衛生指導を含む生活習慣の改善は、過眠症治療の基盤となります。
薬の効果を最大限に引き出し、日中の眠気を軽減するために、以下の点を心がけることが推奨されます。

  • 規則正しい睡眠スケジュール: 毎日決まった時間に就寝し、起床する習慣をつけます。週末の寝だめは体内時計を乱し、かえって日中の眠気を悪化させる可能性があるため、避けるか最小限にとどめます。
  • 計画的な昼寝: 特にナルコレプシーの場合、短い昼寝(15~20分程度)を計画的に取ることで、日中の眠気を一時的に軽減できることがあります。ただし、長すぎる昼寝は夜間の睡眠に影響したり、目覚めが悪くなったりすることがあるため注意が必要です。特発性過眠症の場合は、昼寝をしても眠気が改善しないことが多いです。
  • 睡眠環境の整備: 寝室を暗く、静かで快適な温度に保ちます。寝る直前のスマホやPCの使用は避けるようにします。
  • カフェイン・アルコールの制限: 午後以降のカフェイン摂取は夜間の睡眠を妨げる可能性があるため控えます。アルコールは一時的に眠気を誘いますが、睡眠の質を低下させ、夜間の睡眠を断片化させるため、過眠症の症状を悪化させる可能性があります。
  • 適度な運動: 定期的な運動は睡眠の質を向上させますが、就寝直前の激しい運動は覚醒を高めてしまうため避けます。
  • 寝る前のリラックス: 温かいお風呂に入る、軽い読書をする、ストレッチをするなど、リラックスできる習慣を取り入れます。
  • 就寝前の食事: 寝る直前の食事は消化に負担をかけ、睡眠を妨げる可能性があるため、就寝前数時間は避けることが望ましいです。

これらの生活習慣の改善は、薬物療法と組み合わせることで、より効果的な過眠症の管理につながります。

精神療法・カウンセリング

過眠症は、日中の強い眠気によって社会生活や人間関係に大きな影響を与え、不安や抑うつといった精神的な負担を伴うことが少なくありません。
また、うつ病や不安障害といった精神疾患が原因で過眠症となっている二次性過眠症の場合もあります。

  • 認知行動療法(CBT): 特に不眠症の治療で広く用いられる精神療法ですが、過眠症によって生じる精神的な問題や、睡眠に関する誤った考え方、行動パターンを修正するのに役立つ場合があります。
  • 心理カウンセリング: 過眠症によるストレス、不安、人間関係の悩みなどについて話し合い、対処法を見つけるサポートを行います。
  • 原因となる精神疾患の治療: うつ病や不安障害が過眠症の原因となっている場合は、それらの精神疾患に対する治療(薬物療法や精神療法)を行うことで、過眠症の症状も改善することが期待できます。

精神的な側面からのアプローチは、過眠症そのものの症状だけでなく、それに伴う生活の困難さや心理的な苦痛を和らげる上で重要な役割を果たします。

過眠症で病院を受診すべき目安

日中の眠気が日常生活に支障をきたしている場合、それは単なる「寝不足」ではなく、過眠症という病気である可能性があります。
放置すると、仕事や学業に悪影響が出たり、重大な事故につながったりする危険性があります。
以下のような症状に気づいたら、専門の医療機関を受診することを検討しましょう。

  • 夜十分に寝ている(7時間以上)にもかかわらず、日中に我慢できないほどの強い眠気に襲われる
  • 会議中や授業中、静かな環境だけでなく、活動している最中や会話中に眠ってしまうことがある
  • 車の運転中に眠気に襲われ、ヒヤッとした経験がある
  • 短い昼寝をしても、一時的にしか眠気が改善しないか、かえって目覚めが悪くぼんやりする
  • 感情の強い動き(笑う、驚く、怒るなど)で体の力が抜けてしまう(情動脱力発作)
  • 寝入りばなや目覚める時に、現実感のある夢を見たり、金縛りにあったりする
  • 日中の眠気のために、仕事や学業に集中できない、ミスが増えた、社会生活が困難になった
  • 日中の眠気のために、人付き合いが億劫になった、気分が落ち込むようになった

これらの症状は過眠症のサインかもしれません。
早めに専門医に相談することで、適切な診断を受け、症状に合った治療を開始することができます。

何科を受診すべきか

過眠症の専門的な診断・治療は、精神科神経内科、または睡眠専門外来で受けられます。

  • 精神科: 精神疾患が原因の二次性過眠症の場合や、過眠症に伴う精神的な問題を抱えている場合に適切です。睡眠障害を専門とする精神科医も多くいます。
  • 神経内科: ナルコレプシーや特発性過眠症といった原発性過眠症の診断・治療を専門としています。神経系の疾患に伴う過眠症の場合も神経内科が適しています。
  • 睡眠専門外来: 睡眠障害全般を専門的に扱っており、精神科医、神経内科医、耳鼻咽喉科医(睡眠時無呼吸症候群など)、呼吸器内科医などが連携して診療にあたっています。過眠症の原因が多岐にわたる可能性があるため、まずは睡眠専門外来を受診するのが最も包括的なアプローチを受けられることが多いです。

かかりつけ医に相談し、適切な専門科を紹介してもらうのも良い方法です。
インターネットで「〇〇市 睡眠外来」「〇〇県 過眠症 専門医」などと検索して探すこともできます。

病院での検査・診断の流れ

病院を受診すると、通常以下のような流れで検査・診断が進められます。

  • 問診: 睡眠の質や量、日中の眠気の程度、症状が出始めた時期、生活習慣、病歴、服用中の薬などについて詳しく聞かれます。家族など同居者に睡眠中の様子を聞くことも診断の参考になります。
  • 睡眠日誌の記録: 数週間程度、毎日自分で睡眠時間や日中の眠気の程度などを記録するよう指示されることがあります。客観的なデータを集めるために重要です。
  • スクリーニング検査: 必要に応じて、簡易的な睡眠検査(携帯型の装置を使った呼吸モニターなど)を行うことがあります。
  • 睡眠ポリグラフ検査(PSG): 入院またはPSG施設のあるクリニックで、夜間の睡眠中の様々な生理学的データを測定します。睡眠構造の評価や、睡眠時無呼吸症候群などの合併症の有無を確認します。
  • 昼間睡眠潜時反復検査(MSLT): PSGの翌日に行い、日中の眠気の客観的な程度や、ナルコレプシーに特徴的な睡眠パターン(早期のレム睡眠出現など)を確認します。
  • その他の検査: 必要に応じて、髄液検査(ナルコレプシーの診断)、血液検査、画像検査(脳腫瘍などの除外)などが行われることがあります。
  • 診断: これらの検査結果と問診内容を総合的に評価し、過眠症の種類(ナルコレプシー、特発性過眠症、二次性過眠症など)を確定診断します。

診断が確定したら、医師から病気について説明を受け、治療方針が話し合われます。

診断後の治療方針

診断された過眠症の種類や重症度に応じて、治療方針が決定されます。

  • 二次性過眠症の場合: 原因となっている疾患(睡眠時無呼吸症候群、うつ病など)の治療を最優先に行います。原因疾患の治療によって過眠症の症状が改善することが多いです。
  • 原発性過眠症の場合(ナルコレプシー、特発性過眠症など):
    • 薬物療法: 日中の過度な眠気に対して、モダフィニル、ピットリスアント、メチルフェニデートなどの覚醒作用のある薬が処方されます。ナルコレプシーに伴う情動脱力発作や睡眠麻痺、入眠時幻覚に対しては、ナトリウムオキシベートやSNRI/三環系抗うつ薬などが使用されることがあります。どの薬を使用するかは、症状の種類、重症度、患者さんの体質、他の病気などを考慮して医師が決定します。
    • 非薬物療法: 生活習慣の改善(規則正しい生活、計画的な昼寝など)や、過眠症による精神的な負担を軽減するための精神療法なども組み合わせて行われます。
    • 定期的な経過観察: 治療を開始した後も、薬の効果や副作用、症状の変化を確認するために定期的に通院し、必要に応じて薬の種類や用量の調整が行われます。

過眠症の治療は長期にわたることが多いですが、適切な治療を受けることで、日中の眠気をコントロールし、より活動的で充実した生活を送ることが可能です。

【まとめ】過眠症の薬物療法は専門医との連携が重要

過眠症は、単なる「寝不足」や「怠け」ではなく、専門的な診断と治療が必要な病気です。
日中の過度な眠気は、日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、事故につながる危険性も伴います。

過眠症の治療の中心となる薬物療法では、日中の眠気を軽減するために様々な種類の薬が使用されます。
モダフィニルやピットリスアント、メチルフェニデートといった覚醒作用のある薬のほか、夜間睡眠を改善することで日中の症状を和らげるナトリウムオキシベート、レム睡眠関連症状に有効なSNRIや三環系抗うつ薬などがあります。
これらの薬は、過眠症の種類や症状に応じて使い分けられ、効果と副作用を考慮しながら慎重に処方されます。

市販の眠気覚まし薬は、過眠症の病的な眠気に対しては効果が限定的であり、根本的な治療にはなりません。
自己判断で市販薬に頼るのではなく、症状に気づいたら速やかに精神科、神経内科、または睡眠専門外来を受診することが重要です。

病院では、問診や睡眠日誌に加え、睡眠ポリグラフ検査(PSG)や昼間睡眠潜時反復検査(MSLT)といった客観的な検査によって正確な診断が行われます。
診断に基づき、薬物療法、生活習慣の改善、必要であれば精神療法などを組み合わせた包括的な治療計画が立てられます。

過眠症の治療薬には副作用や長期使用に関する注意点も存在します。
医師から処方された薬については、効果だけでなく、起こりうる副作用や注意点について十分に説明を受け、疑問点があれば遠慮なく質問しましょう。
治療中は定期的に医療機関を受診し、薬の効果や副作用、症状の変化を医師に正確に伝えることが、安全で効果的な治療を続けるために不可欠です。

過眠症は適切な診断と治療によって、症状を大きく改善させ、生活の質を向上させることが可能な病気です。
日中の眠気に悩んでいる方は、一人で抱え込まず、ぜひ専門医に相談してみてください。

免責事項: 本記事は過眠症の薬に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の薬剤の使用を推奨するものではありません。個々の症状や状態に応じた診断や治療については、必ず医師の診察を受け、指示に従ってください。

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