もしかして?広場恐怖症の症状とは【自分で気づくチェックリスト】

広場恐怖症は、特定の場所や状況で強い不安や恐怖を感じ、それを避けるようになる不安障害の一種です。広場(ひろば)という言葉から連想される広い場所だけでなく、電車の中や人混みなど、様々な状況で症状が現れる可能性があります。この恐怖症は、日常生活に大きな影響を与えることがあり、その症状を理解することは、適切な対応や治療への第一歩となります。

広場恐怖症とは

広場恐怖症(Agoraphobia)は、特定の場所や状況に対して強い不安や恐怖を感じ、そのためにそのような場所や状況を避けるようになる不安障害です。恐怖の対象となるのは、広場のように開けた場所だけではなく、人が多く集まる場所、閉鎖された空間、公共交通機関など多岐にわたります。これらの場所や状況において、「逃げ出すことが困難である」「助けが得られない」と感じることに強い不安を覚えるのが特徴です。

この疾患は、パニック障害に伴って発症することが比較的多いですが、パニック発作の既往がなくても広場恐怖症と診断されるケースもあります。不安や回避行動は、仕事や学業、社会生活、人間関係など、日常生活の多くの側面を制限してしまう可能性があります。単なる場所への恐怖ではなく、「もしそこでパニック発作が起きたらどうしよう」「周りの人に変に思われたらどうしよう」といった、「特定の状況下での特定の出来事や、それに対する他者の反応」への強い恐れが根底にあると考えられています。

広場恐怖症の主な症状

広場恐怖症の診断は、特定の状況における強い不安や恐怖、そしてそれらを避ける行動パターンに基づいて行われます。主な症状として、以下の点が挙げられます。

特定の場所や状況での強い不安・恐怖

広場恐怖症の中心となる症状は、特定の場所や状況にいることに対する強い不安や恐怖です。これは、その場所自体が危険なのではなく、そこで以下のような「困った事態」が起こるのではないかという恐れに基づいています。

  • 逃げ出すことが困難になることへの恐れ: 例:電車やバスに乗っている最中に気分が悪くなっても、すぐに降りられない。
  • 助けが得られないことへの恐れ: 例:一人でいる時に倒れたり体調が悪化しても、誰かに助けを求められない。
  • パニック発作やそれに類する症状が現れることへの恐れ: 例:動悸、息苦しさ、めまい、吐き気などのパニック発作症状が起き、周囲に知られたり、コントロールできなくなったりすることへの恐怖。
  • 恥ずかしい思いをすることへの恐れ: 例:人前でパニックになったり、取り乱したりして、注目を浴びたり嘲笑されたりすることへの恐怖。

このような不安や恐怖は、その場にいる間ずっと続くこともあれば、特定の瞬間に強くなることもあります。客観的に見れば危険でない状況であっても、本人にとっては非常に強い苦痛を伴います。

その場所や状況の回避

強い不安や恐怖を感じる場所や状況を避けるようになることは、広場恐怖症の代表的な症状です。この回避行動は、不安を一時的に軽減する効果があるため、すぐに習慣化してしまいます。しかし、結果として行動範囲が狭まり、日常生活が著しく制限されていきます。

回避の例:

  • 公共交通機関に乗ることを避ける(代わりに徒歩やタクシーを利用する、あるいは移動自体をやめる)。
  • 人が集まる場所(デパート、劇場、コンサートなど)に行かない。
  • 一人での外出を避ける(常に誰かに付き添ってもらう)。
  • 遠出を避ける。
  • 自宅に引きこもりがちになる。

回避行動がエスカレートすると、最終的には自宅以外にはほとんど出られなくなるケースもあります。これは、不安の対象となる状況だけでなく、関連する状況(例:苦手な場所の近くを通ることも避ける)にも広がる可能性があります。

予期不安

広場恐怖症では、「予期不安」も重要な症状の一つです。これは、過去に不安やパニックを感じた場所や状況、あるいは今後不安を感じるであろうと予測される場所や状況に実際に行く前から、すでに強い不安を感じてしまうことです。

「明日、電車に乗らなければならないと思うと、今日の夜から動悸がする」「来週、会議があるけれど、会議室でパニックになったらどうしようと考えてばかりいる」といった形で現れます。予期不安があるために、さらにその場所や状況を避けたい気持ちが強くなり、回避行動を強化する要因となります。この予期不安は、実際にその場にいるときの不安と同様、あるいはそれ以上に苦痛を伴うことがあります。

パニック発作との関連

広場恐怖症は、パニック障害と密接に関連していることが多い疾患です。パニック障害の患者さんの多くが、繰り返すパニック発作への恐怖から、発作が起きやすいと感じる場所や、発作が起きたときに困るであろう場所を避けるようになり、広場恐怖症を併発します。

パニック発作は、突然、強い恐怖や不快感を伴う身体的・精神的な症状(動悸、発汗、体の震え、息切れ、胸部の苦しさ、吐き気、めまい、現実感のなさ、自分が自分ではないような感覚、コントロールを失うことへの恐れ、気が変になることへの恐れ、死ぬことへの恐れなど)がピークに達するものです。広場恐怖症の患者さんは、これらのパニック発作(あるいはパニック発作に似た身体症状)が特定の状況で起こることへの強い恐れを抱いています。

ただし、前述の通り、パニック発作の既往がなくても広場恐怖症と診断されることもあります。この場合も、「特定の状況で強い不安や身体症状が現れ、それに対して助けが得られないことや、恥ずかしい思いをすることへの恐れ」が中心となります。

広場恐怖症で不安を感じやすい場所・状況の具体例

広場恐怖症の患者さんが不安を感じやすい場所や状況には、いくつかの共通した特徴があります。それは、「すぐにその場から立ち去ることが難しい」「助けが必要な場合にすぐに誰かに助けを求められない」と感じられる状況です。以下に具体的な例を挙げ、それぞれの状況でどのような不安を感じやすいかを掘り下げて説明します。

逃げたり助けが得にくい状況

これらの状況は、物理的または社会的な理由から、不安やパニック発作が起きた際に、すぐに安全な場所へ移動したり、周囲のサポートを得たりすることが難しいと感じられる点が共通しています。

公共交通機関

  • 電車・バス: 乗っている最中に不安やパニック発作が起きても、次の駅や停留所まで降りられないため、閉じ込められた感覚が強くなります。「途中で倒れたらどうしよう」「急停車して気分が悪くなったらどうしよう」といった不安を感じやすいです。満員電車のように身動きが取れない状況では、さらに不安が増すことがあります。
  • 飛行機: 長時間密閉された空間にいる上、離着陸時など特定の状況では移動が全く不可能になります。高度や気圧の変化も身体症状を引き起こしやすいと感じられるため、強い不安の対象となります。
  • 船: 地上から離れた水上にいるため、物理的に逃げることができません。揺れによる船酔いの不安も重なることがあります。

(フィクション体験談)
Aさん(30代女性)は、以前は普通に電車通勤していましたが、ある日満員電車の中で突然動悸と息苦しさを感じ、パニック発作のような状態になりました。それ以来、電車に乗ろうとすると、駅に着く前から胸がザワザワし始め、電車内で発作が起きる想像をすると足がすくむようになりました。今では、通勤は夫の車に頼るか、どうしても自分で移動しなければならない場合は、多少時間がかかっても各駅停車で人が少ない時間帯を選び、常に車両の端に立つようにしています。

閉鎖空間

  • 劇場、映画館、コンサートホール: 出口が限られており、上演中や公演中は席を立ちにくい雰囲気があります。「途中で気分が悪くなっても、大勢の人の中を通って外に出るのは恥ずかしい」「暗い場所で身動きが取れない」といった不安を感じやすいです。
  • ショッピングモール、スーパーマーケット: 広大で迷いやすく、人混みも多い場所です。「どこかに閉じ込められたらどうしよう」「出口が分からなくなったらどうしよう」といった感覚や、人混みの中でパニックになることへの恐怖が伴います。特にレジの行列に並んでいる時など、すぐにその場を離れられない状況で不安が強まることがあります。
  • トンネル、橋の上: 物理的に狭かったり、逃げ場がなかったりする状況です。トンネル内で渋滞に巻き込まれることや、橋の上で立ち往生することに強い不安を感じることがあります。

(フィクション体験談)
Bさん(40代男性)は、週末に家族でショッピングモールに行くのが好きでしたが、ある時、広い店内で突然、強いめまいと吐き気を感じ、その場に座り込んでしまいました。幸いすぐに落ち着きましたが、「また同じことが起きたらどうしよう」という恐れから、それ以来、ショッピングモールに行くのが億劫になり、必要最低限の買い物は近所の小さなスーパーで済ませるようになりました。家族との外出も減ってしまい、申し訳ない気持ちでいます。

開放空間

  • 広場、公園: 開放的すぎて身を守るものがなく、見通しが良いことが逆に不安につながることがあります。「どこかに隠れる場所がない」「周囲の人から見られている」といった感覚や、広すぎて心細い、方向感覚を失うことへの不安を感じることがあります。
  • 駐車場、広い通り: 車や人通りが多い中で、広い空間に立っていることへの不安。特に目的もなく広い場所にいると、不安が募りやすいです。

(フィクション体験談)
Cさん(20代女性)は、大学のキャンパスにある広い広場を通るのが苦手です。いつも多くの学生が談笑したり、行き交ったりしていますが、自分だけがポツンと立っているように感じられ、居場所がないような強い不安を感じます。「何か失敗してみんなに注目されたらどうしよう」「このままここに立ち尽くしてしまうのではないか」といった考えが頭をよぎり、広場を迂回して遠回りするようになりました。

人混み

  • イベント会場、行列、賑やかな通り: 人が多すぎて身動きが取れない状況です。「息苦しくなる」「パニックになっても誰にも気づいてもらえない、あるいは逆に注目されてしまう」「倒れたら踏みつけられるのではないか」といった恐れを感じやすいです。

(フィクション体験談)
Dさん(50代男性)は、かつては地域のお祭りやイベントによく参加していましたが、数年前に駅前で開催されたフェスで、急激な人混みの中で息が詰まるような感覚に襲われ、強い恐怖を感じて以来、人混みを避けるようになりました。今では、スーパーでもレジが混んでいると諦めて出直したり、人通りの少ない時間帯を選んで出かけたりしています。

一人で外出

  • 一人で買い物、通院、散歩など: 誰か信頼できる人が一緒にいれば安心できるのに、一人だと不安を感じる状況です。「何かあった時に一人では対処できない」「誰も助けてくれない」という感覚が強くなります。そのため、外出の際には家族や友人に付き添いを頼むか、外出自体を諦めることが多くなります。

(フィクション体験談)
Eさん(60代女性)は、夫を亡くしてから一人で買い物に行くのが怖くなりました。以前は夫と一緒に行っていたスーパーも、一人で行こうとすると家を出る前から動悸がして、足が震えます。一人でいる時に倒れたり、迷子になったりしたらどうしよう、誰にも迷惑をかけられない、という思いが強いです。今では、必要なものは近所の人に頼んだり、ネットスーパーを利用したりしています。

その他の苦手な状況

上記以外にも、広場恐怖症のトリガーとなりうる状況は個人によって異なります。例えば、高所、水中、特定の建物の内部、人前で話す場面など、過去の経験や個人の脆弱性によって、様々な状況が不安の対象となり得ます。重要なのは、そのような状況で「逃げ場がない」「助けが得られない」と感じるか、あるいは「過去に経験した不安やパニックが再発するのではないか」という恐れがあるかどうかです。

広場恐怖症 症状の程度と段階

広場恐怖症の症状の現れ方や、日常生活への影響の度合いは、人によって大きく異なります。症状の程度は、軽度から重度まで様々であり、時間とともに変化することもあります。

軽度の場合

軽度の広場恐怖症では、不安を感じる場所や状況が限定的である傾向があります。例えば、特定の公共交通機関(例:満員電車のみ)や、特定の場所(例:地下街のみ)など、限られた状況でのみ強い不安や回避行動が見られます。

この段階では、回避行動をとることで、ある程度日常生活を維持できることが多いです。仕事や友人との付き合いを完全に避けるのではなく、苦手な状況を避けるための工夫(例:混雑する時間帯を避けて移動する、車で移動する、同行者を募るなど)をしながら生活を送ることができます。しかし、これらの工夫にも労力やストレスがかかるため、決して負担がないわけではありません。予期不安も限定的か、比較的コントロール可能な範囲にとどまっている場合があります。

重度の場合

重度の広場恐怖症になると、不安を感じる場所や状況が非常に広範になります。公共交通機関全般、ほとんどの閉鎖空間や開放空間、人混みなど、多くの状況が不安の対象となり、強力な回避行動をとるようになります。

その結果、日常生活が著しく制限されます。外出できる範囲が自宅の近所や、場合によっては自宅から全く出られなくなる(引きこもり)という状態になることもあります。仕事や学業を続けることが困難になり、友人や家族との交流も激減するため、社会的に孤立してしまうリスクが高まります。

重度の広場恐怖症では、予期不安も強く、外出を考えただけで強い苦痛を感じるため、常に不安を抱えた状態になりやすいです。また、うつ病や他の不安障害(社交不安障害など)を併発することも少なくありません。このように、症状が重くなると、本人の苦痛はもちろんのこと、家族の負担も大きくなる傾向があります。

症状の程度 不安を感じる状況 回避行動 日常生活への影響
軽度 限定的(特定の場所や状況) 限定的な回避行動(工夫で対応) 小~中程度
重度 広範(多くの場所や状況) 強力な回避行動(外出困難) 著しい制限(引きこもりも)

広場恐怖症とパニック障害の主な違い

広場恐怖症とパニック障害はしばしば同時に見られ、密接に関連していますが、診断上は区別される別の疾患です。両者の主な違いは、恐怖の対象とパニック発作の位置づけにあります。

恐怖の対象と発作の性質

パニック障害の主な特徴は、「予期しないパニック発作」が繰り返し起こることです。予期しない、つまり特定の状況とは関係なく、突然、強い身体的・精神的な症状を伴う発作が襲ってきます。パニック障害の患者さんは、この予期しない発作がいつ、どこで起きるか分からないことへの「予期不安」を強く感じます。

一方、広場恐怖症の主な特徴は、「特定の場所や状況」に対する強い不安や恐怖、そしてそれらを避ける行動です。広場恐怖症の患者さんが恐れるのは、その場所や状況でパニック発作やそれに類する症状が起き、逃げられなくなることや助けが得られないこと、あるいは恥ずかしい思いをすることです。恐怖の対象が、特定の「場所や状況」と結びついている点が大きな違いです。

多くの広場恐怖症は、パニック障害を発症した後に、パニック発作への恐怖から特定の場所を避けるようになることで二次的に発症します。しかし、パニック発作の既往が全くなくても、特定の場所や状況(例:人前で話すこと、閉じ込められること)で強い不安や身体症状が現れることへの恐れから広場恐怖症と診断される場合もあります。

疾患名 主な特徴 恐怖の対象 パニック発作の位置づけ
パニック障害 予期しないパニック発作の繰り返し 予期しない発作への恐怖(予期不安) 疾患の中心症状
広場恐怖症 特定の場所・状況での不安と回避 特定の場所・状況、およびそこでの発作や困る事態への恐怖 特定の場所・状況で起きることへの恐れ(疾患の中心ではない場合も)

簡潔に言えば、パニック障害は「いつどこで発作が起きるか分からない」という発作そのものへの恐怖が中心で、広場恐怖症は「特定の場所や状況で発作が起きたら困る」という状況への恐怖が中心となります。両者は併存することが多く、診断や治療においては両方の側面を考慮する必要があります。

広場恐怖症の原因やなりやすい人

広場恐怖症が発症する原因は一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。また、特定の性格傾向や経験を持つ人が、そうでない人に比べて広場恐怖症になりやすい傾向があります。

考えられる原因(ストレスなど)

  • パニック障害の既往: 広場恐怖症の最も一般的な原因の一つは、パニック障害を発症した経験です。パニック発作の強い苦痛と恐怖を経験した後、「またあの発作が起きるのではないか」という恐れ(予期不安)が生じ、発作が起きやすいと感じる場所や、発作が起きたときに困る場所を避けるようになります。
  • ストレス: 過度なストレスや慢性的な疲労は、心身のバランスを崩し、不安障害の発症リスクを高める可能性があります。大きなライフイベント(親しい人との死別、失業、引っ越しなど)もストレス要因となり得ます。
  • 過去のトラウマ体験: 過去に特定の場所や状況で強い恐怖や危険な体験をしたことが、その後の広場恐怖症の発症につながることがあります。例えば、過去に災害で閉じ込められた経験や、公共の場で恥ずかしい思いをした経験などが挙げられます。
  • 遺伝的要因: 不安障害は遺伝的な影響も受けると考えられています。家族に不安障害やパニック障害の人がいる場合、自身も発症しやすい可能性があります。ただし、遺伝だけで決まるわけではありません。
  • 脳機能の偏り: 不安や恐怖を司る脳の部位(扁桃体など)の活動の偏りや、神経伝達物質のバランスの乱れが関与している可能性も研究されています。
  • 環境要因: 子供の頃に過保護に育てられた、あるいは逆に十分なサポートが得られなかったといった養育環境が影響する可能性も指摘されています。

これらの原因は単独で作用するのではなく、複数組み合わさって発症に至ることが多いと考えられます。

なりやすい人の特徴

  • パニック障害の診断を受けている人: 前述の通り、パニック障害の既往は広場恐怖症の最大のリスク因子の一つです。
  • 特定の性格傾向を持つ人:
    • 心配性・不安を感じやすい: 元々、物事を悲観的に考えやすかったり、些細なことでも心配したりする傾向がある人。
    • 完璧主義・几帳面: コントロールできない状況や予測不可能な出来事に対して強い不安を感じやすい人。
    • 内向的・人見知り: 新しい環境や不慣れな状況に馴染むのに時間がかかり、人前で注目されることに抵抗がある人。
    • 敏感・繊細: 外部からの刺激(音、光、人混みなど)に過敏に反応しやすい人。
  • 回避傾向が強い人: 困難や不快な状況に直面したときに、それらに立ち向かうよりも避けることを選びがちな人。
  • 健康不安が強い人: 自分の体調の変化に過敏で、病気や体調不良に対して強い恐れを抱きやすい人。特に動悸や息切れなどの身体症状を異常だと捉えやすい人。
  • サポートシステムが不足している人: 困難な時に頼れる家族や友人が少ない、あるいは一人で問題を抱え込みがちな人。

これらの特徴を持つ人が必ず広場恐怖症になるわけではありませんが、複数の要因や特徴が重なることで、発症リスクが高まる可能性が考えられます。

もしかして広場恐怖症?セルフチェックのポイント

ご自身や周囲の人が広場恐怖症かもしれないと疑う場合、いくつかのポイントを確認してみることは有用です。ただし、これはあくまで簡易的なチェックであり、正式な診断は医療機関で行う必要があります。セルフチェックは、専門家への相談を検討するための参考にしてください。

簡易セルフチェック項目

以下の項目に、「はい」または「いいえ」で答えてみてください。

  • 公共交通機関(電車、バス、飛行機など)に乗ることに強い不安や恐怖を感じますか?
    • はい / いいえ
  • 広い場所(広場、公園、駐車場など)にいることに強い不安や恐怖を感じますか?
    • はい / いいえ
  • 閉鎖された場所(劇場、映画館、ショッピングモールなど)にいることに強い不安や恐怖を感じますか?
    • はい / いいえ
  • 人が多く集まる場所(人混み、行列など)にいることに強い不安や恐怖を感じますか?
    • はい / いいえ
  • 一人で外出することに強い不安や恐怖を感じますか?
    • はい / いいえ
  • 上記のような場所や状況で、「逃げ出せないのではないか」「助けが得られないのではないか」という恐れを強く感じますか?
    • はい / いいえ
  • 上記のような場所や状況で、パニック発作やそれに類する症状(動悸、息苦しさ、めまい、吐き気など)が起きることを強く恐れますか?
    • はい / いいえ
  • これらの不安や恐怖のために、上記のような場所や状況を避けるようにしていますか?
    • はい / いいえ
  • 上記のような場所や状況を避けることで、日常生活(仕事、学業、買い物、友人との付き合いなど)に支障が出ていますか?
    • はい / いいえ
  • 不安を感じる場所に行くことを考えただけで、すでに強い不安(予期不安)を感じますか?
    • はい / いいえ
  • これらの症状が6ヶ月以上続いていますか?
    • はい / いいえ

セルフチェックを行う上での注意点

上記のチェック項目に複数「はい」と答えた場合、広場恐怖症の可能性が考えられます。特に、不安や回避行動が日常生活に具体的な支障をきたしている場合は、専門機関に相談することを強くお勧めします。

ただし、以下の点に注意してください。

  • 診断ではありません: このチェックリストはあくまで簡易的な目安です。正式な診断は、精神科や心療内科の医師が行います。
  • 他の可能性: チェック項目に当てはまる場合でも、他の不安障害や精神疾患、あるいは身体的な問題が原因である可能性もあります。自己判断せず、専門家の意見を仰ぐことが重要です。
  • 症状の強さ: チェックリストでは症状の「強さ」を完全に測ることはできません。たとえ項目に当てはまっても、不安の程度が軽く、日常生活への影響がほとんどない場合は、必ずしも治療が必要ないケースもあります。逆に、項目は少ないが、一つ一つの不安が非常に強く、大きな苦痛を伴う場合もあります。

セルフチェックの結果を受けて不安になったり、悩んだりする場合は、一人で抱え込まずに専門家へ相談しましょう。

症状に悩む方へ:専門機関への相談を

もしあなたが、この記事を読んでご自身の症状が広場恐怖症に当てはまるかもしれないと感じたり、日常生活に支障が出るほどの不安や回避行動に悩んでいたりする場合は、専門機関に相談することが大切です。広場恐怖症は適切な治療によって改善が見込める疾患です。

精神科・心療内科を受診するタイミング

以下のような場合は、精神科や心療内科を受診することを検討してください。

  • 不安や恐怖のために、特定の場所や状況を避けるようになり、生活範囲が狭まっている。
  • 回避行動のために、仕事や学業に行けない、買い物に行けない、友人や家族との付き合いが減ったなど、日常生活に具体的な支障が出ている。
  • 不安や恐怖、予期不安が強く、常に精神的な苦痛を感じている。
  • パニック発作のような症状が繰り返し起こり、その恐怖から外出が怖くなっている。
  • セルフチェックの結果、広場恐怖症の項目に多く当てはまり、自分自身でどうすれば良いか分からない。
  • 家族や周囲の人から、心配されたり、受診を勧められたりしている。

「これくらいのことで病院に行っていいのかな」と躊躇する必要はありません。不安や回避行動によってあなたの生活の質が損なわれているのであれば、それは十分に専門家のサポートを必要とする状況です。早めに相談することで、症状の悪化を防ぎ、改善への道が開けます。

治療について

広場恐怖症の治療法には、主に「薬物療法」と「精神療法(心理療法)」があります。多くの場合は、これらの治療法を組み合わせて行われます。

  • 薬物療法:
    • 抗うつ薬(特にSSRIなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬): 不安やパニック症状を軽減する効果が期待できます。すぐに効果が現れるわけではなく、効果が出るまでに数週間かかることが多いです。
    • 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など): 即効性があり、強い不安やパニック発作を抑えるのに有効です。ただし、依存性のリスクがあるため、頓服薬として、または限定された期間の使用が推奨されます。
    • その他: 必要に応じて、他の種類の抗うつ薬や補助的な薬が処方されることもあります。
  • 精神療法(心理療法):
    • 認知行動療法(CBT): 広場恐怖症に対する精神療法の中心となります。不安や恐怖を引き起こす「考え方(認知)」や、それに基づく「行動」に働きかける治療法です。
      • 認知再構成: 不安を引き起こす非合理的な考え方(例:「人前でパニックになったら一生笑われる」)を見直し、より現実的で柔軟な考え方に変えていきます。
      • 曝露療法(ばくろりょうほう): 不安を感じる場所や状況に、段階的に、安全な環境で意図的に身を置いていくことで、不安に慣れていく練習をします。最初は想像の中で行ったり、不安レベルの低い状況から始めたりし、徐々にレベルを上げていきます。これは回避行動を克服するために非常に重要な治療法です。
    • その他の療法: 不安管理スキル訓練、リラクゼーション法などが併用されることもあります。

治療は、医師や心理士と協力して、個々の症状や状況に合わせて進められます。焦らず、根気強く取り組むことが大切です。治療によって、不安をコントロールできるようになり、回避していた場所にも徐々に行けるようになるなど、生活の質を回復させることが十分に可能です。

まとめ

広場恐怖症は、特定の場所や状況(公共交通機関、閉鎖空間、開放空間、人混み、一人での外出など)で「逃げられない」「助けが得られない」ことへの強い不安や恐怖を感じ、それらの状況を避けるようになる不安障害です。パニック発作への恐怖が根底にあることが多いですが、パニック発作の既往がなくても発症することがあります。症状の程度は個人差が大きく、軽度な回避から、自宅に引きこもるほどの重度な状態まで様々です。パニック障害とは関連が深いものの、恐怖の対象や病態の焦点が異なります。

発症には、パニック障害の既往、ストレス、過去のトラウマ、遺伝、性格傾向など、複数の要因が複雑に関わっていると考えられています。心配性であったり、回避傾向が強かったりする人がなりやすい傾向があります。

もし、ご自身が広場恐怖症の症状に当てはまるかもしれないと感じたり、日常生活に支障が出るほどの不安や回避行動に悩んでいたりする場合は、一人で抱え込まずに精神科や心療内科といった専門機関に相談することが非常に重要です。広場恐怖症は、薬物療法や認知行動療法を中心とした適切な治療を受けることで、症状の改善や克服が十分に可能な疾患です。専門家のサポートを得ながら、少しずつ不安を乗り越え、行動範囲を広げていくことで、より自由で豊かな生活を取り戻すことができます。

本記事は情報提供を目的としており、診断や治療を保証するものではありません。個別の症状については必ず医療機関にご相談ください。

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