検査で異常なし…身体表現性障害の症状とその特徴を解説

つらい身体の不調、もしかしたら身体表現性障害かもしれません。検査では異常がないと言われるのに、どうしてこんなに苦しいのだろう…そう感じている方は少なくないでしょう。身体表現性障害(DSM-IVまでの名称)や現在のDSM-5における身体症状症および関連症群は、心と体のつながりが深く関わる疾患です。この記事では、身体表現性障害(身体症状症)がどのような疾患で、具体的にどのような症状が現れるのか、その原因や診断、そして症状にどう向き合い、どのような治療法があるのかについて詳しく解説します。一人で抱え込まず、この記事を通じて少しでも理解を深め、適切なサポートに繋がるきっかけとなれば幸いです。

身体表現性障害の主な身体症状

身体表現性障害(身体症状症)で現れる症状は多岐にわたります。文字通り、体のあらゆる部分に様々な不調が現れる可能性があります。ここでは、比較的よく見られる症状をカテゴリ別に分けて説明します。

痛みに関する身体症状

痛みは、身体表現性障害で最も頻繁に見られる症状の一つです。体の特定の部分だけでなく、全身にわたって様々な性質の痛みが現れることがあります。

  • 慢性の疼痛: 腰、背中、関節、胸部など、特定の場所に慢性的に痛みが続くことがあります。痛みの強さや性質は人によって異なり、ズキズキ、キリキリ、ジンジンするなど様々です。
  • 頭痛: 緊張型頭痛や片頭痛に似たような頭痛が頻繁に起こったり、常に頭が重く感じられたりすることがあります。
  • 腹痛: 原因不明の腹痛や、お腹の張り、下腹部の不快感などが続くことがあります。
  • 筋肉痛や体の痛み: 全身の筋肉が凝り固まったように感じたり、触ると痛みを感じたりすることがあります。

これらの痛みは、検査で異常が見られないにもかかわらず、患者さんにとっては非常に現実的でつらいものです。痛みのために仕事や家事が手につかなくなったり、外出をためらったりするなど、生活への影響も大きくなります。

消化器に関する身体症状

消化器系の症状も多く見られます。お腹の不調は日常生活に密接に関わるため、患者さんの苦痛も大きくなりがちです。

  • 吐き気や嘔吐: 特に食後や特定の状況下で、理由なく強い吐き気を感じたり、実際に嘔吐したりすることがあります。
  • 腹部膨満感(お腹の張り): 食事の量に関わらず、常にお腹が張っているように感じ、苦痛を伴うことがあります。
  • 消化不良: 食事が胃にもたれる、胃が重いといった感覚が続くことがあります。
  • 下痢や便秘: 過敏性腸症候群(IBS)に似た症状として、原因不明の下痢や便秘が繰り返されたり、下痢と便秘を交互に繰り返したりすることがあります。
  • 飲み込み困難: 食事をする際に、食べ物が喉につかえるような感覚や、うまく飲み込めない感覚が生じることがあります。

これらの消化器症状は、食欲不振や体重減少につながることもあり、栄養状態や全身の健康にも影響を及ぼす可能性があります。

神経系に関する身体症状

神経系の症状は、身体の動きや感覚に関わるものが多く、患者さんや周囲の人にとって特に不安を感じやすい症状です。

  • 麻痺や筋力低下: 手足に力が入らない、動かせないといった麻痺に似た症状が現れることがあります。
  • 感覚異常: 体の一部がしびれる、ジンジンする、感覚が鈍い、あるいは過敏になる、といった異常な感覚が生じることがあります。
  • 失神やめまい: 突然意識を失う、あるいは立ちくらみや回転性のめまいを頻繁に感じることがあります。
  • 歩行困難: 足がもつれる、バランスが取れないといった理由で、歩くことが難しくなることがあります。
  • 視覚や聴覚の異常: 物が見えにくくなる、視野が狭くなる、聞こえが悪くなるといった症状が現れることがありますが、眼科や耳鼻科的な異常は見られません。
  • 痙攣(けいれん): てんかんに似たような、手足がガクガク震える痙攣発作が起こることがあります。

これらの神経系症状は、脳や神経系の病気を疑わせるものですが、精密検査を行っても異常が見つからないことが特徴です。

心臓・呼吸器に関する身体症状

心臓や呼吸器に関する症状は、生命に関わる病気を連想させるため、強い不安やパニックを引き起こしやすい症状です。

  • 胸痛: 心臓発作を疑わせるような、胸の圧迫感や痛みが現れることがあります。
  • 動悸: 心臓がドキドキする、脈が速くなる、飛ぶような感覚(期外収縮)を頻繁に感じることがあります。
  • 息苦しさ、呼吸困難: 十分に息が吸えない、息が詰まるような感覚が生じ、息切れを感じることがあります。
  • 過呼吸: 息を速くしすぎてしまい、手足のしびれやめまいなどを伴うことがあります。

これらの症状がある場合、まずは心臓や肺の病気がないかを十分に検査することが不可欠です。身体的な異常が除外された後に、精神的な側面からのアプローチが検討されます。

その他の身体症状

上記のカテゴリに当てはまらない、様々な身体症状が現れることがあります。

  • 疲労感: 十分な休息をとっても改善しない、強い疲労感や倦怠感が続くことがあります。
  • 睡眠障害: 寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、熟睡できないといった症状が現れることがあります。
  • 皮膚の症状: 原因不明のかゆみ、発疹、皮膚の違和感などが続くことがあります。
  • 全身の倦怠感: 体全体がだるく、力が入らないような感覚が続くことがあります。
  • 性器や排泄に関する症状: 性交痛、性欲の低下、尿が出にくい、頻尿、便意切迫感などが現れることがあります。

身体表現性障害の症状は、このように非常に多様であり、一人で複数の症状を抱えることも珍しくありません。重要なのは、これらの症状が患者さん本人にとっては現実の苦痛であり、そのつらさによって日常生活に大きな影響が出ているという点です。

身体表現性障害の症状の特徴

身体表現性障害(身体症状症)の症状には、いくつかの共通する特徴が見られます。これらの特徴を理解することは、この疾患を識別し、適切にアプローチするために重要です。

  1. 医学的に十分に説明できない: 最も根幹となる特徴は、症状の原因となりうる身体的な病気や他の精神疾患が、医学的な検査や診察によって十分に確認できない、あるいは症状の重症度や持続期間を説明できないという点です。患者さんは様々な医療機関を受診し、多くの検査を受けるものの、「異常なし」と言われることが多い傾向にあります。
  2. 症状に対する過度な思考、感情、または行動: 症状そのものだけでなく、その症状に対する患者さんの反応に特徴があります。具体的には、
    • 症状について過度に心配する: 些細な体の変化を重篤な病気の兆候ではないかと過度に心配し、不安が強くなります。
    • 症状に費やす時間やエネルギーが大きい: 症状について考えたり調べたりすることに多くの時間を費やしたり、医療機関を頻繁に受診したりします。
    • 症状の深刻さを過度に捉える: 症状が実際よりもはるかに深刻であると確信し、周囲が大丈夫だと言っても納得できません。
  3. 持続的な症状: 症状は一時的なものではなく、通常6ヶ月以上にわたって継続します。症状の種類は時間とともに変化することもありますが、身体的な不調に対する懸念や苦痛は持続します。
  4. 日常生活への大きな影響: 症状とその症状に対する反応によって、仕事、学業、社会活動、人間関係など、日常生活の様々な側面に著しい支障が生じます。症状のために外出を控えたり、特定の活動を避けたりすることがあります。
  5. 複数の臓器にわたる症状: かつては「多愁訴(たしゅうそ)」と呼ばれたように、同時にあるいは時期をずらして、体の複数の部分や臓器にわたる多様な症状を訴えることが多いとされています。
  6. ストレスや感情との関連: 症状の出現や悪化が、心理的なストレス、葛藤、特定の感情(不安、抑うつ、怒りなど)と関連していることが観察される場合があります。ただし、患者さん自身がこの関連性を認識しているとは限りません。
  7. 自己診断や特定疾患へのこだわり: 自分の症状は特定の重篤な病気であるという考えに固執し、医師による診断が違っていても納得できないことがあります。インターネットなどで情報を集め、自己診断を深めてしまうことも少なくありません。

これらの特徴は、単なる身体的な不調とは異なる、身体表現性障害(身体症状症)に特有のものです。患者さん自身がこれらの特徴を理解することは難しい場合が多いですが、医療従事者や周囲の人がこれらの特徴に気づくことで、適切な診断や支援につながる可能性があります。

DSM-5における身体症状症の診断基準

身体表現性障害は、2013年に改訂された精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)において、「身体症状症および関連症群」という新しいカテゴリーに分類されました。このカテゴリーに含まれる疾患の中で、最も代表的なものが「身体症状症」です。DSM-5における身体症状症の診断基準は、以前の身体表現性障害よりも、身体症状そのものだけでなく、症状に対する患者さんの思考、感情、行動により焦点を当てている点が特徴です。

DSM-5における身体症状症の主な診断基準の概要は以下の通りです(診断は必ず精神科医や心療内科医が行います)。

基準A: 1つ以上の身体症状があり、それによって苦痛を感じるか、日常生活に著しい支障をきたしている。

基準B: 身体症状そのものに加えて、その症状または関連する健康上の懸念に関する過度な思考、感情、または行動によって特徴づけられる。具体的には、以下のうち少なくとも1つがみられる。

  1. 身体症状の深刻さについて、不釣合いで持続的な思考がある。
  2. 健康や症状について、持続的に高いレベルの不安がある。
  3. これらの症状または健康上の懸念に過度な時間とエネルギーを費やす。

基準C: 身体症状は持続的であり(典型的には6ヶ月以上だが、持続的な懸念はそれより短い期間でも診断可能)、通常は1つ以上の身体症状が著しいものとなっている。

これらの基準が示すように、身体症状症の診断においては、「医学的に説明がつかない」という点だけでなく、「症状に対する患者さんの心理的反応(思考、感情、行動)」が非常に重視されます。たとえ医学的に説明できる身体症状があったとしても、それに対する反応が基準Bに該当するほど過度であれば、身体症状症と診断される可能性があります。

DSM-5の身体症状症および関連症群には、身体症状症の他に以下のような疾患が含まれます。

  • 病気不安症: 身体症状は軽度または皆無だが、重篤な病気にかかっているのではないかという不安が強く、健康上の懸念に過度な時間とエネルギーを費やす。以前の心気症に似ています。
  • 変換症(機能性神経症状症): 運動機能(麻痺、筋力低下、歩行困難など)や感覚機能(視覚や聴覚の異常、しびれなど)の異常がみられるが、医学的な診察で説明できない。かつての転換性障害にあたります。
  • 心理的要因によるその他の医学的状態: 医学的状態があるが、それに影響を与える心理的または行動的な要因がある。
  • 人工症: 疾患の徴候や症状を作為的に作り出したり、装ったりする

これらの基準や分類は専門家が診断のために用いるものであり、患者さん自身がこれらだけで自己診断することは適切ではありません。もしご自身の症状がこれらの基準の一部に当てはまるかもしれないと感じた場合は、専門の医療機関に相談することが重要です。

身体表現性障害の原因

身体表現性障害(身体症状症)の正確な原因は、まだ完全に解明されていません。しかし、単一の原因によるものではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。生物学的要因、心理的要因、社会的要因が相互に影響し合っているという「生物-心理-社会モデル」で理解されることが多いです。

考えられている主な原因や関連要因を以下に挙げます。

  1. 生物学的要因:
    • 脳機能の変化: 脳の特定の領域(情動や痛みの処理に関わる部位など)の機能や構造に変化が見られるという研究報告があります。ただし、これが原因なのか結果なのかはまだ明確ではありません。
    • 神経伝達物質のバランス: セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質のバランスの乱れが、痛みや気分、不安の調節に影響を与えている可能性が指摘されています。
    • 遺伝的要因: 家族の中に身体症状症や他の精神疾患を持つ人がいる場合、発症リスクが高まる可能性が示唆されていますが、特定の遺伝子が特定されているわけではありません。
  2. 心理的要因:
    • ストレスやトラウマ: 長期にわたるストレス、過去の身体的・精神的なトラウマ(虐待や災害など)が発症の引き金となることがあります。ストレスによって自律神経のバランスが崩れ、身体症状が現れやすくなると考えられています。
    • 感情の抑制: 怒りや悲しみ、不安といった感情をうまく表現したり処理したりできない人が、感情を身体症状として「表現」してしまうという考え方があります。これは「アレキシサイミア(失感情症)」と呼ばれる状態と関連することもあります。
    • 性格特性: 心配性、完璧主義、他者への依存心が強い、感情を内に溜め込みやすいといった性格特性を持つ人が、ストレスを身体症状として感じやすい傾向があると言われています。
    • 健康への過度な意識や不安: 自分の体の状態に過度に敏感であったり、病気に対する強い不安(病気不安)を抱きやすかったりする人は、些細な身体の変化を重篤なものとして捉え、症状が悪化しやすい可能性があります。
    • 過去の病気の経験: 子供の頃に病気がちであったり、家族が病気で苦しむのを見たりした経験が、自分も病気になるのではないかという不安や、身体症状へのとらわれに繋がることがあります。
  3. 社会的要因:
    • 家庭環境: 感情の表現が制限される家庭環境や、病気になると注目される(病気の役割)といった経験が影響することがあります。
    • 文化的要因: 身体症状に対する文化的な受容度や、感情を表に出すことに対する文化的な規範なども影響する可能性があります。
    • 人間関係の問題: 家族や職場、友人との関係性の問題が、ストレスとなり身体症状を引き起こすことがあります。
    • 社会経済的要因: 経済的な問題や失業なども、ストレス源となり得ます。

これらの要因は単独で作用するのではなく、相互に影響し合い、脆弱性を持つ人が特定のストレスに直面した際に発症すると考えられています。例えば、遺伝的に不安を感じやすい人が、幼少期にトラウマを経験し、成人して強いストレスに直面した結果、身体症状症を発症するといった具合です。

原因が複雑であるため、治療も身体症状だけでなく、これらの心理的・社会的要因にもアプローチすることが重要になります。

身体表現性障害とうつ病・適応障害など類似疾患との症状の違い

身体表現性障害(身体症状症)の症状は、他の精神疾患や身体疾患の症状と似ていることが多く、鑑別が重要です。特に、うつ病や適応障害、パニック障害、不安障害、慢性疲労症候群などは、身体症状を伴うことがあり、身体表現性障害と区別が必要な場合があります。

それぞれの疾患との違いや関連性を以下に説明します。

疾患名 主な特徴 身体症状との関連 身体表現性障害(身体症状症)との違い
うつ病 持続的な気分の落ち込み、興味・関心の喪失、意欲低下、倦怠感、睡眠・食欲の変化など、精神症状が中心。 頭痛、肩こり、胃腸の不調、疲労感など、様々な身体症状を伴うことが多い。 うつ病では、身体症状はあくまで抑うつ状態の付随症状であり、気分や意欲の低下が中核。身体表現性障害では、身体症状そのものと、それに対する過度な懸念が中核であり、気分や意欲の低下は二次的なものか、別の問題として捉えられる。ただし、併発も多い
適応障害 特定のストレス要因(人間関係、仕事など)が明らかであり、そのストレスに反応して精神症状や身体症状が現れる。 頭痛、腹痛、不眠、疲労感など、身体症状も現れることがある。 ストレス要因が明らかで、症状はストレス要因が消失すれば改善する傾向がある。身体表現性障害では、必ずしも明確なストレス要因がない場合や、ストレス要因が解決しても症状が持続する場合がある。また、症状に対する過度な懸念が特徴。
パニック障害 予期しないパニック発作(動悸、息苦しさ、胸痛、めまい、発汗、震えなど、強い身体症状を伴う強い恐怖感)を繰り返す。 パニック発作時に強い身体症状が突発的に現れる。 パニック障害の身体症状は、突発的なパニック発作時に集中して現れる。身体表現性障害の身体症状は、発作的ではなく持続的であるか、特定のパニック発作という形をとらないことが多い。ただし、不安が強く、パニック発作に似た症状を訴えることもある。
全般性不安障害 特定の対象だけでなく、様々なことに対して持続的な不安や心配が強い。 肩こり、頭痛、疲労感、イライラ、集中力低下など、身体的な緊張や自律神経系の症状を伴うことが多い。 全般性不安障害の主症状は不安そのものであり、身体症状は不安に伴う身体的緊張や自律神経症状。身体表現性障害では、身体症状そのものや、その症状に対する病気への懸念が中心であり、不安は身体症状から派生することが多い。併発も多い
慢性疲労症候群 身体を動かすことなどで悪化し、休息によって改善しない強い疲労感が6ヶ月以上続く。微熱、リンパ節の腫れ、筋肉痛、思考力・集中力低下などを伴う。 身体的な疲労感が主症状。筋肉痛、関節痛、頭痛などの身体症状も伴う。 慢性疲労症候群は、特定の診断基準があり、身体表現性障害とは別の疾患として扱われる。ただし、重度の疲労感を訴える点は共通しており、鑑別診断が必要となる場合がある。身体表現性障害では、疲労感以外の多様な身体症状や、症状への過度な懸念がより顕著。
解離性障害 ストレスなどにより、意識、記憶、自己同一性、感覚、運動などの統合が障害される。離人症、現実感喪失、健忘、遁走など。 運動麻痺や感覚麻痺など、身体表現性障害の変換症(機能性神経症状症)に似た身体症状が現れることがある。 解離性障害の身体症状は、解離というメカニズムによって説明される。身体表現性障害の変換症も解離との関連が指摘されるが、診断基準や治療アプローチが異なる。専門医による慎重な鑑別が必要。
仮病・詐病 何らかの目的のために症状を装ったり作り出したりする。 意図的に身体症状を呈する。 身体表現性障害の患者さんは、本当に身体の不調を感じて苦しんでいる。症状は意図的に作り出されたものではない(ただし、人工症は意図的な症状作出を含む)。

これらの疾患は、単独で発症することもあれば、複数併発することもあります。特に、うつ病や不安障害は身体表現性障害と高頻度に合併することが知られています。

重要な点は、これらの症状は患者さんにとって現実の苦痛であり、「気のせい」ではないということです。しかし、どの疾患が原因で症状が現れているのかを正確に判断するためには、専門医による丁寧な診察と鑑別診断が不可欠です。自己判断せず、必ず医療機関を受診しましょう。

身体表現性障害の症状への対処法と治療

身体表現性障害(身体症状症)の症状はつらく、日常生活に大きな影響を与えますが、適切な対処と治療によって症状を軽減し、生活の質を改善することが可能です。治療は、身体症状だけでなく、その背景にある心理的・社会的要因にも同時にアプローチすることが重要です。

治療の主な柱は以下の通りです。

医療機関での診察・検査

まず最初に行うべきことは、つらい身体症状が本当に身体表現性障害によるものなのか、それとも身体的な病気が原因なのかを確認するために、医療機関を受診することです。

  • 一般内科などでの検査: 症状に応じて、かかりつけ医や該当する科(消化器内科、循環器内科、神経内科など)を受診し、身体的な病気がないか、あるいは身体的な病気だけでは説明できない症状なのかを検査してもらうことが重要です。血液検査、画像検査(レントゲン、CT、MRIなど)、生理機能検査(心電図、脳波など)などが行われます。
  • 心療内科・精神科への受診: 身体的な検査で異常が見られないにもかかわらず症状が続く場合や、身体症状に対する強い不安やとらわれがある場合は、心療内科や精神科の専門医に相談することを検討しましょう。専門医は、患者さんの身体症状、症状に対する考え方や感情、心理的なストレス、生活状況などを総合的に評価し、診断を行います。身体表現性障害(身体症状症)と診断された場合は、専門的な治療が開始されます。

身体的な病気がないことを確認することは、患者さんの病気への不安を軽減する上でも重要なステップとなります。

精神療法(カウンセリング)

身体表現性障害の治療の中心となるのが精神療法です。特に、症状に対する患者さんの過度な思考、感情、行動パターンにアプローチする療法が効果的とされています。

  • 認知行動療法(CBT): 現在最も効果が期待できる精神療法の一つです。症状に対する患者さんの捉え方(認知)や、それに基づいた行動パターンに働きかけます。
    • 身体症状に対する破局的な(最悪の事態を想定するような)思考を特定し、より現実的で柔軟な考え方に修正していく練習をします。
    • 症状を避ける行動(例:痛いから動かない、特定の場所に行かない)が、かえって症状を持続させたり悪化させたりするメカニズムを理解し、徐々に健康的な行動パターンを増やしていく練習をします。
    • ストレス対処スキルやリラクゼーション法を身につけます。
  • 精神力動的心理療法: 症状の背景にある無意識の葛藤や過去の経験に焦点を当て、感情を言語化し、自己理解を深めることを目指します。
  • その他の療法: 必要に応じて、支持的精神療法や家族療法などが用いられることもあります。

精神療法では、セラピストとの信頼関係のもと、安全な環境で自分の心の内を探り、症状との付き合い方やストレスへの対処法を身につけていきます。

薬物療法

薬物療法は、身体表現性障害そのものを直接治療するものではありませんが、身体症状やそれに伴う不安、抑うつといった症状を軽減するために補助的に用いられることがあります。

  • 抗うつ薬: セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質に作用する抗うつ薬(SSRIやSNRIなど)が、痛みの感覚を和らげたり、不安や抑うつ気分を改善したりする効果を持つことがあり、身体症状症の治療に用いられることがあります。
  • 抗不安薬: 強い不安や不眠がある場合に一時的に使用されることがありますが、依存性のリスクがあるため、漫然とした使用は避けるべきです。
  • その他の薬: 症状の種類(例:胃腸症状、頭痛など)に応じて、対症療法的に他の薬が処方されることもありますが、あくまで補助的な使用にとどまります。

薬物療法を開始する際は、医師とよく相談し、薬の効果や副作用について十分に理解することが重要です。薬物療法だけで根本的な解決には繋がりにくいため、精神療法と並行して行うことが一般的です。

治療全体を通して重要なこと

  • 患者教育: 疾患について正しく理解すること(症状は気のせいではないが、心の状態が影響していること、検査で異常がないことの意味など)は、治療を進める上で非常に重要です。
  • 医師との協力: 医師やセラピストと良好な信頼関係を築き、治療方針について話し合い、納得して治療に取り組むことが大切です。
  • 家族の理解と協力: 家族が疾患について理解し、患者さんをサポートすることも治療の支えとなります。
  • 焦らないこと: 身体表現性障害の治療は時間を要することが多く、すぐに症状が消失するわけではありません。一歩ずつ、根気強く取り組む姿勢が大切です。

治療の目標は、症状を完全にゼロにすることだけでなく、症状とのより良い付き合い方を学び、症状があっても日常生活の質を維持・向上させることにあります。

身体表現性障害の症状で悩んだら

もしあなたが、医学的な検査を受けても原因不明のつらい身体症状が続き、そのことで日常生活に支障が出ている、あるいは症状について過度に心配してしまう…といった状態に悩んでいるなら、一人で抱え込まずに専門家に相談することを強くお勧めします。

どこに相談すれば良いか?

  1. かかりつけ医または最初に受診した医療機関: まずは、現在抱えている身体症状について、かかりつけ医や最初に相談した科の医師に詳しく伝えましょう。これまでの検査結果などを踏まえ、専門医への紹介が必要かどうかを判断してもらえます。
  2. 心療内科または精神科: 身体的な検査で異常が見られない、あるいは症状の背景に心理的な要因が強く疑われる場合は、心療内科や精神科が専門となります。これらの科では、身体症状と心の状態の関係を専門的に診てくれます。地域の病院の精神科、心療内科クリニック、あるいは大学病院の精神科・心療内科などが考えられます。
  3. 精神保健福祉センター: 各都道府県や政令指定都市に設置されている公的な機関です。心の健康に関する相談を無料で受け付けており、専門の相談員(精神保健福祉士、臨床心理士など)が話を聞いてくれたり、適切な医療機関や支援機関を紹介してくれたりします。匿名での相談も可能な場合があります。
  4. 保健所: 地域住民の健康に関する様々な相談に応じています。心の健康相談窓口を設けているところもあります。
  5. 会社の産業医や学校のカウンセラー: 勤めている会社に産業医がいる場合や、学校にカウンセラーがいる場合は、まずは身近な専門家に相談してみるのも良いでしょう。守秘義務がありますので、安心して相談できます。
  6. 公認心理師や臨床心理士のカウンセリング: 医療機関とは別に、民間のカウンセリングルームで専門家(公認心理師、臨床心理士など)によるカウンセリングを受けるという選択肢もあります。ただし、診断や薬の処方はできませんので、必要に応じて医療機関への受診も検討する必要があります。

相談する際のポイント

  • 症状を具体的に伝える: いつ頃から、どのような症状が、体のどの部分に、どのくらいの頻度や強さで現れているのか、具体的に伝えましょう。
  • これまで受けた検査と結果: これまでどのような医療機関で、どのような検査を受け、結果はどうだったのかを伝えられるようにしておきましょう。
  • 症状によって困っていること: 症状のために仕事や家事ができない、外出できない、眠れないなど、日常生活で困っていることを伝えましょう。
  • 症状に対する自分の考えや感情: 症状についてどのように考えているのか(例:重い病気ではないか心配、将来が不安など)、どのような感情を抱いているのかを話してみましょう。
  • ストレスや悩み: 最近のストレスや、過去のつらい経験など、思い当たることを話してみましょう。

身体表現性障害は、身体の不調だけでなく、心や生活全体に影響を及ぼす疾患です。適切なサポートを受けることで、症状の改善や生活の質の向上が期待できます。勇気を出して相談の一歩を踏み出してみましょう。専門家はあなたの苦しみを理解し、寄り添いながら、回復への道を一緒に探してくれます。


まとめ

身体表現性障害(現在のDSM-5では身体症状症および関連症群に分類)は、医学的に十分に説明できない様々な身体症状が続き、その症状やそれに対する過度な懸念によって日常生活に大きな支障をきたす疾患です。痛み、消化器症状、神経系症状、心臓・呼吸器症状など、症状は多岐にわたり、患者さんは検査で異常がないと言われても、つらい不調に苦しんでいます。

この疾患の特徴は、症状そのものに加えて、症状に対する過度な思考、感情、行動が見られる点です。原因は、生物学的、心理的、社会的要因が複合的に絡み合っていると考えられており、うつ病や不安障害など他の精神疾患と合併しやすいこともあります。

身体表現性障害の症状で悩んだら、まずは身体的な病気がないかを確認するために医療機関を受診することが重要です。その上で、心療内科や精神科の専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることが大切です。治療の中心は、症状への捉え方や行動パターンを変えていく認知行動療法などの精神療法であり、必要に応じて薬物療法が補助的に用いられます。

つらい身体の不調を一人で抱え込まず、専門家の助けを借りることで、症状とのより良い付き合い方を学び、生活の質を改善していくことが可能です。この記事が、あなたが最初の一歩を踏み出すための情報となり、回復への道が開けるきっかけとなることを願っています。


免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。ご自身の症状については、必ず医師や専門家にご相談ください。診断や治療は、個々の状況に応じて専門家が行うべきものです。

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