病気不安症とは?健康への過度な不安、その特徴と原因を解説

「自分は重い病気にかかっているのではないか」と、ささいな体の変化に過度に囚われ、強い不安を感じる状態を「病気不安症」といいます。以前は「心気症」と呼ばれていましたが、診断基準の変更に伴い名称が変わりました。この記事では、病気不安症の定義や心気症との違い、具体的な症状、原因、診断、そして回復のための治療法やセルフケアについて詳しく解説します。ご自身や大切な方が病気不安症に悩んでいる場合、この記事が理解と解決への一助となれば幸いです。

病気不安症とは?定義と心気症との違い

病気不安症は、体の症状がない、または軽微な症状しかないにもかかわらず、自分が重篤な病気に罹患しているのではないかという強い不安を抱き、それが軽減されない精神疾患です。この不安は、医師による医学的な評価や検査結果が陰性であったとしても、なかなか解消されないのが特徴です。

DSM-5による病気不安症の定義

国際的な診断基準であるDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition:精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)において、病気不安症は「身体症状症および関連症群」の中に分類されています。DSM-5における病気不安症の主な診断基準は以下の通りです。

  • A. 重篤な病気を罹患または発症することへのとらわれ:身体症状がほとんどない、またはごく軽微な状態であるにもかかわらず、深刻な病気にかかっているのではないかという考えに強く囚われます。
  • B. 身体症状の不在またはごく軽微さ:もし身体症状があるとしても、それに対する本人のとらわれや不安の強さ、日常生活への影響の大きさに比して、その症状は軽微なものです。
  • C. 健康状態に関する高いレベルの不安:自分の健康について常に高いレベルの不安を抱いており、病気になることに対して容易に警戒や心配を覚えます。
  • D. 健康関連の過剰な行動または回避行動:健康状態に関する過度な行動(例:体の異常がないか繰り返し確認する、何度も医者に診てもらいに行く、病気に関する情報を過剰に検索する)をとるか、または不適応な回避行動(例:健康診断を避ける、病気に関する話題を避ける)をとります。
  • E. 病気へのとらわれの持続:この病気へのとらわれは少なくとも6ヶ月以上持続します。ただし、この間にとらわれる具体的な病気の種類は変化する可能性があります。
  • F. 他の精神疾患ではうまく説明できない:病気へのとらわれが、他の精神疾患(例:身体醜形障害における外見へのとらわれ、強迫症における強迫観念、パニック症におけるパニック発作への不安、分離不安症における愛着対象の健康への懸念、妄想性障害や他の精神病性障害)の診断基準をより満たす場合は、そちらの診断が優先されます。

この定義からもわかるように、病気不安症の中心にあるのは、身体症状そのものよりも、「自分が重篤な病気にかかっているかもしれない」という「不安」と、それに関連する「とらわれ」です。

心気症から病気不安症へ名称が変わった背景

かつてDSM-IV(第4版)では「心気症」という診断名が使われていました。心気症も同様に、重篤な病気にかかっているという恐れにとらわれる状態を指していましたが、診断基準において「身体症状への解釈」に重点が置かれていました。

DSM-5で診断名が「病気不安症」に変更された主な背景には、以下のような理由があります。

  • 診断の焦点の明確化: 心気症という名称は、しばしば「心身症」や「気の持ちよう」といった誤解を招きやすい側面がありました。病気不安症という名称は、「病気に関する不安」に焦点を当てることで、疾患の本質をより正確に表現しています。
  • 「身体症状症」との区別: DSM-5では、身体症状が強く現れ、その症状そのものへの苦痛やとらわれが大きい「身体症状症」という診断群が新設されました。これに対し、病気不安症は身体症状が軽微または absent であり、中心的な問題は「病気であることへの不安」であるという点で区別されます。これにより、同じように体のことにとらわれる状態でも、その中心的な問題が「症状そのもの」なのか「病気への不安」なのかによって診断を分け、より適切な治療につなげようという意図があります。
  • 治療アプローチとの整合性: 病気不安症に対する治療では、不安やとらわれといった認知・行動的な側面に焦点を当てた精神療法(特に認知行動療法)が有効であることが示されています。病気不安症という診断名は、このような治療アプローチとも整合性が高いと考えられます。

名称は変更されましたが、一般的には今も「心気症」という言葉が広く使われています。しかし、診断や治療を考える上では、DSM-5における病気不安症の定義と、それが不安障害の一種として捉えられている点を理解することが重要です。

病気不安症の主な症状と特徴

病気不安症の症状は多岐にわたりますが、その中心にあるのは「重篤な病気への強い不安」です。この不安が、さまざまな思考や行動に影響を与えます。

身体症状への過度な囚われ

病気不安症の人は、自分の体の些細な変化や感覚に極めて敏感です。健康な人であれば気にも留めないような体のサインも、重篤な病気の兆候ではないかと過度に心配します。

例えば、以下のような体の感覚や変化に過敏に反応する傾向があります。

  • 軽い痛みや不快感: 頭痛、腹痛、胸のチクチク感、筋肉のピクつきなど。
  • 体の機能: 呼吸の微妙な変化、心拍数の変動、消化音など。
  • 体の見た目: 皮膚の小さな変色、リンパ節のわずかな腫れなど。
  • 一般的な疲労やだるさ

これらの感覚は多くの人が日常的に経験するものですが、病気不安症の人にとっては、「これはがんの初期症状ではないか」「心臓病のサインに違いない」といった破局的な思考につながり、強い不安を引き起こします。一度特定の病気への不安にとらわれると、その病気に関連する身体感覚にさらに注意が向きやすくなり、不安がエスカレートするという悪循環に陥ることがよくあります。

健康関連の過剰な行動

病気への強い不安を打ち消そうとしたり、あるいは逆に不安に耐えられず、健康に関連する過剰な行動や回避行動をとることがあります。

「すぐ病気だと思ってしまう」心理

病気不安症の人の根底には、「健康でなければならない」「病気は恐ろしいものだ」といった強い思い込みや、不確実性への耐え難さがあります。また、「もし病気だったらどうしよう」という最悪の事態ばかりを想像してしまう傾向があります。このような心理状態が、些細な身体感覚を即座に重篤な病気に結びつけ、「すぐ病気だと思ってしまう」という思考パターンを生み出します。

具体的な心理の例としては:

  • 破局的思考: 小さな問題を極端に悪い結果に結びつける(例:「頭痛がするのは脳腫瘍に違いない」)。
  • 選択的注意: 自分の不安を裏付ける情報ばかりに目が行き、安心できる情報を無視する。
  • 不確実性への耐え難さ: 「大丈夫」という確証が得られない状態に耐えられず、明確な答えを求め続ける。
  • 健康への過度な責任感: 自分の健康を完璧にコントロールしなければならないと感じる。

「病気 調べて不安になる」行動

病気不安症の人によく見られる行動の一つに、インターネットや医学書で自分の身体症状や疑っている病気について過剰に調べるというものがあります。これは、病気に関する知識を得て不安を解消しようとする行動ですが、実際には逆効果になることがほとんどです。

インターネット上には様々な情報があり、中には信憑性の低いものや、軽微な症状を重篤な病気に結びつけるような情報も少なくありません。このような情報に触れることで、かえって不安が増幅され、「サイバー心気症」と呼ばれる状態に陥ることもあります。調べれば調べるほど、自分の症状が疑っている病気と一致するような気がしてしまい、不安のループから抜け出せなくなってしまいます。

その他にも、健康関連の過剰な行動としては以下が挙げられます。

  • 体の繰り返し確認: 体に異常がないか、リンパ節が腫れていないか、皮膚に変色がないかなどを頻繁に触ったり鏡を見たりして確認する。
  • 頻繁な専門家への相談: 医師だけでなく、薬剤師や健康食品の販売員など、健康に関する専門知識を持つと思われる人に繰り返し相談する。
  • 健康情報収集: テレビや雑誌の健康特集を熱心に見たり、健康に関する書籍を大量に読んだりする。

医療機関への受診行動

病気不安症における医療機関への受診行動は、両極端に分かれる特徴があります。

受診回避または過剰な受診

  1. 過剰な受診: 自分が重篤な病気であるという不安から、「早く診断を受けて治療を開始しなければ」という焦燥感に駆られ、多くの医療機関を受診したり、同じ医師に何度も繰り返し診察を求めたりします。医師が「異常なし」「心配ない」と診断しても一時的に安心するだけで、すぐにまた別の症状や、診断の見落としがあったのではないかという不安が生じ、ドクターショッピングを繰り返す傾向があります。精密検査を繰り返し受けても、結果に納得できないこともあります。
  2. 受診回避: 一方で、「もし本当に重い病気だと診断されたらどうしよう」という恐れから、医療機関への受診を避ける人もいます。体の不調を感じても、「病院に行って悪い知らせを聞かされるくらいなら、知らない方がましだ」と考えてしまい、必要な検査や診察を受けずに問題を放置してしまうことがあります。この場合、病気への不安は心の中に燻り続け、解消されることはありません。

どちらのパターンも、病気への不安が行動をコントロールしてしまっている点で共通しています。

日常生活への影響

病気不安症は、単に「心配性」というレベルを超え、日常生活に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

  • 仕事や学業への支障: 体調や病気への不安に気を取られすぎて、仕事や学業に集中できなくなることがあります。頻繁な通院や体調不良の訴えによって、欠勤や遅刻が増えたり、パフォーマンスが低下したりすることもあります。
  • 人間関係の問題: 家族や友人に対して、自分の体調や病気の心配ばかり話してしまうことで、周囲の人を疲れさせてしまったり、理解されずに孤立してしまったりすることがあります。健康な人との交流を避けたり、体のことを指摘されるのを恐れたりすることもあります。
  • 経済的な負担: 頻繁な医療機関の受診、繰り返しの検査、効果のない健康食品や民間療法への支出などが、経済的な負担となることがあります。
  • 精神的な苦痛: 常に病気への不安を抱えているため、精神的に疲弊し、抑うつや他の不安障害を併発することもあります。人生を楽しむことが難しくなり、QOL(Quality of Life:生活の質)が著しく低下します。

これらの症状や特徴は、病気不安症が単なる気の持ちようではなく、専門的な介入が必要な精神疾患であることを示しています。

病気不安症の原因

病気不安症の発症には、単一の原因があるわけではなく、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。生物学的な要因、心理的な要因、社会的な要因などが相互に影響し合って発症に至ると考えられています。

心理的・社会的な要因

  • 性格特性: 元々、心配性であったり、完璧主義であったり、不確実な状況に耐えるのが苦手な性格の人は、病気不安症になりやすい傾向があると言われています。また、ネガティブな感情を強く感じやすい人もリスクが高いと考えられます。
  • ストレス: 就職、転職、引っ越し、人間関係のトラブルなど、大きなライフイベントや継続的なストレスは、心身のバランスを崩し、健康への不安を高める引き金となることがあります。
  • トラウマ経験: 過去に自分が重篤な病気にかかった経験がある、または家族や身近な人が重い病気になったり亡くなったりした経験を持つ人は、病気に対する恐れが強くなりやすいと考えられます。特に、医療現場で怖い思いをした経験なども影響することがあります。
  • 養育環境: 子供の頃に、親や周囲の大人から健康について過度に心配されたり、病気に関するネガティブな情報を刷り込まれたりした経験も、将来的な病気不安症のリスクを高める可能性が指摘されています。
  • 健康情報の氾濫: インターネットやメディアを通じて、様々な病気に関する情報が容易に入手できる現代社会の状況も、病気不安症の発症や維持に影響を与えていると考えられます。特に、信頼性の低い情報やセンセーショナルな情報に触れることで、不必要な不安が増幅されることがあります。

過去の病気やストレス経験との関連

前述のように、過去に自分自身や家族が重い病気を経験したことは、病気不安症の重要なトリガーとなり得ます。

例えば、過去に経験した病気の症状と似たような身体感覚が現れたときに、「またあの病気が再発したのではないか」「別の重い病気にかかったのではないか」と強い不安を感じやすくなります。これは、過去の経験から「体の異変=病気」という強い関連付け(条件付け)が形成されてしまっている状態と言えます。

また、身体的な病気だけでなく、精神的なストレスや不安が強い時期に、体調不良を感じやすくなることがあります。このような心身の状態を経験することで、「ストレスや不安は体を壊す」「体の不調は心の弱さのサイン」といったネガティブな関連付けが形成され、健康への過度な心配につながることもあります。

認知の歪み

病気不安症の維持に大きく関わっているのが、「認知の歪み」と呼ばれる、現実を偏った見方で捉えてしまう思考パターンです。

病気不安症の人に characteristic な認知の歪みとしては以下が挙げられます。

認知の歪み 特徴 具体例
破局的思考 些細な出来事や症状を、最悪の事態に結びつけて考える。 「頭が少し痛いのは脳腫瘍のサインに違いない」
選択的注意 自分の不安を裏付ける情報や身体感覚だけに注意を向け、それ以外の情報を無視する。 健康に関する記事の中で、自分の症状に合致する重篤な病気の情報だけを気にする。
結論の飛躍 十分な根拠がないのに、早まった結論を出す。 軽い咳が出ただけで「肺がんになった」と断定する。
拡大解釈と過小評価 自分の症状やリスクを実際よりも大きく捉え、安心できる情報や健康状態を過小評価する。 「この胸の痛みは普通じゃない、心筋梗塞だ」と決めつけ、健康診断の結果を無視する。
感情による決めつけ 自分が不安を感じているから、それは現実であると信じ込む。 「これだけ怖いと感じるのだから、きっと私は重い病気なんだ」
完全主義的思考 健康であるためには、微塵も体調不良があってはならないと考える。 どんなに小さな体の変化も許容できず、病気ではないかと心配する。

これらの認知の歪みによって、「体の異変=重篤な病気」という自動思考が働きやすくなり、不安が増幅され、確認行動や回避行動といった不適応な行動につながります。そして、これらの行動が一時的に不安を軽減させたとしても、長期的には不安を維持・強化してしまうという悪循環を生み出します。

病気不安症の診断

病気不安症の診断は、専門家である医師(精神科医や心療内科医など)による慎重な評価に基づいて行われます。単なる心配性と区別するために、診断基準に基づいた詳細な問診や評価が必要です。

診断基準

病気不安症の診断は、前述のDSM-5に示されている診断基準を用いて行われます。医師は、患者さんの訴え、身体症状の有無や程度、健康に関する不安のレベル、健康関連の行動パターン(過剰な確認、回避、受診行動など)、不安の持続期間、そしてこれらの問題が日常生活に与えている影響などを詳しく聞き取ります。

また、身体疾患の可能性を完全に否定するために、必要に応じて身体的な検査を行うこともあります。しかし、重要なのは、身体的な検査結果が陰性であっても、不安が持続するかどうかという点です。医師は、患者さんの「重篤な病気にかかっているのではないか」という信念の強さや、それが論理的な説明によっても覆されないか、といった点を評価します。

他の精神疾患(うつ病、他の不安障害、強迫症など)との鑑別も重要です。病気不安症の中心的な問題は「病気への不安」であり、例えば強迫症のように特定の行為(手洗いなど)を繰り返すこと自体が目的ではない、あるいはパニック症のように発作そのものへの恐怖が中心ではない、といった点で異なります。ただし、これらの疾患が併存することもあります。

セルフチェックの役割と限界

インターネット上や書籍などで、病気不安症のセルフチェックリストを目にすることがあるかもしれません。これらのチェックリストは、自分が病気不安症の傾向があるかどうかを知るための目安として役立つことがあります。

例えば、「体の小さな変化に気づくと、すぐに重い病気ではないかと心配になる」「医師に『異常なし』と言われても、納得できず別の病院を受診してしまう」「病気に関する情報をインターネットで過剰に調べてしまう」といった項目に多く当てはまる場合、病気不安症の可能性があるかもしれません。

しかし、セルフチェックはあくまで自己評価であり、正式な診断に代わるものではありません。チェックリストだけで「私は病気不安症だ」と自己判断したり、逆に「当てはまらないから大丈夫」と安心しきったりするのは危険です。

セルフチェックで気になる点があった場合は、それをきっかけとして専門機関に相談することを検討しましょう。正確な診断と適切な治療方針の決定は、専門家でなければできません。安易な自己判断は、適切な治療の開始を遅らせたり、かえって不安を増幅させたりする可能性があります。

セルフチェックの役割 セルフチェックの限界
* 自分の状態について気づきを得るきっかけになる。 * 正式な診断ではない。
* 専門家への相談を検討する動機付けになる。 * 質問の解釈に主観が入り、正確な評価が難しい。
* 自分の傾向を客観的に把握する一助となる。 * 他の疾患(身体疾患、他の精神疾患)の可能性を見落とす可能性がある。
* 不安を増幅させる可能性がある。
* チェックリストだけで適切な対処法を判断することはできない。

このように、セルフチェックは自己理解のツールとしては有用ですが、その結果に一喜一憂せず、専門家の意見を求めるための第一歩として活用することが賢明です。

病気不安症の治療法

病気不安症は、適切な治療によって改善が期待できる精神疾患です。治療の主な柱は精神療法であり、必要に応じて薬物療法が併用されます。

精神療法(認知行動療法など)

病気不安症の治療において、最も有効性が確立されているのが精神療法、特に認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)です。CBTは、患者さんの抱える問題が、どのような「考え方(認知)」や「行動」のパターンによって維持されているのかを理解し、それらをより適応的なものに変えていくことを目指す治療法です。

病気不安症に対するCBTでは、以下のようなアプローチが用いられます。

  • 認知再構成法: 「体の些細な変化=重篤な病気」といった破局的な思考や、その他の認知の歪みを特定し、より現実的でバランスの取れた考え方に修正していく練習を行います。例えば、「心臓がドキドキするのは心臓病のサイン」という思考に対して、「運動したり緊張したりしても心臓はドキドキする」「心電図検査で異常がなかった」といった別の可能性や証拠を考慮に入れ、思考の柔軟性を高めます。
  • 曝露反応妨害法: 不安を引き起こす状況や身体感覚(例:胸の痛み、めまい)にあえて向き合い(曝露)、通常行う不安軽減行動(例:体の確認、過剰な検索、繰り返し受診)をとらない(反応妨害)練習を行います。これにより、「不安を感じても、その行動をとらなくても悪いことは起こらない」ということを学習し、不安の悪循環を断ち切ることを目指します。
  • 健康関連行動の修正: 過剰な医療機関への受診、インターネットでの病気検索、体の繰り返し確認といった行動を減らし、より健康的な行動パターン(例:適度な運動、リラクゼーション、趣味)に置き換えていくことを支援します。
  • 身体感覚への新たな向き合い方: 身体感覚を危険なものと捉えるのではなく、ただの感覚として受け流したり、好奇心を持って観察したりするなど、身体感覚との新しい付き合い方を学びます。
  • 不確実性への耐性を高める: 「もしかしたら病気かもしれない」という不確実な状態に耐える力を養います。「100%大丈夫」という確証は得られないことを受け入れ、それでも日常生活を送れるようになることを目指します。

CBTは通常、週1回などの頻度で、数ヶ月にわたって行われます。セラピストとの対話だけでなく、自宅での練習(宿題)も重要な要素となります。

その他にも、不安を和らげるためのリラクゼーション法(腹式呼吸、筋弛緩法など)や、マインドフルネス(今この瞬間の体験に注意を向ける練習)なども有効な場合があります。

薬物療法

精神療法が病気不安症の中心的な治療法ですが、不安や抑うつ症状が強い場合など、必要に応じて薬物療法が併用されることがあります。

病気不安症に用いられる主な薬剤は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬です。SSRIは、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの働きを調整することで、不安や抑うつ気分を軽減する効果が期待できます。SSRIは、効果が現れるまでに数週間かかるのが一般的です。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬が一時的に処方されることもありますが、依存性のリスクがあるため、長期的な使用は慎重に行われます。

薬物療法は、病気不安症そのものを「治す」というよりは、付随する強い不安や抑うつといった症状を和らげ、精神療法がより効果的に行えるようにサポートする役割が大きいと言えます。薬の種類や用量は、患者さんの症状や体質に合わせて医師が慎重に判断します。薬物療法を始める際は、効果や副作用について医師から十分な説明を受け、指示通りに服用することが重要です。

セルフケアと克服の可能性

専門的な治療に加えて、患者さん自身が行うセルフケアも、病気不安症の克服には非常に重要です。日々の生活の中で不安を管理し、健康的な習慣を身につけることが回復を後押しします。

不安への対処法

病気に関する不安が生じたときに、それをやり過ごしたり、和らげたりするための具体的な対処法を身につけることが役立ちます。

  • 呼吸法: 不安が高まると呼吸が浅く速くなりがちです。ゆっくりと深い腹式呼吸を行うことで、心拍数を落ち着かせ、リラックス効果を得られます。
  • 筋弛緩法: 体の各部分の筋肉に順番に力を入れ、その後一気に力を抜くという練習を繰り返すことで、体の緊張を和らげることができます。
  • ジャーナリング(書くこと): 不安な考えや感情を紙に書き出すことで、頭の中を整理し、客観的に眺めることができます。
  • 思考の中止: 不安な考えが頭を駆け巡り始めたら、「ストップ!」と心の中で唱えたり、手を叩いたりして、意図的に思考の流れを断ち切る練習です。その後、別の建設的な活動に注意を向けます。
  • 感覚への集中: 不安から意識をそらすために、今見えているもの、聞こえているもの、触れているものなど、五感に意識を集中させる練習です。
  • 現実検討: 不安な考えが現実に基づいているのか、証拠は何か、別の可能性はないか、といった点を冷静に考えてみます。

これらの対処法は、CBTなどの精神療法の中で具体的に学び、練習していくことが多いです。

「病気 調べない方がいい」理由とインターネットとの付き合い方

「病気 調べて不安になる」という経験は、病気不安症の人にとって非常に典型的です。この行動は短期的に「何か知らないと怖い」という気持ちを和らげるかもしれませんが、長期的に見ると不安を増幅させ、病気不安症を悪化させる大きな要因となります。

「病気 調べない方がいい」理由:

  • 情報過多と誤情報の危険性: インターネット上には玉石混淆の情報が溢れており、素人が正しい情報を見極めるのは困難です。軽微な症状を重篤な病気に結びつけるような、不安を煽る情報に触れるリスクが高いです。
  • 選択的注意の強化: 自分の不安に合致するネガティブな情報ばかりに目が行きやすくなり、かえって「やはり私は病気だ」という信念が強まります。
  • 自己診断の危険性: 医療の専門知識がないにもかかわらず、インターネット上の情報だけで自己診断を試みることは非常に危険です。正確な診断は専門家でなければできません。
  • 不安の悪循環: 調べれば調べるほど不安が増し、さらに調べるという悪循環に陥り、時間や精神力を消耗します。

インターネットとの健康的な付き合い方:

  • 情報収集の制限: 症状に関する情報検索の時間を制限する、または完全にやめることを試みましょう。
  • 信頼できる情報源の利用: やむを得ず情報を参照する場合でも、公的機関(厚生労働省など)、信頼できる医療機関、専門家団体などが提供する、根拠に基づいた情報源を利用するように心がけましょう。
  • 一次情報への回帰: 個人の体験談や非専門家によるまとめサイトではなく、専門家が執筆した論文や書籍、公式な医療情報サイトなどを優先しましょう。
  • 専門家への相談: 症状や健康に関する疑問が生じたら、インターネットで検索するのではなく、医師や薬剤師などの専門家に相談することを習慣にしましょう。

インターネットでの情報収集を完全にやめることは難しいかもしれませんが、その頻度や内容をコントロールすることは、不安を軽減するために非常に有効なステップです。

治療による改善事例(「治った」関連)

病気不安症は慢性化しやすい側面もありますが、適切な治療を受けることで多くの人が症状の改善を経験し、回復に至ることが可能です。「治った」と感じるレベルは人それぞれですが、多くの場合、以下のような変化が見られます。

  • 不安の軽減: 重篤な病気への過度な不安が和らぎ、身体症状へのとらわれが減少します。
  • 健康関連行動の変化: 過剰な確認や検索、不必要な医療機関への受診が減り、より適応的な行動が増えます。
  • 認知の変化: 破局的な思考が減り、身体感覚や健康状態をより現実的に捉えられるようになります。不確実性への耐性が高まります。
  • QOLの向上: 不安に支配される時間が減り、仕事、人間関係、趣味などにエネルギーを向けられるようになります。精神的な苦痛が軽減され、人生を楽しむ余裕が生まれます。

回復のプロセスは人によって異なり、一進一退を繰り返すこともあります。しかし、根気強く治療に取り組み、セルフケアを継続することで、不安に振り回されない、より自由な生活を取り戻すことは十分に可能です。完全に不安がゼロになるわけではなくても、不安を感じてもそれを管理できるようになり、日常生活に支障が出ないレベルにまで改善することは現実的な目標です。

専門機関への相談を検討しましょう

もしあなたが、あるいはあなたの周りの大切な人が、この記事で解説した病気不安症の症状や特徴に心当たりがあり、日常生活に支障が出ていると感じるなら、一人で悩まずに専門機関に相談することを強くお勧めします。

病気不安症は、自分自身の力だけで克服するのが非常に難しい精神疾患です。適切な診断と治療を受けることが、回復への最も確実な道です。

相談先としては、以下のような専門機関が考えられます。

  • 精神科・心療内科: 精神疾患や心身の不調を専門とする医師が診察・治療を行います。病気不安症の診断や薬物療法、精神療法(CBTなど)の提供が可能です。まずは地域の精神科や心療内科を探して予約してみましょう。
  • 公認心理師・臨床心理士: 精神療法(カウンセリング)を専門とする資格を持った専門家です。医療機関に所属している場合や、民間のカウンセリングルームで活動している場合があります。CBTなどの精神療法を希望する場合に相談できますが、診断や薬の処方は医師のみが行えるため、医師との連携が可能な機関を選ぶのが望ましいでしょう。
  • 精神保健福祉センター: 各都道府県や政令指定都市に設置されている公的な機関です。心の健康に関する相談を受け付けており、精神保健福祉士などの専門職が相談に乗ってくれます。どのような医療機関や支援機関があるか、といった情報提供も行っています。
  • こころの健康相談統一ダイヤル: 厚生労働省が運営する、心の健康問題に関する相談窓口です。電話で気軽に相談することができます。

専門機関に相談する際のポイント:

  • 正直に話す: 些細に思えることでも、感じている不安や身体症状、それに対する行動などを正直に伝えましょう。
  • 聞きたいことを整理しておく: 自分の状態について知りたいこと、治療法について聞きたいことなどを事前にメモしておくと良いでしょう。
  • 診断や治療について理解を求める: 診断名がついた場合、それがどのような状態なのか、なぜその治療法が推奨されるのかなど、納得できるまで説明を求めましょう。

病気不安症は、早期に適切な介入を行うことで、それ以上悪化するのを防ぎ、回復を早めることができます。「気のせいだ」「そのうち治るだろう」と放置せず、一歩踏み出して相談してみることが大切です。専門家のサポートを得ながら、不安に囚われない、より健康的な心の状態を取り戻していきましょう。

免責事項

本記事は病気不安症に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的診断や治療に関する助言を行うものではありません。ご自身の状態について懸念がある場合は、必ず医療機関を受診し、専門家の診断と指導を受けてください。本記事の情報を利用されたことによって生じるいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いかねます。

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