ギャンブル依存症とはどんな病気?やめられない状態・特徴を解説

ギャンブル依存症とは、単なる癖や趣味の範疇を超え、自分の意志だけではコントロールできなくなる精神疾患です。厚生労働省も依存症対策として取り組んでおり、適切な治療や支援を受けることで回復が可能です。この記事では、ギャンブル依存症の定義から症状、原因、本人や家族への影響、そして回復への道筋や相談先まで、専門的な知見に基づきながら分かりやすく解説します。
ご自身や大切な人がギャンブルの問題を抱えているかもしれないと感じている方は、ぜひ最後までお読みください。一人で悩まず、支援につながる第一歩となることを願っています。

ギャンブル依存症とは

ギャンブル依存症は、正式名称を「ギャンブル障害」または「病的賭博」といい、進行性の精神疾患です。特定の種類の行動(この場合はギャンブル)をすることで得られる快感や興奮、あるいは苦痛からの逃避といった心理的な動機が、脳内の報酬系に異常な働きかけを繰り返し、その行動への衝動を抑えられなくなる状態を指します。

これは、アルコールや薬物といった物質への依存症と同様に、脳の機能に変化が生じる病気です。単に意志が弱いから、とか、道徳心がないから、といった個人的な問題として片付けられるものではありません。適切な治療や支援を受ければ、回復を目指すことができます。

ギャンブル依存症の定義と病態

国際的な診断基準であるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)やICD-11(国際疾病分類第11版)において、ギャンブル依存症は「嗜癖行動による障害(行動嗜癖)」の一つとして位置づけられています。これは、物質を使用しなくても、特定の行動への依存が生じる病気があることを示しています。

病態としては、ギャンブルをすることで脳内の快楽物質であるドーパミンが過剰に放出され、強い快感を得られることに端を発します。この快感を繰り返し体験することで、脳の報酬系がギャンブルをすることに強く反応するようになり、他の活動から得られる快感では満足できなくなっていきます。同時に、衝動を制御する前頭前野の機能が低下し、「やめたいのにやめられない」という状態に陥ります。

さらに、負けて失ったお金を取り戻そうとする「追いかけ行為(負けを取り戻そうとしてさらに賭け続けること)」が問題を深刻化させます。この行為は、一時的に失われたものを回復できるかもしれないという期待感を生み出し、再びドーパミンを放出させるため、依存のサイクルを強化します。ギャンブルから離れると、イライラや不安といった離脱症状が現れることもあり、これを避けるためにさらにギャンブルに没頭するという悪循環に陥ることもあります。

ギャンブル依存症の主な症状と特徴

ギャンブル依存症の症状は多岐にわたり、時間とともに進行していく特徴があります。国際的な診断基準では、特定の期間内にいくつかの項目に当てはまるかどうかで診断されます。

診断基準から見る症状

DSM-5では、過去12ヶ月間に以下の9項目のうち4つ以上に該当する場合に「ギャンブル障害」と診断される可能性があります。

  • 多額の金銭を得るために多額を賭ける必要性:満足を得るために、これまでよりも多額のお金を賭けなければならない。
  • 不穏または易怒性:ギャンブルを控えようとすると、落ち着かなくなったり、イライラしたりする。
  • 不成功に終わった繰り返し努力:ギャンブルをする衝動を抑えようと、何度も試みるがうまくいかない。
  • ギャンブルのことばかり考える:常にギャンブルのことで頭がいっぱいになり、次のギャンブルの計画を立てたり、過去のギャンブルの経験を思い出したりする。
  • 苦痛な気分を和らげるためにギャンブルをする:不安、罪悪感、無力感、抑うつなどのつらい感情から逃れるためにギャンブルをする。
  • 負けを取り戻そうとする「追いかけ行為」:ギャンブルで負けたお金を取り戻すために、さらにギャンブルを続ける。
  • ギャンブル行動を隠すための嘘:家族や治療者に対し、ギャンブルへの関与の程度を隠すために嘘をつく。
  • ギャンブル資金を得るための違法行為:ギャンブルをするため、または借金を返すために、窃盗、詐欺、横領などの違法行為を働く。
  • 人間関係や仕事などの危機:ギャンブルのために、大切な人間関係、仕事、学業、キャリア形成の機会を失ったり危うくしたりする。
  • 借金の肩代わりを期待する:ギャンブルによる深刻な金銭的問題を、他人(家族や友人など)が解決してくれることを期待する。

これらの症状が複数見られる場合、専門家による診断が必要です。

進行段階別の症状(初期・中期・末期)

ギャンブル依存症は、多くの場合、段階を経て進行します。

  • 初期(勝ち始める段階)
    初めてギャンブルで勝つことで、強い高揚感や自信を得ます。「自分には才能がある」「これで人生が変わる」と感じ、ギャンブルへの関心が高まります。まだ問題を抱えているという自覚はほとんどありません。ギャンブルの頻度や金額が増え始めますが、コントロールできていると感じています。
  • 中期(負けが続く段階)
    勝ち続けることは難しくなり、負けが込み始めます。負けたお金を取り戻そうとする「追いかけ行為」が始まり、さらに損失が膨らみます。ギャンブルの頻度や時間がエスカレートし、生活の中心になり始めます。借金が始まり、家族や周囲に隠し事をすることが増えます。精神的な苦痛を感じ始めますが、「次こそは勝てるはず」という考えに囚われ、やめられません。
  • 末期(破滅の段階)
    借金が雪だるま式に増え、経済的に破綻します。家族や友人からの信頼を完全に失い、人間関係が崩壊します。仕事や学業も手につかなくなり、職を失うこともあります。精神的にも追い詰められ、うつ病や不安障害を併発したり、自殺を考えることもあります。ギャンブル資金を得るために犯罪に手を染めるリスクも高まります。この段階では、自力での回復は極めて困難であり、専門的な治療が不可欠です。

精神的・身体的なサイン(顔つきなど)

ギャンブル依存症が進行すると、精神的・身体的な変化が現れることがあります。

  • 精神的なサイン:
    ギャンブルができない時の強いイライラ、落ち着きのなさ
    不安感、抑うつ感、無気力
    罪悪感、自己嫌悪
    集中力の低下
    睡眠障害(不眠、寝つきが悪いなど)
    衝動性の増加
    秘密主義になり、感情を隠す
  • 身体的なサイン:
    顔色が悪い、青白い
    目の下にクマができる
    やつれた顔つき、疲労感
    体重の増減(ストレスによる過食や拒食)
    身だしなみに無頓着になる
    原因不明の体の不調(頭痛、胃痛など)
    ギャンブル中の極度の緊張や興奮による体の変化(手の震え、発汗など)

特に、借金や嘘、隠し事からくるストレスは、顔つきや全体の雰囲気に現れることがあります。常にどこか不安げで、目が泳ぐような様子が見られることもあります。

思考や行動の偏り

ギャンブル依存症の人は、独特の思考パターンや行動の偏りを示すことがよくあります。

  • 認知の歪み:
    ギャンブラーの誤謬: 「そろそろ当たるはずだ」「負けが続いているから、次は必ず勝てる」といった、確率的に根拠のない考え方。
    コントロール幻想: 自分の技術や特定のジンクス、オカルトなどでギャンブルの結果をコントロールできると思い込む。
    楽観的バイアス: 自分が他の人よりも幸運である、自分は依存症にはならないと過度に楽観的に考える。
    選択的記憶: ギャンブルで勝った経験だけを強く記憶し、負けた経験を軽視したり忘れたりする。
  • 行動の偏り:
    借金: ギャンブル資金のために、消費者金融、友人、家族など様々なところから借金を繰り返す。
    嘘・隠蔽: ギャンブルの事実や借金の額を隠すために嘘をつく。金銭のやりくりを隠す。
    時間の浪費: ギャンブルに費やす時間が異常に長くなり、他の重要な活動がおろそかになる。
    重要な活動の中止: ギャンブルのために、仕事、学業、趣味、家族との時間などを犠牲にする。
    社会的孤立: ギャンブルに没頭するあまり、友人との交流や社会的なつながりが希薄になる。
    法的な問題: ギャンブル資金や借金返済のために犯罪に手を染める。

これらの思考や行動は依存症によって引き起こされるものであり、本人だけの努力で修正することは困難です。専門的な治療や支援を通じて、これらの歪みを認識し、健全な思考や行動パターンを学ぶ必要があります。

ギャンブル依存症になる原因と背景

ギャンブル依存症の原因は一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。「生物学的要因」「心理学的要因」「社会的・環境的要因」が互いに影響し合います。

生物学的要因

脳の機能、特に報酬系と呼ばれる部分の働きが関与していると考えられています。ギャンブルをすることで脳内の神経伝達物質であるドーパミンが大量に放出され、強い快感が生じます。依存症になる人は、この報酬系が過剰に反応しやすかったり、快感に対する耐性がつきやすかったりする可能性があります。また、衝動性やリスクを追求する傾向に関わる脳の機能の違いも指摘されています。遺伝的な要因も影響すると考えられており、家族に依存症の人がいる場合、発症リスクが高まるという研究結果もあります。ただし、遺伝だけで決まるわけではありません。

心理学的要因

個人の性格や心理的な状態も、依存症の発症に影響します。

  • ストレスからの逃避: 日常生活でのストレス、不安、抑うつ、孤独感などを紛らわすためにギャンブルに没頭する。
  • 自己肯定感の低さ: ギャンブルでの勝利によって一時的な高揚感や自己有能感を得ようとする。
  • 刺激や高揚感の追求: 平凡な日常に退屈を感じ、ギャンブルのスリルや興奮に強い魅力を感じる。
  • 衝動性の高さ: 計画性がなく、思いつきで行動しやすい傾向がある。
  • 認知の歪み: 前述したような、ギャンブルに関する非合理的な思考パターンを持ちやすい。

過去のトラウマやネガティブな経験(幼少期の虐待、喪失体験など)が、感情の調整が難しくなり、依存行動に繋がりやすいという指摘もあります。

社会的・環境的要因(幼少期の経験など)

育ってきた環境や社会的な要因も大きく関わります。

  • 家族や友人の影響: 身近にギャンブルをする人がいたり、依存症の人がいる環境で育ったりした場合、ギャンブルへの抵抗感が低くなることがあります。
  • ギャンブルへのアクセスの容易さ: パチンコ店、競馬場、競輪場など、ギャンブルができる場所が身近にあること。特に最近では、インターネットやスマートフォンを通じて簡単にアクセスできるオンラインギャンブルの普及も大きな要因となっています。
  • 経済的な困窮や失業: 将来への不安や生活苦から、一攫千金を夢見てギャンブルに手を出してしまうことがあります。
  • 社会的な孤立: 所属するコミュニティがなく、孤独を感じている人が、ギャンブルの場を居場所としてしまったり、オンラインギャンブルに没頭したりする場合があります。
  • 幼少期の逆境経験: 安定した家庭環境で育たなかった、愛情やサポートが不足していた、虐待を受けたなどの経験が、その後のストレス耐性や感情調整能力に影響を与え、依存症リスクを高める可能性が指摘されています。

これらの要因が単独で作用するのではなく、個人の生物学的・心理的な脆弱性と、社会環境的なストレスや機会が組み合わさることで、ギャンブル依存症が発症・進行すると考えられます。

なりやすい人の特徴

これまでの要因を踏まえると、ギャンブル依存症になりやすい傾向がある人には、以下のような特徴が見られることがあります。ただし、これらの特徴があるからといって必ず依存症になるわけではなく、あくまで傾向です。

  • 衝動的でリスクを恐れない傾向
  • 新しい刺激を強く求める傾向
  • 自己肯定感が低く、自信がない
  • 感情のコントロールが苦手
  • 現実逃避の傾向がある
  • 楽観的すぎる、または悲観的すぎる
  • 完璧主義で、失敗を受け入れにくい
  • ストレス耐性が低い
  • 人間関係を築くのが苦手、または孤独を感じやすい
  • 家族に依存症の人がいる
  • 幼少期に不安定な経験やトラウマがある

これらの特徴に心当たりがある場合、ギャンブルを始める際に注意が必要です。既にギャンブルをしている場合は、問題を早期に認識し、対策を講じることが重要になります。

ギャンブル依存症が引き起こす問題と影響

ギャンブル依存症は、本人の人生だけでなく、その周囲の人々、特に家族に甚大な被害をもたらします。問題は金銭的なものに留まらず、精神、健康、人間関係、さらには法的な問題にまで及びます。

経済的な破綻

ギャンブル依存症の最も顕著な問題の一つは、経済的な破綻です。

  • 借金の増大: 負けたお金を取り戻そうとして借金を繰り返し、雪だるま式に増えていきます。消費者金融、親族、友人など、様々なところから借り入れ、自転車操業に陥ります。
  • 生活費の困窮: ギャンブル資金を捻出するために、食費や家賃、光熱費などの生活費を削り、最低限の生活も困難になることがあります。
  • 資産の喪失: 貯金、車、家などの資産をギャンブル資金や借金返済のために手放すことになります。
  • 自己破産: 借金の額が返済能力をはるかに超え、自己破産を選択せざるを得なくなるケースも少なくありません。
  • 家族への経済的負担: 本人の借金を家族が肩代わりしたり、家族の貯金や資産がギャンブルのために失われたりします。家族が経済的に困窮し、生活が成り立たなくなることもあります。

経済的な問題は、他の様々な問題の引き金となります。金銭の取り立てや返済のプレッシャーは、本人の精神状態をさらに悪化させます。

精神的健康への影響

ギャンブル依存症は、本人の精神的健康を著しく損ないます。

  • 抑うつ: 借金や人間関係の問題、将来への絶望感から、強い抑うつ状態に陥ることがあります。気分の落ち込み、無気力、興味・関心の喪失といった症状が現れます。
  • 不安障害: 返済へのプレッシャー、嘘がばれることへの恐怖、ギャンブルへの強い衝動などから、常に不安を感じるようになります。パニック発作を起こすこともあります。
  • 不眠: ギャンブルのこと、借金のこと、将来への不安などで頭がいっぱいになり、眠れなくなります。
  • 薬物・アルコール依存の併発: 精神的な苦痛から逃れるため、アルコールや薬物に手を出してしまい、多重依存に陥るリスクがあります。
  • 自殺企図: 経済的、精神的に追い詰められ、「もう生きていても仕方がない」と感じ、自殺を考える、または実行しようとすることがあります。これはギャンブル依存症の深刻な結果の一つです。

これらの精神的な問題は、さらにギャンブルへの依存を深める悪循環を生み出します。精神状態が悪化すると、現実的な判断ができなくなり、ますますギャンブルにのめり込んでしまいます。

家族・人間関係の悪化

ギャンブル依存症は、家族や友人との関係を破壊します。

  • 信頼の喪失: ギャンブルの事実や借金を隠すための嘘、約束の破り行為が繰り返されることで、家族や友人からの信頼を完全に失います。
  • 家族間の対立: 金銭問題、嘘、隠し事を巡って、家族間で激しい口論や衝突が頻繁に起こります。
  • 家庭崩壊: 借金問題や度重なるトラブルにより、離婚や別居に至るケースが多くあります。
  • 共依存: 家族が本人の問題行動を隠したり、借金を肩代わりしたりすることで、結果的に依存症の進行を助長してしまう「共依存」という状態に陥ることがあります。家族自身も精神的に追い詰められてしまいます。
  • 子供への影響: 親のギャンブル問題は、子供の心に深い傷を残します。経済的な困窮、家庭内の不和、親からのネグレクトなどは、子供の成長に悪影響を与えます。
  • 友人関係の断絶: ギャンブルへの誘いを断ったり、借金を断ったりすることで、友人との関係が壊れてしまうことがあります。また、ギャンブルに没頭するあまり、友人との付き合いがおろそかになることもあります。

家族や大切な人との絆が失われることは、依存症からの回復を目指す上で大きな障壁となります。しかし、家族もまた被害者であり、適切な支援が必要です。

法的問題

ギャンブル依存症が進行すると、法的な問題に巻き込まれるリスクが高まります。

  • 窃盗・横領: ギャンブル資金や借金返済のために、会社の金銭を横領したり、他人の物を盗んだりすることがあります。
  • 詐欺: 嘘をついてお金を騙し取ったり、返済能力がないのに借金をしたりすることがあります。
  • 傷害・暴行: 借金取りからの暴力や、家族との金銭トラブルから、傷害事件や暴行事件を起こすこともあります。
  • 逮捕・起訴: これらの犯罪行為によって、逮捕され、裁判となり、刑務所に収監されることになります。

犯罪に手を染めることは、本人の社会的な信用を完全に失わせるだけでなく、刑罰を受けることになり、回復への道をさらに困難にします。また、被害者となった人々にも深刻な影響を与えます。

ギャンブル依存症の治療と回復への道

ギャンブル依存症は治らない病気ではなく、適切な治療と継続的な回復の努力によって、依存行動をコントロールし、健康的な生活を取り戻すことが十分に可能です。回復は一朝一夕に達成されるものではなく、長期的なプロセスであることを理解することが重要です。

治療方法の選択肢(心理療法、薬物療法)

ギャンブル依存症の治療は、主に心理療法が中心となりますが、必要に応じて薬物療法や環境調整も行われます。

  • 心理療法:
    認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy): ギャンブルに関する歪んだ考え方(認知の歪み)を特定し、それを修正していくことで、ギャンブルへの衝動を管理し、代替行動を学ぶための治療法です。「次こそ勝てる」「負けを取り戻さなければならない」といった考え方を変え、「負けたら終わり」「借金は増えるだけ」といった現実的な考え方を身につけることを目指します。
    動機づけ面接(MI: Motivational Interviewing): 本人が変化したいという内発的な動機を引き出し、強化するための面接技法です。本人の葛藤に寄り添いながら、依存行動を続けることのデメリットと、回復への変化を選ぶことのメリットを一緒に考えていきます。
    集団療法: 同じ問題を抱える人たちと経験や感情を共有し、互いに支え合いながら回復を目指す治療法です。孤独感の解消や、自分だけではないという安心感を得られます。
  • 薬物療法:
    ギャンブル依存症そのものに直接効果のある特効薬は現在のところありません。しかし、ギャンブル依存症に併発しやすい抑うつや不安、衝動性を抑えるために、抗うつ薬や抗不安薬、気分安定薬などが処方されることがあります。また、一部の薬物(例えば、オピオイド拮抗薬など)がギャンブルへの渇望感を軽減する効果があるという研究もありますが、まだ一般的ではありません。薬物療法は、あくまで心理療法を補助する役割として行われることが多いです。

専門機関での治療

ギャンブル依存症の治療は、専門的な知識と経験を持った医療機関や施設で行われます。

  • 精神科・心療内科: 依存症を専門とする医師(精神科医)や、臨床心理士、精神保健福祉士などが在籍する病院やクリニックで診察・治療を受けることができます。診断基準に基づいた診断、薬物療法、心理療法(個人・集団)が提供されます。
  • 依存症専門医療機関: ギャンブル依存症を含む様々な依存症に特化した治療プログラムを提供している医療機関です。より集中的な治療を受けられる場合があります。
  • 入院治療: 依存症が重度で、自力でのコントロールが困難な場合、または併発する精神疾患が重い場合などには、入院して集中的な治療を受けることが推奨されます。安全な環境でギャンブルから完全に隔離され、集団療法や個人療法、作業療法などを通じて回復の基礎を築きます。
  • デイケア/ナイトケア: 入院までは必要ないが、規則正しい生活や日中の活動、仲間との交流が必要な場合などに利用されます。日中または夜間に施設に通い、プログラムに参加します。
  • 回復支援施設: 医療機関での急性期治療を終えた人が、社会生活に戻る準備をするための施設です。同じ目標を持つ仲間と共に共同生活を送りながら、規則正しい生活習慣を身につけたり、回復のためのスキルを磨いたりします。

専門機関での治療は、依存症を病気として捉え、科学的根拠に基づいたアプローチで行われる点が重要です。まずは専門の医師に相談し、自身の状態に合った治療計画を立てることが回復への第一歩となります。

自助グループの活用

ギャンブル依存症からの回復において、自助グループは非常に重要な役割を果たします。

  • GA(Gamblers Anonymous:ギャンブラーズ・アノニマス): ギャンブルの問題を抱える人たちのための国際的な自助グループです。ミーティングでは、同じ経験を持つ仲間たちが集まり、自身の体験や気持ちをonymously(匿名で)語り合います。GAの回復プログラム(12ステッププログラムなど)に取り組み、ギャンブルをしない一日を積み重ねることを目指します。ミーティングへの参加は無料であり、参加資格は「ギャンブルをやめたいという気持ちがあること」だけです。
  • ギャマノン(Gam-Anon): ギャンブル依存症者の家族や友人のための自助グループです。依存症者の問題に巻き込まれ、心身ともに疲れ果てている家族が、自身の経験を共有し、互いに支え合います。依存症者本人をコントロールしようとするのではなく、家族自身が回復し、平穏を取り戻すことを目指します。

自助グループの最大のメリットは、同じ問題を抱える仲間と繋がれることです。孤立しがちな依存症の回復において、自分一人ではない、理解してくれる人がいるという安心感は何物にも代えがたい力となります。また、自助グループは回復のための知恵や経験の宝庫であり、ミーティングに継続的に参加することで、回復を維持するためのスキルや考え方を学ぶことができます。専門機関での治療と並行して、または治療を終えた後の回復の継続のために、積極的に活用することが推奨されます。

家族ができること(やめさせるには)

ギャンブル依存症は本人だけの問題ではなく、家族もまた深い苦しみを抱えます。「どうすれば本人にギャンブルをやめさせられるか」と悩む家族は多いですが、家族の力だけで本人にギャンブルをやめさせることはできません。依存症は病気であり、本人が治療を受け入れることが回復の出発点となります。しかし、家族が適切に対応することで、本人が治療に繋がる可能性を高め、また家族自身の苦しみを軽減することができます。

家族ができる主なことは以下の通りです。

  • 依存症について学ぶ: ギャンブル依存症が病気であること、回復が可能であることを理解する。本人の言動が病気によるものであると理解することで、感情的に巻き込まれすぎることを避けられます。
  • 金銭管理を本人に任せない: 借金の肩代わりは、一時的に問題を解決するように見えますが、結果的に本人の依存行動を助長してしまうことがほとんどです。借金の肩代わりはしないと決め、金銭管理(給与、生活費など)を家族が行うことを検討します。本人がお金にアクセスできない環境を作ることは非常に重要です。
  • 嘘や言い訳に毅然と対応する: 本人はギャンブルの事実や借金を隠すために嘘をついたり、様々な言い訳をしたりします。感情的に責めるのではなく、「あなたの言っていることは真実ではない」「私たちはあなたの嘘を受け入れることはできない」と冷静に、しかし毅然とした態度で伝えます。
  • 「やめさせる」を諦める: 本人を直接的にコントロールしようとすることは、家族にとっても本人にとっても負担となります。「やめさせる」ことではなく、「本人が治療を受ける」こと、そして「家族自身の生活と精神的な健康を守る」ことに焦点を移します。
  • 家族自身が相談機関や自助グループに繋がる: ギャンブル依存症の影響は家族にも及びます。家族だけで抱え込まず、精神保健福祉センターや依存症専門医療機関の家族相談、またはギャマノンなどの家族向け自助グループに相談することが非常に重要です。同じ経験を持つ家族と話すことで、孤独感が和らぎ、具体的な対処法や、共依存にならないための方法を学べます。
  • 具体的な「行動への働きかけ」を行う: 本人が治療の必要性を認識しない場合でも、家族が専門機関に相談し、専門家のアドバイスを得ながら、本人に治療を促す働きかけ(例:家族で話し合いの場を持つ、診断基準や病気に関する情報を伝えるなど)を行うことが有効な場合があります。ただし、これは専門家のサポートのもとで行うことが望ましいです。

家族が自身の健康と生活を守ることは、本人にとっても最終的に回復への希望に繋がります。 家族が壊れてしまっては、本人も回復の場所を失ってしまうからです。

克服した人の事例

(ここでは、克服した人のフィクションの事例を紹介します。)

山田さん(仮名、50代男性)は、30代からパチンコを始め、次第にのめり込んでいきました。最初は軽い気持ちでしたが、勝った時の興奮が忘れられず、負けると取り戻そうと必死になりました。消費者金融から借金を繰り返し、その額は数百万円に膨れ上がりました。妻や子供に嘘をつき、隠し事を続けるうちに、家庭内での会話はなくなり、信頼関係はズタズタになりました。給料は借金返済とギャンブルに消え、生活は困窮しました。

ある日、借金が返せなくなり、妻に全てを打ち明けたところ、「もう我慢できない」と離婚を突きつけられました。子供たちからも軽蔑の目で見られ、生まれて初めて「このままでは全てを失う」という強い危機感を抱きました。

妻に勧められ、地元の精神保健福祉センターに相談に行きました。そこでギャンブル依存症が病気であると知り、依存症専門の医療機関を紹介されました。最初は「自分が病気なはずがない」と抵抗がありましたが、医師やカウンセラーの話を聞くうちに、これまでの自分の行動が病気によるものであったことを認めざるを得ませんでした。

医療機関では、認知行動療法を中心としたプログラムに参加し、なぜ自分がギャンブルに依存するのか、ギャンブルに関する自分の考え方にどのような歪みがあるのかを学びました。同時に、GAのミーティングにも参加を始めました。最初は緊張しましたが、そこで出会った仲間たちが、自分の経験や苦しみを理解し、共感してくれたことで、初めて心を開くことができました。ミーティングで自身の体験を語るうちに、抱えていた罪悪感や孤独感が少しずつ和らぎました。

回復の過程は決して平坦ではありませんでした。ギャンブルへの強い衝動に襲われることもありましたが、ミーティングの仲間やスポンサー(回復をサポートしてくれる先輩)に連絡することで乗り越えることができました。金銭管理は当面、妻に任せました。

回復が進むにつれて、失われた家族との関係も少しずつ修復されていきました。妻はギャマノンに参加し、依存症について学び、自分自身の回復にも取り組みました。子供たちも、父親が真剣に回復に取り組む姿を見て、再び心を開いてくれるようになりました。

回復から数年が経った今、山田さんはギャンブルをしていません。ギャンブルに使っていた時間やお金を、家族との時間、健康的な趣味、そしてGAでのボランティア活動に使うようになりました。経済的な問題はまだ完全には解決していませんが、専門家や家族と協力しながら、着実に返済を進めています。「ギャンブルをしていた頃は、生きている心地がしなかった。今は大変なこともあるけれど、家族と笑い合える普通の日常が、何よりも大切だと感じています」と語っています。

この事例のように、ギャンブル依存症からの回復は困難ですが、適切な支援を受けることで、健全な生活を取り戻すことは十分に可能です。重要なのは、問題を認め、助けを求める勇気を持つことです。

ギャンブル依存症に関する相談先

ギャンブル依存症かもしれない、あるいは家族が問題を抱えている場合、一人で悩まず、専門機関や相談窓口に連絡することが非常に重要です。様々な相談先があり、それぞれの役割や特徴が異なります。

相談先 主な役割・サービス どのような人におすすめか 連絡先例
保健所・精神保健福祉センター 依存症に関する一般的な相談、情報提供、医療機関や自助グループの紹介。専門的な相談支援も行う。 まずどこに相談して良いか分からない人、家族が相談したい人。 各自治体の保健所・精神保健福祉センターに問い合わせ(HPなどで確認)
依存症専門医療機関 医師による診断・治療(薬物療法、心理療法、入院治療など)。 診断を受けたい人、専門的な治療を受けたい人。 厚生労働省のHPなどで「依存症専門医療機関」を検索
回復支援施設 医療機関での治療後、社会生活に戻るためのリハビリや共同生活支援。 入院治療後、回復を継続するための環境を探している人。 各施設のHPなどで確認(専門医療機関からの紹介の場合もある)
GA(ギャンブラーズ・アノニマス) ギャンブルをやめたい当事者のための自助グループ。ミーティング参加。プログラム実践。 ギャンブルをやめたいという強い気持ちがある当事者。 GA日本インフォメーションセンターのHPなどでミーティング会場・時間を検索(匿名参加)
ギャマノン(Gam-Anon) ギャンブル依存症者の家族・友人のための自助グループ。ミーティング参加。 ギャンブル依存症者の家族や友人。 ギャマノン日本のHPなどでミーティング会場・時間を検索(匿名参加)
NPO法人 全国ギャンブル依存症家族の会 家族向けの相談会、セミナー、情報提供。家族が回復するための支援。 ギャンブル依存症者の家族。 各支部の連絡先を会のHPなどで確認
消費生活センター 借金や多重債務に関する相談、弁護士などの専門家への橋渡し。 借金問題で困っている人、法的なアドバイスが必要な人。 全国の消費生活センターに問い合わせ(「188」に電話すると最寄りの消費生活センターに繋がる)
法テラス(日本司法支援センター) 法的なトラブル(借金、犯罪など)に関する情報提供、弁護士・司法書士の紹介。 法的な問題(借金、犯罪など)を抱えている人、法的なアドバイスが必要な人。 法テラスのHPなどで問い合わせ先を検索

どこに相談すれば良いか迷う場合は、まずはお住まいの地域の保健所や精神保健福祉センターに連絡してみるのが良いでしょう。匿名での相談も可能です。専門家が、あなたの状況を聞き取り、適切な窓口や支援策を案内してくれます。

大切なのは、問題を一人で抱え込まないことです。勇気を出して一歩踏み出し、支援を求めることが、回復への始まりとなります。

ギャンブル依存症についてよくある質問

ギャンブル依存症と単なる遊びの違いは?

ギャンブル依存症と単なるギャンブルを趣味として楽しむことの間には、明確な違いがあります。主な違いは、コントロールが可能かどうか問題を引き起こしてもやめられないか金銭的な損失や他の問題にもかかわらず続けるかという点です。

趣味としてギャンブルを楽しむ人は、使う金額や時間に上限を設けることができ、負けても深追いしません。ギャンブル以外の生活(仕事、家族、趣味など)も大切にし、ギャンブルが原因で借金や人間関係の悪化といった問題が生じることはありません。

一方、ギャンブル依存症の人は、これらのコントロールができず、「やめたいのにやめられない」状態に陥っています。ギャンブルによって生活に深刻な悪影響が出ていても、ギャンブルを続けることが止められません。これは病気であり、個人の意志の強弱の問題ではありません。

ギャンブル依存症は意志が弱いだけ?

いいえ、ギャンブル依存症は意志が弱いからなる病気ではありません。前述の通り、脳の報酬系や衝動性の制御に関わる機能に変化が生じる精神疾患です。本人の努力や根性だけで克服することは極めて困難であり、専門的な治療と支援が必要となります。

「意志が弱い」という誤解は、依存症を抱える人をさらに苦しめ、助けを求めることを妨げてしまいます。依存症は誰でもかかる可能性のある病気であり、適切なサポートを受けることが回復への道です。

ギャンブル依存症は治りますか?

はい、ギャンブル依存症は適切な治療と継続的な回復の努力によって回復が可能な病気です。「治る」という言葉が「二度とギャンブルをしたくなくなる」という意味であれば難しいかもしれませんが、「ギャンブルへの衝動をコントロールし、健康的な生活を送れるようになる」という意味であれば、多くの人が回復を達成しています。

回復は、単にギャンブルをやめることだけでなく、ギャンブルに代わる健康的なストレス対処法を身につけたり、失われた人間関係を修復したり、自己肯定感を高めたりするなど、自身の人生全体を立て直していくプロセスです。専門家のサポートや自助グループの仲間との繋がりが、この回復プロセスを力強く支えてくれます。諦めずに支援を求め、回復への一歩を踏み出すことが大切です。

家族は本人をどう支えればいいですか?

ギャンブル依存症の本人を支えることは、家族にとって非常に困難な課題です。家族は、本人を直接的にコントロールしようとせず、「病気からの回復を支える」という姿勢に立つことが重要です。具体的な支援としては、以下の点が挙げられます。

  • ギャンブル依存症について正しく理解する。
  • 金銭管理を本人に任せない、借金の肩代わりはしないなど、毅然とした態度で接する。
  • 嘘や言い訳を受け入れず、事実に基づいて冷静に話し合う。
  • 本人に専門機関への相談や受診を促す。
  • 最も重要なこととして、家族自身が孤立せず、精神保健福祉センターやギャマノンなどの家族向け相談機関や自助グループに繋がり、サポートを受けることです。家族自身の心身の健康を守ることが、本人にとっても長期的な回復への希望となります。

オンラインギャンブルも依存症になりますか?

はい、オンラインギャンブルも深刻な依存症を引き起こす可能性があります。スマートフォンの普及により、時間や場所を選ばずに簡単にアクセスできるようになったため、近年オンラインギャンブルによる依存症が増加傾向にあります。

オンラインギャンブルは、手元にお金がない状態でもクレジットカードや電子マネーですぐに賭けられる、ゲームの進行が速い、24時間いつでも利用可能、周囲の目がないため隠れてしやすいといった特徴があり、実店舗でのギャンブル以上に依存に陥りやすい側面があるとも言われています。オンラインギャンブルによる問題も、専門機関や自助グループで相談・治療が可能です。

【まとめ】ギャンブル依存症は回復できる病気

ギャンブル依存症は、本人だけでなく家族をも巻き込む深刻な問題を引き起こす精神疾患です。しかし、これは決して克服できない病気ではありません。適切な知識を持ち、専門機関での治療や自助グループの活用といった支援を受けることで、回復への道は開かれます。

もし、あなた自身やあなたの周りの大切な人がギャンブルの問題で苦しんでいるなら、一人で抱え込まずに助けを求めてください。勇気を出して相談機関に連絡すること、それが回復への最初の、そして最も重要な一歩となります。この記事が、その一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

※本記事はギャンブル依存症に関する一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療を推奨するものではありません。実際の診断や治療については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

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