受験後の無⼒感〜燃え尽き症候群とは?〜

はじめに

はじめに

受験勉強を乗り越え、⾼校や⼤学など新⽣活をスタートさせたにもかかわらず、「やる気が出ない」「ぼーっとしてしまう」などの症状を訴える⽅は少なくありません。このような症状は「燃え尽き症候群」と呼ばれ、受験⽣だけでなく、看護師や教師などの対⼈援助職でも問題となっています。今回は、この燃え尽き症候群について、症状と原因、そして燃え尽き症候群の予防について解説していきます。

燃え尽き症候群(バーンアウト)とは

厚⽣労働省によると「それまで⼈⼀倍活発に仕事をしていた⼈が、なんらかのきっかけで、あたかも燃え尽きるように活⼒を失ったときに⽰す⼼⾝の疲労症状」(注1)を燃え尽き症候群(バーンアウト)と呼びます。

燃え尽き症候群は、1974年にドイツ⼈のフロイデンバーガーによって提唱されました。彼が保健施設に勤務している際に、多くの同僚が精神的・⾝体的異常を訴え、仕事に対する意欲や関⼼を失っている様⼦を⾒てきました。そのような⼈たちのことを「薬物使⽤者のような状態」を意味する「バーンアウト」という俗語を⽤いて表現したことが始まりとされています。

名古屋⼤学⼤学院の福島⽒は、主に⼤⼈に対して⽤いられてきた燃え尽き症候群を、「現代の中学⽣におけるハードな学校⽣活や塾での勉強,受験のストレス,そしていじめをはじめとする対⼈関係の困難さに置き換えて理解することも可能ではないか」(注2)として、中学⽣でも燃え尽き症候群になりうる可能性について言及しています。実証的な研究は行われていませんが、⾼校⽣についても同様のことが考えられます。

燃え尽き症候群の症状

燃え尽き症候群には⼤きく分けて3つの症状があります。同志社⼤学教授の久保⽒による資料を参考にしてまとめて紹介していきます(注3)。

①情緒的消耗感

情緒的消耗感とは「仕事を通じて、情緒的に⼒を出し尽くし、消耗してしまった状態」のことを指します。これは「仕事(勉強)に情熱を注ぎすぎて疲れてしまった状態」と言い換えることができます。

看護師や教師などの対⼈援助職は、患者や学⽣などの被援助者⼀⼈ひとりに対してきめ細やかなサービスが求められます。相⼿の⽴場を思いやりながら信頼関係を築いていくには多くの情緒的(⼼理的)エネルギーが必要となるため、相⼿のために頑張れば頑張るほど、エネルギーがどんどんと消費されていき、枯渇してしまうのです。

学⽣についても、成績の浮き沈みや将来についてのプレッシャーで精神的に削られ続け、無事進路が決まったとしても、⼼のエネルギーが⼗分回復しないまま、新しい関係を築き上げていかなければならない⽇々の中で疲弊し、燃え尽き症候群へ陥っていくことが考えられます。

②脱⼈格化

脱⼈格化とは「被援助者に対する無情で、⾮⼈間的な対応」のことを指します。具体的には、思いやりのない態度や攻撃な態度をとるなど、被援助者の⼈格を無視した対応をしてしまうことが挙げられます。被援助者は、学⽣の場合はクラスメイトなどの学校関係者となることが多いでしょう。

⼼のエネルギーが無くなった状態になると、「新しい関係を持とうとしなくなる」「他⼈や物事に関する関⼼が薄くなる」といったように⼼のエネルギーを節約する行動をとるようになります。ある種の防衛反応とも考えることができます。

学⽣の場合は、それまでのような対⼈関係が維持できなくなり、勉強に対してもモチベーションが下がってしまいます。この脱⼈格化は次の個⼈的達成感の低下にも⼤きく関わっていきます。

③個⼈的達成感の低下

個⼈的達成感とは「職務に関わる有能感、達成感」のことを指します。情緒的消耗感、脱⼈格化から、燃え尽き症候群になってしまうと仕事や勉強のパフォーマンスが低下し、そのことについて周囲はもちろんのこと、本⼈も強く感じてしまいます。そのため強い⾃⼰否定や⾃⼰肯定感の低下に繋がってしまいます。

燃え尽き症候群の原因

燃え尽き症候群には個⼈要因と環境要因が存在しているといわれています。

個⼈要因としては「ひたむきさ」が原因として取り上げられています。ひたむきに働く⼈は多くの仕事を成し遂げようとし、できなかった場合は深く悩みます。学⽣も同様で、ひたむきに勉強し、他⼈と繋がろうと努⼒する性格の学⽣ほど、できない部分に注⽬してしまい、際限なく努⼒し、ついにはエネルギー切れを起こすのです。

また、⼈⽣経験が少ないとストレスや困難に対しての対処法がわからないことが多く、必要以上に情緒的エネルギーを使ってしまうため、燃え尽き症候群になりやすいといわれています。中学⽣や⾼校⽣は⾝体こそ⼤⼈に近づきつつあるものの、⼼はまだまだ⼦どものため、⼤⼈のサポートを受けながら対処法を学んでいく必要があるのです。

環境要因としては職務上の過剰負担が燃え尽き症候群の発症と密接な関係にあるとされています。これは先にも取り上げた通り、⻑時間の勉強や毎⽇のようにある塾や習いごと、ハードな部活動などで⼼休まる時間が取れていない学⽣が当てはまります。

例え本⼈が希望していたとしても、仕事量を管理職がコントロールする必要があるように、勉強量や活動量を親御さんが、ある程度調整していく必要があります。

燃え尽き症候群にならないために

ここまで燃え尽き症候群についての概要と症状、原因について解説してきました。次に燃え尽き症候群を予防するために親御さんをはじめとした周囲の⼤⼈に何ができるのかについて解説していきます。

①勉強の⽬的を持たせる

燃え尽き症候群になる環境要因として、職務上の過剰負担を挙げましたが、この負担が本⼈の意思ではなく、他⼈から強制されたものであると、より⼀層燃え尽き症候群になるリスクは上がってしまいます。

勉強のスケジュールや⽅法を他者に言われたとおりに行っている場合、たとえやり遂げたとしても充実感よりも押し付けられた徒労感だけが残る場合も珍しくありません。周囲の期待に応えようとするあまり、⾃らの⼼⾝をないがしろにしてしまうことは、燃え尽き症候群だけでなく他のストレス性疾患を発症する危険性もあります。

そのため、「⾃分はどうして勉強しているのか」「なぜその⾼校(⼤学)へ行きたいのか」を改めて確認し、⼤⼈主導ではなく、あくまで本⼈の意思で勉強を行い、⼤⼈はサポートに徹するという体制で受験を乗り越えていけると良いでしょう。そうすれば進路先でも⽬的を⾒失わずモチベーションを保つことができます。

②相談相⼿になる

福島⽒の調査によると、燃え尽き症候群と中学⽣の悩み、相談相⼿の有無との関連について、男⼥とも学校⽣活で困ることとして最も多いのが「勉強」であり、次に「友⼈」「部活」となっていました。そしてこれらの悩みを持っている⽣徒ほど燃え尽き症候群となるリスクが⾼くなることが判明しました(注2)。

また、困りごとの相談を、男⼦の場合は「学校の先⽣」、⼥⼦の場合は「親」と「友⼈」にしている⽣徒ほど、情緒的消耗感と脱⼈格化の値が低く、やりがいを表す達成感の点数が⾼いという結果が出ていました。

このことから、男⼦の場合は学校の先⽣、⼥⼦の場合は親や友⼈に⾃⾝の悩みを打ち明けることによって、燃え尽き症候群のリスクが下がるということが分かります。つまり、⽇ごろから⼤⼈と信頼関係を結び、困ったことがあればいつでも相談できる環境を作ることで、⼦ども達の燃え尽き症候群は予防できるのです。

最後に

今回は燃え尽き症候群について解説しました。真面目でひたむきな⼈ほど、燃え尽き症候群になりやすく、受験勉強を終えても充実した学校⽣活を送ることができないケースが多くあります。燃え尽き症候群は⼼のエネルギー不足と、それに伴うパフォーマンスの低下、そして今までできていたことができなくなることからの⾃信の喪失が主な症状であり、症状が治まるまで1年以上かかってしまう場合もあります。そうならないためにも、勉強する意味や⽬的を⼦ども⾃⾝に考えさせ、主体的に進めていくことと、相談しやすい環境を⼤⼈から作り上げていくことが重要になるのです。

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脚注
注 1)こころの⽿, 「燃え尽き症候群」(参照:2024-1-7)
注 2)福島裕⼈(2008)「中学⽣の⾃⼰効⼒感と燃え尽き症候群, いじめ・⾃殺問題に対する認識との関連」, 『こころの健康』, 23(1), 56-64(参照:2024-1-1)
注 3)久保真⼈(2007)「バーンアウト(燃え尽き症候群):ヒューマンサービス職のストレス」, (仕事の中の幸福), 『⽇本労働研究雑誌』, 558, 54-64(参照:2024-1-1)

参考⽂献
Cordes, C. L., & Dougherty, T. W. (1993) “A review and an integration of research on job burnout”, The Academy of Management Review, 18 (4), 621-656(参照:2024-1-1)

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