受験うつの対処と予防

はじめに

はじめに

高校や大学、あるいは資格取得の関門となる受験は、当時大変だった思い出として残っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
受験という長く厳しい経験を乗り越え、次のステップへと進むことができた方もいれば、受験で思うような結果を出せなかった、第一志望に落ちてしまったなど、大きな挫折を前にして、心の病、例えばうつ病を発症してしまった方もいるかもしれません。
受験は多くの人に立ちはだかる関門です。今後も皆さんやご家族・ご友人が、受験をきっかけにうつ状態になってしまう可能性があります。
そこで今回は、受験によってうつ症状を発症してしまった場合の対処方法について、みなさんがイメージしやすいように厚生労働省のホームページに記載されている事例(注1)をもとにお話ししていこうと思います。

受験に失敗したケース

医学部を目指していたが失敗し、うつ状態になってしまったイサムさん(20)の例です。父親が開業医で、後継ぎとしてイサムさんに医学部受験を勧めており、イサムさんも父のようになりたいと思っていたので受験をしましたが、失敗。そのショックでうつ状態となってしまいました。

初期症状として発熱や体のだるさから始まり、夜間は睡眠不足に悩まされ、日中は猛烈な眠気や頭痛、耳鳴り等の症状が出始めました。気分の落ち込みがひどく、受験に失敗した自分を責めたり、イライラして母親に強く当たる→再び自分を責めるという悪循環に陥ったりしてしまいました。
夜食を作ってもらう、勉強しやすいように配慮してもらうなど、多くの場合受験は家族をはじめとした周囲のサポートを得ながら乗り越えていきます。おそらくイサムさんも家族に支えられながら受験に挑んだことでしょう。しかし自分が失敗してしまったことで、それらがすべて無駄になってしまった、家族の期待(今回の場合は特に父親の期待)に応えることができなかったと、イサムさんの心をより大きく傷つけていたのでしょう。

うつの治療にはゆっくりとした休息の時間とストレスになっていることから離れることが鉄則ですが、睡眠不足で頭痛などの症状が出ていたイサムさんには難しく、また日常的に顔を合わせる家族への申し訳なさからくるストレスと離れようがなかったのかもしれません。

また、うつになりやすい特徴として、「真面目な人」が挙げられます。イサムさんは父親のようになりたいと思っていましたし、「言われるがまま医学部を受験」しました。もしかすると「自分は医者になるべきだ」「長男の自分は父の後を継ぐべきだ」と考えていたのかもしれません。
しかしこのような考え方からは、以下のような悪循環に陥ってしまう可能性があります。

  • ① 「目標達成のためにはこれをしなければいけない」とハードルを上げる
  • ② 少しでもできない部分があると自分を責め、自己評価が下がる
  • ③ 挽回しようとさらにハードルを上げ、自分を追い詰める
  • ④ ②と③を繰り返す

こうなってしまうと自分自身では抜け出すことが出来ませんし、どんどんと自信をなくしてうつ状態が悪化してしまいます。

また、日本人特有の「自分の弱みを見せることへの恥ずかしさ」のためうつ状態が改善しにくい部分もあります。
イサムさんは「精神科ってすごく重い病気の人が行く感じがして、どうなんだろうって思いました。」「両親に引きずられるようにして、精神科に行きました。」というように、精神科に対してマイナスなイメージを持っており、実際に精神科に行くまでは受診を拒否していました。
日本では精神科を受診することやカウンセリングを受けることに否定的な考えが根強く残っています。このため心身に不調を感じてもなかなか医療機関や相談機関に繋がりにくいため、うつ病が悪化してしまう傾向が強く出てしまいます。

受験によるうつ状態の対処

受験によるうつ状態の対処

イサムさんの事例を通して、受験うつについてお話ししてきました。次に受験をきっかけにうつ状態になってしまった際の対処方法についてお伝えしていきます。

事例の中でイサムさんは精神科を受診しましたが、このようにまずは専門家に診てもらうことが大切です。「うつは心の風邪」といいますが、風邪のように安静にしていれば治るというわけではありません。医師の指導のもと、服薬やカウンセリングなど適切な治療が必要です。
上でもお話ししたように、日本人は精神科やカウンセリングに行くことに抵抗を感じやすいです。ですが以前と比べうつ病に対して理解のある世の中になってきましたし、精神科もおどろおどろしい雰囲気ではなく、気軽に足を運びやすいオープンな病院やクリニックも増えてきました。家族や友人に事情を話し、一緒についてきてもらうことでハードルは下がりますので、少しでも違和感をもたれた際には受診をお勧めします。

また、予防的な観点としてレジリエンスを高めていくことも大切です。同じストレスを体験したとしても、すべての人がうつ病になるわけではありません。
受験に失敗しても「もう1度チャレンジしよう」と前向きに考えたり、「自分の希望する進路にはならなかったけど、他にもやりたいことがあるかもしれない」と別の道を模索したり、「受験は上手くいかなかったけど、死ぬわけじゃないから何とかなる」と楽観的にとらえたりする人もいるでしょう。
このようにストレスフルな状況でも気分を落ち込ませすぎずに前へ進む力、例え一時的に落ち込んでしまってもそれを乗り越えて健康な状態へ回復していく力をレジリエンスと言います。
日常的に自分の感じていることや考えていることを他人に話す癖や、話しやすい環境を作っていくことでレジリエンスは向上します。

また、「自分は完璧主義者だ」という自分の思考の癖を知り、「完璧でなくてもいいか」と思考を変えていくことも有効です。
失敗体験に目を向けるだけではなく、成功したことや、失敗時に得られたものについても考えを巡らせることで、「ダメな自分」ではなく「頑張った自分」を評価することができるようになり、自己効力感を上げ、レジリエンスを高めることにつながります。

最後に

今回は「受験うつの対処と予防」ということで2つの事例のなかで、どのような部分がうつ状態へつながったのかと、うつ症状が出た時にできること、うつ状態にならないためにできることについてお話ししてきました。人生には頑張っても報われないことはたくさんあります。受験はその典型的な物であり、時にはひどく落ち込むこともあるでしょう。
しかし、受験は人生の通過点でしかありません。時には立ち止まりながら、なりたい自分を見つめなおしてください。大切なのは「これからどうしていくか・どうしていきたいか」なのですから。

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脚注:
(注1)厚生労働省「きっかけは、まさかの医学部受験の失敗:イサムさん(20)の場合」,『こころもメンテしよう:ご家族・教職員の皆さんへ』(参照:2023/2/10)

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