快適な睡眠をとるには〜不眠症とうつ病について〜

はじめに

はじめに

私たちの⽣活に⽋かせない睡眠。睡眠の質を数値化できるデバイスや、睡眠をとることで遊ぶことができるアプリの登場など、睡眠に関する意識の⾼まりを⾒せています。適切な時間の良質な睡眠をとることで、作業効率が向上することは知っているものの、ついつい夜更かしをしたり、寝る前にスマートフォンを⻑時間確認してしまったりする⽅は多いのではないでしょうか。
そこで今回は「どのくらい睡眠時間を確保すべきか」「どうすれば睡眠の質を上げられるか」について近年の研究結果をもとに今⼀度確認するとともに、「睡眠をきちんととらないとどうなってしまうのか」についても解説していきます。

データから⾒る睡眠

まず、睡眠について⾏われた調査結果から、睡眠状況について確認していきましょう。
2015年に⾏われた研究(注1)によると、個⼈差はありますが、成⼈は 7〜9時間の睡眠が適切とされています。
⼀⽅で、令和元年に⾏われた厚⽣労働省の調査結果(注2)によると、1⽇の平均睡眠時間は6時間以上7時間未満の割合が最も⾼く、男性32.7%、⼥性36.2%となっており、適切とされる睡眠時間に満たないという結果が出ています。

出典:令和元年国⺠健康・栄養調査結果の概要 出典:令和元年国⺠健康・栄養調査結果の概要

国⺠健康・栄養調査は新型コロナウイルス感染症の影響で、令和2年、令和3年の調査は⾏われておらず、最新の情報と⽐較することはできませんが、同じく厚⽣労働省が令和4年に⾏った別の調査(注3)によると、適切な睡眠時間を確保できている割合は全体の30.6%であるとする結果が出ています。

出典:令和4年度健康実態調査結果の報告 出典:令和4年度健康実態調査結果の報告

また、同調査で睡眠時間のとれている度合いに関して、「寝付き(布団に入ってから眠るまでに要する時間)に、時間がかかった。」、「夜間、睡眠途中に目が覚めて困った。」等の項目がある中、「上記のようなことはなかった。」と回答した割合は全体の17%しかいません。

出典:令和4年度健康実態調査結果の報告 出典:令和4年度健康実態調査結果の報告

以上のことから、多くの世代にわたって⼗分な睡眠時間を確保することができず、約8割の⼈は睡眠に関して満⾜していない状態で⽇常⽣活を送っていることがわかります。

快適な睡眠をとるために

快適な睡眠をとるために

近年の調査結果から、睡眠不⾜かつ睡眠に満⾜していない状態の⽅が多いことが分かりました。睡眠のトラブルは複雑で、1つの原因を取り除けば解決するというわけではありません。
例えば、睡眠時間が短いからといって単に早い時間に布団に⼊ればいいという問題ではありません。睡眠の質を下げる⽣活習慣が⾝についてしまっていると、寝付きが悪くなる(⼊眠障害)、夜中に⽬が覚めてしまう(中途覚醒)といった症状に悩まされ、早い時間に寝たことが逆に睡眠の質を下げてしまうことにつながりかねないのです。
では快適な睡眠をとるためにはどのようなことに気をつければよいのでしょうか。睡眠に関するレビュー論⽂(論⽂をまとめた論⽂)(注4)では、カフェインの摂取、喫煙、アルコール、運動、ストレス、騒⾳、睡眠のタイミング、昼寝について気を付けるポイントを挙げているので紹介していきます。

①カフェインの摂取

就寝前に⼤量のカフェインを摂取することは睡眠に深刻な影響を与え、⼊眠障害と睡眠の質の低下を引き起こしてしまうため、避けるべきとされています。しかしながら、少量のカフェインの場合は睡眠への影響が確認できないとする研究もあるため、「寝る前のカフェイン=眠れない」と考える必要はないとしています。

②喫煙

喫煙によってニコチンを⼤量に摂取すると、睡眠の質が低下します。しかしながら、「タバコをやめればいい」という問題でもありません。タバコを⽌め、体内のニコチン量が減少することでも睡眠の質が低下することが報告されています。そのため、少しずつタバコの本数を減らしていくことで、徐々に睡眠の質を上げていく必要があります。また、受動喫煙によるニコチンの摂取が睡眠に与える影響についても研究が進められています。

③アルコールの摂取

午後から⼣⽅にかけてのアルコールの摂取が睡眠に影響を与える影響についてはまだわかっていませんが、就寝直前のアルコールの摂取は睡眠の質を低下させます。

また、①〜③については、お酒を飲みながらタバコを吸ったり、カフェインの多いエナジードリンクでお酒をわったりするなど、カフェインと喫煙、アルコールを短期間かつ同時に摂取する⼈も多く、それだけで睡眠の質を⼤きく下げてしまいます。⼀度にすべてをやめるのは難しいでしょうから、「お酒を飲んでいるときはタバコをできるだけ控える」「⽔割りを飲むようにする」など、意識的に変えていく必要があります。

④運動

定期的な運動は睡眠のために推奨されていますが、就寝直前に運動をすることについては意⾒が分かれています。これまでは、運動することで覚醒状態となり⼊眠障害を引き起こすと考えられてきましたが、最近では、睡眠の質が改善されるという調査結果が報告されています。運動は個⼈差が激しいため、⾃分に合ったタイミングを⾒つけていくことが⼤切です。

⑤ストレス

「寝る前に不安が頭をよぎり、そのことばかり考えてしまってなかなか寝付くことができなかった」という経験は誰しもあると思います。このようにストレスによって睡眠の質が下がることはイメージしやすいでしょう。そんな時に、⼼配ごとを書き出してみることでストレスが軽減したという研究結果や、リラクゼーション(ヒーリング⾳楽やリラックスできる匂い)やマインドフルネス(体の感覚に意識を向ける)を取り⼊れることでストレスや⽬が覚めてしまった覚醒状態を軽減できるという調査結果が報告されています。

⑥騒⾳

騒⾳は、わかりやすい原因であり、睡眠環境の騒⾳は最⼩限にすることが推奨されています。しかし交通騒⾳や他者の⽣活⾳は⾃分ではコントロールすることができません。そのため対策として⽿栓とホワイトノイズが挙げられています。⽿栓は外部からの⾳を制限するのに対して、あえてホワイトノイズのような雑⾳を流すことで、外から⽣じる突発的な⾳をかき消し、意識しにくくする効果があります。

⑦睡眠のタイミング

寝る時間と起きる時間を固定化させることで睡眠のリズムを作ることができ、睡眠の質が向上するとされています。そのため、次の⽇が休みだからといって夜更かしをして昼過ぎまで寝ているということは避ける必要があります。

⑧昼寝

⼀般的に昼寝は作業効率や集中⼒の増加のために推奨されていますが、30分以上の昼寝は夜間の睡眠に悪影響を与える可能性があるとされています。⽇中に⻑時間寝ることで、睡眠リズムが崩れることが原因と考えられていますが、詳しいことはわかっていません。特に⾼齢者は⼣⽅ごろに昼寝をする傾向があるため、注意が必要です。どうしても昼寝をしたい場合は横にならず、座った姿勢で20分ほどのタイマーをかけて昼寝をすることを勧めています。

不眠症とは?

ここまで快適な睡眠をとるための注意事項についてまとめてきました。⾃分の⽣活習慣を振り返り、思い当たる部分がある⽅は決して少なくないことでしょう。
現時点では短い睡眠時間や睡眠の質を下げる⾏為による⽀障はないかもしれませんが、これらが⻑期化・慢性化することで「不眠症」へと発展していく可能性があります。
不眠症とは⼊眠障害や中途覚醒、早朝覚醒(朝早く⽬が覚めてしまうこと)などの睡眠問題が原因で⽇中に倦怠感や意欲低下、集中⼒低下などの不調が⽣じる病気のことです。
治療法として薬物療法と⽣活習慣改善が挙げられます。不眠につながる原因は多岐にわたるため、医師の指導の下、服薬を⾏いながら、意識的に⽣活習慣を変えていく必要があります。

うつ病の可能性

また、不眠の背景にうつ病がある可能性があります。うつ病の初期症状には気分の落ち込みや興味関⼼の減退、そして眠ることができないというものが挙げられます。ヨーロッパで⾏われた調査(注5)によると、うつ病患者の約8割が不眠症状を訴えているという結果が出ています。そのため、不眠症状が出ている際には、「そのうち良くなるだろう」と楽観的に考えず、精神科や⼼療内科を受診することをお勧めします。

最後に

私たちの⽣活に必要不可⽋な睡眠ですが、意外と睡眠に対する意識は低く、⼗分な睡眠をとることができていない⼈が少なくないことがデータから読み取れました。しかしその状態を続けると、不眠症やうつ病を発症する可能性があります。
睡眠の質が低いと感じた段階で、睡眠の質を向上させるよう⽣活習慣を改善していくとともに、医療機関を受診していきましょう。

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脚注
注1)Max Hirshkowitz, et al.(2015)“National Sleep Foundationʼs sleep time duration recommendations: Methodology and results summary”, Sleep Health, 1(1), 233-243(参照:2023/10/9)
注2)厚⽣労働省 (2019)「令和元年 国⺠健康・栄養調査結果の概要」(参照:2023/10/10)
注3)厚⽣労働省医薬・⽣活衛⽣局⽣活衛⽣・⾷品安全企画課(2023)「令和4年度 健康実態調査結果の報告」[PDF:9.5MB](参照:2023/10/9)
注4)Leah A. Irish, et al.(2015)“The Role of Sleep Hygiene in Promoting Public Health:A Review of Empirical Evidence”, Sleep Medicine Reviews, 22, 23-36(参照:2023/10/11)
注5)Robert Stewart, et al.(2006)“Insomnia comorbidity and impact and hypnotic use by age group in a national survey population aged 16 to 74 years”, Sleep, 29, 1391-1397(参照:2023/10/13)

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