周囲からは分かりにくいうつ病? 〜「微笑みうつ病」と「仮⾯うつ病」〜

はじめに

はじめに

「うつ病」と聞くとどんなことをイメージしますか?気持ちが落ち込んでいて、暗い雰囲気を醸し出しており、眠ることができず、⾷欲も落ちている、そんな状態を想像するのではないでしょうか。
そのイメージはおおむね正しく、⾝近な⼈なら違和感に気づきやすいため、話を聞いたり、医療機関の受診を勧めたりすることができるでしょう。
しかし、なかには元気そうに振舞うことができるなど、表⾯的には分かりにくいうつ病も存在します。
そこで今回は、周囲からはわかりにくいうつ病として、「微笑みうつ病」「仮⾯うつ病」について、⼀般的なうつ病と⽐較して紹介していきます。

うつ病について

うつ病の症状として代表的なものに「抑うつ気分」と呼ばれるものがあります。この症状の特徴として、気分の落ち込みや憂うつな気分が⻑期間にわたって継続するというものがあります。また、「やる気が出ない」「考えが上⼿くまとまらない」といった精神症状がみられる場合もあります。
さらに、多くの場合、「寝つきが悪い」「眠れてもすぐに起きてしまう」といった睡眠に関する問題や⾷欲や性欲などの減退などがみられることもあります。
うつ病は適切な治療を⾏うことで 50~70%ほどの⼈が寛解(完全に治るわけではないが、症状が治まって⽇常⽣活に⽀障をきたさない状態)するとされています(注1)。しかしながら、何も対処せずにそのまま放置してしまう⼈が多いとされています。
厚⽣労働省が⾏った調査によると、「⼀般住⺠の約15⼈に⼀⼈がこれまでにうつ病を経験しているにもかかわらず、うつ病を経験した者の4分の3は医療を受けていなかった」(注2)とされています。
うつ病を放置した場合、症状が悪化し、その結果「自殺」という選択肢を取ってしまうことは決して珍しくありません。

うつ病のサイン

うつ病は「早期発見、早期治療」が⼤切です。そのため自らの異変や周囲の⼈の変化を敏感に察知していく必要があります。そのためにはうつ状態になりかけている、もしくはすでにうつ病を発症している⼈のサインを知っておくことが⼤切です。
厚⽣労働省は「うつ病を疑うサイン」として以下の項⽬を挙げています(注2)。

うつ病を疑うサイン−自分が気づく変化

  1. 悲しい、憂うつな気分、沈んだ気分
  2. 何事にも興味がわかず、楽しくない
  3. 疲れやすく、元気がない(だるい)
  4. 気⼒、意欲、集中⼒の低下を自覚する(おっくう、何もする気がしない)
  5. 寝つきが悪くて、朝早く⽬がさめる
  6. ⾷欲がなくなる
  7. ⼈に会いたくなくなる
  8. ⼣⽅より朝⽅の⽅が気分、体調が悪い
  9. ⼼配事が頭から離れず、考えが堂々めぐりする
  10. 失敗や悲しみ、失望から⽴ち直れない
  11. 自分を責め、自分は価値がないと感じる など

うつ病を疑うサイン−周囲が気づく変化

  1. 以前と⽐べて表情が暗く、元気がない
  2. 体調不良の訴え(⾝体の痛みや倦怠感)が多くなる
  3. 仕事や家事の能率が低下、ミスが増える
  4. 周囲との交流を避けるようになる
  5. 遅刻、早退、⽋勤(⽋席)が増加する
  6. 趣味やスポーツ、外出をしなくなる
  7. 飲酒量が増える など

以上のポイントを踏まえておくことで、自⾝のうつ病や周囲の⼈のうつ病にいち早く気づくことができ、迅速な対応を⾏うことができます。

周囲からはわかりにくいうつ病① 微笑みうつ病

しかしながら、冒頭でも紹介したように、上記のサインを⽰さないタイプのうつ病が存在します。その1つが「微笑みうつ病」です。
先ほどの「うつ病を疑うサイン−周囲が気づく変化」でも取り上げた通り、うつ病の⼈は「①以前と⽐べて表情が暗く、元気がない」状態になりますので、周囲の⼈も変化に気が付くことができます。しかし微笑みうつ病の⽅は、意図的に気丈に振舞うことで、周囲にうつ病であることを感じさせません。そのため医療機関の受診につながりにくいという特徴があります。
周囲の⼈が「③仕事や家事の能率が低下、ミスが増える」「④周囲との交流を避けるようになる」「⑤遅刻、早退、⽋勤(⽋席)が増加する」といった変化に気づき、本⼈と話し合いを重ねた上で適切な治療につなげていく必要があります。なお、微笑みうつ病は正式な病名ではありません。

周囲からはわかりにくいうつ病② 仮⾯うつ病

微笑みうつ病とは異なる理由でわかりにくいうつ病が「仮⾯うつ病」です。仮⾯うつ病とは、うつ病でみられるはずの気分の落ち込みや憂うつな気分といった「抑うつ気分」がほとんどないか、⾒逃されてしまうくらいわずかしかなく、その⼀⽅で、「頭痛やめまい」「肩こり」「⾷欲不振」といった⾝体症状が顕著に現れるうつ病のことを指します。
仮⾯うつ病の場合はこれらの症状から、⼼療内科や精神科ではなく、内科などを受診する傾向があります。また、短い期間で体の不調が変化していくことが多いことも仮⾯うつ病の特徴です。

治療法

微笑みうつ病と仮⾯うつ病の治療⽅法については、典型的なうつ病と同様、「休養」「環境調整」、「薬物療法」、「精神療法」が⾏われています。
「休養」と「環境調整」では、⼼⾝ともにしっかりと休ませ、ある程度症状が落ち着いてきたところで、少しずつ簡単な家事や軽作業を⾏っていき、自分にとって無理なくできる環境を作っていきます。
それと同時に、抗うつ薬などを⽤いた治療を⾏っていきます。主治医からの説明をよく聞いた上で、継続的に服薬を進めていきます。症状によっては睡眠導⼊剤や抗不安薬が処⽅される場合もあります。
「休養」、「薬物療法」によって症状は落ち着いてきますが、うつ病となった根本的な原因に対して対処していく必要があります。「環境調整」によって改善できる部分もありますが、「部署や配置が変わる」「転職、転勤する」などのような急激な環境の変化が⽣じた際に、うつ病が再発する可能性があります。そうならないように、ストレスへの対応策を学ぶ、自らの性格傾向を知ることなどを⽬的に⾏われるのが「精神療法」です。主に認知⾏動療法が⾏われており、主治医の指⽰を受けた⼼理師によって受けることができます。

最後に

うつ病は「⼼の⾵邪」といわれることもある通り、誰もがかかる可能性のある病気です。しかし、適切な治療を受けなければ重症化し、場合によっては命にかかわる可能性もあります。
今回紹介した「微笑みうつ病」と「仮⾯うつ病」は特に⾒逃されてしまいやすいため、⾝近な⼈の変化や自分の⼼⾝の変化を感じた際には「うつ病かも?」と疑うことが⼤切です。
うつ病は医療機関にかかる時期が早ければ早いほど軽い症状で済み、寛解までの期間が短くなりますので、周囲の⼤切な⼈や自分自⾝を守るためにも、異変を感じた際にはできるだけ早く医療機関を受診してください。

品川メンタルクリニック公式サイト

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脚注
注1)医薬⾷品局審査管理課医療機器審査管理室(2012)「医療ニーズの⾼い医療機器等の早期導⼊に関する検討会の進め⽅(案):資料3-③」(参照 2023-11-6)
注2)地域におけるうつ対策検討会(2004)「1 なぜ、うつ対策?」,『地域におけるうつ対策検討会報告書』(参照 2023-11-6)
参考⽂献
⾜⽴博(1972)「⾝体的訴えを前景に⽰す精神疾患(誌上追加):(2)仮⾯うつ病」,(⾝体症状(疾患)と⼼因をめぐって(第177回学術集会)),『順天堂医学』,17(4),532-538(参照 2023-11-13)
⼭岡昌之(2000)『仮⾯うつ病:隠された⼼の危機』,講談社

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