うつ症状でクリニックを受診するタイミングは?
うつ病は精神疾患のひとつで、精神疾患はがんや脳卒中と並んで五大疾病に数えられるほど、身近な病気です。しかし、まだまだ病気に対する誤解が多く、その症状を軽く捉えてしまう傾向にあるでしょう。今回はそんなうつ病の誤解の中でも、改善への明暗を分ける「クリニックを受診するタイミング」についてお話しします。
「うつ」と「うつ病」
言葉は似ていますが、二つは異なるものを指しています。簡単にいうと、「うつ」は気分の状態で、「うつ病」は病気の名前です。
うつは、心配、不安、挫折などによって気分が落ち込んでいる状態で、健康な人でも起こりうる状態です。うつ病はそうした気分がさらに強く、深くなっていったことで、病気として慢性化している状態です。「生きていることがつらい」といった気持ちにかられやすく、生活や仕事に支障が出ているでしょう。
気分の落ち込みであれば、しっかり休息を取ったり、気分転換をしたりすることで良くなりますが、病気は治療をしなければ治ることはありません。
「うつ」と「うつ病」は、自分自身ではその違いを認識するのはなかなか難しいため、まずは医療機関で診察してもらう方がよいでしょう。
受診のタイミング
「うつっぽい気がするけど、まだがんばれそう」「そこまでひどくなさそうだけど、様子を見るべきでは?」と、病院に行くべきかどうかわからずにいる人は多いかもしれません。体調が悪いと自覚していても、病院に行くタイミングは判断が難しいものです。
だからこそ、まず大切なのはご自分の感覚。「うつ病かもしれない」「受診したほうがいいかも」と思ったときが、病院に行くべき最善のタイミングです。
うつ病が寛解するまでにかかる治療期間は、「発症から受診までの期間と同じくらい」といわれています。つまり、うつ病を発症していた場合、早く治療をはじめた人ほど短い期間で治すことができるのです。
それを踏まえた上で、病院に行くべき症状の目安を覚えておきましょう。
病院に行くべき症状の目安
- ・寝ても疲れがとれず、つねに倦怠感が残っている
- ・眠れない日、または眠りの浅い日が続いている
- ・ストレスを感じていて、2週間以上気分が落ち込んだままだ
- ・悩みごとのせいで食欲がわかない、またはどんな食事もおいしくない
- ・頭がぼーっとし、集中力・判断力が低下している
判断のポイントは、「症状が2週間以上続いていること」です。特に気分の落ち込みは、疲れなどによる一時的なうつ状態であれば、2~3日で良くなります。しかし、うつ病は症状がどんどん重くなり、自分でもどうしていいかわからないほどのつらさが続くことも。
また、考えごとのせいでやるべきことが何日も進まなかったり、人の話が理解できないほど集中力が落ちていたり……仕事や学校、生活に支障が出ている場合は、精神科や心療内科の受診をお勧めします。
身近な人が「うつ病では?」と感じたら
「几帳面でまじめな人」ほど、かかりやすいといわれているうつ病。頑張り屋であるがゆえ、自分の疲れに気づけない人も多くいます。
そのため、最初にうつ病の可能性に気づくのは、ご本人より周囲の人であることがよく見受けられます。
家族や友人、同僚などに「最近なんだかおかしい」と感じる点があれば、注意して観察してみることが大切です。
見分けるポイントは、以下のような考え方や行動において「以前と違う」かどうかです。
心の変化
- ・さまざまなことに悲観的になった
- ・以前は好奇心旺盛だったのに、何ごとにも興味を持たずいつもおっくうそうだ
- ・以前は笑顔が多かったのに、最近はイライラしていることが多い
- ・よく不安を口にするようになった
体の変化
- ・夜中によく起きる、またはよく眠れていない様子がある
- ・急に食欲が増えた、または急激に減った
- ・朝はぐったりしていて、なかなか起きてこない
- ・頭痛や倦怠感などをよく訴えるようになった
行動の変化
- ・会社や学校に行きたがらない
- ・遅刻・欠勤などが増えた
- ・口数が極端に減った
- ・自分を否定する言葉が増えた
- ・人との接触を嫌うようになり、人付き合いが減った
こうした症状が長く続いている場合は、医療機関に行くように話をしてみましょう。
ただし、本人が症状に気づいていないと、なかなか行きたがらない可能性もあります。そんなときは、「何もなければそれでいいけど〝私が〟心配だから一緒に行ってほしい」と相手に寄り添った言葉で、受診を促してあげてください。
できるだけ早く治療をはじめることは重要ですが、本人を追い詰めるように受診させることが必ずしも適切とは限りません。焦りすぎず、本人が治療しやすい状況を整えてあげてください。
おおらかに構えることで、心配するあなた自身もストレスを溜め込むことなく、本人と関わっていけるはずです。
合い言葉は「迷ったら、すぐに受診」
「薬がやめられなくなりそう」「副作用が怖い」と、精神科や心療内科に行くことを不安に思う方もいます。
しかし、うつ病の治療法は薬の治療ばかりではありません。会話などで治療していく「精神療法」や、磁気の刺激で脳神経に働きかける「TMS治療」など、薬物療法以外の方法も選択できます。
医師とよく相談して、不安のない治療法を選択していきましょう。
どんな病気であっても、病院に行くのは不安になるものです。しかし、今行っておけば、そもそも病気の発症を防げるかもしれません。うつ病の早期発見になって、病院に通う日数を限りなく少なくできるかもしれません。うつ病専門の医師に話を聞いてもらうことで、漠然とした不安が消えるかもしれません。
「うつ病かもしれない」と不安に思うなら、「うつ病ではない可能性」と「すぐに治す方法」を探しに精神科や心療内科を頼ってください。うつ病ではないかもしれないからと、受診をためらう必要はありません。不安があるなら一人で抱え込まず、まずは相談しに行きましょう。
※参照:
・ご家族にできること|こころの耳|厚生労働省
・「うつ」と「うつ病」は違う 大事な受診のタイミング|NIKKEI STYLE
・心療内科に行く目安|私は行くべき?何をどこまで話す?「行ってはいけない」はなぜ?|EPARK
・精神科医が語る「うつっぽさを1年以上放置するとヤバイ理由」|DIAMOND online
【プロフィール】
牧野 絵美
ライター・編集者、心理カウンセラー。人間観察が趣味で、取材や執筆においても対話と心理描写を得意とする。若いころは自身の繊細さに振り回され、うつ病を繰り返した。自分との向き合い方をつかんだ今は、誰にでも人生は変えられるということを伝えていきたい。
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