摂食障害とは?原因・症状・種類をわかりやすく解説

摂食障害は、食行動や体重、体型に対する考え方に著しい偏りが生じ、心身の健康が損なわれる精神疾患の一つです。単に「食べ過ぎ」「食べなさすぎ」といった食習慣の乱れにとどまらず、自己評価が体重や体型に過度に影響されるなど、心の深い部分と密接に関連しています。摂食障害は放置すると重篤な身体合併症を引き起こす可能性があり、早期の専門的な治療が必要です。この記事では、摂食障害の主な種類、原因、症状、そして治療法や相談先について詳しく解説します。

摂食障害の定義と種類

摂食障害は、アメリカ精神医学会によって発行されている診断基準(DSM)において、特定のカテゴリーに分類される疾患群です。主に以下の種類が知られています。

神経性やせ症(拒食症)

神経性やせ症、一般的に拒食症と呼ばれる疾患は、体重増加に対する強い恐怖や、やせている状態を過度に追求することを特徴とします。たとえ著しくやせていても、自分は太っていると感じたり、特定の体の部分だけが太いと感じたりするなど、体型や体重の認識に歪みが生じます。

拒食症の主な特徴は以下の通りです。

  • 極端な食事制限: 摂取カロリーを意図的に著しく制限します。特定の食品群を完全に避けたり、食事の量を極端に減らしたりします。
  • 体重の低下: 標準体重から著しく低い体重になります。DSM-5の診断基準では、年齢や性別、発育段階、身体の健康に応じた最低限の正常体重を下回ることが基準の一つとなります。
  • 体重増加への強い恐怖: 体重が増えること、または太ることに強い恐怖心を抱きます。これは、たとえ低体重であっても軽減されません。
  • 体型・体重への自己評価の過度な影響: 自己評価が、体型や体重によって過度に左右されます。体重が軽いことを自己肯定感の源泉とし、少しでも体重が増えると強く落ち込むといった傾向が見られます。
  • 病識の欠如: 自身の低体重や問題のある食行動を否定したり、その重症度を認識しなかったりすることがあります。

神経性やせ症には、極端な食事制限のみを行う「制限型」と、過食とそれに続く代償行為(嘔吐、下剤乱用など)を伴う「過食・排出型」があります。

神経性過食症(過食症)

神経性過食症、一般的に過食症と呼ばれる疾患は、短時間に大量の食物を摂取する過食エピソードと、それに続く不適切な代償行為(体重増加を防ぐための行動)を特徴とします。過食行動中は、食べることを自分でコントロールできない感覚(喪失感)を伴うことが多くあります。

過食症の主な特徴は以下の通りです。

  • 過食エピソード: 通常よりもはるかに大量の食物を、比較的短い時間内に摂取します。この間、食べることを自分で止められない、あるいはコントロールできないという感覚を伴います。
  • 不適切な代償行為: 過食によって体重が増えるのを防ぐために、意図的な嘔吐、下剤や利尿剤の乱用、絶食、過度な運動などの行動を繰り返します。
  • 過食エピソードと代償行為の頻度: 過食エピソードと不適切な代償行為が、週に1回以上、3ヶ月以上続いていることが診断基準の一つとなります。
  • 体型・体重への自己評価の過度な影響: 拒食症と同様に、自己評価が体型や体重によって過度に左右されます。ただし、体重は正常範囲内であるか、やや過体重である場合が多い点が拒食症との違いです。
  • 過食エピソード中のコントロール喪失感: 過食中に食べる行動をコントロールできないという感覚が重要です。

過食症の人は、自身の食行動を恥じたり隠したりする傾向が強く、他人には気づかれにくい場合があります。

過食性障害

過食性障害は、神経性過食症と同様に、短時間に大量の食物を摂取する過食エピソードを特徴としますが、体重増加を防ぐための不適切な代償行為(嘔吐、下剤乱用など)を伴わない点が異なります。

過食性障害の主な特徴は以下の通りです。

  • 過食エピソード: 神経性過食症と同様の過食エピソードが頻繁に起こり、コントロール喪失感を伴います。この際、以下のうち3つ以上を伴うことが多いとされます。
    普段よりはるかに速いペースで食べる。
    お腹がいっぱいなのに大量に食べる。
    大量に食べることに罪悪感や恥ずかしさを感じ、一人で食べる。
    過食後に自分自身に強い嫌悪感、抑うつ、罪悪感を感じる。
  • 代償行為の欠如: 過食後に嘔吐したり、下剤を使ったり、過度な運動をしたりといった代償行為を行いません。
  • 過食エピソードに対する苦痛: 過食行動に対して著しい苦痛を感じています。
  • 頻度: 過食エピソードが週に1回以上、3ヶ月以上続いていることが診断基準の一つとなります。

過食性障害は、神経性過食症とは異なり、体重が標準範囲内であることもありますが、過体重や肥満を伴う場合が多く見られます。

その他の摂食障害

上記の3つの主なタイプに明確には当てはまらないものの、摂食に関する問題行動が存在し、臨床的に significant な苦痛や機能障害を引き起こしている場合に診断されるカテゴリーもあります。「特定される摂食障害」や「特定不能の摂食障害」などと呼ばれ、診断基準を完全に満たさないものの、支援や治療が必要な状態を含みます。

例えば、以下のような状態が含まれることがあります。

  • 非定型神経性やせ症:神経性やせ症の基準を満たすものの、体重が標準体重を下回るほどではない場合。
  • 神経性過食症(低頻度または期間が短い):神経性過食症の基準を満たすものの、過食や代償行為の頻度や期間が基準に満たない場合。
  • 過食性障害(低頻度または期間が短い):過食性障害の基準を満たすものの、過食エピソードの頻度や期間が基準に満たない場合。
  • パージング障害:過食エピソードはないが、食べた後に体重増加を防ぐために嘔吐や下剤乱用などの代償行為を繰り返す場合。
  • 夜間摂食症候群:夜間に過食したり、夜間に食事をしなければ眠れない状態。

これらの「その他の摂食障害」も、放置すれば健康に深刻な影響を与える可能性があるため、適切な診断と治療が重要です。

拒食と過食の違い

神経性やせ症(拒食症)と神経性過食症(過食症)、そして過食性障害は、いずれも摂食に関する問題ですが、いくつかの重要な違いがあります。以下の表に主な違いをまとめました。

特徴 神経性やせ症(拒食症) 神経性過食症(過食症) 過食性障害
主な食行動 極端な食事制限(制限型) または 過食・排出(過食・排出型) 過食エピソードと代償行為 過食エピソードのみ
過食エピソード 過食・排出型でみられることがある 特徴的な症状として頻繁にみられる 特徴的な症状として頻繁にみられる
代償行為 過食・排出型でみられる(嘔吐、下剤など) 過食後に必ず伴う(嘔吐、下剤、過運動など) 基本的に伴わない
体重 著しく低い(低体重) 標準範囲内またはやや過体重の場合が多い 標準範囲内から過体重・肥満まで様々
体型・体重への 自己評価 過度に影響され、自己肯定感が低体重に依存 過度に影響される 過度に影響される(ただし、過食に対する苦痛が強い)
コントロール感 食べる量のコントロールはできていることが多い(制限型) または 過食中はコントロール喪失感あり 過食中はコントロール喪失感を伴うことが多い 過食中はコントロール喪失感を伴うことが多い
病識 低体重を否定したり、問題を認識しないことがある 自身の行動を恥じ、隠す傾向がある 自身の行動に苦痛を感じる

これらの違いを理解することは重要ですが、個人によっては症状が混在したり、診断が時間とともに変化したりすることもあります。自己判断せず、専門家による診断を受けることが不可欠です。

摂食障害の主な原因

摂食障害は、単一の原因で発症するのではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。主に以下の3つの側面からの要因が指摘されています。

心理的要因

摂食障害の発症には、心理的な問題が深く関わっています。

  • 自己肯定感の低さ: 自分自身に価値を見出せない、自信がないといった感情が根底にあることが多いです。体型や体重をコントロールすることで、一時的に自己価値を感じようとすることがあります。
  • 完璧主義・強迫性: 物事を完璧に行いたいという強い欲求や、特定の考えや行動に固執する傾向がある人が、摂食障害を発症しやすいと言われます。食行動や体型へのこだわりが強迫的なものとなることがあります。
  • 感情の調節の困難さ: 自分の感情(不安、怒り、悲しみなど)をうまく認識したり、適切に表現したり、対処したりすることが苦手な場合があります。食行動が、これらの感情から逃れるための手段となったり、感情を麻痺させたりするために用いられることがあります。
  • トラウマ経験: 過去の虐待やいじめ、人間関係での傷つきなどのトラウマ経験が、摂食障害の発症に関連していることもあります。食行動が、トラウマに伴う感情や記憶を抑え込むための coping mechanism(対処メカニズム)となることがあります。
  • コントロール欲求: 自分の人生や周囲の状況をコントロールできているという感覚が得られないときに、せめて自分の体や食べるものだけでもコントロールしようとする心理が働くことがあります。特に思春期など、自立と依存の間で揺れ動く時期に顕著になることがあります。

社会・文化的要因

現代社会の文化や価値観も、摂食障害の発症に影響を与えていると考えられています。

  • やせ礼賛文化: メディアや社会全体が「やせていることが美しい」「やせていることが成功や自己管理の証」といったメッセージを強く発信していることが、若い世代を中心に体型への強いプレッシャーを与えています。これにより、不健康なダイエットや食行動に走りやすくなります。
  • ダイエット志向の蔓延: 健康や美容のためにダイエットを行うこと自体は一般的ですが、極端なダイエットや間違った知識に基づくダイエットが、摂食障害の引き金となることがあります。特定の食品を敵視したり、厳しいルールを設けたりすることが、正常な食行動を歪める可能性があります。
  • 対人関係の問題: 家族関係(過干渉、無関心、軋轢など)や友人関係、恋愛関係などにおける問題が、ストレス源となり摂食障害の発症や悪化に関与することがあります。特に、人間関係の中で自分の居場所がない、価値を認められないといった感覚が、食行動の異常につながることがあります。
  • 学校や職場でのプレッシャー: 学業や仕事でのストレス、競争、期待に応えられないことへの不安なども、摂食障害の背景にあることがあります。

生物学的要因

遺伝的な要因や脳機能の偏りなど、生物学的な側面も摂食障害の発症に関与している可能性が指摘されています。

  • 遺伝的要因: 摂食障害は、家族内に同じような疾患を持つ人がいる場合に発症しやすいという研究報告があります。特定の遺伝子が、摂食行動や気質(完璧主義、衝動性など)に関連している可能性が研究されています。
  • 神経伝達物質の異常: 脳内のセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質のバランスの乱れが、気分や衝動性、食欲の調節に関与し、摂食障害の発症に関わる可能性が考えられています。
  • 脳機能の偏り: 食欲や報酬系、自己制御に関わる脳の領域の機能に偏りがあることが、摂食障害の症状に関与している可能性が指摘されています。
  • 生まれ持った気質: 生まれつき不安を感じやすい、新しい環境に適応しにくい、変化を嫌うといった気質が、摂食障害の発症リスクを高める可能性が考えられています。

これらの要因は単独で作用するのではなく、複数重なり合うことで摂食障害を発症させると考えられています。例えば、「やせ礼賛文化」という社会的なプレッシャーがある中で、「自己肯定感が低い」「完璧主義」といった心理的な傾向を持つ人が、特定の遺伝的素因を持っている場合に、摂食障害を発症するリスクが高まるといったイメージです。

摂食障害の症状と特徴

摂食障害の症状は、その種類によって異なりますが、食行動の異常に加え、それに伴う精神的な問題や身体的な問題が幅広く現れます。

神経性やせ症の症状

神経性やせ症(拒食症)の症状は、主に以下のようなものがあります。

  • 体重に関連する症状:
    標準体重からの著しい減少。やせすぎているにも関わらず、体重が増えることへの強い恐怖。
    自分の体型や体重に対する歪んだ認識。「太っている」と感じたり、特定の部位だけが太いと感じたりする。
    体重を頻繁に測る、鏡で体型をチェックする、特定の服が着られるかを頻繁に確認するなど、体型や体重への強いこだわり。
  • 食行動に関連する症状:
    食事量やカロリーを極端に制限する。特定の食品群(炭水化物、脂肪など)を避ける。
    食事の時間を極端に長くかけたり、食べ物を細かく分けたりするなど、奇妙な食習慣。
    隠れて食事を抜いたり、食べたことを報告しなかったりする。
    過食・排出型の場合は、大量に食べた後に嘔吐したり、下剤を使用したりする。
  • 精神的な症状:
    易怒性、抑うつ、不安感。
    集中力の低下、思考力の低下。
    社会的な引きこもり、友人や家族との交流を避けるようになる。
    頑固さ、融通の利かなさ。
    睡眠障害。
  • 身体的な症状(身体合併症):
    低血圧、徐脈(脈が遅くなる)。
    体温の低下、冷え性。
    無月経(生理が止まる)。
    便秘。
    皮膚の乾燥、髪の毛のパサつきや脱毛、産毛のような体毛の増加(綿毛)。
    疲労感、倦怠感。
    骨粗鬆症(骨がもろくなる)。
    電解質異常(カリウム、ナトリウムなどのバランスが崩れる)による不整脈などの重篤な症状。
    脳の萎縮。

神経性過食症の症状

神経性過食症(過食症)の症状は、主に以下のようなものがあります。

  • 過食エピソードに関連する症状:
    短時間に大量の食物を食べ、食べることをコントロールできない感覚を伴う。
    早食い、よく噛まずに飲み込む。
    空腹を感じていなくても食べる。
    過食中や過食後に強い罪悪感、羞恥心、自己嫌悪を感じる。
    隠れて過食を行う。
  • 代償行為に関連する症状:
    過食後に意図的な嘔吐を行う(指や吐物器を使う)。
    下剤、利尿剤、浣腸などを乱用する。
    極端な絶食や食事制限を行う。
    過度な運動を行う。
  • 精神的な症状:
    抑うつ、不安、イライラ感。
    気分変動が激しい。
    衝動的な行動(万引き、自傷行為など)を伴うことがある。
    自己肯定感の低さ。
    将来への悲観的な見方。
  • 身体的な症状(身体合併症):
    繰り返される嘔吐による歯のエナメル質の浸食、唾液腺の腫れ(おたふく風邪のように見える)、食道の炎症や裂傷。
    下剤乱用による慢性の便秘、電解質異常、腎臓の問題。
    電解質異常(特にカリウムの低下)による不整脈、筋力低下、麻痺。
    胃の破裂(稀だが生命に関わる)。
    慢性的な喉の痛み、声枯れ。
    手や指の皮膚の損傷(吐物による刺激や、指を口に入れることによるタコなど)。

神経性過食症の人は、体重が標準範囲内であることも多いため、周囲からは問題が気づかれにくいことがあります。しかし、内面では強い苦痛を抱えています。

過食性障害の症状

過食性障害の症状は、神経性過食症から代償行為を除いたものに近いですが、特に過食に伴う苦痛が大きいのが特徴です。

  • 過食エピソード: 神経性過食症と同様の過食エピソードが頻繁に起こり、コントロール喪失感を伴います。早食い、満腹でも食べる、一人で隠れて食べる、過食後に自己嫌悪を感じるといった特徴があります。
  • 代償行為の欠如: 過食後に嘔吐や下剤乱用などの代償行為を行いません。
  • 体重: 標準体重から過体重、肥満を伴うことが多いです。
  • 精神的な症状: 過食行動や体重増加に対する強い苦痛、恥ずかしさ、罪悪感、抑うつ、不安を感じます。自己肯定感も低い傾向があります。

過食性障害は肥満を合併しやすいため、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病のリスクが高まります。

摂食障害に伴う身体合併症とリスク

摂食障害は精神疾患ですが、長期化したり重症化したりすると、全身の臓器に深刻な影響を与え、生命に関わる身体合併症を引き起こすリスクがあります。特に神経性やせ症による低栄養や、神経性過食症・過食性障害における繰り返される嘔吐や下剤乱用に伴う電解質異常は危険です。

主な身体合併症のリスクは以下の通りです。

  • 循環器系: 不整脈(電解質異常によるものが特に危険)、低血圧、徐脈、心筋の萎縮、心不全。
  • 消化器系: 胃の運動機能低下、便秘、胃酸の逆流、食道の炎症や裂傷、膵炎。過食・嘔吐を繰り返すことによる胃の破裂のリスク。
  • 内分泌・代謝系: 無月経(女性)、骨粗鬆症、成長障害(若い場合)、甲状腺機能の異常、血糖値の異常(低血糖や高血糖)。
  • 腎臓: 脱水、電解質異常による腎機能障害。
  • 歯と口腔: 嘔吐による歯のエナメル質の浸食、虫歯、歯周病、唾液腺の腫れ。
  • 皮膚・毛髪: 皮膚の乾燥、色調の変化、脱毛、産毛のような体毛(綿毛)。
  • 脳: 脳の萎縮(特に長期の低栄養の場合)。認知機能の低下。
  • 血液: 貧血、白血球や血小板の減少。

これらの身体合併症は、摂食障害の回復に伴って改善するものもありますが、骨粗鬆症や歯のエナメル質の損傷などは後遺症として残る可能性もあります。そのため、身体的な健康状態を常に管理し、必要に応じて内科的な治療を並行して行うことが非常に重要です。特に、意識障害やけいれん、重度の不整脈などは緊急性の高い状態であり、速やかな医療介入が必要です。

摂食障害の発症年齢と性別

摂食障害の発症には、特定の年齢や性別に傾向が見られます。

発症しやすい年齢

摂食障害は、主に思春期から青年期にかけて発症することが多いとされています。特に、神経性やせ症は10代前半から後半にかけて、神経性過食症は10代後半から20代にかけて発症のピークがあると言われています。この時期は、身体的な変化が大きいだけでなく、学校や人間関係、自己同一性の確立など、様々な面で大きな変化やストレスを経験しやすい時期であるため、摂食障害を発症するリスクが高まると考えられます。

ただし、摂食障害は決して特定の年齢層だけの問題ではありません。近年では、児童期(小学生)や成人期(30代、40代以上)になってから発症するケースも報告されており、幅広い年齢層で注意が必要です。特に、過去に摂食障害の経験がある人が、人生の転機やストレスをきっかけに再発することもあります。

性別による違い

摂食障害は、圧倒的に女性に多く見られる疾患です。神経性やせ症や神経性過食症は、男性に比べて女性の発症率が10倍程度高いと言われています。これは、社会的なやせ礼賛文化の影響を女性がより強く受けやすいことや、女性ホルモンの影響などが関連していると考えられています。

しかし、男性にも摂食障害は存在します。特に近年では、男性における摂食障害の報告が増加傾向にあります。男性の場合、筋肉をつけることへのこだわり(筋量増加障害、ボディ・イメージ障害)や、体重を減らすことへのプレッシャーが摂食障害につながることがあります。男性の摂食障害は女性に比べて気づかれにくいことが多く、診断や治療へのアクセスが遅れる傾向があるため、注意が必要です。

また、性的マイノリティの人々(特にゲイやバイセクシュアルの男性、トランスジェンダーの人々)も、社会的なスティグマや差別に直面することが多く、摂食障害の発症リスクが高い可能性が指摘されています。

摂食障害の治療方法

摂食障害の治療は、心身両面からのアプローチが必要であり、専門的な知識を持つ医療チームによる長期的な取り組みとなることが一般的です。治療の目標は、単に正常な体重に戻したり、過食や代償行為を止めたりすることだけでなく、摂食障害の背景にある心理的な問題を解決し、健康的な食行動と自己肯定感を回復することにあります。

治療の中心となるのは、精神療法ですが、症状に応じて薬物療法や入院治療が併用されます。

精神療法

精神療法は、摂食障害の治療において最も重要な柱となります。様々なアプローチがありますが、患者さんの状態や年齢、摂食障害の種類によって適切な方法が選択されます。

  • 認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy): 摂食障害に特化した認知行動療法(CBT-Eなど)が有効であることが多くの研究で示されています。思考(認知)と行動のパターンに焦点を当て、摂食障害に関連する歪んだ考え方(例: 「少し食べたらすべて台無しになる」「体重が増えたら価値がなくなる」)や問題のある行動(例: 過度な食事制限、過食、嘔吐)を特定し、それらを修正していくことを目指します。健康的な食習慣を確立するための具体的な方法も学びます。
  • 家族療法: 特に思春期の摂食障害の治療において、家族療法は非常に重要な役割を果たします。家族全体を対象とし、摂食障害が家族システムに与える影響を理解し、家族がお互いをどのようにサポートできるかを学びます。親が患者さんの回復を支援する役割を積極的に担うMaudsley Approach(モーズレイ法)などが有名です。
  • 対人関係療法(IPT: Interpersonal Psychotherapy): 摂食障害の維持や発症に関与する対人関係の問題に焦点を当てて治療を進めます。人間関係における困難(例: 役割の葛藤、対人関係の欠如、喪失感など)を解決することを目指す中で、摂食障害の症状が改善することが期待されます。神経性過食症に特に有効性が示されています。
  • 弁証法的行動療法(DBT: Dialectical Behavior Therapy): 特に衝動性や感情の調節が困難な摂食障害(過食症や過食性障害で自傷行為などを伴う場合など)に有効な場合があります。感情を適切に認識し、対処するためのスキル(マインドフルネス、感情調節、対人効果、苦悩耐性)を学びます。
  • 精神力動的心理療法: 摂食障害の背景にある無意識の葛藤や、過去の経験が現在の問題にどのように影響しているかを掘り下げて理解することを目指します。摂食障害の症状が持つ象徴的な意味などを探求します。

これらの精神療法は、通常、週に1回など定期的なセッションで行われます。治療期間は、症状の重さや患者さんの状態によって異なりますが、数ヶ月から数年に及ぶこともあります。

薬物療法

薬物療法は、摂食障害そのものを直接的に治療する主要な方法ではありませんが、摂食障害に伴う抑うつ、不安、強迫症状などの精神症状や、過食・排出行動を軽減する目的で使用されることがあります。

  • 抗うつ薬: SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬は、摂食障害に伴う抑うつや不安の軽減に有効な場合があり、特に神経性過食症における過食や嘔吐の頻度を減らす効果が報告されています。ただし、神経性やせ症の低体重の状態では、抗うつ薬が適切でない場合や効果が限定的な場合があります。
  • 抗精神病薬: 重度の不安や歪んだ思考(自分が太っているという確信など)がある場合に、少量使用されることがあります。
  • 気分安定薬: 衝動性が強い場合に使用が検討されることがあります。

薬物療法は、精神療法を補完する役割として使用されることが多く、医師の指示のもと、適切な薬剤が選択・調整されます。自己判断での服用や中止は危険です。

入院治療

摂食障害が重症で、外来治療では対応が難しい場合、入院治療が必要となります。入院治療が検討されるのは、以下のような状況です。

  • 重度の低体重: 神経性やせ症で、体重が生命維持に必要なレベルを下回っている場合。
  • 生命に関わる身体合併症: 重度の電解質異常、不整脈、循環器系の問題など、内科的な治療や管理が緊急に必要な場合。
  • 過食や排出行動がコントロール不能で、外来治療では症状が悪化する場合。
  • 重度の精神症状: 自殺念慮が強い、重度の抑うつや不安、幻覚や妄想を伴う場合。
  • 外来治療への非協力的: 治療計画に従えない、約束を守れないなど、外来でのフォローアップが難しい場合。
  • 家族の支援体制が不十分な場合。

入院治療では、厳格な栄養管理(必要に応じて経管栄養や点滴による栄養補給)、身体合併症への対応、集中的な精神療法(個人療法、集団療法、家族療法)、服薬管理などが行われます。安全な環境で心身の状態を安定させ、回復への第一歩を踏み出すための重要な段階となります。入院期間は、症状の重さや回復の進捗によって異なります。

治療による回復の可能性

摂食障害の治療は、すぐに目に見える効果が出にくいこともあり、回復には時間と根気が必要です。しかし、適切な診断と治療を受けることで、多くの方が回復に向かうことが可能です。早期に治療を開始するほど、回復率が高まる傾向があります。

回復の道のりは一人ひとり異なりますが、一般的には以下のようなステップで進むことが多いです。

  1. 身体的な回復: まずは生命に関わる身体的な危険を回避し、栄養状態や体重を回復させます。
  2. 食行動の正常化: 極端な食事制限、過食、代償行為といった問題のある食行動パターンを修正し、健康的でバランスの取れた食習慣を身につけます。
  3. 精神的な回復: 摂食障害の背景にある心理的な問題(自己肯定感、感情調節、対人関係など)に取り組み、自己理解を深め、健康的な coping skill(問題対処能力)を身につけます。
  4. 再発予防とQOLの向上: 回復した状態を維持し、摂食障害によって損なわれた生活の質(QOL)を向上させることを目指します。

完全に回復した状態とは、体重や食行動が正常になるだけでなく、体型や体重へのこだわりが軽減し、自分自身を受け入れられるようになり、精神的にも安定して社会生活を送れるようになることを指します。

回復の過程で、一時的に症状がぶり返したり、困難に直面したりすることもあります。しかし、それは決して失敗ではなく、回復のプロセスの一部と考えられます。粘り強く治療を続けること、周囲のサポートを得ることが、回復のためには非常に重要です。早期に治療を開始するほど、回復率が高まる傾向があります。

摂食障害の相談先と病院

摂食障害に悩んでいる、あるいは家族や友人が摂食障害かもしれないと心配している場合、一人で抱え込まずに専門家や相談窓口に相談することが大切です。どこに相談すれば良いか、専門医療機関はどのように探せば良いかについて説明します。

どこに相談できる?

摂食障害に関する悩みは、様々な場所で相談することができます。悩みの内容や緊急度に応じて、適切な相談先を選びましょう。

相談先 特徴・相談内容
精神科・心療内科 摂食障害の診断、精神療法、薬物療法など専門的な医療を提供します。摂食障害専門の外来を設けている医療機関もあります。
摂食障害専門外来 摂食障害の治療経験が豊富で、専門的な知識を持つ医師や心理士、栄養士などがチーム医療を行っている場合が多いです。重症の場合や診断が難しい場合に適しています。
総合病院の精神科・心療内科 身体合併症がある場合、他科(内科、小児科など)との連携を取りながら治療を進めることができます。入院設備がある場合もあります。
クリニック(精神科・心療内科) 外来での精神療法や薬物療法を行います。入院が必要な場合は、連携している病院を紹介してもらえます。比較的予約が取りやすい場合があります。
保健所・精神保健福祉センター 公的な相談機関です。摂食障害に関する一般的な情報提供、電話相談、面接相談などを行っています。医療機関への紹介も可能です。費用がかからない場合が多いです。
カウンセリング機関 臨床心理士や公認心理師などによるカウンセリングを受けることができます。医療機関と連携している機関や、独立した機関があります。診断や薬の処方は行いません。
自助グループ 摂食障害の当事者や家族が集まり、経験や悩みを共有し、支え合う場です。匿名で参加できる場合が多く、回復の支えとなります。
NPO・民間支援団体 摂食障害に関する情報提供、電話相談、メール相談、交流会などを実施している団体があります。
学校のスクールカウンセラー 学生の場合、学校内に相談できるカウンセラーがいることがあります。
職場の産業医・カウンセラー 会社員の場合、職場の相談窓口を利用できることがあります。

どこに相談するか迷う場合は、まずは保健所や精神保健福祉センターに電話で相談してみるのが良いでしょう。そこで状況を聞いてもらい、適切な相談先や医療機関を紹介してもらうことができます。

専門医療機関の探し方

摂食障害の治療には専門性が求められるため、摂食障害の治療経験が豊富な医療機関を選ぶことが望ましいです。専門医療機関を探すための方法をいくつかご紹介します。

  • かかりつけ医に相談する: もし信頼できるかかりつけ医がいる場合は、摂食障害の可能性について相談し、専門医への紹介状を書いてもらうことができます。
  • 保健所・精神保健福祉センターに相談する: 前述の通り、地域の専門医療機関に関する情報を持っている場合があります。
  • インターネットで検索する: 「摂食障害 病院 [お住まいの地域名]」「摂食障害 専門外来 [お住まいの地域名]」といったキーワードで検索してみましょう。医療機関のウェブサイトで、摂食障害の診療を行っているか、専門外来があるか、どのような治療法を行っているかなどを確認します。
  • 関連学会や団体のウェブサイトを参照する: 日本摂食障害協会などの関連学会や患者・家族団体が、専門医療機関のリストや相談窓口の情報を提供している場合があります。
  • 他の医療機関からの紹介: もし精神科や心療内科以外の科(例えば婦人科や消化器内科で身体合併症の治療を受けた場合など)を受診している場合は、そちらの医師に摂食障害の専門医を紹介してもらうことも可能です。

医療機関を選ぶ際には、ウェブサイトの情報だけでなく、可能であれば実際に問い合わせて、摂食障害の診療体制(医師、心理士、管理栄養士などの多職種連携が行われているか、どのような治療プログラムがあるかなど)について確認すると良いでしょう。また、通いやすさや費用なども考慮して検討することが大切です。

摂食障害について よくある質問

摂食障害は治りますか?

はい、適切な診断と治療を受けることで、多くの方が回復に向かうことが可能です。回復には時間と努力が必要ですが、健康的な食行動を取り戻し、心の安定を得て、社会生活を送れるようになることは十分に目指せます。早期に治療を開始するほど、回復率が高まる傾向があります。

家族が摂食障害なのですが、どうすれば良いですか?

ご家族が摂食障害の場合、ご本人だけでなく、ご家族も大きな苦痛や混乱を抱えることがあります。まずは、ご本人に寄り添い、話を聞く姿勢を示すことが大切です。ただし、食行動や体型について直接的に批判したり、無理に食べさせようとしたり、逆に食べることを止めさせようとしたりすることは逆効果になることが多いです。

ご家族だけで抱え込まず、医療機関や相談機関に相談してください。摂食障害の治療では、ご家族の協力や理解が非常に重要となるため、ご家族向けのサポートプログラム(家族療法など)を提供している医療機関もあります。摂食障害に関する正しい知識を得ることも、ご本人への適切なサポートにつながります。

摂食障害の原因は親の育て方にあるのですか?

摂食障害は、前述の通り、心理的、社会的、生物学的な複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。特定の「育て方」だけが原因で発症するわけではありません。家族関係が摂食障害の発症や維持に影響を与えることはありますが、それは家族システム全体の問題であったり、コミュニケーションのパターンであったりすることが多く、特定の誰か(例えば母親)が悪いという単純なものではありません。家族全体で病気を理解し、回復に向けて協力していく姿勢が重要です。

身体的な問題が先に起こることもありますか?

はい、摂食障害の初期症状として、まず身体的な不調(体重減少、無月経、疲労感など)が顕著に現れ、そこから摂食行動や体型への問題が明らかになるケースもあります。特に若い方の場合、身体的な成長や変化の中で病気が進行し、身体症状が出てから気づかれることも少なくありません。体重や体調の異常を感じた場合は、まず内科などで相談し、必要に応じて精神科や摂食障害専門医への受診を検討することが大切です。

摂食障害と「新型栄養失調」は同じですか?

摂食障害と新型栄養失調は異なります。新型栄養失調は、カロリーは摂取しているものの、特定のビタミンやミネラルなどの栄養素が不足している状態を指します。これは、偏った食生活(例: カップ麺やコンビニ食ばかり、極端な単品ダイエットなど)によって起こることが多いです。

一方、摂食障害は食行動や体型への異常なこだわりを伴う精神疾患であり、その結果として低体重や栄養失調が生じたり、過食や代償行為によって身体的な問題が引き起こされたりします。摂食障害の一部(神経性やせ症の制限型など)では、極端なカロリー制限によって栄養失調になりますが、これは新型栄養失調とは異なるメカニズムで起こる状態です。摂食障害の治療には、栄養状態の改善だけでなく、精神的な問題へのアプローチが不可欠です。

摂食障害の再発を防ぐためには?

摂食障害は再発のリスクがある病気ですが、回復した状態を維持することは可能です。再発予防のためには、以下のような点が重要です。

  • 治療の継続: 症状が改善しても、自己判断で治療を中断せず、医師や心理士と相談しながら治療を継続すること。
  • ストレスマネジメント: ストレスを感じたときに、摂食障害の行動パターンに戻るのではなく、健康的な方法で対処するスキル(精神療法で学んだことなど)を活用すること。
  • 健康的な生活習慣: バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけること。
  • セルフモニタリング: 自身の食行動や体調、感情の変化に気づき、問題のサインを早期に察知すること。
  • サポートシステムの活用: 家族や友人、自助グループ、治療チームなど、信頼できる人たちからのサポートを得ること。
  • 定期的なフォローアップ: 必要に応じて、定期的に専門医や心理士の診察を受けること。

再発のサインに早く気づき、早期に相談することで、症状の悪化を防ぎ、再び回復軌道に乗せることが可能です。

【まとめ】摂食障害について知っておくべきこと

摂食障害は、食行動の異常にとどまらず、自己肯定感の低さや体型・体重への過度なこだわりを伴う精神疾患です。神経性やせ症(拒食症)、神経性過食症(過食症)、過食性障害などが主な種類として挙げられ、それぞれ症状に違いがあります。発症には、心理的、社会・文化的、生物学的な要因が複雑に影響し合っています。

摂食障害は放置すると、不整脈や電解質異常、骨粗鬆症など、生命に関わる深刻な身体合併症を引き起こすリスクがあります。また、抑うつや不安、人間関係の問題など、精神的な苦痛も伴います。

摂食障害の治療は、精神療法を中心に、薬物療法や必要に応じて入院治療が行われます。治療には時間と根気が必要ですが、適切な専門家の支援を受けることで、多くの人が回復することが可能です。回復の道のりは一人ひとり異なりますが、身体的・精神的な健康を取り戻し、より質の高い生活を送ることを目指せます。

もし、ご自身や大切な人が摂食障害かもしれないと感じたら、一人で悩まず、早めに専門家や相談窓口に助けを求めることが最も重要です。保健所や精神保健福祉センター、精神科や心療内科などで相談できます。摂食障害に関する正しい知識を持ち、早期に適切な支援につながることが、回復への第一歩となります。

【免責事項】

この記事は、摂食障害に関する一般的な情報を提供することを目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個々の症状や状況に応じて、適切な診断と治療法は異なります。ご自身の体調や症状に不安がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。この記事の情報によって生じたいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いかねます。

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