インターネット依存症の診断書|取得方法・費用・どこで取れる?

インターネットやデジタルデバイスの普及は私たちの生活を豊かにしましたが、その一方で、使用をコントロールできなくなり、日常生活に支障をきたす「インターネット依存症」に悩む人が増えています。この状態は、単なる「使いすぎ」ではなく、専門的な診断と適切な対応が必要な病態として認識されつつあります。学校での学業不振、職場でのパフォーマンス低下、あるいは家族関係の悪化など、様々な問題の背景にインターネット依存症がある場合、その状態を証明するために「診断書」が必要となることがあります。診断書は、問題の性質を明確にし、学校や職場、行政機関などに対して、理解や支援を求めるための重要な手がかりとなります。この記事では、インターネット依存症の診断書が必要となるケース、診断基準、診断を受けられる医療機関、費用、そして診断書を取得するための具体的なプロセスについて詳しく解説します。もしご自身やご家族がインターネットの使用に関して問題を抱え、診断書の必要性を感じている場合は、ぜひこの記事を参考に、専門機関への相談を検討してみてください。

インターネット依存症とは、インターネットやオンラインゲームなどのデジタルデバイスの使用を、自分でコントロールすることが困難になり、その結果として日常生活(学業、仕事、人間関係、健康など)に重大な支障が生じている状態を指します。これは世界的に認識されつつある行動嗜癖の一種であり、特定の精神疾患の診断基準にも取り入れられ始めています。

「インターネット依存症」という言葉は広く使われていますが、医学的な診断名としては、世界保健機関(WHO)が定める国際疾病分類(ICD-11)では「ゲーム行動症(Gaming disorder)」が、アメリカ精神医学会(APA)が定める精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)では「インターネットゲーム障害(Internet Gaming Disorder)」が研究診断基準として記載されています。これらの診断基準は、特定のパターン化されたゲーム行動(オンラインまたはオフライン)に焦点を当てていますが、広義のインターネット依存症として、ゲーム以外のSNS、動画視聴、インターネットサーフィンなどが問題となるケースも含まれると考えられます。

なぜ、専門家による診断が必要なのでしょうか。まず、インターネット依存症は、うつ病、不安障害、注意欠如・多動症(ADHD)、発達障害、他の依存症(アルコール依存症など)といった他の精神疾患や障害と合併しているケースが少なくありません。専門家による診断を受けることで、インターネット使用の問題が単独で起きているのか、それとも他の問題と関連しているのかを正確に把握できます。

診断を受けることのメリットは多岐にわたります。

  • 問題の明確化: 自身のインターネット使用の問題が、医学的な視点からどのような状態であるかを理解できます。
  • 適切な治療への接続: 診断に基づき、認知行動療法などの効果が確認されている専門的な治療法や、合併している精神疾患に対する治療を受けることができます。
  • 周囲の理解促進: 診断書があることで、家族や学校、職場などの周囲の人々が問題の深刻さを理解しやすくなり、適切な支援を得やすくなります。
  • 公的な支援の活用: 状況によっては、福祉サービスや経済的な支援(障害年金など)の申請において、診断書が証明資料として必要となる場合があります。

自己判断や根拠のない情報に頼るのではなく、専門家による正確な診断を受けることが、問題解決への第一歩となります。特に、問題が長期化している場合や、学業・仕事・健康に深刻な影響が出ている場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

診断書が必要となる主なケース

インターネット依存症の診断書は、様々な公的・私的な場面で、本人の状態を証明し、必要な配慮や支援を得るために利用されます。具体的にどのようなケースで診断書が必要になるのかを見ていきましょう。

1. 学校関連

  • 不登校・欠席の理由証明: インターネット依存により学校に登校できない、あるいは授業を欠席することが増えた場合、診断書は欠席理由の正当性を証明し、学校側の理解と協力体制を築くために役立ちます。
  • 単位取得や進級・卒業に関する配慮: 長期欠席により単位が危うい、あるいは進級・卒業が困難になった場合、診断書を提出することで、追試や補習、課題免除など、個別の配慮や代替措置が検討されることがあります。
  • 復学支援・学習環境の調整: 復学を目指すにあたり、学校側と連携して学習計画を立てたり、特別な支援クラスへの編入などを検討する際に、本人の状態を伝える重要な資料となります。
  • 特別支援教育や通級指導教室の利用: 診断や状態によっては、特別支援教育の対象となったり、通級指導教室での専門的なサポートを受けるための根拠となることがあります。

2. 職場関連

  • 休職・病気休暇の申請: インターネット依存が原因で心身の不調をきたし、業務遂行が困難になった場合、医師の診断書は休職や病気休暇を取得するための正式な手続きに不可欠です。
  • 復職支援・職場環境の調整: 休職からの復帰にあたり、段階的な勤務や業務内容の調整、時短勤務などを希望する場合、診断書には本人の回復状況や職場に求める配慮事項などが記載され、スムーズな復職支援に役立ちます。
  • 人事評価や配置に関する理解促進: パフォーマンスが低下している原因がインターネット依存症にあることを会社に理解してもらうことで、不当な評価や降格を避け、治療に専念できる環境を整える助けとなります。
  • ハラスメントや人間関係の問題: 依存症の状態から職場での人間関係に問題が生じた場合、診断書が本人の状態を説明し、会社側が適切な対応を検討する際の参考となることがあります。

3. 行政・司法関連

  • 障害年金の申請: インターネット依存症が原因で長期にわたり就労が困難であるなど、一定の基準を満たすと判断された場合、障害年金の申請が可能となることがあります。この際に、医師の診断書は最も重要な提出書類の一つです。
  • 生活保護の申請: 病気や障害が原因で就労できず、経済的に困窮した場合、生活保護の申請が必要となることがあります。診断書は病状や就労能力について証明する書類となります。
  • 裁判手続き(離婚、親権、賠償請求など): 夫婦の一方または双方がインターネット依存症である場合、離婚や親権、財産分与などの裁判において、その状態が争点となることがあります。診断書は、本人の状態や家庭への影響などを客観的に示す証拠資料として提出されることがあります。
  • 犯罪行為との関連: インターネット依存が原因で、詐欺、横領、窃盗などの犯罪行為に関与してしまった場合、裁判において本人の精神状態を判断するための資料として診断書が必要となることがあります。

4. 家族の理解と支援

  • 家族がインターネット依存症を「単なる怠け」や「意志の弱さ」と捉えている場合、医師による診断書を見せることで、これが病気であるという認識を共有し、適切な支援体制を築くきっかけとなります。
  • 家族会や自助グループに参加する際に、自身の状況を説明するための根拠となることもあります。

5. 治療・リハビリテーション施設への入所

  • 重症化した場合や、家庭環境での回復が難しい場合に、専門の治療・リハビリテーション施設への入所が検討されます。入所審査やプログラムへの参加にあたり、医師の診断書や紹介状が必要となることが一般的です。

このように、インターネット依存症の診断書は、様々な場面で本人の状況を正確に伝え、必要な支援や配慮を引き出すための有効な手段となります。ただし、診断書があれば全ての状況が解決するわけではなく、診断を基に適切な治療や支援に繋げることが最も重要です。

インターネット依存症の診断基準

インターネット依存症という状態を医学的に診断するために、国際的な診断基準が用いられます。主要なものは、アメリカ精神医学会が発行する「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)」と、世界保健機関(WHO)が定める「国際疾病分類(ICD)」です。これらの最新版では、特定のインターネット使用に関する問題が取り上げられています。

DSM-5による診断基準

DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)では、「インターネットゲーム障害(Internet Gaming Disorder)」が、今後の研究のための病態(Conditions for Further Study)として記載されています。これは、現時点では正式な精神疾患として広く認められているわけではないものの、臨床的に重要であり、さらなる研究が必要であると位置づけられていることを意味します。

インターネットゲーム障害の診断基準は、以下の9つの項目のうち、12ヶ月の期間内に5つ以上を満たす場合に疑われます。

  • ゲームへのとらわれ: ゲームのことばかり考える。以前のゲームプレイを思い出したり、次のゲームプレイを予期したり、ゲームをしていない時でもゲームについて考えたりする。
  • 離脱症状: ゲームをしない時に、落ち着きのなさ、易怒性、不安、悲しさなどの離脱症状を経験する。
  • 耐性: ゲームを楽しむために、より多くの時間を費やす必要を感じる。または、より多くのゲームをプレイする必要がある。
  • コントロールの喪失: ゲームをする時間を減らそうとしたり、中止しようとしたりしても、うまくいかない。
  • 興味・関心の喪失: ゲーム以外の以前楽しんでいた活動への興味や関心を失う、または大幅に減らす。
  • 問題継続: ゲームの使用による心理的・社会的問題があることを知っているにもかかわらず、ゲームを継続する。
  • 偽り: ゲームの使用時間や程度について、家族、治療者、その他の人々に嘘をつく。
  • 逃避・救済: 嫌な気分(無力感、罪悪感、不安、抑うつなど)から逃れるため、あるいはそれらを和らげるためにゲームをする。
  • 人間関係・仕事・学業への影響: ゲームの使用によって、重要な人間関係、仕事、学業、キャリアの機会を危うくしたり、失ったりした。

これらの基準は、特にゲームに焦点を当てたものですが、SNSやインターネットサーフィンなど、ゲーム以外の特定のインターネット使用が問題となっている場合も、臨床的な判断においてこれらの基準を参考にすることがあります。ただし、DSM-5で明確に定義されているのは「ゲーム障害」のみです。

ICD-11(ゲーム行動症/Gaming disorder)による診断基準

ICD-11(International Classification of Diseases, 11th Revision)は、世界保健機関(WHO)によって採択された国際的な疾病分類であり、2022年1月から発効しました。ICD-11では、「ゲーム行動症(Gaming disorder)」が正式な診断名として「依存症群(Disorders due to addictive behaviours)」に分類されています。これは、ゲーム行動症がギャンブル障害などと同様の行動嗜癖として医学的に正式に位置づけられたことを意味します。

ゲーム行動症の診断基準は、以下の3つの特徴的な行動パターンが、個人、家族、社会、教育、職業、または他の重要な機能領域において臨床的に重大な障害を引き起こすほど重症である場合に該当します。この行動パターンは、通常12ヶ月以上の期間にわたって明らかである必要がありますが、診断に必要な全ての要件が満たされ、症状が重症である場合は、より短期間でも診断されることがあります。

  • コントロールの障害: ゲームをいつ始めるか、どれくらいの時間行うか、いつやめるか、頻度、強度、期間、文脈などに関して、ゲーム行動をコントロールできないこと。
  • ゲームを最優先する: 生活上の関心事や日々の活動よりも、ゲームを優先するようになること。ゲームへの関心や活動が大幅に増加する。
  • 否定的な結果を知っていても継続・エスカレートする: ゲーム行動によって否定的な結果が生じているにもかかわらず、そのゲーム行動を継続するかエスカレートさせること。

ICD-11におけるゲーム行動症は、オンラインまたはオフラインのゲーム活動に焦点を当てたものですが、ICD-11でも広義のインターネット使用に関する問題全体を包括的に捉えるための検討が進められています。

これらの診断基準は、医師が問診、本人からの情報収集、家族からの情報収集、必要に応じて心理検査などを総合的に判断する際の重要な枠組みとなります。診断にあたっては、これらの基準に機械的に当てはめるだけでなく、個々の状況や背景、合併症の有無などを考慮した臨床的な判断が不可欠です。

診断書を取得するためのプロセス

インターネット依存症の診断書を取得するためには、まず専門の医療機関を受診し、医師による診断を受ける必要があります。その具体的なプロセスを見ていきましょう。

診断を受けられる病院・医療機関の種類

インターネット依存症の診断や治療は、主に精神科や心療内科で行われます。しかし、全ての精神科・心療内科がインターネット依存症の診療に詳しいわけではありません。診断を受ける際は、以下のような医療機関を検討すると良いでしょう。

  • 精神科・心療内科: 一般的な精神疾患を診療している医療機関です。予約が必要な場合が多いです。事前にインターネット依存症の診療が可能か、得意としているかなどを確認すると良いでしょう。
  • 依存症専門病院: アルコール、薬物、ギャンブルなど、様々な依存症の治療を専門に行っている病院です。インターネット依存症も行動嗜癖として扱っており、専門的な知見やプログラムを持っていることが多いです。
  • 大学病院精神科: 高度な医療を提供しており、複雑なケースや合併症がある場合にも対応可能です。研究機関でもあるため、最新の知見に基づいた診療を受けられる可能性があります。初診には紹介状が必要な場合が多いです。
  • 児童精神科: 患者が未成年である場合、児童精神科を標榜している医療機関が適しています。子どもの発達段階や家族関係などを考慮した専門的なアプローチが期待できます。

医療機関を選ぶ際は、自宅からの通いやすさ、予約の取りやすさ、評判なども考慮に入れつつ、インターネット依存症の診療経験が豊富かどうかが重要なポイントとなります。インターネット検索や地域の精神保健福祉センターなどに相談して、適切な医療機関を紹介してもらうのも良い方法です。

診断の具体的な流れ

医療機関を受診してから診断書を受け取るまでの一般的な流れは以下のようになります。

  • 予約: 多くの精神科・心療内科は予約制です。電話またはインターネットで予約を取りましょう。予約時に、インターネット依存症の相談である旨を伝えておくとスムーズです。
  • 受付・予診票の記入: 受診当日、受付で保険証を提示し、問診票を記入します。問診票には、現在の症状、インターネットの使用状況(使用時間、頻度、内容など)、生活への影響、既往歴、家族歴、服用中の薬などを詳しく記入します。
  • 医師による診察(問診): 記入した問診票を基に、医師が本人から直接症状について聞き取ります。インターネットの使用状況、問題がいつから始まったのか、どのような状況で問題が起きやすいか、やめようとしたか、やめられなかったか、身体的・精神的な症状、学業や仕事、人間関係への影響など、多岐にわたる質問があります。
  • 心理検査・その他の検査(必要に応じて): 医師の判断により、症状の背景にある要因や合併症の有無を調べるために、心理検査(発達検査、知能検査、性格検査、抑うつや不安の評価尺度など)や、身体的な問題を除外するための血液検査などが行われることがあります。
  • 家族からの情報収集(必要に応じて): 本人の同意があれば、同席した家族や後日、家族から本人の自宅での様子や問題行動について聞き取りが行われることがあります。本人の自己認識と実際の状況が異なる場合があるため、家族からの情報は診断の精度を高める上で非常に重要です。
  • 診断結果の説明: これらの情報に基づいて、医師が診断を確定し、本人または家族に診断結果について説明します。インターネット依存症(またはゲーム行動症など)と診断された場合、その根拠や重症度、合併症の有無などについて説明があります。
  • 治療方針の相談: 診断結果を踏まえ、今後の治療方針について医師と相談します。認知行動療法、家族療法、薬物療法(合併症に対して)など、様々な選択肢があります。
  • 診断書の発行依頼: 診断書が必要な旨を医師または受付に伝えます。診断書の提出先(学校、職場、行政機関など)や、記載してほしい内容(病名、病状、経過、日常生活への支障、必要な配慮事項など)を具体的に伝えましょう。
  • 診断書の作成・受け取り: 医師が診断書を作成します。作成には数日から1週間程度かかることが多いです。完成したら、医療機関の窓口で受け取るか、郵送してもらうことも可能です(郵送の場合は別途郵送費がかかります)。

診断書の内容は、医師が医学的な根拠に基づいて作成するため、希望通りの内容が必ずしも記載されるわけではありません。しかし、提出先で診断書がどのような目的で必要なのか、具体的にどのような情報が求められているのかを医師に伝えることで、より目的に合った診断書を作成してもらえる可能性が高まります。

診断にかかる費用について

インターネット依存症の診断にかかる費用は、医療機関の種類や行う検査によって異なりますが、一般的に保険診療の対象となります。

  • 初診料・再診料: 病院に初めてかかる際には初診料、2回目以降は再診料がかかります。保険適用で3割負担となります。
  • 各種検査費用: 医師が必要と判断した心理検査や血液検査などには費用がかかります。これらの費用も保険適用となります。検査の内容によって費用は大きく異なります。
  • 診断書作成費用(文書料): 診断書を作成してもらう際には、保険診療とは別に文書料がかかります。これは自費となり、保険は適用されません。医療機関によって金額は異なりますが、一般的に3,000円から10,000円程度が相場です。複雑な内容や詳細な記述が必要な場合は、費用が高くなることがあります。
費用の種類 保険適用 費用目安(3割負担の場合) 備考
初診料 数百円〜2,000円程度 医療機関の種類や地域によって異なります
再診料 数百円程度
心理検査費 数千円〜1万円程度 検査内容によって大きく異なります
血液検査費など 数百円〜数千円程度 検査内容によって異なります
診断書作成費用 × 3,000円〜10,000円程度 医療機関によって異なります(自費)

総額としては、初回の受診で診断書を発行してもらう場合、初診料や検査費用に加えて診断書作成費用がかかるため、数千円から2万円程度になることが考えられます。ただし、診断が複雑で複数回の診察や検査が必要となる場合は、これ以上の費用がかかることもあります。

具体的な費用については、受診を検討している医療機関に直接問い合わせて確認することをおすすめします。また、経済的な理由で医療機関への受診が難しい場合は、後述する公的な相談窓口などに相談してみることも可能です。

診断書に関するよくある質問(PAA)

インターネット依存症の診断書について、多くの人が疑問に思う点についてQ&A形式で解説します。

ネット依存の正式な診断名は?

広く使われている「インターネット依存症」という言葉は、医学的な診断名としては、現時点では国際的な分類で完全に一致した正式名称としては確立されていません。

  • ICD-11: 世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第11版では、「ゲーム行動症(Gaming disorder)」が正式な診断名として採用されています。これは、オンラインまたはオフラインのゲーム活動に関する行動嗜癖を指します。
  • DSM-5: アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版では、「インターネットゲーム障害(Internet Gaming Disorder)」が今後の研究のための病態(研究診断基準)として記載されています。これもゲームに特化した基準です。

したがって、厳密には「インターネット依存症」全般(ゲーム以外を含む)を指す統一された正式診断名は、現在の主要な診断基準にはないと言えます。しかし、臨床現場では便宜上、「インターネット依存症」や「ネット依存」という用語が使用されたり、ゲーム以外の特定のインターネット利用(SNS、動画視聴など)が問題である場合は、「ゲーム障害」の診断基準を参考にしながら、臨床的な判断として診断されたりすることがあります。

診断書には、医師の判断に基づいて「ゲーム行動症」「インターネットゲーム障害」あるいはより広範な意味で「インターネット依存症」といった病名が記載されることがあります。

インターネット依存症の分類は?

インターネット依存症は、医学的には「行動嗜癖(こうどうしへき)」の一つとして捉えられています。行動嗜癖とは、特定の行動(ギャンブル、買い物、インターネットなど)を繰り返し行わずにはいられなくなり、それが本人の生活に深刻な問題を引き起こす状態を指します。

かつて「依存症」といえば、アルコールや薬物といった物質への依存を指すことがほとんどでしたが、近年はインターネットやギャンブルなど、特定の行動パターンに対する依存も精神疾患として認識されるようになりました。

DSM-5では、ギャンブル障害が「物質関連障害および嗜癖性障害群」の中に正式な疾患として位置づけられています。インターネットゲーム障害は、この章の最後に「今後の研究のための病態」として掲載されています。ICD-11では、ゲーム行動症が「依存症群」の中に「物質を使用しない依存症」として正式に分類されています。

インターネット依存症は、その対象によってさらに細かく分類されることもありますが、これらは研究上の分類であり、診断基準として確立されているわけではありません。例えば、以下のような分類が提唱されることがあります。

  • オンラインゲーム依存
  • SNS依存
  • 動画視聴依存
  • ポルノグラフィ依存
  • オンラインショッピング依存

しかし、これらの分類は明確な線引きが難しく、複数の対象に依存しているケースも少なくありません。診断書においても、具体的な問題となっているインターネットの使用内容が記載されることはありますが、上記の細分類がそのまま病名として記載されることは一般的ではありません。

ゲーム依存症の診断基準について詳しく教えて

ゲーム依存症の診断基準は、前述のDSM-5における「インターネットゲーム障害」の研究診断基準と、ICD-11における「ゲーム行動症」の正式診断基準が主に用いられます。

DSM-5 インターネットゲーム障害(研究診断基準):

12ヶ月間に以下の9項目のうち5つ以上を満たし、臨床的に重大な苦痛または機能の障害を引き起こしている場合。

  • ゲームへのとらわれ
  • ゲームをしないときの離脱症状
  • 耐性(ゲーム時間を増やす必要)
  • コントロールの喪失
  • ゲーム以外の興味・関心の喪失
  • 問題を知っていても継続
  • ゲーム使用に関する偽り
  • 嫌な気分からの逃避
  • 人間関係・仕事・学業への影響

ICD-11 ゲーム行動症(Gaming disorder)(正式診断基準):

持続的または反復的なゲーム行動パターンで、以下の3つの特徴がみられ、個人、家族、社会、教育、職業などの重要な機能領域に重大な障害を引き起こしており、通常12ヶ月以上続いている場合(重症の場合は短期間でも診断)。

  • ゲームをコントロールできない(開始、頻度、強度、期間、終了など)
  • 生活上の他の関心事や活動よりゲームを優先する
  • 否定的な結果が生じてもゲームを継続・エスカレートさせる

どちらの基準も、ゲーム行動のコントロール喪失、ゲーム以外の活動への関心の低下、ゲームによる否定的な結果が生じているにもかかわらず継続すること、そしてそれが日常生活に重大な支障をきたしている点を重視しています。

診断は、これらの基準を満たすかどうかを医師が総合的に判断します。基準項目をいくつか満たすからといって、必ずしも診断がつくわけではありません。その行動によって実際にどのような問題が生じているか、その問題の深刻さが診断において重要となります。

インターネット依存症になりやすい年齢層は?

インターネット依存症は、特定の年齢層に限定されるものではありませんが、思春期から青年期(10代半ばから20代)にかけてリスクが高いとされています。この時期は、脳の発達過程で衝動性のコントロールや将来を見据えた行動計画を立てる能力が未熟であることに加え、友人とのコミュニケーションや自己肯定感の形成においてインターネットやオンラインゲームが重要な役割を果たすことがあります。仲間との繋がりを維持したい、オンラインでの承認を得たい、現実逃避したいといった心理が、過剰な使用に繋がりやすいと考えられます。

また、進学や就職といった環境の変化が大きい時期でもあり、新たな環境への適応がうまくいなかったり、ストレスを抱えたりすることが、インターネットへの逃避を促す要因となることもあります。

しかし、近年はスマートフォンの普及やオンラインサービスの多様化により、子ども(特に小学生高学年から中学生)や、子育てや介護などによる孤立、退職後の喪失感などを背景とした成人、高齢者においてもインターネット依存の問題が増加傾向にあります。特に、コロナ禍以降は自宅で過ごす時間が増えたことで、年齢を問わずインターネットの使用時間が増加し、依存につながるリスクが高まっていると言われています。

どの年齢層でも、孤独感、ストレス、自己肯定感の低さ、コミュニケーション能力の課題、他の精神疾患(うつ病、不安障害、ADHDなど)の合併は、インターネット依存症のリスクを高める要因となります。

診断後の治療法と相談先

インターネット依存症と診断された場合、それは問題解決への第一歩です。診断を受けた後、どのように治療を進めていくか、どのような相談先があるかを知っておくことは非常に重要です。

認知行動療法などの治療について

インターネット依存症の治療法として、最も広く行われ、効果が確認されているのは「認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)」です。認知行動療法は、患者自身の考え方(認知)や行動パターンに働きかけ、問題となる行動をコントロールできるようにしていく精神療法です。

インターネット依存症における認知行動療法では、以下のような点に取り組みます。

  • 問題の認識: 自身のインターネット使用が問題であること、それが生活にどのような影響を与えているかを正しく認識する。
  • 行動の記録と分析: どのような状況で、どのくらいの時間、どのような内容のインターネット使用をしているのかを記録し、問題となるパターンを特定する。
  • 衝動への対処: インターネットを使いたいという衝動が起きたときに、その衝動をやり過ごしたり、別の行動に置き換えたりする方法を学ぶ。
  • 否定的な思考パターンの修正: 「インターネットでしか自分は価値がない」「現実の世界はつまらない」といった、インターネット使用を促進するような歪んだ考え方を見つけ出し、より現実的で肯定的な考え方に変えていく。
  • 代替行動の開発: インターネットに費やしていた時間やエネルギーを、趣味、運動、人との交流など、現実世界での建設的な活動に向ける。
  • 問題解決スキルの向上: インターネットに逃避する原因となっている現実世界での問題(ストレス、人間関係、学業・仕事の悩みなど)に対処するスキルを身につける。
  • 再発予防: 治療を通じて得たスキルを維持し、再び問題となる行動に戻らないための計画を立てる。

認知行動療法は、個人療法として医師や心理士とのセッションで行われるほか、集団療法として他の患者と共に取り組む場合もあります。

認知行動療法の他にも、以下のような治療法が併用されたり、選択されたりすることがあります。

  • 動機づけ面接: 患者自身の「変わりたい」という気持ちを引き出し、行動変容への動機を高める面接技法。
  • 家族療法: インターネット依存症は家族全体に影響を与えるため、家族の協力が不可欠です。家族が依存症を理解し、本人とのコミュニケーションを改善し、建設的な関わり方を学ぶための療法です。
  • 薬物療法: インターネット依存症自体に直接的に効く特効薬はありません。しかし、うつ病、不安障害、ADHDなどの合併症がある場合には、それらの症状を緩和するために抗うつ薬、抗不安薬、ADHD治療薬などが処方されることがあります。これらの治療により、インターネット依存症の間接的な改善が期待できる場合があります。

治療期間や内容は、患者の症状の重さ、合併症の有無、本人の意欲などによって大きく異なります。医師や医療専門家とよく相談し、ご自身に合った治療計画を立てることが重要です。

入院が必要なケースと費用

インターネット依存症の治療は、基本的に通院治療で行われることが多いですが、以下のような重症なケースでは入院治療が検討されることがあります。

  • 重度の精神的・身体的な合併症がある場合: インターネットの使用により、不眠、栄養失調、エコノミークラス症候群、うつ病、自殺念慮などが深刻な状態にある場合。
  • 自己コントロールが極めて困難で、自宅環境での回復が難しい場合: 家庭内でインターネット環境を遮断することが困難であったり、家族との関係が破綻寸前であったりする場合。
  • 他の依存症や精神疾患も併発しており、包括的な治療が必要な場合: アルコール依存症や薬物依存症、摂食障害など、複数の問題を抱えている場合。
  • 本人に治療への抵抗が強く、家族の説得だけでは対応が難しい場合: 家族が本人の同意を得るのが困難であったり、医療機関への受診を頑なに拒否したりする場合。

入院治療は、インターネットから物理的に離れた環境で、集中的な治療プログラム(認知行動療法、集団療法、作業療法など)を受けられるというメリットがあります。また、規則正しい生活を取り戻し、心身の回復を図ることも目的となります。

入院にかかる費用は、医療機関の種類(精神科病院、依存症専門病院など)、病室の種類(個室か大部屋か)、入院期間、治療内容、保険の種類(加入している健康保険)によって大きく異なります。

  • 医療費: 診断、検査、治療、薬剤費などがかかります。これらは保険適用となります。
  • 食事代: 入院中の食事代がかかります。これも保険適用される部分と、自費負担となる部分があります。
  • 差額ベッド代: 個室や少人数部屋など、大部屋以外の病室を希望した場合にかかります。これは全額自費負担です。
  • その他の費用: 日用品費、テレビや冷蔵庫の使用料などがかかる場合があります。

入院期間にもよりますが、月額で数万円から数十万円かかることもあります。ただし、高額療養費制度を利用することで、医療費の自己負担額に上限が設けられる場合があります。この制度は、ひと月の医療費の自己負担額が高額になった場合に、所得に応じて定められた自己負担限度額を超えた分が払い戻される制度です。事前にご加入の健康保険組合や後期高齢者医療制度に確認することをおすすめします。

具体的な入院費用や高額療養費制度については、入院を検討している医療機関や、お住まいの自治体の福祉担当窓口に相談してください。

その他の専門機関・相談窓口

インターネット依存症に関する問題は、医療機関だけでなく、様々な専門機関や相談窓口でも対応しています。診断書が必要かどうかに関わらず、まずは相談してみたいという場合に活用できます。

  • 精神保健福祉センター: 各都道府県・政令指定都市に設置されている公的な機関です。精神的な問題や依存症に関する相談を無料で受け付けています。保健師、精神保健福祉士、医師などの専門職が配置されており、電話相談や面接相談が可能です。適切な医療機関や支援機関を紹介してもらうこともできます。
    * メリット: 専門家による相談が無料で受けられる。地域の医療・支援情報に詳しい。
    * デメリット: 予約が取りにくい場合がある。診断や治療は行っていない。
  • 依存症専門医療機関の相談窓口: 依存症専門病院などでは、受診する前に電話相談窓口を設けている場合があります。病状や治療について具体的な情報を得ることができます。
  • 自助グループ・家族会: 同じ問題を抱える当事者やその家族が集まり、経験や気持ちを共有し、互いに支え合う場です。「GA(ゲーマーズ・アノニマス)」など、ゲーム依存に特化したグループもあります。医療機関の治療と並行して利用することで、回復の大きな助けとなります。
    * メリット: 同じ経験を持つ人々と繋がれる。安心して本音で話せる。参加費が無料または低額。
    * デメリット: 専門的な医療行為は行われない。グループによって雰囲気や活動内容が異なる。
  • 児童相談所(18歳未満の子どもがいる家庭): 子どものインターネット依存が疑われる場合、児童相談所に相談することができます。虐待や非行だけでなく、様々な養育上の困難に対する相談に応じています。
  • 学校のスクールカウンセラー・養護教諭: 子どもの場合、まず学校の先生やスクールカウンセラー、養護教諭に相談してみるのも良いでしょう。学校内での状況を把握しており、学校としての対応や外部機関への相談を一緒に考えてくれます。
  • 職場の産業医・産業保健師: 成人の場合、職場の産業医や産業保健師に相談することで、業務との関連性や休職・復職に関するアドバイスを得られることがあります。

これらの相談窓口は、抱えている問題の整理、適切な対応策の検討、そして必要な場合は専門医療機関への橋渡し役となります。一人で悩まず、まずは相談してみることを強くおすすめします。

まとめ:インターネット依存症と診断書について

インターネット依存症は、インターネットやデジタルデバイスの使用をコントロールできなくなり、学業、仕事、人間関係、健康といった日常生活に深刻な影響を及ぼす状態であり、専門的な診断と治療が必要な病態として認識されつつあります。

この問題が原因で学校や職場、行政手続きなどで支障が生じている場合、医師による診断書が、本人の状態を客観的に証明し、必要な理解や支援を得るための重要な書類となります。診断書が必要となる具体的なケースは、不登校や休職の申請、復学・復職支援、障害年金などの行政手続き、裁判上の証拠など多岐にわたります。

インターネット依存症の診断は、主に精神科や心療内科、依存症専門病院などの医療機関で行われます。診断基準としては、WHOのICD-11における「ゲーム行動症(Gaming disorder)」や、APAのDSM-5における「インターネットゲーム障害(Internet Gaming Disorder)」などが参考にされます。医師は問診や心理検査、家族からの情報などを総合的に判断して診断を行います。

診断書を取得するためには、まずこれらの専門医療機関を受診し、医師の診断を受ける必要があります。診断にかかる費用は、初診料、再診料、各種検査費用などが保険適用となりますが、診断書作成費用は保険適用外(自費)となり、医療機関によって金額が異なります。

診断を受けた後の治療法としては、認知行動療法(CBT)が中心となります。これは、問題となる考え方や行動パターンを修正し、現実世界での代替行動を増やしていく精神療法です。重症の場合や合併症がある場合は、入院治療が検討されることもあります。

医療機関での治療と並行して、精神保健福祉センターや自助グループ、家族会などの相談機関や支援団体も重要な役割を果たします。これらの機関は、相談対応、情報提供、当事者や家族の交流支援などを行っており、一人で抱え込まずに問題に取り組むための大きな助けとなります。

インターネット依存症は回復可能な病態ですが、そのためには早期の専門的な診断と適切な治療、そして周囲の理解と支援が不可欠です。もしご自身やご家族のインターネット使用について不安を感じていたり、診断書の必要性を感じたりしている場合は、まずは専門機関に相談してみてください。

免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、医学的診断や治療を推奨するものではありません。個々の症状や状況については、必ず専門の医師にご相談ください。本記事の情報に基づいて行われた行為や判断によって生じたいかなる結果に関しても、筆者および公開元は責任を負いかねます。

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ご自身やご家族のインターネット使用についてお悩みの方は、まずはお近くの精神科、心療内科、または依存症専門医療機関にご相談ください。

また、以下の公的な機関でも相談を受け付けています。

  • 精神保健福祉センター: [お住まいの都道府県名] 精神保健福祉センター
    (各都道府県の公式サイトなどで検索できます)
  • 各自治体の保健センター・福祉担当窓口

一人で悩まず、専門家のサポートを受けて問題解決への第一歩を踏み出しましょう。

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