異食症は、食べ物ではないものを繰り返し食べ続けてしまう行動を指します。
この行動は、本人や周囲の人々にとって大きな不安や困難を伴うことがあります。
なぜ、食べ物ではないものを食べたくなるのでしょうか。
異食症の原因は一つではなく、栄養不足、心理的な問題、発達上の特性など、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
この記事では、異食症の定義や診断基準から、考えられる原因、症状、リスク、そして適切な診断と治療法について詳しく解説します。
異食症でお悩みの方、あるいは周囲に異食行動が見られる方がいる方は、ぜひ最後までお読みください。

異食症とは？定義と診断基準

異食症は、食べ物ではないものを繰り返し摂取してしまう摂食障害の一種です。
この行動は、文化的に受け入れられている習慣や発達段階における一過性の行動とは区別されます。

Pica（異食症）の基本的な特徴

異食症は、医学的には「Pica（ピカ）」とも呼ばれます。
その基本的な特徴は、栄養価のない非食物を、少なくとも1ヶ月以上にわたって、持続的に摂取することです。
摂取される非食物の種類は多岐にわたり、土、紙、髪の毛、氷、金属、プラスチック、塗料、石鹸、排泄物など、様々です。
この行動は、年齢や個人の状態によって現れ方が異なります。
乳幼児が口に物を入れる行動は通常の発達過程で見られますが、異食症は特定の年齢（通常は18〜24ヶ月以降）を過ぎても続く場合や、危険なものを摂取する場合に疑われます。
また、特定の文化や習慣において非食物を摂取する行為（例：出産後の土を食べる習慣など）は、異食症とは区別されます。

DSM-5による診断基準

異食症の診断には、精神疾患の診断・統計マニュアルであるDSM-5（Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition）が用いられます。
DSM-5における異食症の診断基準は以下の通りです。

• 基準A: 少なくとも1ヶ月間、栄養価のない非食物を持続的に摂取する。
• 基準B: 非食物の摂取は、個人の発達段階からみて不適切である。
  • （例：通常、18ヶ月以下の乳幼児が非食物を口にすることは正常な探索行動であり、この基準には当てはまらない。）
• 基準C: 非食物の摂取は、文化的に受け入れられている習慣や社会規範の一部ではない。
• 基準D: 非食物の摂取が、他の精神疾患（例：知的障害、自閉スペクトラム症、統合失調症）または他の医学的疾患（例：妊娠）の経過中に生じる場合、その行動が臨床的注意を要するほど重度である。

これらの基準を満たす場合に、異食症と診断される可能性があります。
ただし、診断は専門医によって慎重に行われる必要があります。

異食症の主な原因

異食症の原因は単一ではなく、生物学的要因、心理的要因、発達的要因、環境的要因など、様々な要素が複雑に絡み合っていると考えられています。
ここでは、異食症を引き起こす可能性のある主な原因を解説します。

栄養不足による原因（鉄欠乏性貧血など）

異食症の最も一般的な原因の一つとして、特定の栄養素の不足が挙げられます。
特に鉄欠乏性貧血との関連がよく知られています。
体内の鉄分が不足すると、氷や土などを無性に食べたくなるといった症状が現れることがあります。
これを「氷食症」と呼び、鉄欠乏性貧血の兆候である場合があります。
鉄分以外にも、亜鉛やカルシウムなどのミネラルや、特定のビタミンの不足が異食行動と関連している可能性が指摘されています。

栄養不足が異食症を引き起こす正確なメカニズムは完全には解明されていませんが、体が必要とする栄養素を摂取するために、本能的に特定の成分を含む非食物を求めるのではないか、あるいは特定の物質（鉄など）の代謝異常が、非食物への渇望を引き起こすのではないか、といった仮説があります。
栄養不足が原因の場合、不足している栄養素を補充することで異食行動が改善することがしばしば見られます。

精神的・心理的な要因

異食症は、精神的または心理的な要因と深く関連していることがあります。
以下のような状態が異食行動を引き起こしたり、悪化させたりする可能性があります。

• ストレスや不安: 日常生活における強いストレスや慢性的な不安は、心の安定を欠き、異食行動を自己鎮静や対処メカニズムとして用いることにつながる場合があります。
• 情緒不安定: 気分の変動が激しい、感情のコントロールが難しいといった情緒不安定な状態は、異食症のリスクを高める可能性があります。
• 抑うつ: 気分の落ち込み、意欲の低下などの抑うつ症状がある場合、異食行動が現実逃避や自己破壊的な行動の一部として現れることがあります。
• 強迫観念: 特定の非食物を食べたいという強い、抑えがたい衝動（強迫観念）が異食行動につながることもあります。
• トラウマ体験: 過去の虐待やネグレクトといったトラウマ体験が、自己肯定感の低下や情緒不安定を引き起こし、異食行動につながるケースもあります。
  異食行動が、過去の苦痛な経験から注意をそらすための手段となることも考えられます。
• 注意を引く行動: 特に子供の場合、周囲の関心や注意を引きたいという欲求が、異食行動という形で現れることがあります。

これらの精神的・心理的な要因が複雑に絡み合い、異食症の発症や持続に関与していると考えられています。

発達障害（自閉スペクトラム症など）との関連

自閉スペクトラム症（ASD）などの発達障害がある人において、異食症が見られることがあります。
発達障害の特性が異食行動に影響を与える要因として、以下の点が挙げられます。

• 感覚過敏または鈍麻: 特定の感覚刺激（味、匂い、食感、温度など）に対して過敏であったり、逆に鈍麻であったりする特性があります。
  非食物を口に入れることで、特定の感覚刺激を追求したり、感覚的な不快感を和らげようとしたりする場合があります。
  例えば、特定の硬さや形のものを噛むことで安心感を得る、といった行動が見られます。
• 反復行動: 特定の行動を繰り返し行う傾向があります。
  異食行動も、この反復行動の一つとして現れることがあります。
• 限局された興味: 特定の対象に強い興味やこだわりを持つことがあります。
  非食物も、その強い興味の対象となり得ます。
• コミュニケーションの困難: 自身の欲求や不快感をうまく言葉で伝えられない場合、異食行動がコミュニケーション手段の一つとなることもあります。

発達障害のある人における異食症は、単なる困った行動として捉えるのではなく、その行動の背景にある感覚特性やコミュニケーションの困難を理解することが重要です。

その他の身体的疾患

異食症は、栄養不足や精神・発達面以外の身体的な疾患や状態とも関連している場合があります。

• 知的障害: 知的発達の遅れがある場合、危険性の判断が難しいため、非食物を摂取するリスクが高まります。
• 統合失調症: 幻覚や妄想などの症状に伴って、異食行動が見られることがあります。
• 認知症: 判断力の低下に伴い、非食物を口に入れてしまうことがあります。
• 妊娠: 妊娠中に特定の非食物（例：氷、土）を食べたくなる「異食症」が見られることがあります。
  これはホルモンバランスの変化や栄養不足（特に鉄分）と関連していると考えられています。
• てんかん: まれに、てんかん発作の一症状として異食行動が現れることがあります。

このように、異食症は様々な原因によって引き起こされる可能性があり、その背景を正確に把握することが適切な対応と治療につながります。

異食症の症状とリスク

異食症の症状は、摂取される非食物の種類や量、頻度、そして個人の健康状態によって大きく異なります。
しかし、どのような非食物であれ、継続的な摂取は様々な健康上のリスクを伴います。

摂取されやすい非食物

異食症で摂取されやすい非食物は非常に多様です。
代表的な例を以下に示します。

非食物の種類	例	考えられる関連原因（例）
土/粘土 (Geophagia)	土、泥、粘土	栄養不足（特に鉄分、ミネラル）、文化的習慣
氷 (Pagophagia)	氷	鉄欠乏性貧血
紙 (Pica of paper)	紙、ティッシュペーパー	精神的・心理的要因、発達障害
髪の毛 (Trichophagia)	髪の毛、絨毯の繊維	精神的・心理的要因（抜毛症との関連も）
金属 (Metallophagia)	金属片、硬貨	発達障害、精神疾患
石 (Lithophagia)	小石、砂利	発達障害、知的障害
塗料/壁の破片 (Plumbophagia)	塗料、壁の破片（鉛を含む場合危険）	栄養不足、知的障害、環境要因（古い建物）
プラスチック (Plasticophagia)	プラスチック片、おもちゃの破片	発達障害、知的障害
洗剤/石鹸 (Saponiphagia)	洗剤、石鹸	精神疾患、知的障害
布/繊維 (Textilophagia)	布、糸、衣服の繊維	発達障害、精神的・心理的要因
排泄物 (Coprophagia)	自分や他者、動物の排泄物	精神疾患、知的障害
糊/接着剤 (Amyloidophagia)	糊、接着剤	発達障害、知的障害
生米/生麺	炊く前の米、乾燥パスタなど	栄養不足、精神的・心理的要因

このように、摂取されるものは文字通り様々であり、その種類によって潜在的なリスクも異なります。

健康上のリスクと合併症

異食症は、摂取する非食物の種類や量によって、深刻な健康上のリスクや合併症を引き起こす可能性があります。

• 消化器系の問題:
  • 便秘や下痢: 非食物は消化されないため、腸の動きに影響を与え、便秘や下痢を引き起こすことがあります。
  • 腸閉塞: 摂取した非食物が腸に詰まってしまい、腸閉塞を引き起こす可能性があります。
    特に繊維質の多いもの（髪の毛、布など）や消化されない固形物（石、プラスチック片など）は詰まりやすい傾向があります。
  • 腸穿孔: 尖ったものや硬いものを摂取した場合、食道や胃、腸に穴を開けてしまう（穿孔）リスクがあります。
    これは緊急性の高い状態であり、命に関わることもあります。
  • 腹痛や吐き気: 消化器系の刺激や閉塞によって、慢性的な腹痛や吐き気が生じることがあります。
  • 寄生虫感染: 土や排泄物を摂取した場合、寄生虫に感染するリスクが非常に高まります。
• 中毒:
  • 鉛中毒: 塗料や古い壁の破片を摂取した場合、鉛中毒を起こす可能性があります。
    鉛中毒は神経系に深刻な影響を与え、特に子供では発達遅延や学習障害を引き起こすことがあります。
  • その他の化学物質中毒: 洗剤、石鹸、薬品などを摂取した場合、様々な化学物質中毒を引き起こす可能性があります。
• 栄養失調: 非食物でお腹がいっぱいになってしまい、必要な栄養素を含む食事を十分に摂取できなくなることで、栄養失調になるリスクがあります。
  また、非食物に含まれる成分が、栄養素の吸収を阻害することもあります。
• 歯の損傷: 硬いものを噛むことで、歯がすり減ったり、欠けたり、折れたりすることがあります。
• 窒息: 大きな非食物を丸呑みしようとしたり、口腔内に詰め込んだりすることで、窒息のリスクが生じます。
• 感染症: 排泄物や汚れたものを摂取した場合、細菌やウイルスによる感染症にかかるリスクが高まります。

異食行動は、一見奇妙な行動に見えるかもしれませんが、放置すると本人にとって非常に危険な状態を招く可能性があります。
異食行動に気づいた場合は、速やかに専門機関に相談することが重要です。

異食症の診断と治療法

異食症の診断と治療は、その背景にある原因を正確に特定することから始まります。
原因によって治療アプローチが異なるため、多角的な評価が必要です。

医療機関での診断プロセス

異食症が疑われる場合、まずは医療機関（かかりつけ医、小児科、精神科など）を受診することが推奨されます。
診断プロセスには通常、以下の要素が含まれます。

• 詳細な問診:
  • いつ頃から異食行動が見られるようになったか。
  • どのような非食物を摂取しているか（種類、量、頻度）。
  • 異食行動が見られる特定の状況やきっかけはあるか。
  • 異食行動による健康問題（腹痛、便秘など）の有無。
  • 食事内容や食習慣。
  • 精神状態（ストレス、不安、気分の落ち込みなど）。
  • 発達に関する状況（知的発達、対人関係など）。
  • 既往歴や服用中の薬。
  • 家族歴（精神疾患や発達障害など）。
• 身体診察:
  • 全身状態の評価。
  • 栄養状態の評価。
  • 腹部の診察（しこりや圧痛の有無など）。
  • 口腔内の診察（歯の損傷など）。
• 血液検査:
  • 栄養状態の評価: 鉄分（血清フェリチン、血清鉄）、亜鉛、カルシウム、ビタミンなどのレベルを測定し、栄養不足がないかを確認します。
  • 中毒物質の検査: 必要に応じて、鉛などの可能性のある中毒物質の血中濃度を測定します。
• 画像検査:
  • 異食行動によって異物を摂取している可能性がある場合、X線検査やCT検査などを行い、消化管内の異物の有無や位置、閉塞、穿孔などを確認します。
• 精神科的評価:
  • 精神科医や臨床心理士による面接を通じて、精神疾患（抑うつ、不安症、統合失調症など）や発達障害（自閉スペクトラム症など）の有無を評価します。
    必要に応じて心理検査が行われることもあります。

これらの情報を総合的に判断し、異食症の診断基準を満たすか、そして異食行動の背景にある原因を特定します。

原因に応じた治療アプローチ

異食症の治療は、特定された原因によって異なります。
複数の原因が関与していることも多く、その場合は複数の治療法を組み合わせる必要があります。

原因	主な治療アプローチ	具体的な治療法
栄養不足	不足している栄養素の補充と栄養状態の改善	栄養指導、鉄剤やその他のミネラル・ビタミン製剤の処方、バランスの取れた食事の推奨
精神的・心理的要因	心理的な苦痛の軽減、対処スキルの獲得、情緒の安定化	心理療法（認知行動療法など）、カウンセリング、ストレスマネジメント、場合により薬物療法（抗うつ薬、抗不安薬など）
発達障害（ASDなど）	発達特性への理解に基づいた環境調整、代替行動の支援、感覚ニーズへの対応	行動療法（応用行動分析：ABAなど）、感覚統合療法、構造化された環境設定、コミュニケーション支援
その他の精神疾患	原因となっている精神疾患の治療	精神療法、薬物療法（抗精神病薬、気分安定薬など）、入院治療
その他の身体的疾患	原因となっている身体疾患の治療	疾患に応じた医学的治療
異物摂取による合併症	合併症に対する医学的・外科的処置	内視鏡による異物除去、手術（腸閉塞や穿孔の場合）、中毒に対する解毒療法など

栄養指導と栄養補充

異食症の原因が栄養不足にあると診断された場合、最も重要な治療法は不足している栄養素を補充し、栄養状態を改善することです。

• 栄養評価: 血液検査の結果に基づき、具体的にどの栄養素が不足しているのかを特定します。
  最も多いのは鉄欠乏ですが、亜鉛やカルシウムなどが関与していることもあります。
• 栄養補充: 特定された栄養素を補うために、サプリメントや薬剤が処方されます。
  例えば、鉄欠乏性貧血の場合は鉄剤が処方されます。
  これらの補充は、医師の指示のもと適切な量と期間で行われる必要があります。
• 栄養指導: 管理栄養士などによる専門的な栄養指導が行われます。
  バランスの取れた食事の摂り方、特定の栄養素を多く含む食品、異食行動を誘発する可能性のある食品（まれに特定の食品に異食行動が関連する場合がある）などについてのアドバイスが行われます。
  適切な食習慣を身につけることは、再発予防にもつながります。

栄養状態が改善することで、異食行動が自然と消失することも少なくありません。

心理療法・行動療法

異食症の原因が精神的・心理的な要因や発達障害に関連している場合、心理療法や行動療法が効果的です。

• 心理療法:
  • 認知行動療法（CBT）: 異食行動につながる思考パターン（認知）や行動を特定し、より健康的で適応的なものに変えていくことを目指します。
    例えば、ストレスを感じたときに異食行動に走ってしまうパターンを認識し、別の対処法（リラクゼーション、運動など）を学ぶといったアプローチがあります。
  • 弁証法的行動療法（DBT）: 情緒不安定や衝動性のコントロールに困難を抱える人に有効とされる療法です。
    感情の調整スキル、対人関係スキル、苦痛耐性スキルなどを学び、異食行動のような問題行動を減らすことを目指します。
  • 精神力動療法: 異食行動の背景にある無意識の葛藤や過去の経験を探り、洞察を深めることで行動の改善を目指します。
  • 家族療法: 特に子供や思春期の異食症の場合、家族全体で異食症への理解を深め、本人へのサポート方法を学ぶことが重要です。
    家族のコミュニケーションパターンや関係性が異食行動に影響している場合、その改善を目指します。
• 行動療法:
  • 応用行動分析（ABA）: 異食行動が起こる状況（先行条件）、実際の行動、その結果（後続条件）を詳細に分析し、行動を変化させるための具体的な介入を行います。
    例えば、異食行動以外の適切な行動（例：おもちゃで遊ぶ、安全なものを噛む）を強化する（褒める、報酬を与える）ことで、異食行動を減らすことを目指します。
  • 嫌悪療法: 異食行動に不快な刺激を結びつけることで、行動を抑制しようとする方法です。
    ただし、倫理的な観点や効果の持続性から、使用には慎重な検討が必要です。
  • 代替行動の強化: 異食行動の代わりに、安全でより適切な代替行動（例：ガムを噛む、感覚刺激を満たす安全なおもちゃを使う）を促し、それを積極的に強化します。

心理療法や行動療法は、異食行動の根本的な原因に対処し、より健康的な coping skill (対処スキル) を身につけることを支援します。

薬物療法

異食症そのものに特化した承認薬は現在のところありません。
しかし、異食症に併存する他の精神疾患（例：強迫症、うつ病、不安症、統合失調症）の治療薬が、結果的に異食行動の軽減につながることがあります。

• 選択的セロトニン再取り込み阻害薬（SSRI）: 強迫症やうつ病、不安症の治療に用いられます。
  これらの疾患が異食行動の背景にある場合、SSRIが異食行動の衝動性や頻度を軽減する可能性があります。
• 抗精神病薬: 統合失調症やその他の精神病性障害に伴う異食行動に対して用いられることがあります。
• 気分安定薬: 気分障害に伴う衝動的な異食行動に効果を示す場合があります。

薬物療法はあくまで補助的な治療法であり、通常は心理療法や栄養補充などと組み合わせて行われます。
どのような薬を使用するかは、医師が患者さんの全体的な状態や併存疾患を評価した上で慎重に判断します。

異食症への対応と予防

異食症は、本人だけでなく、家族や周囲の人々にとっても困難な課題となることがあります。
適切な対応と予防策を講じることで、異食行動のリスクを減らし、本人の安全と健康を守ることができます。

周囲の理解とサポート

異食症を持つ人への周囲の理解とサポートは非常に重要です。

• 疾患としての理解: 異食症は単なる「わがまま」や「癖」ではなく、栄養不足や精神的な問題、発達特性など様々な要因によって引き起こされる「疾患」であるという認識を持つことが重要です。
  本人を非難したり、恥ずかしいと思ったりするのではなく、病気として捉え、専門家のサポートを求める姿勢が必要です。
• 安全の確保: 摂取される非食物が本人にとって危険なものでないかを確認し、必要に応じてそれらを本人の手の届かない場所に片付けるなどの環境調整を行います。
  特に小さなお子さんや判断能力が低下している方の場合は、常に目を離さないなどの配慮が必要になることがあります。
• 感情への寄り添い: 異食行動の背景には、ストレスや不安、孤独感などの感情が隠されていることがあります。
  異食行動そのものに注目するのではなく、本人の感情に寄り添い、安全な方法で感情を表現できるように支援することも重要です。
• 専門機関との連携: 自己判断で対処しようとせず、必ず医師や専門家と連携し、適切なアドバイスやサポートを受けましょう。
  家族だけで抱え込まず、医療チームと共に歩むことが大切です。

予防策と早期発見の重要性

異食症を完全に予防することは難しい場合もありますが、リスクを減らすための予防策や、発症した場合の早期発見・早期治療が重要です。

• バランスの取れた食事: 特に幼児期や成長期において、バランスの取れた食事を心がけ、特定の栄養素が不足しないようにすることが重要です。
  偏食がある場合や、栄養状態が気になる場合は、かかりつけ医や管理栄養士に相談しましょう。
• 精神的な安定: 子供のころから安心できる環境を提供し、ストレスや不安を抱え込みにくいように配慮することが重要です。
  感情の表現方法を教えたり、ストレス対処スキルを一緒に考えたりすることも有効です。
• 感覚ニーズへの対応: 発達障害のあるお子さんの場合、特定の感覚刺激を求めるニーズがあるかもしれません。
  異食行動に代わる、安全な方法で感覚ニーズを満たせる代替手段（例：噛むためのおもちゃ、特定の食感の安全な食べ物など）を提供することを検討しましょう。
• 早期発見: 普段とは異なる行動、特に非食物を口にしたり食べようとしたりする行動が見られた場合は、軽視せず注意深く観察しましょう。
  それが一時的なものなのか、継続しているのか、危険なものを摂取しようとしていないかなどを確認します。
• 早期相談: 異食行動が続く場合や、危険なものを摂取しようとする、健康上の問題が見られるといった場合は、早めに医療機関（小児科、精神科、心療内科など）に相談することが重要です。
  早期に原因を特定し、適切な治療を開始することで、重症化や合併症を防ぐことができます。

異食症は、早期に発見し、原因に応じた適切な治療と周囲のサポートが得られれば、改善が期待できる疾患です。
一人で悩まず、専門家の力を借りましょう。

人間以外の動物（猫など）に見られる異食癖

異食行動は、人間だけでなく、人間以外の動物にも見られることがあります。
特に猫によく見られる異食癖は、「ウールサッキング」として知られています。
これは、毛布、衣類、絨毯などのウール製品や布地を吸ったり、噛んだり、食べたりする行動です。

動物に見られる異食癖の原因も様々で、人間の異食症と似ている点もあれば、異なる点もあります。

• 遺伝的要因: 特定の猫種（例：シャム、オリエンタル種）でウールサッキングが見られやすい傾向があり、遺伝的な要因が関与していると考えられています。
• 早期離乳: 母猫から早く離された子猫に多く見られるという説があり、哺乳行動の代替としてウールサッキングを行うのではないかと考えられています。
• ストレスや退屈: ストレスを感じている、あるいは単に退屈している猫が、自分を落ち着かせたり、気を紛らわせたりするためにウールサッキングを行うことがあります。
• 病気: まれに、消化器系の問題や栄養不足が関係している場合もあります。

動物の異食癖も、布などを摂取することで腸閉塞などの健康上のリスクを伴うことがあります。
動物の異食行動に気づいた場合は、放置せず、獣医師に相談することが重要です。
原因を特定し、環境改善や行動療法、場合によっては投薬などの治療が行われます。

人間と動物の異食行動は、一見似ていますが、その原因や背景となるメカニズムが異なる場合があることを理解しておくことが大切です。

まとめ

異食症は、栄養価のない非食物を繰り返し摂取してしまう摂食障害の一種です。
その原因は、鉄欠乏性貧血などの栄養不足、ストレスや不安といった精神的・心理的な要因、自閉スペクトラム症などの発達障害の特性、その他の身体的疾患など、多岐にわたります。

異食行動は、消化器系の問題（腸閉塞、穿孔など）、中毒（鉛中毒など）、栄養失調、歯の損傷、窒息といった様々な健康上のリスクを伴うため、決して軽視できません。

異食症が疑われる場合、医療機関での詳細な診断が必要です。
問診、身体診察、血液検査、画像検査、精神科的評価などを通じて、異食行動の背景にある原因を特定します。

治療法は原因によって異なり、栄養不足に対する栄養指導や栄養補充、精神的・心理的な問題や発達障害に対する心理療法・行動療法、そして必要に応じた薬物療法などが組み合わせて行われます。

異食症を持つ人への周囲の理解とサポートは不可欠です。
非難するのではなく、疾患として捉え、安全を確保しつつ、感情に寄り添う姿勢が重要です。
また、バランスの取れた食事、精神的な安定した環境作り、そして異食行動への早期発見・早期相談が、予防や改善において大きな鍵となります。

異食症は一人で抱え込まず、必ず医師や専門家のサポートを求めましょう。
適切な診断と治療、そして周囲の温かいサポートがあれば、異食症を持つ人もより安全で健康的な生活を送ることが可能になります。

【免責事項】
この記事は情報提供のみを目的としており、医療的な診断や治療の代わりとなるものではありません。
異食症が疑われる場合や、健康上の不安がある場合は、必ず医師や専門家に相談してください。
記事の情報に基づいて行った行為によって生じたいかなる結果についても、執筆者および提供者は責任を負いかねます。